16. 加工学・加工機器
16.1 概論
日本工作機械工業会(日工会)の工作機械受注統計によると,2022年の受注総額は前年比14.2%増の1兆7596億円であった.これは1965年に統計を取り始めて以来,2018年の1兆8157億円に次いで史上2番目に多い.2019年12月に始まった新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の世界的拡大によって,2020年は9018億円まで減衰した.2022年はCOVID-19以前の水準を急速に取り戻し,工作機械産業にとって復活の年となった.内訳は内需が前年比18.2%増の6032億円,外需は同12.1%増の1兆1563億円であり,内需外需ともに前年度の予想を上回った.その背景となった市場動向として,中国を中心に本格化した電気自動車(EV)関連の生産増加による設備投資が挙げられる.それに加え,半導体需要の世界的な拡大に伴う半導体製造装置関連の生産が堅調であったことも大きな要因である.
2022年はJIMTOF2022(第31回日本国際工作機械見本市)が開催され,世界の注目を集めた.COVID-19の影響により,前回のJIMTOF2020がweb開催のみであったため,対面で開催されるのは実に4年ぶりである.そのような背景を反映し,統一テーマ「開かれる扉(ミライ),世界を動かす技術の出会い」の下,世界22の国と地域から1,087社が出展,述べ14万人を超える来場者を集めた.これはCOVID-19前のJIMTOF 2018(世界21の国と地域,出展数1,085社,来場者15万人)に匹敵する.特に革新的製造技術として,金型,ロボット,自動車産業から航空宇宙・医療産業への適用拡大が期待されるAdditive Manufacturing (AM)の特別企画では,Powder Bed Fusion(PDF)方式の電子ビーム金属積層造形やDirect Energy Deposition(DED)方式のワイヤ・レーザ金属積層造形および切削加工と金属積層造形の融合によるAdditive/Subtractive(AM/SM)ハイブリッド加工などの最新技術が目を惹いた.
『工作機械産業ビジョン2030―我が国工作機械産業の展望と課題―』が,日工会創立70周年記念草子として編纂され,2022年3月に発刊された.豊富なデータに基づいた多方面からの分析による課題抽出とそれを踏まえた今後の技術動向が詳細に示唆されている.特に持続可能な開発目標SDGsの2030年達成を見据えた,工作機械業界の3つのトレンド:自動化,デジタル化,省エネ化(カーボンニュートラル)が急務の課題である.解決への取り組みは工作機械の知能化に集約される.高度な計測・センシング技術や制御技術および第5世代移動通信システムのローカルネットワーク(ローカル5G)を活用したIoT/ Operational technology(OT),AI,サイバーフィジカルシステムを基盤とするデジタルツインが鍵となる.その実現によって,主要構成要素の稼動状態の見える化と補正,加工プロセスやメンテナンス状態の見える化,加工条件決定支援(評価・提案)と段取り作業の支援および安全性の確保や省エネ化の達成が期待されている.学の役割としては,知能化工作機械ネットワークのUbiquityに関する理論構築や独創的で高度な要素技術の基礎研究を推進し,その強固な基盤技術体系に基づいて,産官学の連携による開発研究の中核を担うことが今後ますます重要になるであろう.
〔高谷 裕浩 大阪大学〕
16.2 研削・研磨加工
2022年に発表された研削・研磨加工に関する国内外の論文について調査を行った.調査対象は和文誌3誌(日本機械学会論文集・精密工学会誌・砥粒加工学会誌),英文誌5誌(Journal of Advanced Mechanical Design, Systems, and Manufacturing ・ CIRP Annals ・ International Journal of Machine Tools and Manufacture ・ Journal of Materials Processing Technology ・ Precision Engineering)である.調査対象とした学術誌に掲載された研削・研磨加工に関する論文は40編で,そのうち22編が研削に関するもの,残る18編が研磨を扱ったものである.掲載誌の内訳を表16-3-1に示す.和文誌における研削・研磨加工に関する論文は合計10編で,特に研削に関する発表は精密工学会誌・砥粒加工学会誌のそれぞれで1編ずつと少なく,砥粒加工学会誌では研磨に関する発表が6編と比較的多く見られた.一方,調査対象とした英文誌では30編の研削・研磨加工の論文が掲載され,Journal of Advanced Mechanical Design, Systems, and Manufacturing を除く4誌で,研削・研磨加工の論文が掲載されている.また,英文誌では研削が20編,研磨が10編と,和文誌の傾向と異なり研削に関する発表が多い.英文論文で筆頭著者が日本の研究機関に所属しているのは研削が1編,研磨加工が2編のみであり,海外の研究機関において研削に関する研究が盛んに行われていることが示唆される.
論文の内容に注目すると,研削分野では砥石による材料除去機構の解明に関する論文が多数見られた(1)-(8).これらの中には,アルミ合金や複合材の材料除去機構から研削面の表面性状を論じたもの(1)(5)や,研削中の砥石の挙動を考慮したもの(2)(8)などがある.また,ベルト研削における材料除去機構を論じた論文(6)は珍しい.ドレッシングおよびツルーイングに関する論文も盛んに発表された(9) – (13).研削熱に関する研究は2編(14)(15)あり,(14)では研削熱が工作物へ伝わる様子が詳細に解析され,(15)では寸法生成挙動と工作物の熱変形を考慮した工作物の寸法予測が報告されている.昨今,注目を浴びているSiCの研削に関する報告は3編(16) – (18)であった.
研磨加工の分野では,磁気や電解を用いた研磨加工(19) – (21)に加えて,超音波振動を付加した磁性砥粒による研磨(22)も行われている.また,研磨現象に関する研究も盛んに行われており(23)-(27),ラッピングにおける加工面形状の計算(28)や,CMP(Chemical Mechanical Polishing)における加工状態の推定(29)といった解析的な研究も報告された.その他には,噴射加工(30)(31)やホーニングに関する研究(32)も報告されている.
表16-3-1 2022年に発表された研削・研磨加工に関する論文数
研削 | 研磨 | 計 | |
日本機械学会論文集 | 0 | 0 | 0 |
精密工学会誌 | 1 | 2 | 3 |
砥粒加工学会誌 | 1 | 6 | 7 |
Journal of Advanced Mechanical Design, Systems, and Manufacturing | 0 | 0 | 0 |
CIRP Annals | 8 | 4 | 12 |
International Journal of Machine Tools and Manufacture | 2 | 0 | 2 |
Journal of Materials Processing Technology | 7 | 3 | 10 |
Precision Engineering | 3 | 3 | 6 |
計 | 22 | 18 | 40 |
〔大西 孝 岡山大学〕
16.3 電気・化学加工
電解加工や化学加工の基礎的な内容や技術動向について理解するには,「電解加工と化学加工」(1)や「電解加工の基礎理論と実際)(2)そして,「電解加工の課題と技術動向」(3)などの文献が参考になる.電解加工と化学加工は,微細深穴の加工のほかにパワー半導体で必要とされているSiCやGaNなどの難加工材料に対する高速研磨技術にも有効である(4).以下に,電解加工や化学加工の現状について述べる.
電解加工,化学加工は電気化学などの原理を利用し,加工界面やその近傍における電荷移動を利用しているため,加工効率の向上や加工反力が極めて小さいという特徴を持つ.近年,導電性のあるSiC基板に対して電気化学機械研磨が提案されており,電気化学的な陽極酸化により表面に軟質層を形成したスラリーレス電気化学機械研磨法(Electorochemical Mechanical Polishing: ECMP)が報告されている(5).本手法の利点としては,除去レートの高速化と歪み場をと抑制した良好な研磨面の両立が実現可能であることである.このほか高分子電解質膜を用いた電解加工による単結晶SiC表面に対して微細構造を形成する研究も報告されている(6).
放電加工(Electrical discharge machining: EDM)についてはLCパルス発生機を改良することで放電エネルギーの向上や高い放電周波数への適用が報告されている(7).このほかステンレス鋼によるワイヤ電解加工(Wire electrochemical machining :WECM)においては,走査型ワイヤ電極によるSKD11やInconel 718に対する小径穴加工や異なる放電状態での放電反応に関する研究も行われている(8)(9).放電状態と材料除去に関する研究については,ドライ状態や液相状態での放電状態を高速度カメラで観測した内容についても報告されている.ここでは放電時に発生するバブルの発生についてもなどについても確認されている(10)(11).特にバブルに関しては,気泡のフラッシング効果が液体のフラッシングやデブリの排出にも重要となってくる(12).加工近傍において導電性の持つ生成物が形成された場合,放電における電荷密度分布は変化してしまう.ここではSUS304やSiCに関して評価されおり,SiCの場合SUS304と比較してデブリの影響が深刻化しないことが確認されている.
また電気化学ジェット加工(Electrochemical jet processing:EJP) では,電解質液を局所的に吹き付けることからワーク形状の変化に適用させた非接触でかつ工具フリーの加工が実現可能である(13).文献13では切削やレーザー加工などの他の手法との関係やEJPでの電気化学的な反応プロセスに関する内容についても分かり易く解説されている.ここでは電解液の複数のノズル先端での評価がなされておりノズルの先端形状と加工形状との関係について記載されている.特に電解液として水酸化ナトリウム溶液中にNa2WO4のパウダーを混入させることで局面形状を形成する試みもなされている.また,長方形の断面におけるデブリ粒子の排出に関するシミュレーションに関する報告なされている(14).
このほかポーラス構造を有したMSFボールを用いた電解加工技術が報告されている(15).一般的に電解加工の場合,加工領域全体に対して電解液の分布を正確に制御することは困難であるが,本手法によると非導電性固体の多孔体球を用いることで電解加工における電流経路の制御が可能となる.つまり,電解液がホールの多孔質に吸収されるとボール表面に電解質層が形成されワークと工具表面のみに電流経路が形成させる.この原理により電解加工は接触部のみ生じるためワーク接触されている電解液の影響を除外でき,正確に電解加工を進行させることが可能となる.
最後に電解・化学加工に関しては,過去に半導体プロセスでも配線絵形成において電解・化学加工を応用したE-CMPの適用が試みられてきた(16).この技術は量産技術として普及していないが,電解液の供給方法など改良することで半導体のバックエンドプロセスの領域まで適用範囲が拡張する可能性がある.
〔鈴木恵友 九州工業大学〕
16.4 エネルギービーム加工
エネルギービーム加工の中でも主にレーザ加工に関する内容に関して説明する.レーザ加工に関する報告は多くの学協会や会誌にて行われることから全ての内容を網羅できるわけではないが,情報を入手できた国内外の報告をもとに記する.
レーザ加工はマクロ加工と微細加工に大別され,国内での報告の多くは微細加工である.微細加工分野では,科学研究補助金学術変革領域Aで光の螺旋性が拓くキラル物質科学の変革が2022年度よりスタートし(1),光渦をレーザ加工へ適用したサブミクロンサイズの螺旋構造からレーザ誘起転写法などの報告が増えてきており(2),本分野の今後の発展が期待される.
半導体材料に対して透明なレーザ光波長を用い,内部集光することでスライシングする試みは従来よりあったが,GaNへの適応が試みられている(3).GaNインゴットからのスライスのみだけでなく,エピタキシャル成長層に作製したデバイスを同様のスライス技術によりリフトオフすることでGaN基板を再利用できることも明らかにしていることから(4),実用上も有用と考えられる.
半導体材料のダイシングにもレーザ加工が適用されているが,高出力レーザが適応できる空間位相変調器の開発とともにその高速化が進み,ブレードダイシングに対して10倍のプロセス速度を達成できることが報告されており(5),本技術の適応拡大が進むものと予想される.
その他,微細加工では直線偏光のナノ秒レーザを目的形状に応じてビームと偏光面を回転させることで,ビーム半径以下のコーナーRとなる四角穴加工を実現できる技術も報告されている(6).
マイクロ加工では銅を対象としたプロセスに注目が集まっており,銅に対して高い光吸収率となる短波長レーザを用いることが注目されている.青色レーザの高出力化が進む一方,高輝度化を目指した取り組みが行われ,ビーム品質を表す指標であるビームパラメータ積BPPが1.4mm・mradと優れた特性を示すことからガルバノスキャナの適応も可能としている(7).それに対して,波長1µmの近赤外線レーザ光を用いても銅の溶接プロセスを安定化させる報告や(8),青色レーザと近赤外レーザを組み合わせたハイブリッドプロセスに関しても報告数が増えてきていることから(9),本分野の注目度の高さを感じられる.
レーザ加工では各種パラメータの最適化や加工点からの情報によってプロセスの安定化を試みたりする必要があるが,それらのアクションに人工知能を活用しようという取り組みが進んでおり,レーザ溶接において熱伝導型溶接の判定を実現できたことが報告されている(10).
レーザ光を用いて金属の立体形状を創成する3Dプリンタ関係では,指向性エネルギー堆積方式の分野に多くの工作機械メーカーが表面改質や部分的肉盛をその入口として参入するとともに,一部は形状創成にも取り組みを広げている.2022年には酸化抑制を実現できるシールドガス供給ノズルが開発され,指向性エネルギー堆積方式による大型形状の創成へも適応が進みつつある(11).また,月面における建設材料の作製を目標に,月の模擬砂を用いてcmオーダーの立体物を試作できたとの報告もあり(12),3Dプリンタ技術の今後の発展が期待される.
〔岡本康寛 岡山大学〕
16.5 工作機械
2022年に国内外の学術誌9誌で発表された工作機械に関連する論文を調査したところ,57編の論文が発表されていた.その内訳は,和文誌では日本機械学会論文集で5編,精密工学会誌で1編,砥粒加工学会誌で1編,電気学会論文誌で1編,英文誌ではJournal of Advanced Mechanical Design, Systems and Manufacturingで3編,International Journal of Automation Technologyで8編,Precision Engineeringで20編,International Journal of Machine Tools and Manufactureで5編,CIRP annalsで13編であった.
分野別に分類すると,工作機械本体・要素に関する論文が8編,工作機械のモデル化・モニタリングに関する論文が13編,運動誤差の計測と補正に関する論文が6編,制御に関する論文が6編,振動・びびり振動に関する論文が11編,熱特性に関する論文が6編,その他の論文が7編だった.
工作機械本体・要素に関する研究では,主軸の振れの解析・補正に関する研究が多い(1,2,3,4).また,要素間のボルト結合面における接触剛性のモデル化(5),ボールねじの経年劣化のモデル化(6),回転と直動の自由度を持つ駆動装置の開発(7),油静圧案内を用いたテーブルの角度誤差の補正(8),ラックアンドピニオン機構における伝達誤差の補正(9)に関する研究が行われている.本分野では海外での研究が多く,海外から8編,日本から1編の論文が発表されていた.
工作機械のモデル化・モニタリングに関する研究では,実稼働中のモニタリング情報から,モデルパラメータを同定する研究が多い(10,11,12).また,機械の状態監視(13,14),と切削抵抗のモニタリング(15,16)に関する研究でも複数の論文が見られた.さらに,モニタリング情報やワークの評価結果にもとづいて,モデルから加工精度の予測(17),サイクルタイムの予測(18),加工不良の原因推定(19),クーラントの劣化検出(20)を行う研究も行われている.データ駆動型のモデルを用いた研究(13,16,18,19)も多く,メカニズムが複雑で単純なモデル化の難しい現象を考慮しようとする工夫が見られる.この他にも,制御系と機械系のモデルを組みあわせた包括的な工作機械モデルの開発に関する研究(21)や,バーチャルリアリティを用いた工作機械シミュレータの開発に関する研究(22)があった.本分野では日本での研究が多く,海外から4編,日本から9編の論文が発表されていた.
運動誤差の計測と補正に関する研究では,レーザ干渉計を用いた工作機械やロボットの運動誤差の測定法(23,24)と,パラレルメカニズム型工作機械の運動誤差の評価と補正(25,26)に関する研究の数が多かった.また,アーティファクトを用いて長期における工作機械の幾何誤差の変化を同定する研究(27)も見られた.
制御に関する研究では,輪郭運動誤差を低減するためのパス生成や補間方法に関する研究(28,29),工具の姿勢誤差の推定と制御(30),ボールねじを用いた送り系における象限突起の補正法(31)に関する研究が行われている.また,ファストツールサーボのための制御法(32)や,剛性の低い構造をもつ送り系のための制御法(33)の研究も見られた.
振動・びびり振動に関する研究では,ロボットミリングにおけるびびり振動の解析(34),工作機械の剛性に異方性を持たせることでびびり振動を回避する研究(35),加工時のびびり振動の発生有無を学習することで安定限界線図の予測精度を向上させる研究(36),が見られた.また,画像を用いて振動の解析を行う研究も多く発表されており,高速カメラによる動画撮影によって機械構造の振動を測定する研究(37),動画撮影によって実稼働モード解析を行う研究(38),加工面模様の画像からびびり振動の周波数と再生効果の位相差を求める研究(39)が見られた.さらに,アクティブ・セミアクティブな方法で加工システムの高減衰化を図る研究(40,41),機械要素の減衰性が加工システム全体の減衰性に与える影響の調査(42,43),工作機械の動特性評価のための非接触での加振方法(44)の研究が行われている.
熱特性に関する研究では,熱変位のモデル化と補正に関する研究(45,46,47,48)が多い.また,主軸の熱変位が工具端での熱変位に与える影響の調査(49)が行われている.さらに,工作機械の温度分布を網羅的に測定するために,小型の温度センサモジュールを構造体の中に内蔵する興味深い試み(50)も見られた.
その他の研究では,ファストツールサーボを用いた加工に関する研究(51,52),超精密加工機における加工誤差の解析(53)と機上計測システムの開発(54)に関する研究,生産工程へのロボット加工の導入に関する研究(55,56),5軸制御工作機械の構造と加工可能範囲の関係性の調査(57)に関する研究が見られた.
〔河野大輔 京都大学〕
16.6 工具および工作機器
本節では2022年に国内外の主な学術誌に掲載された除去加工に係る工具および工作機器に関する論文について述べる.対象とした学術誌は10誌で,この中で工具および工作機器に関する論文(切削工具,ドリル,エンドミル,旋削工具,ホブ,研削,砥粒,放電,工作機器等をキーワードとした検索結果の中から,工具・工作機器を主として研究対象とした論文)は95編であった.掲載論文数の内訳は表16-7-1に示すとおりであり,特にJournal of Manufacturing Processes誌への掲載が多かった.
図16-7-1に上記の全対象論文(95編)において研究対象とされていた工具種類別の割合を示す.旋削工具と研削工具が概ね20%強で最も多く,続いて,切削工具ではエンドミルが12%を占めていた.また,砥粒や放電電極,工作機器を対象とした論文も,それぞれ7%程度であり,ドリルが5%あった.その他として,ダイヤモンドワイヤソーなどの精密切断工具に関する論文や,効果的な切削油剤供給機能に関する論文,超硬合金やセラミックス,cBNなどの工具材料の開発に関する論文もみられた.
上記95編の論文から,対象とする工具・機器別に主な論文について割合の多い工具・機器から順に概説する.なお,できる限り工具・工作機器に主眼を置いた論文を取り上げているが,別節で取り上げられている論文との重複もあろうかと推察する.御容赦いただきたい.
旋削工具を対象とした取り組みとして,ダイヤモンド工具によりランダム性を有する微細構造表面を創成する技術(1)や直線的なノーズ形状を有するダイヤモンド工具による光学部品の高精度加工に関する研究(2)がみられた.また,代表的な難削材である超合金やチタン合金を対象とした取り組みでは,窒素やグラフェン粒子を分散させたナノフルード雰囲気下におけるサーメット工具・コーテッド超硬工具の切削性能(3),(4)や,高圧冷却によるPCD工具の工具寿命伸長効果(5)が明らかにされており,切削環境からの工具性能の高性能化の取り組みもみられた.他にも,Ni基合金を被削材とし,Siを含有させたTiAlNコーテッド超硬工具による乾式加工(6)や,TiAlNコーテッド超硬工具の摩耗特性(7)に係る取り組みもみられた.旋削工具の切れ刃先端付近の表面状態を制御することで,切削性能の向上を目指した研究も複数みられた.例えば,CVDによるアルミナコーテッド工具(8),超硬工具(9),セラミックス工具(10)を対象とした実験的な取り組みや,FEMを用いた解析的な取り組み(11)がみられた.これらとは別に,切れ刃先端の形状やチップブレーカ形状に対する取り組み(12)–(15)も散見された.
研削工具を対象とした取り組みとして,旋削工具と同様に光学製品への応用を意図してダイヤモンドからなる研削工具を用いた超精密研削の取り組み(16)や,被削材として超合金を対象とした取り組み(17),(18)がみられた.その他に,生体骨(19)や軌条(20)など特徴的な被削材を想定した取り組みもみられた.研削工具特有のアプローチとして,砥粒形状やツルーイング・ドレッシング方法(21)–(23),ベルト研削に用いられるラバーホイール(24)に着目した取り組みや,AM技術を活用した研削工具製作の取り組み(25)もみられた.
エンドミルを対象とした取り組みとして,旋削・研削工具と同様に,代表的な難削材である超合金,チタン合金を対象とした取り組みが複数みられるが,その内容は,高圧クーラントの供給(26),ナノフルードと刃先のテクスチャリング(27),切れ刃形状(28),(29),切削条件(30)など様々であった.他の被削材に対する取り組みとして,被削材として超硬合金を対象にエンドミル逃げ面に研削面を設けた複合工具(31),被削材としてアルミ合金を対象としたDLCコーテッド工具(32),被削材としてステンレス鋼を対象としたPCBN製の多刃工具(33)などがみられた.他にエンドミルで問題となりやすいびびり振動(34),(35)に着目した取り組みもみられた.
砥粒加工を対象とした取り組みとして,磁気研磨(36),(37)や粘弾性材料を活用した研磨法(38),(39)がみられた.他に,デジタルバフ研磨装置の開発(40)やAM製品を対象としたショットブラスト加工(41)もあった.
放電・電解加工を対象とした取り組みとして,電解放電加工に関する取り組み(42)–(44)が複数みられ,その他に多孔質ボールを用いた電解加工(45),新たな電極工具を用いた電解液ジェット加工(46)がみられた.
工作機器を対象とした取り組みとして,工具・工作物の把持方法に関する取り組み(47)–(49)が複数みられた.他にもVR技術を活用した工作機械シミュレータの開発(50),加工に伴う振動や熱に対する取り組み(51),(52),工具損傷の検出に対する取り組み(53)などもみられた.
最後にドリルを対象とした取り組みとして,炭素繊維強化樹脂に代表される複合材料を対象としたドリルの開発(54)–(57)が多く,他にアルミ合金を対象としたDLCコーテッド超硬ドリルの有効性に係る取り組み(58)がみられた.
表16-7-1 工具および工作機器に関する主な学術誌の掲載論文数(2022年)
学術誌名 | 論文数 |
日本機械学会論文集 | 2 |
Journal of Advanced Mechanical Design, Systems, and Manufacturing | 6 |
精密工学会誌 | 2 |
砥粒加工学会誌 | 2 |
Precision Engineering | 11 |
International Journal of Machine tools and Manufacture | 3 |
Wear | 14 |
Journal of Materials Processing Technology | 8 |
Journal of Manufacturing Processes | 35 |
CIRP Annals | 12 |
合計 | 95 |
図16-7-1 対象加工法の割合
〔岡田 将人 福井大学〕
16.7 加工計測
本節では加工計測について,形状および寸法の計測技術に対する計測手法と計測データ解析技術などに関して報告する.計測技術は生産分野のみならず多分野に適用されるため,多節との重複があるかもしれないことをあらかじめ断っておく.調査範囲は,本会論文集(1),JAMDSM(2),精密工学会誌(2),Precision Engineering(20),CIRP Annals – Manufacturing Technology(7)とした.なお,括弧内は2022年の加工計測に関連する論文数である.
三次元測定/幾何計測では,光学計測が多く報告されている.三次元測定としては,屈折率n=2のガラス球を再帰反射器として用いたレーザートラッカシステムを開発し,ガラス球の3次元座標を20 mの動作範囲にわたって取得することに成功している(1).幾何計測法は,測定ツールが多用であるため,内容が多岐にわたっている.例として,深層ニューラルネットワークを光学三角測量に組み合わせて,計測ノイズの影響の低減(2),自由曲面のナノ精度測定に必要な光路長を既知量だけ変化させながら被測定面上で複数の形状を測定するマルチステップ自己校正法の開発(3),エタンデュが小さなスーパールミネッセンスダイオードを光源とした明るい共焦点顕微鏡を用いた表面プロファイリングシステムの構築と低反射率材料に対する原理実証実験(4),円筒の表面形状と厚み分布を同時に測定するために共焦点プローブを対で用いた測定システムの開発(5),サブマイクロメートルの直径を有するファイバーの直径を定在波照明により測定する手法(6),機械加工面の質を評価するために輝度および表面粗さについていくつかのパラメータを設定することで,写真や人の目視によって評価されていた加工面品質を定量的に評価する手法(7),オープンループトラッキング干渉計測によるスカラロボットの回転軸の2方向角度位置決め偏差のエラーマップ作成(8)などが報告された.光学的な手法以外としては,報告例がやや少ないが,磁気式エンコーダの分解能向上を目的とした,磁気センサ検出信号の正弦波からの誤差を小さくするための,磁場シミュレーションを用いた解析・最適化(9),タッチトリガプローブ測定に対して,表面位置誤差と変形誤差のモデルに基づくプローブ半径の補正が不要な表面再構成法の提案および再構成精度の向上(10),説明が可能なAIを超音波検査に導入した内部欠陥検出技術(11)が報告されている.
X線コンピュータ断層撮影(X線CT)に関する報告が複数あったので,他の話題と重複する部分もあるが,ここで別途取り上げる.まず,トレーサビリティに焦点を当てた最近の進歩についての解説がある(12).また,近年精力的に研究されているアディティブマニュファクチャリングに対してX線CT計測を応用した例として,積層造形された柱(ピロー)に対して格子構造からの形状欠陥をX線CTデータを基にモード分解により解析する手法(13)およびラティス構造に対してトレーサブルなX線CTを実現するための不確かさ解析(14)が報告されている.その他に,この領域でも畳み込みニューラルネットワークを使用した研究が報告されており,透過画像のブレ除去により被写体の品質を保ったまま計測を高速化したX線CTが開発されている(15).
機上計測については,工作機械の運動測定とワークの形状誤差測定に大別され,近年ますます精度およびトレーサビリティ体系に則った測定が要求されている.工作機械の運動計測については,CNCの機上計測において様々なタッチトリガプローブのプローブ誤差の影響(16),サブナノメートルレベルの不確かさをもつフーリエ変換によるスピンドルの運動誤差分離法の検証(17),微細形状創成加工の効率化を図るための,オンマシン計測を適用しワークの設置を自動化した超精密切削システムの開発(18)が報告されている.また,スピンドル等の振動を検知することを目的とした高速カメラによるビジョンベースの振動計測で,カンチレバー振動のマイクロメートル級分解能での測定が報告されている(19).ワークの形状誤差測定については,旋盤などによる加工中の回転物体に対する走査型白色干渉計を適用した表面トポグラフィ測定(20),超精密加工機に対して軸上色収差共焦点プローブを適用した機上計測法の開発(21),マイクロ放電加工システムに対して共焦点プローブを適用した機上計測(22),レーザーラインスキャナーを使用した幾何形状推定法を開発し,DED(Directed Energy Deposition)方式アディティブマニュファクチャリングに対する堆積跡のリアルタイムモニタリング(23),3軸マシニングセンタに組み込まれたコノスコピックホログラフィに基づく非接触型の機上粗さ測定システムの開発(24),複雑形状を有する金型の製造を想定した,エンドミル荒加工時に無線工具ホルダからの振動情報とCNC位置情報を同時取得するシステムの構築および協働ロボットによる加工品質の向上と高効率な加工(25)が報告されている.
特定の加工物に対する測定法がいくつか報告されているので,ここにまとめる.多くは半導体やシリコンウェーハに対するもので,シリコンウェーハ表面に対して,偏光レーザー散乱の偏光解消によるサブサーフェス欠陥の検出(26),異物などの凸欠陥と結晶欠陥等の凹欠陥を分類することを目的とした,散乱光の多方向検出を偏光分離して行うシステムを用いた分析(27),波長走査型Fizeau干渉計測に対して高調波位相繰り返し法と呼ばれる手法を表面形状測定に適用(28),また,フォトマスク欠陥を高速に検出するための検査および欠陥分析技術としてビーム形状ナイフエッジ干渉法を提案(29)が報告されている.これらに含まれないものとして,フェーズドアレイ超音波スキャンを行い溶接の幾何形状と欠陥の位置を3次元マッピング(30)が報告されている.
その他に,マシンビジョンに関する報告があり,生産の高速化のためのマシンビジョンに深層学習を適用した,自動監視検査に関する研究(31),解釈可能な特徴抽出ができる深層生成学習を利用した産業用マシンビジョンに関する研究(32)が行われている.
以上のように,全体にわたって機械学習を用いた手法の例が今年度も複数報告されている.また,近年爆発的に普及したアディティブマニュファクチャリングに対する測定法も複数報告されている.
〔松隈 啓 東北大学〕