6. 機械材料・材料加工
6.1 機械材料
6.1.1 鉄鋼材料
a.生産
日本経済は,一部指標に弱さが見られるものの,緩やかに持ち直している.大企業の製造業原材料高や欧米の急速な利上げに伴う海外経済の減速等の影響を受けた一方,大企業の非製造業はインバウンド需要の回復が見られた.鉄鋼業に関しては,鋼材価格値上げにより大幅な売上高と利益の改善が見られた.平均鋼材価格は,21年1~3月の1トン9万円から,22年1~3月は同13万円へと1.5倍になった.日本製鉄は,売上高が6兆8088億円,純利益は6373億円だった.いずれも旧新日鉄と旧住友金属工業が統合した2013年3月期以降で最高となった.JFEホールディングスは,売上高が過去最高の4兆3651億円,純利益も08年3月期以降では最高の2880億円となった.神戸製鋼所は売上高2兆825億円,純利益は600億円となり,3社とも増収増益となった
一方,国内の粗鋼生産量は,2022年は建築,機械部門の需要は増加したが,半導体不足の影響により自動車部門の回復が限定的であったこと,受注低迷にともなう生産能力削減や建造のスローダウン等による造船部門の需要低下,加えて国際市場の需要低迷等の輸出環境の悪化の影響により,我が国の粗鋼生産量は前年比7.4%減の8,923万トンとなった.各所の状況としては,日本製鉄 68,088万トン JFEホールディングス 43,651万トン,神戸製鋼所 20,825万トン,日立金属(プロテリアル) 9,427万トン,大同特殊鋼 5,296万トン,山陽特殊製鋼 3,63万トンと続く.
世界の粗鋼生産量は2021年の19億6000万tonから18億7900万tonと4%減少した.粗鋼生産量1位の中国は10億1300万トンと2%減少した.ゼロコロナ政策や不動産市況の低迷が原因と思われる.2020年の10億6400万トンをピークに減少し続けているものの,全世界生産量の50%を占めている.中国鉄鋼業は,依然として過剰生産能力を抱えたままである.生産量第2位のインドは,経済の成長が続いて,インドの粗鋼生産量は1億2470万tonと5%増加した.2018年以降5年連続で2位である.逆に日本は2018年以降3位である.以下,アメリカ(8070万トン),ロシア(7150万ton),韓国(6590万ton),ドイツ(3680万ton)と続く.
b.新設備
日本製鉄が広畑製鉄所に電気炉を新設した.電炉による高級電磁鋼板製造の世界で初めて開始した.JFEスチール千葉製鉄所第6高炉の改修完了により,2022年度末時点の稼働高炉数は21基となった.
c.研究
2022年度は多くの国家プロジェクトが終了した. 鉄鋼プロセス関連では,NEDO 環境調和製鉄プロセス技術開発(COURSE50)フェーズⅡ(2018 ~ 2022年度度)が終了した.CO2排出の抑制とCO2の分離・回収により,CO2排出量を約30%削減する技術で,実用化開発第1段階(フェーズⅡstep1)を終えた(www.jist.or.jp/course50).また,NEDO超高圧水素インフラ本格普及技術研究開発事業(2018 ~ 2022年度)が終了した.
材料関係では2013年度からスタートした革新的構造材料技術開発ISMA(2013-2022)が終了した,1500MPa-20%鋼の開発や異種材料の接合などに加え,開発した材料を実用化するための設計技術やマルチマテリアル化技術の開発に注力してきた.
また,新構造材料技術研究組合(ISMA)は,2023年3月16日,革新的新構造材料等研究開発「最終成果シンポジウム」を東京・イイノホールで開催し,10年間に亘るプロジェクトの最終成果が報告された(https://isma.jp/final_report/).
さらに,内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム,SIPプロジェクト二期統合型材料開発システムによるマテリアル革命(2019年度開始)も2022年度に終了した.第二期は3次元造形と統合型材料開発システムの開発に力点を置き,我が国で開発してきたマテリアルズインテグレーション(MI)の技術基盤を生かし,欲しい性能から材料・プロセスをデザインする逆問題MIに対応した統合型材料開発システムを世界に先駆けて開発した.多大な時間と費用を要する材料開発のスピードアップ・コストダウンを実現すべく構築が進められた.MIシステムが企業・大学・国研等の研究開発で有効活用されることが期待されている(https://www.jst.go.jp/sip/p05_result.html).
その他,「超高圧水素インフラ本格普及技術研究開発事業」(2018~2022年度,「超先端材料超高速開発基盤技術プロジェクト」 (2016~2021年度)の研究,「ミルフィーユ構造の材料科学-新強化原理に基づく 次世代構造材料の創製」(2018~2022年度)も修了した.
継続中のプロジェクトとしては,NEDO「グリーンイノベーション基金事業/次世代蓄電池・次世代モーターの開発」(2022 ~ 2030年度),日本財団「地熱増産のための熱安定性に優れる耐食合金と密閉技術の開発」(2022 ~ 2023年度),「インドネシア/電炉(製鋼)工場へのタンデイッシュプラズマ加熱装置導入によるGHG排出削減事業のJCM実現可能性調製鉄プロセスにおける水素活用プロジェクト(2021~ 2030年度)がある.
d.新技術・製品
自動車用鋼板においては,燃費向上・CO2排出量削減のための鋼板の高強度化・薄肉化の要求が継続しており,高張力鋼板における難成形部品へ適用するための研究・開発が進められている.JFEスチールは,冷間加工用980 ~ 1180MPa級ハイテンを開発した.Quenching & Partitioningプロセスを用いて,高降伏強度かつ高延性,特に局部延性に優れた超ハイテンを実現し,難成型部品の製造を可能とした.また,日本製鉄が開発した「自動車の進化を支える超高強度鋼板加工技術」「フランジ連続化工法(NSafeⓇ-FORM-RU)」が令和4年度 文部科学大臣表彰 科学技術賞(開発部門)を受賞した. 日本製鉄は,2.0GPa級ホットスタンプ鋼板も開発し,国内新型車新型レクサスRXのBピラーに採用されている.
JFEスチールが行った「電気機器の省エネに貢献する省資源型Si傾斜磁性材料の開発」が令和4年度科学技術分野の文部科学大臣表彰科学技術賞(開発部門)を受賞した.モーターや変圧器等の鉄心材料として用いられる電磁鋼板の鉄損低減に貢献したものである. CVD連続浸珪プロセス技術を用い,表層部のSi濃度分布を高く,板厚中心部のSi濃度を低くしたSi傾斜磁性材料を開発した.
これにより,鉄鋼メーカー各社の取り組みが活発化している.
2050年までのカーボンニュートラルの実現を目指し,各社経営の重要課題に位置付けた.神戸製鋼所は子会社のミドレックス社はスウェーデンの製鉄会社H2グリーンスチール社から,MIDREX H2™直接還元鉄プラントを受注した.このプラントは,世界初の100%水素直接還元鉄プラント商業機である.
構造材料関係の2つの大型国家プロジェクト,ISMA,SIPが終了し,高強度・高延性鋼板開発の革新やデジタルデータに基づく統合型材料開発システムの基盤開発など大きな成果を上げて終了した.さらに,超高圧水素インフラ本格普及技術研究開発事業も大きく進展している.産官学連携して革新構造材料や鉄鋼プロセス技術の研究開発に取り組む体制・拠点を確固たるものになった.永続的な発展を期待したい.
2022年もDX(デジタルトランスフォーメーション)とCN(カーボンニュートラル)あるいは,GX(グリーントランスフォーメーション)への注力が各社共通の課題となった.2050年CNへの挑戦を開始している.素材として,鉄鋼材料はCNの中核である.水素活用プロジェクトとも合わせ注目してゆきたい.
〔鳥塚 史郎 兵庫県立大学〕
6.1.2 非鉄金属材料
a.アルミニウム
日本アルミニウム協会によると,2022年度のアルミニウム圧延品の生産量は約1,780千トンで前年度比6.1%のマイナスとなったことをはじめ,押出類,箔についても前年度に比べて生産量が減少する見込みである(1).缶材は新型コロナウイルス感染症拡大による行動制限が緩和された効果で生産量が増加した一方,自動車用は自動車の生産台数の低下によりマイナスとなった.また,2022年度のアルミニウム製品の総需要も前年度比マイナスの見込みとなった(2).
2022年の前半は新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受け,多くの学会がオンライン開催されたが,夏以降は対面やハイブリッド形式で実施される会議も増加し,対面での討議議論を含めた情報交換が行われた.特にアルミニウム分野についてはアルミニウムに特化した国際会議「第18回アルミニウム合金国際会議(ICAA18)」が”Aluminium and its alloys for zero carbon society”をメインテーマに富山県にてハイブリッド形式で開催された(3).300件を越える発表講演のうち27件がMaterials Transactions誌特集号にまとめられている(4).その他にも,機械材料・材料加工国際会議2022(ICM&P202)(5),M&M 2022材料力学カンファレンス(6),日本金属学会講演大会(7)(8),軽金属学会講演大会(9)(10)等の様々な学会で数多くのアルミニウムに関する講演発表がなされた.対象分野は溶解鋳造,力学特性,リサイクル,組織制御,計算科学,粉末冶金,発泡・複合材料,溶接・接合,腐食・防食,表面処理と多岐に渡るが,水素脆化やレーザー積層造形法を中心としたAdditive manufacturing分野の発表も精力的に行われた.
b.マグネシウム
日本マグネシウム協会によると,2022年(年度ではないことに注意されたい)の国内マグネシウム需要量は,前半が地金の価格高騰が続いたことや,世界情勢,円安,半導体不足による自動車の生産台数の低下の影響を受け,構造材向け,添加剤向け,防食その他向けの全てが前年度に比べて減少しており,全体では前年比3.8%減の31,665トンとなった(11).
研究分野では,鉄道などの大型輸送車両に難燃性マグネシウム合金の適用を目指して実施されているNEDOプロジェクト「革新的新構造材料等研究開発」や科学研究費・新学術領域研究(研究領域提案型)「ミルフィーユ構造の材料科学-新強化原理に基づく次世代構造材料の創製」の研究成果が数多く報告された.特に後者については2022年の12月に国際会議The 5th International Symposium on Long-Period Stacking / Order Structure and Mille-feuille Structure (LPSO/MFS2022)が開催され(12),多くの研究成果が発表されたほか,金属学会会報「まてりあ」の特集記事(13)やMaterials Transactions誌にて特集号(14)が組まれた.国内では,M&M 2022材料力学カンファレンス,日本金属学会講演大会,軽金属学会講演大会等の学会で上記の2プロジェクト関連講演を含む様々な講演発表がなされた.発表分野は力学特性,組織制御,溶解・鋳造,塑性加工等の他,力学特性と熱伝導特性を両立させたマグネシウム合金の開発や,マグネシウム二次電池負極材料への展開,生体中での分解評価など,力学特性以外の機能性に着目した講演も行われた.
c.銅
日本伸銅協会によると,2022年度の総生産量は前年比2.5%減の約730千トンで,前回からマイナス反転となった(15).他の非鉄材料と同様,世界情勢や円安,自動車の生産台数の低下の影響を受けたものと思われる.
研究分野では,日本銅協会2022年62回講演大会(16)をはじめ,M&M 2022材料力学カンファレンス,日本金属学会講演大会等の学会で,力学特性,組織制御,接合,めっき,腐食・防食,塑性加工,伝熱・熱交換,抗菌,粉末冶金,リサイクルなど,多くの講演が行われた.
d.チタン
財務省の貿易統計によると,スポンジチタンを主にする「チタン塊・粉」の2022年(年度ではないことに注意されたい)輸出量は前年比13.8%増の34,580トンと,他の非鉄金属に比べて好調であった.
研究分野では,創設2年目となる日本チタン学会と,日本チタン協会による産学連携委員会が主催する第2回日本チタン学会講演大会(17)をはじめ,M&M 2022 材料力学カンファレンス,日本金属学会講演大会(※日本鉄鋼協会との共同セッションを含む),軽金属学会講演大会等で力学特性,組織制御,接合,塑性加工,積層造型法,低コスト化など多くの講演が行われた.
なお,2023年にはチタンに関する最大の国際会議,第15回チタン世界会議がスコットランド・エジンバラで開催される予定であり,この国際会議に先立ちMaterials Transactions誌にて特集(18)が組まれるなど,チタン分野の研究は今後ますます活性化すると期待される.
〔鈴木 真由美 富山県立大学〕
6.1.3 無機材料
a.生産
(一社)日本ファインセラミックス協会(JFCA)が毎年実施している産業動向調査速報値(1)によれば,ファインセラミックス部材の生産総額は2018年に3.2兆円となって3兆円を超え,2019年,2020年に3.1兆円へと減少した.2021年度は持ち直し,3.5兆円を超え,昨年度は3.9兆円を超えた.長期的な展望を見ると,1990年代と比べても生産額は倍増加しており,2018 年以降も3兆円超えている.COVID-19の影響で成長にやや鈍化が見られたが,2021,2022年度はそれを取り戻すことになった形である.内訳を見ると,全生産額の7割を占めている「電磁気・光学用」部材がもっと多く,ついで,「機械的」部材と「熱的・半導体関連」部材がそれぞれ全生産額の1割となっている.特に前年比でみると,熱的・半導体関連」部材は127%と堅調な伸びを見せている.「化学,生体・生物・他」部材が全生産額の1割弱となり,いずれも昨年度の生産額よりも低下した.
b.研究
2022年9月に開催された日本機械学会年次大会は,富山大学での対面開催となった.本大会において,「セラミックスおよびセラミックス系複合材料」が企画運営され,「セラミックスおよびセラミックス系複合材料」のセッションで10件の講演があった.その他のセッションでの関連講演を含めると15件ほどの発表があった.また,2022年11月にはICM&P2022が沖縄で開催され,「セラミックスおよびセラミックス系複合材料」のセッションで10件の講演があった.講演内容としては,構造用セラミックスの機械的特性の他,セラミックス基複合材料(CMCs),ハイエントロピセラミックス,コロージョン/エロージョンなど,多岐にわたっていた.基調講演でもセラミックスやその関連分野の講演が3件あり,その他のセッションでも,セラミックスコーティングや多孔質セラミックス,機械的特性などの講演が散見された.
近年,SiC系CMCsの航空機エンジンの応用をGEが進めたことを皮切りに,日本でも国家プロジェクトが立ち上げられている.SiCは高温水蒸気による損傷があるため,SiC系CMCc向け耐環境コーティングの研究も盛んである.また,SiC系CMCcを軽水炉の燃料管に応用しようという動きもある.CMCs以外に,自己治癒セラミックスが徐々に注目されており,研究グループが増加している.この他,三元系層状構造炭化物/窒化物であるMAX相セラミックスが注目されている.この材料は,機械的強度や破壊靱性値が比較的高い上,超硬合金による切削加工が可能であるという特徴を有する.化学組成によっては,優れた高温耐酸化性や自己治癒機能を有している.しばしば,大きな国際会議ではMAX相セラミックスのセッションが企画されているが,日本ではあまり顕著な動きにはなっていない.さらに,高エントロピー合金と同様のコンセプトで高エントロピーセラミックスも登場し,研究成果が報告されている.セラミックスの製造プロセスとしては,構造用セラミックスの3Dプリンティングも注目されており,金属同様,今後の進展が期待される.また,通電による瞬間的な発熱を利用したフラッシュ焼結が超高速焼結を実現できるとして注目を浴びている.国内外の様々な学会で多数の発表が見られるようになっている.現在は,基礎研究といったところだが,適用材料の広がりやパルス通電焼結との組み合わせなど,今後の進展に注目したい.
〔南口 誠 長岡技術科学大学〕
6.1.4 高分子・複合材料
a.高分子材料(1)
2022年における我が国のプラスチック原材料の生産実績は前年比9.9%減の951万tである.過去20年間で最も低い値となった.熱硬化性樹脂全体の生産量は83.5万t(7.3%減)である.主な内訳は,フェノール樹脂(26.7万t(10.8%減)),ユリア樹脂(4.4万t(10.1%減)),メラミン樹脂(7.0万t(1.0%減)),不飽和ポリエステル樹脂(11.0万t(2.5%減)),エポキシ樹脂(11.7万t(10.5%減)である.一方,熱可塑性樹脂全体の生産量は848万tで2021年比10.5%減となった.主な内容は,ポリエチレン(224万t(9.5%減)),ポリスチレン(103万t(16.2%減)),ABS樹脂(28.4万t(22.89%減)),ポリプロピレン(212万t(16.2%減)),メタクリル樹脂(12.1万t(14.9%減)),ポリビニルアルコール(18.3万t(8.7%減)),塩化ビニル樹脂(154万t(5.2%減)),ポリカーボネート(26.1万t(7.6%減)),ポリエチレンテレフタレート(35.9万t(1.5%増)),ポリブチレンテレフタレート(10.8万t(8.0%減))などとなっている.
b.炭素繊維生産(2)
2021年の炭素繊維出荷量は前年比15.9%増の23,928トンと増加に転じた.分野別でみると国内出荷,輸出用ともに航空宇宙用が減少し,国内出荷が全体で前年比4.9%減となったが,輸出が20.6%増加した.輸出比率は84.8%と前年から3.3ポイント上昇した.
c.複合材料研究
国内で開催された複合材料に関わる行事について,新型コロナウィルス感染症の影響から脱却し,対面式での講演会が多く行われた.国内で代表的な複合材料研究に関する学会は日本複合材料会議が挙げられる.この会議は「日本を代表する複合材料に関する会議」の設立を目的に2010年京都で第1回が行われ,第2回(2011年東京にて開催予定であった)が震災で講演中止となったものの,その後毎年東京と京都で交互に行われているものである.2023年3月には第14回日本複合材料会議(JCCM-14,日本複合材料学会,日本材料学会主催)が早稲田大学で4年ぶりに対面式で開催された.参加者,講演数もコロナ禍前の水準に戻り,構造の軽量化要求への一つの回答として複合材料実用化への期待から,企業からの参加者数が引き続き増加傾向にある.材料および構造の複合化のみにとどまらず,機能化・知能化等にも関連する幅広い分野からの講演が行われた.また,歴史ある国内会議として,2022年9月に第47回複合材料シンポジウム(日本複合材料学会主催,ハイブリット)が開催された.2020年度は中止,2021年にオンライン開催となった第66回FRP総合講演会・展示会(FRP CON-EX,強化プラスチック協会主催)が2022年10月に早稲田大学で対面式で開催された.国際会議について,日本機械学会機械材料・材料加工部門が主催したInternational Conference on Materials & Processing 2022 (ICM&P2022)が新しい形となって2022年11月に沖縄県市町村自治会館で開催された.複合材料に関して「Polymer Matrix Composites」を始めとするセッションが組まれ,成形から評価まで幅広い研究成果が発表された.複合材料関係の会議としては最大の国際会議である国際複合材会議(第23回国際複合材料会議(ICCM-23))が,2021年に北アイルランド,ベルファストで開催される予定であったが,2023年7月に延期されることが発表されている.
〔細井 厚志 早稲田大学〕
6.2 材料加工
6.2.1 鋳造
生産量において,2022年における鋳鉄(銑鉄鋳物,鋳鉄管と可鍛鋳鉄),鋳鋼品,非鉄鋳造品(銅合金,アルミニウムとダイカスト)および精密鋳造品を合計した鋳物の総生産量は481万tであり,総生産量492万tの2021年度に比較して98%とわずかながら減産となった.2019年末に発生した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行が2022年度においても収まらず,また緊迫したウクライナ情勢,円安,原料価格およびエネルギー価格の高騰,半導体不足など社会情勢の影響を大きく受けた.銑鉄鋳物(調査対象事業所30人以上)は312万t(前年度比98%)と減少した.用途別では,自動車を含む輸送機械用が212万t(前年度比98%),産業機械器具用,金属工作・加工機械用を含む一般・電気機械用は86万t前年度比100%)と前年度とほぼ同じ生産量であった.であった.鋳鉄管は20万t(前年度比91%)と減少した.可鍛鋳鉄(調査対象事業所30人以上)は2.9万tとほぼ横ばい状態であった.鋳鋼品(調査対象全事業所)は船舶,土建鉱山機械,鋳鋼管,破砕機・摩砕機・選別機などを中心に合計13.7万t(前年度比103%)と微増した.非鉄鋳物では,銅合金鋳物(調査対象事業所10人以上)が5.9万tで前年から700t減少した,アルミニウム鋳物(調査対象事業所20人以上)は36.5万t(前年度比97%),ダイカスト(調査対象事業所30人以上)は89万t(前年度比95%)と減少し,輸送機械部品用のダイカスト鋳物の生減産が影響していた.精密鋳造品(調査対象事業所30人以上)は4,261t(前年度比90%)で減少した.2022年の鋳物の総生産金額は, 2兆275億円となり前年比+5%の微増となった.個別の生産額は,銑鉄鋳物は7,570億円(前年度比106%),鋳鉄管680億円(前年度比80%),可鍛鋳鉄は124億円(前年度比102%),鋳鋼は1,130億円(前年度比103%),銅合金は960億円(前年度比113%),アルミニウム鋳物は2,794億円(前年度比106%),ダイカストは6,475億円(前年度比107%)であった(1).コロナ禍のため鋳造関連の講演大会の多くはオンラインまたはオンラインと現地参加のハイブリッドで開催された.第74回世界鋳造会議(WFC74)が大韓民国で開催された(2).SDGsを達成するためにカーボンニュートラル特別研究部会が鋳造関連の学会に設置された.鋳造工場の消費エネルギー実態調査,省エネルギー対策(廃熱回収,ガス利用,低コスト溶解),材料リサイクル(素材成分調整,サプライチェーン),新エネルギー供給設備(アンモニア,水素利用)の基礎研究の推進が計画された(3).鋳造業界におけるカーボンニュートラルの実現に向けて,鋳鉄,鋳鋼,銅合金,軽合金の鋳造工場におけるエネルギー使用量やCO2排出量の調査結果が,産業界の鋳造団体である日本鋳物協会によって報告された(4-5).鋳造分野で注目されている技術として, 金属AM技術,ダイカスト技術,生砂型の特性に関する研究が活発に進められており,鋳造工学会ではオーガナイズドセッションが組まれている(6-7).また,注目された研究として,高延性と低凝固割れ感受性を両立した自動車構造部品用非熱処理Al-Mg-Mn系ダイカスト合金の開発(8),電磁加振による振動測定を利用した球状黒鉛鋳鉄内部の引け巣検出(9),多元系合金の平衡濃度計算を深層学習で代替えしたミクロ組織形成シミュレーションの高速化(10)がある.
〔長船康裕 室蘭工業大学〕
6.2.2 塑性加工
塑性加工の研究・技術開発について,自動車の電動化に対するここ数年のニーズの変化に加えて,カーボンニュートラル社会への寄与に対して産業界を中心に高い関心が寄せられた.また加工情報のセンシングおよび収集データに対する人工知能(AI)技術を援用したデータ分析がさかんであり,塑性加工プロセスの安定化・最適化・自動化やAI技術を活用した塑性変形特性の同定に関する研究報告が講演会や学術論文にて特集された.
圧延分野では,鋼材を対象としたものでは高能率,高安定操業を主眼したシェアードコントロールに関する取り組みが特集された.また圧延中の変形挙動やトライボロジーを対象とした報告が多かった.一方,アルミニウム合金等の非鉄金属を対象としたものは2021年に引き続き研究報告が少なく,材質(組織)や機械的特性の変化に関する報告に留まった.押出し分野も例年と比較して研究報告が少なく,アルミニウム合金の熱間押出しのトライボロジーや異種材料の押出し接合に関する報告に留まった.
鍛造分野では,国内外問わず,高強度材料,軽量材料・構造に主眼を置いた研究報告が活発であった.2021年に引き続き,トライボロジーに関する研究報告が多く,潤滑法,焼付き発生機構や金型寿命予測について報告された.また塑性流動や加工荷重に着目した鍛造法,接合を組み合わせた鍛造法がいくつか提案された.他にはNi基合金やハイエントロピー合金等の鍛造における材質(組織)変化が報告された.
板材成形分野では,国内外問わず,研究発表が多く,例年と同様,高張力鋼,アルミニウム合金,チタン合金等の高強度・軽量材料を対象に,変形特性,材料モデリング,加工法等の多岐にわたった.特に成形限界,加工硬化や異方性等の変形特性の高精度・広範囲測定や高精度モデリングが有限要素シミュレーションの高精度化を目的に多く報告された.一方,加工法に主眼を置いた研究・技術開発についてはインクリメンタル加工が主であり,深絞りやしごき加工による特異構造を有するクラッド部材の成形も提案された.
塑性接合分野では,例年と同様,鋼とアルミニウム,金属とCFRPや樹脂の異種材料の接合を対象に,メカニカルクリンチングや摩擦攪拌を利用した接合を中心に国内外問わず多数なされた.また鍛造,押出し,圧延と組み合わせた接合法も多く報告された.
2022年度塑性加工春季講演会(1)ではチューブフォーミング,医療材料加工,プロセスの可視化・知能化,プラスチック成形,加工組織制御,塑性論に関するテーマセッション,第73回塑性加工連合講演会(2)ではCFRP,ポーラス材料,引抜き加工,AI,結晶塑性シミュレーション,レーザ塑性加工,衝撃塑性加工,塑性論に関するテーマセッションが設けられた.国際会議では機械材料・材料加工部門主催のInternational Conference on Materials & Processing (ICM&P) 2022が2022年11月に沖縄にて開催され,板材成形,鍛造および塑性接合の講演発表が多数あった.また国際生産工学アカデミー(CIRP)第71回総会(CIRP 2022)が2022年8月にスペイン・ビルバオにて開催され,塑性加工部門では14件(7カ国.日本からは4件)の講演発表があった.多くの国内・国際会議が2022年秋頃から対面開催(Webとのハイブリッドも含む)に戻った.
〔松本 良 大阪大学〕
6.2.3 プラスチック加工
高品質なプラスチック成形品を効率よく生産するためには,射出成形機本体のみならず周辺機器も含めた総合的な品質管理や生産管理が求められている.この背景を受けてデジタル技術を通じた知識集約型の経済社会構造(Society5.0)へ転換するべく制御装置のデジタル化が推進され,インダストリ−4.0と呼ばれるモノづくりの手法が広く採用されるに至り,射出成形分野においても成形・生産上の群管理に加えて,稼働状況の管理,アフターサービスの事前予知などの手法が提案されている.成形機は精密制御とともに成形工程の複合化が進み,さらには成形工程の可視化や金型の最適化設計を促進するIoT技術も加速度的に進んでいる.今後もニアネットシェイプ成形による高品質成形品の開発が加速していくことが予想される.
プラスチックの高付加価値化への押出・ブロー技術の貢献は大きく,多くの技術報告が行われている.多様なコンポジットの検討が報告される中,押出機には,高混練,高精度,省エネルギー化が求められており,多軸化,高トルク対応,高速回転,スクリュ深溝化が進む.また,CAE(Computer Aided Engineering)支援によるスクリュの混合性能評価やポリマーアロイ製造プロセス予測技術開発が進み,高機能化とプロセス合理化の両立に応えている.省エネルギー化に関しては断熱材の設置が検討されており,フィルム製品の品質向上に寄与することが報告されている.
ブロー成形は,中空形状を活かしたダクト,ホース,タンクなどの自動車部材に適用される.この分野では,近年液体ブロー成形法が開発され,プラスチックのみならず金属ガラスへの適用が継続的に検討されている.インフレーション成形においては空気圧アクチュエータを採用したフィルム膜厚の均一化やサーボポンプ採用や電動化などによるポリエチレンテレフタレート(PET)ボトルの延伸ブロー成形の省エネルギー,ハイサイクル,低コスト化とプロセスの洗練が進んでいる.
地球環境改善を目的とした自動車の脱炭素化に伴い,長繊維強化樹脂に代表される高分子基複合材料が採用され,同材料の成形加工で生じるスクリュ内での繊維の圧損・分散挙動や金型内での繊維配向挙動の研究が継続して進められている.長繊維強化樹脂の成形加工では,コストダウンを目的とした連続繊維直接成形と呼ばれる,直接繊維と樹脂を成形機に投入する成形加工法が継続的に検討されている.一方で,溶融積層法を用いた炭素繊維強化熱可塑性樹脂の三次元造形に関する結果も報告され,ほかの繊維を用いた三次元造形も検討されている.さらに天然繊維や木粉に加えて,セルロースナノファイバーの分散性の向上,乾燥技術,成形加工法の研究がさらに活発化している.自動車部品,特に外装品へのプラスチック材料の採用にあたっては,難燃化が熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂で行われている.
また,金属材料と繊維強化樹脂,あるいは樹脂材料と繊維強化樹脂の組み合わせによるマルチマテリアル化が継続して推進されている.この異種材料による複合化にあたって,物理処理や化学処理による機械的接合機能の発現,接着剤の研究など異種材料間の接合接着に関する研究も多く,自動車部品などへの実用化に向け今後の展開が期待される.
2022年度の容器包装リサイクル法に基づく一般廃棄物系の廃プラスチックのリサイクルは,回収量約69万トンであり,この量はここ数年ほぼ一定である.落札量は,プラスチックパレット等に再加工する,いわゆる材料リサイクルが約56%,コークス炉化学原料化が30%,ガス化が8%,高炉還元剤が5%程度である.これらは,CO2削減や,バージンプラスチックの削減に貢献している.
近年は可能な限り資源の経済価値を維持しつつ,効率的に利用することで付加価値を生み出す「循環経済(サーキュラーエコノミー)」への転換に向けた取り組みが欧州を中心に活発化している.また,プラスチックごみによる海洋汚染が地球規模の新たな課題として顕在化するとともに,中国での廃棄物輸入規制強化に端を発する国際的な資源循環の枠組みが変化してきている.これらの背景を踏まえて,日本政府は2020年5月に「海洋プラスチックごみ対策アクションプラン」を策定し,関係省庁では「プラスチック資源循環戦略」を策定した.さらに2022年4月には「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」が施行された.一方で,繊維強化プラスチックの廃棄も問題視されてきている.コークス炉化学原料化や高炉還元剤として使用すると多量の残渣が発生し,現在はこれを埋立てにより処理しているが,日本の埋立て可能な領域は限られており,現状の埋立て処理量が継続されると約20年で埋立て不可となることが試算されている.このようにプラスチックを取巻く社会環境は劇的に変化しており,この事実を真摯に受け止めて研究開発を行うことが今の研究者に求められている.
〔高山哲生 山形大学〕
6.2.4 溶接、接合
溶接学会の全国大会より,溶接・接合の日本国内での研究動向を総括する(1),(2).2022年度の春季全国大会および秋季全国大会の講演総数は265件であった.溶接プロセスに関して,溶融溶接ではTIG溶接やGMA溶接などのアーク溶接,抵抗スポット溶接,レーザ溶接など,固相接合では摩擦攪拌接合,摩擦攪拌点接合,摩擦圧接・線形摩擦接合,拡散接合などに関する研究発表があった.ほかに,ろう接合や接着接合に関する研究発表もあった.実際の製品,構造物では強度特性および強度信頼性が重要となる.そのため,溶接割れ,疲労,破壊(延性破壊,ぜい性破壊,破壊じん性)などの強度,力学特性,そしてそれらに影響を及ぼす残留応力の影響や溶接変形,そしてその低減法や予測法に関する実験的・解析的な研究報告があった.また,異材接合に関しては,摩擦攪拌接合やレーザ溶接,抵抗スポット溶接などによる異種金属接合のほか,金属と樹脂やFRPの接合などに関しても報告があった.とくに,春季全国大会では「業界セッション(自動車)」として「異種金属の接合」および「非金属-金属の接合」と題されたセッションが,秋季全国大会では業界セッション「自動車(異材接合)」が企画されたことからも,異材接合の技術開発,実用化が進められていることが読み取れる.他には,金属の積層造形に関して,プロセス,材料組織,強度特性などに関する研究発表が行われていた.また,溶接プロセス,欠陥・スパッタ,強度特性に関する数値解析・シミュレーション,モニタリングやセンシング,機械学習,AIなど,デジタル技術の活用,情報工学と融合した溶接・接合に関する研究もますます活発化している.春季全国大会では「欠陥検出・モニタリング」,「センシング」,「解析・数理・データ駆動」,秋季全国大会では「モニタリング・機械学習」,「AI・デジタルツイン力学的応用」と題したセッションが企画され,これらの今後の発展・応用が期待される.
日本機械学会機械材料・材料加工部門が主催した機械材料・材料加工国際会議2022(ICM&P2022)では,関連するセッションとして「Evaluation of Interfacial Strength in Dissimilar Materials Joint」,「Process and Reliability of Welding and Joining」が企画された.溶接・接合プロセスとしては摩擦攪拌接合,抵抗スポット接合,接着接合,機械締結などが取り上げられており(3),プロセス,接合部の強度信頼性,残留応力,界面,異材接合,などに関する発表があった.また他のセッションでは三次元積層造形に関する発表があった.
以上に述べた溶接・接合に関する動向では,対象材料が広がり,三次元積層造形のような新しいプロセスの開発や異材接合の実用化が進められていることがわかる.他方,疲労・破壊,欠陥や残留応力,強度信頼性の問題も変わらずに重要であり,モニタリングやセンシング,シミュレーション,AI,機械学習,デジタルツインなど,情報工学と融合した技術開発が注目される.なお,海外の動向として,IIW(International Institute of Welding)のジャーナルWelding in the Worldに掲載された論文の技術分野を2021年度と2022年度で比較すると顕著な変化は観察できないが(4),(5),日本国内と同様,樹脂・複合材の接合,モニタリング・センシング,シミュレーション・数値解析,異材接合,三次元積層造形などに関する研究が進んでいることが海外の動向として読み取れる.なお,日本機械学会2021年度年次大会ではプロセスと力学・強度の両者に関する「異種材料の界面強度評価と接合技術 」と題したオーガナイズドセッションが企画され,13件の講演発表があった(6).
〔宮下 幸雄 長岡技術科学大学〕
6.2.5 粉末加工
日本粉末冶金工業会の統計(1)よると,粉末冶金の機械部品は,2022年の生産量6.97万トン,生産額963億円であり,2021年と比較して生産量10.8%減,生産額6.2%減となった.新型コロナウイルス感染拡大の影響で需要の低迷などにより大幅に落ち込んだ2020年(前年比生産量20.2%減)から経済活動の回復が進み,2021年は生産量13.5%増と需要の増加傾向を示したが,2022年は再び低下した.粉末冶金の軸受合金も機械部品同様に2022年の生産生産額143億円で,前年比9.7%の減少を示した.
粉体粉末冶金協会の春季および秋季大会における講演の状況にて日本国内の研究・開発動向を確認できる.2022年度春季大会(2)(3)では146件,秋季大会(4)(5)では159件の講演発表があった.多種多様な粉末を用いた焼結技術の研究として,メカニカルアロイングや熱間等方圧加圧(HIP)・冷間等方圧加圧法(CIP)などによる技術開発,硬質(工具)材料,金属射出成形(MIM)材料,磁性材料や磁気デバイスの技術開発が継続しているほか,多孔体の機能発現,粉体シミュレーション,各種外場を利用した新規材料や技術開発,環境・エネルギー関連材料に貢献する粉体技術の開発などの事例が報告された.また,2022年春季大会の企画セッションにおいて「粉末冶金に関するシミュレーション技術」と題し,金属積層造形への適用に向けた離散要素法(DEM),圧粉成形の有限要素法解析事例,セラミックスの焼結シミュレーション,各種計算原理適用の有効性とプロセス適用,などが報告された.2022年秋季大会の企画セッションでは「負熱膨張粉体を用いた熱膨張制御」と題して,新規負熱膨張材料の設計,複合材料の熱膨張率予測や計測技術の確立に関する研究が報告された.注目すべき動向として,2021年と同様に粉末積層3D造形に関する研究が活発であった.出発原料としてステンレス鋼,アルミニウム,チタン,ニッケルなどの合金粉末が用いられ,その粉末特性や均一供給挙動に関するシミュレーション事例,バインダジェット法・レーザや電子ビームによる金属粉末床溶融結合法・熱溶解積層(FFF)法などにより作製した金属積層造形体に関して,その結晶集合組織形成機構と強化メカニズムの解明を中心に報告された.
国際会議は4年ぶりにWorld PM(粉末冶金粉末冶金国際会議)2022(6)(7)がリヨン(フランス)において開催され,298件の研究発表と300社を超える展示があった.研究発表はアディティブマニュファクチャリング(AM)をはじめ,粉末製造や焼結プロセス,MIM,硬質合金,磁性材料,焼結部材や機能性材料に関する研究が報告された.
〔梅田 純子 大阪大学〕
6.2.6 特殊加工
SDGsやカーボンニュートラル,環境調和といったキーワードの社会への浸透とともに,単純に最終製品が排出するCO2のみならず,製造時の排出量や環境負荷にも目を向け,CO2排出量の少ない,環境にやさしい生産技術への需要が年々と高まっている.また,DX,スマートマニュファクチャリング推進の要となるAIの活用やデジタルツイン(DT)も依然として大きな注目を集めている.
国内メーカーでも環境負荷低減をうたった加工機や加工技術が展開されている.放電加工分野では,JIMTOF2022において三菱電機が年間合計18.3 tのCO2排出力削減効果を有するワイヤ放電加工機,形彫放電加工機を紹介した.電源システムや非加工時の節電など加工機システムとしての改善の寄与も大きいが,それと同時に加工時間を短縮し生産性を向上させることにより消費エネルギを削減した.この加工時間最適化はAI技術が活用されている(1).同様に,高速・高精度化によりエネルギ消費量を削減するという取り組みは各社で発表されており,ジャンプ動作の最適化やワイヤ消費量の削減も進められている(2).
また,2021年にDMG森精機がデジタルツインを活用したテストカットサービスの提供を開始したことが話題となったり,MIPE2022においてチュートリアルセッション「Frontiers of Digital Twin in the Production and Processing Field」が開催されたりと加工分野におけるDXが注目を集めている.特殊加工をサイバー空間で再現する難易度は,切削加工よりさらに高いが,産学においてこれらの研究が進められ,DTの活用が模索されている.学術界では,2023年3月に終了した内閣府戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)課題の「光・量子を活用したSociety 5.0実現化技術」のひとつの柱としてサイバー空間とフィジカル空間を融合したCPS型レーザ加工システムの研究が進められ,AIにレーザ照射条件と形状のデータを学習させることで,レーザ加工による加工形状のシミュレーションを可能にしたことが報告されている(3).
海外の研究動向に目を向けると,MSEC2022をはじめとしたASMEの国際会議でもDT関連の報告がなされており,論文閲覧数上位に入るなど注目されるテーマではあるが,特殊加工関連ではAM技術のDT活用の話題が中心である(4).内閣府が推進するSociety5.0の実現に向けて特殊加工分野でも引き続き省エネやサイバー空間の活用研究の需要が高まると考えられる.
〔青野 祐子 東京工業大学〕
6.3 評価
6.3.1 ヘルスモニタリング・非破壊検査
ヘルスモニタリング・非破壊検査に関する研究動向について国内の活動を中心に紹介する.2022年は新型コロナウイルスに関するイベント開催規制が緩和されたことによって国内外で多くの対面・ハイブリッド会議が開催された.11月に機械材料・材料加工部門が主催した国際会議International Conference on Materials & Processing 2022 (ICM&P 2022:沖縄県那覇市で開催)では関連するオーガナイズドセッション(以下:OS)である”Measurement Techniques and Nondestructive Evaluations for Materials, Structures and Processing”において21件の講演が行われた.また,9月の機械学会年次大会においては,関連OSである「超音波計測・解析法の新展開」において11件の講演が行われた.同じく9月に材料力学部門が主催したM&M 2022 材料力学カンファレンスにおいても様々なOSで非破壊検査関連の報告が行われた.また,年次大会においては部門横断ワークショップ「機械・インフラの保守・保全、信頼性強化」が2020年度より開始され,2022年度では機械学会8部門と土木学会,日本に破壊検査協会の協賛で行われ,9件の講演とパネルディスカッションが開催された(1).
他学会主催のイベントにおいては,アジア太平洋破壊と強度の国際会議(APCFS/SIF 2022)がオーストラリア アデレードではハイブリッド会議として開催され,関連セッションである”NDT&SHM”では合計15件の講演が行われた.また,アメリカ合衆国ASNTと日本非破壊検査協会の共催イベントである7th US-Japan NDT Symposiumが8月にハワイにおいて対面会議で開催され,日米の多くの非破壊検査に関する講演が行われた.日本非破壊検査協会主催のシンポジウムとしては,2022年度秋季講演大会において61件の講演が行われた他,様々な部門講演大会が対面・ハイブリッド開催された.また,アコースティック・エミッションに関する国際会議26th International Acoustic Emission Symposium(IAES-26)が10月に神奈川県川崎市で開催され,国内外から40件の講演が行われた.日本複合材料学会主催の日本複合材料会議(JCCM-14)においては,関連するOSである「非破壊検査」において,8件の講演が行われた.日本腐食防食学会主催の材料と環境2022においては,関連するOSである「計測・モニタリング・センサ」において3件の講演が行われた.
非破壊検査・ヘルスモニタリングに関連する規格としてはJIS Z 2342:2022「圧力容器の耐圧試験などにおけるアコースティック・エミッション試験方法」(2)が2月に改訂され,HPIS F 101:2022「圧力設備等の診断に関する技術者の認証基準」(3)が3月に改訂,NDIS 3005 赤外線サーモグラフィー用語が2月に改訂された(4).また,NDIS2436 圧縮水素スタンド用鋼製圧力容器のアコースティック・エミッション試験に関して,原案作成委員会が進行中である.
研究に関する受賞としては,2022年度日本機械学会標準事業表彰として,「機械システムの状態監視と診断に関する国際標準規格化活動及びその普及と教育」に関して貢献賞を受賞した(5).
〔松尾 卓摩 明治大学〕
6.3.2 強度・機能性評価
強度・機能性評価に関する研究・開発動向を把握するため,International Conference on Materials & Processing 2022(ICM&P2022)における関連する話題を中心に取り上げる.
材料の強度に関して,高温(1),アルゴン(2),メタン(3)などの様々な環境下における強度評価がますます重要となってきており,その対象は疲労(2),クリープ(1),腐食特性(2,4)など,多岐に及ぶ.また強度特性を改善する表面処理法の開発も重要である(5).近年のマルチマテリアル化により異種材料接合部の強度評価も重要な課題となってきている(6,7).高強度材料としての利用が期待できる金属ウイスカ(8),カイコ絹繊維(9)や毛髪(10)といった材料も活用に向けて評価が進んでいる.軽量,高強度,高剛性など,優れた諸特性を有する炭素繊維強化プラスチック(CFRP)に関する研究が活発である.繊維の積層構造が機械的特性に与える影響(11)に加えて,疲労特性(12,13),破壊靭性値(14),給水による強度低下(15)など,様々な特性が評価されている.
材料の機能性に関して,3Dプリンタを用いた材料(16)や構造(17)の開発が活発である.一般的に3Dプリンタで作製した構造体の厚さ方向の強度は水平方向のそれに比べて低く,これを改善する方法が検討されている(18).医療応用を目的として,低ヤング率で高強度な多孔質チタンが開発されている(19).また軸受材料の利用を目的として,硫化スズとボルナイトを含む青銅の摩擦性能が調査されている(20).薄膜の内部ひずみを測定する手法(21)や発電性能に影響を及ぼすソーラーセルの損傷過程をアコースティックエミッションによりモニタリングする方法が検討されている(22).また画像解析を援用して多孔質材料のヤング率が推定されている(23).新しい材料や構造の開発に人工知能技術が活用されている.疲労限度(24)や合金の結合エネルギー(25)なる強度に加えて,構造の最適設計にも機械学習が利用されている(26).人工知能技術の活用は今後ますます活発になると思われるが,同時に導き出された最適な製造条件や構造の物理的意義を探求することが肝要である.
〔燈明 泰成 東北大学〕
6.3.3 トライボロジー
本稿では機械材料・材料加工の観点から見たトライボロジー分野に関連する研究について述べる.
トライボロジー全般に関する詳細については,本学会の基礎潤滑設計分野の研究分野(TR・ME2/トライボロジー・機械要素)が詳しい(1).
まず2022年にはICM&P2022(The Japan Society of Mechanical Engineers, International Conference on Materials & Processing 2022)が沖縄で11月に開催された(2).その中でTechnical SymposiaとしてTrack 2: Processing, Surface Modification for Tribo Materialsの内容についていつか紹介する.このセッションではトライボロジー分野の中でも材料の表面設計や加工,摩擦面の表面状態に注目した研究がいくつか報告されている.
例えば,表面テクスチャを施したCVTプーリに関してグルーブ形状やテクスチャのサイズが摩擦低減及ぼす影響について紹介されている(3).他にも、Sn-Zn系の表面コーティングが回転やすべり接触する際の影響(4)や青銅に含まれるリンが摩擦や摩耗に及ぼす影響について紹介されている(5).
さらに,ステンレス系材料の耐食性・耐摩耗性に関して基材に微粒子を摩擦しながら表面改質する研究例(6)やレーザークラッディングに関する研究例(7)も報告され多種多様な材料にトライボロジーを応用した加工が施されていることがわかる.
次に,トライボロジー学会主催のトライボロジー会議(8)では,鋼材と樹脂の摩擦・摩耗(9)や,銅分散樹脂の摩擦(10)など,金属-樹脂に関連する研究例が報告されている.
また,プロセストライボロジーと呼ばれるような塑性加工とトライボロジーに関連する分野では,日本塑性加工学会の第73回塑性加工連合講演会(11)からいくつかの研究例を紹介する.
潤滑剤の性能評価のために据込み-ボールしごき形摩擦試験が提案されベアリングボールと接触部の焼付き生成機構が検討されている(12).他にも,マグネシウム合金(13)やアルミニウム合金(14)に関する熱間トライボ特性が評価されている.
〔佐藤知広 関西大学〕