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機械工学年鑑2023

10. 動力

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10.1 日本のエネルギー事情

2021年度は,2020年度に新型コロナウイルス感染症の影響により停滞していた経済・社会活動が徐々に戻りつつあったことで,エネルギー消費も反動増加した.一次エネルギー国内供給(消費)は2020年度比+4.1%の18,670PJと,4年ぶりの増加となった(資源エネルギー庁「総合エネルギー統計(確報)」(1)).化石燃料は+2.0%と2013年度以来8年ぶりに増加,特に発電用途の動向の影響が大きく石炭(+8.8%),石油(+2.9%)が増加に転じた一方,天然ガス・都市ガスは-6.4%で東日本大震災の本格的な影響が出る前の2010年度以来となる4,000PJ割れとなった.また,2020年度に8年ぶりに減少していた非化石燃料も+15.7%と増加した.原子力は東日本大震災後10基目となる美浜3号機の再稼働,特定重大事故等対処施設の完成,定期点検日数の少なさなどにより,+85.6%と3年ぶりに増加した.再生可能エネルギー(水力を除く)は,固定価格買取制度の追い風を受けた太陽光発電やバイオマスがけん引して,+11.7%と4年ぶりに2桁増を記録した.水力は,太陽光の余剰電力対策で増えている揚水発電は一次エネルギー国内供給には含まれないことから,実質的にはほぼ2020年度なみの+1.6%であった.非化石燃料が化石燃料の増加率を上回って増えたことから,非化石燃料比率は東日本大震災の後では最大の16.8%となった.

一次エネルギーとして供給されたもののうち,エンドユーザーが実際に消費した分を表す最終エネルギー消費は+1.6%と,こちらも反動増加した.しかし,新型コロナウイルス禍前の2019年度水準までは戻っていない.リーマンショックがあった2008年度を上回る落ち込みを2020年度に記録していた製造業は,生産活動の回復により+4.8%となった.外出自粛・行動制限の一部緩和が進んだことで,サービス業を主体とする業務他部門も増加した(+2.3%).運輸部門も+0.7%と9年ぶりに増加した.うち,貨物は物資の増産により荷動きが戻り始めて+2.9%となった.旅客でも移動需要は総体としては増加に転じた一方で,エネルギー多消費な乗用車の利用が戻らず,エネルギー消費は-1.1%と引き続き減少した.家庭部門は,気温による暖房・給湯需要の増加寄与はあったものの,在宅機会の低下が影響し,-6.5%と2020年度とは打って変わって唯一減少した.

発電電力量は,電力需要の回復を反映して+3.2%と4年ぶりに増加し,新型コロナウイルス禍前の2019年度も上回った.電源構成では,二酸化炭素(CO2)を排出しないゼロエミッション電源では,原子力,太陽光,バイオマスなどが伸び,その比率は27.1%と4分の1を超えた.化石燃料では,石炭が4年ぶり,石油等が9年ぶりに増加した.一方,天然ガスは-8.7%と大きく減少して,比率は東日本大震災の後では最小の34.4%となった.

エネルギー起源のCO2排出は,化石燃料消費が増加したことで8年ぶりに増えた(+2.1%).それでも988Mtと,2020年度に続き1,000Mtを下回った.パリ協定基準年の2013年度と比べると-20.0%であった.

2022年度は,引き続き新型コロナウイルス感染症の影響下にあったものの,経済・社会活動の正常化はさらに進んだ.一方で,世界的に回復するエネルギー需要に,供給が脱炭素機運の高まりによる投資不足で追い付かず,エネルギー価格に上昇圧力が働いた.また,ロシアによるウクライナ侵攻がエネルギー価格をさらに押し上げた.2020年6月に1バレル24.56ドルという低価格を付けていた原油輸入価格は,2年後の2022年6月には4.8倍の$116.92/bblまで高騰した.さらに,秋にかけて急速に進行した円安が国内エネルギー価格の値上がりに拍車をかけた.これを受け,多くの国で講じられたエネルギー消費補助策が日本においても導入された.はじめは代表的な石油製品が,追って電気・ガスが対象となった.

エネルギー価格の高騰に加え,特に年度後半に経済回復が足踏み傾向となったことで,エネルギー消費は下押しされた.日本エネルギー経済研究所によると,2022年4月から2023年2月までの一次エネルギー消費は2021年度同期比-2.8%となった.新エネルギー等のみ増加したが,化石燃料,水力,原子力はいずれも減少した.こうしたことでCO2排出は-1.8%と再び減少に転じた.

〔栁澤 明 (一財)日本エネルギー経済研究所〕

参考文献

(1) 総合エネルギー統計 (2021年度確報), 経済産業省資源エネルギー庁

https://www.enecho.meti.go.jp/statistics/total_energy/ (参照日2023年4月21日)

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10.2 火力発電

10.2.1 日本の火力発電の動向

a.電気事業者の発電設備

2022年12月末現在の電気事業者の発電設備は合計2億6,823万kWで,その内訳は火力1億6,561万kW(構成比61.7%),原子力3,308万kW(12.3%),水力4,961万kW(18.5%)などである(表1).2022年中に完成した主な火力発電設備は5地点となっている(表2).

表1 電気事業者の発電設備(1)(出力単位:MW)

種別 2021年12月末 2022年12月末
出力 構成比 出力 構成比
水力 49,521 18.3% 49,612 18.5%
火力 170,629 63.0% 165,611 61.7%
原子力 33,083 12.2% 33,083 12.3%
新エネルギー等 17,549 6.5% 19,862 7.4%
その他 60 0.0% 60 0.0%
合計 270,841 100.0% 268,228 100.0%

(注)数字は四捨五入であるため合計は必ずしも一致しない

表2 2022年中に完成した主な火力発電設備

発 電 所 名 事 業 者 名 出力(MW) 燃 料 完成年月
神戸3号 コベルコパワー神戸第2 650 石 炭 2022/2
武豊5号 JERAパワー武豊合同会社 1,070 石 炭 2022/8
新居浜北 住友共同電力 150 LNG及び
副生ガス*
2022/11
三隅2号 中国電力 1,000 石 炭 2022/11
上越1号 東北電力 572 LNG* 2022/12

※1:コンバインドサイクル発電

b.自家用発電設備

2022年9月末現在の自家用発電設備は合計2,873万kWで,その内訳は火力2,127万kW(構成比74.0%),水力40万kW(1.4%),新エネルギー等(風力・太陽光など)707万kW(24.6%)などであり,昨年度と比較して火力発電設備が減少,新エネルギー等の発電設備が増加していることが分かる(表3).

表3 自家用発電設備(1)(出力単位:MW)

種別 2021年9月末 2022年9月末
出力 構成比 出力 構成比
水力 396 1.4% 396 1.4%
火力 21,334 74.1% 21,269 74.0%
原子力 0 0.0% 0 0.0%
新エネルギー等 7,062 24.5% 7,067 24.6%
合計 28,792 100.0% 28,733 100.0%

(注)数字は四捨五入であるため合計は必ずしも一致しない

c.計画中の主な火力発電設備

今後計画されている火力発電設備(環境アセスメント手続き実施中・実施済のものなど2022年末時点で公表されているもの)のうち,主なものは10地点,2,131万kWである(表4).そのうち,燃料別出力割合はLNG(Liquefied Natural Gas)が約72%,石炭が約28%となっている.

表4 計画中の主な火力発電設備(2022年末時点)

発 電 所 名 事 業 者 名 出力(MW) 燃 料 完成予定年月
神戸4号 コベルコパワー神戸第二 650×2 石 炭 2023年
西条1号 四国電力 500 石 炭 2023/6
(仮称)姉崎新1~3号機 JERAパワー姉崎合同会社 約650×3 LNG*1 2023年
(仮称)横須賀新1~2号機 JERAパワー横須賀合同会社 650×2 石 炭 2023年,2024年
五井火力発電所(更新) 五井ユナイテッド
ジェネレーション合同会社
780×3 LNG*1 2024/8,2024/11,2025/3
ひびき天然ガス(仮称) 九州電力・西部ガス 620 LNG*1 2025年度
GENESIS 松島 電源開発 500 石 炭 2026年度
知多火力発電所7~8号機 JERA 650×2 LNG*1 2027/8,2027/12
姫路天然ガス 姫路天然ガス発電 622.6×3 LNG*1 2026/1,2026/5,2029/10
石狩湾新港2~3号 北海道電力 569.4×2 LNG*1 2030/12,2035/12

※1:コンバインドサイクル発電

発電設備においては,長期的な電力の安定供給,エネルギーセキュリティの確保,地球温暖化防止など環境負荷低減の観点から,火力,水力,原子力を中心とした電源のベストミックスが進められてきた.このような中,LNGを燃料とする発電設備ではコンバインドサイクル発電(CC)が,石炭を燃料とする発電設備では超々臨界圧汽力発電(USC)の導入が計画されている.

d.火力発電の新技術

LNGを燃料とする発電設備では,コンバインドサイクル発電においてさらなる高効率化が図られ,1,600℃級ガスタービンによる熱効率63%以上(低位発熱量基準)を達成する発電設備が運転を開始した.また,次世代の高効率ガスタービンの実用化を目指し,国家プロジェクトとして1,700℃級ガスタービンの要素技術開発が進められている.

一方,石炭を燃料とする発電設備では,超々臨界圧プラントの蒸気条件を700℃級まで高温化させた先進超々臨界圧プラント(A-USC:Advanced Ultra Super Critical)の実用化要素技術開発が,国家プロジェクトとして進められている.また,石炭ガス化複合発電では,主に海外で運転されている酸素吹き方式よりも送電端効率が高い空気吹き方式の開発が進められており,25万kW級プラントの実証試験が2013年3月に終了(以降商用プラントとして運用を開始)し,さらに54万kW級プラントの営業運転も開始されている.酸素吹き方式においても16.6万kW級プラントの実証試験が2017年3月に開始され,全3段階のうちの第1段階を2019年2月に予定通り完了し,第2段階となるCO2分離・回収型の実証試験を2019年12月に開始している.

さらに近年,脱炭素技術の検討についても進められており,水素混焼技術やアンモニア混焼技術の開発・検証が行われている.特にアンモニア混焼に関しては2023年度に実証試験が計画されている.

〔青木 拓也 (株)JERA〕

参考文献

各種統計情報(電力関連), 経済産業省資源エネルギー庁

https://www.enecho.meti.go.jp/statistics/electric_power/ep002/ (参照日2023年4月4日)

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10.2.2 海外の火力発電の動向

国連エネルギー統計2020によると,2020年末における世界の火力発電設備容量は45.5億kWで前年比1.7%増,同年中の発電電力量は17.1兆kWhで前年比2.5%の減少を記録した.

2021年における米国の石炭火力発電量は8,979億kWh(発電シェア22%)となり,対前年比16%の増加を記録した.また,天然ガス火力発電量は1兆5,794億kWh(同38%)で,対前年比3%の減少となった.米国では近年,天然ガス価格や再生可能エネルギーのコスト低下に伴う石炭火力の相対的な競争力の低下などもあり,国内の石炭火力による年間発電量は2015年以来年々低下を続けていた.しかし,2021年では天然ガス価格の高騰などの影響で相対的に安価となった石炭火力発電量が増大に転じ,逆に天然ガス火力の年間発電量は4年ぶりに減少する結果となった.

もっとも,2021年における石炭火力発電量の増大は一時的な現象と見られている.米国ではかねてより脱炭素を志向する州政府や投資家の意向を受けて,国内の多くの大手電気事業者が独自の排出削減目標を設定し石炭火力の段階的廃止を図りつつある.こうした傾向もあり,米国エネルギー情報局は2021年10月時点で2022年の石炭火力発電量は再び6%程度の減少となる見通しを示している.一方,新型コロナ・パンデミック後の経済活動の回復等の要因により米国の消費電力量は増大しており,これに伴い2022年の天然ガス火力の発電電力量は対前年比5%程度の増大が予測されている.

2021年に発足したバイデン政権は2035年までに電力セクターで,また2050年までに社会全体で温室効果ガス(GHG)排出量を実質ゼロとする目標を掲げている.ただし,火力電源については中長期的にその一定の必要性が認識されており,二酸化炭素回収(利用)貯留(CCS,CCUS)技術の開発に対する融資・支援や税制優遇措置の拡充など,政策的な後押しが図られている.

米国と同様天然ガス価格の高騰などにより,欧州においても至近では石炭火力発電の増加が確認されている.2021年におけるEU27カ国合計の石炭火力発電量は4,190億kWh(発電シェア14%)となり,対前年比19%の増加を記録した.一方,天然ガス火力発電量は5,518億kWh(同19%)で対前年比2%の減少となった.EU域内の石炭火力による年間発電量が上昇に転じたのは2012年以来となる.

さらに2022年にはロシアによるウクライナへの軍事侵攻,ロシアから欧州へのガス供給の削減などにより,欧州は引き続き,天然ガス価格の記録的な高騰に見舞われた.また,同年に欧州を襲った熱波・渇水による水力発電量の低迷や配管点検に伴うフランスの一連の原子炉停止などが,欧州の電力安定供給に対する懸念に追い打ちをかける格好となった.このため欧州では冬期に備えた発電用ガスの貯蔵,電力安定供給の確保などを目的に,廃止または廃止予定,ないし運転停止中の石炭火力を再活用する動きが生じた.2023年1月に環境エネルギー系のシンクタンクEmberが公表したデータによると,2022年のEUにおける石炭火力発電量は引き続き対前年比で7%程度増加したとする見方が示された.

一方,エネルギーの脱ロシア依存を喫緊の課題と捉えるEUは可能な限り速やかな化石燃料依存からの脱却を図る方針を変えていない.EUは2021年,GHGの正味排出量を2030年までに対1990年比で55%削減,2050年までにネット・ゼロとする目標を法制化した.また,エネルギーの脱ロシア依存に向けて2022年に欧州委員会が打ち出した「REPowerEU」政策では,エネルギー調達の多様化に加えて省エネルギーの推進,再生可能エネルギー導入の加速という3つの大きな方針が示された.こうした中,欧州の多くの国ですでに石炭火力の廃止が進められており,中長期的にその方向性が大きく揺らぐことはないと見られる.

〔栗村 卓弥 (一社)海外電力調査会〕

参考文献

(1) 国連エネルギー統計2020, 国際連合

https://unstats.un.org/unsd/energystats/pubs/yearbook/2019/t32.pdf(参照日2023年3月27日)

(2) 電力年報2021, 米国エネルギー省エネルギー情報局

https://www.eia.gov/electricity/annual/(参照日2023年3月30日)

(3) Production of electricity and derived heat by type of fuel, 欧州統計局

https://ec.europa.eu/eurostat/databrowser/view/nrg_bal_peh/default/table?lang=en(参照日2023年4月4日)

(4) European Electricity Review 2023, Ember

https://ember-climate.org/insights/research/european-electricity-review-2023/(参照日 2023年4月4日)

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10.3 原子力発電

10.3.1 日本の原子力発電の動向

a.軽水炉

わが国の原子力発電は2022年12月現在,改良型沸騰水型軽水炉(ABWR)を含む沸騰水型軽水炉(BWR)が17基,加圧水型軽水炉(PWR)が16基の計33基が稼動している.昨年度に引き続きこのうち計10基が営業運転を再開しており,2022年中の新たな営業運転再開は無かった.また3基が建設中であり,6基が計画中である.表10-3-1に,最近5年間の原子力発電所の基数,合計出力及び年平均の設備利用率の推移を示す.2022年は廃止が決定した原子炉は無く,合計出力は2020年から変わらず3308万kWであった.また,年間の平均設備利用率は2021年から減少して18.7%となった.他の原子炉の運転再開についても,各電力会社からの申請に基づき新規制基準に基づく安全性審査が進められている.

b.新型炉

高温ガス炉は,(国研)日本原子力研究開発機構(原子力機構)が,経済産業省資源エネルギー庁の委託事業「超高温を利用した水素大量製造技術実証事業」を受託し,高温工学試験研究炉(HTTR)による水素製造事業を開始した.また原子力機構は,英国国立原子力研究所と参加するチームが英国の新型炉開発プログラムにおける予備調査の実施事業者として採択され,ポーランド国立原子力研究センターとは高温ガス炉基本設計で協力するなど,日本の高温ガス炉の国際展開に向けた協力が着実に進められている.

国際熱核融合実験炉(ITER)計画では,トロイダル磁場コイル等の製作が進み,完成品がITERサイトに輸送されるなど,日本が担当する機器の調達活動などによりITER建設が進展した.また核融合エネルギーの早期実現を目指し, ITER計画の支援と核融合炉の原型炉の研究開発に取り組む活動(幅広いアプローチ(Broader Approach: BA)活動)を日欧共同で実施しており,(国研)量子科学技術研究開発機構では,先進超伝導トカマク装置(JT-60SA)の統合試験運転を進めている.2021年3月に発生した機器の不具合により統合試験を中断していたが,2022年12月に改修が完了し2023年に試験再開を予定している.

表10-3-1 最近5年間の原子力発電の推移

項 目 2018 2019 2020 2021 2022
基 数 BWR 22

PWR 20

BWR 21

PWR 17

BWR 17

PWR 16

BWR 17

PWR 16

BWR 17

PWR 16

合計出力(万kW) 4148 3804 3308 3308 3308
設備利用率(%) 15.0 21.4 15.5 22.1 18.7

BWR : 沸騰水型軽水炉,PWR : 加圧水型軽水炉

〔竹上 弘彰 日本原子力研究開発機構〕

 

2021年10月に閣議決定された「エネルギー基本計画」(1)では,「民間の創意工夫や知恵を活かしながら,国際連携を活用した高速炉開発の着実な推進」を求められており,2022年12月に原子力関係閣僚会議決定された「戦略ロードマップ」(2)に沿って,高速炉実証炉に適用できる技術基盤の整備を進めることとなった.高速炉はエネルギー供給の脱炭素化に貢献できることに加え,資源の有効利用や放射性廃棄物の減容化・有害度低減が可能であり,米国(TerraPower社の”Natrium”炉(3))や仏国(ベンチャー企業HEXANA社(4))で研究開発が進められている.我が国でも,2023年度から実証炉の概念設計を進める計画である.また,文部科学省においても「次世代革新炉の開発に必要な研究開発基盤の整備に関する検討会」が設置され,2023年3月に研究開発・基盤インフラの整備に向けた提言を発表した.(5)

これら政策提言を受けて,原子力機構では高速実験炉「常陽」の早期運転再開に向けた取組,先進的設計評価・支援手法(AI支援型革新炉ライフサイクル最適化手法:ARKADIA)の整備加速,規格基準体系の整備,安全性向上技術開発及び燃料サイクル技術開発などを進めている.特に,「常陽」は高速炉開発のみならず,医療用RI(アクチニウム-225)の製造や諸外国からの高速中性子照射研究ニーズが高く,運転再開に向けた新規制基準対応,人材育成,サプライチェーンの再構築等の課題に取り組んでいる.

高速炉開発の国際動向として重要なポイントは,ロシア,インド,中国の動向(6)である.ロシアは,現在稼働している世界最大の高速炉BN-800(800MWeの実証炉,2015年運転開始)を保有しており,2035年頃には商用炉のBN-1200(1200MWe)の運転開始を目指している.インドでは実験炉「FBTR」が稼働しており,2020年代後半の運転開始を目指して原型炉「PFBR」(500MWe)を建設している.また,中国はロシアから技術導入して高速実験炉「CEFR」を2010年(初臨界)より稼働させており,原型炉「CFR600」の運転開始に向けた準備を進めている.これら世界情勢を俯瞰しつつ,我が国は米国,仏国との研究開発協力を強化し,より安全で安心して利用できる高速炉システムの開発を目指している.

〔平田 勝 (国研)日本原子力研究開発機構〕

参考文献

(1) 第6次エネルギー基本計画 (2021-10閣議決定) 内閣府

https://www.meti.go.jp/press/2021/10/20211022005/20211022005-1.pdf (参照日2023年3月31日)

(2) 戦略ロードマップ(改定案)(2022-12原子力関係閣僚会議決定) 内閣官房

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/genshiryoku_kakuryo_kaigi/dai10/siryou1-2.pdf (参照日2023年3月31日)

(3) 次世代革新炉の開発に必要な研究開発基盤の整備に関する提言 (2023-03) 文部科学省

https://www.mext.go.jp/content/20230328-mxt_genshi-000028687_01.pdf (参照日2023年3月31日)

(4) TerraPower社ホームページ

https://www.terrapower.com/our-work/natriumpower/  (参照日2023年3月31日)

(5) HEXANA社ホームページ

https://www.hexana.fr/ (参照日2023年3月31日)

(6) 例えば, https://www.jaea.go.jp/04/sefard/situation/ (参照日2023年3月31日)

c.核燃料サイクル

日本原燃(株)の六ヶ所再処理工場は,新規制基準への適合性確認に関する事業変更許可を2020年7月に取得し,現在設計及び工事の計画の変更認可申請に対する審査中である.再処理施設の竣工時期は,2022年12月に「2022年度上期」から「2024年度上期のできるだけ早期」に変更された.MOX燃料工場は,新規制基準への適合性確認に関する事業変更許可を2020年12月に取得し,現在設計及び工事の計画の変更認可申請に対する審査中であり,「2024年度上期」の竣工に向けて建設工事を進めている.ウラン濃縮工場は新型遠心機を導入し,2012年3月に生産運転を開始した.また,新規制基準への適合性確認のための事業変更許可を2017年5月,設計及び工事の計画の認可を2022年2月に取得しており生産運転再開に向けた対応を進めている.新型遠心機については順次生産能力を拡大していく予定である.

(国研)日本原子力研究開発機構の東海再処理施設では,2018年6月に廃止措置計画の認可を受け,廃止措置段階に移行した.当面,保有する放射性廃棄物に伴うリスクの低減を最優先課題として高放射性廃液のガラス固化処理に取り組んでいる.2022年7月から10月までのガラス固化処理では,ガラス固化体を25本製造した.現在ガラス固化を最短で進めるため,3号溶融炉への更新を前倒しし2024年度末の熱上げ開始を目指し準備を進めている.また,2020年8月より新規制基準を踏まえた地震,津波対策などの安全対策工事を実施している.

高レベル放射性物質研究施設では,再処理技術開発としてMOX燃料の硝酸溶解挙動に係るデータの取得やMA分離の技術開発等を実施している.

プルトニウム燃料技術開発施設では,MOX燃料に関する研究開発,核燃料施設の廃止措置及びプルトニウム系廃棄物の処理に関する技術開発等を実施するとともに,日本原燃(株)への技術協力を行っている.

〔鈴木 豊 (国研)日本原子力研究開発機構〕

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10.3.2 世界の原子力発電開発の動向

2023年1月1日現在,世界で稼働中の原子力発電炉は合計431基,4億982.1万kWで,運転中の原子炉の基数は前回調査と同じで,合計出力は238.8万kW増加した(出力変更した炉を含む合計値の比較).中国で2基,韓国,パキスタン,アラブ首長国連邦(UAE)で各1基,合計5基,618万kWが営業運転を開始した一方,ベルギー,英国,米国で合計5基,386.7万kWが閉鎖されている.

中国では福清6号機(華龍一号,116.1万kW)が1月に送電開始,3月に営業運転を開始した.華龍一号の営業運転開始は,前年の福清5号機(116.1万kW)の初号機に続き2基目である.さらに紅沿河6号機(ACPR-1000,111.9万kW)が6月に営業運転を開始した.パキスタンでは前年のカラチ2号機に続き,華龍一号設計を採用したカラチ3号機(110万kW)が4月営業運転を開始,UAEでは前年のバラカ1号機に続きバラカ2号機(韓国製APR1400,140万kW)が3月に営業運転を開始した. バラカ3号機は10月に送電開始している.韓国では新ハヌル1号機(APR-1400,140万kW)が6月に送電開始し,12月に営業運転を開始した.

2022年中,10基,995.8万kWの原子力発電所が着工し,世界で建設中の原子力発電所は合計72基,7,477.1万kWとなった.2022年に新たに着工したのは中国,エジプト,ロシア,トルコの4カ国で合計10基となっている.うち,中国ではCAP1000が海陽3号機(125.3万kW),三門3号機(125.1万kW)で着工した.CAP1000は,WE社製「AP1000」をベースとする中国版「AP1000」の標準設計である.華龍一号が陸豊5号機(120万kW),ロシア製VVER-1200が田湾8号機(127.4万kW),徐大堡4号機(127.4万kW)で各1基着工した.エジプトでは,エルダバ1,2号機(VVER-1200,各120万kW)が着工した. エジプトでは初めての原子力発電所の建設である.トルコではアックユ4号機(VVER-1200,120万kW)が着工した.また,ロシアのチュクチ自治管区ナグリョウィニン岬で係留される海上浮揚型原子力発電所(RITM-200C,2基,各5.3万kW)の船体の建設が中国の造船所で始まった.

中国では7基が計画入りした.陸豊3,4号機(CAP1000,125万kW),陸豊6号機(華龍一号,120万kW),廉江1,2号機(CAP1000,125万kW),漳州-Ⅱ-1,2号機(華龍一号,112.6万kW)である.インドでは70万kW級PHWR,10基が計画入りした.カイガ5,6号機,ゴラクプール3,4号機,チャッカ1,2号機,マヒ・バンスワラ1,2,3,4号機である.ポーランドでは5基が計画入りとなった.このうち3基はAP1000(125万kW)である.ロシアではサハ共和国(ヤクーチア)ウスチ・クイガに陸上型SMRの1基(RITM-200N,5.5万kW)とチュクチ自治管区ナグリョウィニン岬の海上浮揚型原子力発電所(SMRのRITM-200C,5.3万kW×6基)が計画入りした.カナダではSMRがダーリントン新・原子力プロジェクト(BWRX-300,30万kW)として計画入りした.なお,フィンランドのハンヒキビ1号機(VVER-1200,120万kW)が計画外となった.計画中は前年比16基増の86基となった.

〔桜井 久子 (一社)日本原子力産業協会〕

参考文献

(1)  一般社団法人日本原子力産業協会, 世界の原子力発電開発の動向2023年版

世界の原子力発電開発の動向2023年版(2023.4)

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10.4 新エネルギー技術

10.4.1 燃料電池

(一財)コージェネレーション・エネルギー高度利用センター(コージェネ財団)によると,家庭用燃料電池(エネファーム)の2022年度の販売台数は4.7万台(3四半期台数から推算)であり,2019度の4.1万台,2020年度の4.8万台,2021年度の4.0万台と4万台レベルで横ばい傾向となった.固体酸化物形では,マイクロガスタービンと組み合わせた加圧ハイブリッド型250kW級システムが2017年度に市場投入され,1MW級システムの実証試験が進められている.りん酸形も百kW級定置用システムが内外で着実に導入された.燃料電池自動車に関しては,2015年にトヨタMIRAIの販売が,2016年にホンダCLARITYのリースが開始され,2020年には新型MIRAIが販売された.燃料電池自動車の普及目標として2020年までに4万台程度,2025年までに20万台程度,2030年までに80万台程度の普及が掲げられている.また,水素ステーションに関しては,トヨタやENEOSなど11社が日本水素ステーションネットワークを2018年2月に設立し,水素ステーション普及を推進している.水素ステーションの普及目標は2020年度までに160カ所程度,2027年度までに500カ所程度であり,2022年度末の設置数は163カ所である.

〔麦倉良啓 (一財)電力中央研究所〕

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10.4.2 太陽電池

(一社)太陽光発電協会(JPEA)によると(1),2021年度の日本における太陽電池モジュールの総出荷量は約5,134MW(2020年度比97%)であった.総出荷量は2014年(9,872MW)をピークに以降は減少傾向にあり,2017年度(5,670MW)を底に2018年(5,914MW),2019年(6,430MW)といったんの増加傾向が見られたが,2021年度は2020年度に続き前年比で減少となった.総出荷量のうち,太陽電池モジュールの国内向け出荷量は5,099MW(2020年度比99%)で総出荷量の99%と,ほとんどが国内出荷となった.用途別では住宅用が1,002MW(2020年度比115%)と増加しており,非住宅用が4,094MW(2020年度比96%)と減少であり,住宅用へのシフトが見られる.非住宅では固定価格買取制度において50kW以上で入札制度対象外の20年間の調達価格は2021年度11円/kWh,2022年度10円/kWhと引き下げが続いているが,主に住宅用となる10kW未満の10年間の買取り価格は,2021年度19円/kWh,2022年度17円/kWhと,相対的に高い価格となっている.

技術動向としては「2050年カーボンニュートラル」に向けた技術開発となる「グリーンイノベーション基金」がNEDOに創設され,太陽電池分野ではペロブスカイト太陽電池を中心に技術開発が活発化している(2).一方,国際エネルギー機関が2022年7月に発行した太陽電池のサプライチェーンに関するレポート(3)では,現在の主流である結晶シリコン系の太陽電池の生産,特にポリシリコンからモジュール生産の中国への集中度の高さが指摘されており,エネルギー安全保障の観点からもサプライチェーンの脆弱性が懸念されている.

〔植田 譲 東京理科大学〕

参考文献

(1)太陽電池の出荷統計, 一般社団法人太陽光発電協会(JPEA)

https://www.jpea.gr.jp/wp-content/uploads/2021Q4_news_pv_shipment_in_japan2.pdf (参照日2023年4月17日)

(2)グリーンイノベーション基金事業, 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)

https://www.nedo.go.jp/activities/green-innovation.html(参照日2023年4月17日)

(3)Solar PV Global Supply Chains(IEA)

https://www.iea.org/reports/solar-pv-global-supply-chains

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10.4.3 バイオマス・廃棄物発電

環境省環境再生・資源循環局廃棄物適正処理推進課資料「一般廃棄物処理事業実態調査の結果(令和3年度)について」(1)によると2021年度の国内ごみ排出量は4,095万t(2020年度4,167万tに対して1.7%減)で,2012年度以降減少傾向が続いている.直接焼却量は3,149万t(直接焼却率は79.9%)で,2011年度以降微減傾向である.ごみ焼却施設数は1,028施設で,このうち発電設備を有する施設数は396で,全ごみ焼却施設の38.5%を占め,発電能力合計は2,149MW,平均発電効率は14.22%で,高効率化傾向が続いている.特に最近は,処理量100t/日/炉以下の比較的小規模な施設でも高温高圧ボイラを採用した高効率発電(蒸気条件:4MPa×400℃~6MPa×450℃級)が導入されてきているとともに,2021年4月22日の第45回地球温暖化対策推進本部での野心的な削減目標に端を発し,CCUS(二酸化炭素回収・有効利用・貯留)を前提とした廃棄物処理システム・施設のあり方の検討が始まり(2),2023年1月開催の全国都市清掃会議研究・事例発表会では,具体的な実証への取り組み例が紹介された(3),(4)

2011年7月に施行された「再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT:Feed in Tariff)」は,2017年4月に改正されたが,この制度によりバイオマス発電の導入が行われており,2022年9月末の時点で認定量は829.6万kWとなっている(5).2020年6月に導入が決まった「FIP制度(Feed in Premium)」が2022年4月からスタートし,FIT制度のように固定価格で買い取るのではなく,再エネ発電事業者が卸市場などで売電したとき,その売電価格に対して一定のプレミアム(補助額)を上乗せすることで再エネ導入を促進するような取り組みも始まっている(6).2021-2022年にかけて稼働した主な木質バイオマス発電所等の特長としては,未利用材を使う2,000kW未満の小規模設備と2万kW以上の大規模設備にほぼ二分された(7)

〔田熊昌夫 重環オペレーション株式会社〕

参考文献

(1) 環境省環境再生・資源循環局廃棄物適正処理推進課資料 一般廃棄物の排出及び処理状況等(令和3年度)についてhttps://www.env.go.jp/press/press_01383.html(参照日2023年4月5日)

(2) 中央環境審議会循環型社会部会(第38回)資料 廃棄物・資源循環分野における2050年温室効果ガス排出実質ゼロに向けた中長期シナリオ(案)https://www.env.go.jp/council/03recycle/post_217.html(参照日2023年4月5日)

(3) 土方・田中 焼却工場を軸とした脱炭素化に関する横浜市の取組み 第44回全国都市清掃会議研究・事例発表会講演論文集 PP.4-6(2023)

(4) 荻原ら 廃棄物焼却施設クリーンプラザふじみにおけるCO2分離回収実証試験 第44回全国都市清掃会議研究・事例発表会講演論文集 PP.255-257(2023)

(5) 固定価格買取制度 情報公表用ウェブサイト
https://www.fit-portal.go.jp/PublicInfoSummary(参照日2023年4月5日)

(6)  経済産業省資源エネルギー庁記事 再エネを日本の主力エネルギーに!「FIP制度」が2022年4月スタート
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/fip.html (参照日2023年4月5日)

(7) バイオマス白書2022
https://www.npobin.net/hakusho/2022/topix_01.html (参照日2023年4月5日)

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10.4.4 水素利用技術

世界情勢の急激な変化の中,エネルギー安全保障と気候変動対策の両面から水素利活用の重要性が高まっている.日本政府は2021年10月に「第6次エネルギー基本計画」を閣議決定し,その中で,「水素は,電化が難しい熱利用の脱炭素化,電源のゼロエミッション化,運輸,産業部門の脱炭素化,合成燃料や合成メタンの製造,再生可能エネルギーの効率的な活用など多様な貢献が期待できるため,その役割は今後一層期待される」と水素の役割を示すとともに,2030年度の一次エネルギー供給および電源構成において「水素・アンモニア」の割合を1%程度とする需給見通しを示している(1-3)

国内の燃料電池自動車の保有台数は2022年3月末現在で6,981台(4),運用中の水素ステーションは2023年5月現在で168箇所となった(5).乗用車に加え,大型トラックや鉄道,船舶,建設機械,農業用機械,産業用機械などの大型・商用モビリティ(HDV)での水素利用の検討が進められており,NEDOは,2022年3月に「HDV用燃料電池技術開発ロードマップ」を,2023年3月に「FCV・HDV用燃料電池技術開発ロードマップ」を発表した(6)

大規模な水素利用技術として,水素運搬船を含む水素輸送設備の大型化や水素発電(混焼,専焼)の実機実証(7),製鉄プロセスにおける水素利用(8),水素燃料船の開発(9),水素航空機に向けた技術開発(10),再エネ由来電力を活用した水電解による水素製造技術開発(11),水素とCO2からの合成燃料の開発(12)等が,2050年カーボンニュートラルに向けたグリーンイノベーション基金事業として進められている.

これらの個別の用途での水素利用技術の開発に加え,コンビナートや港湾などの特定地域において大規模に水素を利用する統合的な水素利活用モデルの検討が国内外で進められており,国内においても国交省によるカーボンニュートラルポート形成に向けた取り組み(13)等が進められている.

〔飯田 重樹 (一財)エネルギー総合工学研究所〕

参考文献

(1) エネルギー基本計画, 2021年10月
https://www.meti.go.jp/press/2021/10/20211022005/20211022005-1.pdf (参照日2023年5月20日)

(2) エネルギー基本計画の概要, 資源エネルギー庁, 2021年10月
https://www.meti.go.jp/press/2021/10/20211022005/20211022005-2.pdf (参照日2023年5月20日)

(3) 2030年におけるエネルギー需給の見通し(関連資料), 資源エネルギー庁, 2021年10月
https://www.meti.go.jp/press/2021/10/20211022005/20211022005-3.pdf(参照日2023年5月20日)

(4) EV等 保有台数統計, 一般社団法人次世代自動車振興センター
http://www.cev-pc.or.jp/tokei/hanbai.html (参照日2023年5月20日)

(5) 水素ステーション整備状況, 一般社団法人次世代自動車振興センター
http://www.cev-pc.or.jp/suiso_station/index.html (参照日2023年5月20日)

(6) NEDO燃料電池・水素技術開発ロードマップ, 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)
https://www.nedo.go.jp/library/battery_hydrogen.html(参照日2023年5月20日)

(7) 大規模水素サプライチェーンの構築, 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)
https://green-innovation.nedo.go.jp/project/hydrogen-supply-chain/(参照日2023年5月20日)

(8) 製鉄プロセスにおける水素活用, 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)
https://green-innovation.nedo.go.jp/project/utilization-hydrogen-steelmaking/(参照日2023年5月20日)

(9) 次世代船舶の開発, 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)
https://green-innovation.nedo.go.jp/project/development-next-generation-vessels/(参照日2023年5月20日)

(10) 次世代航空機の開発, 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)
https://green-innovation.nedo.go.jp/project/development-next-generation-aircraft/ (参照日2023年5月20日)

(11) 再エネ等由来の電力を活用した水電解による水素製造, 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)
https://green-innovation.nedo.go.jp/project/hydrogen-production-water-electrolysis-utilizing-electric-power-derived/(参照日2023年5月20日)

(12) CO2等を用いた燃料製造技術開発, 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)
https://green-innovation.nedo.go.jp/project/development-fuel-manufacturing-technology-co2/(参照日2023年5月20日)

(13) カーボンニュートラルポート(CNP), 国土交通省
https://www.mlit.go.jp/kowan/kowan_tk4_000054.html(参照日2023年5月20日)

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10.4.5 風力発電

世界全体の風力発電の累積導入量は2022年末で9億600万kW(前年から9%増)となり,2023年末には累計1TW(=10億kW)を越えそうな勢いである.これは日本の原子力・火力を含む発電設備の合計3億kWの約3倍である.市場規模は世界風力会議(GWEC: Global Wind Energy Council)によると約1,130億ドル(約16兆円)である. 年間電力供給に占める風力発電の比率は,世界は10%,欧州では約15%となっている.新規導入は7,759万kW/年(前年から17%減)である(表1,図1)(1)(2)(3).洋上風力発電は,2022年末累計は6,4320 万kW(前年から16%増),新規導入は877万kW/年である(表2). 風力全体に占める比率は,累計で7%(2020年は5%),新規で11%(同7%)と徐々に増えている.2021年に中国で洋上風力発電の買取価格優遇が終了する駆込需要があったことから,洋上風力の新規導入は2020年 685万kW/年→2021年 2,111万kW/年(前年から3倍増)→2022年 877万kW/年(前年から64%減) と推移した.浮体式洋上風力発電も実証段階から準商用段階に進みつつある.

 

表1 世界の風力発電の導入状況(陸上と洋上の合計)(1)(2)(3)

2021年 2022年
年末累計 新規導入 年末累計 新規導入 年成長率
世 界 829 GW 93.6 GW 906 GW 77.6 GW  9 %
EU(含む英国) 237 GW 17.4 GW 255 GW 19.1 GW  8 %
中 国 328 GW ① 47.6 GW ① 365 GW ① 37.6 GW ① 11 %
米 国 136 GW ② 12.7 GW ② 144 GW ②  8.6 GW ②  8 %
ドイツ 64.5 GW ③   1.9 GW ⑥ 67.0 GW ③  2.7 GW ④  6 %
インド 40.1 GW ④   1.5 GW ⑦ 41.9 GW ④  1.8 GW ⑧  4 %
スペイン 28.1 GW ⑤  0.8 GW 29.8 GW ⑤  1.7 GW ➉  5 %
英 国 26.8 GW ⑥   2.6 GW ④ 28.5 GW ⑥  1.7 GW ⑨  6 %
ブラジル 21.6 GW ⑦   3.8 GW ③ 25.6 GW ⑦  4.1 GW ③ 19 %
フランス 19.6 GW ⑧   1.2 GW ⑨ 21.1 GW ⑧  2.1 GW ⑦ 11 %
カナダ 14.3 GW ⑨  0.7 GW 15.3 GW ⑨ 1.0 GW  7 %
スウェーデン 12.1 GW ➉   2.1 GW ⑤ 14.6 GW ➉  2.4 GW ⑤ 20 %
日 本  4.6 GW  0.2 GW 4.8 GW  0.2 GW  5 %

注:○は世界順位(10位以内)を示す.  出典:GWEC Global Wind Report 2023他

単位は1GW=千MW=百万kW

 

表2 世界の洋上風力発電の導入状況(1)(2))3)

2021年 2022年
年末累計 新規導入 年末累計 新規導入 年成長率
世 界 55.5 GW 21.1 GW 64.3 GW 8.8 GW  7 %
EU(含む英国) 27.8 GW 3.3 GW 30.3 GW 2.5 GW 16 %
中 国 26.4 GW ① 16.9 GW ① 31.4 GW ① 5.1 GW ①  7 %
英 国 12.7 GW ②  2.3 GW ② 13.9 GW ② 1.2 GW ②  8 %
ドイツ  7.7 GW ③  0.0 GW  8.1 GW ③ 0.3 GW ⑥ 27 %
オランダ  2.5 GW ④  0.4 GW ⑤  2.8 GW ④ 0.4 GW ⑤  4 %
デンマーク  2.3 GW ⑤  0.6 GW ④  2.3 GW ⑤ 0.0 GW 22 %
ベルギー  2.3 GW ⑥  0.0 GW  2.3 GW ⑥ 0.0 GW 27 %
台 湾 0.2 GW  0.1 GW ⑥ 1.4 GW 1.2 GW ③ 6倍
ベトナム 0.9 GW  0.7 GW ③ 0.9 GW 0.0 GW  5 %
韓 国 0.1 GW  0.0 GW 0.1 GW 0.0 GW 20 %
日 本 0.1 GW  0.0 GW 0.1 GW 0.1 GW  1 %

図1 世界と日本の風力発電の新規導入量(単位はGW/年)(1)(3)(4)

 

日本の風力発電の累積導入量は,2022年末で480万kW(2021年末の458万kWから5%増),新規導入は22.8kW/年(2021年 14.3万kWの1.6倍)に増えているが(3)(4),まだ世界全体の約1/200に過ぎない.年間電力供給に占める比率も1%と小さい.一方で日本政府は洋上風力発電を今後の主力電源と位置づけ,経済産業省と国土交通省の大臣と国内関連企業が集う洋上風力発電推進のための官民協議会を開催して,2030年までに1,000万kW(認定ベース),2040年までに3,000万~4,500万kWという導入目標(洋上風力産業ビジョン(5))を発表した. 2023年夏には第3回が開かれ,浮体式洋上風力発電の導入目標や排他的経済水域(EEZ)での開発を認可する法整備などが議論される見込みである. 一般海域での洋上風力入札が始まり,Round1の5サイト・合計約170万kWは2021年12月に落札者が決定,現在はRound2の3サイト・合計約180万kWが入札中であり,今後も年に2~3サイト・100~200万kWの入札を続けて,2030年までに570万kWが運転を開始できる見込みである. 港湾海域では2022・23年に秋田港・能代港洋上風力発電所(4,200kW×33基=54,600kW,図2)が運転を開始した. 2023年夏には富山県入善洋上風力発電所(3,000kW×3基,7,500kW),冬には北海道の石狩新港洋上風力発電所(8,000kW×11基,約10万kW)が建設される. 日本風力発電協会(JWPA)は,2050年に1億4千万kW(陸上 4千万kW+着床式洋上 4千万kW+浮体式洋上 6千万kW)の風力発電を導入して,日本の電力需要の1/3を供給する目標「JWPA Wind Vision 2023」(6)を提言している.

図2 秋田港洋上風力発電所と建設用船舶(Jack Up Vessel)(撮影:JWPA)

 

風力発電の発電コストは,条件の良い立地では既に火力発電並み(10円/kW未満)になっている.ここ数年の欧州の洋上風力入札でも補助金なしの落札が相次いでおり,日本も2021年12月のRound1入札の秋田県由利本荘市沖(82万kW)は11.99円/kWで落札された. このコストダウンは規模の経済(発電所と風車の大形化)によるものである. 新規に設置される風車の平均サイズは,2022年には陸上主体の日本でも3,300kW,欧州の洋上風車では2021年に8,600kWにまで大形化が進んでいる(図3)(2).特に輸送制約の無い洋上風車は2015年の4,300kWから6年間で2倍になった.洋上風車はこれまでは欧米3社(SiemensGamesa, Vestas, GE)の独壇場だったが,最近は中国風車メーカも参入している(表3).単機出力約2万kW・ロータ径300mに向かって大形化競争が続きそうである.

産業面では中国の成長が目覚ましい.中国政府は20年以上前から強力に国産化を推進し,今では陸上・洋上共に世界の風車の約半分が中国で製造・建設され(図4,図5)(1),一部は輸出されている.イタリアのBeleolico洋上風力発電所(2022年,3,000kW×10基)と富山県入善洋上風力発電所(2023年,3,000kW×3基)にMingyang製風車が建設され,欧米洋上風力市場への進出も始まっている.

図3 世界と日本の新設風車の平均サイズの推移(単位はMW)(2)(4)

 

表3 最近開発された定格出力10MW以上の洋上風車(JWPA調べ)

メーカ名(国名) 機種名 定格出力 ロータ直径 2022年末の状況
SiemensGamesa

SGRE(ドイツ)

SG11.0-200 DD 10 MW 200m 商用運転中
SG14.0-236 DD 14 MW 236m 初号機運転中
Vestas

(デンマーク)

V164 10.0 10 MW 164m 商用運転中
V236 15.0 15 MW 236m 初号機運転中
GE Renewable Energy(米国) Haliade X 10-14 MW 220m 商用運転中
17-18 MW 開発を発表
Goldwind(中国) CWH 252-16.0 16 MW 252m 初号機建設中
CSSC(中国) CSSC H18.0-256 18 MW 256m 開発中
Mingyang(中国) MySE 18.x-28x 18 MW 280m 初号機建設中

図4 世界の風力発電の2022年新規導入量の国別シェア(左が陸上,右が洋上風力.出典:GWEC)(1)

図5 世界の風車の製造能力の国別シェア(出典:GWEC)(1)

 

浮体式洋上風力発電は,2022年末では世界6か国の9サイトで127.3MW・20基とまだ実績は少ない.2009年ノルウェーの2,300kW風車+スパー型浮体を嚆矢に,今では単機による実証段階(図6)から,複数基による準商用段階(図7)に進んでいる.英国ケルト海,スペインのカナリア諸島沖,米国西海岸,韓国東岸,他で既に百万kW級の浮体式洋上風力入札が実施されており,2025年頃から順次商用運転を開始する見込みである.

図6 ノルウェーのMET Centreの浮体式洋上風力試験機      図7 英国のKincardine洋上風力発電所

(左が2,300kW+スパー型浮体,右が3,600kW+TetraSpar浮体)((9,500kW+セミサブ型浮体)×5基,2021年運開)

撮影:JWPA

〔上田 悦紀 (一社)日本風力発電協会〕

参考文献

(1) Global Wind Report 2023,GWEC
https://gwec.net/globalwindreport2023/(参照日2023年3月27日)

(2) Offshore wind in Europe – key trends and statistics 2021,WindEurope
https://windeurope.org/intelligence-platform/product/offshore-wind-in-europe-key-trends-and-statistics-2021/(参照日2022年3月)

(3) 2022年末日本の風力発電の累積導入量:480.2万kW,2,622基 (2023/1/26更新),日本風力発電協会(JWPA)
https://jwpa.jp/information/6788/(参照日2023年1月18日)

(4) 2021年末日本の風力発電の累積導入量:458.1万kW,2,574基,日本風力発電協会(JWPA)
https://jwpa.jp/information/6225/(参照日2022年2月25日)

(5) 洋上風力産業ビジョン(第1次)(案),経産省&国交省
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/yojo_furyoku/pdf/002_02_02.pdf(参照日2020年12月15日)

(6) 「JWPA Wind Vision 2023」策定 ~安心・安定・持続可能な社会の実現に向けた風力発電の貢献~,日本風力発電協会(JWPA)
https://jwpa.jp/information/7513/(参照日2023年5月29日)

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10.4.6 地熱発電

2050年のカーボンニュートラル実現に向けて再生可能エネルギー発電への期待が高まるなか,世界第3位の地熱資源ポテンシャルを有する我が国では地熱発電に大きな期待がかかっている.また地熱発電は気象状況や季節変動,時間帯等の影響を受けることがなく安定的に発電を行うことが可能なベースロード電源を担うエネルギー源である(1)

近年の地熱開発では2019年5月に大規模開発としては23年ぶりの山葵沢地熱発電所(秋田県,出力46,199kW)が運転を開始した他,松尾八幡平地熱発電所(岩手県,出力7,499kW)やバイナリー発電では,滝上バイナリー発電所(大分県,出力5,050kW)及び山川バイナリー発電所(鹿児島県,出力4,990kW)が運転を開始している.さらに安比地熱発電所(岩手県),かたつむり山発電所(秋田県),木地山地熱発電所(仮称)(秋田県)等で大規模の新規地熱開発が進捗している.

一方,「エネルギー需給の見通し」(2)では導入目標1.5GW(現状の2倍以上)を目指しており,さらなる導入拡大が期待されている.また,「グリーン成長戦略」(3)における長期の取り組みとして超臨界地熱発電が選定されている.なお,地熱開発における法規制等の運用見直し(4)(5)の動きも進んでいる.

このような背景において,(国研)新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)では,「地熱発電導入拡大研究開発」(6) プロジェクトを実施し,従来の地熱発電よりも大規模な出力が期待できる超臨界地熱発電の実現に向けた有望地域の地熱資源量評価と探査技術の開発を進めている.また,環境アセスメントの改善を実現するための環境保全対策技術開発,IoT-AI技術等を活用した地熱発電所の生産量の増大やコスト削減及び利用率向上につながる地熱発電高度利用化技術開発を進めている.

 

図1.超臨界地熱系(概念図)7

〔本田 洋仁 (国研)新エネルギー・産業技術総合開発機構〕

参考文献

(1)第6次エネルギー基本計画, 経済産業省(参照日2023年4月10日)

https://www.enecho.meti.go.jp/category/others/basic_plan/pdf/20211022_01.pdf

(2)2030年度におけるエネルギー需給の見通し, 経済産業省(参照日2023年4月10日)

https://www.enecho.meti.go.jp/category/others/basic_plan/pdf/20211022_03.pdf

(3)2050 年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略, 経済産業省(参照日2023年4月10日)

https://www.meti.go.jp/press/2021/06/20210618005/20210618005-3.pdf

(4)再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース, 内閣府(参照日2023年4月10日)

https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/conference/energy/e_index.html

(5)環境省による地熱開発加速化プラン, 環境省(参照日2023年4月10日)

https://www.env.go.jp/nature/onsen/council/kyoseichinetsurikatsuyo/02kyoseirikatsuyo/sanko7.pdf

(6)地熱発電の導入拡大に向けた研究開発, NEDO(参照日2023年4月10日)

https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_101460.html

(7)超臨界地熱発電技術研究開発(事業・プロジェクト概要), NEDO(参照日2023年4月10日)

https://www.nedo.go.jp/activities/ZZJP_100145.html

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10.4.7 電力貯蔵

FITによる買取期間の満了やFIT価格の下落等による太陽光発電電力の自家消費や災害時の非常用電源としての用途等により,業務用・家庭用を中心に,リチウムイオン電池(LIB)を用いた定置用蓄電システムの需要が拡大している.(一社)日本電機工業会(JEMA)の自主統計によると(1),定置用LIB蓄電システムの2022年度上期の出荷台数は6.8万台を超え,2021年度下期比で102%である.また,出荷容量は510MWhを超え,2021年度下期比で103%であり,2022年度の年間出荷容量は1,000MWh(1GWh)を超えることが予想される(図10-4-7-1).

このように蓄電池市場が拡大する中,LIBでは中国や韓国のメーカーがシェアを拡大する一方,日本メーカーのシェアは低下している.また主要国では,蓄電池に対して政府が大規模な政策支援を実施しており,加えて欧米では規制措置や税制措置により蓄電池サプライチェーンの域内構築を進めている.これらの背景から経済産業省は,①液系LIBの製造基盤の確立,②グローバルプレゼンスの確保,③次世代電池市場の獲得,を柱とした「蓄電池産業戦略」を策定した(2).この中で各柱の目標として,①2030年までに蓄電池・材料の国内製造基盤150GWh/年の確立,②2030年に日本企業全体でグローバル市場において600GWh/年の製造能力確保,③2030年頃に全固体電池の本格実用化,が挙げられている.

一方で,次世代電池の一つである全固体電池の技術開発も引き続き進められている.日立造船(株)では,正極活物質にリチウム(Li)含有遷移金属酸化物,負極活物質に炭素材料,電解質に硫化物系固体電解質を用いた全固体Liイオン電池(AS-LiB®)を開発している(3).この電池は-40℃~120℃という広い温度範囲での駆動が可能であり,2022年3月には国際宇宙ステーションの「きぼう」日本実験棟において,世界で初めて宇宙空間で充放電できたことが確認された(4).このように,使用環境を問わない様々な用途への適用が期待されるため早期の大容量化が望まれる.

 

図10-4-6-1 定置用LIB蓄電システムの出荷実績(容量)(1)

〔紀平 庸男 (一財)電力中央研究所〕

参考文献

(1) JEMA蓄電システム自主統計 2022年度上期出荷実績(2022年12月15日), 一般社団法人日本電機工業会

(2) 「蓄電池産業戦略」(2022年8月31日), 経済産業省 蓄電池産業戦略検討官民協議会

(3) 西浦崇介, 髙野靖, 岡本健児, 岡本英丈, 砂山和之, 「全固体リチウムイオン電池(AS-LiB®)の開発」, Hitz技報, Vol.79, No.1 (2018.11), pp.54–58.

(4) 「JAXAと日立造船との共同研究 世界初, での全固体リチウムイオン電池の充放電機能を確認」(2022年8月5日), 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構・日立造船株式会社

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