6. 機械材料・材料加工
章内目次
6.1 機械材料
6.1.1 鉄鋼材料
a. 生産
日本鉄鋼連盟によれば,日本経済は,新型コロナウイルス感染症の影響から持ち直しの動きが続いているものの,感染症の再拡大 やウクライナ情勢に伴う世界経済への影響もあって,先行きは不透明感を強めている.引き続き感染拡大 や原材料価格の高騰等注視が必要となっている.個人消費は感染症再拡大の影響により依然弱含んでいるが,コロナの克服によるその回復が望まれている.経済産業省によれば,2021年の小売業販売額は150兆4,620億円,前年比1.9%の増加で,増加に寄与した業種は燃料小売業,次いで自動車小売業で,飲食料品小売業と燃料小売業を除くと,前年比0.6%の増加した.一方,機械受注は,2020年8月を底に回復が続いている.
鉄鋼業界の動向としては,原料高・製品安の構造継続のもと,国内各社の経営状況は厳しいものとなっている.国内高炉は,2020年4月の日本製鉄(株)と日鉄日新製鋼(株)の合併により,日本製鉄,JFEスチール(株),(株)神戸製鋼所の3社体制となった.日本製鉄が呉製鉄所の全設備休止,JFEスチール京浜製鉄所の上工程休止など,約900万トンの粗鋼生産能力が削減された.
世界の粗鋼生産量は2020年の18億8000万tonから19億5000万tonと3.8%増加した.その中で,中国の粗鋼生産量は10億3300万トン(3.0%減)であった.中国鉄鋼業は,依然として過剰生産能力を抱えたままであり,世界鉄鋼業界の利益逓減リスクは軽減されていない.全世界生産量の50%を占めている.インド経済は高成長率での景気拡大が続いていて,インドの粗鋼生産量は1億2000万tonと17%増加した.2020年に続き我が国を超え,世界第2位の生産である.日本は第3位となった.以下,アメリカ(8580万ton),ロシア(7560万ton),韓国(7060万ton)と続く.
国内の2020年の粗鋼生産量は9630万トンと前年比15.8%の大幅増となった.日本鉄鋼協会によれば,コロナ禍からの経済回復により国内鋼材需給の増加,需給タイト化による価格上昇,海外事業によって,高炉各社は好業績となった.
b. 新設備
鉄鋼需要の急激な減少に対応するため,2021年末時点の稼働高炉数は21基で,2019年末と比較して稼働高炉数は4基減少した.一方,JFEスチールは,西日本製鉄所(倉敷地区)第7連続鋳造機を新規導入した.自動車用鋼板分野では,ますますCO2削減のための軽量化が求められ,高強度化,薄肉化が求められている.日本製鉄はハイテンのせん断成形法を開発し,JFEスチールは連続熱間圧延技術を開発した.神戸製鋼は,加古川製鉄所に,第3溶融亜鉛メッキラインを新設,運転開始した.
c. 研究
2021年度も2020年度に引き続き,環境・エネルギー, プロセス, 材料分野で公的資金による研究が多く行われている.環境調和製鉄プロセス技術開発(COURSE50)は,CO2排出の抑制とCO2の分離・回収により,CO2排出量を約30%削減する技術を開発に向けて,2018年6月より実用化開発第1段階(フェーズⅡstep1, フェロコークス)に着手し,2021年度も研究継続中である(1).また,日本鉄鋼連盟は,ゼロカーボンスチール」の実現に向けた技長期温暖化対策ヴィジョンを策定した.高炉を用いた水素還元技術の開発が進められた(2020~2021年度,委託先:NEDO).新たに開始されたプロジェクトとしては,製鉄プロセスにおける水素活用プロジェクトが始まった(2021-2030年度,委託先:NEDO).
材料関係では2013年度からスタートした輸送機器のマルチマテリアル化技術開発を⼀体的に推進を目指した革新的構造材料技術開発ISMA(2013-2022)も9年目になり,1500MPa-20%鋼や異種材料の接合など,開発した材料を実用化するための設計技術やマルチマテリアル化技術の開発に注力している(2).
さらに,内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム,SIPプロジェクト二期(革新的新構造材料等研究開発)が2019年度にスタートし,3年目となった.統合型材料開発システムによるマテリアル革命である.第二期は3次元造形と統合型材料開発システムの開発に力点を置き,我が国で開発してきたマテリアルズインテグレーション(MI)の技術基盤を生かし,欲しい性能から材料・プロセスをデザインする逆問題MIに対応した統合型材料開発システムを世界に先駆けて開発を目指している(3).そのほか,「超高圧水素インフラ本格普及技術研究開発事業」(2018~2022年度,「超先端材料超高速開発基盤技術プロジェクト」 (2016~2021年度)の研究,「ミルフィーユ構造の材料科学-新強化原理に基づく 次世代構造材料の創製」(2018~2022年度)も行われている.さらに,「超高圧水素水素インフラ本格普及技術研究開発事業」も進んでいる(2018―2022年度,委託先NEDO).
d. 新技術・製品
FEスチールはCVD(化学気相蒸着)連続浸珪プロセス技術を用い,高周波鉄損の低減と磁束密度の向上を両立した高速モータ用Si傾斜磁性材料『JNRF™』がSteelie award 2020を受賞した.また, JFEスチールは,大入熱溶接が可能な780MPa級厚板を開発した.焼入と制御冷却の活用により低降伏比を実現している.さらに,「革新的雰囲気制御による溶融亜鉛めっき薄鋼板製造技術の開発」が,令和3年度 科学技術分野の文部科学大臣表彰科学技術賞を受した.また,JFEスチールは,冷間プレスによる車体骨格部品で世界最高レベルの強度である1.5GPa級ハイテンのスプリングバック抑制成形工法を開発し,ルーフセンターリンフォースに採用された.
日本製鉄は,開発した環境負荷低減型超ハイテン橋梁ケーブル用線材の製造技術が,科学技術に関する開発,理解増進等において顕著な成果を収めたものの功績を讃える賞である「令和3年度 文部科学大臣表彰 科学技術賞(開発部門)」を受賞した.
2020年に引き続き,構造材料関係の2つの大型国家プロジェクト,ISMA,SIPが並行して行われ,鉄鋼材料にとっては,大変よい環境がつづいている.超高圧水素インフラ本格普及技術研究開発事業も2020年始まり,さらに,「ゼロカーボンスチール」の実現に向けた技術開発」も始まった.鉄鋼関連のプロジェクトは,上記以外にも6つある.鉄鋼業界のカーボンニュートラルという大きな目標に向かって,産官学連携して革新構造材料や鉄鋼プロセス技術の研究開発に取り組む好機がつづくが,責任も大きい.体制・拠点を確固たるものにして,永続的な発展を期待したい.
〔鳥塚 史郎 兵庫県立大学〕
6.1.2 非鉄金属材料
a. アルミニウム
日本アルミニウム協会によると,2021年の箔を除くアルミニウム圧延品の生産量は1,880,308トンで前年比9.4%のプラスと,4年ぶりにプラスとなった.板材の生産量は1,165,351トンで前年比10.5%のプラス,押出材の生産量は714,957トンで前年比7.7%のプラスであった.板材のプラスは,自動車用の増加によるところが大きい.夏場以降は自動車の生産減少によりマイナスが続いているものの,年間では過去最高を記録した.また,板材の約3分の1を占め,最大用途である缶材はコロナの影響で外出機会の減少によりボトル缶はマイナスとなったが,ビール類や低アルコール飲料などの家飲み需要があり,缶材全体ではプラスとなった.押出材のプラスは,住宅着工戸数の回復に加え,板材同様に自動車用の増加によるところが大きい.ダイカストの生産量は905,134トンで前年比10.2%のプラス,鋳物は374,221トンで前年比8.9%のプラスであった.ダイカストは自動車用が799,172トンと前年比8.8%のプラスとなった.鋳物は自動車用が346,255トンと前年比8.3%のプラスとなった.鍛造品は51,254トンで前年比28.5%のプラスで,その内自動車用が37,822トンで前年比31.7%のプラスとなった.電線は29,508トンで前年比12.7%のマイナスとなった.
b. マグネシウム
日本マグネシウム協会によると,2021年の国内マグネシウム需要量は,構造材向けのマグネシウム合金需要量が前年比9.6%増の7,300トン,添加材向けの純マグネシウム需要量が同8.4%増の24,240トン,防食その他向けが同23.0%増の1,230トン,輸出が同37.3%増の140トンとなり,全体では同9.2%増の32,910トンとなった.同年後半に,中国におけるエネルギー抑制政策の影響により原料供給不安,価格高騰という状況になったこともあり,2019年以前の水準までには達しなかったが,新型コロナウイルス感染症の影響を大きく受けた2020年からは回復基調となった.コロナ禍が続いたものの,製造業全体が回復基調になったことにより,マグネシウム合金を使用する構造材向けの需要も回復基調となった.主要なダイカスト部門が前年比10.6%増の5,200トン,射出成形部門が同4.2%増の1,000トン,展伸材部門が同14.3%増の800トンとなり,鋳物部門とその他合金は横ばいでの推移となった.純マグネシウムを使用する添加材向けの需要は,アルミニウム,鉄鋼の需要回復により,アルミ合金添加部門が前年比13.8%増の16,500トン,鉄鋼脱硫部門が同16.7%増の3,500トンとなった.ノジュラー鋳鉄部門,化学・触媒部門はほぼ横合いで,それぞれ同0.8%減の2,500トン,同3.7%減の1,300トンとなり,チタン製錬部門は,航空機分野においてコロナ禍の影響が続いていることもあり同56.0%減の440トンとなった.防食その他は,防食向けの需要が約100トンで,これはほぼ横ばいで推移し,その他の特殊な用途における需要量が増加し前年比23.0%増の1,230トンとなった.輸出は財務省貿易統計の純マグネシウム地金及びマグネシウム合金地金の合計で,前年比37.3%増の140トンとなった.2022年の国内マグネシウム総需要量は,2019年の水準までに回復し,前年比6.4%増の35,000トンとの予測である.
c. 銅
日本伸銅協会の速報によると,2021年の総生産量は前年比20.5%増の776,100トンで4年ぶりに増加した.18年以来の高水準で,上げ幅もリーマンショックからの回復期(32.5%増)に次ぐ大幅上昇だった.品種別では全品種がプラスとなり,特に銅条は過去最高を記録した.2022年度伸銅品需要見通しは,791,800千トン(2021年度比+2.4%)である.
d. チタン
日本チタン協会の金属チタン統計によると,2021年1~9月のチタン展伸材の出荷量は前年同期比16.2%減の8,794トンだった.国内向けは同5.2%減の3,669トン,海外向けは22.6%減の5,125トンで,海外向けのマイナスが大きかった.新型コロナウイルス禍の影響が続いた.ただ四半期ベースでみると,第3四半期(7~9月)は第2四半期(4~6月)比33.7%増となり,回復傾向がみられる.2021年12月の国内チタン展伸材の出荷量は前年同月比43.8%増の1,038トンであり,5ヶ月連続で前年実績を上回った.2022年度のスポンジチタンの値上げ幅は,鉱石の価格上昇,酸化チタンの需要拡大,ウクライナの鉱石の出荷停止により,前年度比30%程度となる予測である.
〔西田 進一 群馬大学〕
6.1.3 無機材料
a. 生産
(一社)日本ファインセラミックス協会(JFCA)が毎年実施している産業動向調査速報値(1)によれば,ファインセラミックス部材の生産総額は2018年に3.2兆円となって3兆円を超え,2019年,2020年に3.1兆円へと減少した.2021年度は持ち直し,3.5兆円を超える見込みである.長期的な展望を見ると,1990年代と比べても生産額は倍増加しており,2018 年以降も3兆円超えている.COVID-19の影響で成長にやや鈍化が見られたが,2021年度はそれを取り戻すことになった形である.内訳を見ると,全生産額の7割を占めている「電磁気・光学用」部材がもっと多く,ついで,「機械的」部材と「熱的・半導体関連」部材がそれぞれ全生産額の1割,さらに「化学,生体・生物・他」部材が全生産額の1割弱となっている.また,「汎用及びその他」は,全生産額の0.1%とわずかである.これらの内訳には基本的にはここ数年大きな変化はない.「電磁気・光学用」部材の生産額については,COVID-19の影響で自動車やスマートフォンの世界生産が大きく割り込む中,半導体関連の需要は増加しているため,全体としては2020度よりも増加した.また,SDGs達成の観点から,設備の耐久性や長寿命化が重視されるようになることが予想される.「機械的」部材や「熱的・半導体関連」部材は,プラスチックや金属からの材料変更が大きなトレンドになる可能性もありうる.
b. 研究
2021年9月に開催された日本機械学会年次大会は,COVD-19の感染対策からweb開催となった.本大会において,「セラミックスおよびセラミックス系複合材料」が企画運営され,6件の講演発表があった.その他の機械材料・材料加工部門のセッションでの関連講演を含めると17件の発表があった.また,2021年11月にはM&P2020がオンライン開催され,「セラミックスおよびセラミックス系複合材料」や「自己治癒材料・システム/機械・インフラの保守・保全・信頼性強化」のセッションで11件の講演があった.講演内容としては,一般的な構造用セラミックスの他,セラミックス基複合材料(CMCs),機能性セラミックス,異種材料との接合,評価技術など,多岐にわたっていた.
近年,SiC系CMCsの航空機エンジンの応用をGEが進めたことを皮切りに,日本でも国家プロジェクトが立ち上げられている.SiCは高温水蒸気による損傷があるため,SiC系CMCc向け耐環境コーティングの研究も盛んである.また,SiC系CMCcを軽水炉の燃料管に応用しようという動きもある.CMCs以外に,自己治癒セラミックスが徐々に注目されており,研究グループが増加している.この他,三元系層状構造炭化物/窒化物であるMAX相セラミックスが注目されている.この材料は,機械的強度や破壊靱性値が比較的高い上,超硬合金による切削加工が可能であるという特徴を有する.化学組成によっては,優れた高温耐酸化性や自己治癒機能を有している.しばしば,大きな国際会議ではMAX相セラミックスのセッションが企画されている.さらに,高エントロピー合金と同様のコンセプトで高エントロピーセラミックスも登場し,研究成果が報告されている.セラミックスの製造プロセスとしては,構造用セラミックスの3Dプリンティングも注目されており,金属同様,今後の進展が期待される.また,通電による瞬間的な発熱を利用したフラッシュ焼結が超高速焼結を実現できるとして注目を浴びている.国内外の様々な学会で多数の発表が見られるようになっている.現在は,基礎研究といったところだが,適用材料の広がりやパルス通電焼結との組み合わせなど,今後の進展に注目したい.
〔南口 誠 長岡技術科学大学〕
6.1.4 高分子・複合材料
a. 高分子材料(1)
2021年における我が国のプラスチック原材料の生産実績は前年比7.8%増の1045万tである.8.3%減の2019年から回復してきた.熱硬化性樹脂全体の生産量は89.6万t(8.5%増)である.主な内訳は,フェノール樹脂(29.6万t(12.6%増)),ユリア樹脂(4.9万t(0.6%減)),メラミン樹脂(7.0万t(8.1%増)),不飽和ポリエステル樹脂(11.3万t(4.6%増)),エポキシ樹脂(13.0万t(17.0%増)である.一方,熱可塑性樹脂全体の生産量は936万tで2019年比7.9%増となった.主な内容は,ポリエチレン(245万t(8.1%増)),ポリスチレン(120万t(40%増)),ABS樹脂(34.9万t(19.9%増)),ポリプロピレン(246万t(8.8%増)),メタクリル樹脂(13.9万t(6.9%増)),ポリビニルアルコール(20.0万t(11.0%増)),塩化ビニル樹脂(163万t(0.07%減)),ポリカーボネート(28.1万t(4.0%増)),ポリエチレンテレフタレート(35.4万t(3.1%増)),ポリブチレンテレフタレート(11.7万t(20.2%増))などとなっている.
b. 炭素繊維生産(2)
2020年の炭素繊維出荷量は前年比17.0%減の20,645トンと4年ぶりに減少した.分野別でみると国内出荷,輸出用ともに航空宇宙用が減少し,国内出荷が全体で前年比22.8%減,輸出が15.6%減となった.輸出比率は81.5%と前年から1.4ポイント上昇した.
c. 複合材料研究
国内で開催された複合材料に関わる行事として,新型コロナウィルス感染症の影響により多くの講演会がオンラインで開催された.国内で代表的な複合材料研究に関する学会は日本複合材料会議が挙げられる.この会議は「日本を代表する複合材料に関する会議」の設立を目的に2010年京都で第1回が行われ,第2回(2011年東京にて開催予定であった)が震災で講演中止となったものの,その後毎年東京と京都で交互に行われているものである.2022年3月には第13回日本複合材料会議(JCCM-13,日本材料学会,日本複合材料学会主催)がオンラインで開催された.構造の軽量化要求への一つの回答として複合材料実用化への期待から,企業からの参加者数が引き続き増加傾向にある.材料および構造の複合化のみにとどまらず,機能化・知能化等にも関連する幅広い分野からの講演が行われた.今回はオンライン開催の強みを生かして,海外研究者による特別講演も実施された.また,歴史ある国内会議として,2021年10月に第46回複合材料シンポジウム(日本複合材料学会主催,オンライン)が開催された.日本機械学会機械材料・材料加工部門主催の第29回機械材料・材料加工部門技術講演会(M&P2021)(11月,オンライン)においては「高分子/高分子基複合材料」及び「高分子を用いた成形加工」のセッションが組まれ,成形から評価まで幅広い研究成果が発表された.2020年度は中止となった第65回FRP総合講演会・展示会(FRP CON-EX,強化プラスチック協会主催)が2021年11月にオンラインにて開催された.複合材料関係の会議としては最大の国際会議である国際複合材会議(第23回国際複合材料会議(ICCM-23))が,2021年に北アイルランド,ベルファストで開催される予定であったが,2023年7月に延期されることが発表されている.一方,日本機械学会機械材料・材料加工部門が主催する国際会議ICM&P2022は2022年11月に開催予定であり,複合材料に関する多くのセッションの多く立ち上げられている.
〔細井 厚志 早稲田大学〕
6.2 材料加工
6.2.1 鋳造
生産量において,2021年における鋳鉄(銑鉄鋳物,鋳鉄管と可鍛鋳鉄),鋳鋼品,非鉄鋳造品(銅合金,アルミニウムとダイカスト)および精密鋳造品を合計した鋳物の総生産量は492万tであり,総生産量440万tの2020年度に比較して119%とわずかながら増産となった.2019年末に発生した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行が2021年度においても収まらず,国内はもとより全世界での経済活動の低迷が続いた.銑鉄鋳物(調査対象事業所30人以上)は317万t(前年度比115%)と増加した.用途別では,自動車を含む輸送機械用が216万t(前年度比113%),産業機械器具用,金属工作・加工機械用を含む一般・電気機械用は87万t(前年度比126%)であった.鋳鉄管は22万tと前年度とほぼ同じ生産量であった.可鍛鋳鉄(調査対象事業所30人以上)は3.0万tとほぼ横ばい状態となった.鋳鋼品(調査対象全事業所)は船舶,土建鉱山機械,鋳鋼管,破砕機・摩砕機・選別機などを中心に合計13.2万t(前年度比108%)と増加した.非鉄鋳物では,銅合金鋳物(調査対象事業所10人以上)が6.0万tで前年から2千t増加した,アルミニウム鋳物(調査対象事業所20人以上)は37.4万t(前年度比109%),ダイカスト(調査対象事業所30人以上)は93万t(前年度比111%)と増大し,輸送機械部品用鋳物の生産量増加が影響していた.精密鋳造品(調査対象事業所30人以上)は4,713 t(前年度比122%)で増加した.2021年の鋳物の総生産金額は, 1兆9,212億円となり前年比+15%の増収となった.個別の生産額は,銑鉄鋳物は7,078億円(前年度比118%),鋳鉄管850億円(前年度比115%),可鍛鋳鉄は122億円(前年度比103%),鋳鋼は1,100億円(前年度比103%),銅合金は851億円(前年度比117%),アルミニウム鋳物は2,619億円(前年度比111%),ダイカストは6,072億円(前年度比116%)であった(1) .コロナ禍のため鋳造関連の講演大会の多くはオンラインまたはオンラインと現地参加のハイブリッドで開催された.国際シンポジウム SPCI(International Symposium on the Science and Processing of Cast Iron )-12thは北海道室蘭市でハイブリッド開催された.鋳造分野で注目されている技術として, IT/IoT技術とAIの活用,鋳造CAEによる鋳造欠陥の高精度予測に関する研究が活発に進められており,鋳造工学会ではオーガナイズドセッションが組まれている(2).また,産業用X線CTスキャナーを用いた品質評価技術が注目されており,鋳鉄およびアルミニウム合金鋳物の鋳造欠陥や組織観察などのトモグラフィー活用事例が数多く報告されている(3). 自動車の電動化が加速する中,産業界の鋳造団体である日本鋳物協会では,2021年度より鋳造業界におけるカーボンニュートラルの実現に向け,カーボンニュートラル特別委員会が設置された.様々な鋳造法における溶解重量と二酸化炭素排出量およびエネルギー消費量が報告された(4).
〔長船 康裕 室蘭工業大学〕
6.2.2 塑性加工
自動車の電動化に対して塑性加工も変革が求められ,対象となる部品,材料や工法に対する課題や研究・技術開発の方向性について,2020年に引き続き産業界を中心に高い関心が寄せられた.またデータサイエンスを援用した研究・技術開発も2020年に引き続き活発であった.人工知能(AI)・機械学習による塑性変形に関する諸物性の同定や加工条件・結果のデータ分析による塑性加工プロセスの適正化が講演会や学術論文にて報告された.
圧延分野では,鋼材を対象としたものでは熱間,冷間問わず,内部欠陥,形状制御,トライボロジー現象を対象としたものが中心であった.特にトライボロジー現象については,その場観察による潤滑特性の評価がいくつか報告された.一方,アルミニウム合金等の非鉄金属を対象としたものは例年と比較して研究報告が少なく,転写特性やクラッド板に関する報告に留まった.押出し分野では,アルミニウム合金の熱間押出しを中心にトライボロジー現象やパンチ表面の微細形状が押出し特性に及ぼす影響が報告された.
鍛造分野では,国内外問わず,部材の軽量化に主眼を置いた研究報告が多数なされた.ただし,部材の軽量化の手段の一つである板鍛造について,国外では一定数の研究報告がみられたが,国内での研究報告は2021年も少なく,その要因は明確ではない.一方,例年と比較してトライボロジー現象に関する研究報告が多く,摩擦係数の同定,潤滑特性の評価や金型-被加工材間のその場観察が報告された.
板材成形分野では,国内外問わず,研究発表が多く,例年と同様,変形・トライボロジー特性,材料モデリング,加工法等の多岐にわたった.特に有限要素シミュレーションの高精度化を主眼に,成形限界,異方性や加工硬化の変形特性の高精度測定や機械学習を援用した同定手法が報告された.また結晶塑性有限要素シミュレーションによる成形解析もいくつか報告された.対象材料については高張力鋼,チタン合金,アルミニウム合金,CFRPの難成形材料が主であり,加工法に主眼を置いた研究・技術開発についてはホットスタンピング,インクリメンタル加工が主であった.
塑性接合分野では,マルチマテリアル構造をターゲットとした研究・技術開発が国内外問わずに活発であった.材料では鋼とアルミニウム,金属とCFRPや樹脂の組み合わせ,形状では板同士,軸-板の組み合わせ,接合法では摩擦攪拌現象を利用した接合とメカニカルクリンチングに関する報告が多数みられた.
第29回機械材料・材料加工技術講演会(M&P 2021)では塑性加工に関するオーガナイズドセッションが設けられ,管材やポーラス金属を取り扱った講演発表が多数あった.また2021年度塑性加工春季講演会(1)ではプロセス・トライボロジー,圧延,引抜き,押出し,接合,ナノ・マイクロ塑性加工に関するテーマセッション,第72回塑性加工連合講演会(2)では塑性論,ポーラス材料,鍛造,プレス成形,結晶塑性シミュレーション,有限要素解析モデリングに関するテーマセッションが設けられた.国際会議では2020年から延期された第13回塑性加工国際会議(ICTP 2021)が2021年7月にアメリカ合衆国・オハイオ州立大学をホストとしてオンライン開催され,約300件(内,日本からは約50件)の講演発表があった.そのほかほぼすべての国内・国際会議がオンライン開催に留まった.
〔松本 良 大阪大学〕
6.2.3 プラスチック加工
高品質なプラスチック成形品を効率よく生産するためには,射出成形機本体のみならず周辺機器も含めた総合的な品質管理や生産管理が求められている.この背景を受けてデジタル技術を通じた知識集約型の経済社会構造(Society5.0)へ転換するべく制御装置のデジタル化が推進され,インダストリ−4.0と呼ばれるモノづくりの手法が広く採用されるに至り,射出成形分野においても成形・生産上の群管理に加えて,稼働状況の管理,アフターサービスの事前予知などの手法が提案されている.成形機は精密制御とともに成形工程の複合化が進み,さらには金型の最適化設計を促進するIoT技術も加速度的に進んでいる.今後もニアネットシェイプ成形による高品質成形品の開発が加速していくことが予想される.
プラスチックの高付加価値化への押出・ブロー技術の貢献は大きく,多くの技術報告が行われている.多様なコンポジットの検討が報告される中,押出機には,高混練,高精度,省エネルギー化が求められており,多軸化,高トルク対応,高速回転,スクリュ深溝化が進む.また,CAE(Computer Aided Engineering)支援によるスクリュの混合性能評価やポリマーアロイ製造プロセス予測の報告なども見られ,高機能化とプロセス合理化の両立に応えている.また,持続可能な社会を達成するために廃棄プラスチックのマテリアルリサイクルが注目されており,押出機に樹脂溜を設けた廃棄ポリエチレンおよびポリプロピレンのアップサイクルが検討されている.
ブロー成形は,中空形状を活かしたダクト,ホース,タンクなどの自動車部材に適用される.この分野では,近年液体ブロー成形法が開発され,プラスチックのみならず金属ガラスへの適用が世界的に検討されている.また,ブロー成形の形状自由度を活かし,多品種小ロット対応によるユニーク形状ボトルの報告は,魅力的な差別化手法の提案である.
インフレーション成形においては空気圧アクチュエータを採用したフィルム膜厚の均一化やサーボポンプ採用や電動化などによるポリエチレンテレフタレート(PET)ボトルの延伸ブロー成形の省エネルギー,ハイサイクル,低コスト化とプロセスの洗練が進んでいる.
地球環境改善を目的とした自動車の脱炭素化に伴い,長繊維強化樹脂に代表される高分子基複合材料が採用され,同材料の成形加工で生じるスクリュ内での繊維の圧損・分散挙動や金型内での繊維配向挙動の研究が継続して進められている.長繊維強化樹脂の成形加工では,コストダウンを目的とした連続繊維直接成形と呼ばれる,直接繊維と樹脂を成形機に投入する成形加工法が検討されている.一方で,溶融積層法を用いた炭素繊維強化熱可塑性樹脂の三次元造形に関する結果も報告され,ほかの繊維を用いた三次元造形も検討されている.さらに天然繊維や木粉に加えて,セルロースナノファイバーの分散性の向上,乾燥技術,成形加工法の研究が活発化している.自動車部品,特に外装品へのプラスチック材料の採用にあたっては,難燃化が熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂で行われている.
また,金属材料と繊維強化樹脂,あるいは樹脂材料と繊維強化樹脂の組み合わせによるマルチマテリアル化が継続して推進されている.この異種材料による複合化にあたって,物理処理や化学処理による機械的接合機能の発現,接着剤の研究など異種材料間の接合接着に関する研究も多く,自動車部品などへの実用化に向け今後の展開が期待される.
2021年度の容器包装リサイクル法に基づく一般廃棄物系の廃プラスチックのリサイクルは,回収量67万トンであり,この量はここ数年ほぼ一定である.落札量は,プラスチックパレット等に再加工する,いわゆる材料リサイクルが約54%,コークス炉化学原料化が34%,ガス化が7%,高炉還元剤が5%程度である.これにより,CO2削減や,バージンプラスチックの削減に貢献している.
近年は可能な限り資源の経済価値を維持しつつ,効率的に利用することで付加価値を生み出す「循環経済(サーキュラーエコノミー)」への転換に向けた取り組みが欧州を中心に活発化している.また,プラスチックごみによる海洋汚染が地球規模の新たな課題として顕在化するとともに,中国での廃棄物輸入規制強化に端を発する国際的な資源循環の枠組みが変化してきている.これらの背景を踏まえて,日本政府は2020年5月に「海洋プラスチックごみ対策アクションプラン」を策定し,関係省庁では「プラスチック資源循環戦略」を策定した.一方で,繊維強化プラスチックの廃棄も問題視されてきている.コークス炉化学原料化や高炉還元剤として使用すると多量の繊維が残渣として発生し,現在はこれを埋立てにより処理しているが,日本の埋立て可能な領域は限られており,現状の埋立て処理量が継続されると約20年で埋立て不可となることが試算されている.このようにプラスチックを取巻く社会環境は劇的に変化しており,この事実を真摯に受け止めて研究開発を行うことが今の研究者に求められている.
〔高山 哲生 山形大学〕
6.2.4 溶接,接合
溶接学会の全国大会より,溶接・接合の日本国内での研究動向を総括する(1)(2).2021年度の春季大会および秋季大会の講演総数は245件であった.溶接プロセスに関して,溶融溶接ではTIG溶接やGMA溶接などのアーク溶接,抵抗スポット溶接,レーザ溶接およびレーザ・アークハイブリッド溶接など,固相接合では摩擦攪拌接合,摩擦攪拌点接合,摩擦圧接,超音波接合,爆着などに関する研究発表があった.ほかに,ろう接合,はんだ接合に関する研究発表もあった.実際の製品,構造物では強度特性および強度信頼性が重要となる.そのため,溶接割れ,疲労,破壊(延性破壊,ぜい性破壊,疲労)などの強度,力学特性,そしてそれらに影響を及ぼす残留応力の影響とその低減法や予測法に関する実験的・解析的な研究報告があった.また,異材接合に関しては,摩擦攪拌接合やレーザ溶接などによる異種金属接合のほか,金属と樹脂やFRPの接合などに関しても報告があった.とくに,秋季大会では業界セッション(自動車)として「非金属-金属の接合」および「異種金属の接合」と題された2セッションが企画されたことからも,異材接合の技術開発,実用化が進められていることが読み取れる.他には,金属の積層造形に関して,プロセス,材料組織と材料特性との関係などに関する研究発表が行われていた.また,溶接プロセスや残留応力の数値解析・シミュレーション,モニタリングやセンシング,画像処理技術,機械学習,AIなど,デジタル技術の活用,情報工学と融合した溶接・接合に関する研究も活発化している.
日本機械学会第29回機械材料・材料加工技術講演会の「溶接・締結・接合・接着のプロセスと信頼性評価/機械・インフラの保守・保全・信頼 性強化 」セッションでは,溶接・接合プロセスに関しては摩擦攪拌点接合,SPR接合,接着接合,金属および樹脂の積層造形など,材料に関してはFRPやマグネシウム合金などの新しい構造材料が取り上げられていた(3).また,接合部の信頼性に関する疲労やフレッティング疲労に関する発表,異材接合のプロセスおよび継手特性評価に関する発表があった.ほかにも,溶接・接合に関連するセッションとして,摩擦応用加工,高分子を用いた成形加工,表面改質および薄膜コーティングなどが企画された.
以上に述べた溶接・接合に関する動向では,樹脂・複合材料等の新素材の接合技術開発,異材接合の実用化の促進,周辺技術も含めた積層造形技術の発展,シミュレーションや情報工学と融合した予測・評価技術の開発が注目される.なお,海外の動向として,IIW(International Institute of Welding)のジャーナルWelding in the Worldで2020年度と2021年度を比較して顕著に増加した技術分野は,Metallurgy and Materials(19%から23%),Solid-State Processes(12から17%)であった(4),(5).日本国内と同様,樹脂・複合材の接合やシミュレーションなどについての研究が進められていることが海外の趨勢としても読み取れる.なお,日本機械学会2021年度年次大会ではプロセスと力学・強度の両者に関する「異種材料の界面強度評価と接合技術」と題したオーガナイズドセッションが企画され,18件の講演発表があった(6).
〔宮下 幸雄 長岡技術科学大学〕
6.2.5 粉末加工
粉末成形~焼結法に関する国内の研究動向に関しては(一社)粉体粉末冶金協会の春季および秋季大会における講演の状況にて確認できる.各種粉末の焼結技術および焼結機構に関し,低温焼結接合,熱分解反応焼結,フラッシュ焼結およびパルス通電焼結に関するプロセス技術や焼結体特性について報告されたほか,有限要素法や個別要素法による焼結シミュレーション,レーザーや電子ビームによる金属粉末積層造形方式・熱溶融堆積方式・バインダジェット方式の様々な金属3Dプリンタ造形物に関して多岐にわたる事例報告が成され,活発な取り組みと進展が見られた1年となった.
秋季大会において「粉末積層3D造形に関わる材料および技術の最先端」と題した講演特集が組まれており,パウダーベッドフュージョン方式において,3次元微細構造組織,炭素・酸化物添加チタン合金の創製事例があるほか,原料粉末の流動性など粉末特性,造形プロセスパラメータおよび造形品の熱処理条件などプロセス技術開発,さらには,実験によるセンシングと理論をベースとした数値解析の双方から積層造形メカニズムを調査するデジタルツイン解析などが試みられた.バインダを用いる方式についても適用が増え始めており,粉末特性評価や脱脂焼結炉の開発事例,フェライトやセラミックスの造形事例など報告され,今後の展開が予想される.シミュレーションについても活発な研究開発が成されており,フェライト粉末成形の有限要素法解析事例や,超硬合金の焼結・粒成長のモンテカルロ法シミュレーション,Ni超合金射出成形品のフェーズフィールド法シミュレーションによる炭化物挙動の解析事例が報告された.その他,メカニカルミリング/アロイング関連,硬質材料,磁性材料関連において技術開発が継続しており,調和組織材料の回復・再結晶挙動に関する調査,セルロースナノファイバーやカーボンナノチューブによる強度向上事例,電磁弁部品の開発事例がある.
〔谷口 幸典 奈良高専〕
6.2.6 特殊加工
従来の印刷技術(グラビア印刷,フレキソ印刷,スクリーン印刷,インクジェット等)を用いて電子部品を作製するプリンテッドエレクトロニクス技術は,環境負荷が低く,省エネルギ(脱真空・低消費電力)や材料消費が少ない等,低コストで電子機器を印刷で作製できる技術として知られている.これらの技術は,将来の超省エネ社会や超スマート社会の実現のため,近年課題となっている半導体微細加工技術の高エネルギー化の解決や,ウエアラブルデバイスやフレキシブルデバイス等のニーズを受け急速に発展が進んでいる.特に電子皮膚パッチやバイオセンサーなどのヘルスケア,プラスチック有機発光ダイオード(POELD:Plastic Organic Electro Luminescence Diode),太陽電池への応用が盛んである.今後は自動車の照明や各種センサへの応用が期待されている.これらのプリンテッドエレクトロニクス関連の市場規模は,2017年は3.3兆円で,2030年の市場規模は8.9兆円と予測されている(1).
日本では2020年に経済産業省の「J-Innovation HUB地域オープンイノベーション拠点選抜制度(国際展開型)」に大阪大学のフレキシブル3D実装協働研究所が選抜され,2021年フレキシブル3D実装コンソーシアムが始動し,140社以上の企業が参画し,産学官連携で次世代デバイスの実現を目指した取り組みが行われている(1)(2).また,日本の材料メーカーの株式会社ダイセルが,金属インクを使ってプリンティッドエレクトロニクスデバイス開発行う「共創サービス」を開始し,本技術の実用化を加速する取組も見られる(3).
学術的には,国際学会として応用物理学会,電気学会等複数の学協会の共催となったICFPE(International Conference on Flexible and Printed Electronics) 2021や,エレクトロニクス実装学会を中心としてIEEE,IMAPSと共催でICEP(International Conference on Electronics Packaging) 2021がともにオンライン開催され,プリンテッドエレクトロニクス技術に必要なインク材料,ロールtoロール技術,デバイス等の応用研究について横断的に議論された.
〔青野 祐子 東京工業大学〕
6.3 評価
6.3.1 ヘルスモニタリング・非破壊検査
機械構造物の高い信頼性を保つためには,そのライフサイクルにおける材料加工・製造・運用等の各段階において,各構造要素の健全性を正確かつ高効率で評価できることが望ましい.そのための手段として,ヘルスモニタリング技術と非破壊検査技術を組み合わせた二段階での健全性診断法の適用が期待されている.具体的には,あらかじめ構造部材または製造装置に組み込んでおいたセンサによってリアルタイムで状態を診断するヘルスモニタリングを実施し,それによって異常が検出された場合には構造物の運用または製造工程を中断して,精密な欠陥検査機器を用いて非破壊検査を実施する.これにより,状態把握に基づいた高効率かつ高い信頼性での検査実施が可能となる.
本項では,まず,それらヘルスモニタリングと非破壊検査について,各分野の代表的なジャーナルである”Structural Health Monitoring”と”NDT & E International”の掲載論文情報に基づき,2021年の世界的な研究動向を調査した.
始めに,NDT&E internationalで2021年に公開された131件の論文について調べた.まず,非破壊検査の適用先となる産業分野についてまとめた結果を表6-3-1に示す.このように,主に航空宇宙産業,原子力発電を含むエネルギー産業,土木産業において,非破壊検査技術の高度化が期待されていることがわかる.
表6-3-1 非破壊検査の適用先となる産業分野
産業分野 | 論文数 |
Aerospace | 38 |
Power generation | 29 |
Civil engineering | 24 |
Oil & gas | 15 |
Automotive | 14 |
Marine | 5 |
次に検査手法について,論文数の多い順に5種類までを表6-3-2に示す.弾性波・超音波が最も多く,次に渦電流が多く研究されていた.これらに続く手法としては,赤外線サーモグラフィ,X線画像であった.また,比較的新しいテラヘルツ波を用いた手法についても研究が増えている.
表6-3-2 非破壊検査手法
検査手法 | 論文数 |
Elastic or ultrasonic wave | 58 |
Eddy current | 22 |
Infrared (IR) thermography | 13 |
X-ray | 12 |
Teraheltz (THz) | 6 |
最後に,用いるセンサについて調査した結果を表6-3-3に示す.なお,センサは検査手法と密接に関連しているため,手法と合わせて示している.弾性波・超音波計測においては圧電トランスデューサが最も多く,その次にレーザー干渉計が用いられている.また,超音波を主として,多くの研究では市販のセンサが使用されているが,渦流探傷法の研究においては,新たな受信コイルの設計と開発が行われている.
表6-3-3 各検査手法で用いられているセンサ
検査手法 | センサ | 論文数 |
Elastic or ultrasonic wave |
Piezoelectric transducer | 27 |
Laser interferometer | 10 | |
Phased array probe | 7 | |
EMAT transducer | 7 | |
Eddy current | Coil | 21 |
IR thermography | IR camera | 13 |
X-ray | X-ray detector | 12 |
THz | THz detector | 6 |
近年では,非破壊検査の研究にも人工知能の適用が進んでおり,機械学習や深層学習,ニューラルネットワークなどを含む論文は11件あった.一方で,3Dプリンタによる積層造形物の非破壊検査に関する研究も増えており,関連する論文は5件あった.例えばXuら(1)は,機械学習を用いたレーザー超音波法により,金属積層物の微小な空孔を検出できることを示していた.
次に,Structural Health Monitoringで2021年1月から2022年3月時点までに公開された186件の論文について調べた.まず,ヘルスモニタリングの適用先となる産業分野についてまとめた結果を表6-3-4に示す.非破壊検査とは異なり,実用化が進んでいる橋やダム,鉄道等の土木インフラに関する論文が圧倒的に多く,次に航空宇宙産業に関する研究が多い.また,産業用重機の部品(例えば回転機構のベアリング等)に対するモニタリングも注目されている.その他,石油・ガス産業におけるパイプラインや,原子力発電を含むエネルギー産業への適用も期待されている.
表6-3-4 ヘルスモニタリングの適用先となる産業分野
産業分野 | 論文数 |
Civil engineering | 86 |
Aerospace | 33 |
Heavy Machinery | 16 |
Oil & gas | 11 |
Power generation | 10 |
研究されている主なモニタリング手法をまとめると,表6-3-5の通りであった.ヘルスモニタリングでは,振動(モード解析等)を用いた手法の研究が最も多く,次に超音波ガイド波が多く用いられている.さらに,前述の通り土木関連の研究が盛んであるため,ひずみや変位,変形等の準静的な変化の測定や,光学カメラを用いた画像撮影等による目視検査に関する研究例も多かった.そして,これらに続く手法としては,アコースティック・エミッションと電気抵抗変化であった.
表6-3-5 モニタリング手法
手法 | 論文数 |
Vibration | 52 |
Ultrasonic guided wave | 35 |
Quasi-static change | 26 |
Image & Computer vision | 23 |
Acoustic emission | 17 |
Electrical resistance | 8 |
また,センサについては圧電トランスデューサが大多数であり,他のセンシング技術は多く見られなかった.例えば,光ファイバセンサはわずか4件,サーモグラフィは2件のみであった.特に振動や超音波に関連した研究の多くは,市販のセンサが使用されていた.一方で,新しいセンシング技術として,ナノ複合材料センサの研究開発も行われていた.例えばSuらの研究チーム(2)は,ナノ複合材料センサで超音波ガイド波を受信することに成功している.この新規超音波センサは柔軟で軽量であり,構造物にも組み込みやすいため,今後の更なる展開が期待できる.
構造ヘルスモニタリングの分野でも,機械学習や深層学習,ニューラルネットワークに関する研究は盛んに行われており,Structural Health Monitoringでは,Machine Learningと題したSpecial issue(Volume 20 Issue 4, July 2021)を出版していた.
一方で国内での研究動向としては,2021年11月に開催された第29回機械材料・材料加工技術講演会(M&P2021)におけるオーガナイズドセッション「材料・加工・構造物の信頼性を支える評価・モニタリング技術/機械・インフラの保守・保全・信頼性強化」にて,18件の講演があった(3).それらの検査対象としては,複合材料(GFRP,CFRP)の成形性評価・成形モニタリング・損傷モニタリングや,太陽電池の損傷と劣化の評価,コーティング膜の密着強度評価,樹脂材料の劣化・特性評価などであり,検査手法としては超音波伝播に基づく手法が最も多く,次いで光ファイバセンサ,そしてAE法やレーザー超音波法,サーモグラフィなどを用いた研究も行われていた.さらに2021年11月に発行された機械材料・材料加工部門ニュースレター(4)では,「材料・加工・構造物の信頼性を支える評価・モニタリング技術」の特集が組まれ,AE波形への機械学習の適用による損傷形態の同定や,光ファイバ超音波センサによる高温構造物の健全性診断,インフラのFRP補修に対する超音波検査技術,光ファイバセンサによるFRPの成形モニタリング,AE法による鋼構造物の腐食状態評価といった5件の特集記事が掲載されている.
また,ヘルスモニタリング・非破壊検査の実用化を目指した産官学連携研究プロジェクトとしては,2021年度にNEDOの「燃料電池等利用の飛躍的拡大に向けた共通課題解決型産学官連携研究開発事業」の1研究テーマとして「革新的低コスト燃料電池自動車用高圧水素容器の健全性を保証するための非破壊検査,オンラインモニタリング,損傷許容技術の開発」が新たに立ち上がり,水素貯蔵タンクの実質的な低コスト化を実現するためのモニタリング・非破壊検査法の研究開発が進められている.
〔岡部 洋二 東京大学〕
6.3.2 強度・機能性評価
強度・機能性評価に関する研究・開発動向を把握するため,第29回機械材料・材料加工技術講演会(M&P2021)における関連する話題を中心に取り上げる.
材料の強度に関して,使用目的の多様化から高温(1),水素(2),等の環境下における強度評価がますます重要となってきている.関連して,耐熱温度に優れた高エントロピー合金の開発が行われている(3).微細材料はその結晶構造に起因して高い強度を示すが,一方で脆性的な挙動を示す場合が多い.これに関連して,高強度と延性とを両立するめっき方法が検討されている(4).またハイドロキシアパタイトを主成分とする歯や骨(5),硬ケラチンを主成分とする毛髪や爪の力学特性(6)も医療福祉の分野で重要である.特に近年,自動車や航空機の軽量化を目的として金属材料から炭素繊維強化プラスチック(CFRP),あるいは高分子材料への置き換えが進んでおり(マルチマテリアル化),異なる材料同士を組み合わせた接合・接着部の強度評価が重要な課題となってきている(7)(8).CFRPと金属との接合強度の向上を目的に3Dプリンティング技術の活用が検討されている(9).3Dプリンティングを活用した材料開発が活発に進められているが(10),材料の強度を向上することが重要な課題である(11).その他,積層パネルの活用も比強度を高める一策である(12).
機能性評価の一例として,エネルギー問題を解決すべく環境発電のための熱電(13),磁歪(14),圧電材料(15),等の開発と評価が活発に行われている.材料の疲労強度や耐摩耗性を向上するためのレーザーピーニング法(16),コールドスプレー法(17),あるいはダイヤモンド被膜(18)といった各種表面処理の開発と評価も重要である.関連して,表面の親・疎水性を制御する表面処理は半導体プロセスに必須であることに加えて(19),細胞吸着(20)等,材料に新しい付加価値を付与できる期待がある.材料,あるいは材料システムの強度や機能性を向上するために,人工知能やビックデータを活用した材料開発も今後ますます活発になると考えられる(21).
〔燈明 泰成 東北大学〕
6.3.3 トライボロジー
トライボロジーの詳細については,例えば本学会の基礎潤滑設計分野の研究分野(TR・ME2/トライボロジー・機械要素)での紹介に委ねる(1).ここではトライボロジー分野のうち,機械材料や材料加工に関連するものを述べる.まず,2021年には第29回機械材料・材料加工技術講演会が11月にオンライン開催された(2).当講演会ではオーガナイズドセッションのひとつとして「C:特性評価」の分野で「C-1 トライボロジーと表面設計」が開催され9件の講演が発表された.そこでは,レーザ表面テクスチャによる摩擦異方性発現に関する研究などの表面テクスチャや選択的レーザ溶融法に関するものが紹介された(3)(4).他にも,転がり表面にSn-Zn基のハイブリッドコーティングを施し摩擦特性の改善を試みる研究や硫化物の固体潤滑性や熱電変換性能に注目した研究例も紹介された(5)(6).
このように,様々な手法で材料表面を設計し摩擦や摩耗の状態を改善するような研究例が多い.
また,同講演会では表面改質および薄膜コーティングに関する講演もあった.さらに,広い意味ではエロージョンもトライボロジー的に注目すべき現象であり,高温および高湿度環境による樹脂の劣化挙動のエロージョン試験による評価など興味深い事例が紹介されていた(7).摩擦攪拌も材料表面の現象を応用したものであり広い意味でトライボロジーに関する事例と言える(8).
続いて,2021年に発刊された日本機械学会の論文誌に注目すると,浸硫窒化処理を施した歯車の無潤滑トライボロジー特性が評価されていた(9).当研究では液体潤滑剤を使用しない無潤滑条件下における浸硫窒化処理した炭素鋼製歯車の摩耗を評価している.表面処理により歯車の摩耗量が減少し,浸硫窒化処理を施した歯車は歯車の表面硬さが低くても摩耗量が少なくなることを明らかにしている.浸硫窒化処理は常温,大気下で歯車の固体潤滑としての使用の可能性を示唆し,浸硫窒化処理により歯車の摩耗に有効であることを示している.
さらに,本項に関連するテーマを扱う日本機械学会の年次大会(11)や他部門(機械設計要素潤滑部門)(11),他学会であるトライボロジー会議(12)や塑性加工学会(13)の講演についても2021年は軒並みオンラインで開催された.
例えば,年次大会では多孔質材料を用いた低電流用電気しゅう動接点のトライボロジー特性に及ぼす潤滑油中の酸化防止剤の影響(14)や境界・混合潤滑下における微細断続切削で加工されたテクスチャ表面が摺動特性に与える影響(15)が報告された.
また,基礎潤滑設計部門 第20回機素潤滑設計部門講演会(MDT2021)では摩擦界面その場観察・AEセンシングによる砥粒加工性能変化の評価など複数の材料や加工に関連した発表(16)があった.
塑性加工学会では冷間鍛造中の金型-被加工材界面のその場観察および画像解析に関する研究が発表された(17).
〔佐藤 知広 関西大学〕