12. 環境工学
章内目次
12.1 環境工学を取り巻く状況
2021年10月に閣議決定されたエネルギー基本計画では,2050年の脱炭素社会実現に向けて,2030年の再エネ電源比率目標が10%以上引き上げられ,36~38%とされた.2050年に向けて,PV・風力等の変動再エネ電源の大幅拡大が必須となるが,気象条件による発電変動増大に対応するため,需要側建物・住宅等のエネルギー消費も柔軟に制御できる社会構造(統合マネジメント)構築も同時に必要となる.また,日本のエネルギー消費の約半分が熱需要目的であることから,熱分野・運輸分野の電化促進,産業熱分野の化石燃料代替となる「再エネ起因水素のための水電解システム普及」等を考慮すると,エネルギー機器の使用目的である熱環境状況等も考慮した制御が可能な,柔軟な広域エネルギーマネジメントシステム・データプラットフォーム基盤の構築が期待される.当該システム連携により各建物のBEMS・HEMSがエネルギー市場価格変動や,電力需給ひっ迫警報に自動対応することにより,強靭かつ合理的な脱炭素社会が実現可能となる.至近では,前述のような地域マイクログリッドの推進に向けて,「一般送配電事業者」が独占する配電事業への新規参入が,2022年4月から認められる制度がスタートする.多様な配電事業者の参入により,当該地域の分散電源の効率利用や仮想発電所(VPP)・デマンドリスポンス等の需要制御高度化,さらに災害時のレジリエンス向上が期待される.
また,気候変動対策(緩和策・適応策),資源循環型経済実現,生物多様性確保,エネルギー・食料セキュリティ確保,感染症パンデミック対策などの社会的重要課題は密接に関係しており,環境工学による分野横断的な解決策模索が重要となっている.
〔佐々木 正信 東京電力エナジーパートナー(株)〕
12.2 騒音・振動評価改善技術分野の動向
総務省公害等調整委員会が2021年12月17日に公表した「令和2年度公害苦情調査」(1)では,典型7公害の苦情は56,123件であり,対前年度比9,568件増加したことが示されている.その中では,「騒音」が4,335件,「大気汚染」が2,782件増加した影響が大きいとされている.
環境省からは,2022年2月25日公表の「令和2年度騒音規制法施行状況調査報告書」(2)においても,騒音に係る苦情の件数は,令和2年度は20,804件で,前年度より5,078件と3割強増加していることが示されている.この増加量は,近年は見られなかった現象であり,新型コロナウイルス感染症の影響から生活様態が変化した影響の可能性もあり注視が必要と考える.なお,苦情件数の内訳をみると,建設作業が最も多く7,841件(全体の37.7%),工場・事業場が5,554 件(同26.7%),営業が1,911件(同9.2%)等であった.
また,「令和2年度騒音規制法施行状況調査報告書」において調査されている「騒音に係る環境基準の達成状況」については,令和2年度に環境騒音の測定を実施した全測定地点2,537地点(前年度2,628地点)のうち,89.5%(同89.0%)に当たる2,271地点(同2,340地点)で環境基準を達成しており,前年度と同様であることが示されている.
続いて,研究動向を紹介する.2021年7月8日,9日の2日間で,第31回環境工学総合シンポジウムが新型コロナウイルス感染症対策のため全セッションオンライン方式で開催された.全体の講演論文数は98件で,そのうち騒音・振動評価・改善技術に関するセッションでは30件の講演発表があった.本講演会では,音の受動制御や能動制御,音質評価等,多種多様な研究テーマの発表がなされることが特徴である.今回の講演会では,音響メタマテリアル及びそれに類する構造物を取り扱う講演が3件,及び流体騒音を対象とした講演が6件なされた.音響メタマテリアルについては,共鳴構造を周期的に配置することによって,従来にはなかった様態で音の伝搬特性を変更できることから,多くの注目を集めるテーマとなっている.一方で,流体騒音については,従来から様々な研究がなされてきている分野であるが,依然として多くの未解決の問題があることが本講演会で明らかになるとともに,音響振動現象のさらなる抑制のための材料や機構の発展が待たれている分野であることが再認識された.
2021年度年次大会においては,9月8日の「先進サスティナブル都市」セッションにおいて騒音振動分野の講演が2件あった.工場の機械・設備から発生する騒音の低減について,及び環境騒音の持続的改善を目指す欧州の取組についての講演があり,2021年度については,環境騒音の低減について,機器単体についての対策及び総合的施策作りのための枠組みに関する講演が行われた.9月14日に「流体関連の騒音と振動」のセッションが開催され,10件の講演発表が行われた.
また,特別行事企画「EFDワークショップ:流体音」が流体工学部門企画として開催され,環境工学部門においても取り上げれらる,流れに起因する構造振動,流体音計測,空力音解析,ファン騒音の制御についての4件の講演がなされた.その他,可聴音利用に限っても,打音検査ロボットの開発など,機械設備の総合診断技術への音・振動現象の利用に関する講演があった.
国際会議の動向については,2021年7月11日~7月16日に第27回International Congress on Sound and Vibration(ICSV27)(3)が新型コロナウイルス感染症の影響により,完全オンライン方式で開催された.98のセッションが組まれ,574件の講演論文が報告された.このうち,構造物の振動と非線形振動に関するセッションで98件(全体の約17%)の講演があった.その中でも,構造物の動的モデルを構築し,構造物に作用する衝撃荷重を同定する問題について複数の講演があった.次いで,流体音に関するセッションでの講演が62件(同約11%)であった.他には,波動伝搬・超音波関係で51件(同約9%),音響・振動の測定関係で50件(同約9%),防音・制振材料で50件(同約9%),信号処理関係で45件(同約8%)となっていた.音響メタマテリアルの一種である音響ブラックホールが有効に作用する周波数範囲の広帯域化にアクティブコントロールの手法を組み合わせる方法の提案など興味深い講演があった.
2021年8月1日~8月5日には,第50回International Congress and Exposition on Noise Control Engineering(INTER-NOISE2021)(4)が,ICSV27と同様に完全オンライン方式で開催された.本会議は,2021年で50回目を迎える音響,騒音,振動に特化した国際会議である.7件のキーノートレクチャーに129のセッションが組まれ,605件の講演があった.近年都市部での飛行移動体の活用が議論されている.本会議においても,“Urban Air Mobility Community Noise”セッションにおいて10件の講演があり,従来にはなかったテーマで多くの講演がなされた.音響メタマテリアル関係の研究については,15件の講演があり近年の関心の高さが反映されていた.Noiseをうたっている本会議では,上述のICSVと比較して,道路交通騒音,騒音の健康影響,空港周辺における航空機騒音等,環境騒音に分類される騒音についての講演が多い.また,吸音材や微小多孔板,音響ブラックホールのような騒音抑制用の音響材料,構造に関する講演が多いことも特徴的であった.
〔森下 達哉 東海大学〕
12.3 資源循環・廃棄物処理技術分野の動向
第五次環境基本計画(2018年閣議決定)により,SDGsの考え方も活用しながら,あらゆる観点からのイノベーションの創出や,経済・社会的課題の「同時解決」実現と,各地域が自立・分散型の社会を形成する「地域循環共生圏」の推進する活動が継続されている.
その他,「プラスチック資源循環戦略」(1)に基づく「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」(令和3年6月11日公布,令和4年4月1日施行)が施行され,脱炭素事業に意欲的に取り組む民間事業者等を集中的,重点的に支援するため,財政投融資を活用した脱炭素化支援機構の創設が検討されている(2).
12.3.1 ごみ処理状況
一般廃棄物の年間処理量(2021年3月末時点)は42,1670千t(前年42,018千t),産業廃棄物処理量(2020年3月末時点)は3億8,596万トン(前年3億7,883万t)であり,一般廃棄物処理量,産業廃棄物処理量ともに増加した.また,一般廃棄物におけるごみ処理施設数は1,056施設(前年度1,070施設)と減少した一方,地球温暖化対策の一環として導入されている発電設備を有する施設数はごみ焼却施設数全体の36.6%であり,2020年度の36.0%から増加し,それに伴う総発電電力量も増加した(3)(4).
12.3.2 プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律
令和元年5月,政府は,海洋プラスチックごみ問題,気候変動問題,諸外国の廃棄物輸入規制強化の幅広い課題に対応するため,「プラスチック資源循環戦略」(1)を策定し,3R+Renewableの基本原則として,6つの野心的なマイルストーンを目指すべき方向性として掲げられた.
製品の設計からプラスチック廃棄物の処理までに関わるあらゆる主体におけるプラスチック資源循環等の取組(3R+Renewable)を促進するための法整備として,「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」(令和3年6月11日公布)が,令和4年4月1日に施行される.
基本方針は以下である.
○プラスチック廃棄物の排出の抑制,再資源化に資する環境配慮設計
○ワンウェイプラスチックの使用の合理化
○プラスチック廃棄物の分別収集,自主回収,再資源化 等
これは従来型のリサイクル法とは異なり,品目毎の個別最適の制度ではなく,サーキュラー・エコノミー(CE)化を進めるための全体最適化を見据えたルール整備を行った形である.
12.3.3 2050年カーボンニュートラルに向けて
2050年カーボンニュートラル(CN)の達成だけでなく,サーキュラー・エコノミー(CE)の実現などに向けた各企業の取り組みが始まっている.
循環経済ビジョン2020(経済産業省)(4)では,動静脈産業の連携強化,複数社の連携が強調されビジネスモデルの構築や資源循環の高度化が進むことが期待されている.実施にあたっては収益化できるビジネス展開とする必要があることから,昨今増加しつつあるESG投資を積極的に呼び込むため,2021年1月に「サーキュラー・エコノミーに係るサステナブル・ファイナンス促進のための開示・対話ガイダンス」(経済産業省)(5)が策定され,ビジネスツールとしての利用が期待されている.
一方,支援の面では,再生可能エネルギーの利用を基本とした地方創生につながる再エネ導入を促進として,2021年6月,『地域脱炭素ロードマップ ~地方からはじまる,次の時代への移行戦略~』(6)を決定し,地域のすべての方が主役で,今から脱炭素へ「移行」していくための行程と今後5年間の具体的な目標を以下としている.
○少なくとも100か所の脱炭素先行地域を創出する.
○重点対策を全国津々浦々で実施することで,『脱炭素ドミノ』により全国に伝搬させる.
また,環境省は,脱炭素事業に意欲的に取り組む民間事業者等を集中的,重点的に支援するため,財政投融資を活用した脱炭素化支援機構の創設を検討している. (2)令和4年2月8日には,脱炭素化支援機構の設立やその業務等について規定する「地球温暖化対策の推進に関する法律の一部を改正する法律案」を閣議決定し,国会に提出し,200億円の出資(株式会社脱炭素化支援機構の設立)を呼び水として,1,000億円程度の規模の脱炭素事業を実現するとともに,新たなビジネスモデルの構築を通じて,数兆円規模の脱炭素投資の誘発に貢献することを目指している.
令和3年8月に公表された「廃棄物・資源循環分野における温室ガス排出実質ゼロに向けた中長期シナリオ(案)」(7)では,廃棄物の発生抑制,マテリアル・ケミカルリサイクルの推進,化石資源をバイオマス由来資源に転換すること,廃棄物の焼却に関しては当面のエネルギー回収の徹底や将来的にCCUS(二酸化炭素回収・有効利用・貯留)の導入とし,具体的な対策を深めることを目指している.
12.3.4 新型コロナウィルス(COVID-19)への対応
政府の新型コロナウイルス感染症対策本部の基本方針で産廃処理業者をエッセンシャルワーカーと位置づけ,令和3年4月に「新型コロナウイルス感染症に係るワクチン接種に伴い排出される破棄物の処理について(通知)」を発出し,安全でかつ確実な処理に努めるよう促している.
〔鉄山 一州 住友重機械工業(株)〕
12.4 大気・水環境保全分野の動向
我が国の大気環境については大気汚染防止法に基づき常時監視が行われており,2022年3月28日に2020年度の大気汚染状況が環境省より公表されている(1).常時監視されている物質は環境基準が設定されている6物質と有害大気汚染物質21種であり,大気汚染物質の一つに微小粒子状物質(PM2.5)が加えられている.PM2.5は大気中に浮遊している直径2.5μm以下の極めて小さな粒子であり,その成分は炭素,硝酸塩,硫酸塩,ケイ素,ナトリウム,アルミニウムなど様々である.粒子径が非常に細かいことから,吸いこむことによりぜんそくや気管支炎など呼吸器系疾患のリスクを高めることが知られている(2).PM2.5は車や船舶から排出される煤(炭素)や土壌粒子(黄砂など),森林火災等の直接的原因に加えて,硫黄酸化物(SOx)や窒素化合物(NOx),揮発性有機化合物(VOC)が原因物質となり発生する.PMは大気中に浮遊する粒子であることから,火山(噴火)活動や降雨,火災など自然状況によってもその量は大きく変動するが,世界保健機関(WHO)が指摘するように世界的に見ても深刻な状況が続いていることに間違いはない.
先にも述べたように我が国おいてはPM2.5の状況を全国1827箇所でモニタリングしており,環境基準として「1年平均値が15μg/㎥以下であり,かつ,1日平均値が35μg/㎥以下であること」としている(3).この基準によれば一部地域を除いて概ね環境基準を達成しており,年平均の環境基準達成率は98%を超える.ただ,WHOは2021年9月に汚染状況の指針を改定しており,PM2.5濃度の年間平均の目標値を,これまでの1m3当り10μgから5μgに引き下げ,基準を大幅に厳しくした(4).この基準に基づいて世界117か国の6475都市においてスイス企業IQAirが調査したところ,WHOの新基準を満たしている地域は世界に1都市もないことを報告している(5).図12-4-1に示す例のようにIQAirのホームページでは世界の各都市におけるPM2.5だけではなく,PM10やAmerican AQI(Air Quality Index(6))を確認することができるので興味があれば参照されたい(7).なお,大気汚染情報に関してはアメリカのEPA Air Now(8),欧州のAir Quality Nowに加えて,イギリス,カナダ,韓国,中国などでも情報提供が行われており,我が国においては日本気象協会(9)においてPM2.5分布予測が掲載されている.
これらデータはすべての国や地域を網羅しているわけではないが,2021 IQAir世界大気質レポート(5)によると2021年に最も汚染された上位5か国はバングラデシュ,チャド,パキスタン,タジキスタン,インドであり,インドのデリーは4年連続世界で最も汚染された首都とされている.報道等でも数多く取り上げられているように大気汚染都市のリストを見ると中東,南,中央アジアなどアジア地域が極めて深刻な状況にある.ただ,中国の北京においては国連環境計画(UNEP)の報告書にもあるように,大気汚染の状況は改善されており,従来に比べて改善に転じていることは疑う余地はない.そのため,今後は継続的な改善が実現可能であるかが注目される.
都市によってはロンドンのように超低排出ゾーン(Ultra Low Emission Zone, ULEZ)を設けるなど,比較的AQIの高い都市部においては対策が講じられている.先日のニュース(2022年3月7日)においてもULEZの拡大が報じられ(10),世界をけん引する動きを見せている.一方,我が国におけるAQIはほぼすべての地域において良好であるが,瀬戸内海地域が若干高い傾向にあり,環境省では越境大気汚染に加えて工業地帯における固定発生源や船舶の影響であると分析をしている(1).その一方で大気汚染が改善されているとの理由から東京,愛知,大阪など8都府県約240市区町村に指定されていた自動車排ガス対策地域が一定の条件を満たした場合において解除を検討できる,との答申案を2022年3月29日の中央環境審議会自動車排出ガス総合対策小委員会で了承している(11).世界における環境基準が厳しくなる中で我が国の今後の大気汚染対策の動向が注目されるところである.
さて,PM2.5の健康被害については2016年にWHOが平均寿命より早く亡くなる早期死亡者が420万人に達するというショッキングな報告書をまとめていた.2021年11月に国立環境研究所がプレスリリースした記事によるとG20諸国の消費者が購入する製品やサービスの生産によって生じるPM2.5発生量を全球規模で推計し,その曝露により生じる世界各国の早期死亡者は年間約200万人に上るとする研究結果を公表している(12).悲しいことに,その中には約8万人の乳幼児(5歳未満)が含まれる.この報告を見ても分かるように,発展途上の地域や新興国だけではなく,先進地域における製品の消費やサービスの生産が原因となっていることが指摘され,我々の一層の努力が必要であることが改めて認識させられる.
大気汚染,特にPM2.5の現状について文字数を割いたため,水分野に関しては一文に留めさせていただく.水は人類にとって必要不可欠な資源であり毎年ダボス会議において発表されているGlobal Risk Reportにおいては「水危機」が常に上位であった.ただし,2021年の影響が大きいリスクTOP1に「感染症」が入り(13),それに伴いTOP5から水危機が外された.これはあくまで新型コロナウイルスの影響であり,水質の管理は極めて重要であることを引き続き肝に銘じておかなければならない.
図12-4-1 IQAir mapの一例(7)
〔小林 信介 岐阜大学〕
12.5 環境保全型エネルギー技術分野の動向
12.5.1 概況
2021年は,東京電力福島第一原発の事故から10年となる一方で,持続可能なSDGs(1)の目標の一つとしてある「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」で2030年までに安価かつ信頼できるエネルギーを普及させることであることや,2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略(2)などへの関心が進む中,環境保全型エネルギー技術分野における省エネルギー,再生可能エネルギー,エネルギー有効利用,蓄熱・電力貯蔵技術,環境数値シミュレーションの各カテゴリーの最新技術が関連する.日本機械学会環境工学部門が主催する環境工学総合シンポジウムが2021年7月にオンラインで開催されており,環境保全型エネルギー技術分野の各カテゴリーにおける研究発表から研究動向を以下にまとめる.
12.5.2 省エネルギー
省エネルギーのカテゴリーでは,「空調・システム技術」と「伝熱・熱交換器」の2つセッションが設定され,それぞれ4件ずつの発表があった(3).空調・システム技術のセッションでは,「大空間における空調機器の最適制御に向けた,講義室の温熱環境の測定と解析」,「TRNSYSを用いた太陽熱を利用する空調設備の年間運用シミュレーション」,「ヒートポンプ機器の実運転性能評価装置の開発」,「確率計画法に基づく電力融通ネットワークの運用マネジメント(電気自動車の不確実利用条件下における経済性評価)」といったタイトルの発表があり,実験やシミュレーションによる評価や最適化によって研究が進められている.伝熱・熱交換器のセッションでは,「微細流路を通過する減圧膨張過程の冷媒R134aの可視化と流動評価」,「微細流路を通過する冷媒気液二相流の沸騰現象の可視化と伝熱評価」,「微細流路を通過するCO2冷媒凝縮過程における伝熱面形状の差異が液膜形成状態および伝熱特性に与える影響」といったタイトルで,「微細流路」に的を当てた冷媒の流動と伝熱の研究が続けて3件報告され,「Filed test and analysis of copper pipe radiant cooling for greenhouse in tropical countries」と題して熱帯地方における伝熱の研究も報告された.
12.5.3 再生可能エネルギー
再生可能エネルギーのカテゴリーでは,4件の発表があった(4).初めに「再生可能エネルギー主力電源化に向けた電力系統増強の試算ツールの構築」というタイトルで,再生可能エネルギーの導入加速に必要不可欠な研究発表があり,「圧電フィルムを用いた発電旗の構造パラメータが発電風域に与える影響について」というタイトルで新しい発電方法の基礎研究の発表や,木質バイオマスの分野から「木質バイオマスの水性ガス化反応プロセスの評価」,太陽熱の分野から「空調の顕熱・潜熱処理を考慮したソーラークーリングシステムの設計・評価手法」といったタイトルの研究発表がなされた.
12.5.4 エネルギー有効利用
エネルギー有効利用のカテゴリーでは,10件の発表があった(5).未利用熱の分野では,「廃棄物エネルギーの産業利用に関する検討(~第2報:一般廃棄物処理の広域化および熱供給事業の環境性・経済性評価~)」および「未利用熱エネルギーを活用する低温駆動・低温発生型吸収冷凍機の研究開発(原理試作機における内部熱損失の検討と冷水温度特性)」,「100℃程度の低温廃熱を利用する吸着材蓄熱システムの開発(コンテナ型蓄熱槽によるオフライン熱輸送の実証試験)」といったタイトルで3件あり,これまで捨てていたエネルギーの利用は有効性がとても高い.また,吸着式冷凍サイクルに関する研究が,「吸着冷凍機の熱交換器パラメータの推定方法」,「吸着熱回収による二重効用吸着冷凍サイクルの実験による動作実証」,「HFO-1234yf冷媒を用いた熱利用型吸着式冷凍機の基礎検討」,「蒸気圧縮-吸着ハイブリットサイクルの性能に対する吸着動特性の影響」といったタイトルで4件あり,これらの研究も未利用の熱エネルギーを有効に利用できる技術である.その他,「エジェクタ冷凍サイクル試験結果のエクセルギーによる性能評価」というタイトルの有効利用のための高効率化を目指す研究や,「エンジンの環境性能を考慮した電磁駆動バルブシステム」,「イオン風を利用した熱伝達制御に対する電極形式の影響」といったタイトルの新しい研究も報告された.
12.5.5 蓄熱・電力貯蔵技術
蓄熱・電力貯蔵技術のカテゴリーでは,5件の発表があった(6).氷系蓄熱材では,「高IPF氷スラリーにおけるIPF値と経時変化が凝集力に及ぼす影響の検討」や「カチオン性界面活性剤-純水混合液の臨界ミセル濃度以上の場合における濃度が過冷却に及ぼす影響」といったタイトルでの研究発表があり,砂利を用いた「砂利蓄熱システムの温度躍層に関する基礎研究」というタイトルの研究発表もあった.また,環境関連分野として「軽油ー水エマルジョン燃料中の分散水滴径分布幅がディーゼル機関の運転特性に及ぼす影響」や「指向性スピーカを用いた鳥類撃退システムの開発と適用可能性の検証」といったタイトルでの研究発表があった.
12.5.6 環境数値シミュレーション
環境数値シミュレーションのカテゴリーでは,4件の発表があった(7).いずれも空調分野で省エネルギーやエネルギーの有効利用につながるテーマで「放射率の変化が室内の温熱快適性に及ぼす影響のCFD解析」,「熱駆動型リキッドデシカント空調システムの除湿期間における性能評価」,「産業分野におけるヒートポンプ導入効果の評価手法の構築とシミュレータの開発」,「人工ニューラルネットワークを駆使したHVAC性能予測の拡張性と汎用性分析」といったタイトルでの研究発表があった.
〔田中 勝之 日本大学〕