13.機械力学・計測制御
13.1 概論
機械力学・計測制御部門(以下,本部門)は,機械工学におけるいわゆる「四力学」の一つである「機械力学」(機械のダイナミクス)と,ダイナミクスと関連の深い「計測と制御」の分野を主たる活動基盤としている.本部門の部門登録者数(第1位から第3位まで)は4,788名(2023年3月末)で,流体工学部門に次ぐ規模である.本部門では,これらの分野の学術的な基礎研究から実践的な応用研究,他部門との連携による新領域まで幅広く研究が行われ,その研究成果が積極的に公開されている.その成果は主に日本機械学会論文集(和文・英文)や部門講演会「Dynamics and Design Conference」(略称 D&D)などの講演会等を通じて発表され,また講習会等における教材としても使われている.2022年も引き続き新型コロナウイルス感染症の影響により本部門の諸活動は大きな影響を受けつつも,2年間の経験や工夫を活かし,オンラインを中心とした活動が精力的に行われると共に,D&Dは秋田県立大学を会場に久しぶりの対面方式(オンラインの場合には聴講のみ)での開催となった.ここでは,2022年1月~12月に発行された日本機械学会論文集(和文および英文)へ掲載された学術論文および同期間に催行された講演会,講習会などの状況について概説し,本部門の研究活動の概要について紹介する.
13.1.1 学術論文
上記期間中に日本機械学会論文集に掲載された学術論文のうち,「機械力学,計測,自動制御,ロボティクス,メカトロニクス」のカテゴリーとして掲載された論文は85編である.また同論文集Vol.87,No.898では「機械力学・計測制御分野特集号2021」が組まれ,このカテゴリーに34編の論文が掲載されている.したがって特集号も含めて本部門に関連するカテゴリーに掲載された論文数は92編となる.これは日本機械学会論文集に掲載された論文総数の29%(68編/総数236編)にあたる.なお「生体工学,医工学,スポーツ工学,人間工学」のカテゴリーおよび「交通・物流」のカテゴリーにも本部門に深く関連する論文はいくつか見られる.これらも含めれば論文数および割合共にさらに増加する.次に,掲載された論文数および割合の推移について述べる.論文数は,この5年間では108編(2018年),88編(2019年),88編(2020年),92編(2021年),122編(2022年)と推移しており,ここ数年は減少後に横ばい傾向にある.論文の割合においても29%(2017年),30%(2018年),28%(2019年),29%(2020年),30%(2021年),29%(2022年)と同程度を維持しており,日本機械学会論文集に対する貢献度という意味では,高い値を維持しているといえる.一方,英文誌Mechanical Engineering JournalのDynamics & Control, Robotics & Mechatronics カテゴリーに掲載された論文は,2022年は8編であった.特集号を含む本部門に関連するカテゴリーに掲載された論文数の推移は43編(2017年),8編(2018年),10編(2019年),19編(2020年)),16編(2021年),2編(2022年)となっており2018年以降は徐々に増加傾向にあるが,さらに国内外に向けて広く投稿を促す努力を続けていくことが必要である.
13.1.2 講演会,講習会など
毎年開催される部門講演会「Dynamics and Design Conference」(略称 D&D)は本部門活動の中心である.2022年の同講演会D&D2022は総合テーマ「再会,そして再開.~対話で拡くダイナミクスの地平~」のもと,9月5日(月)〜 9月8日(木)の4日間にわたり,秋田県立大学本荘キャンパスで3年ぶりの対面方式で開催した.聴講のみの場合にはオンラインでも可能とした.発表件数は特別講演3件を含む247件,参加者数は483名(うちオンラインは約110名)であった.D&D期間中,例年通り振動工学データベースフォーラム(v_BASE)も併催された.そのほかの講演会としては,「第34回SEADシンポジウム」(参加者167名,講演件数110件)が5月11日(水)~13日(金)に,「第65回自動制御連合講演会」(参加者552名,講演件数321件)が11月12日(土)~13日(日)にそれぞれ主催した.
部門主催の講習会としては,「振動モード解析実用入門-実習付き-」(12月15日(木)と16日(金),受講者24名),「振動分野の有限要素解析講習会(計算力学技術者2級認定試験対策講習会)」(10月29日(土),受講者20名),「納得のロータ振動解析:講義+HIL実験」(12月20日(火),受講者3名),「回転機械の振動」(1月18日(水)と19日(木),受講者23名),「マルチボディダイナミクス入門」(2月9日(木),受講者32名)を,それぞれハイブリッドで実施した.これらの講習会は毎年継続して行われているもので,いずれも一定の数の受講者を集めており,本部門に関連する知識や技術の教育,啓発に大きな役割を果たしており,本部門の活力の賜物といえる.また,部門運営委員会と部門に所属する研究会と連携し,新たな講習会などの企画も検討しているところである.
〔山崎 徹 神奈川大学〕
13.2 振動基礎
振動基礎は,振動解析,実験,振動利用,振動抑制,安定性・安定化,同定・振動診断,非線形振動,カオス,自励振動,係数励振,不規則振動,衝撃現象・衝突振動,連続体の振動,パターン形成,セルオートマトンといった,振動学の基礎を網羅した研究分野である.秋田県立大学で開催されたD&D2022講演会では,「振動基礎」のほか,相互に関連する「機械・構造物における非線形振動とその応用」と「板・シェル構造の解析・設計の高度化」のOSと合同で「領域1:解析・設計の高度化と新展開」が設けられ,54件の講演があった.これらの講演から「振動基礎」が主体となるサブセッションが5セッション,「機械・構造物における非線形振動」と「板・シェル構造の解析・設計の高度化」のOSとの合同セッションが7セッション編成され,活発な議論が行われた.また,本部門所属で毎年1回開催の振動基礎研究会が,3年ぶりに対面(Zoomを利用したハイブリッド形式)で開催され,海外文献講読,国際会議開催情報や研究・教育に関する情報交換企画など有意義な情報交換がなされた.
振動基礎に関連する2022年の国内外における研究動向について,日本機械学会論文集,ASME Journal of Vibration and Acoustics,Journal of Sound and Vibrationに掲載された論文の調査結果を報告する.日本機械学会論文集の「機械力学,計測,自動制御,ロボティクス,メカトロニクス」のカテゴリーに分類された論文の中で,「振動解析」に関連する論文が9編,次いで「振動抑制」に関連する論文が7編掲載されていた.例えば,三次元離散ウェーブレット変換を用いた構成要素モード分解と固有モードにおける連成度評価への応用(1),個々の振動特性がわずかに異なる翼・ディスク系の振動応答特性に関する研究(2),バイスペクトルとクロスバイスペクトルを用いた非ガウス励振を受ける1自由度線形系の応答解析に関する研究(3),発電機をセンサ代わりにしたリレーとキャパシタを用いた減衰力切替型のセミアクティブダンパの抵抗力特性と制振効果を調べた研究(4),粘弾性体中に埋め込んだ球状質量による多軸動吸振器の振動設計に関する研究(5),手押し台車の荷台振動制御のための慣性力発生装置の制御設計に関する研究(6)などが発表されている.ASME Journal of Vibration and Acousticsでは,2022年の論文総数(84編(Technical Brief除く))に対して17編が「振動抑制」に関連する論文(例えば,負剛性と正剛性モジュールを並列に配置して構成された動吸振器を用いた低周波モードの振動低減に関する研究(7)),15編が「連続体の振動」に関連する論文(例えば,アフィン変換を用いた複雑な内部構造を持つオイラーモデルやティモシェンコモデルの振動解析に関する研究(8)),10編が「非線形振動」に関連する論文(例えば,局所的な一様非線形基礎を持つ梁構造の非線形動的モデルに関する研究(9)),7編が「衝突振動」に関連する論文(例えば,衝突速度と音圧レベルの相関を実験と集中系モデルで解析したラトルノイズに関する研究(10)),5編が「振動利用」に関連する論文(例えば,確率共振現象の増幅効果を利用して応答振幅と発電効率を顕著に向上させる研究(11))であった.なお,Volume 144, Issue 6では,Timoshenko–Ehrenfest beam’s theoryの100周年を記念した特集号が企画されていた.Journal of Sound and Vibrationでは,振動基礎に関連するカテゴリーとして(1) Nonlinear aspects of sound and vibration,(2) Analytical methods and modeling for linear vibration and acoustics,(3) Signal processing for sound and vibration applications, including source/system identification and active control,(4) Structural vibration/elastic wave propagation,(5) Passive control of sound and vibrationの5つに注目し,それぞれに対する論文数を調査した結果, (1) 78編,(2) 49編,(3) 38編,(4) 93編,(5) 67編と非常に多くの論文が掲載されていた.また, Journal of Sound and Vibrationに掲載されている論文のうち,2021年頃から深層学習に関連した論文(12),(13),(14)が増加傾向にあり,今後も活発な研究活動が行われていく分野であると考えられる.
〔中野 寛 東京工業大学〕
13.3 評価・診断・メンテナンス
13.3.1 評価・診断・メンテナンス 〜より大きな枠組みのなかで
前回,本分野の記事を執筆した2020年春は新型コロナウイルス感染症が全世界で猛威を振るった渦中にあり,記事中においては,コロナ禍による移動制限によって先進的な社会の基盤維持に対する労働集約的・属人的なアプローチの脆弱性が露わになったこと,under pandemicの時代においては,「自律」と「リモート」をキーワードとして課題の再定義を行い,抜本的な変革を伴う施策の実践が求められること〜そしてこれは労働人口の急減を目前にしたわが国において,いずれ達成しなければならなかった変革でもある〜を指摘した.それから3年が経過し,ようやく社会が以前の姿をほぼ取り戻した今日においても,VUCAと呼ばれる不確かで変動的な時代状況が変わることはなく,産業・インフラを含む人工物システムの維持管理をより合理的かつ持続可能なものに変革していくことが求められている.
そのためには個別の課題解決や技術開発への注力を超えた包括的な視点が重要となる.その一つは,組織が保有するアセット(有形・無形,金銭的・非金銭的資産の全て〜耐久財,ソフトウェア,知的財産,情報,金融資産,ブランド,人材など〜)マネジメント(1)の観点である.そこでは,設備管理は設備の点検補修といった狭義の保全活動ではなく,経営におけるロス・リスクのマネジメントそのものであり,設備システムの設計・調達から廃棄までを含めたライフサイクル全体におけるロス・リスクの最小化という,組織の継続発展のための中心的課題と位置付けられる.(アセットマネジメントについては,現在,国際規格(ISO55000シリーズ)の整備・適用と認証の体制作りが急速に進みつつある.)そしてこれは,さらに上位の視点,すなわち組織を超えた共同体における経済活動の中にシステムのライフサイクルやバリューチェーン全体を位置付け,カーボンニュートラルな経済圏の構築を目指すサーキュラーエコノミーの観点にも繋がっている.
そこで重要となるのは,①データに基づく合理的判断の保証;②ステークホルダー相互のコミュニケーション;③予測不能性に備えるための柔軟性・頑健性の担保と,④それらの自律システム化であろう.①はこれまでの状態監視・評価・予測技術の延長線上にあるが,合理的な経営判断のために最も重要な「予測」の技術についてはまだまだ未熟と言わざるを得ない.予測のためには対象のモデル化とともに劣化シナリオモデルの獲得とデータ同化によるモデルの継続的なアップデートが必須であり,いわゆるデジタルツイン(2)の構築を必然的に伴うものになる.②はそのために必要な組織内外でのデータ交換・共有のための情報流通基盤の構築を要請するものであり,欧州におけるデータ経済圏の確立を目指すGAIA-X(3)やデジタルツインのためのAAS(アセット管理シェル)(2)を含む様々な標準化の取り組みが先駆的である(4).③には突発事象後のレジリエンスを強化するための工学知の体系化に加えて,将来的には自動補修・自己修復などもターゲットになろう.そして④の自律化のためにはAIを筆頭とするデータ科学の深いコミットとともに,ロボットやスマートセンサを含めたより知能的で自律的なデバイスの開発も求められる.
13.3.2 2020〜2022年度の動向
新型コロナウイルス感染症の影響を受けたこの3年間は国内外の研究発表の場のキャンセルやリモート化等があり,対外的な学術活動が低調になった時期であった.そのため網羅的にとはいかないが,当該分野の動向を機械力学分野の観点から振り返ってみる.国内では機械力学・計測制御部門の年次大会であるD&D ConferenceのOS「システムのモニタリングと診断」において,2020年に11件,2021年に8件,2022年に5件の発表があった.コロナ禍の影響もあるとはいえ発表件数が漸減しており,今後活発化するように手を打つ必要がある.評価・診断に関するシンポジウムは,第19回が2021年12月にオンライン開催,第20回が2022年12月に対面開催され,モデリング,センシング,IoT, 超音波,トライボロジー,評価・診断,状態監視,ロボットなどをキーワードとして,それぞれ32件,27件の研究発表があった.同シンポジウムでは例年1/3〜1/4が企業からの発表であり,この分野における産業界の関心の継続的な高さを依然反映している.
研究会活動はやはり低調であった.これまではA-TS 10-39「診断・メンテナンス技術に関する研究会」を中心に,他学会(日本設備管理学会「最新設備診断技術の実用性に関する研究会」,日本トライボロジー学会「メンテナンス・トライボロジー研究会」)との連携を図った活動(メンテナンス分野合同研究会や上記シンポジウムの共催)が行われているが,合同研究会は開催できなかった.そのなかで上記シンポジウムの開催を維持できたことは幸いである.
国外では,機械システムの診断と設備管理分野に関してCOMADEM (Condition Monitoring and Diagnostic Engineering Management) が毎年開催されており,2020年は他会議とのジョイントでInternational Congress and Workshop on Industrial AI 2020 (IAI2020) という形での開催が企画されていたが,コロナ禍により中止,翌年にIAI2021という形でオンライン開催され,40件ほどの発表があったようである.その後COMADEMについてはアナウンスが出ていない.スマート構造関連では,当分野最大級の国際会議であるSPIE SS/NDE (Smart Structures and Materials & Nondestructive Evaluation and Health Monitoring)が例年春に開催され,構造ヘルスモニタリングおよび非破壊評価に関する研究発表が多く行われるが,2020年はコロナ禍のために中止,2021年に再開された.ASMEのSMASIS (Conference on Smart Materials, Adaptive Structures and Intelligent Systems)は2020年は招待講演のみでオンライン開催,2021年は一般講演を含めてオンライン開催,2022年には対面開催された.8つのシンポジウムのうちの一つが構造ヘルスモニタリングに割り当てられており,2021年は16件,2022年には12件の発表があった.過去に比べると発表数がかなり減少しているが,これはこの会議で主に議論されるシーズ指向のトピックから関心が実応用にシフトしていることの表れと考えられる.構造ヘルスモニタリングに特化した国際会議としては,Stanford大学でのIWSHM (International Workshop on Structural Health Monitoring)が隔年で開催されているが,2021年に予定されていた同ワークショップはキャンセルとなっている.これらの国際会議は機械・航空宇宙・建築・土木など多様な分野における産学官の研究者が一堂に会する領域横断的で非常にアクティブな場となっているが,わが国からの参画が引き続き漸減傾向にあることが懸念される
13.3.3 学会の役割
これまで機械力学分野においては,主にダイナミクスに基づく異常・損傷の検出や状態監視,評価・予測技術を基盤として,センシング技術,IoT,AI,ロボット技術との融合領域が研究されてきた.しかし,IoTやAIが一般的なものとなり,評価・診断技術と情報技術との融合が十分に実用的なものになるにつれて,その担い手のマスボリュームは産業セクタに移行している.上述したD&D等における発表件数の減少はこの動きを反映したものと思われる.しかしそれだからこそ,状態監視,評価・予測技術の重要性への認知と関心はかつてなく高まっており,学会には13.3.1で述べたような包括的な視点からの先導者としての役割が期待される.一方で,このような大きな枠組みへの移行は個々の研究者にとっては自分の専門領域を超えた問題への取り組みを意味することになり,課題設定や研究遂行上の悩ましさが大いにあることも事実である.いま一度,評価・診断・メンテナンス分野の学際的本質を鑑みて課題の再定義を行い,多分野連携の場の構築を行いつつ,迅速なアクションに繋げていく必要がある.
〔増田 新 京都工芸繊維大学〕
13.4 ダンピング
本会論文集においてダンピングに関連した論文は17件であった.この中では,動吸振器に関する論文が5件で,多くは動吸振器の応用に関連した研究であった.また,動吸振器の開発事例としては,粘弾性体中に埋め込んだ球状質量による多軸動吸振器に関する検討(1)があった.次に減衰材料の開発や減衰測定手法に関する論文も数件見られ,片状黒鉛鋳鉄の振動減衰能に及ぼすアルミニウム添加と熱処理の影響について検討したもの(2)や金属材料の減衰性能評価のための損失係数測定手法の検討と金属積層材料の熱処理による減衰性能への影響を評価したもの(3)などがあった.他にもダンパ要素の新たな提案としてリレーとキャパシタを用いた減衰力切換型電磁抵抗ダンパの提案(4)や,人間の動作を元にした衝撃緩和機構の提案として運動量交換型・衝撃力非伝達型衝撃緩和機構に関する研究(5)などがあり,ダンピングに関連して多角的な視点から多岐にわたる研究,開発が発表されている.当分野の特集号としてVol. 88,No. 910に17件が掲載され,このうちダンピングに関連したものは3件であった.本部門の研究発表講演会については,2022年9月に開催されたD&D2022(秋田県立大学)で,領域2の耐震・免振・制振・ダンピングにおいて34件の講演申込があり,そのうち13件がダンピングで,例年と同じく活発な議論がされた.減衰要素の性能改善や特性解析に関する研究が多く,粒子群最適化を用いた転動振り子型動吸振器の最適化に関する研究(6)やねじり振動制振用のCPVA形態と数値解析を示した研究(7),動吸振器の多重化による振動遮断領域の拡大法に関する研究(8)などがあった.また,耐震・免震・制振と関連の深い講演は領域内でジョイントセッションとし,減衰のトピックを設け,3件の講演があった.
海外の動向としては,Transactions of ASME,Journal of Vibration and Acousticsにおいて,ダンピングに関連する論文は14件あり,電磁シャントダンパ,慣性ダンパなどの各種ダンパの応用研究に加え,特に動吸振器の応用研究や波動伝播の応用による減衰や除振に関する研究が多くみられた.Journal of Sound and Vibrationにおいては,ダンピングに関連して50件の発表があり,特に慣性ダンパやAcoustic black holeを用いた振動低減に関する論文が多く見られた.また,発電用風車の振動低減(9)やMEMSにおける減衰モデルの確立(10)など,カーボンニュートラル社会に対する貢献やマイクロスケールモデル解析の試みなども見られた.国際会議は,Asia Pacific Vibration Conferenceが2022年11月にオンラインで開催された.ダンピングに関連する発表件数は5件であり,通常の開催に比較して発表件数は大幅に少なかった.
本会の部門研究会として,ダンピング研究会(A-TS10-19)が設置されている.この研究会は,大学および企業の研究者による講演や研究報告を行っており,技術者間の研究交流が図られている.ここ3年は新型コロナウイルスの影響によりオンラインでの開催のみになっているが,今後対面での開催を再開し,研究者間の交流を更に拡大,深化させたい.ダンピング技術は機械工学だけでなく様々な分野で応用が期待される分野であり,今後さらなる発展を遂げることが期待される.特に近年はバイオミメティクス等の生体・医療分野との融合による新たなダンパの開発やカーボンニュートラル社会の実現に向けたエネルギー関連機器への制振技術の展開,さらに機械学習等の情報技術を取り入れた研究など,他分野との融合によるダンピング技術の開発が行われる例が多くなっており,今後もこのような分野間の連携,さらなる発展が期待される.
〔佐々木 卓実 北九州市立大学〕
13.5 ロータダイナミクス
国内では,2022年9月のD&D2022(秋田県立大)においてOS「ロータダイナミクス」を中心に計6件の研究が報告された.日本機械学会論文集には,合計11件の論文が掲載された.12月にはロータダイナミクスセミナー研究会(A-TS 10-04)が現地とオンラインのハイブリッド形式で開催され,計27件の論文抄録を発表し活発な議論が行われた.
海外では,6月にTurbo Expo 2022(アムステルダム)で74件,ASMEジャーナルでは, Journal of Engineering for Gas Turbines and Powerに2022年に掲載された計257件の論文のうち,ロータダイナミクス関連は51件であった.
ロータダイナミクスの論文は,シールや軸受を含めたロータの振動に関連する論文と,フラッタなども含めた翼振動に関連する論文とに大別できる.以下に,関連技術ごとに概要を述べる.
ロータの振動に関しては,振動挙動をより精緻に予測するための手法が提案されている.ロータ構造モデルの精度向上の取組みとして,ロータ異径部(1)やスタックロータ(2) (3)の適切なモデル化手法が提案されている.さらに,ロータの温度分布や熱曲がりを考慮したモートンエフェクト模擬解析(4),ロータや支持特性の非線形性を考慮した解析(5) (6) なども報告された.
軸受に関しては,直接潤滑方式のティルティングパッド軸受にて給油量を低減させた際の損失や油膜特性を論じる研究(7)(8)(9)や,パッドの傷の影響について理論的,実験的に評価する研究(10)が近年,継続的に行われている.ガスフォイル軸受に関しては,周囲圧力がスラスト軸受の耐荷重特性やラジアル軸受の動特性に及ぼす影響について確認した試験結果が報告された(11)(12).
スクイズフィルムダンパに関しては,航空エンジンやターボチャージャ向けダンパの油膜特性を高精度に予測する手法として,気泡混入のモデル化(13)や,熱・流体・構造連成が提案された.特に,ターボチャージャ向けセミフロート軸受の連成解析(14)については,予測が難しい非同期振動挙動をかなり高精度に推定できている.
シール動特性に関しては,これまで検討例が少なかったラジアルタービンの流体励振力を非定常CFD解析により評価した事例が発表され,使用条件次第で有意な不安定化力が発生する可能性が示された(15).また,Oil&Gas分野での二相流条件での使用ニーズを受け,近年は二相流中のシール動特性に関する発表が多い(16).不安定振動対策としての高減衰シールの適用例が増加しており, ポケットダンパシールと他のタイプとの相対比較(17)や実機軸系に高減衰シールを適用した事例(18)(19)など適用時に参考となる発表も見られた.
翼振動に関しては,ミスチューン現象,摩擦ダンパなどの非線形振動,非定常流体力による応答(フラッタを含む)の報告が多い.ミスチューン現象の解析モデルは年々緻密になっており,評価技術として製造誤差の影響を効率的に予測する手法の開発(20)(21),自励振動抑制技術として意図的ミスチューニング(22),ミスチューン設計の確率解析(23)が,摩擦ダンパと組み合わせた翼根接続部のミスチューンを考慮した最適化設計(24),個々の翼の減衰の変動が共振応答に及ぼす影響の調査(25)が報告された.非線形振動の解析では,3D接触モデルに基づく非線形現象の線形化による評価手法の提案(26)がされている.摩擦・減衰・ばらつきの評価として,シュラウド間に摩擦減衰を有する全周リング翼構造を対象に,マクロスリップモデルとマイクロスリップモデルでの減衰特性の比較(27),共振通過時の過渡応答の比較(28)を行った結果が報告されている.これらの論文では,ロータの個体差についても言及されており,減衰特性の予測精度の改善が期待される.試験や計測技術に関するものも多く,フラッタに関連してミッドスパンダンパの非線形挙動の解析(29)と計測(30)が,その他,接触力と強制応答を測定できる実験用試験装置の開発(31),静的荷重を元にした非定常圧力推定の検証試験(32),BTTにおける計測エラー時の冗長性を考慮したセンサ配置の最適化(33),音響加振装置とレーザードップラー振動系を用いた非接触の振動特性計測装置の開発(34)などが報告された.また翼とケーシングの相互作用について,ラビングのハーモニックバランス法ベースの解析手法の評価(35),ラビングを考慮した翼形状の最適化(36),ラビング時の翼端加振力の評価手法(37)が報告されている.
ロータダイナミクスは歴史のある研究分野であるが,近年は振動と熱・流体・潤滑・制御など他要素とを組み合わせた新たな研究が活発に行われている.回転機械開発に必要な実用的な研究が多く,引き続き研究動向に注目していきたい.
〔時政 泰憲 三菱重工業(株)〕
〔川下 倫平 三菱重工業(株)〕
13.6 磁気軸受
電磁力で回転体を非接触支持する磁気軸受は,無摩擦,無摩耗,無潤滑,メンテナンスフリーの特長から,高速回転,高い耐久性,高い真空度や清浄度が求められる回転機械への応用が進められている.磁気軸受の非接触支持機能とモータのトルク発生機能を同一のロータ,ステータコアで実現し,システム全体をコンパクト化するベアリングレスモータやセルフベアリングモータの研究,開発も国内外で活発に進められている.
日本機械学会機械力学・計測制御部門主催2022年5月11~13日開催の第34回「電磁力関連のダイナミクス」シンポジウム(仙台市)(1),2022年9月5~8日開催のDynamics and Design Conference 2022(秋田県立大学)(2)では,磁気軸受,ベアリグレスモータなどを含む磁気浮上の基礎から応用までの研究がそれぞれ21件,6件発表された.
クラリベイト・アナリティクスが提供する学術データベースWeb of Scienceによるmagnetic bearing, bearingless motor, selfbearing motorのトピック検索では,2022年の日本からの原著論文数は61編で,中国506編, 米国215編,ドイツ111編,インド100編,英国67編の次に位置している.20年前の2002年では日本からの発表数は61編と米国,ドイツに次ぐ世界3位で,2022年と同数である. 2002年から2022年の20年間で,中国は21倍,インド7倍,米国1.5倍,ドイツ1.7倍と原著論文数を増やしており,本分野の日本の研究活動の伸びが少ないことが懸念される.
近年の磁気軸受の産業機器への適用事例として,国内メーカから空調機用ターボ圧縮機(3)や下水処理場向け高速単段ターボブロア(4)が製品化されており,ターボ分子ポンプ以外にも磁気軸受の活躍の場は拡大している.また,医療分野では,ベアリングレスモータを搭載することで耐久性・生体適合性を向上した米国製の植込型補助人工心臓(5)が,2021年4月に国内の長期在宅補助人工心臓治療適用となり保険収載されている(6).さらに,磁気軸受を搭載することで耐久性・静粛性を高めた米国製のPC冷却ファン(7)も国内販売されるようになっており,小形磁気軸受の用途の広がりがみられている.
磁気軸受の標準化動向として,防衛大学校 松下 修己 名誉教授がコンビナーとしてまとめたISO 14839-1:2002 Mechanical vibration -Vibration of rotating machinery equipped with active magnetic bearings – Part 1: Vocabulary(8)が2002年に発行された.同規格の最新版は,松下 名誉教授からコンビナーを引き継いだ英バース大学 キーオ教授のもと,回転時に制御不能となったロータを受け止め,静止体との接触を避けるように,回転停止までを補助する磁気軸受のタッチダウンベアリングに関するISO 14839-5:2022 Mechanical vibration -Vibration of rotating machinery equipped with active magnetic bearings -Part 5: Touch-down bearings(9)が2022年8月に発行された.
〔進士 忠彦 東京工業大学〕
13.7 免震・耐震・制震
耐震・免震・制振分野における2022年度の研究動向について紹介する.ここでは,機械力学・計測制御部門の代表的な講演会であるDynamics and Design Conference(D&D)のオーガナイズドセッション(OS)「耐震・免震・制振」および,日本機械学会年次大会等のオーガナイズドセッション(OS)「耐震・免震・制振」における学会発表から研究動向をまとめる.
秋田県立大学本庄キャンパスにおいて2022年9月に開催されたD&D Conferenceでは,ダンピングとのジョイントセッションを含めて,耐震・免震・制振分野で20件の報告があった.本会議では,原子力施設を対象とした地震フラジリティ曲線の評価に関連する研究(1)や,新型炉の一つであるナトリウム冷却高速炉の3次元免震技術に関連する研究(2)等が報告されている.また,弾塑性を考慮した配管系に関する研究(3)(4)等も報告されており,原子力施設の安全性向上,評価手法に関する研究が報告されている.その他,機械学習(AI)に関連する研究(5)(6)や浮体式洋上風車に関連する研究(7)(8)等も報告されており,幅広い研究開発が進められている.また,ダンピングとのジョイントセッションでは,複合材料の制振特性(9)等が報告されており,セッションを越えた横断的な議論が展開されていた.
富山大学五福キャンパスにおいて2022年9月に開催された年次大会では, ポスターセッションによる発表を含めて,耐震・免震・制振分野で20件の報告があった.講演では,配管系における地震応答解析や評価手法に関連する研究(10)(11)が報告されており,制振装置に関連して,動吸振器の準最適設計法の研究(12)や,動吸振器による配管系の地震応答低減に関する研究(13)が報告されている.また,アクティブ制御に基づく慣性ダンパの研究(14)も報告されている.その他,3次元FEMモデルを用いた地震応答評価に関する研究(15)や破損確率評価手法に関する研究(16)等も報告されている.防波堤を利用した振動水柱型波力発電に関する研究(17)等も報告されている.主に学生が発表したポスターセッションでは,低耐震クラス配管の応答評価手法に関する研究(18)や,連結車両に関する研究(19)が発表されている.また,短周期地震計の開発(20)や柔軟鋼板の振動制御メカニズムに関する検討(21)等,多岐に渡った報告がなされ,活発な質疑が展開されていた.
報告内容の動向としては,D&D Conferenceや年次大会ともに,原子力分野を中心に耐震性向上技術,評価手法等の報告が増えている.また,機械学習(AI)に関連する研究報告等を含め,幅広い研究報告がなされている.会議の開催方法においては,これまでのWeb開催から,現地開催に変更されたことにより,より活発な議論も交わされ,有益な意見交換が行われた.当該分野では大きな国際会議の一つである,米国機械学会Pressure Vessels and Piping Conferenceにおいて,これまでにも多くの耐震技術とともに免震・制振技術も報告がなされているが,現地開催の実施で,より多くの免震・耐震・制振技術の報告がなされ,活発な議論が交わされると期待される.
〔岡村 茂樹 日本原子力研究開発機構〕