8. 熱工学
8.1 伝熱及び熱力学
8.1.1 概説
2022年度は電気料金の高騰に翻弄された一年であった.例えば,2021年1月に比べて2022年9月の電気料金は電力事業社による標準家庭のモデル料金で15%から50%(1),総務省統計局小売物価統計では25%(2)も高くなった.ヨーロッパでも類似の状況であった(3).大学では実験室の電気代を,企業では事業所の電気代を心配した.電気代高騰の原因は,ポストコロナ,すなわち経済活動の再開にともなうエネルギーの需要と供給のバランスが変化し,更に異常気象などが重なって燃料価格が高騰したためであると考えられる.短期的な対策として,政府によるエネルギー価格の負担軽減策,原子力発電の再稼働が進められている.長期的な対策としては脱炭素化が,高騰する電気代の問題のみならず,環境・エネルギー問題も踏まえて進められている.
脱炭素化のうちアンモニアの製造・貯蔵/輸送・利用に関する関心は2021年度に引き続き高く,ニュース等で目にすることも多い.既存の製造法,既存のインフラの活用を拠り所に,水素ガスそのものに比べて導入の敷居の低いところがアンモニアの特徴である.アンモニア利用においては,戦略的イノベーションプログラム他で一定の目途を得たNOxの排出抑制技術を,実際の場でのアンモニアの混焼,専燃技術に展開することが課題である.アンモニア製造においては,短期的にはより低温・低圧で高効率な方法(ブルーアンモニア製造法)(4),再生可能エネルギー起源電力による方法(グリーンアンモニア製造法)(5)の開発が重要と位置付けられている.アンモニア利用においては燃焼分野の,アンモニア製造においては熱流体管理,物質輸送制御が欠かせず,熱工学部門の活躍に期待が寄せられる.
脱炭素化は,究極的には,再エネの高利活用を意図するが,再エネ起源電力を上流にした電気エネルギーシステムや,関わる電化を示すことが多い.他方で,エネルギー利用の全体を見渡せば熱需要も高い.日本の最終エネルギー消費の約半分は熱である.石油,天然ガスを燃焼してボイラーで蒸気を発生し,これを取りまわして事業所内の熱需要を賄う.鉄鋼業では高炉で石炭を燃焼して熱源,還元剤とする.今後は電化,すなわちヒートポンプ,電気ヒーターや電炉への置き換えが進むが,無論ケースバイケースである.脱炭素化の流れの中で産業用熱源の議論も進んでいるが(6),熱工学の鳥瞰的視点を組み込むことで適切な産業用熱源のエネルギーシステムが構築できると考えられる.
脱炭素化の中でモビリティー用動力の転換も進みつつある.EV,FCVに代表される自動車から始まった脱炭素化は船舶,そして航空機にも展開されつつある(7).航空機の脱炭素化,あるいは電動化において野心的な取り組み例を挙げる.液体水素を燃料に,超電導電気機器(モーター・インバーター他),固体高分子形燃料電池から構成させる動力システムを搭載する航空機が提案されている(8).詳細は文献に譲るが,液体水素を冷熱源にした機器の冷却,あるいは空気の取り回しのための熱管理,熱交換器の技術が鍵となる.ここでも熱工学分野への期待は高い.以上,電力価格高騰や脱炭素化の中で提案されているエネルギーシステムに内包される課題を列挙するとともに,熱工学技術者,研究者への期待を示した.以下は,2022年度の熱工学部門主催の行事のまとめである.
熱工学部門の最大の情報交換の場である熱工学コンファレンスが2022年10月8日(土)~9日(日)の日程で,東京大学本郷キャンパスにおいて開催された.437名が参加した.各OSの発表件数は表8-1-1のとおりである.沸騰・凝縮に関わるセッションでの発表件数が最多であった.また同時に開催された熱工学ワークショップでは「半導体メモリデバイスにおける熱問題と今後の展望」「水冷モジュールの高精度な過渡熱インピーダンス測定とパワーサイクル寿命のオン時間依存性」と題して具体的な技術課題の紹介,研究開発,展望が示された.
更に熱工学部門では,今年も伝熱工学に関する学理,知識を体系的に学べる機会である「『伝熱工学資料(改訂第5版)』の内容を教材にした熱設計の基礎と応用」の講習会を2022年9月2日と8日にオンライン開催した.7名の講師が伝熱工学関わる基礎学理,応用,及び計測法等を講義した.28名が参加した.初学者のみならず現場技術者の学力向上に貢献したと考えられる.
加えて熱工学部門は,流体工学部門,計算力学部門との共同企画で,工学分野における様々な問題に対する予測,最適化,設計支援標準ツールとなりつつある機械学習法に関する講習会を2022年3月14日にオンライン開催した.109名が参加した.機械学習法の基礎から,気液二相流,微気象,燃焼を例にして機械学習法を学ぶ機会を与えた.
表8-1-1 熱工学コンファレンスのOSと発表件数のまとめ
OS名 |
件数 |
OS1 外燃機関・排熱利⽤技術 | 7 |
OS2 ⽕災・爆発 | 9 |
OS3 電⼦機器・デバイスのサーマルマネジメント | 16 |
OS4 多孔質体内の伝熱・流動・物質輸送現象とその応⽤(マクロからナノスケールまで) | 14 |
OS5 乱流伝熱研究の進展 | 8 |
OS6 燃料電池・⼆次電池関連研究の新展開 | 12 |
OS7 マイクロエネルギーの新展開 | 11 |
OS8 熱⼯学からみたバイオマス変換の最前線 | 7 |
OS9 凝固・融解伝熱および結晶成⻑の新展開 | 10 |
OS10 ふく射輸送制御 | 6 |
OS11 未来型エネルギー変換・推進システムのための燃焼研究 | 15 |
OS12 沸騰・凝縮伝熱および混相流の最近の進展 | 26 |
OS13 濡れ性制御と液滴ダイナミクス | 13 |
OS14 ナノスケール熱制御 | 19 |
OS15 熱⼯学コレクション2022(熱コレ2022) | 10 |
GS ⼀般セッション | 28 |
〔伊藤衡平 九州大学〕
8.1.2 熱物性
本稿では,2022年における熱物性関連の研究動向および2022年に開催された国内講演会・国際シンポジウムにおける研究発表について概観したい.新型コロナウイルスの影響が始まって既に2年以上が経過し,感染の広がりが一進一退を繰り返す中,各関連シンポジウムにおいては対面,オンライン,あるいはその両方を提供するハイブリッド開催といった開催形態について,難しい選択を迫られた.その中で対面開催のシンポジウムが増えつつあり,今後人材・情報交流,対面での深い議論が活発になることを期待したい.
熱物性は“物性”に関与するあらゆる研究領域を包含しているため,各関連ジャーナルに熱物性を題材とする多数の論文が公刊されていると考えられるが,ここでは,熱物性を専門に扱う日本熱物性学会発刊の学会誌「熱物性」,および国際ジャーナルInternational Journal of Thermophysicsを取り上げて研究動向をまとめたい.2022年に「熱物性」に掲載された論文は5件であり,量子化学計算と分子動力学計算を用いた冷媒の精緻な熱物性予測,各種布素材による冷感マスクの放射特性計測,高圧領域における潤滑油の密度推算を実現する状態方程式の提案,衣服内気候における温度場および気流形成メカニズムの解明,熱光起電力発電システムの実用化に資する波長選択エミッター素材の検討が報告されている.International Journal of Thermophysicsにおいては184報の論文が発表された.特に注目されている(引用件数が多い)研究として,多層カーボンナノチューブを配合したPCM(相変化材料)の実験測定とニューラルネットワーク機械学習モデルによる高精度予測,2原子分子気体のモルエントロピーを精確に表現する相関式の提案,高分子量の直鎖アルカンの音速をグループ寄与法により予測する相関式の開発,熱交換器におけるカルボキシメチルセルロース(CMC)ベースのナノ流体のエクセルギー損失の解析,冷媒R1234yfの広い温度圧力範囲をカバーする新しい基本状態方程式の提案などが挙げられる.このように,データ科学を援用した熱物性予測手法が注目を集める一方で,基礎的な状態方程式の改良・提案が継続的に行われており,この研究領域におけるスペクトルの広さの一端を垣間見ることができる.なお,Journal of Citation Reports(1)による最新2021年のInternational Journal of Thermophysicsのインパクト・ファクターは2.416となっており,ここ2年で大きく上昇している.これは他のジャーナル誌を含め近年の熱工学関連の研究領域が大いに注目されていることと無関係ではないだろう.
本部門主催行事である熱工学コンファレンス(2)は10月8日~9日に開催され,東京大学本郷キャンパスとオンラインによるハイブリッド開催(講演は原則対面発表)となった.本講演会での熱物性に関連した講演として,COF(共有結合性有機骨格)を用いた新しい蓄熱技術の研究,インターカレーション材料の熱輸送特性の解明,種々の熱電変換素子(ナノ構造を有する薄膜,有機/無機複合膜など)の特性評価といったナノスケールでの熱物性,熱物質輸送特性に関する研究が報告された.また,電子機器やデバイスの熱測定技術の高精度化・高度化に関する研究発表が多くあった.中でも機械学習を利用したバーチャルセンシング・ソフトセンシング技術の発展は今後も注目される領域である.
次に,他学会主催の講演会について概観する.日本伝熱学会主催の第59回伝熱シンポジウム(3)は,5月18日~20日に開催され,岐阜市長良川国際会議場およびオンラインによるハイブリッド開催(講演は原則対面発表)となった.一般セッションの中で“熱物性”を冠するセッションが行われ,新しい熱物性測定技術や,新規材料の熱輸送特性の測定に関する研究発表があった.その他,熱物性に関連するセッションとして,伝熱研究へのMEMSの利用,ふく射輸送とふく射性質,熱エネルギー材料・システムのための熱・物質輸送促進,ナノスケール熱動態の理解と制御技術による革新的材料・デバイス技術の開発,空調・熱機器,ナノ・マイクロ伝熱,分子動力学などが行われた.
熱物性を専門とした講演会である第43回日本熱物性シンポジウム(4)は10月25日~27日に和歌山市での開催が予定されていたが,オンライン開催となった.高温融体物性と材料プロセス,宇宙に関わる熱物性と制御,ナノスケール熱物性の評価,高分子系サーマルマネージメント(熱伝導や蓄熱など)材料や部材の開発と評価,省エネのための熱物性技術,食品ならびに生物資源における熱物性のオーガナイズドセッションに加え,7つの一般セッションが開催された.
2022年に開催された関連の国際会議として,32nd International Symposium on Transport Phenomena(ISTP32)(5)が3月19日~21日に渡り開催された.中国天津での対面とオンラインのハイブリッド開催が当初予定されていたが,オンライン開催となった.相変化材料,冷凍空調技術,電子機器の熱マネジメント技術,先端的計測・可視化技術など熱物性関連の講演が行われた.また,13th Asian Thermophysical Properties Conference(6)が9月26日~21日に渡り開催された.東北大学を中心としてオンライン(基調講演など一部ハイブリッド)開催となったが,200件程度の講演と350名程度の参加者があった.17件のオーガナイズドセッションが企画され,最新のマテリアルズ・インフォマティクス・データベース構築,ナノ・マイクロスケール熱輸送の新規測定およびシミュレーション技術から各種材料(高温融体,高分子・複合材料,相変化物質,低GWP冷媒,生体材料など)の熱物性に至るまで幅広い講演が行われた.
熱物性測定技術の開発や状態方程式,輸送特性の相関式の高精度化に対する努力が継続的に行われる一方,バーチャルテスティング(仮想テスト)としての機械学習,マテリアルズ・インフォマティクスによる物性予測,あるいは量子・分子シミュレーションによる物性の高精度予測に対する期待が今後益々大きくなると考えられる.特定の材料種に対して試みられてきたこれらの予測技術の汎用化や高効率化が期待される.
〔菊川 豪太 東北大学〕
8.1.3 伝熱
2022年の関連研究の動向を概観するために,この分野の代表的な学術雑誌であるASMEのJournal of Heat Transfer(JHT, vol. 144 Issue 1-12)にて発表された論文のトピックについて調査した.また,国内雑誌として日本機械学会論文集(88巻 905~916号)および機械学会熱工学部門と日本伝熱学会が共同編集を行う論文誌Journal of Thermal Science and Technology(JTST, vol. 17 Issue 1-3)に発表された論文のうち伝熱に関するものを抽出し,同様の分類を行った.以上の3誌の結果を表8-1-2にまとめる.本記事および表8-1-2は,分類のカテゴリーも含めて機械工学年鑑2020~2022における「伝熱」の小節を参考にしている.なおJHTは2022年までとなり,2023年以降はJournal of Heat and Mass Transferとして刊行されている.2022年のJHTの論文総数(review article,technical brief,technology review含む)は159件であった.それ以前の5年は,179件(2017),226件(2018),212件(2019),171件(2020),171件(2021)であった.これから,近年の論文数は減少傾向にあることがわかる.ただ,非ニュートン流体やタービンに関するものなどの新しいジャンルが追加されたことで,その他が増えた形となった.表8-1-2に示すように,掲載論文が多いトピックは「自然対流・共存対流」,「生体の熱・物質移動」であり,次いで「マイクロ・ナノ伝熱」,「蒸発・沸騰・凝縮」,「熱・物質輸送」であった.なお,2020→2021→2022年の変化で見ると,「強制対流」は23→14→8報,「マイクロ・ナノ伝熱」は27→10→11報,「二相流と伝熱」は1→7→4報,「蒸発・沸騰・凝縮」は13→26→11,「熱交換器」は8→5→5報,「噴流・後流・衝突冷却」は9→3→7報,「生産における伝熱」が3→2→1報,「熱システム」が4→11→5報となっている.これらの変化は長期的傾向ではなく,分類や区分の仕方に依存するところも大きいと考えられる.今回はほぼJHTのHPにて振り分けたセクションで集計したため,上述したような新しい研究対象や技術解説に関するものをその他に含めたことをご容赦いただきたい.論文数全体が減少していることはコロナ禍の影響を少なからず受けていると推察される.
日本機械学会論文集とJTSTに掲載された伝熱関連論文は,それぞれ12報と30報であり,いずれも2021年(それぞれ23報,40報)から減少した.これもやはりコロナ禍で研究が予定通りに進まず,また研究議論も思うようにできなかった状況を反映しているように思う.特に機械学会論文集では熱工学に関する論文そのものが無い場合もあり,邦文雑誌へのプレゼンスが弱まっているようにも感じられる.
表8-1-2 伝熱関係の主要論文誌と分野別論文数(2022)
ASME J. Heat Transfer | 日本機械学会論文集 | J. Thermal Sci. Tech. | |
多孔質 | 8 | 0 | 1 |
強制対流 | 8 | 1 | 0 |
マイクロ・ナノ伝熱 | 11 | 0 | 0 |
二相流と伝熱 | 4 | 1 | 2 |
蒸発・沸騰・凝縮 | 11 | 1 | 1 |
熱伝導 | 3 | 0 | 0 |
伝熱促進 | 5 | 0 | 2 |
熱交換器 | 5 | 1 | 2 |
噴流・後流・衝突冷却 | 7 | 3 | 0 |
自然対流・共存対流 | 15 | 0 | 1 |
ふく射伝熱 | 4 | 0 | 1 |
生体の熱・物質移動 | 12 | 1 | 1 |
実験技術 | 0 | 0 | 1 |
融解・凝固 | 3 | 0 | 0 |
電子機器冷却 | 0 | 0 | 1 |
生産における伝熱 | 1 | 0 | 3 |
熱・物質輸送 | 11 | 0 | 0 |
冷凍・空調 | 0 | 0 | 1 |
燃料電池・反応 | 0 | 0 | 0 |
モデリング・最適化 | 0 | 0 | 2 |
熱システム | 5 | 0 | 0 |
燃焼 | 4 | 4 | 10 |
その他 | 42 | 1 | 1 |
合計 | 171 | 12 | 30 |
続いて,国際会議における研究発表の状況について概観する.2022年はハイブリッドまたは完全オンラインでの実施が大半で検索してみるとHEFAT-ATE(オンライン)(1),HTFF’22(ハイブリッド)(2),ISTP32(オンライン)(3)といったところがヒットした.一部ERCOFTAC主催の乱流関連の学会(4)では対面実施もあったようで,久しぶりの討論で盛り上がったとの声も聴かれた.今後は対面への移行が進むと予想される.
最後に国内会議の状況について概観する.2022年5月18日から5月21日の期間に第59回日本伝熱シンポジウムが長良川国際会議場にてハイブリッドで開催された.コロナ禍の影響はあるものの感染状況に鑑みて,講演者には対面での講演を義務付け,聴講のみの参加者はオンラインでも参加できる形態をとった.オーガナイズドセッション(OS)は(【 】内は発表件数,以下同様)「水素・燃料電池・二次電池【27】」,「液滴・濡れ現象の制御と理解【22】」,「燃焼伝熱研究の最前線【18】」,「熱エネルギー材料・システムのための熱・物質輸送促進【14】」,「乱流を伴う伝熱研究の進展【11】」,「化学プロセスにおける熱工学【10】」,「宇宙機の熱制御【10】」,「ふく射輸送とふく射性質【8】」,「伝熱研究へのMEMSの利用【8】」,「人と熱との関わりの足跡【3】」の10セッションが組まれた.一般セッションは「沸騰・凝縮【27】」,「ナノ・マイクロ伝熱【21】」,「ヒートパイプ/熱音響【16】」,「分子動力学【13】」,「融解・凝固【9】」,「計測技術【9】」,「強制対流【8】」,「自然対流【7】」,「電子機器の冷却【6】」,「物質移動【7】」,「空調・熱機器【6】」,「バイオ伝熱【5】」,「多孔体内の伝熱【5】」,「混相流【4】」,「自然エネルギー【4】」の15個であった.また「東海地区企業による部品開発・技術開発の紹介【4】」の特別セッションも設けられた.さらに,優秀プレゼンテーションセッションとしてポスター発表が46件行われた.OSの発表件数でみると,これまでも多かった「水素・燃料電池・二次電池」に比して「液滴・濡れ現象の制御と理解」が活発となっており,GSの「沸騰・凝縮」の数の多さと連動しているように見える.実際,日本機械学会の相変化界面研究会でも多くの伝熱研究者がかかわっていることから,関心の高さを伺うことができる.
熱工学コンファレンス2022は,2022年10月8日と9日の両日,ハイブリッドで開催された.この会議はOSが主体であり,2021年から1つ増えて15のOSが組まれた.発表件数順に列挙すると,「未来型エネルギー変換・推進システムのための燃焼研究【20】」,「沸騰・凝縮伝熱および混相流の最近の進展【26】」,「電子機器・デバイスのサーマルマネジメント【22】」,「ナノスケール熱制御【20】」,「多孔質体内の伝熱・流動・物質輸送現象とその応用(マクロからナノスケールまで)【14】」,「濡れ性制御と液滴ダイナミクス【13】」,「燃料電池・二次電池関連研究の新展開【12】」,「凝固・融解伝熱および結晶成長の新展開【10】」,「マイクロエネルギーの新展開【11】」,「火災・爆発【9】」,「乱流伝熱研究の進展【8】」,「バイオマス関連技術の新展開【7】」,「外燃機関・排熱利用技術【7】」,「ふく射輸送制御【6】」,「熱工学コレクション2022【10】」となる.GSは計5セッションあり,計28件の報告がなされた.本会議では新規OSである「ナノスケール熱制御」の講演件数が多かった.伝熱シンポジウムにおいても「ナノ・マイクロ伝熱」の件数が多いことと併せて考えると,近年のわが国の伝熱研究のトレンドがうかがえる.
以上,2022年の伝熱研究に関する動向を国内外の論文および学会から概観した.新しい研究対象やオーガナイズドセッションから研究のトレンドを把握できることを示した.2021年に比して特に国内学会での講演件数が増えていることから,アフターコロナを志向して研究活動が活発になっていることも明らかとなった.
〔金田 昌之 大阪公立大学〕
8.1.4 熱交換器
2022年の国内での研究動向を知るため,第59回日本伝熱シンポジウム(岐阜,5月),日本冷凍空調学会年次大会(岡山,9月),熱工学コンファレンス(東京,10月)での講演内容を調査した.キーワードとして,「熱交換」,「蒸発器」,「凝縮器」を用いて検索して傾向を分析した.
第59回日本伝熱シンポジウムは,対面とオンラインの併用で行われた.座長と発表者は対面であり,聴講は対面/オンラインの選択が可能である.「熱エネルギー材料・システムのための熱・物質輸送促進」,「東海地区企業による部品開発・技術開発の紹介」,「空調・熱機器」のセッションが設けられ,熱交換器について7件の講演が行われた.内容として,血液熱交換用カテーテル,車用熱交換器の小型化,海洋深層水冷熱利用冷房システム用熱交換器,気液二層流分配,翼型チューブ熱交換器,着霜が取り上げられた.
日本冷凍空調学会年次大会では,OS「霜・雪・氷の諸現象と利用技術」,OS「地中熱利用技術」,OS「熱交換器における技術展開」,OS「冷凍・空調・給湯分野におけるシミュレーション技術の活用」,WS「熱交換器の技術開発動向と開発事例」,OS「次世代冷凍システム技術」が組まれ,20件の講演が行われた.テーマは,着霜(2件),地中熱利用(4件),二相流流動特性,凝縮局所熱伝達特性,省エネ設計法,マイクロチャネル熱交換器,扁平管熱交換器,車載用新型熱交換器,熱交換と空気清浄の両立,等である.レビューとして,「地球温暖化に対応するための先進熱交換技術に関する調査研究プロジェクト活動報告」廣田真史(三重大),「ろう付け式プレート熱交換器の最新動向」宮原 里支 (スウェップジャパン)が報告された.
熱工学コンファレンスでは,OS「沸騰・凝縮伝熱および混相流の最近の進展」,「一般セッション」,OS「電子機器・デバイスのサーマルマネジメント」,「外燃機関・排熱利用技術」のセッションで熱交換器について研究報告があった.トピックスとして,HFO系冷媒の蒸発熱伝達整理式,流下液膜式熱交換器,地中熱利用,ヒートパイプにおける熱交換,音響エンジンへの入熱が取り上げられた.
2022年の国内外の研究動向を把握するため,International Journal of Heat and Mass Transfer (Int. J. Heat Mass Transf.), Applied Energy (Appl. Energy), Applied Thermal Engineering (Appl. Therm. Eng.) に掲載された学術論文の検索を行った.電子ジャーナルScience Directにおいて,キーワードheat exchangerを含む論文と、その中で様々なキーワードを含む論文を検索し,その結果を表8-1-3に整理した.heat exchangerを含む論文数と,その中で論文数が多かったキーワード(上位1~3位)を調べた.Int. J. Heat Mass Transf.ではheat exchangerを含む論文は531件であり,その中ではevaporator 205件(39%), chemical 131件(25%),condenser 121件(23%)である.Appl. Energyでは,heat exchanger を含む論文358件において,chemical 167件(47%),waste heat 143件(40%),evaporator 141件(39%)であった. Appl. Therm. Eng.では,heat exchanger 912件であり,その中でevaporator 478件(52%),chemical 345件(38%),condenser 340件(37%)である.このように数で上位を占める分野は,従来の「空調」と「化学」であるが,Appl. Energyにおいて「排熱」に関する論文の数が多いことが目立っている.雑誌間の違いに注目すると,Appl. Energyにおいてはwaste heatの他にも,heat storage/thermal storage 124件(35%),solar heat/solar thermal 82件(23%),photovoltaic/pv 111件(31%)が,他の雑誌と比較して数が多い.このように,最近のカーボンニュートラルへの志向を反映して,蓄熱や自然エネルギーに関連する熱交換器の論文が多く出版されている.この他の自然エネルギーのキーワードを含む論文としては,geo thermalが,Int. J. Heat Mass Transf., Appl. Energy, Appl. Therm. Eng.において,それぞれ 31件(6%), 55件(15%), 127件(14%)であり,地熱への関心が伺われる.ocean heat/ocean thermalは,1件(0%), 5件(1%), 9件(1%)でありパーセンテージは低いが,一定件数の論文が出版されている.
さらに最近の新しい研究動向を調査するため,Science Directにおいて見つかった新規性が高い論文を紹介する.Duらは,700℃以上の高温太陽集熱を利用して炭酸ガスタービンを動かすためのセラミック熱交換器の研究を行った(1).SiC(炭化ケイ素)製の熱交換器の数値解析と実験結果が良く一致することが示された.Zhaoらは,高速炉用の溶融鉛合金と超臨界炭酸ガスの捩じり管熱交換器の数値解析を行った(2).真直管熱交換器と比較して捩じり管熱交換器の伝熱性能は1.596倍であった.Dengらは,超高密度発熱電子機器を冷却する低融点金属熱交換器の実験的研究を行った.液体金属としてGa61In25Sn13Zn1を用いて,50-200W/cm3の徐熱に成功した.Laubeらは,GaInSnを熱媒として管内乱流熱伝達の実験を行った(3).この研究では酸化物の混入によって伝熱が劣化することが指摘された.以上のように,熱交換器の研究は多岐にわたるが,高温かつ腐食環境での熱交換(1, 2)や高熱流束での徐熱(3,4)への研究例から,セラミックの利用や液体金属の利用が新しい研究動向として見出された.
表8-1-3 2022年に出版された学術論文の検索結果 件数(%)
Keyword |
Int. J. Heat Mass Transf. |
Appl. Energy |
Appl. Therm. Eng. |
heat exchanger | 531 (100) | 358 (100) | 912 (100) |
air conditioning / air conditioner | 89 (17) | 96 (27) | 277 (30) |
refrigeration / refrigerator | 104 (20) | 106 (30) | 288 (32) |
condenser | 121 (23) | 120 (34) | 340 (37) |
evaporator | 205 (39) | 141 (39) | 478 (52) |
car / automobile | 25 (5) | 26 (7) | 73 (8) |
radiator | 28 (5) | 28 (8) | 76 (8) |
boiler | 31 (6) | 103 (29) | 131 (14) |
gas turbine | 33 (6) | 61 (17) | 94 (10) |
furnace | 27 (5) | 39 (11) | 62 (7) |
waste heat | 56 (11) | 143 (40) | 253 (28) |
chemical | 131 (25) | 167 (47) | 345 (38) |
electronics | 65 (12) | 14 (4) | 84 (9) |
sofc / solid oxide fuel cell | 0 (0) | 22 (6) | 17 (2) |
heat storage / thermal storage | 42 (8) | 124 (35) | 211 (23) |
solar heat / solar thermal | 28 (5) | 82 (23) | 144 (16) |
geothermal | 31 (6) | 55 (15) | 127 (14) |
ocean thermal /ocean heat | 1 (0) | 5 (1) | 9 (1) |
medicine / medical | 21 (4) | 12 (3) | 36 (4) |
pharmaceutical | 4 (1) | 7 (2) | 19 (2) |
food | 31 (6) | 32 (9) | 80 (9) |
photovoltaic / pv | 21 (4) | 111 (31) | 137 (15) |
aviation / aeronautics | 29 (5) | 13 (4) | 48 (5) |
〔松原 幸治 新潟大学〕
8.2 燃焼および燃焼技術
8.2.1 燃焼
2022年はこれまでのコロナ禍の影響もやや緩和され,ここ2年間オンラインで開催されていた学術会議,研究会でも対面で開催されるイベントが多くなり,従来の雰囲気が戻ってきた.
燃焼に関する講演・発表が主体となる学術会議としては,第60回燃焼シンポジウムが2022年11月21日~24日に東京で,完全対面方式で開催された.この年の燃焼シンポジウムは,第33回内燃機関シンポジウムと同一期間,同一会場において合同開催され,これまで最長の4日間の会期中に両学会の合同企画が実施された.また,39th International Symposium on Combustion(第39回国際燃焼シンポジウム)が7月24日~29日にカナダ・バンクーバーで開催された.国際燃焼シンポジウムは2大会ぶりの対面開催であり,ポスターセッションなどで活発な議論が交わされるなど活気が戻った印象がある一方で,日本人研究者を含む一部海外の研究者が検疫措置により入国することができず,セッションの多くで事前投稿のビデオ発表が放映されるなど,まだコロナ感染症の影響が強く残る結果となった.また,昨年度に実施予定で延期されていたCOMODIA2022が7月5日~8日に札幌でハイブリッド形式にて開催された.燃焼関連の講演・発表が多い学術会議として主なものを挙げると,5月18日~20日の第59回伝熱シンポジウム(岐阜・ハイブリッド),2022年7月13日~14日の第26回動力・エネルギー技術シンポジウム(佐賀),7月7日~8日の第32回環境工学総合シンポジウム(香川),5月25日~27日の自動車技術会春季大会(横浜・ハイブリッド),10月12日~14日の同秋季大会(大阪・ハイブリッド),9月11日~14日の日本機械学会2022年度年次大会(富山)および10月8日,9日の熱工学コンファレンス2022(東京),10月12日,13日の第50回日本ガスタービン学会定期講演会(福岡)などがあり,多くの学術会議が完全対面で実施された.
一方で,一昨年よりオンラインで開催されている講習会などは,海外の研究者に講演を依頼しやすい,隙間時間で参加できるなど,実施側および参加者側双方の利便性から2022年になってもオンライン開催を継続するものも多く,「Combustion webinar」が定期的に開催(全12回),日本燃焼学会主催の燃焼の基礎から応用までを網羅的に解説する講義企画「燃焼工学講座」(全4回)もオンライン形式で開催され,多くの参加者があった.
燃焼研究の動向として個別の学術会議の内容を紹介すると,第60回燃焼シンポジウム/第33回内燃機関シンポジウムにおいて2件の合同の特別講演「燃焼現象における分子輸送の役割」,「ディーゼル燃焼の研究とエンジンの低エミッション・高効率化」が行われた.また,第60回燃焼シンポジウムでは2件の基調講演として「ISS/「きぼう」における固体燃焼実験 -FLAREプロジェクトの進捗-」,「データ駆動型アプローチによる燃焼ダイナミクスの非線形回帰と低次元化」が行われた.一般セッションでは,口頭講演163件,ポスター39件と例年通りのトピックでセッションが構成され,脱炭素として期待されるアンモニア燃焼の講演が注目を集めていた.また,燃焼診断・解析に機械学習を取り入れた研究も多く見られた.内燃機関シンポジウムにおいては85件の講演発表があり,SI基調講演「電動車両に特化した高効率発電用エンジンのための筒内ガス流動コンセプト」の講演,およびCIフォーラム「Sustainableな高効率Powertrainを目指して」が実施された.
第60回燃焼シンポジウム/第33回内燃機関シンポジウム合同企画の中で,合同フォーラム「カーボンニュートラルに向けた内燃機関×燃焼×燃料の挑戦」が会期最終日に開催された.この中では,第1部で5人の講演者による基調講演が行われ,カーボンニュートラル社会に向けての燃焼・エンジン研究が果たすべき課題に関する総論に続き,合成燃料の必要性,内燃機関の今後の動向,燃料の燃焼特性に関して,最新の知見が紹介された.第2部では,基調講演者に2名のパネラーを加えてショートプレゼンテーションとパネルディスカッションが行われ,液体燃料の意義やその経済性への新しい視点,CO2低減の新しいルール作りに燃焼側からの積極的な提案が重要であることが意見として出された.
国際燃焼シンポジウムでは,投稿された論文数は1513編,内採択されたのが536編で,採択率は35.4%であった.この採択数は例年に比べるとやや少ない.最も投稿論文が多いセッションは205編の「Fire Research」で,2番目は169編の「Gas-phase Reaction Kinetics」であった.「Low-emission Combustion Technologies」,「Multi-physics Phenomena」,「Numerical Combustion」がコロキアムとして新たに加わり,Engine関連のコロキアムは「Propulsion」としてまとめられ,ここでも脱炭素の時流を強く感じさせるものとなった.また,基調講演とは別に「Industry Session」というパネルセッションが用意され,日本からは日本燃焼学会会長と理事がパネリストとして参加し,脱炭素化をキーワードとして議論が交わされた.一方で,次回の第40回国際燃焼シンポジウム(イタリア・ミラノ)では,その名称が「40th International Symposium -Emphasizing Energy Transition」とタイトルからCombustionの文字が消えるほど,欧州において燃焼が負のイメージを持つことに対して敏感に反応しており,このようなやや極端な対応には燃焼研究者からは懸念の声も上がっている.
COMODIA2022は前回から5年ぶりの開催であり,内燃機関関連の115件の発表があった.Plenary Lectureとして「Evolution Direction and Environmental Contribution of ICEs toward Carbon Neutrality」,「Recent Advances and Remaining Needs for Science-based Optimization of Internal Combustion Engines」,「The Role of the Internal Combustion Engine in Defossilized Energy Systems」の3件が講演され,カーボンニュートラル・脱炭素化が強く意識されている内容となった.
その他の燃焼関連の国内学術会議として,日本機械学会2022年度年次大会では,エンジンシステム部門企画の「持続可能社会に貢献するエンジン」セッションの開催,日本機械学会熱工学コンファレンス2022での「火災・爆発」オーガナイズドセッションにおいて複合材・電線など異種接合材料の燃え拡がりや気相燃焼,液面燃焼,金属燃焼,および消化技術に関する発表がなされた.また「未来型エネルギー変換・推進システムのための燃焼研究」オーガナイズドセッションでは,高圧燃焼,AIを活用した燃焼モデル開発,内燃機関での計測技術に関連した発表がなされ,ここでもアンモニア燃焼に関する発表が関心を集めていた.
燃焼関連の学術雑誌では,2022年度はProgress in Energy and Combustion Scienceにて38件のレビュー記事,Combustion and Flameで計589件の学術論文が掲載された.Progress in Energy and Combustion Scienceでは燃焼関連の内容として,合成ガス・水素製造,機械学習の利用,プラズマ燃焼,産業界における脱炭素化,プラスチックリサイクル,バイオマス利用に関する記事,Combustion and Flameではアンモニア燃焼,プラズマ利用,固体材料の燃え拡がり,燃料合成,化学反応モデルなどの論文に注目が集まっていた.これらの雑誌はそれぞれI.F.が35.339および5.767と高水準を維持しており,従来と同様,品質の高い論文を掲載している.また,その他にもCombustion Science and Technologyにて238件の学術論文,日本燃焼学会誌にて計5件の学術論文が発行されている.
〔高橋 周平 岐阜大学〕
8.2.2 燃焼技術・燃料
エネルギーを考えるときに重要な要素としてS+3Eがある(1).これは安全性(Safety)を大前提に,自給率(Energy Security),経済効率性(Economic Efficiency),環境適合(Environment)の同時達成を目指す日本のエネルギー政策の基本方針である.燃料についても同じ考え方が当てはまる.2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵略以降,エネルギーに対する関心は「エネルギーセキュリティ」にその比率が移っており,さらに気候変動対応への逆風も一部ある中,2022年11月に国連気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27)が開催され(2),全会一致で「シャルム・エル・シェイク実施計画」が採択された.温室効果ガス(GHG)排出削減といった温暖化を抑制する「緩和策」や新興国向け資金支援での成果は不十分との指摘もある(3)が,成果としてパリ協定の1.5℃目標(世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べ1.5℃に抑える目標)の重要性の再確認などがされた.これに伴い各国でカーボンニュートラルに向けた取り組みが進められている.
わが国の産業界の対応としては,石油連盟が2022年12月に「石油業界のカーボンニュートラルに向けたビジョン(目指す姿)【2022年12月版】」を公表している(4).この中で事業活動に伴うCO2(いわゆるScope1と2)の排出量の実質ゼロ,即ち「カーボンニュートラル(CN)」を目指すとした点に加えて,2022年12月改定版では,合成燃料e-fuel(カーボンリサイクル)などの革新的技術開発・実用化など,供給する製品の低炭素化等により,Scope3でのCO2排出削減にもチャレンジするとしている.具体的な取り組み分野としては,①持続可能な航空燃料(SAF)の国内製造・供給,②CO2フリー水素・アンモニアの製造・供給,③合成燃料の革新的製造技術開発,④再生可能エネルギーの開発促進,などをあげている.
運輸セクターにおいては(一社)日本自動車工業会が2022年9月に「2050年カーボンニュートラルシナリオ」(5)を発表した.この中で2050年カーボンニュートラルに向けた多様な選択肢の客観的かつ定量的な把握のためにシナリオ分析を行い,世界全体の道路交通のCO2排出削減はBEV(電気自動車)化を急速に進めるシナリオだけでなく,HEV・PHEV(ハイブリッド車・プラグインハイブリッド車)とカーボンニュートラル燃料を有効活用するシナリオでもIPCCの2050年1.5℃シナリオに整合的になりうることを示している.
また,自動車業界と石油業界では将来を見据えた燃料の共同研究「AOI(オートモービル&オイルイノベーション)」プロジェクトを進めている(6)(7).AOIプロジェクトの目標は将来の内燃機関に最適な液体燃料を2030年頃までに実用化してCO2排出量を削減することである.カーボンニュートラル燃料として合成燃料やバイオ燃料などへの注目が高まっているものの,いずれもコストや供給量などの課題があるため,ガソリン車およびディーゼル車に搭載見込みの将来エンジンの燃焼方法と将来の燃料種の組合せの最適化によるCO2削減を目指し,カーボンニュートラル燃料が普及するまでのCO2排出量のベースラインを下げるとともに,その成果をカーボンニュートラル燃料にも応用することでその必要量を減らすことができるとしている.
一方で航空や海運においては国際的な取り組みが重要となるが,2022年10月に開催された国際民間航空機関(ICAO)の総会において,国際航空分野における脱炭素化の長期目標「2050年までのカーボンニュートラル」が採択され,SAFの活用などが示された(8).外航海運に関しては国際海事機関(IMO)の海洋環境保護委員会(MEPC)が2022年6月(MEPC78)と12月(MEPC79)に開催され(9),「GHG削減戦略」の改定について議論された.このなかで我が国は「2050年までに国際海運からのGHG排出を全体としてゼロ(2050年カーボンニュートラル)」という目標に加えて,今後のゼロエミッション船の加速度的な普及などを最大限推し進めることで達成できる目標として2040年に50%削減(2008年比)を掲げることを提案している.内航海運分野においても,2021年12月に公表した「内航カーボンニュートラル推進に向けた検討会」のとりまとめにおいて,船舶における「更なる省エネの追及」を柱の一つとして掲げ,既存船における省CO2対策としてバイオ燃料の活用が効果的であり,この取組を支援していくこととしている.これを受けて2022年7月より「船舶におけるバイオ燃料取り扱いガイドライン策定検討会」が開催されてきた.この検討内容は「船舶におけるバイオ燃料取り扱いガイドライン」として取りまとめられ2023年3月に公開されている(10).
海外に目を向けると,バイオ燃料や再生可能エネルギーにより生産された合成燃料など(再生可能液体燃料)を一部混合した燃料の導入が始まっている.例えば,アウディは新車の工場充填用燃料に再生可能液体燃料を33%混合したR33 Blue Gasoline and R33 Blue Dieselを導入すると発表した(11).また,2022年12月に開催された“E-Fuel World Summit”(12)では,e-fuelの実用化に向けた取り組みが紹介され,そのなかでHIFが南米で実施しているHaru Oniプロジェクトの状況などが報告された.
国内の学術講演会においても,海外から入手したe-fuelの分析や評価例などが報告されている(13) (14).その他にも将来のカーボンニュートラル燃料の候補物質を対象とした研究も多く報告されている.CI機関用燃料としてPolyoxymethylene dimethyl ether(OME)の反応モデル(15)が提示されており,SI機関用燃料としてはAOIプロジェクトの成果の一環としてethyl tert-butyl ether(ETBE)をはじめとする含酸素類の添加がパラフィン系やオレフィン系炭化水素の燃焼に及ぼす影響について,実験と詳細反応モデルを用いた解析が報告されている(16)(17)(18)(19).また,水素エンジンに関する報告例(20)や,国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の支援を受けたアンモニアの基礎的燃焼特性に関する報告(21) (22)なども見られた.
〔渡邊学 ENEOS〕