13. 機械力学・計測制御
章内目次
13.1 概論
機械力学・計測制御部門(以下,本部門)は,機械工学におけるいわゆる「四力学」の一つである「機械力学」(機械のダイナミクス)と,ダイナミクスと関連の深い「計測と制御」の分野を主たる活動基盤としている.本部門の部門登録者数(第1位から第3位まで)は4953名(2022年3月末)で,流体工学部門に次ぐ規模である.本部門では,これらの分野の学術的な基礎研究から実践的な応用研究,他部門との連携による新領域まで幅広く研究が行われ,その研究成果が積極的に公開されている.その成果は主に日本機械学会論文集(和文・英文)や部門講演会「Dynamics and Design Conference」(略称 D&D)などの講演会等を通じて発表され,また講習会等における教材としても使われている.2021年も引き続き新型コロナウイルス感染症の影響により本部門の諸活動は大きな影響を受けたが,2020年の経験や工夫を活かし,オンラインを中心とした活動が精力的に行われた.ここでは,2021年1月~12月に発行された日本機械学会論文集(和文および英文)へ掲載された学術論文および同期間に催行された講演会,講習会などの状況について概説し,本部門の研究活動の概要について紹介する.
13.1.1 学術論文
上記期間中に日本機械学会論文集に掲載された学術論文のうち,「機械力学,計測,自動制御,ロボティクス,メカトロニクス」のカテゴリーとして掲載された論文は85編である.また同論文集Vol.87,No.898では「機械力学・計測制御分野特集号2021」が組まれ,このカテゴリーに7編の論文が掲載されている.したがって特集号も含めて本部門に関連するカテゴリーに掲載された論文数は92編となる.これは日本機械学会論文集に掲載された論文総数の30%(92編/総数306編)にあたる.なお「生体工学,医工学,スポーツ工学,人間工学」のカテゴリーおよび「交通・物流」のカテゴリーにも本部門に深く関連する論文はいくつか見られる.これらも含めれば論文数および割合ともにさらに増加する.次に,掲載された論文数および割合の推移について述べる.論文数は,この5年間では122編(2017年),108編(2018年),88編(2019年),88編(2020年),92編(2021年)と推移しており,ここ数年は減少後に横ばい傾向にある.論文の割合においても31%(2016年),29%(2017年),30%(2018年),28%(2019年),29%(2020年),30%(2021年)と同程度を維持しており,日本機械学会論文集に対する貢献度という意味では,高い値を維持しているといえる.一方,英文誌Mechanical Engineering JournalのDynamics & Control, Robotics & Mechatronics カテゴリーに掲載された論文は,2021年は16編であった.特集号を含む本部門に関連するカテゴリーに掲載された論文数の推移は2編(2016年),43編(2017年),8編(2018年),10編(2019年),19編(2020年)),16編(2021年)となっており2018年以降は徐々に増加傾向にあるが,さらに国内外に向けて広く投稿を促す努力を続けていくことが必要である.
13.1.2 講演会,講習会など
毎年開催される部門講演会「Dynamics and Design Conference」(略称 D&D)は本部門活動の中心である.2021年の同講演会D&D2021は総合テーマ「共存共栄社会への回帰」のもと,9月13日(月)〜 9月17日(金)の5日間にわたり,東京大学 駒場Ⅱキャンパスで開催予定であったが,新型コロナウイルス感染症に対する日本機械学会としての対応方針に従い,オンラインでの開催となった.講演はZoomにより行い,発表件数は特別講演3件を含む283件,参加者数は498名であった.D&D期間中,例年通り振動工学データベースフォーラム(v_BASE)も併催された.そのほかの講演会として,12月2日(木)~3日(金)「 第19回評価・診断に関するシンポジウム」(受講者70名,講演件数:34件),12月9日(木)~10日(金)「第17回「運動と振動の制御」シンポジウムおよび第30回スペース・エンジニアリング・コンファレンス(MoViC2021/SEC’21)」(受講者202名,講演件数: 98 件)がいずれもオンラインで実施された.
部門主催の講習会としては,9月3日(金)「振動モード解析実用入門」(受講者55名),10月30日(土)「振動分野の有限要素解析講習会(計算力学技術者2級認定試験対策講習会)」(受講者35名),12月20日(月)「納得のロータ振動解析」(受講者14名),1月18日(火)~19日(水)「回転機械の振動」(受講者31名),1月27日(木)「マルチボディシステム運動学の基礎」(受講者28名),1月28日(金)「マルチボディシステム動力学の基礎」(受講者24名)がいずれもオンラインで実施された.また,部門の内容に関連が深いものとして,11月12日(金)「機械の状態監視と診断技術 基礎・実践ノウハウと応用例・規格(入門・初級者向け)」(受講者149名)がオンラインで実施された.これらの講習会は毎年継続して行われているもので,いずれも一定の数の受講者を集めており,本部門に関連する知識や技術の教育,啓発に大きな役割を果たしている.また,2年に及ぶコロナ禍の状況下で企画側,参加者側ともにオンライン形式による講習会に対するノウハウやメリットへの認識が高まり,ポストコロナに向けての企画の新しいあり方も模索されつつある.このように2021年も活発に講演会および講習会を開催しており,改めて本部門の活力を示したといえる.
〔井上 剛志 名古屋大学〕
13.2 流体関連振動
2021年9月13日-17日に東京大学駒場IIキャンパスで行われた(ただし,すべてのセッションはオンラインで開催)Dynamic & Design Conference 2018 (D&D2021) において企画されたオーガナイズドセッション「領域4 流体関連振動・ロータダイナミクス OS4-1 流体関連振動・音響のメカニズムと計測制御」では合計10件の発表が行われた.内訳は,流体構造連成・スロッシングのメカニズムと計測制御が3件(流体構造連成が2件,スロッシングが1件),空力音響のメカニズムと計測制御が7件(熱音響が2件,空力騒音が4件)であった.スロッシングについては,溢水を伴うスロッシング現象が取り上げられ,理論と実験から新たな溢水速度の推定方法が提案された(1).熱音響は,熱音響エンジン(2)とRijke管(3)の自励機構のモデルの高度化が図る研究の報告があった.
2021年9月5日-8日に千葉大学で行われた年次大会(同じく,すべてのセッションはオンラインで開催)において企画された「J102 流体関連の騒音と振動」では合計10件の発表が行われた.内訳は,流体騒音・音響が4件,熱に起因する振動が2件,流力弾性振動が1件,流体構造連成問題が2件,その他が1件であった.従来と同様に,流体騒音・音響に関する研究の発表数が最も多く,関心の高さが伺える.その研究対象は,機械装置(4)(5)だけに留まらず,生体の発音システム(6)や屋外測定のための風防(7)も取り上げられており,今後も研究分野の継続的な発展が見込まれる.
日本機械学会論文集での流体関連振動分野の論文は合計3件発表された.内容は,流体構造連成に関するもので,このうち,フラッタに関する論文が2件(8, 9),平板に発生する自励振動に関する論文が1件(10)であった.フラッタに関する論文のうち,1件はミスチューンを有する翼およびディスク系を対象としたものであり,低次元モデルSubset of Nominal system Modes (SNM) を適用した解析を行い,ミスチューンによるフラッタの抑制効果について報告された(8).単独翼構造およびシュラウド翼構造について解析が行われ,それぞれ翼先端に負荷質量を与えたときのフラッタ抑制効果を調べたところ,単独翼構造では,翼1枚の質量の0.2%程度の交互ミスチューン等で翼・ディスク系を安定化できることが明らかとなり,現実的なフラッタ抑制効果が見込める.一方,シュラウド翼構造ではミスチューンによるフラッタ抑制効果は見込めないということが示された.
国外では流体関連振動に関する主な国際会議は,次の1件であった.
2021年7月13日~15日にオンラインでASME 2021 Pressure Vessels & Piping Conference(PVP)のFlow Induced Vibrationのセッションでは15件の発表があった.第一著者の所属機関の所在地(国)は,カナダ(7件),中国(4件),米国(2件),ブラジル(1件),ロシア(1件)であり,今回は日本からの発表はなかった.また,内容については,従来から主要なテーマのひとつである,熱交換器で問題となる管群の流体関連振動は,このうち,7件を占めており,引き続き,この分野の主要テーマであることが伺える.研究手法は,実験(11)など,理論解析(12),数値解析(13)など以外にも,原子炉の中性子雑音の信号に対して機械学習を適用し,遠隔による状態監視を試みた研究(14)についても報告もあり,本研究分野の新たな展開も見られた.
〔上道 茜 早稲田大学〕
13.3 電磁力関連のダイナミクス
電磁力関連のダイナミクスの分野は,機械,電気,制御,磁気,材料,化学,生物などの多岐にわたる学問が有機的に結合した分野である.近年,SDGsやカーボンニュートラルの達成に向けた研究開発が求められているが,SDGsには,健康と福祉,安全な水とトイレ,クリーンなエネルギー,産業と技術革新,住み続けられる街づくり,気候変動など,本分野と関連する項目が多数あり,その研究動向が注目されている.特にアクチュエータの高効率化,高機能化,小型集積化,環境発電,非接触給電などの報告が多数あり,SDGsを視野に入れた研究開発が盛んになっている.
国内において電磁力関連のダイナミクスの分野で中心的な役割を果たしているのは,「電磁力関連のダイナミクス」シンポジウム(SEAD)である.SEADは日本機械学会,電気学会,日本AEM学会の持ち回りで主催し,第33回シンポジウムが2021年5月19日〜21日に電気学会の主催でオンライン開催され,2件の基調講演と104件の一般講演が行われた(1).電磁力や圧電,静電,超磁歪を用いたアクチュエータ,回転機,リニアドライブ,多自由度モータ,磁気浮上,磁気軸受,振動発電,バイオメカニクス,ロボット,医療応用,電磁誘導,静電力応用,プラズマ応用,超電導応用,マイクロ・ナノメカニズム,磁性流体,液晶・電気粘性流体,材料の電磁特性,非破壊検査,センサ・計測技術,機能性材料,電磁材料,電磁解析などについての講演が行われた.関連する国内会議として,2021年9月13日〜17日,オンラインで開催されたDynamics and Design Conference 2021(2),2021年12月9日〜10日にオンラインで開催された第17回「運動と振動の制御」シンポジウム(MoViC2021)(3),2021年12月6日〜7日にオンラインで開催された第30回MAGDAコンファレンス in 広島(電磁現象及び電磁力に関するコンファレンス)(4)などがあり,超電導,磁気浮上,回転機,電磁解析,医療応用,非破壊検査,次世代アクチュエータ,ワイヤレス電力伝送,環境発電,磁性流体などの講演が行われた.
関連する国際会議として,2021年7月1日〜3日に中国武漢で開催されたInternational Symposium on Linear Drives for Industry Application (LDIA)(5),2021年8月18日〜21日にオンラインで開催されたInternational Symposium on Magnetic Bearings (ISMB17)(6)などがあり,電磁アクチュータや磁気浮上などの講演が行われた.コロナ禍のため,講演数の減少や参加地域の偏りなどがみられたことが残念である.本分野の活性化のためにも,安心して対面での情報交換ができるようになることを期待したい.
〔上野 哲 立命館大学〕
13.4 力学系理論・応用
国際会議NODYCON 2021, Second International Nonlinear Dynamics Conference (Feb. 16–19, 2021)において,400件を超える最新の力学系理論とその応用に関する研究発表が行われた(1).特にCOVID19による感染拡大やその制御法などに関する特別セッションが組まれ,SEIRモデルの解析,伝染病の非線形ダイナミクスに関する多重時間スケールの効果などの研究が発表された(関連論文は雑誌Nonlinear Dynamicsの特集号(2)に掲載されている).また,同雑誌において本会議に関する特集号(3)が発行され,ニューラルネットワークを用いたスロッシングの非線形簡易モデル,超弾性円筒シェルの非線形特異進行波,二つの接点でのスリップ・ローリング遷移,材料および幾何学的非線形性を考慮した翼に生じるフラッターの非線形応答,区分線形システムに生じるグレージングの制御,マイクロカンチレバーアレイに発生するパラメータ励振とその応用,バーチャルカップリングによる超高感度質量センシングなどの研究内容がselected paperとして掲載されている.
また応用数理学会年会(4)では毎年「応用力学系」のセッションが設けられ,力学系の理論と応用に関する最新の研究成果が報告されている.2021年の発表内容は,グラフラプラシアンの固有値解析,半離散力学系の連続対称性と保存則,力学系の可積分性,周期軌道の存在証明,受動歩行の吸引領域,非自己随伴系の複素モードに関する実験同定,摂動を受けるレイリー・ ベナール対流に現れるラグランジュ・コヒーレント構造と流体輸送,時間 遅れを伴う化学反応ネットワー クなどである.以下,力学系解析の基礎理論である中心多様体理論,標準系理論に関する研究,非線形共振の具体例として,非線形連成共振の一つである内部共振現象の解析とオートパラメトリック励振に関する研究,さらに近年実用面から大きな注目を集めているモード局在化現象や非線形現象などを利用したMEMS/NEMSレゾネーターによるセンシングに関する研究動向を紹介する.
13.4.1 中心多様体と標準形に関する研究
中心多様体理論や標準形理論に関する理論および応用に関する研究が引き続き盛んに行われており,確率的な項を含む力学系に対する中心多様体および標準形理論の適用法(5)(6),常微分方程式の平衡点に関する中心多様体をチェビシェフスペクトル法により数値計算する方法(7),有限要素モデルの中心多様体理論を用いた低次元化と不変多様体の導出法(8),MEMSレゾネーターに生じる内部共振の解析に対する標準形理論の適用法などが明らかにされている(9).
13.4.2 オートパラメトリック共振および高周波加振の応用
フレーム構造に発生するオートパラメトリック共振の解析(10)やオートパラメトリック共振を用いた吸振器への応用研究(11)など,従来研究からの発展はもとより,エナジーハーベスターへの利用(12)(13)やセンサーへの利用(14)が盛んに行われるようになった.また,Stephenson–Kapitza pendulum に見られる,高周波加振下での剛性の増加や静的不安定系の安定化を利用した研究も,近年広く応用展開されている(15)-(19).
13.4.3 様々な振動現象を利用したMEMS/NEMSセンサーの高感度化
NEMS/MEMSレゾネーターによるセンシングに関する研究が振動理論をベースにして進んでおり(20)-(22),とくに共振状態の非線形特性の解析が注目されている(23)(24).これまで広く用いられてきた強制加振法に対して,さらなる高感度化・高精度化を目指して,パラメータ励振時の特性解析にもとづくセンサーへの利用(25)-(27)が提案されている.さらに,多自由度振動系に生じるモード局在化を利用したセンシング法が研究されており,質量計測,弾性計測などに利用されている(28)-(30).また,MEMSジャイロスコープの高感度化(31)やバイオセンシング(32)-(33)などへの応用も進んでいる.
〔藪野 浩司 筑波大学〕
13.5 モード解析
2021年度に日本機械学会論文集から公表された論文について述べる.「モード解析」というキーワードで検索すると,15本の論文が抽出された.これらには,従来のモード解析での問題点を克服するための新しい提案(1),構造物の健全性評価のための実稼働モード解析(2),振動低減のための基盤技術として利用した検討例(3)などが含まれている.
機械力学・計測制御部門の部門講演会であるD&D (Dynamics & Design)講演会におけるモード解析とその応用関連技術 (OS3-3)に関連した研究動向を調査した.計4セッションにおいて16件の発表がなされた.まず,振動対策における新しい分析手法(4), (5)の提案や伝達経路解析(TPA)におけるblocked forceの検討例(6)の報告があった.計測技術や計測データの処理技術に関しては,3次元ウェーブレット変換を用いた振動分離(7),音響レンズを用いたレーザー計測法(8)や画像処理による振動モード分離法(9)等の新しい試みがなされていた.また,歯車の振動寄与を計測データから分離する試み(10)や,伝達率関数を用いた健全性評価法(11)やトポロジー最適化とL1正則化を適用した方法(12)等が検討されていた.このように,本部門講演会を通して,動解析の新しい試みが多方面で継続的に進められている様子が捉えられた.
さらに電子ジャーナルにより,モード解析の世界の動向を調べてみる.今回は,一例として,Elsevier社のScience Directで,Modal Analysisというキーワードが,題目,abstract,キーワードに含まれているものを検索した.論文の種類として,Review articlesとResearch articlesを選択した場合,2021年は2,793本,2022年は1,542本の論文が発表されている(2022年4月現在).掲載数が多い雑誌としては,Mechanical Systems and Signal Processing(156本),Journal of Sound and Vibration(96本),Structures(45本),Measurement(37本)などがある.これらの論文の中で,関連性の高いと判断された論文100本のうち,41本にOperational Modal Analysisが含まれている.これは,国内の動向と同じ傾向で,構造物の健全性評価にモード解析の使用することを考えている.例えば,橋梁の実稼働モード解析(13),回転体への適用例(14)がある.また,損傷検知(15)についてもいくつかの適用例がある.
以上,モード解析は基盤技術として成熟していると認識されているが,現在においてもモード解析の関連分野には挑戦的な課題が多く残されている.ここでの研究動向調査を通して,我が国の研究者をはじめ,世界中の研究者が,これらに対して積極的に取組んでいることが分かる.
〔吉村 卓也 東京都立大学〕
13.6 板・シェル理論
機械力学・計測制御分野における「板・シェル理論」やその応用分野に関する2021年の研究動向について,同年に実施された機械力学・計測制御部門講演会のDynamics and Design Conference(D&D2021)を中心に概観する.D&D2021において「板」または「シェル」をタイトルに含んでいる研究報告は合わせて16件(1)-(16)であった.
特に「解析・設計の高度化と新展開」という領域のオーガナイズドセッション「板・シェル構造の解析・設計の高度化」では,卵などの食品や電化製品などを輸送する際の緩衝材として用いられるパルプモウルドと鋼板の複合構造(図13-6-1)に着目し,バンドギャップ効果による振動低減を検証している報告(1),3Dプリンターで作製された炭素繊維強化熱可塑性プラスチック(CFRTP)で,急激な繊維の屈曲を有する複合材平板(図13-6-2)の振動特性を有限要素法による数値解析および実験的に調査する報告(2)(4)など,新機能・付加価値を有する板材の振動特性に関する研究報告があった.また,対象物を有限個の区分に分割する薄肉平板の振動解析手法の構築を行い,その有効性を検証する研究(3),積層複合材板の面内方向の振動挙動をRitz法により解析し,最適設計へ適用する研究(5)など,連続体構造に関する有限要素法以外の数値解析的アプローチに関する研究報告がなされた.
図13-6-1 パルプモウルドと鋼板の複合構造の例(1)
図13-6-2 急激な屈曲部を持つCFRTP平板
「振動・騒音」をテーマとした領域では,鉄道車両が曲線を通過する際に発生するきしり音の低減を目的として,その発生メカニズムに関する検討を行う物理モデルの提案と二つの回転円板からなる実験装置の作製とその特性を評価する研究(7)(8),路面から巻き上げた砂利などが粘弾性材料によりコーティングされた車体下面に衝突した際に発生する音に着目した研究など(9),連続体が発生する騒音に関する研究報告があった.また,構造の板厚変化により,伝播する振動を反射させなくする波動ブラックホールに関する研究報告もなされた(10)-(12).その他にも,スマート構造(13)や流体関連振動(14)-(16)に焦点を当てた領域でも研究報告がなされており,板・シェル理論そのものや,その応用に関する研究は幅広い分野で実施されている.
以上のように,近年の3Dプリンターなどに代表されるAdditive Manufacturing技術の発展により,プラスチック構造のみならず金属や先端複合材に至るまで,これまでにない複雑形状での機械構造物の製造が可能になっている.複雑な形状のコア材を有するサンドイッチシェル構造など,複雑形状に起因した新機能や付加価値を持った板・シェル構造に関する理論的研究やその応用的研究が海外ジャーナルでも多く報告されており,本邦においてもその潮流に乗った研究動向がしばらく継続すると考えられる.
〔本田 真也 北海道大学〕
13.7 運動と振動の制御の概況
運動と振動の制御分野における2021年度の研究動向について紹介する.機械力学・計測制御部門にて,かねてより活発に研究が進められている分野の1つであり,当部門の代表的な講演会であるDynamics and Design Conference(D&D)のオーガナイズドセッション(OS)「振動と運動の制御」,隔年で開催される国際会議「Motion and Vibration Control(MoViC)」,国際会議が開催されない年に国内の研究者向けに開催される「運動と振動の制御」シンポジウム(国内MoViC)で活発に発表と議論がなされている.例えば,D&Dにおいては,2020年は21件,2019年は22件,2018年は20件,2017年は第 15 回「運動と振動の制御」シンポジウム(MoViC2017)との併催であったため,D&Dにて当該OSは企画されなかったが,MoViC2017において,24件の一般講演申し込みがあった.このことから,例年20件以上の発表がある分野である.
2021年のD&Dでは発表は16件のみであったが,同年に開催された「運動と振動の制御」シンポジウム(MoViC2021)にて98件の発表がなされている.MoViC2021は宇宙工学部門が開催する講演会スペース・エンジニアリング・コンファレンスと共催であったことも理由であると思われるが,同分野の研究発表件数は増えていると見ることはできる.
D&Dで発表された分野は,波動制御1件, 構造物の振動制御1件,計測器の振動制御2件,物流機械の制御1件,車両の力学と制御4件,ロボット・移動体制御7件という内訳であった.MoViC2021においては,モード解析とその応用関連技術5件,車両の力学と制御7件,飛翔体の制御7件,ダンピング技術と制御4件,磁気浮上・磁気軸受の制御4件,アクティブ・セミアクティブ振動制御44件,発電技術の制御1件,力覚提示6件,農業ロボットの制御6件,制御理論6件,人間の力学・計測制御13件,動吸振器6件,スマート構造4件,ロボット4件であった.航空宇宙分野は21件であった.波動・振動制御,ダンピング技術と制御,磁気浮上・磁気軸受など旧来の分野の研究が継続的に行われている一方,農業用ロボット,人間工学などの新しい分野の研究も増えている.同分野の今後の発展が期待される.なお,分野の分類は著者独自の判断で行ったので,異論はあるかと思うが,ご容赦願いたい.
特別講演を見ると,D&Dでは,宇宙探査ロボティクス,次世代新幹線,自動車の自動走行技術に関するものであった.また,MoViC2021においては,自動運転用オープンソフトウェア,展開アンテナに関するものであった.これらの話題は,運動と制御に関連が深いものである.「運動と振動の制御」の研究は,産業界において,これから発展が期待される応用先が多く,その社会実装も活発になっていくことが予想される.
2021年度(2021年4月から2022年3月まで)に発行された日本機械学会論文集において,機械力学,計測,自動制御,ロボティクス,メカトロニクス分野の中で,運動と振動の制御に関する研究と思われる論文は11件(1)-(5)であった.英文誌であるMechanical Engineering Journalには7件掲載されている(6)(7).活発な講演会での発表が,雑誌論文の出版につながっている.
D&D 2022が秋田県立大学で,MoViC2022がIFAC主催Mechatronics2022と合同でカリフォルニア大学ロサンゼルス校(米国)にて開催されることになっている.研究者同士の交流が,長く続くコロナ禍で停滞したことは否定できない.まだ,楽観は許されない状況であるが,国内外の研究者の交流が,再び活発になることを期待したい.
〔中野 公彦 東京大学〕