11. 宇宙工学
11.1 宇宙輸送
11.2 科学・実用衛星
11.3 宇宙探査
11.4 有人宇宙活動
11.5 小型宇宙システム
11.5.1 小型輸送システム/11.5.2 小型・超小型衛星の動向
11.1 宇宙輸送
2020年度にはH-IIAロケット2機,H-IIBロケット1機の合計3機のロケットが打ち上げられた.H-IIBロケットは宇宙ステーション補給機「こうのとり」9号機(HTV9)を搭載した9号機が2020年5月21日に打上げられ,HTV9を所定の軌道に投入した.H-IIBロケットは本機が最終号機であり,2009年の試験機(初号機)から連続して9機全ての打上げに成功した.以降の宇宙ステーションへの輸送はH3ロケットがその任を引き継ぐこととなる.H-IIAロケットに関しては,2020年7月20日にアラブ首長国連邦(UAE)のドバイ政府宇宙機関であるMBRSC(The Mohammed Bin Rashid Space Centre)のUAE火星探査機「HOPE」を搭載した42号機,11月29日にはデータ中継衛星1号機・光データ中継衛星を搭載した43号機が打上げられ,連続37機の成功となった.尚,42号機は三菱重工業株式会社が海外顧客から受注した4件目の衛星打上げ輸送サービスであり,今後のH3ロケットでの受注獲得に向けて着実に実績を伸ばしている.
自立性の確保と国際競争力のあるロケット及び打上げサービスの提供を目的として開発が進められているH3ロケットは,第一段エンジン用として新たに開発中のLE-9エンジンで確認された技術的課題への対応を確実に実施するため,2020年年度を目指していた試験機初号機の打上げを2021年度に見直す計画変更がなされたが,固体ロケットブースタ(SRB-3)の地上燃焼試験や第2段実機型タンクステージ燃焼試験(CFT)が実施されるともに,2021年3月には試験機1号機の極低温点検が子島宇宙センターにおいて実施される等,着実に開発が進められている.
また,イプシロンロケットに関しては,2021年度の5号機打上げに向けた準備が進められるとともに,近年の小型化・集積化の技術進展による小型衛星,超小型衛星,キューブサット等の多様な衛星打上げ需要の高まりへの対応のため.2023年度に実証機の打上げを目指して「イプシロンSロケット」の開発が始められた.イプシロンSロケットでは,イプシロンロケットの民間移管を実現し,自立的かつ持続可能な輸送システムに育て上げることで,日本の宇宙輸送における産業規模の拡大を目指している.
宇宙輸送システムの将来に向けた研究開発としては,更なる低コスト化と国際競争力を確保する方策として,ロケット第1段の再使用化を目指した研究がJAXAにおいても検討されている.その実現に向けて,誘導制御,推進薬マネジメント,エンジン再整備技術に関する知見を蓄積すべく,1段再使用飛行実験(CALLISTO)の開発が,CNES(仏),DLR(独)との国際協力により進められている.また,そのフロントローディング研究活動として,JAXA独自の小型実験機(RV-X)による飛行試験を目指した研究も計画され,2020年3月からエンジンを含むシステム全体でのデータ取得を目的として,機体を用いたエンジン燃焼試験が実施されており,その成果を反映して2021年度中の飛行試験実施が予定されている.
〔紙田 徹 (国研)宇宙航空研究開発機構〕
11.2 科学・実用衛星
2020年は,実用衛星として,JCSAT-17,BSAT-4b,JDRS-1といった,静止通信・放送衛星が多く打上げられた年であった.また,低軌道衛星として,光学観測衛星CE-SAT-IIB,合成開口レーダ衛星Strix-αが打上げられた.
JCSAT-17はスカパーJSAT株式会社の静止通信・放送衛星であり,2020年2月19日にギアナ宇宙センターからAriane-5によって打ち上げられた(1).JCSAT-17はロッキード・マーチンのLM-2100バスが使用されており(2),L3Harris製の18m展開アンテナを搭載している(3).JCSAT-17はSバンド及びCバンド,Kuバンドのトランスポンダーを搭載しており,SバンドとCバンドは株式会社NTTドコモが使用する.
BSAT-4bは株式会社放送衛星システムの静止放送衛星であり,2020年8月16日にギアナ宇宙センターからAriane-5によって打ち上げられた(4).BSAT-4bはBSAT-4aの予備衛星であり,既に2018年から開始されている新4K8K衛星放送を実施する.
JDRS-1は国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構の静止通信衛星であり,2020年11月29日に種子島宇宙センターよりH-IIAロケット43号機によって打上げられた.文献(5)によれば,JDRS-1は情報収集衛星及び地球観測衛星の光学及び合成開口レーダ衛星のデータを,各衛星から地球へ中継する.JDRS-1は「光衛星間通信システム」(LUCAS)を搭載している.LUCASは波長1.5μmのレーザ光を用いた光通信システムである.これにより,軌道周回1周の約半分の期間,1.8Gbpsの通信が可能となった(6).
CE-SAT-IIBはキヤノン電子株式会社の光学観測衛星であり,2020年10月29日にニュージーランド,マヒア半島からElectronによって打上げられた(7).質量35.5kg,サイズ292mm×392mm×673mmの小型衛星で,望遠鏡を2機搭載している.望遠Iは口径200mm,分解能5.1m相当,撮影範囲は3.5km×2.3km,望遠IIは口径87mm,分解能5.0m相当,撮影範囲5.6km×3.7kmである.望遠鏡のシリーズ化に向けて,今後,2年間の実証実験を実施する.
Strix-αは株式会社シンスペクティブの合成開口レーダ衛星であり,2020年12月15日にニュージーランド,マヒア半島からElectronによって打上げられた(8).Strix-αは約150kgの衛星(9)で,分解能3mのストリップマップで観測幅30km,分解能1mのスライディングスポットライトで観測幅10kmとしている.なお,その後,初画像の取得ができたことを確認している(10).
国外の実用衛星としては,低軌道通信衛星が積極的に打上げられた.SpaceXのStarlinkが833機,OneWeb LLCのOneWebが104機,Swarm TechnologiesのSpaceBee及びSpaceBeenzが36機,打上げられている.
2020年の国内科学衛星の打上げは無かった.国外では,火星に多くの衛星,探査機,ローバが打上げられた.アラブ首長国連邦の火星探査機Hopeは,2020年7月20日に種子島宇宙センターからH-IIAロケット42号機によって打上げられた(11).その後,2021年2月9日に火星に到達している(12).中華人民共和国の火星探査機天問1号は,周回機,ランダー,ローバを搭載し,2020年7月23日に文昌衛星発射場から長征5号ロケットで打上げられた(13).2021年2月10日に火星軌道に到達したという発表があり(14),2021年度中の火星への着陸を目指す.NASAの火星ヘリコプタIngenuity及びローバPerseveranceから構成される火星ミッションMars 2020が,2020年7月30日,ケープカナベラル空軍基地よりAtlas V 85号機によって打上げられた(15).その後,2021年2月18日に,火星ジェゼロクレーターに着陸した(16).
〔小澤 悟 オリガミ・イーティーエス合同会社〕
参考文献
(1) 通信衛星JCSAT-17の打ち上げ成功に関するお知らせ
https://www.skyperfectjsat.space/news/detail/jcsat-17_1.html
(2) Launch Kit, Ariane Flight VA252
https://www.arianespace.com/wp-content/uploads/2020/02/VA252-launchkit-EN2.pdf (参照日2021年4月19日)
(3) NASA Space Science Data Coordinated Archive, JCSAT 17
https://nssdc.gsfc.nasa.gov/nmc/spacecraft/display.action?id=2020-013A
(4) BSAT-4シリーズ
https://www.b-sat.co.jp/4k8k/bsat-4/
(5)Japan launches JDRS-1 optical data relay satellite for military, civilian use
https://spacenews.com/japan-launches-jdrs-1-optical-data-relay-satellite-for-military-civilian-use/
(6) 光衛星間通信システム(LUCAS)
https://www.satnavi.jaxa.jp/project/lucas/
(7) 弊社 超小型人工衛星 3 号機 CE-SAT-ⅡB 軌道投入 成功
https://www.canon-elec.co.jp/files/media/2020/10/20201029_newsrelease.pdf
(8) 自社初の小型SAR衛星「Strix-α」軌道投入に成功
https://synspective.com/jp/news-press/successfully-reached-its-target-orbit/
(9) Arianespace to launch “SAR” satellite StriX-α aboard Vega for Japanese startup company Synspective
https://www.arianespace.com/press-release/synspective-vega-launch-contract/
(10) 小型SAR衛星「StriX-α」の画像取得に成功
https://synspective.com/jp/news-press/first-image/
(11) H-IIAロケット42号機によるUAE火星探査機「HOPE」の打上げ結果について
https://www.mhi.com/jp/notice/notice_200720.html
(12) United Arab Emirates becomes the first Arab country to reach Mars
https://www.cnbc.com/2021/02/09/mars-probe-uae-attempts-to-become-first-arab-country-to-reach-mars-with-hope-probe.html
(13) China’s Tianwen-1 Mars rover rockets away from Earth
https://www.bbc.com/news/science-environment-53504797
(14) China, with Tianwen-1, begins tenure at Mars with successful orbital arrival
https://www.nasaspaceflight.com/2021/02/china-ready-to-begin-mars-tenure-with-tianwen-1-orbit-insertion/
(15) NASA, ULA Launch Mars 2020 Perseverance Rover Mission to Red Planet
https://mars.nasa.gov/news/8724/nasa-ula-launch-mars-2020-perseverance-rover-mission-to-red-planet/
(16) Touchdown! NASA’s Mars Perseverance Rover Safely Lands on Red Planet
https://mars.nasa.gov/news/8865/touchdown-nasas-mars-perseverance-rover-safely-lands-on-red-planet/
11.3 宇宙探査
欧米はじめ,中国,インド,UAE,韓国など,世界各国において月惑星探査計画が進められている.NASAは,小惑星探査機「オシリス・レックス」のタッチダウンおよびサンプル採取に成功した.また,2021年2月に火星探査ローバ「Perseverance」の着陸に成功,火星表面の 異動探査を行っている.
中国は,2020年7月24日に初の火星探査機「天問1号」の打ち上げに成功.また,月面探査機「嫦娥(じょうが)5号」が2020年12月17日午前2時ごろ(現地時間)に,月面の岩石や土壌を載せて地球に帰還した.インドは 2019年7月に,周回機・着陸機・探査車からなる大型の月探査ミッション「チャンドラヤーン2」の打ち上げに成功した.周回機は探査を続けているものの,着陸機「ヴィクラム」による月面着陸は失敗に終わった.これを受け,インドではリベンジとなる「チャンドラヤーン3」を開発している.UAEは2020年7月20日に火星探査機を打ち上げ,韓国も月探査を計画している.日本も宇宙探査を積極的に推進している.2020年は,なんといっても小惑星探査機「はやぶさ2」が地球に帰還し,カプセル回収に成功したことが大きな出来事である.
「はやぶさ2」は,2020年12月5日14時30分に,地球近傍にてカプセルを分離した.カプセルは,2020年12月6日2時28分頃に大気圏に突入し,2時54分頃着地し,その日のうちに回収に成功した.サンプルコンテナからのガス採取にも成功,またサイズ1mmを超える粒子を多数確認し,サンプルリターンに成功した.今後,さまざまな分析が行われる.これにより,「はやぶさ2」は,① 小型探査ロボットによる小天体表面の移動探査,② 複数の探査ロボットの小天体上への投下・展開,③ 小惑星での人工クレータの作成とその過程・前後の詳細観測,④ 天体着陸精度60cmの実現,⑤ 同一天体2地点への着陸,⑥ 地球圏外の天体の地下物質へのアクセス,⑦ 最小・複数の小天体周回人工衛星の実現,⑧ 地球圏外からの気体状態の物質のサンプルリターン,⑨ C型小惑星の物質のサンプルリターンを見事達成した.
「はやぶさ2」はカプセル分離後,ジェットを吹いて軌道を変更し,拡張ミッションのフェーズに移った.拡張ミッションでは,マルチスイングバイ・長期航行技術を磨きつつ,L型小惑星2001CC21にフライバイし,C型小惑星1998KY26のランデブを目指す.一方,小惑星の観測結果より,科学的成果(1)を創出している.タッチダウンの際に撮像した高解像度画像から,大量の赤黒い粒子が舞い上がったことがわかり,赤黒い物質は RYUGUの表層数mの厚さで,全球的に層状に存在していること,30万年前から800万年前の間の短い期間に,表面物質が太陽に焼かれることで変質してつくられたことがわかった.
金星探査機「あかつき」は,金星を楕円軌道にて順調に周回し,科学観測を行っている.科学的成果として,金星大気のスーパーローテーションの維持の解明が行われた(2).「あかつき」で得られた画像と温度データから,その加速機構として,「熱潮汐波」であることが明らかになった.
日本とヨーロッパ(European Space Agency(ESA):欧州宇宙機関)と共同で推進している水星探査「BepiColombo(ベピコロンボ)」ミッションは,水星の磁場,磁気圏,内部,表層を初めて多角的・総合的に観測し,「惑星の磁場・磁気圏の普遍性と特異性」や「地球型惑星の起源と進化」について明らかにするミッションである.JAXAは,日本の得意分野である磁場・磁気圏の観測を主目標とするMMO探査機「みお」を担当し,ESAはMPOを担当している.MMOとMPOは,2018年10月20日にアリアン5型ロケットによる打ち上げに成功した.2020年10月14日に金星スイングバイに成功し,金星探査機「あかつき」および惑星分光観測衛星「ひさき」と共に,金星の連携観測を行った.MMOとMPOは,2025年に水星に到着し,約1年間の観測を行う予定である.
月着陸実証機SLIM (Smart Lander for Investigating Moon)は,将来の月惑星探査に必要なピンポイント着陸技術を獲得するミッションである.従来の「降りやすいところに降りる」着陸ではなく,「降りたいところに降りる」着陸へと質的な転換を果たすもので,世界的にもユニークなミッションである.小型の探査機によって月への高精度着陸技術の実証を早期に実現し,我が国として重力天体への着陸技術を獲得することは重要であり,将来の科学ミッションや国際協働有人探査ミッションに貢献するものである.2022年度打ち上げに向けて開発中である.そのほか,ESAが推進している木星やその氷衛星を調べる次世代探査計画「JUICE(The Jupiter Icy moons Explorer:木星氷衛星探査機)」ミッションに,日本も観測機器の一部の開発を担い,参加している.「JUICE 」は,2022年にアリアン5にて打ち上げ,2030年に木星系到着,2032年にガニメデ周回軌道に投入し,約8か月後の2033年6月にミッションを完了する計画で,世界初の氷衛星の周回機となる.
さらに,今後の宇宙探査ミッションとしては,JAXAは2024年度打ち上げに向けて火星衛星探査ミッション(MMX)を推進している.MMXでは,火星の衛星フォボスの試料サンプルを地球に回収(サンプルリターン)して詳細な分析を実施する.これにより火星衛星起源を実証的に決定して,原始惑星形成過程の理解を進めるとともに,生命材料物質や生命発生の準備過程(前生命環境の進化)を解明する.また,小天体フライバイミッション「DESTINY+」の計画を進めている.DESTINY+も2024年度に打ち上げ予定の小型探査機で,ふたご座流星群の母天体である小惑星「ファエトン」の探査などを行うとともに,小型探査機による深宇宙探査を可能にするための技術実証を行うことを目指している.
国際有人探査計画については,我が国も,本格的な月惑星探査を進める計画である.現在,月や火星を対象に,国際協働による宇宙探査の検討が活発に行われ,15カ国の宇宙機関より構成される国際宇宙探査協働グループ(ISECG)が,シナリオ検討および技術検討を行っている.そこでは,月極域探査,月周回有人拠点(Gateway)計画,月サンプルリターン計画,月・火星有人探査などが議論されている.米国NASAは,2024年頃に有人月面着陸を目指し,2028年までに月面基地建設を開始するアルテミス計画を推進している.
月周回有人拠点(Gateway)は,月面及び火星に向けた中継基地として,米国提案のもと,ISSに参加する宇宙機関から構成された作業チームで概念検討が進められている.規模は,国際宇宙ステーションの6〜7分の1で,Gatewayの組立てフェーズでは,4名の宇宙飛行士により年間30日程度の滞在が想定されている.日本は, ESAとの連携による国際居住棟(International Hub)のサブシステム(環境制御・生命維持装置)での参画,及び地球からGatewayへの物資補給には,宇宙ステーション補給機「こうのとり」を改良して現在開発中の「HTV-X」に,月飛行機能を追加して使用することを検討している.Gatewayでは,Near Rectilinear Halo Orbitという軌道をとることにより,軌道面が常に地球を向き,地球との通信が常時確保される.地球からの到達エネルギーが月低軌道までの70%程度であり,輸送コストが比較的小さくなるという利点がある.また,月の南極の可視時間が長く,南極探査の通信中継としても都合がよい軌道となっている.
月極域探査では,月の水資源が将来の持続的な宇宙探査活動に利用可能か判断するために,水の量と質に関するデータを取得することを目的とし,インド宇宙機関(ISRO)との国際協働ミッションを計画している.月極域におけるその場観測によって水の分布,状態,形態等を明らかにする.また,将来の月面活動に必要な「移動」「越夜」「掘削」等の重力天体表面探査に関する技術の獲得も目指す.さらに,2019年3月12日にJAXAとトヨタ自動車株式会社は,燃料電池車技術を用いた月面でのモビリティ「有人与圧ローバ」の共同検討について,有人宇宙ローバの開発及び国際協力による月面探査での活用を目指し,試作車の製作・実験・評価を含む3年間(2019年度~2021年度)の共同研究協定を締結した.将来の月面有人探査を目指す計画である.
〔久保田 孝 (国研)宇宙航空研究開発機構〕
参考文献
(1) T.Morota et al., Science, Sample Collection from Asteroid 162173 Ryugu by Hayabusa2 : Implications for Surface Evolution, DOI: 10.1126/science.aaz6306, 7 May 2020.
(2) T.Horinouchi et al., Science, How Waves and Turbulence Maintain the Super-Rotation of Venus Atmosphere, DOI: 10.1126/science.aaz4439, 23 April 2020.
11.4 有人宇宙活動
国際宇宙ステーション(ISS:International Space Station)の「きぼう」日本実験棟(図11-4-1)は,2021年に,2009年の完成から13年目を迎える.
現在,地上からISSへの物資補給は,米国・ロシア・日本の3カ国が分担して行っており,我が国は2020年に「こうのとり」9号機による補給に成功している.これにより,「こうのとり」(HTV:H-II Transfer Vehicle)シリーズは,2009年の技術実証機の打ち上げ以降,全9機すべてにおいて物資補給を成功させ,ミッションを完遂した.現在,輸送能力や運用性の向上,コスト低減,新たな機能や発展性を具備した新型宇宙ステーション補給機「HTV-X」を開発中である.また,HTV-XのISSへの物資補給機会を活用し,国際宇宙探査時代において重要な技術となり得る軌道上拠点への自動ドッキング技術の実証も計画している.
「きぼう」における実験環境の整備として,地上技術の進歩や軌道上実験に対するニーズの拡大等を踏まえ,最新民生部品を活用し,「きぼう」全体の通信高速化(Gbpsオーダ)に向けたシステム改修にも着手している.さらに,「きぼう」運用・利用における宇宙飛行士の時間をより高度で付加価値の高い業務に充てるため,船外ミッションにて使用する「きぼう」エアロックのクルーによる操作について,地上からの遠隔操作を可能とした.更にカメラ撮影や打上げ・保管用バッグの取り扱いなどの汎用タスク,高頻度な実験支援タスク等についての遠隔操作化・自動化・自律化についても研究開発も進めているところである.
船内実験では,小動物飼育装置(MHU:Mouse Habitat Unit)と新たに開発した大型遠心加速型人工重力発生機を備えた飼育ラック〔細胞培養装置追加実験エリア(CBEF-L:Cell Biology Experiment Facility-Left)〕を用いたマウスの長期飼育ミッションを実施した.2020年は,月の重力(地球のおよそ1/6)を模擬した環境での飼育を実施し,これまでの5回のミッションすべてにおいてマウスの全数生存帰還を達成している.このような実験で取得するデータは,将来の有人宇宙探査に資する,他天体の重力環境の生体への影響に関する研究の礎となることが期待される.更に,ISSの利用成果最大化に向けた日米協力枠組み(JP-US OP3)のもと,2020年2月にNASAとの間で低重力ミッションの共同実施についても合意しており,データは,JAXA-NASA共同の低重力ミッションでも活用される計画である.
また,人工重力発生装置を用いて,惑星表面の柔軟地盤の重力依存性を調査する実験(Hourglass(砂時計)ミッション)も実施された.月のレゴリス等を模擬した8種類の粉粒体が,装置により生み出される低重力環境の下で,どのような挙動を示すかについてのデータを取得した.データは月・惑星土質力学等の構築に役立てられ,将来的には月・惑星の探査に使用されるローバや着陸機などの設計にも貢献することが期待される.これらのように,今後も,「きぼう」が宇宙探査への応用を目的とした基礎実験や技術実証等に効果的に活用されていくことが期待されている.
更に,補給が難しい月・火星等,低軌道以遠における有人宇宙活動のために不可欠であり,かつ,国際宇宙探査における我が国からの大きな貢献となり得る技術として,我が国独自の環境制御・生命維持システム(ECLSS: Environmental Control and Life Support System, 水再生,空気再生等)の技術開発・ISSにおける技術実証に向けた準備等も推進している.
タンパク質結晶生成実験(PCG:Protein Crystal Growth)においては,ロシアのソユーズ宇宙船に加え,米国ドラゴン宇宙船によるサンプルの打上・回収での実験プロトコルも確立し,年に複数回の実験機会の提供のほか,創薬研究需要に応える結晶化温度条件(4℃と20℃)を提供し,アカデミアや民間に広く利用されている.今後,タンパク質実験の一部は民間企業によるサービス事業への移行することとなっており,更なる利用の拡大と成果の創出が期待される.
静電浮遊炉(ELF:Electrostatic Levitation Furnace)は,2020年夏より安定した計測運用を進めている.2020年は,公募で選定した科学実験,民間の有償利用,国際協力に基づく米国実験を実施した.約100サンプルを浮遊・溶融させ,密度,表面張力,粘性の測定を継続的に進めている.
船外実験では,ISSでもユニークな特徴である「きぼう」独自のエアロックを中心に,NASAやESAをはじめとする海外の様々な宇宙機関,更には海外民間企業等からも多くの利用要請を受けている.簡易曝露実験装置(ExHAM:Experiment Handrail Attachment Mechanism,2015年度運用開始)や中型曝露実験アダプタ(i-SEEP:IVA-replaceable Small Exposed Experiment Platform,同2016年度)の投入により,安定した実験環境と自由度の高い実験計画・回収能力がより簡便に利用できるようになっており,i-SEEPを用いた光通信軌道上実証装置(SOLISS:Small Optical Link for ISS)による民間主体の技術実証利用や,民間による宇宙実験サービス事業として実施した小型衛星用地球観測カメラ(iSIM:Integrated Standard Imager for Microsatellites)の実証実験,更には小型実験装置群の実験サービス事業が本格的に開始されつつある.
エアロックから船外に搬出し,ロボットアームにて超小型衛星を軌道地球周回軌道に投入する衛星放出ミッションは,JAXA・NASAそれぞれが担当する衛星の放出実績が270機を超え,超小型衛星の軌道投入手段として定着してきている.JAXAでは本プラットフォームを国連との連携を通じた加盟国の宇宙開発技術底上げの場として毎年一定枠の放出機会を提供している.更に現在では民間事業者による放出サービスも開始され,九州工業大学が主導する海外の超小型衛星群(BIRDSシリーズ)を始めとする諸外国での宇宙開発基盤育成の場としても活用されている.これらの活動はSDGsへの貢献としても重要なものとなっている.
観測ミッションの場を提供する船外実験プラットフォームにおいて,高エネルギー電子・ガンマ線観測装置(CALET:CALorime- tric Electron Telescope)は,2020年に観測運用5年を超え,2021年度から観測運用12年目に入る全天X線監視装置(MAXI:Monitor of All-sky X-ray Image)は,良好に観測およびデータの速報等を継続している.これまでに,非常に明るいブラックホール(J1820+070)を発見し観測結果が米国天体物理学専門誌「アストロフィジカルジャーナル」に掲載されるなど,高エネルギー天体現象に関わる数々の重要な成果を上げている.また,経済産業省が開発・運用を担当している「HISUI」(Hyperspectral Imager SUIte)も成功裏にチェックアウトを完了し,現在定常観測期間に入っている.「HISUI」ミッションでは,観測データを用いて,精密に地表の物質を特定することを目指しており,将来的に石油や金属・鉱物などの資源調査等への活用が期待されている.
日本人宇宙飛行士については,2020年11月に若田光一宇宙飛行士と古川聡宇宙飛行士がISS長期滞在搭乗員に決定され,それぞれ2022年頃と2023年頃の滞在に向けて技量回復訓練およびアサイン訓練を開始した.
野口聡一宇宙飛行士は,米国のスペースX社が開発した新型宇宙船「クルードラゴン」の運用初号機にNASA以外の宇宙飛行士として初めて搭乗してISSへ飛行し2020年11月からISSに長期滞在した(2021年4月末頃まで).過去2度の宇宙滞在の豊富な経験を活かし,宇宙環境を利用した様々な実験・ミッションを行い,15年ぶりとなる船外活動では,ISSの太陽電池パネルに小型高性能の新型太陽電池パネルを増設するための架台設置に係る作業等を行った.
星出彰彦宇宙飛行士は,野口宇宙飛行士に続き,2021年4月に「クルードラゴン」の運用2号機に搭乗し,約5か月間のISS長期滞在を行う予定である.長期滞在では,日本人2人目のISS船長として指揮を執るとともに,宇宙実験,国際宇宙探査に向けた技術実証,ISSのメンテナンスなど様々な任務にあたる.
油井亀美也宇宙飛行士,大西卓哉宇宙飛行士,金井宣茂宇宙飛行士は,野口・星出宇宙飛行士の長期滞在ミッションを支援しつつ,それぞれ次の搭乗員任命に向け資質維持向上訓練等を行っている.
また,国際宇宙探査に向けた機運が高まっている状況等を踏まえ,新たな日本人宇宙飛行士候補者について,2021年秋頃を目途に募集を開始すること,今後,5年に1回程度の頻度で募集を行うことが2020年10月に発表された.候補者の募集に向け,募集・選抜,基礎訓練に活用できる民間のアイデアや応募条件等への個人からの意見等を募集し,多数の問い合わせ・情報提供を頂いた.13年ぶりの宇宙飛行士候補者募集に対する関心は非常に高く,現在,より多くの方に宇宙飛行士になる可能性を広げるために,応募条件の検討等を行っている.
国際宇宙ステーションは,2024年までの運用について国際的に合意されており,それ以降については,米国においては少なくとも2028年または30年までの運用延長を含めた法案が議会に提出されており,我が国においてもISS延長への参加について政府にて議論が進められている.また,上記のように,2020年には,米国のスペースX社のクルードラゴンによるISSへのクルー輸送が開始されるなど,民間による低軌道活動が本格化している.JAXAでは,2028年または2030年以降の地球低軌道活動の在り方についての検討も実施しており,我が国が,将来においても地球低軌道を利用でき,また,低軌道が経済活動の場としても発展していくことを目指し,ISSが2025年以降も運用延長された場合に,その活動が将来の地球低軌道活動や国際宇宙探査活動の更なる発展に資するものとなるよう,国際宇宙探査に必要な技術実証,民間企業等による利用の促進,国の課題解決や人材育成に繋がる利用,国際協力や民間企業等との連携など,様々な角度からの検討や準備を進めている.
図11-4-1 「きぼう」外観(JAXA提供)
〔宮崎 和宏 (国研)宇宙航空研究開発機構〕
11.5 小型宇宙システム
11.5.1 小型輸送システム
インターステラテクノロジズ社は,2020年3月,軌道投入用ロケット「ZERO」の燃料としてメタンを主成分としたLNGを選定した(1).比推力の高さ,供給安定性,低環境負荷等を理由に挙げている.本社所在地の北海道大樹町では畜産からのバイオメタン生産が盛んで,ロケット燃料の地産地消も検討している.同社はGW中の「MOMO5号機」打上げを計画していたが,新型コロナウイルス感染拡大防止のため延期した(2).同機は後に「えんとつ町のプペル MOMO5号機」と命名され,6月14日に打上げられたが,機体の姿勢異常を受けて高度10.8 kmでエンジンが緊急停止された(3).グラファイトノズルの破損が姿勢異常を招いたと考えられている.続いて開発された7号機「ねじのロケット」(機体番号は受注順)は2020年7月に打上げ予定であったが,19日と26日のいずれも点火系の不具合により直前にカウントダウンが停止された(4).
愛知県で有翼宇宙機を開発しているPDエアロスペース社は,2020年9月,沖縄県の「下地島空港及び周辺用地の利活用事業提案」に対して「下地島宇宙港事業」を提案し,10日に県と基本合意した(5).同社は2022年に無人実験機を高度100kmの宇宙空間に到達させ地上に帰還させる計画を進めている.
米ロケット・ラボ社は小型ロケット「エレクトロン」のブースター回収・再利用技術を開発していたが,2020年4月,ブースターを投下し,ヘリコプターで回収する試験に成功した(6)のに続いて,11月に約30機の小型衛星を軌道投入した打上げの際に第一段(ブースター段)ロケットを地球に帰還させ,回収することにも成功した(7).ブースターはパラシュートを展開し,洋上に着水.船により回収された.同社は同年7月4日,エレクトロンの打上げに失敗し,13回目で初めての失敗となった(8).第2段エンジンの燃焼中に不具合が発生し,予定軌道に到達せず落下した.ペイロードにはキヤノン電子を含む3社の顧客による7機の小型衛星が搭載されていた.キャノン電子は失われた「CE-SAT-IB」の後継機「CE-SAT-ⅡB」を開発,10月29日の再打上げで無事に高度500 kmの太陽同期軌道に投入された(9).米国ロケットベンチャーではヴァージン・オービット社が2021年1月に空中発射ロケットにより10機のキューブサットを軌道投入(10)する事に,アストラ社も12月に試験機を高度390 kmに到達(11)させる事に,それぞれ成功している.
中国の民間企業Galactic Energy社は,2020年11月7日,酒泉衛星発射センターから同社初の打上げを行い,衛星の軌道投入に成功した(12).これによりGalactic Energy社は中国で2番目(1番目はiSpace社)に打上げに成功した民間会社となった.
〔永田 晴紀 北海道大学〕
参考文献
(1) 「次世代燃料として注目のLNGを軌道投入用ロケット「ZERO」の推進剤に選定」http://www.istellartech.com/archives/2262(参照日 令和3年4月15日)
(2) 「観測ロケット「MOMO5号機」打上げ延期のお知らせー無観客のロケット打上げ,大樹町からの自粛要請を受け,GW中の打上げ延期を決定」http://www.istellartech.com/archives/2941(参照日 令和3年4月15日)
(3) 「観測ロケット「えんとつ町のプペル MOMO5号機」打上げの結果について」http://www.istellartech.com/archives/3079(参照日 令和3年4月15日)
(4) 「観測ロケット「ねじのロケット」打上げ延期のお知らせ」http://www.istellartech.com/archives/3183(参照日 令和3年4月15日)
(5) 「宇宙港事業を沖縄県下地島空港にて展開」https://pdas.co.jp/documents/Press_200911.pdf(参照日 令和3年4月15日)
(6) “Rocket Lab Successfully Completes Electron Mid-Air Recovery Test” https://www.rocketlabusa.com/about-us/updates/rocket-lab-successfully-completes-electron-mid-air-recovery-test-the-successful-test-brings-rocket-lab-another-step-closer-to-making-electron-a-reusable-launch-vehicle/(参照日 令和3年4月15日)
(7) “Rocket Lab Launches 16th Mission, Completes Booster Recovery” https://www.rocketlabusa.com/about-us/updates/rocket-lab-launches-16th-mission-completes-booster-recovery/(参照日 令和3年4月15日)
(8) “Rocket Lab Mission Fails to Reach Orbit” https://www.rocketlabusa.com/about-us/updates/rocket-lab-mission-fails-to-reach-orbit/(参照日 令和3年4月15日)
(9) “Rocket Lab Successfully Launches 15th Mission, Deploys Satellites for Planet, Canon Electronics Inc.” https://www.rocketlabusa.com/about-us/updates/rocket-lab-successfully-launches-15th-mission-deploys-satellites-for-planet-canon-electronics-inc/(参照日 令和3年4月15日)
(10) “Virgin Orbit Aces Second Launch Demo and Deploys NASA Payloads” https://virginorbit.com/the-latest/virgin-orbit-aces-second-launch-demo-and-deploys-nasa-payloads/(参照日 令和3年4月15日)
(11) “ASTRA MAKES IT TO SPACE!” https://astra.com/news/space/(参照日 令和3年4月15日)
(12) “The First Flight of the Ceres-1 Commercial Carrier Rocket into Orbit Was a Complete Success” http://www.galactic-energy.cn/index.php/En/Show/cid/24/aid/95(参照日 令和3年4月15日)
11.5.2 小型・超小型衛星の動向
2020年における100kg以下の衛星は208機が打上げられ,2019年の229機,2018年の274機と減少傾向がみられる.その大きな理由は2020年末に打ち上げ予定だったFALCON-9打上が延期となり,130機以上の小型衛星が打ち上げられなかったことが大きく影響している.
軌道投入された10cm四方のCubesat規格衛星は0.25U~12Uサイズまで154機あり,民間PLANET社の33機,及びSPIRE社の18機を抜いて,Swarm Technologies社が36機(0.25Uサイズ)打ち上げられた..Cubesatクラスの民間ビジネスとしては,光学撮像/ AIS (Automatic Identification System)/ADS-B(Automatic Dependent Surveillance-Broadcast)/GNSS-RO(GNSS radio occultation)が事業化しているが,新たにIoT/M2Mコンステレーション通信ビジネスもサービスがスタートしたと言える.また,先行する米国の電波スペクトル解析事業を行うHawkeye360に加えて,ルクセンブルグのKLEOS社とフランスのUNSEENLAB社が6Uサイズで打上を開始し,電波スペクトル解析ビジネスも打上元年ともいえた.
以上からCubesat規格が民間宇宙ビジネスのアセットとして機能し,ビジネス領域を徐々に拡大している動向がみられているが,加えて小型衛星の大きなトピックとしては,通信メガコンステレーションの打上が本格的に始まった年でもあった.2020年はONEWEBが104機,Starlinkが833機という過去最大規模の小型衛星が打ち上げられ,米Starlink通信サービスが一部地域で開始されたことも特筆すべきことである.Starlinkが従来の通信衛星ビジネスと違う点は,低レイテンシーという遅延速度低くすることを目的にしており,地上光ファイバーよりも遅延速度が優れている(NY-London間の光ファイバーは55-75msec遅延に対し,Starlinkは50msecを目標)ことから静止通信衛星では参入不可能であった金融の電子商取引市場やオンラインゲーム市場への参入が可能となることが見込まれている.さらコネクティッドカーや航空機,船舶などモバイル通信市場へも参入できる上に,接続規格がWiFiというコモディティー化された端末機器への接続を標準規格としており,既存市場ではない新たな衛星通信市場を開拓している動向がみられている.
次に,小型衛星の通信技術動向としては,米LYNK社が世界で初めて(改造なしの)携帯電話とCubesatで直接通信に成功した.当該技術は,災害時や地上基地局レンジ外の携帯電話通信が可能になる技術として期待され,楽天モバイルやボーダフォンが出資するAST & Science社も同様のサービスを目標としており,技術開発競争が進んでいる.
宇宙機関のCubesat利用も拡大している.欧州では地球観測衛星網(コペルニクス)の補完衛星として,ESAがGNSS-ReflectometerとLバンド放射計のペイロードや,マルチ光学センサー(土壌水分,氷の広がり,氷の厚さ,氷上の融解池の検出)を搭載したFSSCAT 2機(6U)を打ち上げた.また,NASAでもCuebsatを再突入ポイントまで誘導するexo-brake精密軌道離脱技術を搭載したTechedsat-10を打上げ,超小型衛星の回収技術実証を行っている.
国際協力ミッション分野では,イスラエルとスイスがバイオ実験DIDO-3(3U)を打上げた.本ミッションでは細菌の増殖,抗生物質耐性,自己組織化,酵素反応,重合,ナノ粒子合成,粒子凝集ダイナミクス,エマルジョンの安定性,結晶化に関する実験を目的としている.次にフランスとロシアがオーロラ観測AMICAL-SAT(2U)では,無線電波の擾乱への影響調査を目的とている.また,中国とエチオピアが両国の関係者が交流することで開発が決まった地球観測衛星ZHIXING-1A(6U)が打ち上げられた.
サイエンスミッション分野では,オーロラのプラズマ観測を目的とするアメリカANDESITE(6U),ロシア太陽観測Yarilo1,2(1.5Ux2),太陽と地球の両方の測定する電気代替空洞放射計を搭載したベルギーSIMBA(3U),上層大気と電離層観測のベルギーのPICASSO(3U),温室効果ガス濃度測定を目的としたアラブ首長国連邦のMEZONSAT(3U)が打上げられた.
日本では,東大と福井県企業共同開発のG-Satelliteが1機と,民間小型衛星ではキャノン電子社のCE-SAT-IB,CE-SAT-IIBの2機が打ち上げられたが,ロケット側不具合によりCE-SAT-IBは打上失敗.Synspective社がStriX-αを打上と,計3機の小型衛星が軌道投入された.
将来予測では,Mordor Intelligence社によると,2021年~2025年までのナノ/マイクロ衛星の年間成長率は18%以上であり,最大市場は米国であるものの,成長性が見込まれるのは欧州であると発表されている(1).
新型コロナウイルス(COVID-19)による影響は,製造業は納期遅延,モバイル通信では利用が大きく落ち込んだものの,ロケット打上は104回成功し,2019年の97回と比較して堅調に推移している.また,2020年の宇宙企業の資金調達額も,Seraphim Capitalのまとめによれば,2019年比の70%増,SpaceXを筆頭に新興企業へ77億ドル(約7700億円)の投資が行われており,投資は引き続き堅調に推移している(2).
小型衛星のビジネス領域拡大と技術革新が進んでいる背景もあり,2020年はアメリカNRO (国家偵察局)が小型衛星の積極的利用を宣言した(3).これは2019年の米空軍に続いての宣言でもあり,軍事ミッションとしての利用価値について公的発表された年でもあった.また,アメリカでは小型衛星産業の振興をするための周波数免許費用の低減や電波免許取得期間の短縮化及びデブリ規制の明確化など,許認可手続きにおける規制緩和方針を発表している(4). 小型衛星におけるビジネス拡大,欧米の技術戦略に基づいた小型衛星の軌道投入,そして産業振興にむけた規制緩和など,新型コロナウイルスの影響が懸念されるなかで,着実に実績と成長を積み重ねていると言える.
〔金岡 充晃 シー・エス・ピー・ジャパン(株)〕
参考文献
(1) Nano and Microsatellite Market – Growth, Trends, COVID-19 Impact, and Forecasts (2021 – 2026), mordor intelligence
https://www.mordorintelligence.com/industry-reports/nano-and-micro-satellite-market/(参照⽇ 2021年4⽉10⽇)
(2) ESA Roadmap for ESA In-Orbit Demonstration Missions & Enabling Technologies, Roger Walker, Seraphim Capital
https://seraphim.vc/wp-content/uploads/2021/02/Seraphim-Space-Index-Q4-2020-FINAL.pdf(参照⽇ 2021年4⽉10⽇)
(3)2020 Keynote Speaker – Dr. Christopher Scolese, Director NRO, Utah Small satellite, Conference https://digitalcommons.usu.edu/smallsat/2020/all2020/263/(参照⽇ 2021年4⽉10⽇)
(4) FCC FACT SHEET Streamlining Licensing Procedures for Small Satellites Report and Order, IB Docket No. 18-86, https://docs.fcc.gov/public/attachments/DOC-358437A1.pdf (参照⽇ 2021年4⽉10⽇)