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機械工学年鑑2022

10. 動力

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10.1 日本のエネルギー事情

2020年度は新型コロナウイルス感染症の影響により経済が落ち込んだことで,エネルギー消費も大きく減少した.一次エネルギー国内供給(消費)は2019年度比-6.1%の17,965PJと,統計が比較可能な1990年度以降の最少を2年連続で更新した(資源エネルギー庁「総合エネルギー統計(確報)」(1)).内訳では,化石燃料が-6.1%と7年連続で減少,7年連続で増加していた非化石エネルギーも-6.1%となった.そうした中でも,再生可能エネルギー(水力を除く)は,固定価格買取制度の追い風を受けた太陽光発電がけん引して,+7.2%と増加した.それ以外のエネルギー源はすべて減少した.特に,電力消費の減少と再生可能エネルギーの伸長で発電用が,粗鋼の減産で産業用がともに減少した石炭は-8.8%,外出自粛で輸送用の減少が大きく影響した石油が-7.9%と大きく落ち込んだ.東日本大震災後に新たな再稼働がなく,特定重大事故等対処施設が未完成のため停止した発電所があった原子力は-39.2%と激減した一方,その穴を埋めるべく発電用が増加した天然ガス・都市ガスは-0.2%と微減にとどまった.非化石燃料比率は横ばいの15.2%となり,依然として東日本大震災以前(2010年度は18.8%)を下回る.

一次エネルギーとして供給されたもののうち,エンドユーザーが実際に消費した分を表す最終エネルギー消費は-6.7%と,こちらも大きく減少した.各業種での減産により製造業は-9.7%と,リーマンショックがあった2008年度を上回る落ち込みとなった.業務他部門は,2019年度に比べ厳冬でエネルギー消費の押し上げ寄与があったものの,飲食業,宿泊業などの活動低迷やテレワークの推進などにより-6.1%となった.運輸部門は,上記のとおり外出自粛の影響で旅客が-14.3%,生産活動の低迷により貨物が-4.5%で,合わせて-10.3%と統計が比較可能な1991年度以降で最も大きな減少率を記録した.一方で,家庭部門は,気温による暖房・給湯需要の増加と在宅時間の伸びが影響し,+4.8%と唯一増加した.

発電電力量は,電力需要の減少を反映して-2.0%と3年連続で前年度を下回った.ただし,電力の最終消費の減少は他のエネルギー源に比べると控えめであった.電源構成では,太陽光,バイオマスなどが伸びたが,原子力は上記のとおりの状況で構成比は3.9%まで減少した.そのため,二酸化炭素(CO2)を排出しないゼロエミッション電源比率は23.7%と,2019年度の24.4%から低下した.なお,2010年度にはこの値は34.6%であった.

エネルギー起源のCO2排出は,エネルギー消費の減少により,1,000Mtを切る967Mtまで減少(-5.9%)し,統計が比較可能な1990年度以降の最少を3年連続で更新した.パリ協定基準年の2013年度と比べると-21.7%である.

2021年度は,引き続き新型コロナウイルス感染症の影響下にあったものの,経済の正常化が一部で徐々に進み,エネルギー消費も増加に転じた.日本エネルギー経済研究所によると,2022年2月までの一次エネルギー消費は2020年度同期比+3.4%となっている.2020年度に大きく落ち込んだ石炭が+5.2%,石油が+3.9%となった.一方,原子力発電所の稼働状況が高まったことにより,代替電源の役割を果たしていた天然ガスが-7.1%と減少した.こうしたことでCO2排出は+2.1%と2年ぶりに増加に転じた.エネルギー需要の回復は日本国内に限ったことではなく,脱炭素機運の高まりによる供給投資不足,さらにはロシアのウクライナ侵攻が重なったことで,国際原油価格は騰勢を強めた.これにより2021年4月に1バレル66.32ドルであった原油輸入価格は,2022年2月に$86.69/bblまで高騰した.天然ガス,石炭の輸入価格も上昇し,物価とりわけ企業物価の上昇をもたらしている.

〔栁澤 明 (一財)日本エネルギー経済研究所〕

参考文献
(1)総合エネルギー統計 (2020年度確報),経済産業省資源エネルギー庁, https://www.enecho.meti.go.jp/statistics/total_energy/ (参照日2022年4月15日)

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10.2 火力発電

10.2.1 日本の火力発電の動向

a. 電気事業者の発電設備

 2021年12月末現在の電気事業者の発電設備は合計2億7,084万kWで,その内訳は火力1億7,063万kW(構成比63.0%),原子力3,308万kW(12.2%),水力4,952万kW(18.3%)などである(表10-2-1).2021年中に完成した主な火力発電設備は4地点となっている(表10-2-2).

 

表10-2-1電気事業者の発電設備(1)(出力単位:MW)

種別 2020年12月末 2021年12月末
出力 構成比 出力 構成比
水力 49,627 18.4% 49,521 18.3%
火力 170,829 63.4% 170,629 63.0%
原子力 33,083 12.3% 33,083 12.2%
新エネルギー等 16,004 5.9% 17,549 6.5%
その他 43 0.0% 60 0.0%
合計 269,586 100.0% 270,841 100.0%

(注)数字は四捨五入であるため合計は必ずしも一致しない

 

表10-2-2 2021年中に完成した主な火力発電設備

発 電 所 名 事 業 者 名 出力(MW) 燃 料 完成年月
常陸那珂共同1号 常陸那珂
ジェネレーション
650 石 炭 2021/1
福島IGCC(勿来) 勿来IGCCパワー 525 石炭*2 2021/4
川崎新1号 東日本旅客鉄道 211 LNG*1 2021/6
広野IGCC 広野IGCCパワー   543 石炭*2 2021/11

※1:コンバインドサイクル発電

※2:石炭ガス化複合発電

b. 自家用発電設備

 2021年9月末現在の自家用発電設備は合計2,879万kWで,その内訳は火力2,133万kW(構成比74.1%),水力40万kW(1.4%),新エネルギー等(風力・太陽光など)706万kW(24.5%)などであり,2020年度と比較して新エネルギー等の発電設備が増加していることが分かる(表10-2-3).

 

表10-2-3 自家用発電設備(1)(出力単位:MW)

種別 2020年9月末 2021年9月末
出力 構成比 出力 構成比
水力 397 1.4% 396 1.4%
火力 21,524 74.6% 21,334 74.1%
原子力 0 0.0% 0 0.0%
新エネルギー等 6,948 24.1% 7,062 24.5%
合計 28,869 100.0% 28,792 100.0%

(注)数字は四捨五入であるため合計は必ずしも一致しない

c. 計画中の主な火力発電設備

 今後計画されている火力発電設備(環境アセスメント手続き実施中・実施済のものなど2021年末時点で公表されているもの)のうち,主なものは16地点,2,131万kWである(表10-2-4).そのうち,燃料別出力割合はLNG(Liquefied Natural Gas)・都市ガスが約73%,石炭が約27%となっている.

 

表10-2-4 計画中の主な火力発電設備(2021年末時点)

発 電 所 名 事 業 者 名 出力(MW) 燃 料 完成予定年月
神戸3,4号 コベルコパワー神戸第二 650×2 石 炭 2022/2,2022年度
新居浜北 住友共同電力 150 LNG及び副生ガス*1 2022/7
三隅2号 中国電力 1,000 石 炭 2022/11
上越1号 東北電力   572 LNG*1 2022/12
武豊5号 JERAパワー武豊合同会社 1,070 石 炭 2022年度
西条1号 四国電力 500 石 炭 2023/6
(仮称)姉崎新1~3号機 JERAパワー姉崎合同会社 約650×3 LNG*1 2023/2,2023/4,2023/8
(仮称)横須賀新1・2号機 JERAパワー横須賀合同会社 650×2 石 炭 2023年, 2024年
五井火力発電所更新 五井ユナイテッド
ジェネレーション合同会社
780×3 LNG*1 2024.8,2024.11,2025.3
ひびき天然ガス(仮称) 九州電力・西部ガス 620 LNG*1 2025年度
GENESIS 松島 電源開発 500 石 炭 2026年度
知多火力発電所7,8号機 JERA 650×2 LNG*1 2027/8,2027/12
(仮称)千葉袖ケ浦天然ガス発電所 千葉袖ケ浦パワー 700×3 LNG*1 2028年
和歌山 関西電力 3,700 LNG*1 2028年度以降
姫路天然ガス 姫路天然ガス発電 622.6×3 LNG*1 2026/1
2026/5
2029/10
石狩湾新港2~3号 北海道電力  569.4×2 LNG*1 2030/12,2035/12

※1:コンバインドサイクル発電

 

発電設備においては,長期的な電力の安定供給,エネルギーセキュリティの確保,地球温暖化防止など環境負荷低減の観点から,火力,水力,原子力を中心とした電源のベストミックスが進められてきた.このような中,LNGを燃料とする発電設備ではコンバインドサイクル発電(CC)が,石炭を燃料とする発電設備では超々臨界圧汽力発電(USC)の導入が計画されている.

d. 火力発電の新技術

 LNGを燃料とする発電設備では,コンバインドサイクル発電においてさらなる高効率化が図られ,1,600℃級ガスタービンによる熱効率62%以上(低位発熱量基準)を達成する発電設備が運転を開始した.また,次世代の高効率ガスタービンの実用化を目指し,国家プロジェクトとして1,700℃級ガスタービンの要素技術開発が進められている.

一方,石炭を燃料とする発電設備では,超々臨界圧プラントの蒸気条件を700℃級まで高温化させた先進超々臨界圧プラント(A-USC:Advanced Ultra Super Critical)の実用化要素技術開発が,国家プロジェクトとして進められている.また,石炭ガス化複合発電では,主に海外で運転されている酸素吹き方式よりも送電端効率が高い空気吹き方式の開発が進められており,25万kW級プラントの実証試験が2013年3月に終了(以降商用プラントとして運用を開始)し,さらに54万kW級プラントの営業運転も開始されている.また,酸素吹き方式においても16.6万kW級プラントの実証試験が2017年3月に開始され,全3段階のうちの第1段階を2019年2月に予定通り完了した.第2段階となるCO2分離・回収型の実証試験を2019年12月に開始しており,次の段階に進んでいる.

さらに近年,脱炭素技術の検討についても進められており,アンモニア混焼技術や,水素混焼技術の開発・検証が行われている.

〔青木 拓也(株)JERA〕

参考文献
(1)各種統計情報(電力関連),経済産業省資源エネルギー庁, https://www.enecho.meti.go.jp/statistics/electric_power/ep002/(参照日2022年4月1日)

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10.2.2 海外の火力発電の動向

国連エネルギー統計2019によると,2019年末における世界の火力発電設備容量は44.5億kWで前年比1.3%増,同年中の発電電力量は17.6兆kWhで前年比0.4%の減少を記録した.

米国ではこれまで主要な電源であった石炭火力から,天然ガス火力への移行が進んでいる.2020年における国内の石炭火力発電量は7,734億kWhで,前年比19.9%減少した.一方,天然ガス火力による発電量は1兆6,242億kWhで,前年比2.4%増となった.その結果,2020年の国内総発電量に占める石炭火力発電量のシェアは19%(2010年では45%),天然ガスでは41%(同24%)となっている.石炭火力の低迷の背景として,天然ガス価格や再生可能エネルギーのコスト低下に伴い,卸電力市場における石炭火力の相対的な競争力が低下している点,また,脱炭素を志向する州政府や投資家の意向を受けて,国内の多くの大手電気事業者が独自の排出削減目標を設定し,石炭火力の段階的廃止を図りつつあるという点が挙げられる.

こうした傾向は今後も継続することが予想されている.もっとも,足元ではやや異なる状況も観測される.2021年に入り,年初にテキサス州など米国各地を襲った寒波や,その後の世界的な天然ガス需要の高まり,それに伴うガス価格の高騰による影響で,天然ガス火力の発電コストが上昇した.このことは石炭火力の経済性を相対的に高める結果につながり,米国エネルギー情報局は2021年10月時点で,2021年の石炭火力発電量が前年比で22%増大するとの見通しを示した.

また,米国では2021年に発足したバイデン政権が,2035年までに電力セクターでの温室効果ガス(GHG)排出量を実質ゼロとするという野心的な目標を掲げている.こうした中,米国内では,水素と天然ガスの混焼による発電プロジェクトの実証や,二酸化炭素回収・利用・貯留(CCUS)技術の研究・開発も進められている.

欧州では,EUが2021年,GHGの正味排出量を2030年までに対1990年比で55%削減,2050年までにネット・ゼロとする目標を法制化した.引き続き電力セクターの脱炭素化は積極的に進められており,米国同様,欧州でも石炭火力発電量の減少が顕著に認められる.EU27カ国の2020年における石炭火力発電量は前年比22%減の3,514億kWhとなり,2010年において25%であった石炭火力発電量のシェアは,2020年には13%まで低下した.現在,EUや加盟各国のGHG排出削減目標が段階的に強化される中で,石炭火力への依存度が比較的高い中東欧諸国を含めて,欧州のほとんどの国で国内の石炭火力の廃止期限が決定,ないし検討されている.2021年は欧州排出量取引における炭素価格が大幅に上昇し,石炭火力の経済性に不利な影響を与えている点も,こうした動きを後押しした要因のひとつに数えられる.

EU27カ国の2020年における天然ガス火力発電量は5,601億kWhで,総発電量に占めるシェアは20%であった(過去10年間でシェアは大きく変化していない). 2050年ネット・ゼロを目指す脱炭素化政策の中で,天然ガス火力の扱いについてはEU内でも議論が分かれるところであるが,これまでのところ,EUとしては天然ガス火力を脱炭素化の過渡的な技術として位置づける方向にある.例えば,EUで進められている「タクソノミー(持続可能な投融資対象技術の分類)」の検討において,天然ガス火力は一定の条件の下で持続可能な技術として認められることで調整が行われている.ただし,その条件には,2035年までに燃料を再生可能エネルギー起源その他の低炭素ガスへ切り替えることなどが含まれる見通しである.

なお,目下,欧州の天然ガス利用を巡る状況には大きな変化が生じている.2021年,コロナ禍からの景気回復や脱炭素化に伴う世界的な天然ガス需要の増大などで,天然ガス価格が記録的に高騰,さらに,2022年2月のロシアによるウクライナへの軍事侵攻に伴い,欧州における天然ガスの安定供給が大きなリスクにさらされることとなった.域内ガス消費量の4割以上をロシアからの輸入に頼っているEUにおいて,脱ロシア依存を実現するための政策が急きょ準備され,省エネルギー推進や再生可能エネルギー導入の加速が喫緊の課題として浮上している.こうした中で,欧州の天然ガス火力の運転や建設がどのような影響を受けることになるか,不透明な状況が続いている.

〔栗村 卓弥 (一社)海外電力調査会〕

参考文献

(1) 国連エネルギー統計2019, https://unstats.un.org/unsd/energystats/pubs/yearbook/(参照日2022年4月1日)

(2) 米国エネルギー省エネルギー情報局, 電力年報2020, https://www.eia.gov/electricity/annual/(参照日2020年3月30日)

(3) 欧州統計局, Production of electricity and derived heat by type of fuel, https://ec.europa.eu/eurostat/databrowser/view/nrg_bal_peh/default/table?lang=en(参照日2022年4月1日)

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10.3 原子力発電

10.3.1 日本の原子力発電の動向

a. 軽水炉

わが国の原子力発電は,2021年12月現在,改良型沸騰水型軽水炉(ABWR)を含む沸騰水型軽水炉(BWR)が17基,加圧水型軽水炉(PWR)が16基の計33基が稼動している.このうち,7月に関西電力の美浜原発3号機が営業運転を再開し,計10基が営業運転を再開している.また,3基が建設中であり,6基が計画中である.表10-3-1に,最近5年間の原子力発電所の基数,合計出力及び年平均の設備利用率の推移を示す.2021年は,廃止が決定した原子炉は無く,合計出力は2020年と同じ3308万kWであった.また,平均設備利用率は2020年から上昇して22.1%となり,最近5年間で最高値となった.他の原子炉の運転再開についても,各電力会社からの申請に基づき,新規制基準に基づく安全性審査が進められている.

b. 新型炉

高温ガス炉は,(国研)日本原子力研究開発機構(原子力機構)の高温工学試験研究炉(HTTR)が2021年7月30日に運転を再開し,その後9月に定期事業者検査を終了して新規制基準対応を完了した.また,原子力機構とポーランド国立原子力研究センターとの間で締結された研究協力実施取決めに基づき技術会合が開催されるなど,日本の高温ガス炉の国際展開に向けた協力が進められている.

国際熱核融合実験炉(ITER)計画では,世界最大級のトロイダル磁場コイルの組み立てが進み,完成品がITERサイトに輸送されるなど,日本が担当する機器の調達活動などによりITER建設が進展した.また,核融合エネルギーの早期実現を目指し,日本は欧州連合(EU)と国際協定を結び,ITER計画の支援と核融合炉の原型炉の研究開発に取り組む活動(幅広いアプローチ(Broader Approach: BA)活動)を行っている.(国研)量子科学技術研究開発機構では,先進超伝導トカマク装置であるサテライトトカマク装置(JT-60SA)の統合試験運転が進められるなど,BA活動が着実に進められている.

表10-3-1 最近5年間の原子力発電の推移

項 目 2017 2018 2019 2020 2021
基 数 BWR 22

PWR 20

BWR 22

PWR 20

BWR 21

PWR 17

BWR 17

PWR 16

BWR 17

PWR 16

合計出力(万kW) 4148 4148 3804 3308 3308
設備利用率(%) 8.4 15.0 21.4 15.5 22.1

BWR : 沸騰水型軽水炉,PWR : 加圧水型軽水炉

〔竹上 弘彰 日本原子力研究開発機構〕

我が国では,新型炉開発を含めた原子力イノベーションの実現に向けた取組みとしてNEXIP(Nuclear Energy × Innovation Promotion)イニシアチブが,経済産業省と文部科学省との連携により推進されており, 事故耐性燃料(ATF), 免震システムなど産業界からの提案技術に対するサポートが行われている(1). 米国DOEは,2020年5月に開始した先進的原子炉設計の実証プログラム(ARDP)の初回の支援金交付対象として, X-エナジー社の「高温ガス炉 ”Xe-100”」と,テラパワー社の「ナトリウム冷却高速炉 ”Natrium”」を選定した.テラパワー社のビル・ゲイツ会長は,Natriumの実証炉をワイオミング州内で建設することを表明しており,日本原子力研究開発機構,三菱重工業株式会社等との協力に期待が寄せられている(2)

原子力機構では,高速炉開発の戦略ロードマップ(3)で示された今後の開発方針や原子力機構が果たすべき役割を考慮して,先進的設計評価・支援手法(AI支援型革新炉ライフサイクル最適化手法:ARKADIA)や革新的な規格基準体系の整備,安全性向上技術の開発及び燃料サイクル技術開発など,イノベーション促進のための技術基盤の開発が米仏との国際協力を活用して進められている.また,高速中性子照射場として期待されている高速実験炉「常陽」は運転再開に向けた新規制基準への適合性審査が進められている.

小型炉心に伴う受動安全システムの採用,モジュール生産による工期短縮と資本費削減などのメリットが期待されるSMR(小型モジュール炉)に着目した検討も進められており,日米協力に加え,民間企業との連携による開発が期待されている.

〔平田 勝 (国研)日本原子力研究開発機構〕

参考文献
(1) https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/genshiryoku/pdf/023_05_00.pdf(参照日2022年3月28日)

(2) https://www.jaea.go.jp/02/press2021/p22012701/(参照日2022年3月28日)

(3) 戦略ロードマップ,原子力関係閣僚会議, https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/genshiryoku_kakuryo_kaigi/pdf/h301220_siryou.pdf

(参照日2022年3月28日)

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c. 核燃料サイクル

日本原燃(株)が事業展開を進めている六ヶ所再処理工場では,主工程が完成し,ガラス固化体を製造するガラス溶融炉の社内試験も終了した.MOX燃料工場は建設工事中である.再処理工場,MOX燃料工場は,2014年1月に新規制基準への適合性確認のため事業変更許可を申請し,再処理工場は2020年7月,MOX燃料工場は2020年12月に許可を得ており,2020年12月に設計及び工事の計画の変更認可の申請を行い,竣工に向けた対応を進めている.ウラン濃縮工場では,新型遠心機を導入し,2012年3月に生産運転を開始した.また,新規制基準への適合性確認のための事業変更許可を2017年5月,設計および工事の計画の認可を2022年2月までに得ており,生産運転再開に向けた対応を進めている.新型遠心機については,順次生産能力を拡大していく予定である.

(国研)日本原子力研究開発機構の東海再処理施設では,2018年6月に廃止措置計画の認可を受け,廃止措置段階に移行した.当面,保有する放射性廃棄物に伴うリスクの低減を最優先課題として,高放射性廃液のガラス固化処理に取り組んでいる.2021年8月から10月までのガラス固化処理では,ガラス固化体を13本製造した.現在ガラス溶融炉内に残留したガラスの除去作業を行っており,2022年度上期の運転再開を目指し準備を進めている.また,2020年8月より新規制基準を踏まえた地震,津波対策などの安全対策工事を実施している.安全対策に係る一連の廃止措置計画変更認可申請を2021年内に完了した.再処理技術開発としては,高放射性廃液のガラス固化を着実に進めるため,ガラス固化技術の高度化に係る研究開発を継続している.

プルトニウム燃料技術開発施設では,MOX燃料に関する研究開発,核燃料施設の廃止措置及びプルトニウム系廃棄物の処理に関する技術開発等を実施するとともに,日本原燃(株)への技術協力を行っている.

〔鈴木 豊 (国研)日本原子力研究開発機構〕

10.3.2 世界の原子力発電開発の動向

2022年1月1日現在,世界で稼働中の原子力発電炉は合計431基,4億689.3万kWで,前年と比較して3基,98.9万kW減少(出力変更した炉を含む合計値の比較)した. 中国で3基,ベラルーシ,パキスタン,アラブ首長国連邦(UAE),ロシアで各1基,合計7基,829.1万kWが営業運転を開始した一方,ドイツ,パキスタン,ロシア,台湾,英国,米国で合計10基,936.8万kWが閉鎖されている.

中国では福清5号機(華龍一号,116.1万kW)が1月30日に営業運転を開始した. 中国において華龍一号の初号機となる.第3世代+炉の特徴を備えるACPR-1000の田湾6号機(111.8万kW)と紅沿河5号機(111.9万kW)も営業運転を開始した. 同炉型は,2018年の初営業運転を開始から4年連続の運転開始となった. パキスタンでは,国外では初となる中国製の華龍一号を採用したカラチ2号機(110万kW)が営業運転を開始,UAEでは原子力発電の初導入となるバラカ1号機(韓国製APR1400,140万kW)が営業運転を開始した. ベラルーシでは国外初のロシア製VVER-1200であるベラルシアン1号機が営業運転を開始した. ロシアでは国内で4基目となるVVER-1200がレニングラードⅡ-2号機で営業運転を開始した.

2021年中,10基,987.4万kWの原子力発電所が着工し,世界で建設中の原子力発電所は合計62基,6,687.4万kWとなった. 2021年に新たに着工,すなわち原子炉建屋部分のコンクリート打設を開始したのは,中国,インド,ロシア,トルコの4カ国で10基となっている.うち,中国では,華龍一号が,昌江(海南)3,4号機(各120万kW),三澳2号機(121万kW)で3基着工,ロシア製VVER-1200が田湾7号機(126.5万kW)と徐大堡3号機(127.4万kW)で2基,SMRのACP-100/玲龍一号(12.5万kW)が昌江(海南)で1基着工し,計6基の着工となった.インドではクダンクラム5,6号機(VVER-1000,各105万kW),トルコではアックユ3号機(VVER-1200,120万kW)が着工した.また,ロシアで鉛冷却高速実証炉のBREST-OD-300(30万kW)が着工している.

ポーランドの1基が計画入りした. 炉型の選択や建設地の公式決定は未だながらも気候・環境省からの公式回答による. また,中国では膠東造船所で浮揚型原子力発電所(ACP100S, 12.5万kW)が1基,計画入りした.一方,リトアニアのビサギナス原子力発電所(ABWR,138.4万kW)と米国のベルフォンテ1号機(PWR,126万kW(推定値))が計画外となり,計画中は前年比12基減の70基,7970.3万kWとなった.

ドイツでは2022年末までに原子力発電を段階的に廃止するという計画のもと,2021年末にブロックドルフ(PWR,148万kW),グローンデ(PWR,143万kW),グンドレミンゲン-C(BWR,134.4万kW)の3基が閉鎖,運転中は残る3基のみとなった. パキスタンでは営業運転入りしたカラチ2号機と入れ替わる形でカラチ1号機(PHWR,13.7万kW)が閉鎖した. 英国ではガス冷却炉のダンジネスB-1,B-2号機(AGR,各61.5万kW),ハンターストンB-1号機(AGR,64.4万kW)が閉鎖した.ロシアではクルスク1号機(RBMK-1000,100万kW),台湾では国聖1号機(BWR,102.7万kW),米国ではインディアンポイント3号機(PWR,107.6万kW)が閉鎖した.

〔桜井 久子 (一社)日本原子力産業協会〕

参考文献
(1) 一般社団法人日本原子力産業協会, 世界の原子力発電開発の動向2022年版, https://www.jaif.or.jp/inf/publication/world2022

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10.4 新エネルギー技術

10.4.1 燃料電池

(一財)コージェネレーション・エネルギー高度利用センター(コージェネ財団)によると,家庭用燃料電池(エネファーム)の2021年度の販売台数は4.0万台(3四半期台数から推算)であり,2019度の4.1万台,2020年度の4.8万台と4万台レベルで横ばい傾向となった.固体酸化物形では,マイクロガスタービンと組み合わせた加圧ハイブリッド型250kW級システムが2017年度に市場投入され,1MW級システムの実証試験が進められている.りん酸形も百kW級定置用システムが内外で着実に導入された.燃料電池自動車に関しては,2015年にトヨタMIRAIの販売が,2016年にホンダCLARITYのリースが開始され,2020年には新型MIRAIが販売された.燃料電池自動車の普及目標として2020年までに4万台程度,2025年までに20万台程度,2030年までに80万台程度の普及が掲げられている.また,水素ステーションに関しては,トヨタやENEOSなど11社が日本水素ステーションネットワークを2018年2月に設立し,水素ステーション普及を推進している.水素ステーションの普及目標は 2020年度までに160カ所程度,2025年度までに320カ所程度であり,2021年度末の設置数は168カ所である.

〔麦倉 良啓 (一財)電力中央研究所〕

10.4.2 太陽電池

(一社)太陽光発電協会(JPEA)によると(1),2020年度の太陽電池モジュールの総出荷量は5,312MW(2019年度比83%)であった.総出荷量は2014年をピークとして減少傾向にあったが,2017年度を底に反転し2019年まで増加傾向にあったが,2020年度は前年に比べ減少となった.総出荷量のうち,太陽電池モジュールの国内向け出荷量は,5,128MW(2019年度比84%)で総出荷量の97%であった.用途別では,住宅用が871MW(2019年度比86%)であり,非住宅用が4,256MWと国内向け出荷の83%を占めた.非住宅ではFIT制度における2020年度の買取価格が,10kW以上50kW未満ではkWhあたり13円へ引き下げられ,50kW以上250kW未満は12円,250kW以上では入札制度となり,出荷量は2019年度比84%と減少となった.また,非住宅用のうち発電事業用途となる500kW以上が2,881MW(2019年度比89%)であった.

技術動向としては,「2050年カーボンニュートラル」に向けた技術開発となる「グリーンイノベーション基金」がNEDOに創設され,太陽電池分野ではペロブスカイト太陽電池を中心に技術開発がスタートした.(2)

〔植田 譲 東京理科大学〕

参考文献
(1)太陽電池の出荷統計, 一般社団法人太陽光発電協会(JPEA)

https://www.jpea.gr.jp/wp-content/themes/jpea/pdf/statistics/r024q.pdf(参照日2022年4月11日)

(2)グリーンイノベーション基金事業, 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)

https://www.nedo.go.jp/activities/green-innovation.html(参照日2022年4月11日)

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10.4.3 バイオマス・廃棄物発電

環境省報道発表資料「一般廃棄物処理事業実態調査の結果(令和2年度)について」(1)によると2020年度の国内ごみ排出量は4,167万t(2019年度4,274万tに対して2.6%減)で,2012年度以降減少傾向が続いている.直接焼却量は3,187万t(直接焼却率は79.5%)で,2011年度以降微減傾向である.ごみ焼却施設数は1,056施設で,このうち発電設備を有する施設数は387で,全ごみ焼却施設の36.6%を占め,発電能力合計は2,079MW,平均発電効率は14.05%で,高効率化傾向が続いている.特に最近は,処理量100t/日/炉以下の比較的小規模な施設でも高温高圧ボイラを採用した高効率発電が導入されてきているとともに,2021年4月22日の第45回地球温暖化対策推進本部での野心的な削減目標(2030年度に温室効果ガスを2013年度から46%削減)に端を発し,CCUS(二酸化炭素回収・有効利用・貯留)を前提とした廃棄物処理システム・施設のあり方の検討が始まっている(2)

さらに2011年7月に施行された「再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT:Feed in Tariff)」は,2017年4月に改正されたが,この制度によりバイオマス発電の導入が行われており,2021年9月末の時点で認定量は803.2万kWとなっている(3).また2021年にはバイオマスと石炭を燃料とする11万2千kW規模の国内最大級のバイオマス発電所の稼働が開始された(4)

〔田熊 昌夫 重環オペレーション(株)〕

参考文献
(1) 環境省報道発表資料 一般廃棄物処理事業実態調査の結果(令和2年度)についてhttps://www.env.go.jp/press/110813.html(参照日2022年4月20日)

(2) 中央環境審議会循環型社会部会(第38回)資料 廃棄物・資源循環分野における2050年温室効果ガス排出実質ゼロに向けた中長期シナリオ(案)  https://www.env.go.jp/council/03recycle/post_217.html(参照日2022年4月20日)

(3) 固定価格買取制度 情報公表用ウェブサイト https://www.fit-portal.go.jp/PublicInfoSummary (参照日2022年4月20日)

(4) バイオマス白書2021 https://www.npobin.net/hakusho/2021/ (参照日2022年4月20日)

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10.4.4 水素利用技術

日本政府は,2021年10月に新たな「エネルギー基本計画」を閣議決定し,その中で,「水素は,電化が難しい熱利用の脱炭素化,電源のゼロエミッション化,運輸,産業部門の脱炭素化,合成燃料や合成メタンの製造,再生可能エネルギーの効率的な活用など多様な貢献が期待できるため,その役割は今後一層期待される」と水素の役割を示すとともに,2030年度の電源構成において「水素・アンモニア」の割合を1%程度とする新たなエネルギーミックスを発表した(1-3)

国内の燃料電池自動車の登録台数は2021年3月末現在で5,170台(4),運用中の水素ステーションは2022年4月現在で156箇所となった(5).乗用車に加え,大型トラックや鉄道,船舶,建設機械,農業用機械,産業用機械などの大型・商用モビリティ(HDV)での水素利用の検討が進められており,NEDOは,「HDV用燃料電池技術開発ロードマップ」を取りまとめて発表した(6)

大規模な水素利用技術として,水素運搬船を含む水素輸送設備の大型化や水素発電(混焼,専焼)の実機実証(7),製鉄プロセスにおける水素利用(8),水素燃料船の開発(9),水素航空機に向けた技術開発(10),再エネ由来電力を活用した水電解による水素製造技術開発(11)等が,2050年カーボンニュートラルに向けたグリーンイノベーション基金事業としてスタートした.

これらの個別の用途での水素利用技術の開発に加え,コンビナートや港湾,工場などの特定地域において大規模に水素を利活用する統合的なエネルギーシステムモデルの検討も進められており,国内においても複数の地域で複合的に水素を利活用するエネルギーシステムモデルの技術開発がスタートした(12)

〔飯田 重樹 (一財)エネルギー総合工学研究所〕

参考文献
(1) エネルギー基本計画,2021年10月

https://www.meti.go.jp/press/2021/10/20211022005/20211022005-1.pdf(参照日2022年4月1日)

(2) エネルギー基本計画の概要,資源エネルギー庁,2021年10月

https://www.meti.go.jp/press/2021/10/20211022005/20211022005-2.pdf(参照日2022年4月1日)

(3) 2030年におけるエネルギー需給の見通し(関連資料),資源エネルギー庁,2021年10月

https://www.meti.go.jp/press/2021/10/20211022005/20211022005-3.pdf(参照日2022年4月1日)

(4) EV等 保有台数統計,一般社団法人次世代自動車振興センター

http://www.cev-pc.or.jp/tokei/hanbai.html (参照日2022年4月1日)

(5) 水素ステーション整備状況,一般社団法人次世代自動車振興センター

http://www.cev-pc.or.jp/suiso_station/index.html (参照日2022年4月18日)

(6) 大型・商用モビリティ(HDV)向け燃料電池の技術開発ロードマップを公表(2022年3月18日),国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)

https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_101524.html(参照日2022年4月1日)

(7) 大規模水素サプライチェーンの構築プロジェクトに係る実施体制の決定について(2021年8月26日),国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)

https://www.nedo.go.jp/koubo/SE3_100001_00002.html(参照日2022年4月1日)

(8) 製鉄プロセスにおける水素活用プロジェクトに係る実施体制の決定について(2022年1月7日),国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)

https://www.nedo.go.jp/koubo/EV3_100237.html(参照日2022年4月1日)

(9) 次世代船舶の開発に係る実施体制の決定について(2021年10月26日),国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)

https://www.nedo.go.jp/koubo/SM3_100001_00003.html(参照日2022年4月1日)

(10) 次世代航空機の開発プロジェクトに係る実施体制の決定について(2021年11月5日),国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)

https://www.nedo.go.jp/koubo/EF3_100171.html(参照日2022年4月1日)

(11) 再エネ等由来の電力を活用した水電解による水素製造プロジェクトに係る実施体制の決定について(2021年8月26日),国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)

https://www.nedo.go.jp/koubo/SE3_100001_00001.html(参照日2022年4月1日)

(12) 水素の利活用拡大に向けて14件の調査・技術開発を開始(2021年7月28日),国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)

https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_101462.html(参照日2022年4月1日)

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10.4.5 地熱発電

2011年の東日本大震災以降,再生可能エネルギー導入拡大が望まれる中,世界第3位の地熱資源ポテンシャルを有する我が国では地熱発電に大きな期待がかかっている.また,地熱は太陽光や風力等の再生可能エネルギーと異なり,安定的に発電を行うことが可能なベースロード電源を担うエネルギー源である(1)

近年の地熱開発では,2019年5月に大規模開発としては23年ぶりの山葵沢地熱発電所(秋田県,出力46,199kW)が運転を開始した他,松尾八幡平地熱発電所(岩手県,出力7,499kW)やバイナリー発電では,滝上バイナリー発電所(大分県,出力5,050kW)及び山川バイナリー発電所(鹿児島県,出力4,990kW)が運転を開始している.さらに,安比地域(岩手県)や小安地域(秋田県)等で大規模の新規地熱開発が進捗している.

一方,「エネルギー需給の見通し」(2)では,導入目標1.5GW(現状の2倍以上)を目指しており,さらなる導入拡大が期待されている.また,「グリーン成長戦略」(3)における長期の取り組みとして超臨界地熱発電が選定されている.なお,地熱開発における法規制等の運用見直し(4)(5)の動きも進んでいる.

このような背景において,(国研)新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)では,2021年度から新たな研究開発プロジェクト「地熱発電導入拡大研究開発」(6)を立ち上げており,従来の地熱発電よりも大規模な出力が期待できる超臨界地熱発電の実現に向けた有望地域の地熱資源量評価と探査技術の開発を進めている.また,環境アセスメントの改善を実現するための環境保全対策技術開発,IoT技術等を活用した地熱発電所の生産量の増大やコスト削減及び利用率向上につながる地熱発電高度利用化技術開発を進めている.

図10-4-1 超臨界地熱系(概念図)(7)

 

(本田 洋仁 (国研)新エネルギー・産業技術総合開発機構)

 

参考文献

(1)第6次エネルギー基本計画,経済産業省, https://www.enecho.meti.go.jp/category/others/basic_plan/pdf/20211022_01.pdf(参照日2022年3月24日)

(2)2030年度におけるエネルギー需給の見通し,経済産業省, https://www.enecho.meti.go.jp/category/others/basic_plan/pdf/20211022_03.pdf(参照日2022年3月24日)

(3)2050 年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略,経済産業省, https://www.meti.go.jp/press/2021/06/20210618005/20210618005-3.pdf(参照日2022年3月24日)

(4)再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース,内閣府, https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/conference/energy/e_index.html(参照日2022年3月24日)

(5)環境省による地熱開発加速化プラン,環境省, https://www.env.go.jp/nature/onsen/council/kyoseichinetsurikatsuyo/02kyoseirikatsuyo/sanko7.pdf(参照日2022年3月24日)

(6)地熱発電の導入拡大に向けた研究開発,NEDO, https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_101460.html(参照日2022年3月24日)

(7)超臨界地熱発電技術研究開発(事業・プロジェクト概要),NEDO, https://www.nedo.go.jp/activities/ZZJP_100145.html(参照日2022年3月24日)

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10.4.6 電力貯蔵

FIT価格の下落等による太陽光発電電力の自家消費や災害時の非常用電源としての用途等により,業務用・家庭用を中心に,リチウムイオン電池(LIB)を用いた定置用蓄電システムの需要が拡大している.(一社)日本電機工業会(JEMA)の自主統計によると(1),定置用LIB蓄電システムの2021年度上期の出荷台数は6.6万台を,出荷容量は47万kWhを超え,共に2020年度上期比で110%である(図10-4-2).

また, 2020年4月に発行された定置用大型蓄電システムの安全性に関する国際規格(IEC62933-5-2)の国内対応規格である「JIS C 4441:電気エネルギー貯蔵システム-電力システムに接続される電気エネルギー貯蔵システムの安全要求事項-電気化学的システム」が2021年3月22日に発行された(2).これにより,電力システムに接続される安全性の高い定置用大型蓄電システムの開発が進み,再生可能エネルギー導入拡大への貢献が期待される.

 一方で,高い安全性を有する全固体電池の技術開発も進んでいる.日本電気硝子(株)では,資源量が豊富なナトリウム(Na)や鉄を原材料に用い,電池材料を全て無機酸化物で構成することで安全性を高めた全固体Naイオン二次電池を開発している(3).この電池は,高安全・低コストであるとともに,広い温度範囲での駆動が可能であり,大容量化の際には,電池パックの安全機構や冷却機構を省略できる.このような特徴から,全固体Naイオン二次電池は,使用環境を問わない様々な用途への適用が期待されるため,早期の大容量化,実用化が望まれる.

図10-4-2 定置用LIB蓄電システムの出荷実績(容量)(1)

 

〔紀平 庸男 (一財)電力中央研究所〕

参考文献

(1) JEMA蓄電システム自主統計 2021年度上期出荷実績(2022年1月19日),一般社団法人 日本電機工業会.

(2) 2021年3月22 日公示JISリスト,経済産業省.

(3) 「世界初,オール酸化物全固体ナトリウム(Na)イオン二次電池を開発」(2021年11月18日),日本電気硝子株式会社.

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