20. 産業・化学機械と安全
章内目次
20.1 化学プラント,化学プラントエンジニアリング
20.1.1 業界の現状
2021年は新型コロナウイルス感染症(以下、コロナと称す)の影響が完全にはおさまらず,経済活動も回復基調にあるもののコロナ前の状況には戻り切らなかった1年となった.コロナによる影響はあるものの,少し長いスパンでわが国の一次エネルギー供給状況を見てみる.経済産業省「エネルギー白書2021」によると,一次エネルギーの全体供給量は図20-1-1に示すように2005年ころをピークとして,省エネ技術の普及加速などが功を奏し減少傾向にある.この中にあって特筆できるのは非化石エネルギーのうち国内産として供給できる再生可能エネルギーが着実に増加してきていることである.
図20-1-1 一次エネルギー国内供給の推移(1)
一方で一次エネルギーにおける化石エネルギーの依存度を見ると,わが国では図20-2-2に示すように原子力,水力,再生可能エネルギーの導入を積極的に進めている欧米先進国に比べ依存度が高いことがわかる.また,わが国では化石エネルギー資源のほとんどを輸入に依存している状況である.
図20-1-2 主要国の化石エネルギー依存度(2018年)(2)
わが国における一次エネルギー供給を国際情勢の影響を受けずに安定的なものとするためには,国内で生み出せる再生可能エネルギーのさらなる創出が求められるということになる.
この一次エネルギーは様々な用途に用いられるが,電力に変換されるものも多い.そこで次に最終エネルギー消費に占める電力消費の割合を示す電力化率のトレンドを見てみる(図20-2-3).東日本大震災以降,伸び率は低下しているものの,国内のエネルギー消費において電力を使ったものが増加していることがわかる.つまり,発電に必要なエネルギーの安定化がこの先も求められるということになる.
図20-2-3 電力化率の推移(3)
発電に必要なエネルギーの多様化においては,太陽光発電や風力発電に代表される再生可能エネルギーを用いたもの以外でも、カーボンニュートラルの観点から開発が進む新エネルギーと呼ばれる分野で開発が進められている.例えば水素やアンモニアを燃料とした発電がこれにあたる.発電においてはこれらの新エネルギーを燃焼させるための燃焼装置,タービンなどの機器開発・技術の確立,新たに機械設計分野で必要となる.また,燃料となる水素,アンモニアの精製設備についても整備されていくことになろう.これらの開発,設計においては運転時の機械や設備の安全面に対して十分な検討がなされなければならない.
このように機械設計エンジニアには,新たなエネルギー社会においても機械設計,機械安全の分野でこれまで取り扱い経験のない物質を対象とした検討をより早く,より確実に行っていくための手法を考え対応することが求められる.そのためには基本となる機械工学と,膨大な過去の類似実験等による蓄積データをつなぐデジタル技術の両者を駆使できる能力が求められることになる.
〔上田 毅 千代田化工建設㈱〕
20.2 産業機械
20.2.1 業界の現状
内閣府の2022年1月機械受注実績報告(1)は,「機械受注は、持ち直している」である.昨年の報告同様,図20-2-1に同HPの統計データをグラフ化したものを示す.本稿執筆時点で2022年4~6月期の受注総額見通しは出ていないが,IMFの2022年1月経済見通し(2)は,世界のGDP成長率が2021年の5.9%から2022年は4.4%に減速すると予測している.また,世界銀行も2022年1月の見通し(3)で,新型コロナウイルス感染症の再拡大や財政支援の縮小,供給のボトルネックに絡む問題の長期化の影響にさらされ,世界のGDP成長率は2021年の5.5%から2022年は4.1%に減速する見込みとしている.
国内に目を向けると,(一社)日本電機工業会(JEMA)の2022年1月度出荷実績報告(4)では,産業機械の先行指標となるプログラマブルコントローラ(PLC)の出荷実績が,前年同月比で10ヵ月連続,輸出も10ヵ月連続のプラスとなっている.しかし,半導体不足などの影響でPLCの2022年度出荷予想は2021年度比104%の微増としており,受注残解消の目途は立っていない.
図20-2-1 機械受注推移
一方で,国内の「ものづくり」は少子高齢化など構造的な人手不足や次々と寿命を迎えるインフラ関連装置・設備のメンテナンスなど,大きな課題にも直面している.製造業のDX(Digital Transformation/デジタル化)が加速する中で,わが国の強みはSDGs(Sustainable Development Goals/持続可能な開発目標)を体現する「人間中心のものづくり」であると考えている.「人,技術,現場のつながりを組織の枠を超えて強化していくエコシステム」が,日本の強みを生かすコンセプトと言える.企業・大学・個人が「ものづくりの競争領域・独自技術」を強化していくことが必須である.加えて,「ものづくりの協調領域・共通技術」であり安全,保守・保全,セキュリティなど当部門が担う機械工学分野については,部門活動を通じてさらに普及・深化・継承を図り,わが国産業機械の付加価値向上に貢献していく.
〔戸枝 毅 富士電機(株)/JEMA PLC業務専門委員会委員長〕