18. ロボティクス・メカトロニクス
18.1 総論
ロボティクス・メカトロニクス分野は,機械を自動制御して目的を達成することを発端として,非常に多くの研究や技術開発が行われ発展が続いている.関連する領域は無限とも言えるほど広く,携わる研究者や技術者の弛みない努力や尽きることのない好奇心によって,“最新”という言葉がごく短期間しか通用しないほどに技術の進歩が早い事が,この分野の特徴の一つである.本項では,進歩し続ける本分野の2022年のトピックについて,以下の内容を紹介する.
はじめに,2019年度に始まって約3年間,世界中を巻き込んだCOVID-19パンデミックで人々の生活は一変し,人と直接かかわりあう機会を減らす社会生活が必要となった.コロナ禍そしてアフターコロナをむかえようとしている現状で,ロボット技術の普及や研究動向について2022年を振り返り解説する.
続いて,コロナ禍によりますます注目されるようになった技術の一つである自動運転について解説する.乗用移動体や物品の無人搬送などを見据えて,地上を走行する車両の自動運転技術,および,マルチロータ回転翼に代表される空中ドローンの自動運転技術について,最新技術動向や法律改正などにも触れながら記載する.
次に,数年前から大きな社会問題となっているインフラの老朽化や,災害時の様々な作業支援,および建設分野といった,広範囲かつ人が行うには危険なリスクを伴う作業に対応可能なロボット研究に関連する最新の動向ついて紹介する.
続いて,2022年の産業界におけるロボティクス・メカトロニクスの応用製品や技術動向について総括し解説する.
また,2011年の東日本大震災から10年以上経過し,同地震で甚大な被害を受けた東京電力福島第一原子力発電所の廃止措置において,強い放射線から人が容易に近づけない環境で,人に代わって行う現場作業で活躍するロボットについての現状や最新の動向を解説する.
そして,ロボット開発関連で国が進める開発プロジェクトの2022年の状況や今後の計画を解説する.
最後に,注目技術動向として,ロボティクス・メカトロニクス部門が主査する学術講演会ROBOMECH2022の発表内容から,ROBOMECH表彰を受賞した発表を中心に注目技術や研究のトレンドを紹介する.
〔藤田 淳 三菱重工業株式会社〕
18.2 コロナ下およびアフターコロナとロボット技術
2020年3月,新型コロナウィルス(COVID-19)の感染拡大が本格化し,人と直接かかわり合う機会を減らす社会生活が必要となった.これに伴い,我々ロボット研究者の研究活動は大幅に制限された.この原稿を執筆している最中,”新型コロナの感染症法上の位置づけについて,厚生労働省は,5月8日に季節性インフルエンザなどと同じ5類に移行することを正式に決定”との報道が届いた(1).これにより,ようやく行動制限が大幅に緩和され,アフターコロナを迎えることとなる.しかし,ロボティクスの今後の発展は,コロナ前の状況が前提ではなく,この3年間の経験を踏まえて進展すると予想される.コロナ下約3年間のロボティクス全体にわたる,ロボット技術の普及や研究動向について解説することは困難であるが,ここでは,COVID-19に起因する種々の制限に対し,ニューノーマルの質を向上させるロボット技術を集め,記録する試みを行った活動について報告する.なお,この活動は,結果的に,複数の学会を跨ぐ横断的なものとなったことを予め述べておく.
18.2.1 Advanced Robotics誌におけるニューノーマルロボティクス緊急特集号
オンラインでの様々な新しい取り組みに対応する必要のあった慌ただしい最中の2020年4月,計測自動制御学会(SICE)に,ポストコロナ未来社会ワーキンググループ(ポストコロナWG)が発足した(2).コロナ下でもできるオンラインイベントとして,計6回のワークショップが,月1のハイペースで開催された(3).この中で,第6回のワークショップは,「ソフトロボティクスが革新するニューノーマル」(2020.11.28)であった.コロナという言葉は避け,ニューノーマルというポジティブなワードを取り入れたが,このワークショップでは,ソフトロボティクスにおける様々な話題から,ニューノーマルと科学技術との関係性を開拓する,という方向性を見いだした.
この考えを推し進めて企画されたのが,日本ロボット学会(RSJ)の伝統ある欧文誌Advanced Robotics(4)における緊急特集号Extra Special Issue on Soft/Social/Systemic(3S) Robot Technologies for Enhancing Quality of New Normal(QoNN)である.コロナ下でのニューノーマルの質向上への前向きなロボティクスによる取り組みを,ショートペーパで素早く集める企画である.ここでの目標を簡潔に表現するために,QoNNという新しい略語を用いた.コロナ下でなければ生まれなかったアイデアであった.Advanced Roboticsの編集委員からも,前向きな賛同が得られ,さらに,編集委員長の後押しもあり,11月末に企画を持ち込んでから,翌年2月末投稿締切,6月出版という超特急スケジュールが設定された.
ここで, Advanced Roboticsの緊急特集号で集められた論文10件のタイトルを列挙しておこう.なお,論文の詳細は,(5)を参照されたい.
- The Realization of an Avatar-Symbiotic Society where Everyone can Perform Active Roles without Constraint (H. Ishiguro)
- Semi-autonomous Avatar Enabling Unconstrained Parallel Conversations -Seamless Hybrid of WOZ and Autonomous Dialogue Systems- (T. Kawahara et al.)
- Semiotically Adaptive Cognition of Robots for Symbiotic Life in New Normal (T. Tanigushi et al.)
- Wide Angular Range Dynamic Projection Mapping Method Applied to Drone Based Avatar Robot (S. Higuchi, H. Oku)
- IoTouch: Whole-body Tactile Sensing Technology toward the Tele-Touch (V. Ho, S. Nakayama)
- VR Platform Enabling Crowdsourcing of Embodied HRI Experiments – Case Study of Online Robot Competition (T. Inamura et al.)
- Integrating AR/MR/DR technology in remote seal to maintain confidentiality of information (E. Oyama et al.)
- Innovative technologies for infrastructure construction and maintenance through collaborative robots based on an open design approach (K. Nagatani et al.)
- Measurement Algorithm for Oral Care Simulator Using a Single Force Sensor (T. Matsuno, T. Yabushita, A. Mitani, S. Hirai)
- Control, Intervention, and Behavioral Economics over Human Social Networks against COVID-19 (M. Nagahara et al.)
最初の4件は,アバターロボットに関する研究である.Ishiguroは,サイバネティックアバターの概念を提案し,今回のようなパンデミックが我々の活動を制限しないようなアバター共生の未来社会について論じている.Kawaharaらは,遠隔コミュニケーションの質を向上させる重要な要素である並列会話のため半自律アバターを提案している.Taniguchiらは,Semioticという用語を使って,遠隔サービスロボットにおける言語的適応認知の重要性について,多くの文献を引用しつつ解説している.HiguchiとOkuは,ハイレベルな動的プロジェクションマッピングの技術をフル活用した,遠隔コミュニケーションためのユニークなドローンアバターロボットについて報告している.
次の3件は,バーチャルリアリティ(VR)およびハプティクスに関する研究である.HoとNakayamaは,触覚情報の活用により,遠隔コミュニケーションを支援するハプティックインタフェースを提案している.Inamuraらは,複数のユーザ間で,人-ロボットインタラクションを実現するためのVRプラットフォームを提案し,それを用いたオンラインロボットコンペティションのケーススタディを紹介している.Oyamaらは,拡張・複合・隠消現実感(augmented, mixed, and diminished reality=AR/MR/DR)を融合させて遠隔押印を行う興味深い提案を行っている.
残りの3件は,QoNN向上に資するロボティクスの多様性を示している.Nagataniらは,建設産業におけるニューノーマルに貢献するオープンデザインに基づく適応協調ロボットの概念を紹介している.Matsunoらは,看護における口腔ケアスキル教育のための力センサを用いたシミュレータを提案している.Nagaharaらは,人の社会ネットワークを介したウィルス感染拡大の予測と制御の挑戦的な課題に対して,制御理論と行動経済学からの知的意思決定について論じている.
特筆すべきことは,これら10本の論文のうち,内閣府のムーンショットプロジェクト(6)の研究が4件含まれていることである.これらのムーンショットプロジェクトの開始は,COVID-19感染拡大の前であった.大志こそが,危機に対する何よりの備えであることを示唆している.
なお,IEEEのRA Magazineでも,同様の特集が組まれ,2021年3月号に9件の論文が掲載されている(7).感染症に対する医療ロボットや,研究室のロボット活用などの例が紹介されており,上記Advanced Roboticsの特集とは異なる趣であり,一読に値する.
18.2.2 Advanced Robotics QoNN特集号第2弾
ロボティクスのニューノーマルへの継続的取り組みを記録するために,Advanced Robotics QoNN特集号第2弾が企画された.この特集号のタイトルは,2nd special issue on soft/social/systemic (3S) robot technologies for enhancing the quality of new normal (QoNN)である.今回はフルペーパも受け付けて,募集を行った.結果的に,下記のショートペーパ2件,フルペーパ1件の合計3件の論文が採択された.詳細は(8)を参照されたい.
- Evaluation of an online human-robot interaction competition platform based on virtual reality – case study in RCAP2021 (Y. Mizuchi et al.)
- Consideration of the contribution of operating a firefighting robot system for large fires to prevent COVID-19 infection among firefighters (J. Fujita et al.)
- Tele-Snap: a joint impedance estimation system using snap motor and openPose for remote rehabilitation diagnosis (Y. Endo et al.)
最初のショートペーパは,特集号第1弾でも採択された論文の続編で,前回のバーチャルリアリティに基づいたオンラインロボットコンテストのプラットフォーム提案に対し,具体的なケーススタディに関する貴重な報告なされた.COVID-19パンデミックの間は,ほとんどのロボット競技会はキャンセルを余儀なくされたが,今我々はバーチャルリアリティに基づいたオンラインロボットコンテストという別の選択肢をとることが可能である.
2番目のショートペーパは,消防ロボットシステムに関する論文である.消防士はエッセンシャルワーカーであり,その活動は感染のリスクの下で行われなければならない.Fujitaらが開発した消防ロボットシステムは,消防活動における感染予防に貢献することができる.このグッドプラクティスから,高度なロボット技術の中には,COVID-19 パンデミックなどの緊急事態のために開発されたものでなくても、そのような緊急事態に役立つものがあることを明確に理解することができる.
3番目のフルペーパは,遠隔リハビリテーションに関する研究論文である.Endoらは,ソフトロボティクスに基づくコンパクトなデバイスを使用して,人間の関節の遠隔リハビリテーション診断の可能性を示している.遠隔リハビリテーションは,病院の少ない地方において特に有望であるが,パンデミックの状況下でも役立つことが示唆された.
アフターコロナを迎える現在も,QoNNの質向上の取り組みの重要性は失われないと予想される.また,その活動は,ここで示した例のように,一学会の枠では収まらないであろう.今回の活動は,SICE, RSJ, IEEE, ISCIE[9](注)を経て,JSMEロボメカ部門へと辿り着いた.QoNNの向上に対するロボティクスの前向きな取り組みのスナップショットが,COVID-19 パンデミックのような困難な状況下で前向きな行動を実行しようとしている多くの人々に刺激を与え,将来の未知の危機に対する教訓となることを希望する.
Roboticists, be ambitious like these good practices for better QoNN!
(注)本稿は,システム制御情報学会からの転載許可を得て,文献(9)をベースに,新たな内容を盛り込んで創作された解説である.
〔望山 洋 筑波大学〕
18.3 自動車の自動運転
自動車の自動運転に関する研究は日米欧で古くから行われており,我が国では1960年代頃から研究が行われている(1).研究開発の当初は,概ね自動車専用道路での自動運転を想定した自動運転システムがほとんどであり,例えば道路に磁石を埋めるなどして道路の中心線を検出し,ハンドル制御を行う方式などが採用されており,路車協調型の自動運転システムなどが開発されていた.一方,近年開発されている自動運転システムでは,車両に搭載されたセンサの情報や地図情報を参照しつつ自律的に走行を行う,自律型の自動運転システムが多く開発されている.特に,米国防総省国防高等研究計画局(DARPA)が主催して2005年に実施されたGrand Challengeや2007年に実施されたUrban Challenge(2)で開催された自動運転自動車の走行競技等をきっかけとして,世界各国で自動運転自動車の開発や実証実験が実施されるようになった.また,近年では特に米国や中国などにおいて,市街地における自動車の自動運転自動車の無人自動運転サービスが開始されるなど,活発な開発競争が行われている状況にある.
我が国においては,2013年に自動車メーカーが国会議事堂周辺で安倍首相(当時)を乗せた自動運転自動車のデモンストレーションが行われた.また2015年に金沢大学が国内の大学で初となる一般道での走行実証実験を実施して以降多数の実証実験が行われるようになってきている.また国家プロジェクトとして内閣府が府省連携で実施した戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の第1期自動走行システム(2014年度~2018年度)や,第2期自動運転(システムとサービスの拡張)(2018年度~2022年度)(3)においては,産学官の連携によって自動運転に関する様々な研究開発やその社会実装に向けた取り組みが実施された.その結果,2020年に道路交通法,車両運送法が改正され自動運転レベル3が解禁となり,2021年に本田技研工業株式会社のレジェンドが世界に先駆けて自動運転レベル3車両が販売されることとなった.これによって高速道路における限定的な条件下において,オーナーカーの自動運転が可能となった.
一方,経済産業省・国土交通省が中心となって2021年度から実施している自動運転技術の社会実装に向けた研究開発プロジェクトであるRoAD to the L4プロジェクト(4)においては,サービスカー向けのレベル4自動運転システムの社会実装に向けた取り組みも行われており,2022年前後において大きな取り組みの進展があった.例えば,福井県永平寺町における取り組みでは,鉄道の廃線跡地の道路を活用し,道路に電磁誘導線等などのインフラの敷設によって,路車協調で自動運転サービスの社会実装を行う取り組みが行われている.そして,2023年4月に道路交通法が改正されレベル4自動運転が可能となり,時速12km/h以下という限定付きの条件ではあるが,レベル4での自動運行が2023年5月に開始されている.
このように自動運転技術の社会実装に向けた積極的な取り組みが日本をはじめとし,世界各国で行われる状況となっているが,今後の多数の地域での社会実装に向けては,社会受容性の向上に向けて自動運転システムの安全性を如何に論証していくかが重要になると考えられる.今後は単なる技術開発にとどまらず,自動運転システムの安全性やその利点を一般のユーザにもわかりやすく説明していくことが求められるものと考えられる.
〔菅沼 直樹 金沢大学〕
18.4 自動運転(空中)
18.4.1 無人航空機の有人地帯上空の飛行
航空法において,100g以上の無人航空機を国土交通大臣の許可や承認が必要となる空域及び方法での飛行(特定飛行)を行う場合は,基本的に航空局への飛行許可・承認手続きが必要である.有人地帯上空の飛行はこれまで認められていなかったが,2022年12月5日より改正航空法が施行され,有人地帯における補助者なし目視外飛行(カテゴリーⅢ飛行と呼ぶ)が法律上可能となった.カテゴリーⅢ飛行を行うためには,一等無人航空機操縦士の技能証明を受けた者が,第一種機体認証を受けた無人航空機を飛行させる場合であって,飛行の形態に応じたリスク評価結果に基づく飛行マニュアルの作成を含め,運航の管理が適切に行われていることを確認して許可・承認を受けた場合に限る.(1)
実際に,2023年3月13日には国産ドローンメーカである株式会社ACSLが,第一種型式認証を国土交通省より取得し,2023年3月27日には同機体を用いて日本郵便が実施する日本初レベル4飛行のドローンによる配送に成功したとの報道があった.(2)
無人航空機による配送は,空を飛ぶことで宅配便を早く届けるという事だけでなく,コロナ禍において非接触化の重要性が認識され,また今後の労働力の不足等に対応する手段として重要性が高まっている.
マルチロータ型
同軸反転型
図18.4.1 無人航空機の一般例
18.4.2 無人航空機の電波利用
日本国内で無人航空機に用いる無線設備は,73MHz/169MHz/920MHz/2.4GHz/5.7GHzが認められている.(3)通信距離は無線設備の性能に依存し,広範囲を飛行するカテゴリーⅢ飛行では携帯電波もしくは衛星通信の利用が必要となる.携帯電波はLTEの上空利用が開始されており,5Gの利用に向けての検討も進められている.(4)また,各キャリアがドローン向けのサービスを展開している.衛星通信はインマルサット,イリジウムに加え,2022年からスターリンクのサービスも始まった.飛行するエリアや飛行頻度,運用コスト等を考慮し,どのサービスを利用するか,その選択肢は広がりつつある.
18.4.3 無人航空機の自動運転に求められる技術
基本的な無人航空機の自動運転は,人工衛星からの位置情報を利用し,あらかじめ計画したルートに沿って飛行するものである.現時点で無人航空機の自律レベルは完全ではないため,安全な飛行を行うためには,飛行ルート上に障害物がないこと,第3者物件から適切な距離を確保していること,運行可能な気象条件であること,などの条件を複合的に考慮し,操縦者(人)が飛行可否の判断を行う.
現在は安全な運航のために人の判断が多く求められるが,無人航空機の利用拡大に向けては,無人航空機の自律レベル向上と,飛行の目的に応じたシステム全体の自動化により人の介在を減らすことが求められる.近い将来,例えば無人航空機による配送では操縦者と機体は1:1ではなくなり,1人の管理者が複数台の無人航空機を管理することが想定されている.
このように無人航空機の利用拡大に向け有人地帯上空を無人航空機がまさに「無人で」飛び交うことでより便利で安全な社会を目指している.前例のないこのシステムが社会に受容されるレベルの安全を担保することが大きな課題である.NEDOによる「次世代空モビリティの社会実装に向けた実現プロジェクト(ReAMoプロジェクト)」において,性能評価手法の開発,運航管理技術の開発が進められており(5) 有識者,業界団体での活発な議論が進められている.
〔羽生 昇介 株式会社北川鉄工所〕
18.5 インフラ・災害対応のタフなロボット
18.5.1 概況
世界的に橋梁などのインフラの老朽化が問題になっている.さらに,近年の自然災害の激甚化・頻発化により,老朽インフラの崩壊など甚大な被害を受ける可能性がある.被害を最小限に抑えるためにも,平常時でのインフラ点検が重要になっている.また,東日本大震災では,インフラへの被害の他,大規模火災,および広範囲の地域での被災者捜索が課題となった.それらに対処する新しい技術が必要となっている.ロボティクス・メカトロニクスでは,産官学が連携してインフラ・災害対応のための新たなタフなロボット・AI技術の開発に取り組んでいる.本節では,いくつかの事例の紹介と今後の展望について説明する.
18.5.2 橋梁の点検を支援するドローン
全国に2mを超える橋梁は約70万橋存在し,2030年には約55%が築50年以上の老朽化を迎える.しかし,点検作業員の数は多くなく,高所や狭隘な環境での作業はコストやリスクが高い.人による点検を支援するロボット技術の開発が期待されている.鋼橋やコンクリート橋の床版,張り出し床版,橋脚の目視/打音点検を支援する受動回転球殻ドローンが開発されている(図18.5の1)(1).ドローンを受動的に回転する球殻で保護することで周囲の構造物に接触しても墜落せず,0.5mの近距離から構造物表面の近接映像を撮影する.撮影した数千〜数万に及ぶ画像を繋ぎ合わせて展開図を作り,人手で展開図上に亀裂や剥離などの損傷を書き込むことで点検調書を作成する.従来の橋梁点検車を利用した場合と比べ最小の交通規制で,足場などを組まずに点検ができる.また,球殻の間からコンクリート表面を叩いて劣化を確認する打音装置搭載受動回転球殻ドローンも開発されている.
18.5.3 大規模火災に対応する消防ロボット
石油化学コンビナート火災の消火や延焼の抑制を支援する消防ロボットシステムの開発が行われている(図18.5の2)(2).石油タンク火災の消化には大容量泡放射システムが利用されてきた.毎分1万リットル以上の放射が行えるシステムであるが,設置に8時間かかる.この設置までの間を補完する消防ロボットシステムの開発が期待された.消防ロボットシステムは,偵察用の飛行ロボットとクローラーロボット,放水砲を備えたロボットと150Aのホースを運搬/敷設するロボット,これらのロボットを現場に運搬して活動中は司令室として機能する車両から構成される.2019年4月に市原市消防局に「スクラムフォース」として試験的に配備された.その後,2年間,実際の消防隊員による訓練と利用が行われている.
18.5.4 被災者発見を支援するサイバー救助犬
救助犬は広範囲に存在する被災者の捜索に優れている.一方で,ハンドラーや救助隊との情報共有に課題があった.サイバー救助犬は,災害対応ロボットのタフなセンシング技術で救助犬の被災者捜索の情報共有を支援する(図18.5の3)(3).サイバー救助犬は,イヌの持つ鋭敏な嗅覚と優れた行動力で被災者を捜索する.サイバー救助犬が装着するスーツには,GNSS,IMU,カメラ,マイク,処理・記録装置,通信装置が搭載され,イヌの見ている風景,周囲の音,行動,位置をセンサで計測して活動を可視化する.イヌの行動(歩く,走る,止まる,匂いを嗅ぐ,吠える)はスーツ搭載の処理装置で認識して地図に表示する.活動状況や映像や音声は,インターネットを介して離れた場所にいるハンドラや指揮本部の人間とリアルタイムに共有される.
18.5.5 今後の展望
インフラ・災害対応といった苛酷な環境で人の作業を支援/代替するタフなロボット・AI技術は,他の社会課題解決への横展開が期待できる.横展開の一例として,災害対応ロボットで開発した頑健な位置推定,行動計画,走行制御の技術は,後付運転ロボットがダンプトラックを自動で運転し土砂を運搬する取り組みでも利用されている(図18.5の4)(4).今後も様々な対象への横展開が期待出来る.
図18.5 インフラ・災害対応ロボット・AI技術の一例
(1.橋梁点検ドローン,2.消防ロボットシステム「スクラムフォース」,
3.サイバー救助犬,4.レトロフィットでダンプトラックを自動運転)
〔大野 和則 東北大学〕
18.6 産業界の動向
本節では産業分野におけるロボティクス・メカトロニクスの応用製品や技術の動向について概説する.
18.6.1 市況
2022年の国際ロボット連盟(IFR:International Federation of Robotics)の“Executive Summary World Robotics 2022 Industrial Robots”によれば ,2012年からロボット導入数が順調に伸長,2018年2019年にやや落ち込んで2020年に再び増加に転じ,2021年には急伸したことを“skyrocketed”という比喩的な単語を用いて報告しており,過去最高水準の517,385台に到達したとのことである(1).
この伸長の裏で,2020年に電気電子分野が最大のロボット導入先となり,それまでの自動車分野を抑えた.また2021年に従業員1万当たりのロボット台数で,中国が初めて米国を抜いた.この統計値によれば世界5傑は韓国1,000,シンガポール670,日本399,ドイツ397,中国321となった.以下スウェーデン,香港,台湾,米国と続く(2).
また,2022年後半に需要の減速傾向が囁かれていたとおり,日本ロボット工業会によれば,2023年1月から3月期の同会会員メーカの総出荷台数は59,349(前年同期比▲7.1%)で,10四半期ぶりの減少となった.内訳は国内向け台数(前年同期比7.8%),輸出台数(前年同期比▲10.4%)であった(3).
18.6.2 トピックス
ご存知の通り,新型コロナウィルス感染症COVID-19のパンデミックはビジネス,プラベートともにライフスタイルのアップデートを促し,非接触の実現,人手不足の解消,働き方改革を目的に自動化ひいてはロボットの導入を加速した.それは以前から知られていたロボットの応用形態,応用先,応用方法ではあるものの,さまざまな分野で新たに普及が始まったと感じられる変化が起きた.
例えば,マニピュレータを移動ロボットに搭載するモバイルマニピュレータの形態,その応用先として各種工場内の搬送,工作機械のためのワークのロード・アンロードが代表事例となる.
サービス分野ではレストランのスタッフエリア,顧客エリアの自動化事例が数多くある.
そして,AI,デジタルツインが実用域に入り,これらの自動化システムの構築コストを下げ,機能・性能を向上させている.
今後ますます,メカトロニクス・ロボティクスを核とする自動化システムが問題解決のキーテクノロジーでありつづける点はご同意いただけるものと思う.
18.6.3 まとめ
2019年に産業用ロボットビジネスの曲がり角があり,曲がってみると新型コロナウィルスが待ち構えていた.そして人類はこれを克服しつつあり,新たな産業用ロボットビジネスの伸長を得た.過去に期待した「2018年が産業用ロボット新元年と呼ばれる可能性」は無くなったが,2021年は変化の年となった.2022年はその流れを引き継ぎつつ産業用ロボットをとりまく顕著な変化が続いている.我々は変化に翻弄されるのではなく,未来を創ることによって,未来を自ら「予測」したい.
〔野田 哲男 大阪工業大学〕
18.7 福島第一原子力発電所の状況と廃炉作業支援ロボット技術
18.7.1 総論
2011年3月の東日本大震災の津波により事故を起こした福島第一原子力発電所では,今も関係者により廃炉作業が行われている.30年から40年を要する複雑かつ重層的な大規模プロジェクトとなる福島第一原子力発電所の廃炉は中長期ロードマップが策定され,これまで発生する汚染水の抑制と処理,1号機~4号機の使用済み燃料プールからの使用済み燃料の撤去等の様々な対応がなされてきており,発電所の安定化と周辺環境への放射能によるリスクの低減が進められてきた.また,作業者の被ばくを低減しつつ廃炉作業の迅速化を図る観点からは,発電所敷地内のがれきの撤去と除染による現場の環境改善も精力的に進められ,顔全体を覆う全面マスク着用が必須とされていた発電所内の敷地も,2017年以降95%の範囲において一般的な服装で出入りができるまでに復旧されている.しかしながら,メルトダウンした炉心を含む原子炉容器,及び,それを収納する原子炉格納容器が存在する原子炉建屋内は依然として放射線量率が高く,特に燃料デブリ(事故により溶け落ちた燃料)が存在する1~3号機の原子炉格納容器内部はとても人が立ち入れる場所ではない.
現在,福島第一原子力発電所の廃炉作業は中長期ロードマップで計画されている通り,燃料デブリを取り出していくフェーズに入りつつあることから,2022年度は1号機において原子炉格納容器内部のロボットによる詳細調査が実施され,また,2023年度には2号機においてロボットによる原子炉格納容器内部の詳細調査と微量の燃料デブリの試験的取出しが計画されている.さらに,将来はそれらの知見に基づいて燃料デブリ取出しロボットの開発を進め,実機工事に適用していくことが期待されていることから,人が立ち入れない環境での廃炉作業におけるロボット技術の必要性は益々高まってきている.
ここでは,廃炉,特に今後本格化していく燃料デブリ取出しをより安全かつ確実に進めるための知見を得るために開発され,1号機原子炉格納容器地下階に実機投入されたロボット技術の成果と,将来のより複雑化,高速化,かつ,大規模化される燃料デブリ取出し工事に向けたロボット技術の開発例を以下に紹介する.
図18-7-1 1号機構造と燃料デブリの状況(1)
〔上田 剛史 三菱重工業株式会社〕
18.7.2 潜水機能付ボートによる1F-1の地下堆積物調査
福島第一原子力発電所の廃止措置の一環として,1号機(1F-1)の原子炉格納容器(PCV)内の地下階調査を進めている.震災当時,稼働中であった1~3号機には炉心に燃料が格納されており,震災後の津波により炉冷却機能が喪失された結果,燃料と燃料被覆管,炉内構造物などが溶け,冷えて固まった燃料デブリが炉心,原子炉圧力容器底部,PCV内に分布している.特に1号機は,安定冷却のため水を滞留させている地下階に,大部分の燃料デブリが存在していると推定されているため,地下階の状況調査が重要となる.
これに対し, PCV内地下階を調査するため,潜水機能付ボート(ROV)を開発した(1).図18-7-2に外観を示す.今回開発したROVは,全長約1.1mの円筒型ボート5種類と全長約0.4mの小型ボート1種類の合計6種類である.ROV-Aはケーブルの絡まりを防止するガイドリングを取り付ける機能を有し,全てのROVの円滑な移動をサポートする.ROV-A2は広域を目視することが可能な小型ボートである.また,ROV-B,ROV-C,ROV-D,ROV-Eは,それぞれ異なるセンサを搭載しており各種調査が可能である(2).
ROV-Bは,堆積物の3Dマッピングのために走査型超音波距離計と水温計を搭載し,ペデスタル外の広範囲の堆積物表面の点群データを取得する装置である.ROVの中央底面に取付けたアンカーにより姿勢を安定化し,約2MHzの超音波距離計を,機械的チルト機構による±50°のメカ走査と,チルト方向と直交する方向に±50°の電子走査を組合せて2次元走査をすることで,3次元の形状計測を実現するものである.ROV-Cは,約100kHzの低周波超音波センサを用いて,ペデスタル外の堆積物厚さと堆積物下の床面や燃料デブリ(塊や比重の大きい粉末層)の高さの測定を行うものである.ROV-Dは,燃料デブリ特有の放射線を調査する装置である.10Gy/hを超える放射線環境であっても核種分析が可能なガンマ線計測と中性子束計測を同時に実現可能であり,燃料デブリの存在を捉えるものである.ROV-Eは,直径約60㎜の円筒形サンプリング容器を用いて,堆積物を少量サンプリングする機構を搭載しており,採取した堆積物をオフラインで分析評価することが可能である.
これらのROVを用いて,2022年2月から2023年3月までに,1F-1の地下階の各種調査を実施した結果,堆積物の広がりや放射線性状等の状況が明らかとなった.
図18-7-2 潜水機能付ボート(ROV)の外観
表18-7-1 潜水機能付ボート(ROV)に搭載した計測器と調査実施内容
調査装置(機能) | 計測器 | 実施内容 |
ROV-B
(堆積物3Dマッピング) |
走査型超音波距離計,水温計 | 堆積物の高さ分布を計測 |
ROV-C
(堆積物厚さ測定) |
高出力超音波センサ,水温計 | 堆積物の厚さと下部物体を計測し,高さ分布状況を推定 |
ROV-D
(燃料デブリ検知) |
CdTe半導体検出器,
改良型小型B10検出器 |
核種分析と中性子測定により,燃料デブリ含有状況を推定 |
ROV-E
(堆積物サンプリング) |
吸引式サンプリング装置 | 堆積物表面の少量サンプリング実施 |
〔岡田 聡 日立GEニュークリア・エナジー(株)〕
18.7.3 多関節マニピュレータの障害物回避を支援するソフトウェア開発
デブリ取り出し作業は,人が近寄ることができない高放射線環境で行われる危険な作業である.作業を安全に進めるために,放射線の無い離れた場所から遠隔操作可能なロボットの開発が進んでいる.燃料デブリが存在する原子炉格納容器の中央部へアクセスするためには,まずはじめに周囲に存在する構造物を取り除きアクセスルートを確保する必要がある.構造物周辺は非常に狭隘で,これらを撤去する複雑な作業を行うには,多関節マニピュレータ(冗長自由度マニピュレータ)が有効である.例えば人の腕のような構造の多関節マニピュレータの場合,肘の干渉を回避しながら手先の作業ができる利点がある.しかし,視界不良かつ狭隘な環境で多関節マニピュレータを遠隔操作することは,熟練オペレータであっても作業負荷が非常に高く,長時間におよぶ操作ではマニピュレータの一部を障害物に衝突させるリスクがある.そこで,経済産業省「令和3年度開始 廃炉・汚染水対策事業費補助金」において,マニピュレータの障害物回避を支援するソフトウェア開発を行い,オペレータの負荷を軽減し安全性の向上と作業の効率化を図った.
マニピュレータの障害物回避は,神戸大学と共同開発した障害物回避機能(1)により実現した.この障害物回避機能は,マニピュレータ手先のゴール(位置と方向)を設定すると,マニピュレータ自身と周囲にある障害物との干渉を回避しながら手先をゴールまで移動させられるマニピュレータ全関節の動かし方を計算機で自動生成するものである.
計算時間は1~2分程度である.計算機で自動生成された各関節の動かし方を実機で再生するには,オペレータはコントローラのジョイスティックを前方へ傾けるだけで実行することができ,マニピュレータ全軸が協調動作して手先をゴールへ到達させることができる.この時,ジョイスティックの倒し方を調整することによって動作速度を調整することができる.
開発した障害物回避機能の有効性検証を,福島第一原子力発電所3号機原子炉格納容器内部の2分の1模擬環境を準備し行った.デブリ取り出し作業の前に行う構造物撤去作業を想定し, 2本のマニピュレータを用いた障害物回避を伴う遠隔操作試験を被験者オペレータにより実施した.遠隔操作試験の様子を図18-7-3に示す.試験の結果,ゴールに到達するまでの所要時間は,ベテラン/初心者オペレータ共に数分であり,ベテランオペレータのマニュアル操作(コントローラを使って試行錯誤的に操作する方法)に比べ,1/10まで大幅に短縮できた.
今後,実機適用を目指して課題を解消するとともに,更なる作業安全性・効率向上につながる新しい技術の開発を進めていく.
図18-7-3 遠隔操作試験の様子
〔橋本 達矢 三菱重工業株式会社〕
18.8 ロボット関連プロジェクトの動向
最近のロボット関係の政府系プロジェクトについて,webからプロジェクトやトピックスを抽出して,全体像を概観した.
2022年はロボット関係の政府系プロジェクトにおいては節目となる年であった.SIPの第2期が終了したほか,ドローン開発系の複数の事業が終了した.一方,人工知能と絡めた物理的操作器やサイバーフィジカルシステムにおける現実世界アクセスを担当する技術としての存在が高まっている.ロボット技術としても,要素技術開発系は徐々に量が低下し,応用領域における課題解決型のプロジェクトに重心が移る傾向が見られる.
(1)国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)
直近では,以下の3つの事業が終了した.「ロボット・ドローンが活躍する省エネ社会実現PJ(DRESS PJ)」(2017(年度)-2022),「安全安心なドローン基盤技術開発PJ」(2020-2021),「人工知能適用によるスマート社会の実現」(2018-2022)
一方,現在,以下の5つの国家プロジェクトを実施中である.
・「次世代人工知能・ロボットの中核となるインテグレート技術開発」(2018-2023):AI技術の早期社会実装が求められている「生産性」や「空間の移動」などの重点分野において,AI技術の導入期間を従来比10分の1に短縮する研究開発・実証を行うとともに,AI技術の適用領域を広げる共通基盤技術の確立を目指す.
・「人工知能活用による革新的リモート技術開発」(2021-2024):遠隔地の状態を推定することや,視覚・聴覚のみならず力触覚などの感覚も交えることによって,実際に遠隔地に出向く場合と同等以上に現場の状態を把握することが可能となる革新的なリモート技術の基盤確立を目指す.
・「革新的ロボット研究開発基盤構築事業」(2020-2024):多品種少量生産現場等ロボット導入があまり進んでいない領域にも対応可能な産業用ロボットの実現に向け,産業用ロボットにおいて重要な要素技術の開発を推進する.異分野の技術シーズの取り込みなどによるイノベーションの創出,さらに国際競争力の強化を目指す.
・「次世代空モビリティの社会実装に向けた実現プロジェクト」(2022-2026):次世代空モビリティ(ドローン・空飛ぶクルマ)に関して,安全性向上・高性能化のための機体性能評価手法の開発,「1対多運航」を実現するための要素技術開発,運航管理技術等,次世代空モビリティの実現に必要な研究開発や実証実験を実施する.
・「人と共に進化する次世代人工知能に関する技術開発事業」(2020-2024):従来AI技術の適用が限定的であった製造・医療・交通といった分野に対しても適用を拡大していくために,人とAIがそれぞれの得意領域において役割を分担して協働し,人とAIが共に成長・進化する「人と共に進化するAIシステム」の基盤技術を開発する.
また,将来の国家プロジェクトにつながる革新的な技術の原石を発掘する「NEDO先導研究プログラム」においては,ロボット関連テーマは以下のものがあった.
・「大深度・極限環境に適応する掘削物揚重用ぜん動ポンプの研究開発」(2018-2020終了) :大腸のぜん動運動を機械的に模倣した搬送デバイス(ぜん動ポンプ)を開発し,建設現場の地下深くの掘削物を効率的に搬送する機構を実現した.
・「次世代産業用ソフトロボットの実現に向けた革新的MR材料×駆動機構の融合研究開発」(2018-2020終了):低沈降分離抑制性のMR流体(MRF)を初めて実現し,高出力・高バックドライバビリティ・高応答性を備えた電気静油圧アクチュエータ(EHA)を開発した.
・「自律ロボットのための革新的熱電発電システム」(2019-2021終了) :触媒による直接加熱による全く新しい燃焼器・熱交換器一体型の高効率熱電発電システムを開発し,自律ロボットを長時間駆動可能とした.
・「多能工ロボット実現のための機械的接触基盤ロボット技術開発」(2019-2021終了):外界との機械的接触時には柔軟化し運動時には高剛性となる可変剛性ロボット関節を開発し,多様な産業に利用可能な新しい産業用ロボットの実現技術を創出した.
・「食材加工サポートシステムの研究開発」(2019-2021終了) :中食産業や配食事業の支援のため,食材加工を中心とした多機能のサポートシステムの構築を検討した.
・「農山村の森林整備に対応した脱炭素型電動ロボットの研究開発」(2021-2022終了):障害物が散在する傾斜地の林業現場において,4足歩行型電動ロボットが苗木の運搬・植付,雑草木の除去等の造林作業に活用できるか実証的に評価した.
・「農山漁村に適した地産地消型エネルギーシステム技術開発,農林業機械・漁船等の電動化及びその普及に資する技術等の開発」の研究開発課題において,「機械負荷制御導入による電動農機・農業ロボットの最適エネルギー・作業管理技術の開発」を実施した(2021-2022終了).
・「機械負荷制御導入による電動農機・農業ロボットの最適エネルギー・作業管理技術の開発」(2021-2022終了):急傾斜園地でも安定自律走行可能な走行ユニットの開発を圃場設計と一体的に推し進めた.
・「産業・物流のスマート化に向けた次世代ロボット技術の研究開発」の課題で研究開発テーマを公募し,移動ロボットに関する3次元地図(継続学習型ソーシャルツイン基盤)に関するテーマが採択された(2023-,実施中)
加えて,NEDOではロボットを取り巻く環境と将来の事業立案に向けて各種調査を実施している.最近実施した調査のいくつかを紹介する.
・「ロボット技術分野における大局的な研究開発のアクションプラン策定のための調査」(2022終了):中長期的なロボット技術の開発・普及戦略に関する方向性を示すため,ロボット導入の現状やニーズ,研究開発状況の調査と技術課題の分析等を行い,ロボット技術を含む新技術の産業化に向けた大局的なアクションプランを策定した.
・「欧米、アジア等におけるロボット導入の現状、導入ニーズ、研究開発状況等に係る調査」(2022終了):欧米,アジア等におけるロボット導入の現状やニーズ,技術課題の調査分析等を行った.さらに,今後ロボットの適用が期待される分野におけるロボット導入効果の予測,官民投資の重点対象分野の目標と技術開発課題等を明確にした.
・「食品製造業におけるロボット・AI分野に関する調査」(2022終了):食品製造業の労働力不足に対応したロボット・AI技術について,食品製造業における課題やユーザーニーズを踏まえ,技術開発要素を見極め,社会実装に向けた技術戦略の策定を目的とした調査を行った.
・「ブルーリソース(海洋資源)活用に関する技術俯瞰調査」(2021終了):海洋におけるCO2吸収源として海草・海藻を有効利用しようとする取り組みにおいて,海外の政策動向,国内外の研究開発動向および温室効果ガス(GHG)削減に貢献する技術開発について俯瞰的調査を行った.海草・海藻の調査等にロボットの応用が期待されている.
・「フードチェーンにおける食品ロス削減技術調査」(2022終了):既存の食品ロス削減技術の把握,課題の整理に加え,関連分野の国内外のビジネス動向,最新の技術動向等について俯瞰的調査を行った.
・「フードチェーンにおける食品ロス削減技術分野に係るボトルネック課題の抽出と将来像の提案へ向けた調査」(2023):経済産業省と農林水産省の両省が効果的に連携できる事業系分野を中心に,食品ロス削減技術における将来的な技術開発要素を見極め,ボトルネック課題の整理と社会課題解消へ向けた技術開発の方向性を提示することを目的とする.ロボットの活用が期待されている.
・「農業用ロボット(除草、収穫)等に関する調査」(2023):農業分野のうち特に除草作業と収穫作業のロボット実装に向け,課題の抽出や技術開発動向の整理等を行い,社会課題解消へ向けた技術開発の方向性を提示することを目的とする.また農林業機械の脱炭素化に係る最新動向の調査を行う.
なお,終了事業の成果報告書はwebからダウンロードできる.
(2)経済産業省
ロボットに関するたくさんの事業が実施されNEDOや他省庁と連携している事業も多い.最近の事業の例を挙げる.
・「革新的ロボット研究開発等基盤構築事業/ロボットフレンドリーな環境の実現」
サービスロボットの社会実装に向けては,ユーザーの業務フローや施設環境の変革を含むロボットフレンドリーな環境の実現が必要であり,このため,ユーザー,メーカー,システムインテグレーター等が連携し,当該環境の実現に向けて研究開発等を実施している.
・「国際研究教育拠点推進事業(新産業創出等研究開発基本計画に基づくロボット・ドローンに係る先行研究事業)」:福島国際研究教育機構が行う5分野の中心的課題のうち,ロボットについては,「防災など困難環境での活用が見込まれる強靭なロボット・ドローン技術の研究開発」,「先端ICT技術とロボット技術が融合したクラウドロボティックスの研究開発」,「長時間飛行・高ペイロードを実現し、カーボンニュートラルを達成する水素ドローンの研究開発」が示されている.福島ロボットテストフィールドを活用した災害対応ロボットや,次世代空モビリティに関する研究開発,人材育成に取り組む.
(3)厚生労働省,国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)
厚生労働省やAMEDが実施しているロボット関連事業として以下の事業が公開されている.
・「ロボット介護機器開発・導入促進事業」(2013-2017終了):高齢者の自立支援や介護者の負担軽減用ロボット介護機器の開発・実用化,併せてロボット機器導入のための環境整備,企業等への開発補助や,ロボット介護機器の実用化のガイドライン研究等を実施した.
・「ロボット介護機器開発・標準化事業」(2018-2020終了):既開発の介護効率化ロボットの効果測定,高齢者の生活維持用のロボット介護機器開発や安全基準等の開発,標準化,高齢者の自立支援等に資するロボット介護機器の開発・標準化を促進した.
・「医療機器等における先進的研究開発・開発体制強靭化事業(ロボット介護機器開発等推進事業)」(2019-2024):医療機器競争力のポテンシャル,公的支援の必要性及び医療上の価値等を踏まえて策定した5つの重点分野(①検査・診断の一層の早期化・簡易化,②アウトカムの最大化を図る診断・治療の一体化,③予防,④高齢化により衰える機能の補完・QOL向上,⑤デジタル化/データ利用による診断治療の高度化)を対象に,先進的な医療機器・システム等の開発支援,基盤的な技術の開発や開発ガイドラインの策定等を行う.
(4)内閣府
戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)は第2期が終了し,第3期が始まった.ムーンショットは継続中である.
・SIP第2期/ビックデータ・AIを活用したサイバー空間基盤技術(2018-2022終了):
・SIP第2期/フィジカル空間デジタルデータ処理基盤技術 (2018-2022終了):
・SIP第2期/自動運転(システムとサービスの拡張)(2018-2022終了):
・SIP第3期/スマートモビリティプラットフォームの構築(2023-2027):移動する人・モノの視点から,移動手段(乗用,大型,小型モビリティ,自動運転,MaaS,ドローン等),交通環境のハード,ソフトとこれらを包み込むまち・地域をダイナミックに一体化し,安全で環境に優しくシームレスな移動を実現するプラットフォームを構築する.
・SIP第3期/人協調型ロボティクスの拡大に向けた基盤技術・ルールの整備(2023-2027):「人」+「サイバー・フィジカル空間」を融合し,遠隔であっても人と人/人とロボット/人と仮想空間が一体化された人・AI ロボット・情報系の融合空間(サイバニクス空間)を扱うことができる「HCPS 融合人協調ロボティクス」を開発し,超高齢社会が直面する様々な社会課題の解決を実現する.(HCPS: Human-Cyber-Physical Space)
・ムーンショット目標1:2050年までに,人が身体,脳,空間,時間の制約から解放された社会を実現(2020-最大2030):人が身体,脳,空間,時間の制約から解放された社会を実現することが鍵と考え,人の身体的能力,認知能力及び知覚能力を拡張するサイバネティック・アバター技術を,社会通念を踏まえながら研究開発を推進する.
・ムーンショット目標3:2050年までに,AIとロボットの共進化により,自ら学習・行動し人と共生するロボットを実現(2020-最大2030):AI とロボットの共進化により自ら学習・行動するロボットを実現することを目指し,ロボットの高度な身体性とAIの自己発展学習を両立するAIロボットの実現に向けた研究開発を推進する.
(5)文部科学省
多数の事業が実施されているが,主立ったものを抽出した.
・科学研究費助成事業新学術領域研究/ソフトロボット学の創成:機電・物質・生体情報の有機的融合(2018-2022終了):生体システムのもつ「やわらかさ」に注目し,生体システムの価値観に基づいた自律する人工物の創造を目指した.生物の模倣再現にとどまらず,生物に学びつつも,生物を越えた人工物を射程にとらえる.「ソフトロボット設計学」,「ソフトロボット物質学」,そして「ソフトロボット情報学」で構成される.
・科学研究費助成事業新学術領域研究/人間機械共生社会を目指した対話知能システム学(2019-2023):近未来では家電製品やロボットが意図や欲求を持ち,人間との間で言語を用いながら意図や欲求を理解し合い,共生していく.この新たな共生社会を実現する学術分野を創成するために,対話継続関係維持研究,対話理解生成研究,行動決定モデル推定研究,人間機械社会規範研究の4つの研究グループを基に研究開発に取り組む.
・科学研究費助成事業基盤研究(S)/敵対生成脳:マルチエージェント学習の計算理論,アルゴリズムとロボティクスの応用(2022-2026):高等生物脳の高サンプル効率の学習を理論化しようとする「敵対生成脳」を作業仮説とし,その脳内機構をヒト・霊長類の計算神経科学研究により明らかにし,機械学習アルゴリズムとして導出,さらに,人と共創するロボティクスに応用するという学際的な研究を進める.環境に複数のエージェントが存在する状況(マルチエージェント環境)への展開も進める.
・科学研究費助成事業基盤研究(S)/人型ロボットの身体内保存力学的エネルギー活用による高効率運搬・スポーツ動作の実現(2021-2025):既存の人型ロボットのエネルギー効率が低いという問題を解決するため,人間の身体構造および運動を参考に,『ロボット身体内保存力学的エネルギー活用運動』およびそれに適した身体構造により全身運動時の消費エネルギー低減を目的とする.
(6)国土交通省
・建設施工・建設機械におけるロボット・AI技術として,「人々の幸せにつながる道路」という方向性で,取り組みが実施されている.また,新たなモビリティやシェアリングの利用環境の整備,自動配送ロボットや自動運転のための法整備,自動運転による地域公共交通実証事業,物流施設におけるデジタル技術活用,ドローンによる物流等という多岐にわたる取り組みが計画されている.近年の取り組みとして2例を挙げる.
・建設施工におけるパワーアシストスーツ導入に関するWG(2020-):i-Constructionが目指す生産性向上,働き方改革並びに持続可能な建設業の実現に向けて,パワーアシストスーツ(PAS)の建設現場への円滑な導入を検討する.今後,「建設施工における現場作業者支援のDXに関するWG」に継続する.
・建設機械施工の自動化・自律化協議会 (2021-):建設施工の自動化・自律化及び遠隔化における適切な安全対策や関連基準の整備等による開発及び普及の加速化を目的に,業界,行政機関,研究機関及び有識者からなる協議会を設置.
・無人航空機等を活用したラストワンマイル配送実証事業(2023-):離島や山間部等の物流網の維持や災害時の物資輸送などの社会課題を解決するため,レベル4飛行のドローン物流や離発着前後の自動配送ロボット連携等の検証を目的とした先導的な実証事業.
・そのほか,「バリアフリー・ナビプロジェクト」や「都市交通における自動運転技術の活用方策に関する検討会」等の取り組みがなされている.
(7)農林水産省
スマート農業への取り組みについての記載がある.ロボット,AI,IoT等の先端技術を活用したスマート農業技術を用いて,作業の自動化や情報共有の簡易化,データの活用を実現する研究開発,社会実装に向けた取り組み等を実施している.
・林業イノベーション現場実装推進プログラム(2019-):林業現場への新技術の導入により,厳しい地形条件等に起因するきつい・危険・高コストの3K林業や記憶・経験に頼る林業から脱却し,ICT等を活用し資源管理や生産管理を行う「スマート林業」や,自動化機械の開発等により,伐採・搬出や造林を省力化・軽労化を図る.
〔安川 裕介 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)〕
18.9 注目技術動向
ロボティクス・メカトロニクス分野における最新の注目技術として,本部門主催のロボティクス・メカトロニクス講演会2022(2022年6月,札幌)から選ばれ,本部門ROBOMECH表彰を受賞した研究7件について簡単に紹介する.7件のうち5件は学術研究分野での受賞,2件は2018年から新設された産業・実用分野での受賞である.
まず,学術研究分野で受賞した5件について紹介する.
1件目は「ダチョウ首の解剖学に基づく柔軟マニピュレータによる矢状面上の運動の実現」(中野,他)である.ダチョウの首を実際に解剖し,その筋骨格構造の中から矢状面上の運動を実現する構造を模倣し腱駆動ロボットとして実装した.このロボットで,ダチョウの特徴的な矢状面上運動であるRolling PatternとLever Patternを実現した.
2件目は「周波数解析と機械学習に基づく研磨音からの接触力推定」(川口,辻)である.研磨加工における工具と作業対象との接触力を,研磨時の発生音を周波数解析し,その特徴量を用いてニューラルネットワークで推定する手法を提案している.
3件目は「半自律系における類似タスク区別のための非線形力学系次元拡張」(岩野,岡田)である.著者らは油圧ショベルの効率的な遠隔操作を目的として,半自律リーダ・フォロワシステムを提案してきたが,起動が類似する複数のタスクがあると,それらを区別し選択することが難しいという問題があった.そこで非線形力学系の次元拡張を用いた類似タスクの選択を実現する半自律制御系を提案し,リーダ・フォロワシステムに実装した.
4件目は「干渉回避スリット構造によるポロイダル方向への動力伝達機構 -能動全方向車輪としての活用-」(佐野,他)である.全方向移動台車のための車輪で,小径車輪へ動力を伝達する独創的な機構を提案し,一輪台車での実験で,その有効性を確認した.
5件目は「斜立したLIGカンチレバーを用いた二軸触覚センサ」(中島,高橋)である.ポリイミドフィルム表面をCO2レーザ照射で炭化させたLIG (laser-induced graphene)で二つの対向する片持ち梁を形成し,熱可塑性を利用して斜立させ,周囲をポリジメチルシロキサンで固めることで,法線力とせん断力を検出可能な触覚センサを開発した.
つぎに産業・実用分野で受賞した2件について紹介する.
1件目は「Bayesian Active Learning の車両動的性能設計への応用」(田島,他)である.自動車開発の効率化を目的として,実物のパワートレインを用いたHILS (hardware in the loop simulation)でドライバビリティを自動評価するシステムを開発した.Bayesian Active Learningを用いて,制御定数の成立範囲を自動探索する手法を提案した.
2件目は「食肉処理ロボットシステムにおける認識技術の開発 -第2報:深層学習による豚枝肉分割位置の検出-」(野明,他)である.豚部分肉大分割工程を自動化することを目的として,分割位置検出に深層学習を導入し,ロバストで精度の高い分割位置検出を実現した.
講演件数から注目技術の動向を探ってみる.ROBOMECH2022では,講演件数の多いセッションは順に,「ソフトロボット学/フレキシブルロボット学」58件,「触覚と力覚」48件,「建設&インフラ用ロボット・メカトロニクス」41件,「医療ロボティクス・メカトロニクス」41件,「移動ロボットの位置推定・地図構築・ナビゲーション」38件,「福祉ロボティクス・メカトロニクス」36件,「脚移動ロボット」33件,「バイオミメティクス・バイオメカトロニクス」32件,「水中ロボット・メカトロニクス」30件,となっている.講演件数の多いセッションはROBOMECH2021と概ね同じであるが,「バイオミメティクス・バイオメカトロニクス」はROBOMECH2021から1.88倍(17件→32件)と大幅に増加している.
講演件数のROBOMECH2021からの伸び率を見ると,大きい順に,「アミューズメント・エンタテイナーロボット」3.50倍(2件→7件),「空間知能化とアプリケーション」2.33倍(6件→14件),「ホーム&オフィスロボット」2.00倍(6件→12件),「バイオミメティクス・バイオメカトロニクス」1.88倍(17件→32件),「看護とメカトロニクス」1.83倍(6件→11件)となっている.
全体的なトレンドとしては,医療,福祉,バイオ,看護など医工学分野での講演件数が多く,また増えていると言える.まだまだ発展の余地のある分野であり,今後の一層の発展が期待される.
〔近野 敦 北海道大学〕