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機械工学年鑑2023

12. 環境工学

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12.1 騒音・振動評価改善技術分野の動向

総務省公害等調整委員会が2023年12月16日に公表した「令和3年度公害苦情調査」1 では,典型7公害の苦情は51,395件であり,対2020年度比4,728件減少(対2020年度比8.4 % 減)したことが示されている.その中では,「大気汚染」が2,715件減少(同15.9 % 減),「騒音」が1,014件減少(同5.1 % 減)した影響が大きいとされている.

環境省からは,2023年2月24日公表の「令和3年度騒音規制法施行状況調査報告書」2 においても,騒音に係る苦情の件数は,2021年度は19,700件で,2020年度より1,104件と5.3 % 減少していることが示されている.2020年度では,2019年度以前と比べて3割あまり件数が増加したが,2021年度は対前年度比減少に転じた.苦情件数の増加については,新型コロナウイルス感染症の影響から生活様態が変化した影響の可能性が考えられた.2021年度になって苦情件数が減少に転じたのは生活様態の変化に対して社会的順応が進んだ可能性も考えられるが,今後も注視が必要と考える.なお,苦情件数の内訳をみると,建設作業が最も多く7,460件(全体の37.9 %),工場・事業場が5,473 件(同27.8 %),営業が1,456件(同7.4 %)等であった.苦情件数の内訳については,2020年度以前と大きな差異はない.騒音全般に関する苦情件数が減少しているなか,近年注目を集めている低周波音に係る苦情については,347件(2020年度336件)と微増している.

また,「令和3年度騒音規制法施行状況調査報告書」において調査されている「騒音に係る環境基準の適合状況」については,2021年度に環境騒音の測定を実施した全測定地点2,455地点(2020年度2,537地点)のうち,89.6 %(同89.5 %)に当たる1,789地点(同1,886地点)で環境基準に適合しており,2020年度と同様であることが示されている.

続いて,研究動向を紹介する.2022年7月7日,8日の2日間で,第32回環境工学総合シンポジウム2022が,2021年度は新型コロナウイルス感染症対策のため全セッションオンライン方式で開催されたのに対して,現地で開催された.全体の講演論文数は79件で,そのうち騒音・振動評価・改善技術に関するセッションでは27件の講演発表があった.本講演会では,音の受動制御や能動制御,音質評価等,多種多様な研究テーマの発表がなされることが特徴である.今回の講演会では,鉄道車関係の騒音を扱う講演が7件,及び流体騒音を対象とした講演が5件なされた.鉄道騒音,流体騒音ともに,従来から様々な研究がなされてきている分野であるが,依然として多くの未解決の問題があることが本講演会で明らかになるとともに,今後の進展が期待される分野であることが再認識された.一方で,能動的に音場特性を制御することを指向した研究に関する講演が3件あった.旧来の騒音抑制のみでなく,音場特性の調整に音の能動的制御手法が適用されている.

2022年度年次大会においては, 9月13日,14日に「流体関連の騒音と振動」のセッションが開催され,ポスター4件,口頭4件の発表が行われた.ドローンファンの騒音特性や共鳴現象を伴う管路内における流れ場測定に関する講演がなされた.

国際会議の動向については,2022年7月24日~7月28日に第28回International Congress on Sound and Vibration(ICSV28)3 がPhisical Conference(現地開催国シンガポール)として,8月4日,5日でVirtual Conference(オンライン形式)の両方式で開催された. 14分野96セッションが組まれ,現地143件,ビデオ200件の発表がなされた.このうち,構造物の振動と非線形振動に関するセッションで46件(全体の約13 %)の講演があった.その中でも,構造物の動的モデルを構築し,構造物に作用する衝撃荷重を同定する問題について複数の講演があった.次いで,防音・防振材料に関するセッション35件(同約10 %),音振動のアクティブコントロールに関するセッション34件(同約10 %),流体音に関するセッションでの講演が30件(同約9 %)であった.音響メタマテリアルに関する研究が近年国内外を問わず盛んに行われているが,この会議においても活発に議論が行われている.また,ほぼ同様の割合でアクティブコントロールに関する講演がなされており,この分野の研究が盛んに行われていることも明らかとなった.

2022年8月21日~8月24日には,第51回International Congress and Exposition on Noise Control Engineering(INTER-NOISE2022)4 が,ICSV28と同様にハイブリッド方式で開催された.開催地はイギリスグラスゴーであった.本会議は,2021年で50回目を迎えた音響,騒音,振動に特化した国際会議である.6件のキーノートレクチャーに153のセッションが組まれ,738件の講演があった.Noiseをうたっている本会議では,上述のICSVと比較して,道路交通騒音,騒音の健康影響,空港周辺における航空機騒音等,環境騒音に分類される騒音についての講演が多い.また,吸音材や微小多孔板,音響ブラックホールのような騒音抑制用の音響材料,構造に関する講演が多いことも特徴的であった.なおINTER-NOISE2023は,2023年8月20日~23日の日程で千葉市の幕張メッセで開催されることが決まっている.

2022年10月24日~10月28日には,第24回International Congress on Acoustics (ICA 2022)5 がハイブリッド方式で開催された.開催地は韓国慶州市であった.本会議は,3年に一度開催される音響学に関する国際会議である.次回は米国ニューオーリンズで開催されることが決まっている. 4件のキーノートレクチャーに88のセッションが組まれ,749件の講演があった.VODシステムを使ったVirtual presentationの件数が269(約36 %)であった.中でも,VR技術や機械学習と情報科学技術と音響学とが密接に結びついた講演が数多く,この分野の急速な進展が改めて感じ取れる内容であった.

〔森下 達哉 東海大学〕

参考文献

(1) 令和3年度「公害苦情調査」(2023年12月16日公表), 総務省公害等調整委員会, https://www.soumu.go.jp/kouchoi/knowledge/report/main.html (参照日2023年4月17日)

(2) 令和3年度騒音規制法施行状況調査報告書(2023年2月24日), 環境省, https://www.env.go.jp/air/noise/index.html (参照日2023年4月17日)

(3) The 28th International Congress on Sound and Vibration (ICSV 28), (July 24-28, 2022), https://www.iiav.org/icsv28/ (参照日2023年4月17日)

(4) The 51th International Congress and Exposition on Noise Control Engineering (inter-noise 2022), (August 21 – 24, 2022), https://internoise2022.org/ (参照日2023年4月17日)

(5) The 24th International Congress on Acoustics (ICA 2022), (October 24-28, 2022), https://ica2022korea.org/ (参照日2023年4月17日)

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12.2 資源循環・廃棄物処理技術分野の動向

第五次環境基本計画(2018年閣議決定)に沿って,2050年カーボンニュートラルやサーキュラーエコノミーの実現に向かい,あらゆる観点からのイノベーションの創出や,経済・社会的課題の「同時解決」実現と,各地域が自立・分散型の社会を形成する「地域循環共生圏」の推進する活動が継続されている.

また,「第四次循環型社会形成推進基本計画」の点検が行われ,2050 年を見据え,持続可能な社会を実現するため,循環経済アプローチを推進することによる循環型社会の方向性,これに基づきライフサイクル全体での資源循環に基づく脱炭素化の取組を循環経済工程表として取りまとめられた.1

不安定な国際情勢などでベースメタルやレアメタルの供給リスクも顕在化し,それらを国内資源循環させるべく,経済産業省は「成長志向型の資源自律経済」の確立を目指し,「資源自律経済デザイン室」を発足(2022年10月)し,戦略策定に基づく制度整備等を2023年度以降に実施する予定にしている.2

 12.2.1 ごみ処理状況

一般廃棄物の年間処理量(2022年3月末時点)は4,095万トン(前年度4,167万トン[1.7%減]),産業廃棄物処理量(2021年3月末時点)は3億7,382万トン(前年度 3億8,596万トン「3.1%減」)であり,一般廃棄物処理量,産業廃棄物処理量ともに減少した.また,一般廃棄物におけるごみ処理施設数は1,028施設(前年度1,056施設[2.7%減])と減少した一方,地球温暖化対策の一環として導入されている発電設備を有する施設数はごみ焼却施設数全体の38.5%であり,昨年度の36.6%から増加し,それに伴う総発電電力量も増加した.3)(4

12.2.2 プラスチック資源循環

「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」(令和3年6月11日公布)が,令和4年4月1日に施行された.

これは従来型のリサイクル法とは異なり,品目毎の個別最適の制度ではなく,サーキュラー・エコノミー(CE)化を進めるための全体最適化を見据えたルール整備を行った形であるが,従来型の収集ルートを利用して製品プラスチックを一括して回収することでもあり,技術的にはミックスプラスチックからの省人化を踏まえた選別精度の向上,循環資源の品質担保の観点では製造からリサイクルまでのトレーサビリティの確保が必要となる.前者は比重,静電,光学にAIを組みあわせた選別技術で再資源化原料製造から熱回収用原料製造のリサイクルが展開されていることに加えて収集運搬に関してもAIを活用した効率的な収集システムの構築が進んでいる.後者は製品や素材に関わる各分野のデジタルトランスフォーメーションを必要とし,資源循環を可視化するプラットフォームの構築が検討されている.

12.2.3 2050年カーボンニュートラルに向けて

令和3年8月に公表された「廃棄物・資源循環分野における温室ガス排出実質ゼロに向けた中長期シナリオ(案)」5では,廃棄物の発生抑制,マテリアル・ケミカルリサイクルの推進,化石資源をバイオマス由来資源に転換すること,廃棄物の焼却に関しては当面のエネルギー回収の徹底や将来的にCCUS(二酸化炭素回収・有効利用・貯留)の導入とし,具体的な対策を深めることを目指している.

廃プラの取り扱いを巡っては,熱回収を含めた有効利用率は高いが,マテリアル,ケミカルリサイクルとしての比率が低くなっている状況を「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」により,再資源化(マテリアルとケミカルリサイクル)の比率を加速させる必要がある一方で,熱利用のニーズもある.廃プラの熱利用は化石燃料使用削減,GHG削減に有効であることは間違いなく,リサイクル技術の発展,進展も踏まえた未来志向型のバランスの検討も必要である.

また,プラスチック類の分別が進むことによって一般廃棄物可燃ごみにおける厨芥類比率の増加も見込まれ,これらを,食品廃棄物の受け皿として導入が進んでいるメタン発酵バイオガス発電施設へ活用する事例も増加しつつある.

〔鉄山一州 住友重機械工業(株)〕

 

参考文献

(1) 第四次循環型社会形成推進基本計画の第2回点検及び循環経済工程表の策定について, 環境省
https://www.env.go.jp/page_00186.html (参照日:2023年3月31日)

(2) 成長志向型の資源自律経済デザイン研究会, 経済産業省
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/shigen_jiritsu/index.html (参照日:2023年3月31日)

(3) 一般廃棄物の排出及び処理状況等(令和3年度)について, 環境省
https://www.env.go.jp/press/press_01383.html (参照日:2023年3月31日)

(4) 産業廃棄物の排出及び処理状況等(令和2年度実績)について, 環境省
https://www.env.go.jp/press/press_01385.html (参照日:2023年3月31日)

(5) 廃棄物・資源循環分野における温室ガス排出実質ゼロに向けた中長期シナリオ(案), 環境省
http://www.env.go.jp/council/03recycle/post_217.html (参照日:2023年3月31日)

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12.3 大気・水環境保全分野の動向

我が国の大気・水環境保全は,ご承知の通り大気環境および水質の常時モニタリングを行い,大気汚染防止法や水質汚濁防止法に基づく対策を実施することで,環境基準を達成させるスキームとなっている.モニタリングについては国や都道府県において行われており,その結果は毎年公表され,2020年における大気汚染の状況は概ね改善の傾向にあると報告されている(1).一方で,昨年(2022年度)の年鑑で報告したPM2.5や光化学オキシダントについては環境基準の達成率の向上が大きな課題となっており,中でも光化学オキシダントの達成率は0~0.2%と極めて低い.そのため,2022年1月に「気候変動対策・大気環境改善のための光化学オキシダント総合対策について〈光化学オキシダント対策ワーキングプラン〉」が策定されている(2).ワーキングプランでは,現状の課題や今後の取り組み事項,調査・検討スケジュールがまとめられており,今後の対応・対策,そして目標の早期達成が望まれている.一方,2021年度の水質基準についてはほぼ全国的に公共用水環境基準を達成しているとの報告がなされているものの,地下水の一部の項目で基準を超えている(3).また閉鎖性水域(湖沼,内湾,内海)においては達成率が継続して低い状況にある.これら水環境についても個別に継続した対策が取られており,今後目標達成されることが期待される.

さて,2022年度の大気・水環境保全分野における大きなトピックとして福島第一原発のALPS処理水の問題や海洋プラスチック汚染,有機フッ素化合物(PFAS)の問題が挙げられる.ALPS処理水については多くの報道があり,また文字数制限があるため,今回は海洋プラスチック汚染とPFASの問題について記載させていただく.海洋プラスチック汚染については2020年度の年鑑でも記載があるが,2019年のG20大阪サミットにおいて大阪ブルー・オーシャン・ビジョンが共有された.その後の動きとして,2022年3月の国連環境総会(UNEA)で海洋プラスチック汚染対策に関する条約策定に向けたINC(政府間交渉委員会)の設置が決議され,同年11月には第1回目の会合INC1がウルグアイで開催されている.当該委員会においてはプラスチックによる海洋汚染を終わらせる国際条約の採択を目指している.今後も年2回のペースで会合が開催される予定になっており,プラスチックによる海洋汚染が極めて深刻な状況であることが伺える.これは図12-4-1に示すように2050年には海洋へのプラスチック流出累積量が11億トンに達するものと予想されており(4),海洋中の魚の量よりも多くなるとの試算による.海洋プラスチックの流出量は中国が132~353万トン/年と最も多く,インドネシアの48~129万トン/年,フィリピン28~75万トン/年と7位のエジプトまでアジア地域が続き,上位10か国の内9カ国がアジアの国々が占めている.日本は30位で,2~6万トン/年であるものの,少なからずプラスチックを海洋に流出させており,G20大阪サミット開催国として早急に対応する必要がある.その対応策の一つとして2022年4月に「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」が施行されており(5),プラスチック資源循環を促進しようとする動きが活発化している.プラスチック資源循環の基本的な取り組みとしては3R(リデュース,リユース,リサイクル)+ Renewableで,これまでと同様に環境に配慮した製品製品設計,プラスチックごみの回収および適正処理の徹底が求められているが,加えて生分解性プラスチックの導入やマイクロプラスチックのモニタリング等もプラスチック資源循環戦略の中に盛り込まれている.

もう一つのトッピクとしてPFASの問題がある.PFASはペルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物のことで,4,700 種類以上の人工的に合成された有機フッ素化合物群の総称であり,PFAS は耐水性,耐脂性,防汚性などに優れた特性を持つため,1950年代ごろからコーティング剤,界面活性剤,表面処理剤など様々な用途に幅広く使用されてきた.ただ,PFAS は人体への影響が懸念されることに加え,生物蓄積や難分解性であることから,欧米を中心に規制が強化されてきた.日本においてもPFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸),PFOA(ペルフルオロオクタン酸)の製造,輸入が規制されている.ただ,PFOSについては泡消火剤などに広く使用されてきたため,航空基地や工場周辺における水質・土壌汚染が顕在化しており,2021年に発表された沖縄嘉手納飛行場周辺における水質汚染ニュースは記憶に新しい(6).PFOSの人体への影響は明らかなことから規制の対象とはなっていたものの,2022年6月に米環境保護局(EPA)が飲み水の基準を1リットル当たりの基準を見直すことを決め,本年(2023年)3月にPFOAは従来の70 ngから4 ng,PFOSについては2 ngに大幅に引き下げることを発表した(7).それに伴い昨年度(2022年)から我が国においても改めて環境基準値について審議されている(8).現在の我が国の暫定目標値はPFOSとPFASの合算で50 ngであるが,環境省が2021年度に行った河川や地下水1133地点の調査においては,全国13都府県の81地点でこの暫定目標値を超えている(9).米国の大幅な環境基準引き下げを受け,我が国においても2023年年夏までに対策や基準値をまとめる方針としている.少し話題は逸れるが,水からPFASを除去する方法として粉末・粒状活性炭を用いた吸着法や膜ろ過による分離が行われている.吸着法についてはある程度の除去効果が得られることが検証されており,膜ろ過においてはNF膜を用いることで95%以上のPFAS除去率が得られることが報告されている(10)

深刻な地球温暖化の問題から温暖化ガス排出量削減に注目が集まりがちではあるが,PMや光学オキシダント等の大気汚染物質,またプラスチックによる海洋汚染やPFASによる水汚染など人体や生態系に被害・影響を与える環境汚染物質の動向についても引き続き注視しておかなければならない.

図12-4-1 海洋へのプラスチック流出の累積量(4)

〔小林 信介 岐阜大学〕

参考文献

(1) 令和2年度 大気汚染状況について, 環境省報道発表資料, https://www.env.go.jp/air/osen/jokyo_r1_1/post_97.html (参照日2023年4月6日)

(2) 気候変動対策・大気環境改善のための光化学オキシダント総合対策について, 環境省, https://www.env.go.jp/content/900403667.pdf (参照日2023年4月6日)

(3) 令和3年度公共用水域水質測定結果, 環境省https://www.env.go.jp/content/000105994.pdf (参照日2023年4月6日)

(4) 水・大気環境行政の現状と課題, 環境省水・大気環境局, 環境省https://saep1972.web.fc2.com/img/20221214_kankyohozenseminer_no.1.pdf(参照日2023年4月6日)

(5) プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律, 環境省HP, https://plastic-circulation.env.go.jp/about (参照日2023年4月6日)

(6) 令和4年度(夏季)有機フッ素化合物環境中残留実態調査の結果について, 沖縄県HP, https://www.pref.okinawa.lg.jp/site/kankyo/hozen/mizu_tsuchi/water/pfos-pfoa_r4-summer-result.html (参照日2023年4月6日)

(7) Per- and Polyfluoroalkyl Substances (PFAS) Proposed PFAS National Primary Drinking Water Regulation, United States Environmental Protection Agency, https://www.epa.gov/sdwa/and-polyfluoroalkyl-substances-pfas (参照日2023年4月6日)

(8) PFASに対する総合戦略検討専門家会議, 環境省HP, https://www.env.go.jp/water/pfas/pfas.html (参照日2023年4月6日)

(9) 令和3年度公共用水域及び地下水のPFOS及びPFOA調査結果一覧, https://www.env.go.jp/content/000107504.pdf(参照日2023年4月6日)

(10)水道における PFAS の処理技術等に関する海外情報について, 水道ホットニュース, 第826-2号http://www.jwrc-net.or.jp/hotnews/pdf/826-2.pdf(参照日2023年4月6日)

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12.4 環境保全型エネルギー技術分野の動向

2022年はエネルギー需給を取り巻く環境が大きく変化した年であった.パリ協定1の目標達成に向けた気候変動に対する日本の取り組みとして,2021年10月に「第六次エネルギー基本計画2」が閣議決定されたことは記憶に新しい.2050年のカーボンニュートラル達成を推進するためのグリーン成長戦略3なども掲げられている中で,新型コロナウィルス感染拡大予防のための多くの行動制限の緩和によるエネルギー需要量の回復,化石資源開発への投資不足,再生可能エネルギー電源の導入量増加による電力供給構造の変化,未曽有の寒波や熱波による電力需給ひっ迫などにより,歴史的なエネルギー価格の高騰が生じた4.さらに,2022年2月からのロシアのウクライナ侵攻に起因してロシアからの天然ガスの供給量が制限されるようになったことがエネルギー価格高騰に拍車をかけることとなった.このような情況の中で,脱炭素に向けたエネルギー需給構造を変えていくことが求められ,世界的に脱炭素社会への投資とエネルギー価格の高騰の板挟みに置かれたのが2022年の特徴であろう.

このような世界情勢・日本の情勢の中,日本機械学会環境工学部門第4技術委員会では,再生可能エネルギーの開発,エネルギー有効利用のための熱交換器やヒートポンプの技術開発・活用,エネルギーシステムの最適化等の分野に関する研究者が集まり,環境保全型エネルギー技術に関する議論・検討が進められている.日本機械学会環境工学部門が主催する環境工学総合シンポジウムが2022年7月に久しぶりに対面で開催されており,その中の環境保全型エネルギー技術分野の研究発表の概要を紹介することで,当分野の最新の研究動向を整理する.

12.4.1 省エネルギー

省エネルギーのトピックでは,空調,給湯,熱交換器,BEMS,HEMS,システム技術などを対象としており,6件の研究発表があった5.「標準状態における新冷媒の気体定圧比熱の測定」,「モジュール式小型モビリティの開発と応用」,「等温膜を用いたMサイクル蒸発式冷却器の除湿に関する数値解析」,「Experimental and Evaluation of Local Air Temperature and Thermal Performance of a Serpentine Copper Pipe」,「Experimented plant factory’s air conditioning system performance evaluation」,「露点蒸発冷却システムの定常状態分析」と言ったように,主に空調,熱交換器,熱物性などについての発表が行われている.

12.4.2 再生可能エネルギー

再生可能エネルギーのトピックでは,太陽光,太陽熱,風力,バイオマス,地熱の利用などを対象としており,4件の研究発表が行われた6.「再生可能エネルギーとEVバッテリーによる北海道森町マイクログリッドの検討」,「ミャンマーの地域特性を踏まえたマイクロスケール再生可能エネルギーとモビリティソリューションの評価と提案」,「道南洋上風力発電を用いた函館市水素サプライチェーンの計画」,「石狩湾洋上風力によるエネルギーキャリアの生成と道央パイプラインを用いたエネルギー供給」と言ったように,再生可能エネルギー電源の有効利用形態についての発表が多かった点が特徴と言える.

12.4.3 エネルギー有効利用

エネルギー有効利用のトピックでは,コージェネレーションシステム, 排熱利用,熱回収,熱輸送などを対象としており,4件の研究発表があった7.「バイオマス構成高分子の熱分解反応速度解析に基づく半炭化木質バイオマスの発熱量推定」,「R1224yd(Z)を用いたエジェクタ冷凍サイクルのエクセルギーによる性能評価の検討」,「公道走行に対応したマルチベネフィット型モビリティの開発とその評価」,「未利用熱エネルギーを活用する低温駆動・低温発生型吸収冷凍機の研究開発」と言ったように,多様なエネルギーの有効利用に関する研究発表が行われた.

12.4.4 蓄熱・電力貯蔵技術

蓄熱・電力貯蔵技術のトピックでは,主に,氷蓄熱,潜熱蓄熱,水素吸蔵,NaS電池などを取り上げており,3件の研究発表があった8.「純水にカテキンと界面活性剤を混合させた際の氷の付着力に関する検討」,「CO2ガスハイドレート熱サイクルによる電力用バッテリーの開発」,「カチオン領域における両性界面活性剤混合液の濃度が過冷却に及ぼす影響」と言ったように,蓄エネルギーに関しても新たな研究展開が行われていることがわかる.

12.4.5 環境数値シミュレーション

環境数値シミュレーションのトピックでは,冷暖房システムの評価,熱・気流環境,空気質などを取り上げており,4件の研究発表が行われた9.「空調空間の特性の違いが空調システムの制御に与える影響」,「ソース・レセプター関係を用いた空調機群の最適制御手法の逆推定」,「低GWP冷媒充填量予測シミュレーションのためのボイド率相関式の検討に関する研究」,「CFDを用いた室内希薄ガスの濃度制御のための発生器の最適制御方法の逆推定」と言うように,空調システムのサイクル特性評価,室内熱・気流環境の評価などに関する興味深い研究発表が行われている.

〔涌井徹也 大阪公立大学〕

参考文献

(1) 2020年以降の枠組み:パリ協定, (2022), 外務省
https://www.mofa.go.jp/mofaj/ic/ch/page1w_000119.html (参照日2023年4月10日)

(2) エネルギー基本計画について, (2021), 資源エネルギー庁
https://www.enecho.meti.go.jp/category/others/basic_plan/ (参照日2023年4月10日)

(3) 2050年カ/press/2021/06ーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略を策定しました, (2021), 経済産業省
https://www.meti.go.jp/20210618005/20210618005.html (参照日2023年4月10日)

(4) 【エネルギー白書2022】エネルギーを巡る不確実性にはどう対応する?, (2022), エバーグリーン・マーケティング
https://www.egmkt.co.jp/column/corporation/20220902_53.html(参照日2023年4月10日)

(5) 第32回環境工学総合シンポジウム2022 環境保全型エネルギー技術分野 » 省エネルギー, 日本機械学会環境工学部門
https://confit.atlas.jp/guide/event/env22/sessions/classlist/41 (参照日2023年4月10日)

(6) 第32回環境工学総合シンポジウム2022 環境保全型エネルギー技術分野 » 再生可能エネルギー, 日本機械学会環境工学部門
https://confit.atlas.jp/guide/event/env22/sessions/classlist/42 (参照日2023年4月10日)

(7) 第32回環境工学総合シンポジウム2022 環境保全型エネルギー技術分野 »エネルギー有効利用, 日本機械学会環境工学部門
https://confit.atlas.jp/guide/event/env22/sessions/classlist/43 (参照日2023年4月10日)

(8) 第32回環境工学総合シンポジウム2022 環境保全型エネルギー技術分野 »蓄熱・電力貯蔵技術, 日本機械学会環境工学部門
https://confit.atlas.jp/guide/event/env22/sessions/classlist/44 (参照日2023年4月10日)

(9) 第32回環境工学総合シンポジウム2022 環境保全型エネルギー技術分野 »環境数値シミュレーショ, 日本機械学会環境工学部門
https://confit.atlas.jp/guide/event/env22/sessions/classlist/45 (参照日2023年4月10日)

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