16. 加工学・加工機器
章内目次
16.1 概論
日本工作機械工業会の受注統計より2021年の日本工作機械メーカの受注総額は1兆5413億円と2020年の9018億円を約70%上回る好調な年となった.
内訳は内需が5105億円(2020年:3245億円),外需が1兆309億円(同5774億円)で,この数年60%前後であった外需の割合が2021年には67%と急激に上昇し外需依存の傾向が強まっている.日工会は,21年の受注額を1兆2000億円と予想していたが,9月に1兆4500億円へ上方修正を行い,実績はさらに上回った.
22年も好調が予想され受注額は1兆6500億円(内需5700億円,外需1兆800億円)としている.これは1965年に統計を取り始めて4番目の受注金額となり,外需は過去最高額である.しかしながら半導体・電気部品などの部品不足による生産遅れのリスク,素材や海上運賃の高騰などの影響によるコスト増の課題もある.
市場の動向は半導体産業向けの需要が引き続き好調に推移すると考えられる.電気自動車関連ではモーター,バッテリーなどの生産増加に伴う新たな需要,軽量化のための新素材の採用増加による金型の需要などがある.また内燃機関エンジンにおいても特に大型のエンジンの高効率化の需要が増えている.航空機はコロナの動向に依存するが,宇宙産業は好調である.
Additive manufacturingにおいては技術進歩が進み,航空宇宙・医療産業はもとより,金型,ロボット,自動産業への適用が進んでいる.トポロジー最適化による軽量化などを実現するための複雑形状部品にはPowder Bed Fusion方式(以下PBF)が,コーティング,部分付加や金型の修復ではDirect Energy Deposition方式(以下DED)が用いられている.PBF方式ではマルチレーザ方式により生産性を高めたり,レーザ光源や光学系の改善で面精度を向上する技術が進歩している.DED方式ではアプリケーションに応じた各種ノズルの開発が進んでいる.また両方式において積層状況のモニタリング・フィードバックにより,安定した生産が可能になり,量産に利用できる環境が整いつつある.
一方,生産に従事するエンジニアの不足は深刻であり,エンジニアリング技術の工作機械メーカ依存と自動化システムの需要が高まっている.また省エネルギーに対する要求が高まっており,5軸・複合加工機を用いた工程集約を行い,複数台の機械の工程を1台に集約したうえで自動化を行い,長時間の無人省人運転を行う仕組みが,今後のトレンドになると考えられる.このようなシステムでは稼働率集計,工具モニタリング,加工物品質や精度の計測,加工状況監視など現場の技術者が行っていた業務を自動化する必要がありセンシング技術とDX(Digital Transformation)を有効に利用した自律化が更に求められるだろう.
〔藤嶋 誠 DMG森精機〕
16.2 切削加工
本節では2021年に国内外の主な学術誌に掲載された切削加工に関する論文について述べる.対象とした学術誌は9誌で,この中で切削加工に関する論文は124編であった.本会論文集に3編,英文のJ. Adv. Mech. Des. Sys. and Manuf.に8編,精密工学会誌に10編,砥粒加工学会誌に5編,Prec. Eng.に16編,Int. J. Mach. Tools and Manuf.に18編,J. Manuf. Sci. Eng.に32編,CIRP Annalsに19編,Int. J. Auto. Tech.に13編である.
「chatter」のキーワードが付いた論文が13編あった.びびり解析(1),びびり抑制・切削安定性の向上(2)-(6)など,様々な制振に関する取り組みがなされている.「vibration」をキーワードとして振動を積極活用した加工法に関する論文が7編であった.これらのうち楕円振動切削に関する論文が4編あった(7)-(10).
切削シミュレーションに関する論文が15編あった.切削力の推定に関する取り組みや(11)-(14),有限要素解析を用いた取り組み(15),内部応力の可視化に関する取り組みがなされている(16).また,モニタリングに関する論文が6編あった.モニタリングでは,切削中の振動や主軸トルクのモニタリングだけでなく,切削温度に関する取り組みがなされている.
工具摩耗に関する論文が6編あった.工具摩耗検知に関する取り組みだけでなく,工具寿命予測に関する取り組みがなされている(17).チタン合金,CFRP,Inconelなどの難削材加工に関する論文が11編あった.難削材加工では,素材特性によって,加工設備・加工条件・切削工具に及ぼす影響が大きく異なるため,各材料での取り組みがなされている.仕上げ面品位の向上に関する論文が8編あった.これらのうちダイヤモンド工具を用いた取り組みや(18)-(21),加工誤差補正に関する取り組みがあった(17).切削加工の工具経路生成に関する論文が6編あった.
「micro」がキーワードについた論文は8編あった.このうち微細切削に関係するものが4編あった.また,新しい取り組みとして,AIや機械学習を活用した論文が4編あった(23)-(26).その他にも,高効率加工に関する研究(27),環境負荷軽減を目的とした切削中の工作機械の消費エネルギーの解析など(28)-(29)が報告されている.
〔西田 勇 神戸大学〕
16.3 研削・研磨加工
本節では,2021年に国内外のおもな学術誌に掲載された研削・研磨加工に関する論文について述べる.和文誌3誌(日本機械学会論文集・精密工学会誌・砥粒加工学会誌)と英文誌7誌(Journal of Advanced Mechanical Design, Systems, and Manufacturing・International Journal of Machine Tools and Manufacture・Journal of Materials Processing Technology・Journal of Manufacturing Science and Engineering・Precision Engineering・CIRP Journal of Manufacturing Science and Technology・CIRP Annals)を調査の対象とした.研削・研磨加工に関する論文は計73編あり,内訳は,研削加工に関するものが47編,研磨加工に関するものが26編であった.学術誌ごとの掲載論文数は表16-3-1に示すとおりで,Precision Engineering,Journal of Materials Processing Technology,砥粒加工学会誌における掲載論文数が多かった.英文誌に掲載された59編について筆頭著者の所属機関を国別にみると,中国が23編,日本が10編,ドイツが7編,インドが4編,アメリカとフランスがそれぞれ3編,トルコが2編,オーストラリア,スペイン,アイルランド,韓国,カナダ,スウェーデン,イランがそれぞれ1編であった.日本は中国に次いで多かったが,その内訳は,Journal of Advanced Mechanical Design, Systems, and Manufacturingに2編,Precision Engineeringに8編であり,掲載先が大きく偏っているという特徴が確認された.
研削加工の分野では,加工特性の予測モデルの提案が多岐にわたって行われた(1)-(10).具体的には,Inconel718の超音波振動援用研削における砥石摩耗の予測モデル(1)やシリコンウェーハの研削における砥粒切込み深さ(2)やサブサーフェスダメージ(3)の予測モデルのほか,アルミナの研削におけるサブサーフェスダメージの予測モデル(4)やチタン合金の研削における切りくず厚さや比研削抵抗の予測モデル(5)などが提案された.また,実際に砥石や砥粒,研削盤などの試作・検証を行った研究も多く行われた(11)-(16)ほか,加工状態のモニタリング技術に関する研究(17)(18)も行われた.
研磨加工の分野では,ラッピング(19)や化合物半導体基板のCMP(Chemical Mechanical Polishing)(20)-(23)といった遊離砥粒研磨のほか,噴射研磨(24)-(27)やバレル研磨(28)-(30),磁気粘弾性流体研磨(31)-(33)やスラリーのシアシックニング特性を利用した非接触研磨(34)-(36)といった自由砥粒研磨に関する研究も多く行われた.加工能率や仕上げ面品質の予測が多様なアプローチで行われ,個々の砥粒の挙動をモデル化した詳細な計算にもとづく予測方法(37)(38)が提案された一方で,実験データから学習用データセットをつくり,ニューラルネットワークを用いて予測する方法(23)の提案もなされた.
また文献(39)に,自動車産業分野における仕上げ加工技術に関する解説論文が掲載された.
表16-3-1 研削・研磨加工に関する論文の掲載数(2021年)
研削 | 研磨 | 計 | |
日本機械学会論文集 | 1 | 1 | 2 |
精密工学会誌 | 1 | 0 | 1 |
砥粒加工学会誌 | 8 | 3 | 11 |
Journal of Advanced Mechanical Design, Systems, and Manufacturing | 2 | 0 | 2 |
International Journal of Machine Tools and Manufacture | 1 | 5 | 6 |
Journal of Materials Processing Technology | 9 | 6 | 15 |
Journal of Manufacturing Science and Engineering | 0 | 0 | 0 |
Precision Engineering | 13 | 9 | 22 |
CIRP Journal of Manufacturing Science and Technology | 4 | 1 | 5 |
CIRP Annals | 8 | 1 | 9 |
〔佐竹 うらら 大阪大学〕
16.4 電気・化学加工
加工反力が極めて小さい放電加工と電解加工は,放射光遮蔽用ピンホールや燃料点火システムの噴射ノズルなどに必要な直径が200μm以下,深さが直径の10倍以上の微細深穴の加工に得意としている.微細深穴の放電加工において,高速ビデオカメラと画像処理技術を利用し,極間の絶縁耐性と加工特性に大きく影響する気泡や加工屑の挙動を観察し,極間から逸出する気泡の数や頻度,大きさの加工深さ依存性を明らかにし,気泡のフラッシング効果の重要性を提起している(1).また,パイプ電極にオリフィスを設け,加工屑の排出を促進し,加工速度を向上させている(2).一方,微細深穴の電解加工において,エポキシアクリル水溶液中で非対称時間双極電気泳動技術を利用し,均一性と耐久性を向上させた絶縁層を生成し,微細工具電極を製作する方法(3)や,ガラス管の内面に銀めっきを行い,導電性膜を製作し,耐久性を大きく向上させた側壁絶縁中空電極を作成する方法(4)が提案され,微細穴の加工精度と表面品質を向上させている.一方,荒加工に放電加工,仕上げ加工に電解加工を用いて,高精度・高品質な微細軸の加工法が提案され,加工実験により検証している(5).また,5Aのピーク電流を50nsの立ち上がり時間で実現するLCパルス発生器が提案され,再凝固領域が少ない放電加工や単結晶シリコンカーバイトなどの高抵抗率材料の高効率加工を実現している(6).
小型の単純工具を走査させ,複雑な3次元形状を創成する走査電解加工において,工具走査を高速にする方法としてパラレルメカニズムを導入し,加工面粗さの改善と加工精度の向上を実現している(7).また,電解液吸引工具による走査電解加工において,不働態被膜が発生しやすいチタン合金の被膜を破壊し加工可能な条件を明らかにしている(8).電解加工中の極間距離を一定に保ち,高精度の加工を実現するため,光学システムと高速な画像処理により,リアルタイムに極間検出と制御を実現し,難削材のニッケル基超合金の3次元形状の加工に応用し,有効性を検証している(9).
航空宇宙分野や医療分野などに幅広く適用されている金属積層造形物の表面仕上げ加工法として,キャビテーションによって引き起こされる塑性変形による表面強化と微細な凹凸を電気化学的溶解による表面仕上げの改善を可能にするキャビテーションピーニングと電解研磨の複合加工が提案されている(10).また,金属積層造形物の表面欠陥修復および表面平滑化を高効率で実現するため,大面積電子ビーム照射法が用いられている(11).一方,金属積層造形技術を利用し電極内部に微細流路を作製し,電極先端部から加工液を噴出させることでアスペクト比の高い深溝の放電加工を可能としている(12).また,電解加工の特徴を生かし,生体材料の加工(13)や柔らかい金属箔上のパタン加工(14)を実現している.
〔夏 恒 東京農工大学〕
16.5 エネルギービーム加工
エネルギービーム加工には,イオンビーム加工,電子ビーム加工,レーザ加工などが挙げられるが,本稿では特にレーザ加工に絞って説明したい.
近年進んできた,1.大出力レーザとして利用されてきたCO2レーザからファイバレーザへの変化,2.微細加工用のレーザとして利用されてきたピコ秒,フェムト秒レーザの高安定化,産業への応用,3.Additive Manufacturing への応用,といった方向が続いているように見受けられる.
レーザ加工の普及に伴い,技能検定にレーザー加工作業の試験が追加され,令和5年4月1日に施行される.具体的には「非接触除去加工」職種の一部に「レーザー加工作業」として加えられ,令和5年度前期からの試験を目指している(1).
レーザ溶接では,近年の電池用途にアルミニウムや銅の溶接への応用が多く報告されている.その手法としては,吸収されやすい短波長のレーザ発振器を用いる方法(2)やビームのプロファイルを変える手法,具体的にはレーザスポットの周りに弱いリング状のビームを重畳させることで,熱分布を制御する手法(3)が行われている.
微細加工への取り組みについては,シミュレーションにより光の吸収から物質の除去までの解析と,近年進展が進んでいる深層学習などを活用し加工条件の選定を自動化する試み等が行われている(4)-(5).
レーザ加工については,機械関係の学会以外にも,多くの発表の場がある.具体的には,国内では,応用物理学会,レーザー学会等,海外では米国光学会,LIA(The laser institute),SPIEなどが挙げられる.これら以外にも多くの論文誌,学術講演会があり,これらの中から,研究例を紹介する.
具体的な研究例として,微細加工を対象としたものでは,ダイヤモンドの加工に関して,パルス幅の影響について論じたり(6),ダイヤモンド工具(7)やレンズ(8)を作製した報告や,SiCインゴット内部に超短パルスレーザを集光し亀裂を進展させ分離した例(9),溶融飛散物と抑止することで,形状精度を向上した例(10)がある.
レーザにより表面をパターニングする研究も引き続き活発で,LIPSS(Laser-induced periodic surface structure)に関係する報告(11)-(12),2つのパルスを利用する方法(13)などが報告されている.
〔比田井 洋史 千葉大学〕
16.6 工作機械
2021年に国内外の学術誌8誌で発表された工作機械に関連する論文を調査したところ,48編であった.その内訳は,和文誌では日本機械学会論文集で2編,精密工学会誌で11編,砥粒加工学会誌で3編,英文誌ではJournal of Advanced Mechanical Design, Systems and Manufacturingで1編,ASME Journal of Manufacturing Science and Engineeringで7編,Precision Engineeringで7編,International Journal of Machine Tools and Manufactureで6編,CIRP annalsで11編であった.
分野別に分類すると,びびり・振動に関する論文が13編(1)-(13),軸受・ガイドに関するものが8編(14)-(21),熱特性に関するものが6編(22)-(27),制御に関するものが6編(28)-(33),ロボット加工に関するものが4編(34)-(37),その他が11編(38)-(48)であった.
工作機械の構造に起因するびびり・振動に関する論文は和文誌,英文誌共に多く,国内外で研究が盛んである.減衰機構を用いたびびり振動の抑制(1),加工システムや工具の異方性に着目したびびりの安定性(2)(4)(7),びびりを生じないツールパスの生成(3),びびりのビート効果に着目した研究(5),湿式およびMQL加工におけるびびり解析(8),ベイズ推論を用いたびびり安定判別(11),工作機械の構造上の非線形性を考慮した解析(13)などの研究が行われている.
軸受・ガイドに関する研究は国内で盛んである.主軸の転がり軸受の回転非同期振れの加工面への影響(14),直動ボールガイドに関しては高精度化(15)(18)や動剛性(16)(17),FEMモデルの構築(19)の研究がなされており,さらに空気静圧軸受の精度予測モデル(20)の研究も行われている.
熱特性に関する研究は,実験計画法によるNC旋盤の熱変形予測(22),機械学習で熱変形を予測する際にセンサが故障した場合の対策(23),5軸加工機の環境変動変数(24),サーモカメラ画像を用いた畳み込みニューラルネットワークによる熱変形の予測(25),熱的バランスを最適化する解析的モデリング手法の提案(26),大型工作機械の熱変形の研究(27)などが行われている.
制御に関する研究は,送り系の加減速により生じる工具たわみ量の補正(28),リニア同期モータの学習型制御(29),サーボ誤差を事前補償するためのシステムのモデル化(31),CNCテーブルによる5軸加工機の誤差補正(32),FTS加工における閉ループ形状誤差補正(33)が行われている.
ロボット加工に関してはすべて英文誌であり,国外での研究が盛んである.ロボットミーリングにおけるツールパスの最適化(34),5軸パラレルロボットによる加工軌跡のモデル化(35),ロボットミーリングにおけるびびり安定限界(36)(37)の研究が行われている.
その他の研究として,テーブル駆動系の消費電力を削減するための遺伝的最適化設計手法(43),パラレルメカニズムにおける追従誤差予測(45),接触面の変形解析(47),さらに工作機械の騒音(48)に至るまで幅広く行われている.
びびりやガイドに関する研究は国内で盛んであるのに対して,ロボット加工に関しては国外のみである.ロボットミーリングのびびり安定限界の研究も行われており,今後の実用化や普及が注視される.
〔山田 高三 日本大学〕
16.7 加工計測
近年,革新的な製品や付帯するサービスの創出などによる新たな価値創造の戦略が重視され,生産システムの変革が進展している.戦略の変化に迅速に適応するための戦術として,製造プロセスの全体最適化や効率化,予知保全に基づく新たな予測型生産システム(1)の実現が必須である.その製造プロセスには,急速なデジタルイノーベーションによるモノのインターネット(IoT)の実装を背景とした,自律性を本質とする知能化(スマート化)が求められる.加工計測はプロセスの情報化という重要な役割を担うため,中核的基盤技術としての高度化が重要な課題となっており,2021年も学術,産業の両面から幅広い研究開発が行われた.
本節では,加工計測に関連する基礎研究から実用化技術に至る,加工計測基礎,表面計測,三次元測定/幾何計測,機上計測/工作機械の運動精度評価,機上計測/加工モニタリングなどに関連する国内外の研究動向について述べる.まず,2021年に公表された加工計測に関連する代表的な学術誌の論文を調査した.調査対象は和文誌から日本機械学会論文集(1編),精密工学会誌(1編),英文誌からJournal of Advanced Mechanical Design, Systems and Manufacturing誌(6編),Precision Engineering誌(18編),CIRP Annals -Manufacturing Technology誌(6編)およびCIRP Journal of Manufacturing Science and Technology誌(4編)の34編である.
加工計測基礎では,原子間力顕微鏡(AFM)を組み込んだ走査型電子顕微鏡(SEM)内ナノインデンテーション/スクラッチ試験装置の高精度化を目的とした自己検知型ピエゾ抵抗カンチレバー(PRC)のドリフト低減手法(2)が提案された.また,レーザドップラ振動計において,レーザ干渉計と電気光学変調器(EOM)を用いた高周波数域(100Hz〜1MHz)のキャリブレーション手法(3)が報告されている.アナログ計測機の分解能と不確かさの関係(4),光学測定法における計測の不確かさと測定時間のトレードオフ(5)などの測定の信頼性に関わる「不確かさ」評価に関する基礎的研究も見られた.さらに,1mm以下から数mのマルチスケールにおける精密計測機の設計原理に関するスケーラビリティ(6)の考え方が示された.
表面計測では,長作動距離で高分解能を特徴とする,マイクロ表面微細構造の新たな光学的インライン測定原理(7)が提案された.また,マシンビジョン・トポロジー法による複雑な表面微細構造の微小摩耗計測における不確かさ評価(8),厳密な散乱理論モデルに基づく画像計測による機械加工面の官能評価手法(9)が報告された.
三次元測定/幾何計測では,座標測定の高度化として,接触式プローブによる歯車計測の高精度化(10),マルチフォーカス共焦点型の非接触式プローブによる高速化(11)などが報告されている.また,新規な角度計測として,中赤外光(波長2.8μm)を利用した粗面(散乱面)に適用可能な新たな角度センサ(12)の開発,フェムト秒レーザ(光コム)を用いたオートコリメータによる微小プリズム頂角の精密測定(13)が実施された.計測アルゴリズムの高度化に関する研究として,統計的点群モデルに基づく座標計測の不確かさ推定法の提案(14),画像計測による光学式座標測定に関するジェネティック・アルゴリズムを利用した最適化(15)が報告されている.さらに,積層造形法(AM)を対象として,新たな計測点群処理アルゴリズムに基づく3次元形状精度の評価方法(16)が報告された.
機上計測/工作機械の運動精度評価と誤差補償は厳密な幾何モデルの構築と実用性が求められており,5軸工作機械の幾何学誤差モデルにおけるモンテカルロ法を用いた不確かさ推定法(17),複合工作機械の空間運動誤差モデル(18),レーザ干渉計のみを利用する2次元運動誤差解析手法(19)が提案された.また,色収差共焦点変位プローブを利用した100nm以下の運動誤差補償(20),正方形3×3加工による回転軸の幾何学誤差の解析(21),位置検出センサを用いた機上計測(22)や機内逆マルチラテレーション(MIIM)(23)による工作機械の熱変形誤差や不確かさ要因の解析,工作機械運動誤差のインプロセス計測(24)が報告されている.
機上計測/加工モニタリングでは,製造プロセスのスマート化を担う工具状態監視(TCM)およびプロセスモニタリングに関する研究開発が多数報告された.まず前者では,切削工具に対して,断続切削加工における工具摩耗計測(25),切削力計測を利用した工具摩耗計測(26),センサレスによるスピンドルトルクからのエンドミル摩耗状態の推定 (27),振動および音響計測データのサポートベクタマシン(SVM)処理による工具摩耗モニタリング(28),AEセンサを内蔵したスピンドルによる工具接触検知機能 (29)が報告されている.また,研削砥石に対して,機上計測による砥石摩耗状態監視技術(30)が報告されている.一方後者では,ボイスコイルモータ駆動のファーストツールサーボ(FTS)を利用した切削力計測(31),複合型機械学習と物理モデルを利用したびびり振動検出(32),画像計測と深層学習を用いたCFRPの穴あけ加工監視(33),金属マイクロ構造体プロセスにおけるインプロセス表面計測(34),2色画像計測によるレーザ加工の温度モニタリング(35)が報告された.
さらに,121誌の英文学術誌について包括的な論文調査を行い,機上/インプロセス計測の研究動向を纏めた.抽出された学術誌(前述の学術誌も含む)と掲載論文数の内訳は表16-7-1に示すとおりである.機上/インプロセス計測の対象となった加工技術の割合を図16-7-1に示す.機上/インプロセス計測に関連する論文数は2020年(96編)と2021年(94編)でほぼ同数となっており,切削,研削,AMの合計割合もほぼ同様であるが,特にAMの増加が顕著であった.
表16-7-1 学術誌名と機上/インプロセス計測に関する掲載論文数(2021年)
図16-7-1 機上/インプロセス計測の対象加工技術の割合
〔高谷 裕浩 大阪大学〕