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機械工学年鑑2021

12. 環境工学

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章内目次

12.1 環境工学を取り巻く状況
12.2 騒音・振動評価改善技術分野の動向
12.3 資源循環・廃棄物処理技術分野の動向
 12.3.1 ごみ処理状況/12.3.2 地域循環共生圏における廃棄物処理/12.3.3 地域における廃棄物処理施設/12.3.4 プラスチック問題/12.3.5 リチウムイオンバッテリー処理/12.3.6 新型コロナウイルス(COVID-19)への対応
12.4 大気・水環境保全分野の動向
12.5 環境保全型エネルギー技術分野の動向
 12.5.1 概況/12.5.2 電力・製鉄産業の取り組み/12.5.3 自動車産業の取り組み/12.5.4 エネルギーキャリア/12.5.5 エネルギー技術各分野のグリーン成長戦略の実行計画

 


12.1 環境工学を取り巻く状況

COVID-19による世界的なパンデミックが続く一方で,気候変動,海洋プラスチックごみ汚染,生物多様性の損失などの長期的な環境問題に直面している.国際赤十字・赤新月社連盟(IFRC)の“World Disasters Report 2020”によると,過去10年間に起こった自然災害の83%は干ばつ,洪水,暴風雨,熱波などの異常気象によるもので,41万人以上が死亡し,17億人が被害を受けたとされている.日本でも特に豪雨による被害は毎年のように発生しており,「令和2年7月豪雨」では広範な地域で甚大な人的,物的被害が発生した.2021年11月には,COVID-19の影響で1年延期された国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)が英国グラスゴーで開催される.温室効果ガス排出量の実質ゼロを目標に掲げる国・地域は120以上にのぼり,パリ協定から5年が経過したCOP26では,国別排出削減目標(NDC)の見直し結果が報告される.それに先立って米国バイデン大統領の呼びかけで行われた2021年4月の気候変動サミットにおいて,米国は温室効果ガスを「2030年までに2005年比50~52%削減」,日本は「2030年までに2013年度比46%削減」へ,従来の目標を大幅に引き上げた.また欧州では「2050年までに気候中立(温室効果ガス排出量実質ゼロ)」の法制化(欧州気候法)で合意するなど,脱炭素社会へ向けた動きは大きく加速している.気候変動,資源循環,生物多様性などの環境問題はいずれもグローバルな課題であり,同時に生活に密接に関係する課題である.経済・社会・環境の統合的目標である持続可能な開発目標(SDGs)の達成がますます求められる.

〔栗田 健 東日本旅客鉄道(株)〕

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12.2 騒音・振動評価改善技術分野の動向

2020年9月1日以降から発売される新型自動車の騒音規制値がフェーズ2に強化された(1).この騒音の規制値は,四輪自動車の車外騒音に係る国際基準を導入するとともに,不正マフラーへの改造禁止を徹底するため,装置型式指定規則及び道路運送車両の保安基準の細目を定める告示等の一部が改正され,2016年4月20日に施行された(1).規制値はフェーズ1,フェーズ2と2段階で強化されており,市街地加速走行騒音のフェーズ1の適用時期は,新型車では2016年 10 月 1 日以降,フェーズ2は2020年9月1日以降となっている.2016年10 月 1 日以降の規制値は,例えばM1カテゴリーの乗車定員9人以下の乗用車でPMR(Power to Mass Ratio)が120以下のものは72dBであるが,2020年9月1日以降は70dBとなる(2).なお,必要に応じて,規制時期と規制値等の見直しを行うことを前提として,フェーズ3(2024年,68dB)の導入が検討されている(3).PMRとは「最高出力 (kW)/ランニングオーダー質量 (ton)」である.

続いて,研究動向を紹介する.2020年度は,新型コロナウイルスの世界的な感染拡大の影響もあり,多くの国際会議や国内会議が中止や延期となった.2020年7月12日から16日までプラハ(チェコ共和国)で開催が予定されていた27th International Congress on Sound and Vibration (ICSV27)は2021年7月に延期となった.その他,3月16日から18日まで埼玉大学において開催が予定されていた日本音響学会2020年春季研究発表会と,6 月24 日から26日まで高野山において開催が予定されていた日本機械学会第30 回環境工学総合シンポジウム 2020が中止となり,講演論文集の発行のみとなった.

2020年9月13日から16日まで,日本機械学会2020年度年次大会がオンラインで開催された.騒音振動の分野は,流体関連の騒音振動のオーガナイズドセッションがあり,講演発表が14件であった.流体関連の騒音が10件,流体関連の振動が4件であり,音響管の自励音の発生機構,キャビティ音の間欠制御,ダリウス風車のアーム騒音,タイヤ路面騒音の音響特性,多関節平板のフラッタ特性などが報告された.
そのほか日本音響学会研究発表会が秋季(2020年9月9-11日)にオンラインで開催された.講演論文集の発行のみとなった春季(2020年3月16-18日)と合わせて918件の発表があった.そのうち深層学習を用いた音源分離や異常音探知などの「電気音響」が257件,ニューラルネットワークを用いた音声認識などの「音声」が237件,医療用や計測などの「超音波・水中音響」が102件,吸音遮音などの「建築」が49件,鉄道騒音や道路交通騒音などの「騒音振動」が46件となっている.特別企画として「音響学×人工知能-新しい音へのアプローチ-」が行われ,人工知能研究の動向や今後の展望が紹介された.

自動車技術会2020年秋季大会が10月21日から23日までオンラインで開催された.騒音振動に関しては30件の講演があった.そのうちエンジン放射音予測やパワートレーン放射音低減,タイヤトレッド放射音の評価などの「騒音振動乗心地」が30件,ショックアブソーバによる異音の評価や車内音・振動などの「音質評価」が4件,サイドミラー風切り音の音源予測などの「空力騒音」が4件であった.

海外では,2019年8月23日から26日まで,第49回国際騒音制御工学会議(Inter-Noise 2020)が韓国のソウルにてオンラインで開催された.今回のテーマは「Advances in Noise and Vibration Control Technology」で,18のテーマについて128のセッションが組まれ,653件の講演発表がなされた.講演では,建物や室内の騒音振動が91件で,建物内の音響特性や構造伝達騒音の低減法や予測法などが報告された.そのほか,マイクロホンアレイや音源分離などの信号処理や測定関係が64件,音響メタマテリアルやマイクロ多孔板などの吸音材に関するものが63件,自動車の騒音振動が53件,音響ブラックホールなどの振動音響関係が53件となっている.2021年は8月に米国のワシントンD.C.でオンラインで開催される.

近年,ニューラルネットワークおよび深層学習を用いた研究が注目を集めており,各分野で発表件数が増加している.また,国内で新型自動車の騒音規制値がフェーズ2に強化されたことに伴い,自動車騒音に関する分野も増加する傾向がある.

〔濱川 洋充 大分大学〕

参考文献

(1)国土交通省ホームページ
https://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha10_hh_000166.html(参照日2021年4月9日)

(2)国土交通省ホームページ
https://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha10_hh_000166.htmlプレス別紙(PDF形式)(参照日2021年4月9日)

(3)環境環境省ホームページ
https://www.env.go.jp/council/07air-noise/y071-19a.html資料19-2-1(参照日2021年4月9日)

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12.3 資源循環・廃棄物処理技術分野の動向

2018年に閣議決定された第五次環境基本計画に基づき,地域循環共生圏の創造や世界の範となる日本の確立に向けた環境・経済・社会の統合的向上に関する活動が継続されている.プラスチック問題に関しては,2020年11月に海洋プラスチック問題や気候変動問題等の環境面,プラスチック資源循環への貢献を企業の成長エンジンと捉えた経済面,消費者のライフスタイル変革を促す社会面の「環境,経済,社会の三方よし」を目指したプラスチック資源循環施策のあり方について議論が展開されている(1)

12.3.1 ごみ処理状況

2020年3月末時点の年間廃棄物処理量は,一般廃棄物処理量は42,018千t(前年41,479千t),産業廃棄物処理量は3億7,883万t(前年3億8,354万t)であり,一般廃棄物処理量が増加した一方で産業廃棄物処理量は減少した.また,一般廃棄物におけるごみ処理施設数は1,067施設(前年度1,082施設)と減少した一方,地球温暖化対策の一環として導入されている発電設備を有する施設数は384施設(前年度379施設)と継続して増加傾向にあり,平均発電効率も13.74%(前年度13.58%)と向上している(2)(3)

12.3.2 地域循環共生圏における廃棄物処理

持続可能な開発目標(SDGs)やパリ協定等の環境・経済・社会の課題に対して国際的な活動が展開される中で地域循環共生圏が提唱され,廃棄物処理のあり方について様々な検討や計画が実行されている(4).2020年11月に第四次循環型社会形成推進基本計画について,着実な実行を確保するために,中央環境審議会において第一回点検結果が報告された.この点検では「多種多様な地域循環共生圏形成による地域活性化」,「万全な災害廃棄物処理体制の構築」,「適正な国際資源循環体制の構築と循環産業の海外展開の推進」の3分野を重点的に評価・点検された(5)

12.3.3 地域における廃棄物処理施設

地域循環共生圏構想での地域レベルにおいては,脱炭素社会や自然共生社会への取組や自然災害への対応等の社会問題への解決に資する地域毎に最適な機能・技術が必要とされている.2020年は脱炭素社会への貢献として,廃棄物燃焼ガスよりCO2回収およびメタネーションの実証試験の着工や廃棄物を原料としたエタノール製造技術の開発が開始されたことにより,地位循環共生圏において従来の熱源利用以外でも適用できる技術開発が展開されている.AI・IoT技術による施設の運転自動化や発電効率向上の技術等の試験評価や商用利用は継続して進捗を見せている.

12.3.4 プラスチック問題

2019年5月策定されたプラスチック資源循環戦略において今後のプラスチック循環施策のあり方について議論され,衛生目的利用を中心にワンウェイプラスチックであることが必要不可欠な場合を除き,ワンウェイプラスチックの過剰使用を抑制することでリデュースを徹底した上で排出されるプラスチックの有効利用を図るべきとされた.加えて,効果的・効率的で持続可能なリサイクル再生素材やバイオプラスチックなど代替素材の利用促進等について具体的な施策が整理されている.これらの施策は,SDGsの達成に向けたプロセスの一つであるESG(環境(Environment),社会(Social),ガバナンス(Govemance))金融による取組の後押しによって,プラスチック資源循環に取り組む企業を適切に評価することで企業価値向上と国際競争力につながる共通基盤を整備するとされた(1)

12.3.5 リチウムイオンバッテリー処理

リチウムイオンバッテリーによる発火事故が全国的に発生したことを受けて,2020年10月にリチウムイオンバッテリーを含む電子機器のプラスチック製容器包装への混入防止の取組強化を目的とした事例集が公開された(6).この事例集では中間処理施設や製造メーカ等の主体に求められる取組や期待される効果も整理されている.2020年2月から一部の加熱式たばこの分別回収が開始され,その活動範囲を拡大させている.

12.3.6 新型コロナウイルス(COVID-19)への対応

2019年より世界的に感染拡大している新型コロナウイルスへの対応として,骨太方針2020(令和2年7月17日閣議決定)により「国民の生命・生活・雇用・事業を守り抜く」という方針が掲げられ,廃棄物処理の事業継続(従事者の感染予防,ごみ質・量の変化対応も含む)や災害廃棄物対策の対応強化という方向性が示された.2020年9月に廃棄物に関する新型異なウイルス感染症対策ガイドラインが策定され,廃棄物の排出者や処理者,市町村等が取るべき取組みや対策が示されている(7)

〔森田 拓之 川崎重工業(株)〕

参考文献

(1)今後のプラスチック資源循環施策のあり方について(案),環境省
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/haikibutsu_recycle/plastic_junkan_wg/pdf/007_01_00.pdf(参照日 2021年3月18日)

(2)日本の廃棄物処理 令和元年度版,環境省
https://www.env.go.jp/recycle/waste_tech/ippan/r1/data/disposal.pdf (参照日2021年4月20日)

(3)産業廃棄物の排出及び処理状況等(平成30年度実績)について,環境省
https://www.env.go.jp/press/109265.html(参照日2021年4月5日)

(4)地域循環共生圏を踏まえた将来の一般廃棄物処理のあり方について,環境省
https://www.env.go.jp/council/03recycle/mat02-2-35.pdf

(5)第四次循環型社会形成推進基本計画の進捗状況の第一回点検結果について,環境省https://www.env.go.jp/council/03recycle/mat01-4-36.pdf(参照日:2021年3月25日)

(6)リチウムイオン電池個入防止事例集,日本容器包装リサイクル協会
https://www.jcpra.or.jp/news/tabid/101/index.php?Itemid=1970(参照日 2021年4月2日)

(7)廃棄物に関する新型コロナウイルス感染症対策ガイドライン,環境省
http://www.env.go.jp/recycle/waste/sp_contr/infection/202009corona_guideline.pdf(参照日 2021年3月18日)

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12.4 大気・水環境保全分野の動向

2020年の年初から拡大を始めた新型コロナウイルス感染症の影響は,大気環境保全分野にも影響を与えた.厳密には大気環境というよりは室内空気環境と呼ぶべきだが,環境保全に用いられる技術が大気環境保全のものと共通しているため,この節で触れる.新型コロナウイルスの感染経路はすでに周知されているように,飛沫感染と接触感染であり,このうち飛沫感染が室内空気環境に関係する.したがって,消費者心理として空気清浄機を設置したいと思うことは自然であって,実際,近年のトレンド(1)から見ても,2020年の出荷台数が300万台を超え(2),常に前年同月を大幅に上回った(3)ことは特異であり,感染症対策を意図した結果だと思われる.そもそも家庭用空気清浄機が実質的に感染症対策として有効かどうかは,別途検証の必要な点である.しかし,サブミクロン粒子に対して十分な除去性能を持つ清浄装置に関して言えば,少なくとも咳などで放出される飛沫が装置に吸引されること,という条件付きで有効と言える.市場に出回っている微粒子除去の方式は,現在のところ,HEPAなどの高性能フィルタを用いたものと電気集塵を用いたもののどちらかに分類できる.

大気環境についての環境省からの最新の報道発表は,原稿執筆時(2021年4月初旬)において,2019年度の大気汚染状況資料(4)である.すなわち,コロナ禍により社会生活が変化したことの影響はまだ表れていない.一般大気環境測定局(一般局)および,自動車排出ガス測定局(自排局)での測定結果を中心に近年の状況をまとめる.

窒素酸化物(NOx)については,環境基準達成局の割合が,一般局および自排局ともに100%となった.濃度測定値は直近の10年間でも減少を続けている.光化学オキシダントの原因となる非メタン炭化水素(NMHC)についても,大気中の濃度はNOx同様,直近の10年間を見ても明らかに減少しており改善が見られる.二酸化硫黄,一酸化炭素は,ともに環境基準を十分下回る状態で近年変化していない.

光化学オキシダントについては,測定が開始された1970年代以降,基準値の達成率は常に0%に近い.注意報発令レベルの超過割合が多い関東地域,東海地域,阪神地域,福岡・山口地域では,域内最高値が,2010年代には緩やかに低下してきたが,近年は下げ止まっている.光化学オキシダントの生成に寄与するNOxやNMHCの濃度が比較的大きく減少しているにも関わらず状況が中々改善しないのは,オキシダント生成機構の複雑さに原因がある.例えば,NOxが10 ppb前後以下の微量であった場合,光化学オキシダントの生成速度とNOx濃度との間に負の相関が現れることが報告されている(5).つまり,完全なゼロエミッションを実現しない限りは,光化学オキシダントも十分に減少しない可能性がある.

微小粒子状物質(PM2.5)については,観測値が環境基準を達成した測定局の割合は,2013年度の20%未満から上昇を続け,2016年度には一般局,自排局ともに約90%となった.その後,2017年度には改善傾向が停滞したもの,再び改善し,2019年度には達成率がほぼ100%となった.自排局で測定されるPM2.5濃度の方が,一般局での値よりも高濃度側に偏っていたことから,自動車からのPM発生抑制が引き続き有効かつ必要であることがわかる.

中国大陸からの越境汚染の影響が従来から懸念されており,長崎県西方沖の福江島では島内に目立った発生源がないにも関わらず,2016年度においても基準値以上の光化学オキシダントおよびPM2.5が観測された(6).しかし,PM2.5の環境基準未達の測定局が,所謂太平洋ベルト地帯の自排局に集中している実態(4)からすると,国内の発生源対策が引き続き重要であるといえる.

自動車排出ガス規制における最近の動向としては,ガソリン・LPG,およびディーゼル駆動のオンロード車に対して,2018から2019年度に渡って試験モードがJC08からWLTCに変更されたことが挙げられる.規制値自体の単純な厳格化は2016年度以降に限ってみれば見られない(7)

航空機の排出ガスに関しては,国際民間航空機関(ICAO)において「国際民間航空条約付属書 16」が定められ,NOx,HC,及び煤煙の排出基準が規定されている(8)(9).NOxについては,第6回大気環境保護委員会(2004年)で合意された基準値を2026年までに60%以上下回ることが現在の目標となっている.煤煙については,従来から煤煙度を用いた規制が実施されているが,これに加えて,新たに不揮発性PM(nvPM)の質量を基準とした排出規制が,2020年1月1日以降に製造される一部のエンジンについて始まった.

船舶の排出ガスに関しては,国際海事機関(IMO)にて採択された「船舶による汚染の防止のための国際条約(MALPOL条約)」の付属書VIに排出ガス基準が規定されている.NOxについては,2016年に発効した第3次規制を受けている.また,燃料中の硫黄分を0.5質量%以下とするよう2020年1月1日から厳格化された(10)が,これにはSOx排出抑制の意味がある.

環境について原稿執筆時点では,2019年度の測定結果をまとめたものが環境省から発表されている(11).総水銀,アルキル水銀を含む27の「健康項目」については,全国の測定地点のうち99.1%の地点で環境基準が満たされており,2018年度並みである.

生物学的酸素要求量(BOD),化学的酸素要求量COD)などを含む「生活環境項目」として指定される項目について,河川においては約95~100%の測定地点で環境基準が満たされている.一方,湖沼,海域においては,COD,全窒素および全燐の環境基準達成率が河川よりも相対的に低く,引き続き改善が必要である.

発がん性物質であるトリハロメタン生成能について,河川421地点,湖沼63地点において測定された濃度は0.049 mg/Lであり,1997年度以降同程度の値を推移している.

〔吉田 恵一郎 大阪工業大学〕

参考文献

(1)空質商品特集(メーカー各社,ウィルス対策で空清機など増産),電波新聞
https://dempa-digital.com/ (参照日2021年4月5日)

(2)業界動向(JEMA,2020年の白物家電が24年ぶり高水準の出荷額に),株式会社BCN
https://www.bcn.co.jp/ (参照日2021年4月5日)

(3)民生用電気機器2021年2月国内出荷実績,日本電機工業会(JEMA)
https://www.jema-net.or.jp/ (参照日2021年4月5日)

(4)平成元年度 大気汚染状況について,環境省
https://www.env.go.jp/press/109397.html(別添1~4あり) (参照日2021年4月5日)

(5)戦略的創造研究推進事業(CREST)平成11年度採択研究課題 地球変動のメカニズム 研究終了報告書,梶井克純,化学的摂動法による大気反応機構解明,pp.1–61.

(6)大気環境学会編,大気環境の事典(2019年),pp.314–315.

(7)自動車排出ガス規制値,環境省
https://www.env.go.jp/air/car/gas_kisei.html (参照日2021年4月5日)

(8)平成24年 船舶・航空機排出大気汚染物質削減に関する検討調査 報告書,環境省
https://www.env.go.jp/air/car/ship_%20plane/ (参照日2021年4月5日)

(9)ICAO Environmental Report 2019.pdf, International Civil Aviation Organization
https://www.icao.int/environmental-protection/Pages/default.aspx (参照日2021年4月5日)

(10)Prevention of Air Pollution from Ships, International Marine Organization
https://www.imo.org/en/MediaCentre/HotTopics/Pages/Sulphur-2020.aspx(参照日2021年4月5日)

(11)令和元年度公共用水域水質測定結果,環境省
https://www.env.go.jp/water/suiiki/(参照日2021年4月5日)

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12.5 環境保全型エネルギー技術分野の動向

12.5.1 概況

2020年10月26日に菅義偉首相が開会した臨時国会の所信表明演説で,国内の温暖化ガスの排出を2050年までに「実質ゼロ」とする方針が表明された(1).この「2050年カーボンニュートラル」の宣言には,「経済と環境の好循環」による産業政策(グリーン成長戦略)が含まれている(2).さらに,米国では気候変動対策を重視するバイデン政権へと代わり,国際的に温暖化ガスの排出目標を「実質ゼロ」にする流れが加速している.EUではコロナからの経済回復を「グリーンリカバリー」で目指しており,2020年12月には「欧州グリーンディール」が発表された.また,経済産業省によると,2020年9月に新型コロナウィルスからの復興と気候変動・環境対策に関する「オンライン・プラットフォーム」の閣僚級会合を,国連気候変動枠組条約事務局と共催して実施している(2).この中で経済社会のリデザイン(再設計)に向けて,①脱炭素社会,②循環経済,③分散型社会への移行の重要性が発信されている.2020年12月12日の時点で,2050年までのカーボンニュートラルを表明している国は123カ国及び1地域で,これらの国が世界全体のCO2排出量に占める割合は23.2%であった.現在では米国も2050ネットゼロを表明しているので,世界全体のCO2排出量に占める割合は37.7%である.これに2060年にネットゼロを目指す中国を加えると,世界全体のおよそ66%のCO2排出量が削減されることになる(3)環境型エネルギー技術を含む各国のグリーン関連分野の投資は大きく,EUでは今後10年間に官民で120兆円,ドイツでは約2年間で6兆円,フランスでは2年間で3.6兆円,韓国では5年間で3.8兆円,米国では4年間で200兆円,英国では2030年までに政府支出1.7兆円に加えて民間5.8兆円の投資を予定している.

一方日本では,10年間で2兆円の基金をNEDOに創設しており,この2兆円の予算を呼び水として,およそ15兆円の民間企業の研究開発・設備投資の誘発を見込んでいる.日本国内の温室効果ガス排出量のおよそ85%をエネルギー起源のCO2が占めているため,2050年に向けたカーボンニュートラルの目標に対して,エネルギー分野の変革や,製造業等の構造転換が政府主導で計画されている.特に,①電化と電力のグリーン化(次世代蓄電池技術等), ②水素社会の実現(熱・電力分野等を脱炭素化するための水素大量供給・利用技術等), ③CO2の固定・再利用(CO2を素材の原料や燃料等として活かすカーボンリサイクルなど)などを重点分野としており,電力,製鉄・化学,自動車などの各分野での革新的技術の確立と社会実装が図られている(2)

12.5.2 電力・製鉄産業の取り組み

2020年3月に特定非営利活動法人気候ネットワークから公表された「温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度による,2016 年度の大口排出事業者」のリストでは,国内では製鉄所と石炭火力発電所,さらにLNG火力発電所温室効果ガス排出の上位を占めている(4).排出量の多い30事業所で国内の排出量のおよそ26%を占めており,そのすべてが製鉄所と発電所であった.このため,太陽光発電や洋上風力発電,バイオマス発電,地熱発電など再生可能エネルギーの導入拡大に加えて,水素還元製鉄技術や,メタメーション,CCS (Carbon dioxide Capture and Storage(二酸化炭素回収・貯留))やCCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage(二酸化炭素回収・有効利用・貯留))などの,温室効果ガスの排出削減の取り組みがグリーン成長戦略で示されている(2)

12.5.3 自動車産業の取り組み

経済産業省では2021年3月にカーボンニュートラルに向けた自動車政策検討会を開催し,電気自動車(EV)等の電動車の普及加速,合成燃料の大規模化・技術開発支援,蓄電池の大規模化・研究開発支援などを今後の取り組みとしている(5).遅くとも2030年代半ばまでに,乗用車新車販売で電動車100%を実現することが政府のグリーン成長戦略で示され,この10年間は電気自動車の導入を強力に進め,特に軽自動車や商用車等のEVや燃料電池自動車(FCV)への転換について対策を講じる計画である.これに関連して,EVやFCVの充電及び充填インフラが拡充される予定である.

12.5.4 エネルギーキャリア

経済産業省が中心となり,関係省庁と連携して「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」が2020年12月に策定され,水素発電のコストをガス火力以下に低減するため,20円/Nm3程度以下の水素コストの目標が示されている.また,水素の導入量は2030年に最大300万トン,2050年に2,000万トン程度を目指すことも示されている.経済産業省によると,水素利用では水素発電タービン及び燃料電池トラックの輸出,さらに水素還元製鉄の開発に今後取り組み,水素供給では水素運搬船の商用化と,水電解装置の輸出を目指すことが計画されている(5).一方,水素と共にカーボンニュートラルで期待されているアンモニア燃料については,2020年10月に発足した経済産業省のアンモニア導入官民協議会で話し合われている.2021年2月に公表された中間とりまとめでは,短期(~2030年)と長期(~2050年)に分けて燃料アンモニアの導入・拡大の環境整備の計画を打ち出している(6).これによると,これまでアンモニアの燃料用途での活用が想定されてこなかったことから,エネルギー政策において,燃料アンモニアの法的な位置付けは明確になっておらず,検討段階であることが述べられている.さらに,現実的なエネルギー構成への移行の1つとして,世界的な燃料アンモニアのサプライチェーンの構築を促すことが示されている.

12.5.5 エネルギー技術各分野のグリーン成長戦略の実行計画

政府のグリーン成長戦略の実行計画の中で,エネルギー技術分野に関わる主な技術は,洋上風力,太陽光発電,燃料アンモニア,水素,原子力,自動車・蓄電池,船舶,航空機,カーボンリサイクル,カーボンニュートラルに向けた住宅・建築などである.経済産業省の資料には,それぞれの技術について成長戦略の工程表が示されており,特に2030年までの工程が明確に述べられている(2)

今後,国内外で環境保全型のエネルギー技術への大きな投資が続き,化石燃料に代わる主力エネルギーのイニシアティブに関わる国際競争が激しくなると予想される.

〔小原 伸哉 北見工業大学〕

参考文献

(1)2050年カーボンニュートラルの実現に向けて,環境省
https://www.env.go.jp/earth/2050carbon_neutral.html(参照日2021年4月9日)

(2)2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略,経済産業省
https://www.meti.go.jp/press/2020/12/20201225012/20201225012-2.pdf (参照日2021年4月9日)

(3)気候変動に関する国際情勢 資料5,経済産業省
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/green_innovation/pdf/gi_002_05_00.pdf (参照日2021年4月9日)

(4)温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度による 2016 年度データ分析,特定非営利活動法人気候ネットワーク
https://www.kikonet.org/press-release/2020-06-16/analysis-on-ghg-emissions-2016 (参照日2021年4月9日)

(5)カーボンニュートラルに向けた自動車政策検討会 資料3,経済産業省
https://www.meti.go.jp/press/2020/03/20210309005/20210309005-1.pdf (参照日2021年4月9日)

(6)燃料アンモニア導入官民協議会 中間取りまとめ,経済産業省
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/nenryo_anmonia/pdf/20200208_1.pdf (参照日2021年4月9日)

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