Menu

機械工学年鑑2023

1. 一般

1.1 産業界の趨勢

1.1.1 概況

最近のGDPと鉱工業生産指数,および第3次産業活動指数の推移を詳しく見ることにしよう(表1-1-1,表1-1-2.景気は2018年10~12月期を山として後退に転じ,新型コロナの感染拡大下の2020年4~6月期に底を打ち同7~9月期から回復に転じた.まずは2020年以降のGDPの暦年ベースでの推移をみると,2021年,2022年と回復傾向をたどったもののコロナ禍前の2019年の水準には到達していない.2022年は2021年に比べてGDP成長率が低下している.これは輸出の伸びが小さくなり,反対に輸入の伸びが増加することから外需の寄与度が大きなマイナスとなったことが効いている.即ち外需の寄与度(外需がどれだけGDP成長率を上げたり下げたりしているかを示す度合い)で見ると,2021年の1.0%から2022年はマイナスの0.6%と2022年は外需が足を引っ張った形となっている.しかし輸出は2022年も伸びが続いており,コロナ禍前の2019年の水準を上回っている.

反対に国内需要の寄与度(国内需要のGDP 成長率への寄与度で,外需と国内需要の寄与度を合計するとGDP成長率となる)は2021年の1.1%から2022年は1.6%とむしろ増大している.しかし中身を見ると,個人消費は回復度合いを強めてはいるが,コロナ禍前の2019年の水準までには至っておらず,堅調に推移している民間設備投資も2019年の水準を下回っている.

民間設備投資と輸出に多くを依存する鉱工業生産はリーディング産業である自動車工業や電子部品・デバイス工業の生産の低下を主因に2022年は横這いにとどまった.自動車工業は半導体の供給不足,電子部品・デバイス工業は世界の半導体需要の減少による生産低下が大きく効いた.

 

1-1-1 GDP・鉱工業生産指数・第3次産業活動指数の推移(実質,前年比伸び率,%)

  暦 年 2020 2021 2022
GDP -4.3 2.1 1.0
個人消費 -4.7 0.4 2.1
民間設備投資 -4.9 0.8 1.8
公的固定資本形成 3.4 -1.9 -7.0
輸出 -11.6 11.7 4.9
輸入 -6.8 5.0 7.9
鉱工業生産指数 -10.4 5.6 -0.1
第3次産業活動指数 -6.9 1.5 1.6

(出所)内閣府「四半期別GDP速報」2023.3,経済産業省「鉱工業指数確報」2023.4,経済産業省「第3次産業活動指数」2023.4より作成.表 1-1-2も同じ

 

GDPと鉱工業生産の四半期の動きを見ると,コロナ禍の影響で普段は余り変化のない個人消費がコロナの感染が拡大する時はGDPの減少率以上に大きく減少しており,特にコロナ感染の拡大が見られた2021年1~3月期,7~9月期,2022年1~3月期は個人消費の伸び率が大きなマイナスとなった.個人消費はGDPの約6割を占めるので,個人消費が減少するだけでGDPの成長率を引き下げることになる.コロナの感染が拡大した2021年1~3月期,7~9月期,2022年1~3月期ではGDPはマイナス成長となった(表1-1-2

民間設備投資は堅調な投資マインド,堅調な需要,企業収益の改善などに支えられて順調な伸びを見せており,この好況さは今後も続くものと考えられる.輸出も成長率がプラス基調となっている.民間設備投資と輸出に多くを依存する鉱工業生産はGDPと同じように2020年4~6月期に底を打ち同7~9月期から回復に転じた.しかし2022年の前半は自動車工業の低迷,後半には半導体関連の需要減少の影響を受け2022年は回復力が弱く,前年比-0.1%の横這いにとどまった.

第3次産業の動きを第3次産業活動指数で見ると,2021年,2022年と回復しているが2年分を併せても2020年の落ち込みの半分以下の回復にとどまっている.コロナの感染が拡大した2021年1~3月期,7~9月期,2022年1~3月期では個人消費と同様に前期比でマイナスとなっている.この指数は個人消費に多くを依存するために通常では大きな変動はない指数ではあるが,コロナの影響がそれだけ大きかったことを裏付けている.第3次産業活動指数はGDP,鉱工業生産とともに2020年4~6月期が底となった.その後は回復に向かったが2022年は個人消費と同様に力強さを欠いていたと言える.

 

1-1-2 GDP・鉱工業生産指数・第3次産業活動指数の動向(実質,前期比伸び率,%)

  2021年 2022年
  1-3 4-6 7-9 10-12 1-3 4-6 7-9 10-12
GDP -0.2 0.3 -0.4 1.1 -0.5 1.2 -0.3 0
個人消費 -1.6 0.2 -1.1 3.0 -6.9 1.0 0 0.3
民間設備投資 1.5 1.4 -1.7 0.6 -0.3 2.1 1.5 -0.5
公的固定資本形成 0.1 -1.9 -3.4 -3.2 -3.2 0.6 0.7 -0.3
輸出 2.5 3.1 -0.4 0.4 1.1 1.5 2.5 1.5
輸入 2.1 4.4 -1.5 0.3 3.8 0.9 5.5 -0.4
鉱工業生産指数 -0.3 -0.8 -2.5 4.7 -1.8 -3.9 5.4 0.3
第3次産業活動指数 -1.0 0.3 -0.5 1.5 -0.2 1.4 -0.1 0

 

企業経営者は先行き設備投資や円レートの先行きをどのように見ているのだろうか.内閣府の「企業行動に関するアンケート調査」から見ることにしよう.内閣府が毎年1月に「企業行動に関するアンケ-ト調査」を実施している.内閣府が,今年の3月に発表した令和5年1月調査の「令和4年度企業行動に関するアンケ-ト調査」は,東京証券取引所(プライム市場及びスタンダード市場の上場企業),名古屋証券取引(プライム市場及びメイン市場の上場企業)の上場企業を調査対象(3,300社)に調査を行ったもので,回答企業は1,381社で回答率は41.8%.

1-1-3は平成12年度調査(2001年1月調査)以降の各年度の調査から,設備投資の今後3年間の見通し(年平均見通し伸び率)を業種別にみたものである.平成13年度調査(2002年1月)はまさにいざなみ景気が始まる時で景気の谷にあたり,設備投資は低調で全産業で1.2%の低い見通しと投資マインドはかなり低下した.いざなみ景気に入ると伸びが高まり平成17~19年度調査では5%台となるが,リーマン・ショック時の平成20年度調査(2009年1月調査)ではマイナス1.2%と前年度からは大きな落ち込みとなった.特に製造業は影響が大きく低下して-3.0%の落ち込みとなり,投資マインドの大きな低下が見られた.順調に拡大していたものが大きな環境変化に直面すると設備投資の見通しが一気に低下する投資マインドの怖さを見ることができる.

 

1-1-3 今後3年間の設備投資増加率見通し(年平均伸び率,%)

調査年度 全産業 製造業 非製造業
平成12年度 3.6 3.9 3.0
13 1.2 0.8 1.9
14 2.4 2.1 2.8
15 3.1 3.0 3.2
16 4.7 5.2 4.1
17 5.9 6.2 5.5
18 5.3 5.2 5.5
19 5.1 5.1 5.1
20 -1.2 -3.0 0.9
21 1.4 0.9 1.9
22 3.4 3.9 2.8
23 4.1 4.9 3.2
24 3.5 3.5 3.5
25 4.2 4.4 3.9
26 3.9 4.2 3.5
27 4.3 4.7 4.0
28 4.4 4.0 4.8
29 4.8 4.7 4.9
30 4.8 5.5 4.2
令和元年度 4.1 3.7 4.4
4.1 3.4 4.7
6.0 6.7 5.4
6.4 6.6 6.1

(出所)内閣府「令和4年度企業行動に関するアンケート調査」より作成.表1-1-4~表1-1-5も同じ

 

投資マインドはいったん落ち込むと回復には時間がかかるのが大きな特徴である.その後は緩やかな回復をみせたのち平成25年度調査からは4%台の伸びと安定していたが,中国経済の減速による輸出減少に伴う投資マインドの低下から令和元年度調査(2020年1月調査)では若干の低下がみられた.新型コロナウイルスの感染拡大で,投資マインドは低下しているものと考えられた令和2年度調査(2021年1月調査)では全産業で4.1%の伸びと伸び率が全く低下せず設備投資の堅調さを裏付けた.変動の激しい製造業も大きな影響はなく,投資マインドの悪化は見られなかった.

設備投資の拡大には3つの要因がある.需要の拡大,利益の増加,投資マインドの改善で,前回の令和3年度調査(2022年1月調査)ではこの3つの条件の後押しを受けて民間設備投資は先行き順調な伸びが見込まれ,投資環境の大きな改善が見られた.この調査後にロシアのウクライナ侵攻が見られたものの,足元の投資マインドは強く,設備投資は堅調に推移した.今回の令和4年度調査(2023年1月調査)では6.4%の増加と前回の伸び率を更に上回り,製造業,非製造業とも堅調で,コロナ禍以降は需要構造の変化の後押しもあり最近にない設備投資の高まりを見せていることは大きな注目に値する.

 

1-1-4 業種別実質成長率・設備投資見通し(主要業種)(年平均伸び率,%)

業種 実質成長率・今後5年間 設備投資・今後3年間
全産業 1.7 6.4
製造業 1.7 6.6
 (素材型製造業) 1.6 7.0
 (加工型製造業) 2.2 6.2
 (その他の製造業) 0.8 6.8
 食料品 0.7 4.6
  繊維製品 1.2 5.2
 パルプ・紙 0.8 6.1
 化学 2.0 7.0
 医薬品 1.6 6.4
鉄鋼 0.8 7.4
 非鉄金属 1.9 10.3
金属製品 1.1 7.2
 機械 2.0 6.0
 電気機器 2.9 6.8
 輸送用機器 1.4 5.4
 精密機器 1.3 7.3
非製造業 1.7 6.1
 建設業 1.1 6.4
 卸売業 1.3 6.1
 小売業 0.8 6.2
 不動産業 0.6 7.5
 陸運業 1.1 10.6
 倉庫・運輸関連業 1.6 8.9
 情報・通信業 2.9 5.2
 電気・ガス業 1.9 1.0
 サービス業 2.5 6.0

(注)業種分類は証券取引所の定める業種による.表1-1-5も同じ

素材型製造業:繊維製品,パルプ・紙,化学,鉄鋼,非鉄金属

加工型製造業:機械,電気機器,輸送用機器,精密機器

次に1-1-4は令和4年度調査における今後5年間(令和5年度~令和9年度)の主要業種の業界

実質成長率及び今後3年間(令和5年度~7年度平均)の主要業種の設備投資の見通し(いずれも年平均伸び率)を見たものである.一般に需要の成長率よりも設備投資の伸び率は高くなる.業界の実質成長率が高いと設備投資の見通しも高くなるはずであるが,鉄鋼,陸運業など業界の実質成長率が低くても需要構造の変化などが大きな業種では設備投資の伸びが大きくなる.

まず業界の需要の成長率を見ると, 素材型製造業(繊維,パルプ・紙,化学,鉄鋼,非鉄金属)の今後3年間の見通しは年平均で1.6%.一方,加工型製造業(機械,電気機器,輸送用機器,精密機器)は2.2%で,素材型製造業よりも機械産業を中心とした加工型製造業の伸びの方が高い.加工型製造業では電気機器,機械(一班機械)で高い伸び率となっているのに対し,自動車を中心とした輸送用機器では低い伸びにとどまっている.素材型産業では化学,非鉄金属で伸びが高くなっており,それぞれ需要構造の大きな変化を受けた業種で伸びが大きくなっている.非製造業では,情報・通信業,サービス業で伸びが高い.

次に業界の設備投資の伸び率を見ると,素材型製造業の今後3年間の見通しは年平均で7.0%と加工型製造業の6.2%を上回っており,非鉄金属,鉄鋼,化学で高い伸びとなっている.非製造業は製造業よりも伸びが低いが,陸運業,倉庫・運輸関連業で伸びが高くなっている.機械産業関連では精密機器で製造業平均を上回り,電気機器はほぼ製造業平均を若干上回る伸びとなっている.これに対して輸送用機械では先程みた需要見通しと同様に緩やかな成長率にとどまっている.

 

1-1-5 輸出企業の採算円レートと調査直前月のレート(円)

調査年度 輸出企業の採算

円レート

調査直前月のレート 直前月レート-

採算円レート

平成12年度 107.0 112.2 5.3
13 115.3 127.4 12.0
14 114.9 122.3 7.4
15 105.9 107.9 2.0
16 102.6 103.8 1.3
17 104.5 118.6 14.1
18 106.6 117.3 10.8
19 104.8 122.3 7.6
20 97.3 90.4 -6.9
21 92.9 89.6 3.3
22 86.3 83.4 -2.9
23 82.0 77.9 -4.2
24 83.9 83.6 -0.2
25 92.2 103.5 11.2
26 99.0 119.4 20.4
27 103.2 121.8 12.7
28 100.5 116.0 15.5
29 100.6 113.0 12.4
30 99.8 112.5 12.7
令和元年度 100.2 109.2 9.0
99.8 103.8 4.0
101.5 113.9 12.4
114.5 134.9 20.5

同じく内閣府の「企業行動に関するアンケート調査」では毎年,採算円レートの調査も行われている(表1-1-5).今回の調査では調査時点の2023年1月ではすでに超円安から為替レートは若干戻した時点にあったが(調査直前月の2022年12月のレートは134.9円),この水準でも超円高であることには変わりはない.採算円レートは円安による原材料のコスト高などから円安方向に進んでおり114.5円/ドルと前年度調査に比べて13円の円安となった.円安が進むと原材料価格の上昇により採算円レートは円安方向に動くが,大きく円安に振れる時は実勢レートと採算円レートの乖離幅は極めて大きくなる.実際のところ,令和4年度の差額は20.5円もの差があり,これは2000年度調査(平成12年度調査)以降ではアベノミクス下で円安が大きく進んだ2014年度調査(平成26年調査度)と同様に断然大きな数字となっている.これは当然のことながら企業収益を大きく持ち上げることになり,一時150円を上回った円安は2000年以降を見ても異常というほかはなく,この時点では乖離差がもっと大きかったものと考えられる.

 

1-1-6 輸出企業の業種別の採算円レート(令和4年度調査)

調査年度 採算円レート
全産業 114.5
製造業 112.7
(素材型製造業) 113.6
(加工型製造業) 110.2
(その他製造業) 118.5
 食料品 115.0
 繊維製品 110.8
 パルプ・紙 116.6
 化学 114.1
 医薬品 108.0
 ゴム製品 125.0
 ガラス・土石製品 115.1
 鉄鋼 121.2
 非鉄金属 105.3
 金属製品 120.4
 機械 111.5
 電気機器 105.7
 輸送用機器 116.3
 精密機器 111.0
 その他製品 120.9

(注)業種分類は証券取引所の定める業種による.

素材型製造業:繊維製品,パルプ・紙,化学,鉄鋼,非鉄金属 

加工型製造業:機械,電気機器,輸送用機器,精密機器

 

次に令和4年度調査(2022年度調査)における製造業の採算円レートについて見ることにしよう.製造業平均では112.7円であるが,輸入原材料比率が低い加工型製造業は110.2円となって,そのなかでも電気機器が105円台となっている.輸入原材料比率の髙い素材型製造業は加工型製造業よりも円安水準にあり,かつばらつきが見られており鉄鋼,金属製品など輸入原材料比率の高い業種では円安で採算が悪くなり採算レートは120円を上回る(表1-1-6).

 

1.1.2 産業の動向 

産業の動きを鉱工業生産指数第3次産業活動指数で見ることにしよう.この両者でGDPの9割以上をカバーしている(鉱工業生産指数が2割,第3次産業活動指数が7割を占める).

 

表1-1-7 鉱工業生産指数 業種別の推移(暦年,2015=100,前年比伸び率,%)

  生産指数 伸び率
2020 2021 2022 2021 2022
鉱工業 90.6 95.7 95.6 5.6 -0.1
製造工業 90.7 95.7 95.7 5.5 0
 鉄鋼業 80.1 92.7 86.5 15.7 -6.7
 非鉄金属工業 90 96.9 95.9 7.7 -1.0
 金属製品工業 86.5 90.0 89.2 4.0 -0.9
 生産用機械工業 95.3 115.9 125.8 21.6 8.5
 汎用機械工業 89.8 100.7 103.5 12.1 2.8
 業務用機械工業 90.6 96.5 101.9 6.5 5.6
 電子部品・デバイス工業 96.4 110.4 107.4 14.5 -2.7
 電気機械工業 93.1 100.3 101.6 7.7 1.3
 情報通信機械工業 77.8 79.1 72.0 1.7 -9.0
 自動車工業 86.9 88.5 86.8 1.8 -1.9
 輸送機械工業(除、自動車) 84.1 69.3 74.7 -17.6 7.8
 窯業・土石製品工業 89.6 93.1 88.1 3.9 -5.4
 化学工業 96.3 99.7 101.1 3.5 1.4
石油・石炭製品工業 78.5 78.7 84.1 0.3 6.9
 プラスチック製品工業 97.6 100.6 98.6 3.1 -2.0
 パルプ・紙・紙製品工業 88.7 91.4 90.5 3.0 -1.0
 食料品・たばこ工業 97.6 96.9 95.7 -0.7 -1.2
  その他工業 81.5 85.4 84.6 4.8 -0.9
 鉱業 87.2 86.6 82.9 -0.7 -4.3

(出所)経済産業省「鉱工業指数確報」2023.4より作成

 

鉱工業生産指数は,月末にその前月分の集計結果が速報として発表されるので速報性に優れている.指数の作成については,生産動態統計調査(昭和5年より開始)により製造工場を対象に,毎月品目ごとに何トン,何台,何個と言った生産数量を報告してもらい,それを集計し,指数化する.地域別にも公表している.現在,鉱工業生産指数は2015年(平成27年)の工業統計調査の付加価値ウェイトを基準としたラスパイレス算式で作成されている.鉱工業生産指数は金額ベースではなくて基本的には何台,何トンといった生産数量を報告してもらって作成されている指数であり(集積回路等一部品目では金額で把握し,物価上昇分を調整して数量化している),物価の変動に左右されない実質ベースであることが大きな特徴である.

しかしながら鉱工業生産指数の中身についてみると,鉱工業「生産」といいながらその指数の中身は生産されているものを把握するというよりも完成されたものを把握しているのが実状だ.自動車や家電などの量産品は完成=生産で問題はないが,受注品,中でも大物の受注品となると問題である.例えば機械器具について言えば,この指数のもととなる生産動態統計調査記入要領をみると,「最終の社内検査または立会検査を完了したものをいい,修理改造,再製品などは含めません」とある.要するに,対象期間のうち生産されたものではなくて,完成されたものを把握しているのであって,受注から完成までの期間が長い大きな製作物などは完成した時点で初めて生産として把握されることになる.従って,大型製作物の場合は生産がかなり進行していても生産指数の中に含まれていないことになり,逆に完成した段階で生産として計上されるのでその際に生産指数がピントはね上がり読みづらくなる.その意味では,生産指数と言いながら生産の実態を厳密にはあらわしておらず,大きな受注生産品の多い「生産用機械工業」,「汎用機械工業」や「電気機械工業」の生産指数が大きく振れたりすることになる.このような事態を避けるために,水管ボイラ,一般用蒸気タ-ビン,非標準変圧器,鋼船といった製作開始から納期までの期間の長い大型製作物のうちで一定規模以上の大きなものは工事の「進ちょく量」という形で毎月把握し,これを指数に組み入れることにより生産の実態に近づけている.

アベノミクス下では2012年11月が景気の底で2018年10月が山と景気の拡張期間が71カ月にも及んだ.景気の山と谷はほほ鉱工業生産指数の山と谷に連動しており,暦年ベースでいえば2018年が最近での鉱工業生産指数の山となった.景気循環の谷は2020年5月,鉱工業生産指数も2020年5月が底で,暦年ベースでは2020年が景気や生産の底となる(表1-1-7)

表1-1-7には掲載されてはいないが,最近の生産の山である2018年の鉱工業生産指数は104.2と基準年である2015年の水準(100)を4.2%上回っている.2019年は景気の後退局面のなか前年に比べて3.0%低下した.2019年は景気が良くなかった年で生産が低下していたことに注目してほしい.2020年は輸出や民間設備投資の落ち込みから前年に比べて生産は10.4%と大きく低下した.業種別に見ると2020年は半導体を中心とした電子部品・デバイス工業のみが輸出の回復から前年の水準を上回ったが,それ以外の業種の生産は低下し二ケタの減少の業種が多く見られた.特に自動車工業,鉄鋼業,汎用機械工業など輸出依存度が高い業種で輸出の不振から生産の低下が目立った.

2021年は前年比5.6%の上昇となったものの前年の2020年の落ち込みの半分程度を取り戻すにとどまった.しかし業種別に見るとほとんどの業種で上昇し,生産用機械工業,鉄鋼業,電子部品・デバイス工業,汎用機械工業で二けたの伸びとなった.一方,半導体の供給不足を主因に自動車工業の生産は前年比で1.8%の上昇と前年の大きな落ち込みからの回復は小さかった.食料品・たばこ工業は個人消費の低迷を受け,ほぼ横ばいにとどまった.

2022年は半導体製造装置産業用ロボットなどの生産用機械工業が二桁に近い伸びを見せたものの鉱工業生産のうちウェイトが15.4%もある主力の自動車工業の低下(-1.9%)に加え,年後半からの電子部品・デバイス工業(同-2.7%)や情報通信機械工業の低下(-9.0%)により前年比横ばいにとどまった.機械関連では汎用機械工業,電気機械工業で前年に比べてかなりの伸び率の低下が見られた.生産が前年比横ばいにとどまったのは主力の自動車,半導体関連の生産の低下が大きく寄与している.

第3次産産業の動きを見たものに経済産業省「第3次産業活動指数」がある.この統計は 第3次産業に属する業種の活動を総合的に捉えることを目的とした指数であり,総合指数は個別業種のサービスの生産活動を,それぞれの業種の付加価値額ウェイトにより数量ベースで加重平均した指数で,鉱工業生産指数と同様,実質ベースと考えてよい.それゆえ鉱工業生産指数に対応した第3次産業の生産指数と言えるが,生産そのものではないので「活動」という表現をとっている.

第3次産業活動指数は,第3次産業の生産活動を数量面から捉えた指標(鉱工業生産指数と同様に,数量ベースであるために物価変動の影響を受けない)で,そのため活動の状況を示す数量系列を最優先に個別業種ごと(細分類)に活動をもっとも的確に代表していると考えられる系列を選定している.例えば,電力業は発受電電力量,ガス業はガス生産量,映画業では入場者数,カルチャーセンターは受講生数等である.数量が得られないものについては金額をデフレーター(物価指数)で割って実質化している.例えば,卸売業ならば販売額を国内企業物価等で割って実質化している.金額も得られない場合は生産の動きを代用し得る数量データ(例えば冠婚葬祭業では婚姻件数,死亡者数),更には生産の動きを代用し得る金額データ(洗濯業の洗濯代,理髪業の理髪料等)を用いて指数化している.

 

表1-1-8 第3次産業活動指数 業種別の推移(暦年,2015=100,前年比伸び率,%)

  活動指数 伸び率
2020 2021 2022 2021 2022
第3次産業総合 96 97.4 99 1.5 1.6
電気・ガス・熱供給・水道業 97.5 98.7 100 1.2 1.3
 情報通信業 102.8 104.4 105.2 1.6 0.8
 運輸業、郵便業 90.5 91.6 96.3 1.2 5.1
 卸売業 91.3 92 86.9 0.8 -5.5
 金融業、保険業 100.9 105.2 110.8 4.3 5.3
 物品賃貸業(自動車賃貸業を含む) 105.3 104.1 102.8 -1.1 -1.2
 事業者向け関連サービス 102.4 103.4 105.3 1.0 1.8
 小売業 97.5 98 97.1 0.5 -0.9
 不動産業 101.4 101.3 99.1 -0.1 -2.2
 医療、福祉 104.7 109.4 112.2 4.6 2.6
 生活娯楽関連サービス 74.1 73.2 82.9 -1.2 13.3

(出所)経済産業省「第3次産業活動指数」2023.2より作成

 

第3次産業活動指数(総合)を見ると(表1-1-8鉱工業生産指数と同様に2020年5月に底をつけてその後急速に回復したが,2021年に入ってからは一進一退で推移している.暦年ベースで見ても,2021年,2022年と低い伸びが続いている.

第3次産業活動指数は2020年の前年比‐6.9%もの大きな低下のあと,2021年は回復が期待されたが,個人消費は引き続き回復に力強さを欠き,それを裏付ける形で全体では1.5%と小さな伸びにとどまった.鉱工業生産の伸びに比べれば低い伸びである.金融業,保険業(前年比伸び率4.3%)と医療,福祉(4.6%)で伸びが見られたものの,生活娯楽関連サービス業,物品賃貸業,不動産業では伸び率は低下した.生産活動に連動する卸売業でも小さな伸びにとどまった.2022年は前年並みの1.6%の伸びにとどまった.2021年,2022年の二年分の伸びを足しても2020年の落ち込みの半分にも達しない.生産活動に連動する運輸業,郵便業生活娯楽関連サービス,金融業,保険業はかなりの伸びを見せたが,消費関連の小売業,卸売業では前年を下回った.

1.1.3 機械産業の生産動向

 1-1-9 鉱工業生産指数 機械産業の生産動向(四半期)(前期比伸び率,%)

  2021 2022
  1-3 4-6 7-9 10-12 1-3 4-6 7-9 10-12
生産用機械工業 16.4 -4.1 2.8 6.9 5.3 -9.7 15.0 -6.5
汎用機械工業 0.5 -1.0 1.2 4.7 1.6 -9.1 10.0 -1.6
業務用機械工業 11.1 -1.4 2.6 -4.2 7.8 -5.7 9.1 1.0
電子部品・デバイス工業 -1.0 3.0 9.7 -1.9 -1.2 -4.9 0.2 -6.5
電気機械工業 7.4 -2.8 -6.9 2.6 7.2 -7.8 3.9 3.6
情報通信機械工業 10.1 -19.9 -5.5 1.9 0 -21.0 31.3 6.3
自動車工業 -4.7 -8.6 -14.8 14.6 -1.0 -12.3 18.0 3.3
輸送機械工業(除、自動車) -6.7 -4.3 -2.6 2.2 2.0 2.4 7.2 3.9

(出所)経済産業省「鉱工業指数確報」2023.4より作成

 

機械産業の各業種の動きを2021年以降,四半期別にについて見ることにしよう(表1-1-9)

自動車工業の生産は半導体の供給不足を主因に不振で,2021年の1~3月期から7~9月期にかけて3期連続前期比での低下となった他,2022年に入ってからも前期比でマイナスが続き2022年4~6月期には前期比で二桁の低下となった.その後2022年7~9月期には半導体の需給の緩和から大きく上昇したが,1年半余りの生産の低調から2022年10~12月期でも生産水準は低く生産指数は93.3(2015=100)にとどまっている.同時期の内訳は乗用車が92.2,単体・自動車部品が93.6の水準.

生産用機械工業の生産は,2022年7~9月期までは半導体製造装置に大きく支えられて伸びを続けていた.世界的な半導体関連需要の減少から2022年10~12月期は半導体製造装置の生産は低下し,押し上げ効果は弱まった.しかしながら産業用ロボット建設・鉱山機械の生産は引き続き堅調で,これらの機種にも支えられ,2022年10~12月期でも生産用機械工業の指数は124.9(2015=100)と高水準にある.このような状況から現在においても機械産業はもちろんのこと鉱工業の生産を牽引していると言える.

汎用機械工業は物流や半導体関連でコンベアの生産が大きく上昇したが,ボイラ・原動機は生産が上向いたものの,水準は引き続き低い.業務用機械工業事務用機器分析機器・試験機の生産が大きく上昇したことから前年に引き続き上昇傾向にある.

電子部品・デバイス工業は世界的な半導体需給の緩和から2021年10~12月期以降,生産は低下傾向にある.2022年でみると集積回路で7.0%生産が上昇したものの,電子部品が-20.6%と大きく低下したことから電子部品・デバイス工業全体で前年比2.7%の低下となった.

電気機械工業は2022年にはいっても,回転電気機械電池を中心に前年に引き続き生産は上昇傾向にある.

情報通信機械工業デスクトップ型パソコンが2021年から,ノート型パソコンが2022年から生産が低下しており,全体として低下傾向にある.

次に機械産業の暦年ベースの生産の推移を業種別に見る.

表1-1-10 生産用機械工業の生産推移(暦年,2015=100,前年比伸び率,%)

  生産指数 伸び率
2020 2021 2022 2021 2022
生産用機械工業 95.3 115.9 125.8 21.6 8.5
 農業用機械 79.8 95.8 92.7 20.1 -3.2
 建設・鉱山機械 95.3 115.5 121.2 21.2 4.8
  (ショベル系掘削装置)  109.3 134.3 140.4 22.9 4.5
 生活関連産業用機械 86 84 79.3 -2.3 -5.6
  (印刷機械) 52.8 60.8 64.9 15.2 6.7
 基礎素材産業用機械 75 83.8 87.1 11.7 3.9
  (化学機械) 68.6 68.7 70.3 0.1 2.3
  (プラスチック加工機械) 82 103.3 106.3 26.0 2.9
 金属加工機械 53.4 62.7 75 17.4 19.6
  (旋盤) 52.7 65.3 89.1 23.9 36.4
  (研削盤) 66.7 62.6 75.4 -6.1 20.4
  (金属工作専用機) 58.3 44.2 41.7 -24.2 -5.7
  (マシニングセンタ) 44 63.4 73 44.1 15.1
  (機械プレス) 86.9 68 71.3 -21.7 4.9
 半導体・フラットパネルディスプレイ製造装置 134 176 203.2 31.3 15.5
  (半導体製造装置) 141.1 197.2 234.8 39.8 19.1
 機械工具 115.5 138.1 125.7 19.6 -9.0
 その他の生産用機械 100.5 122.2 135.6 21.6 11.0
  (繊維機械) 98.8 139 164.9 40.7 18.6
  (産業用ロボット) 124.4 163.3 187.4 31.3 14.8

(注)(  )表示はそれぞれの品目の主製品を取りあげている.以下の表1-1-11~1-1-13も同じ

(出所)経済産業省「鉱工業指数確報 」2023.4より作成.以下の表1-1-11~1-1-13も同じ.

 

生産用機械工業(表1-1-10)では2020年はコロナ禍によりピークの2018年(最近数年における生産の山を意味し,多くの業種で2018年に山をつけている)から18.1%の大幅な低下となった.しかし,2020年10~12月期以降生産は上昇に転じた.設備投資関連の生産用機械工業はリーマン・ショックなどの大きなショックの後は投資マインドの低迷が続くことなどから生産の回復がかなり遅れるのが普通であるが,今回は違った.世界的な半導体関連需要の急増に伴い半導体製造装置が輸出を中心に大きく伸びたことや,建設機械,産業用ロボット,プラスチック加工機械も好調で2021年の前年比21.6%もの大幅な上昇のあと2022年も生産は好調に推移した.しかし世界の半導体需要に陰りが見え始めたことから半導体製造装置の生産が2022年7~9月期にピークを迎え生産用機械工業の2022年の生産の伸びは8.5%と前年の半分以下となった.しかし2022年の生産水準は125.8と前回のピークの2018年の水準(116.3)を大きく上回っている.

品目別に生産用機械工業の2022年の動きを見ると,コロナ禍でも高い生産水準が続いていた半導体製造装置は中国等への輸出の好調から2021年は39.2%の上昇と前年を大きく上回り(2015年を100とした2021年の水準は197.2),直近のピークである2018年の水準(同150)を大きく上回った.2022年は更に生産が上向き前年比19.1%の上昇,生産水準では234.8となった.しかしながら2022年10~12月期以降,世界的な半導体関連需要の減少の影響から生産は低下して生産用機械への押し上げ効果は弱まった.2019年には生産が大きく低下した産業用ロボットは2020年ではコロナ禍にもかかわらず前年を5.3%上回り,2021年は伸びが加速化し,前年比31.3%もの大幅上昇となった.省力化・自動化の流れは強く,米国を中心とした輸出向けが好調で2022年の生産も14.8%の伸びとなった.ショベル系掘削装置は輸出が好調で2021年は2割を超す生産の伸びとなった.2022年も伸び率自体は低下したが,高水準を維持している.

輸出依存度の高い工作機械では金属工作専用機の生産は低迷したが,旋盤,マシニングセンタで大きな生産の上昇を見せたものの生産の水準自体は依然として低い.旋盤,マシニングセンタは中国向けの輸出がかなり回復し,内需は投資マインドの回復などから緩やかに回復している.自動車向けが主力の機械プレスは2022年には前年比4.9%の上昇と3年連続のマイナスのあとプラスとなったもの自動車生産の低迷から水準は低い.

景気の動きに対して生産が敏感に反応する射出成型機や押出成形機などのプラスチック加工機械の生産は上昇傾向にある.特に輸出においては押出成形機がEVのバッテリー部品用に中国向けを中心に急増している.

 

汎用機械工業(表1-1-11)は2020年で輸出や民間設備投資の落ち込みから前年を12.1%低下し,ピークの2018年の水準からは17.7%の大幅な低下となった.2021年は前年の生産の低下を取り戻すかのように12.1%の上昇となり,ほぼコロナ禍前の2019年の水準に戻った.2022年は前年比プラスとなったものの,前年比2.8%と伸び率は小さい.2022年の動きをみると主力のボイラ・原動機は2019年以降低水準で推移している.直近の生産の山である2018年に比べれば80.5%の水準にとどまっている.汎用内燃機械の生産水準は高いが,水管ボイラ,一般用蒸気タービンでは石炭火力発電の抑制の影響が強く出ており低水準にとどまっている.

一方,搬送用のコンベヤは物流が比較的好調であったことや半導体製造業向けに伸びたことから生産は伸び率が大きく,かつ高い水準で推移している.公共工事の依存度が高いポンプは横ばい,化学プラント向けの圧縮機は上昇傾向にある.プラスチック機械と同様に景気の動向に生産が敏感と言われている固定比減速機は景気の落ち込みと同時に2020年は前年比-18.9%と大きく落ち込んだが,景気の回復につれて2021年でその落ち込みを取り戻し,2022年でさらに生産が上向いた.

 

業務用機械工業(表1-1-11)は2022年の生産は前年に比べて5.6%上昇と二年連続の上昇となった.事務用機器,分析機器・試験機の生産が上昇した.計測機器は横ばい,光学機器・レンズの生産は低下した.

 

表1-1-11 汎用機械工業,業務用機械工業の生産推移(暦年,2015=100,前年比伸び率,%)

  生産指数 伸び率
2020 2021 2022 2021 2022
汎用機械工業 89. 100.7 103.5 12.1 2.8
 ボイラ・原動機 70.5 76 82.4 7.8 8.4
  (水管ボイラ) 39.4 40.2 44.1 2.0 9.7
  (一般用蒸気タービン) 47.2 24.6 42.4 -47.9 72.4
  (汎用内燃機関) 93.8 125.6 125.3 33.9 -0.2
 ポンプ・圧縮機械 101.9 119.7 122.5 17.5 2.4
  (ポンプ) 88.1 88.9 87.3 0.9 -1.8
  (圧縮機) 93.2 95.2 100.7 2.1 5.8
  (空気圧縮機) 111.8 151.2 164 35.2 8.5
 運搬機械 100.4 98.2 107.4 -2.2 9.4
  (エレベータ) 90.9 84.4 87 -7.2 3.1
  (運搬用クレーン) 77.3 79.6 80.8 2.8 1.6
  (コンベヤ) 134.4 136.9 164.3 1.9 20.0
 冷凍機・温湿調整装置 96.6 108.5 109 12.3 0.5
 汎用機械器具部品 85.6 100.1 98.1 16.9 -2.0
 (固定比減速機) 84.3 102.7 107.8 21.8 5.0
  (軸受) 81.5 101.3 94.5 24.3 -6.7
業務用機械工業 90.6 96.5 101.9 6.5 5.6
 事務用機器 124.2 120.5 150 -3.0 32.8
 計測機器 104.2 119.4 120.3 14.6 0.8
 分析機器・試験機 97.6 102.4 113.5 4.9 10.8
  (分析機器) 99.8 104.8 120.8 5.0 15.3
 光学機器・レンズ 68.8 75.6 71.3 9.9 -5.7
  (カメラ) 79.4 86.6 80.5 9.1 -7.0

 

電子部品・デバイス工業(表1-1-12)では2020年はコロナ禍にもかかわらず輸出を中心とした回復があり前年を1.5%上回った.世界的な半導体需要の拡大を受けて2021年の生産は前年比14.5%と上昇したが,半導体需要の緩和から2022年の4~6月期より集積回路の生産は緩やかに低下しており,2022年の生産は7.0%の上昇にとどまった.一方,電子部品の生産は前年比-20.6%と大きく低下している.

表1-1-12 電子部品・デバイス工業,電気機械工業,情報通信機械工業の生産推移(暦年,2015=100,前年比伸び率,%)

  生産指数 伸び率
2020 2021 2022 2021 2022
電子部品・デバイス工業 96.4 110.4 107.4 14.5 -2.7
 集積回路 106.1 126.1 134.9 18.9 7.0
 電子デバイス 59.7 64.6 57.2 8.2 11.5
 電子部品 119.1 131 104 10.0 -20.6
 電子回路 92.2 111.9 114.7 21.4 2.5
 その他の電子部品 107.2 120.7 128.6 12.6 6.5
電気機械工業 93.1 100.3 101.6 7.7 1.3
 回転電気機械 98.6 107.8 112.2 9.3 4.1
(一般用タービン発電機) 49 61.6 43.2 25.7 -29.9
(非標準三相誘導電動機) 86.1 90.7 98.4 5.7 9.6
(小型電動機) 98.1 104.9 104.9 6.9 0
(サーボモータ) 115.2 134.5 148.7 16.9 8.7
 開閉制御装置・機器 92.3 97.6 97.4 5.7 -0.2
  (開閉制御装置) 97.6 95.5 88.5 -2.2 -7.3
 その他の産業用電気機械 74.7 72.7 77.2 -2.7 6.2
  (電力変換装置) 65.4 66.1 71.9 1.1 8.8
 家事用機器 83.4 80 81.8 -4.1 2.3
 空調・住宅関連機器 98.8 94.2 98.3 -4.7 4.4
 配線・電球・照明機器 87 90.1 89.4 3.6 -0.8
 電池 107.9 134.8 131.6 24.9 -2.4
  (リチウムイオン蓄電池) 116.3 163.3 165.5 40.4 1.3
 電子応用装置 110.2 126.8 123.4 15.1 -2.7
 電気計測器 108.3 129.8 133.9 19.9 3.2
  (半導体・IC測定器) 140.1 216.9 209.5 54.8 -3.4
 その他の電気機械 22.1 16.1 11 -27.1 -31.7
情報通信機械工業 77.8 79.1 72 1.7 -9.0
 有線通信機器 75.7 71.8 65.4 -5.2 -8.9
 無線通信機器 65.1 87 71.4 33.6 -17.9
 民生用電子機器 74.1 69.2 64.3 -6.6 -7.1
  (薄型テレビ) 23.7 15.1 25.4 -36.3 68.2
  (カーナビゲーションシステム) 88.2 87.3 84.2 -1.0 -3.0
 電子計算機 112.8 101.8 92.4 -9.8 -9.2
  (デスクトップ型パソコン) 90 64.5 57.6 -28.3 -10.7
  (ノート型パソコン) 157.5 159.1 146.3 1.0 -8.0
 情報端末装置 70.3 66.9 68.4 -4.8 2.2

 

電気機械工業(表1-1-12)では2022年は前年比1.3%の上昇と前年に引き続きプラスの伸びとなり,2019年の生産水準にまで戻した.主力の回転電気機械非標準三相誘導電動機サーボモータの伸びから2022年は前年比4.1%の伸びとなり,ピーク時の2018年の水準に達したが,開閉制御装置・機器の生産は横ばいにとどまった.

電池の生産は前年比2.4%の低下となったが,生産の水準は高い.特にリチウムイオン乾電池については2022年では前年比1.3%の伸びにとどまったものの,生産は車載用が好調であることから,165.5とピーク時(2018年で145)を大きく上回り,生産水準は極めて高い状況にある.電子応用装置,電気計測器の生産水準も高く,なかでも電気計測器のうち半導体・IC測定器の生産水準は高い.

 

情報通信機械工業(表1-1-12)は2022年では生産は前年を9.0%下回り低下傾向にあり,生産水準も72(2015年=100)とかなり低い.

主力の電子計算機が2022年で前年比9.2%の低下で,特にデスクトップ型パソコンは前年比で10.7%の低下となった.ノート型パソコンの生産もコロナの鎮静化から減少傾向にあり,生産水準は146.3と高いものの2019年のピーク時(197.2)からは低下傾向にある.小中学校での導入数量の減少,在宅勤務や在宅授業の減少などの影響を大きく受けている.国内生産からの撤退が続く薄型テレビは低水準で,カーナビゲーションシステムの動きも鈍い.

 

表1-1-13 自動車工業,輸送機械工業(除く自動車工業)の生産推移(暦年,2015=100,前年比伸び率,%)

  生産指数 伸び率
2020 2021 2022 2021 2022
自動車工業 86.9 88.5 86.8 1.8 -1.9
 乗用車 88.8 85.5 84.3 -3.7 -1.4
 バス 48.3 45.4 54.4 -6.0 19.8
 トラック 73 87.4 87 19.7 -0.5
 車体・自動車部品 90.5 93.5 89.8 3.3 -4.0
 二輪自動車 78 108.3 120 38.8 10.8
輸送機械工業(除、自動車工業) 84.1 69.3 74.7 -17.6 7.8
 産業車両 88.3 102 107.9 15.5 5.8
(フォークリフトトラック) 93.9 103.5 109.6 10.2 5.9
 航空機部品 78.2 51.2 68.7 -34.5 34.2
 船舶・同機関 84.2 70.9 68.7 -15.8 -3.1
  (舶用ディーゼル機関) 89.5 83.7 92.7 -6.5 10.8

 

自動車工業(表1-1-13)では直近の生産のピークの2018年の水準から比べると2022年は大きく低下しており19.3%の低下と2割に近い落ち込みとなった.2021年の前年比1.8%の生産の上昇のあと2022年の生産は前年比1.9%の低下で,2020年のコロナによる落ち込み(前年比-17.7%)をほとんど取り戻すことができなかった.2020年の落ち込みの状態が3年間も続いている状況にある.2021年,2022年と半導体の供給不足の影響が大きかった.主力の乗用車は2020年の後半には急回復をみせたが2021年に入ってからは四半期ベースで2021年7~9月期まで低下が続き前年比3.7%の低下となったのち,同様の状況が2022年の前半まで続いた.車体・自動車部品は2021年の前年比3.3%の上昇の後,2022年は4.0%もの低下となった.バス,トラックの生産水準モ低い.一方,二輪自動車の生産は上昇傾向にあり,2022年の生産水準は120と高水準にある.

 

輸送用機械(除,自動車工業)(表1-1-13)の生産はここ数年低下傾向にあり,生産水準も低い.2021年は前年に比べて17.6%低下したのち,2022年は前年比で7.8%の上昇となった.好調な物流の動きを受けて産業車両(主にフォークリフトトラック)の生産は2021年の15.5%と大幅な上昇となったのち,2022年には5.8%の上昇となった.航空機部品は2021年の輸出の不振による前年比34.4%の低下の後,2022年は前年比で34.2%の上昇となったが水準は低い.船舶・同機関も低水準が続いている.

                     〔近藤 正彦 元中央大学・立教大学兼任講師〕

目次に戻る

1.2 工業研究

1.2.1 研究費、研究者数の動き

図1に研究費総額と対国内総生産比率を示す.2021年度の研究費総額は19兆7408億円(前年度比2.6%増)で,国内総生産に対する比率は3.58%である.

図1 研究費総額とその対国内総生産比率(1)~(5)

 

図2 研究主体別の研究費と研究費総額に対する割合(1)~(5)

 

図2は研究主体別研究費の額と研究費総額に対する割合の年度による変化を示している.2021年度の研究費総額の72.1%を占める企業等の研究費は前年度比2.6%の増加,研究費総額の8.8%を占める非営利団体・公的機関の研究費は前年度比1.9%の増加,19.1%を占める大学等の研究費は2.9%増となっている.

図3は,自然科学に使用した研究費を基礎研究費,応用研究費,開発研究費に分類した性格別の研究費の額と自然科学に使用した研究費全体に占める割合の年度ごとの変遷を示している.企業等で行われる開発研究費が最も多く,2021年度は11兆7517億円と自然科学に使用した研究費全体の64.1%を占め,基礎研究費は2兆8101億円で15.3%,応用研究費は3兆7791億円で20.6%を占めている.

図3 性格別研究費とその割合(1)~(5)

図4 特定目的別研究費(1)~(5)

 

図4は,2021年度の研究費のうち,特定の目的のために使用した研究費の額を示している.ライフサイエンス分野が3兆2994億円で研究費全体に占める割合が16.7%,情報通信分野が2兆7655億円で14.0%,環境分野が1兆3807億円で7.0%,エネルギー分野が9904億円で5.0%,物質・材料分野が1兆524億円などとなっている.前年度との比較では,ナノテクノロジー分野が42.7%,環境分野が31.2%の大幅増となっている.

企業における2021年度の研究費を産業大分類別にみると,「製造業」が12兆1879億円と研究費全体に占める割合が86.0%と最も多く,次いで「学術研究,専門・技術サービス業」が8224億円(同5.8%),「情報通信業」が4849億円(同3.4%)となっている.

表1は,2021年度の企業における研究費のうち自然科学に使用した研究費を産業大分類別に,研究費総額,基礎研究費,応用研究費,開発研究費に分けて示している.自然科学に使用した研究費は,全産業で前年度比2.7%増,「卸売業」で170.2%増である.製造業の中では「輸送用機械器具製造業」が最も多い3兆6852億円,前年度比5.0%減であり,2021年度に自然科学に使用した研究費総額の26.0%を占めており,その88.4%が開発研究に使われている.

表1 産業大分類別の自然科学に使用した企業の研究費総額及び比率(1)~(5)

 

図5は男性研究者と女性研究者の数を示している.1999年度に7.6万人であった女性研究者は,年々増加し,2021年度には17.54万人になり,まだ割合は少ないものの全研究者の17.8%となっている.

図6は職種別研究関係従業者数の推移を示す.研究者が90.1万人(全体に占める割合79.3%),研究事務その他の関係者が10.2万人(同8.9%),研究補助者が7.6万人(同6.6%),技能者が6.0万人(同5.2%)となっており,前年比で,研究補助者が11.5%増,研究事務その他の関係者が8.0%増,研究者が2.0%増,技能者が0.7%増となっている.

 

図5 男性研究者と女性研究者の数(1)~(5)

 

図6 職種別研究関係従業者数(1)~(5)

 

1.2.2 国際技術交流(技術貿易)の動き

図7は諸外国との特許,ノウハウなどの技術の提供及び受入れである技術輸出の受取額と技術輸入の支払額を示している.2021年度の技術輸出の受取額は3兆6206億円で前年度に比べ16.8%増となり,4年ぶりに増加した.このうち海外の親子会社からの受取額の受取額全体に占める割合は70.8%であり2兆6530億円となっている.技術輸入の支払額は6201億円で前年度に比べて10.8%増であり,2年連続で増加した.このうち海外の親子会社への支払額は支払額全体に占める割合が38.7%であり2401億円となっている.

図7 技術輸出受取額と技術輸入額(1)~(5)

 

図8は相手国別の技術輸出の受取額,図9は相手国別の技術輸入の支払額を示している.いずれもアメリカ合衆国相手が最も多く,技術輸出の受取額は1兆2889億円で前年度比9.0%増であり,受取額全体に占める割合は35.6%,支払額は4388億円で11.8%増であり,支払額全体に占める割合は70.8%となっている.また,技術輸出の受取額は,中国,タイ,イギリスが2~4位を占め,中国が5951億円で前年度比22.6%増,タイが3422億円で前年度比26.3%増,イギリスが3419億円で13.3%増となっている.技術輸入の支払額は,アメリカ合衆国の他にはスイス,イギリス,ドイツ,デンマークなどヨーロッパ諸国が多い.

 

図8 国別の技術輸出の受取額(1)~(5)

 

図9 国別の技術輸入の支払額(1)~(5)

〔手塚 明 産業技術総合研究所〕

参考文献

(1) 2022年(令和4年)科学技術研究調査・結果の概要, 令和4年12月, 総務省

(2) 2021年(令和3年)科学技術研究調査・結果の概要, 令和3年12月, 総務省

(3) 2020年(令和2年)科学技術研究調査・結果の概要, 令和2年12月, 総務省

(4) 2019年(令和元年)科学技術研究調査・結果の概要, 令和元年12月, 総務省

(5) 平成30年科学技術研究調査・結果の概要, 平成30年12月, 総務省

目次に戻る