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機械工学年鑑2023

20. 産業・化学機械と安全

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20.1 化学プラント,化学プラントエンジニアリング

20.1.1 プラント業界の現状

2022年は新型コロナウィルス感染症の沈静化により,世界的に経済活動が回復基調となる一方,エネルギー価格の高騰により世界経済に大きな影響を与えている.「エネルギー白書2022」(1)によると,2015年以降の原油価格下落や脱炭素の流れに伴う化石資源開発への投資減少,2021年の世界各地での猛暑・寒波など天候影響による電力需要のひっ迫,さらには,ロシアのウクライナ侵攻の影響として特に欧州における化石燃料のロシア依存度の高さから需要と供給のバランスが崩れ世界的なエネルギー価格の高騰を引き起こしている(図20-1-1).

 

図20-1-1 原油と天然ガスの価格比較(1)

 

プラント市場への影響としては,ウクライナ危機に伴う欧州でのロシアからのガス輸入の代替としてLNG需要が増加した.LNGの供給元としては,北米や中東にてLNG生産プラント建設の活発な動きがある一方,カーボンニュートラルの2050年目標との兼ね合いによる今後のLNG需要減少の懸念などもあり,プラント建設への投資決断が難しい状況ともなっている.

また,産業の基盤となるエチレンについて,経済産業省「世界の石油化学製品の今後の需給動向」(2)によると,2023年のエチレン需要は全世界で1億8000万トンであり,この需要の1/3を占める中国の影響が無視できない.2020年以降のゼロコロナ政策による景気低迷,その後の政策解除による感染者急増の影響などもあり,今後のエチレンプラント建設への影響も懸念されている.さらに,国内に目を向けると,エチレン製造プラントの平均稼働率は2022年に入ってからは90%を下回る月があり低調な状態が続き,生産設備再編の議論も始まっている(図20-1-2).

 

図20-1-2 エチレンプラント平均稼働率(3)

 

一方で,カーボンニュートラルに向けた動きは活発に進んでいる.経済産業省「エネルギー白書2022」4)によると,カーボンニュートラル宣言国は年々拡大しており,2021年COP26終了時には154か国・1地域に拡大,高い目標を競うだけでなく,いかに目標を達成するかの実行段階に突入している(図20-1-3).

 

図20-1-3 カーボンニュートラル宣言国(4)

 

この動きを受けて,日本国内でも燃料用途での水素・アンモニア利用,国内石炭火力でのアンモニア混焼実証,燃料アンモニア輸入に向けたインフラ整備,CCUS等での開発・実証,各種フィージビリティスタディも活発に進んでいる.一般財団法人エンジニアリング協会「エンジニアリング産業の実態と動向 2022年度版」(5)によると,所属企業59社への調査結果から,脱炭素分野における現在の注力分野として洋上風力・太陽光・地熱などの再エネ発電と水素・燃料アンモニアのゼロエミッション燃料で4割超を占めており,その注目度の高さがうかがえる(図20-1-4).

 

図20-1-4 グリーン成長戦略14分野(5)

 

さらには,エンジニアリング産業・プラント業界の喫緊の課題として,DXの推進も脱炭素と並ぶ大きな題目である.前述のエン協「エンジニアリング産業の実態と動向 2022年度版」のなかでも,上位課題としてDXの推進が急上昇している.プラント業界にだけでなく産業界全体でも同様の課題が挙げられているが,その背景としては,労働力・人材確保が困難な状況への対応,生産性向上,O&Mへの適用,加えて働き方改革などもDX推進の大きな必要要因になっている.

〔鈴木 章方 日揮グローバル(株)〕

参考文献

(1) エネルギー白書2022, 経済産業省

https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2022/html/ (参照日2023年2月28日)

(2) 世界の石油化学製品の今後の需給動向, 経済産業省https://www.meti.go.jp/press/2019/10/20191017004/20191017004.html (参照日2023年2月28日)

(3) 石化産業“潮目“変わる, エチレン生産低迷の深刻度, 2022/12/8日刊工業新聞まとめ

(4) エネルギー白書2022, 経済産業省

https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2022/html/(参照日2023年2月28日)

(5) エンジニアリング産業の実態と動向 2022年度版, 一般財団法人エンジニアリング協会

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20.2 産業機械

20.2.1 業界の現状

 内閣府の20231月機械受注実績報告1は,「機械受注は、足踏みがみられる」である.昨年の報告同様,図20-2-1に同HPの統計データをグラフ化したものを示す.本稿執筆時点で202346月期の受注総額見通しは出ていないが,IMF20234月経済見通し2は,先進国のGDP成長率が2022年の2.7%から2023年は1.3%に減速すると予測している.また,世界銀行も20231月の見通し3で,2023 年は 世界のGDP成長率が1.7% に減速すると予測している.減速の一因は,高インフレを抑制するための政策の引き締めであり,インフレ率の上昇や金融ストレスなどの経済ショックが,世界不況を引き起こす可能性があるとしている.国内に目を向けると,(一社)日本電機工業会(JEMA)の20232月度出荷実績報告4は,産業機械の先行指標となるプログラマブルコントローラ(PLC)の出荷実績が,前年同月比で9ヵ月連続,輸出も10ヵ月連続のプラスとなっている.また,2023年度は5国内・輸出ともに半導体・電子部品産業向けが拡大し,前年度を上回る見通しとしている.

 

図20-2-1 機械受注推移

 

一方で,国内の「ものづくり」は少子高齢化など構造的な人手不足や次々と寿命を迎えるインフラ関連装置・設備のメンテナンスなど,大きな課題に直面している.製造業のDX(Digital Transformation/デジタル化)が加速する中で,わが国の強みはSDGs(Sustainable Development Goals/持続可能な開発目標)を体現する「人間中心のものづくり」であると考えている.「人,技術,現場のつながりを組織の枠を超えて強化していくエコシステム」が,日本の強みを生かすコンセプトと言える.企業・教育機関・個人が「ものづくりの競争領域・独自技術」を強化していくことが必須である.加えて,「ものづくりの協調領域・共通技術」であり安全,保守・保全,セキュリティなど当部門が担う機械工学分野においては,部門活動を通じてさらに普及・深化・継承を図り,わが国産業機械の付加価値向上に貢献していく.

〔戸枝 毅 日本機械学会フェロー,博士(工学)明治大学〕

参考文献

(1) 令和5年1月実績:機械受注統計調査報告, 内閣府

https://www.esri.cao.go.jp/jp/stat/juchu/2023/2301gaiyou.pdf

(参照日 2023年4月11日)

(2) 世界経済見通し (WEO) 2023年4月, IMF

https://www.imf.org/ja/Publications/WEO/Issues/2023/04/11/world-economic-outlook-april-2023

(参照日 2023年4月11日)

(3) 世界経済見通し2023年1月, The World Bank

https://www.worldbank.org/ja/publication/global-economic-prospects

(参照日 2023年4月11日)

(4) 産業用汎用電気機器の出荷実績 2022年1月度, (一社)日本電機工業会

https://www.jema-net.or.jp/Japanese/data/2023/23.02/2302jds-comment.pdf

(参照日 2023年4月11日)

(5) 2023年度 電気機器の⾒通し(15頁), (一社)日本電機工業会

https://www.jema-net.or.jp/Japanese/data/mitoshi/pdf/2023mi_release.pdf

(参照日 2023年4月11日)

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