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機械工学年鑑2022

15. 設計工学・システム

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15.1 総論

設計工学・システム部門(以下,本部門)は,設計工学とシステム工学が統合・融合された分野横断的色彩が強い部門組織である.本部門が対象とする分野及び領域は,設計学・設計方法論・設計知,最適設計,製品開発・情報管理,設計組織,サービス工学,システム工学,ヒューマンインタフェース,感性工学,人工物工学など,多岐にわたっており,近年はAI,IoT,VR/AR等の新しい技術が設計の分野にも取り入れられ,本部門の対象領域はますます拡大してきている.また,本部門が対象とする研究領域は,学術研究だけではなく,ものづくりやことづくりで行われる製品設計,システム設計に直結しているため,学術分野と産業分野が密接に結びついた活動や,活動を後押しする教育の展開が期待されている.

2021年度は,2020年初めより続く新型コロナウイルス感染症の影響により,本部門でも活動にかなりの制限を受けたが,2020年度の経験をふまえ場所や移動時間の制約がなくなるオンラインの長所を活かしつつ,部門講演会,年次大会,シンポジウム,講習会などの企画・開催や国際会議の開催などを通じて,本部門に関連する学術情報や技術情報の共有及び情報交換が積極的に実施された.

国内活動としては,9月6日から8日にかけて開催された年次大会で,「デジタル時代のものづくり」,「解析・設計の高度化・最適化」,「価値の共創と共存に1DCAE・MBDが果たす役割」,データ同化の機械工学への応用」,「交通・物流機械の自動運転」という5件のオーガナイズドセッション(いずれも部門横断セッション,前3件は本部門が幹事部門,後ろ2件は他部門が幹事部門),「オンライン時代のVRと設計工学」と題した基調講演,「人を中心とした新産業革命を日本から推進するために」と題した先端技術フォーラム,「マーケットづくりの日本へ」,「高度な自動運転を実現するための数理の現状と課題」をテーマとした2件のワークショップがそれぞれ企画・実施された.開催した企画のうち2件がセッションページのアクセス数ベスト5に入っており,本部門関連のトピックが注目を集めていたことがわかる.9月15日から17日にかけて開催された第31回設計工学・システム部門講演会は,講演件数115件,参加者数189名を記録し,16件のオーガナイズドセッション・一般セッションの他,特別講演3件,ワークショップ2件,D&Sコンテストが企画・実施された.同講演会では,オンライン会議ツールの利用に加え,より自由に動き会話のできるバーチャル空間を実現するツールを活用することによって,オンラインではあるがより自由度の高い交流の場が提供された.また,本部門が共催するシンポジウムとしては,Designシンポジウム2021,1DCAE・MBDシンポジウム2021が企画・実施され,多くの参加者を集めて活発な議論がなされた.さらに,主として産業界を対象とした学術や技術情報の普及活動として13件の講習会が企画・実施された.いずれもオンライン開催であったため広い地域からの参加があった.

国際会議としては,iDECON/MS2021が本部門と生産システム部門との共催で9月3日から4日にかけてオンラインで開催された.本会議は国内参加者以外にASEANを中心とした3カ国から4名の参加者があり総勢65名の参加者を集めて活発な講演発表と議論が行われた.また,エコデザイン学会連合が主催し,本部門が共催したEcoDesign2021が12月1日から3日にかけてオンライン開催され,26カ国・地域から265名の参加者を集めた.

冒頭にも述べたとおり,コロナ禍により交流を伴う人々の多くの活動に制限がかかる状況が続いている.一方で,オンライン会議やリモートワーク,オンライン授業の拡大など様々な活動への情報技術の活用が一般化し,これに伴って設計のデジタル化やバーチャルエンジニアリング技術なども国内の産業界において普及が進むきっかけになることが期待される.また,設計教育に関してもオンライン対応が試みられているが,その場で活用される3D-CAD,デジタル解析ツール,AIやIoTなどのツールや技術,それらを用いた設計方法が今後の産業界での普及につながっていくことが望まれる.さらに,設計工学が対象とする各領域においても,従来のトピックに加え,デジタル変革やコロナ禍をふまえたトピックも盛んに議論されている.現在,社会構造や人々の生活様式が大きく変わりつつある中で,もの・こと・システムづくりに関わる領域を対象とする設計工学・システム工学の重要性はますます高まっており,これらの工学分野・領域を対象とした研究会,講演会の企画・開催などの事業を活発に計画・実施することで当該分野・領域の学術及び技術の発展を推進している本部門の存在価値はますます高まっていくと考えられる.

妻屋 彰 岡山県立大学

15.2 最適設計

材料力学等の主要な4力学分野等における「縦軸」の個々の技術の成果を結びつけ,システムとして融合する「横串」の仕組みを具体的に提供する最適設計の分野は,世界的にもすでに極めて大きなコミュニティを形成しつつあるが, 2021年度の世界の研究動向をみても,研究分野の裾野が広がり,かつ深化しているといえる.

2021年度で最も大きな最適設計に関する会議は,6月にオンラインで実施された第14回構造及び複合領域最適化世界会議(14th World Congress of Structural and Multidisciplinary Optimization, WCSMO-14)である.この会議は2年に一度開催され,世界の最適設計に関する研究者が数多く集結するが,今回も基調講演も含め472件の発表が集まる大きな国際会議となった.

発表内容は,この10年ほど続いている傾向が今回も継続し,トポロジー最適化・形状最適化の構造最適化への取り組みが全発表のうちの多くを占めている状況である.ただし,その応用範囲は,これまでよりもさらに大きく広がりを見せ,構造,熱,流体,電磁波等の多様な物理現象を対象とするだけでなく,熱流体など複数物理問題への拡張法,ミクロ・マクロのマルチスケール設計問題,付加製造技術の活用法などの問題へ最適設計法を展開するための技術に関する報告が目立った.また,構造最適化は従来の製造法では成形が困難なほど自由な形状を許容することから,製造条件の考慮も引き続き重要な課題として認識されており,多数の発表を集めていた.

さらに,新しく特記すべき話題として,データサイエンスや人工知能の手法を最適設計問題へ積極的に活用するための方法についても急速に注目が集まっている.最適化問題の低次元化の処理や収束性の向上への活用方法など,多くの斬新なアイデアが議論されており,これからさらに大きな発展が期待される話題であるといえる.

以上のように,従来から熱心に議論されてきたトピックについての深掘りされた研究報告だけでなく,新規の話題が数多く見られ,新しい参加者も増加傾向にある.今後も最適設計の分野はさらに裾野が広がっていくと予想される.

泉井 一浩 京都大学

15.3 サービス工学・サステナブル設計

サービス工学は,サービスを対象に科学的・工学的アプローチを適用することで,よいサービスを創造する方法の体系化を目指す領域である.「なぜ,サービスなのか?」という問いに対する回答の一つとして,サービス工学はその提案当初から環境負荷の低減に係る期待を例示してきた(1).消費の中心が製品の所有からサービスの体験に移行すれば,必要な製品の数は減り大量生産・大量廃棄のモデルから脱却でき,製品をサービスとして提供(例えば,レンタルやサブスクリプション)すれば,製品一つ当たりの利用者数を増やせるだけでなく,効果的なメンテナンスやリペアが容易になり製品寿命を延長できる.それゆえ日本発のサービス工学,あるいは欧州発のProduct-Service Systems(PSS)(2)(3)や製造業のサービス化(Servitization)(4)(5)といった研究分野では,時代による濃淡はあるものの,サステナビリティへの貢献が常に重要な目標の一つと見なされてきた.

他方のサステナブル設計は,環境視点からの製品設計に端を発している.しかし,一つの製品による環境へのインパクトを評価する場合であっても,その製品の生産にかかる資源だけでなく,使用含めたライフサイクル全体を検討しなければならない.この時,消費者がどのように製品と関わるか,あるいは製品の生涯にどのようなステークホルダーが存在し関わるのかを考えるには,サービスやビジネスモデル,エコシステムといった観点が不可欠である.このように,サービス工学とサステナビリティ設計は相互に強く関連する分野してこれまでに進展をしている.

2015年を境に両分野の関わりは,より密接なものとなった.この年,国連ではSDGsが,欧州ではサーキュラー・エコノミーが提唱され,現在に至るまでの間に,各国の政策や事業環境,消費者の関心に大きな影響を与えてきた.とりわけ欧州では,サステナビリティに対するプライオリティが大きく上昇した.例えば,欧州における国際会議 International Engineering Design Conference 2021では,348件の講演論文(6)のうち,51件がサステナビリティに関連するものであった.ここには,新たな設計手法の開発,設計プロセスの提案,あるいはライフサイクルアセスメントやライフサイクルシミュレーションなどの評価手法の改良,設計教育など様々なアプローチの研究が含まれる.またそのうち,Sustainable PSSを題材としたものが6件,さらには消費行動や人の行動変容に着目する研究が6件と,両分野を横断するような研究が多く見られた.また,学術誌掲載論文においても同様の傾向が見られる(7)

設計工学・システム部門では,長らくこれら二つの分野を包含するオーガナイズドセッション「ライフサイクル設計とサービス工学」が部門講演会の度に企画されており,本OSではサービス設計方法論やシナリオ設計方法論,タイムアクシスデザインなど,国際的にも特徴的な研究成果が継続的に発表されてきた.しかしながら,欧州に比べれば,両分野の協調には目立った進展がないように思われる.日本においても,サステナビリティへの社会的関心は大いに高まっていることから,環境志向の研究助成の活用や企業との共同研究などを梃子に,両分野の協調がより一層進展することを期待したい.

〔根本 裕太郎 東京都立産業技術研究センター〕

〔下村 芳樹 東京都立大学〕

参考文献

(1) 下村芳樹, 原辰徳, 渡辺健太郎, 坂尾知彦, 新井民夫, 冨山哲男 (2005). サービス工学の提案(第1報, サービス工学のためのサービスのモデル化技法). 日本機械学会論文集(C編), 71(702), 315–322. DOI: 10.1299/kikaic.71.669.

(2) Tukker, A. (2004). Eight types of product–service system: eight ways to sustainability? Experiences from SusProNet. Business Strategy and the Environment, 13(4), 246–260. DOI: 10.1002/bse.414.

(3) da Costa Fernandes, S., Pigosso, D. C., McAloone, T. C., & Rozenfeld, H. (2020). Towards product-service system oriented to circular economy: A systematic review of value proposition design approaches. Journal of Cleaner Production, 257, 120507. DOI: 10.1016/j.jclepro.2020.120507.

(4) Baines, T. S., Lightfoot, H. W., Benedettini, O., & Kay, J. M. (2009). The servitization of manufacturing: A review of literature and reflection on future challenges. Journal of Manufacturing Technology Management, 20(5), 547-567. DOI: 10.1108/17410380910960984.

(5) Raddats, C., Kowalkowski, C., Benedettini, O., Burton, J., & Gebauer, H. (2019). Servitization: A contemporary thematic review of four major research streams. Industrial Marketing Management, 83(March), 207–223. DOI: 10.1016/j.indmarman.2019.03.015.

(6) Design Society (2021). Proceedings of the Design Society ICED21, Cambridge University Press.

https://www.cambridge.org/core/journals/proceedings-of-the-design-society/volume/3770F4C840327E9140EBB039DFA8CC1C(参照日:2022年4月4日)

(7) 木見田康治 (2021). 機械工学年鑑2021, 15.3 サービス工学・知識工学, 日本機械学会.

https://www.jsme.or.jp/kikainenkan2021/chap15/#a03(参照日:2022年4月4日)

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15.4 ヒューマンインタフェース・感性設計

我が国の科学技術政策が掲げるSociety5.0は,誰もが快適で活力に満ちた質の高い生活を送ることのできる人間中心の社会を意味する.そのための技術としてのサイバー・フィジカル・システム,AI,ロボティクスなどが注目される.しかし,目指すべき人間中心社会の実現には,人を理解し,快適,活力,生活の質といった経験の価値の設計が求められる.そのための設計技術としてヒューマンインタフェースおよび感性設計を位置づけることができる.

設計工学・システム部門講演会では,ヒューマンインタフェースおよび感性設計に関するオーガナイズド・セッション(OS)を定常的に設けている.オンラインで開催された2021年度の部門講演会では,OS「ヒューマンインタフェース・ユーザビリティ」において4件の発表があり,音声対話,VRドライビングシミュレータ,アバターロボットを介したコミュニケーション,多言語案内コミュニケーション支援など多岐にわたる研究が見られた.また,OS「感性と設計」は,2セッション計6件の発表があり,その内容は,電気自動車の充電状態の認知と感情モデル,自律移動ロボットの挙動に対する人の認知,運転時のメンタルワークロード,光のリラックス効果の生理計測,視聴覚が温冷感に与える影響など研究,応用範囲の広がりを見せている.

筆者は,OS「感性と設計」の冒頭解説講演において,感性の数学的原理の現状を紹介した.感性を工学設計で扱うためには,物理と同様に,その数理モデルが求められる.21世紀に入り,神経科学等の急速な発展により,ヒトを含む生物の脳がどのように認知や行動を決定するかについての計算論的な原理が解明されつつある.その中で,脳の大統一的原理として注目されている自由エネルギー原理がある1.脳などの自己組織体が平衡状態にあるためには,その情報論的な自由エネルギーを最小化しなければならないとする原理である.これは,統計熱力学におけるヘルムホルツの自由エネルギー最小化と数学的に等価であり,物理と感性にまたがる原理としての普遍性を予感させる.情報論的自由エネルギーは,脳内モデルによる予測と感覚系による観測の差である予測誤差を表し,脳はこれを最小化するように認識(信念の更新)する.さらに,動物は予測の証拠となる観測を得るように行動する.この原理の応用から,ヒトの知覚,行動,感情などの様々な認知を統一的に数理モデル化する研究が発展してきている2.設計工学・システム部門講演会,感性工学に関する国際会議(たとえば,International Conference on Kansei Engineering and Emotion Research),2021年に設計工学システム部門主催で開催したiDECON/MS 2021などの研究発表においても,こうした脳の原理にもとづく感性の数理モデル化とその設計応用に関する研究の萌芽がみられ,感性設計の新たな展開を期待させる(たとえば,文献3は感情のポテンシャルが自由エネルギーによって表せることを数理的に示している).

さて,人間中心社会の実現に欠かせない要件として安全・安心がある.安全は古くから工学で扱われ,安全工学として研究,応用されてきた.機械設計においても,安全率や信頼性などの考え方が定着している.また,いわゆるヒューマンエラーと呼ばれる人的なエラーに起因する安全性の問題は20世紀後半から検討され,フールプルーフやフェースセーフといった設計のガイドラインとして広く応用されている.ところが,安全と併記されることの多い「安心」については,心の問題であるため定量的に扱うことが難しく,これまで工学研究や設計の対象となる機会は多くなかった.しかし,真に人間中心の社会を実現するためには,安全の担保だけでなく安心をもたらす人工物の設計が必要である.たとえば,自動運転やAIなどの新しい技術に対する社会受容性においては,安全が担保された上での安心の実現が必須となる.さらに,2014年のISO/IECガイド51によって「許容不可能なリスクがないこと」と定義されると,どこまでリスクを下げたら安全といえるかは,決定に関与した関係者の価値観に基づき決められ,主観から離れられない.こういった問題意識から,日本学術会議の第24期では,総合工学委員会・機械工学委員会合同 工学システムに関する安全・安心・リスク検討分科会に,「工学システムに対する安心感等検討小委員会」4を新しく立ち上げ,筆者も委員として参加している.ここでは,安心=安全✕信頼というモデルが仮定され,工学システムの社会安全目標の体系化に向けた検討がなされている.日本学術会議主催の安全工学シンポジウム2021において,安心感に関するセッションが企画され,上記委員会の議論が発表されている.

柳澤 秀吉 東京大学

参考文献
(1) Friston, K. (2010). The free-energy principle: a unified brain theory? Nature Reviews. Neuroscience, 11(2), 127–138.

(2) 柳澤秀吉,自由エネルギーを用いた認識・行動・感情の数理モデル(感性設計のための数理 第3報),設計工学, Vol.75, No.2(2022), pp.41-48.

(3) Yanagisawa, H. (2021). Free-Energy Model of Emotion Potential: Modeling Arousal Potential as Information Content Induced by Complexity and Novelty. Frontiers in Computational Neuroscience, 15, 107.

(4) 日本学術会議 工学システムに関する安全・安心・リスク検討分科会工学システムに対する安心感等検討小委員会報告書「工学システムに対する安心感と社会」,http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/kohyo-24-h200825-abstract.html (参照日2022年4月7日)

(5) 安全工学シンポジウム, https://www.anzen.org/(参照日2022年4月7日)

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15.5 デザイン方法論・デザイン科学

学術としてのデザインに関する起源は,1962年の第1回国際デザイン方法に関する会議(Conference on Systematic and Intuitive Method in Engineering, Industrial Design, Architecture and Communication)といわれている.同会議で議論された,デザイン問題をシステマチックに解くためのデザイン方法・方法論は,現在までに,ステークホルダーの考えやデザイナの直感・着想を包含する形で,多様なデザイン方法・方法論として進化を続けている(1).デザイン科学は「デザイン行為における法則性の解明およびデザイン行為に用いられる知識の体系化を目指す学問」とされており,デザインのための方法・方法論だけでなく,実践や実践に基づく知識なども包含する(2)

近年のデザイン科学に関する研究内容の傾向としては,IDEOおよびスタンフォード大学によるd.schoolが提唱するデザイン思考に基づく実践的な研究報告が多いといえる.国内で,デザイン科学に関する最も広範な対象を扱う学会の1つである日本デザイン学会の研究論文の分析(3)結果では,1986年以降2020年に至るまでデザイン実践に関連する研究が増加傾向にあるとされ,デザインに関する共通的な知識獲得のための実証実験形式から,具体的なデザイン事例に関する実践形式へと変化しているとされている.さらに,Industory4.0,Industrial Internet,Society5.0などの科学技術政策を受けて,人工知能技術を用いて,デザインに関するキーワード・形状・レイアウトなどの自動生成技術を行う,ジェネラティブデザインに関する研究報告も増加している.国外では,2021年度に開催された,デザインに関する最大の国際会議の1つであるIASDR 2021 (the ninth Congress of the International Association of Societies of Design Research)において,上述した内容に加えて,COVID19に関するPandemic designというカテゴリーが設けられ,ウィズコロナ・ポストコロナのための,インテリア・環境・建築・プロダクトデザイン,オンラインツールを用いたデザインワークやデザイン教育の在り方などに関する発表・議論がなされた.

このように,近年のデザインに関する研究は,様々な要因により多様化するデザイン対象に合わせて,実践的・個別的な形式にシフトする傾向があり,多様化するデザインの行為・知識を体系化する枠組みの確立が重要と考えられ,実践の体系性を重視するデザイン科学の役割は小さくないと考えられる.

〔加藤 健郎 慶應義塾大学〕

参考文献
(1) Cross, N., Forty years of design research, Design Studies, Vol.28, No.1, (2007), p.1-4.

(2) 日本デザイン学会編,デザイン科学事典(2019), p.10.

(3) 有馬悠弥, 蘆澤雄亮, デザイン学研究の変遷と傾向に関する研究, 日本デザイン学会 第68回春季研究発表大会概要集 (2021), pp.268–269.

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15.6 設計教育

15.6.1 COVID-19による遠隔化が設計教育に対して与えた影響

設計教育は,2020年度に続き2021年度も,COVID-19により大きな影響を受けた.対面によるコミュニケーションが出来なくなり,世界中の多くの学校でキャンパス閉鎖といった状況が発生した(1).チームで行う設計において,顧客ニーズに深く切り込み,独創的なコンセプトを考え,効率的にこの世に表す行為は,メンバ間での深い議論が必要であるため,遠隔で成し得るものなのか?という問いが投げかけられている.この問いに対して,マレーシア工科大学と共同でPBL型設計教育を実践(2)する者としてだけでなく,同様の国際PBL設計教育を行う方々から,遠隔化が設計や教育に与えた影響について情報収集し実践した結果を,以下に整理したい.

15.6.2 座学や演習型の設計教育における遠隔化のメリット・デメリット

遠隔化が与えた設計教育に対する影響は,座学,演習,PBLなど,その形態に大きく依存する.ここでは,COVID-19以前の設計教育と比較し,メリット・デメリットを整理する.

座学に対する影響は,どちらかというと軽微な部類に入る.むしろメリットも大きい.教材がオンデマンド化され,いつでもどこでも世界において一流の教育を選択的に受講できるようになった.実際,座学教育がコンテンツ化され,それ自体が切磋琢磨されることで,洗練されていく事例が見られた.ただし試験においては,公平性の担保や不正防止が難しいため,隔化は難しいままである.

演習に対する影響は,デメリットが大きかった.例えば設計製図など技能が重要な教育は,明らかに遠隔化によって質が落ちた.原因として,検図修正を例に挙げると,対面指導ではすぐに済む内容が,遠隔では電子化→アップロード→連絡→修正指示を記載した電子データ作成→アップロード→音声映像で指導,という本質的ではない無駄な作業のために多くの時間が必要となることが挙げられる.筆者が担当する製図演習で計測したところ,同じ検図修正の作業に対して,遠隔は対面に比べ少なくとも3倍以上の時間を要した.今後は時間だけでなく,即座に直接的なフィードバックが得られる対面と,時間空間的に離れ伝達情報量も少ない遠隔との,質的観点での比較検証が待たれる.

15.6.3 PBL設計教育における遠隔化のメリット・デメリット

PBL(Project Based Learning)型の設計の実践を伴う教育に対しては,大きな影響があった.顧客のニーズ発掘やコンセプト着想のプロセスでは,現場で現物・現象を確認することで気づきが得られることが多いが,それが全く出来なくなった.実際に困っている人や物に直面せずに,新しい発想やアイデアを得ることが如何に難しいことなのか,深く認識させられた.一方で,AIやデータ駆動に代表される遠隔でも着想可能なアイデアは,広く先行して取り組みが進んだ.チームワークに対しては,特に遠隔では言語文化専門が異なるメンバーとの深い議論が難しくなった.たとえば英語しか共通言語が無いチーム内でのメンバーシップの醸成は,遠隔コミュニケーションのみでは対面に遠く及ばなかった.原因は,異なる意見をぶつけあい交換し,進化させるプロセスは,お互いの性格の深い理解や信頼に立脚しており,それらは対面でなければ醸成が難しいためである.一方で,遠隔化で他国の人と英語で会話する気軽さや容易さは,格段に向上した.効率面では,対面のように現地に赴く移動時間は不要になり,遠隔ソフトウェアを起動するだけで話せるという時間短縮のメリットがあった.一度も対面で会ったことのないチームメンバと遠隔で高頻度に接触するという,以前には見られなかったチームの結束の形態が観察された.この新形態において醸成されたチームメンバの関係が,設計においてどのように寄与するのかは,今後の理解が待たれる.

15.6.4 アフターコロナ時代における設計教育の展望

展望として,いちど利便性を認識してしまえば元に戻ることは難しいため,アフターコロナ時代においても残る可能性が高い遠隔化も考えられる.遠隔でも可能な設計教育は遠隔のまま残り,遠隔ではどうしても不可能な設計教育が主に対面に戻っていくことが予想される.特に移動コストが大きいグローバル設計に対しては,遠隔が前提で,一部のみ対面に戻るという方向になると筆者は考える.仕様書に従いプログラムを作成したりといった並列分散化できる設計プロセスは,高度に遠隔化され,一方で現場に飛び込んでニーズを発掘したりといった現物・現象確認を必要とする設計プロセスは,対面に戻ると考えられる.今後,設計プロセスが遠隔化できる要件,遠隔化できないタスクの要件を議論し整理することが必要になると展望する.

〔古賀 毅 山口大学〕

参考文献
(1) Loganathan T, Chan ZX, Hassan F, Kunpeuk W, Suphanchaimat R, Yi H, et al. (2021) Education for non-citizen children in Malaysia during the COVID-19 pandemic: A qualitative study. PLoS ONE 16(12): e0259546.

(2) 岡手 貴政, 古賀 毅, 上西 研, アジア創造設計プロジェクトにおける自動追尾型荷物キャリアのプロトタイピング, 日本機械学会 第22回設計工学・システム部門講演会講演論文集, 2507, 2013年10月23-25日, 読谷村,沖縄.

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15.7 産業界における設計

設計工学・システム部門における産業界の動向として(1),製品設計開発のためのモデリング・設計方法論,最適設計,デジタル設計,バーチャルエンジニアリングについての講演や論文が継続して多い.このデジタル設計,バーチャルエンジニアリングにより,多くの産業でコンカレントエンジニアリングが可能となり,設計期間の短縮,不具合の低減,最適設計による性能向上,コスト低減を実現し,製品に適用している.また,サービス工学・サステナブル設計,ヒューマンインターフェース・感性設計でも大学・研究機関での技術開発,産業への適用が進んでいる.

コロナ禍の社会変化の中で大学ではオンライン授業,産業界では在宅勤務が急激に拡大し,2021年度はそれが一般的,日常的になった.企業の在宅勤務の実施率は(2),1回目の緊急事態宣言時に56.4%,その後30%前後を推移している.地域別では関東36.3%と高く,北海道・東北,中国・四国・九州では11~12%と低いが,在宅勤務制度を取り入れている企業は多い.在宅勤務の増加とともに,Skype,TeamsやZoomといったオンライン会議が発達し,その地域以外の様々な人との会議がしやすくなり,つながりが増えている.地方ではメリットであり,活用すれば都市部との情報格差は減る.一方,都市部の本社や研究所などはオンライン会議が増大し,会議以外の時間が減ったと言った声が聞かれる.オンライン会議により,教育や会議の時間・移動時間・移動費用は減少し,メリットは大きいが,そもそもの教育目的の技量・力量・技術向上や会議目的の情報伝達・意思決定の効率化,有効性や課題を明確にしていくことになる.また,実践型の教育方法,セキュリティなどの課題は残っている.

デジタル設計,バーチャルエンジニアリングやDX(デジタルトランスフォーメーション)の技術開発が進んでいるが,都市部と地方での技術格差は増大していると推測する.例えば,3D-CADは20年以上前から産業界で導入が進んでいるが,牽引役の自動車産業,電機産業が少ない地方では,3D-CADの人材,教育が不足している.3D-CADは一つの企業だけでなく,関係・連携する企業間で3D-CADの活用が進まないと,メリットが出ないことも要因と考える.

近年では,DXのインフラとして,3DAモデル(3D Annotated Model)と呼ばれる,3D-CADデータに寸法や,属性情報を付与したモデルの標準化が進んでいる(3).これにより,従来の図面が,人の解釈を前提としたものが,ソフトウェアが,設計情報を参照することができ,設計,製造,検査など従来以上に幅広い効率化をはかることが可能となってきている.

今後も産学が連携し,大学・研究機関での設計技術の開発,地方を含めた産業への適用の推進を期待する.

〔坂本 博夫 三菱電機(株)〕

参考文献
(1) 日本機械学会論文集および設計工学システム部門講演会講演論文集(2019~2021).

(2) 総務省白書, 令和3年度版, 第1部 特集 デジタルで支える暮らしと経済, https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r03/html/nd123410.html

(3) JIS B 0060-1デジタル製品技術文書情報−第1部:総則.

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