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機械工学年鑑2021

9. エンジンシステム

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章内目次

9.1 エンジンシステムにおける研究の動向
9.2 各種エンジン
 9.2.1 乗用車用エンジン
  a.全体概要/b.日本の動向/c.ヨーロッパの動向/d.北米の動向
 9.2.2 トラック・バス用機関
  a.市場動向/b.国内の動向/c.海外の動向
 9.2.3 オートバイ用機関および船外機
 9.2.4 汎用機関
 9.2.5 建設機械および鉄道車両用機関
  a.建設機械の市場動向/b.建機用機関の技術動向/c.鉄道車両用機関の技術動向
 9.2.6 舶用および発電用機関
 9.2.7 ガスタービン
 9.2.8 スターリング機関

9.2.8 燃料電池

 


9.1 エンジンシステムにおける研究の動向

ゼロエミッション社会の実現に向けて欧州各国では,2025年以降にガソリンエンジンディーゼルエンジンを搭載する自動車の販売を禁止することが宣言され,法制化されようとしている.我が国でも「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」が示され,燃料・自動車産業には自動車電動化の普及加速,そのためのインフラの整備,カーボンニュートラルな代替燃料の一貫製造プロセスの確立など,船舶産業にはカーボンフリーな代替燃料,すなわち水素,アンモニアを用いた大型エンジンシステムの開発などが求められている(1).このようにエンジンシステムに100年に一度と言われる技術変革が求められる中,国立研究開発法人産業技術総合研究所エネルギー・環境領域省エネルギー研究部門のもとに産学連携コンソーシアム「ゼロエミッションモビリティパワーソース研究(ZEM)コンソーシアム」が設けられ(2),エンジンシステムのゼロエミッション化に向けて高度な研究を進めるための基盤が整えられた.

自動車用内燃機関技術研究組合(AICE)では,燃焼分野のプロジェクト研究テーマとして「ガソリン燃焼・点火着火火炎伝播の研究」,「燃料と燃焼反応の研究」,「冷却損失低減技術の研究」,「圧縮着火燃焼の熱効率追求」,「高速ノックの現象把握と支配要因の解明」,「ガス・燃料流動の気液二相流のサイクル変動」,「燃焼ばらつきの部品,経時劣化補償に関する研究」,「エンジン開発のためのAIを活用したモデリングおよび同定」,「核沸騰熱伝達コントロールに向けた現象解明とモデル化」,構造分野のプロジェクト研究テーマとして「EGR通路・燃焼室デポジット堆積のモデル構築」,「オイル消費機構の解明とオイル移送モデルの構築」,「高効率熱電材料の探索と車載要求特性の研究」,「機械摩擦低減に寄与する表面技術の創出」,「NVH油膜モデル構築」,「凝縮水起因の腐食メカニズム解明とモデル構築」,「燃焼衝撃力の影響分布」,後処理分野のプロジェクト研究テーマとして「アッシュ生成原理解明研究」,「ポスト/遅角噴射による希釈・発熱・オイル劣化解析」,「SCR/DPFシステムモデル研究」,「ガソリン微粒子捕集フィルタの内部現象に関する研究」,「貴金属触媒のライトオフと劣化に関する現象解明および触媒反応モデルの構築」,「排気マニホールド内ポスト酸化研究」が取り上げられ(3),それぞれのワーキンググループのもとで様々な研究が行われた.

2020年度,新型コロナウィルス感染拡大により多くの行事が中止,延期を余儀なくされる中,エンジンシステムに関わる主要な学術講演会として年次大会(9月13日(日)~16日(水),共催:名古屋大学大学院工学研究科),第31回内燃機関シンポジウム(11月16日(月)~18日(水))がWeb開催された.第23回スターリングサイクルシンポジウムの開催は1年延期された.

年次大会ではエンジンシステム部門の企画として基調講演「バイオマスのガス化で発生したガスの火花点火機関での燃焼/志賀聖一(群馬大)」,先端技術フォーラム「エンジントライボロジー研究最前線」,ワークショップ「エンジン・発電の高効率化技術と再生エネルギーの連携課題」が設けられた(4).先端技術フォーラムでは「エンジントライボロジーの課題/伊東明美(東京都市大)」,「油膜の新しい可視化計測手法/畔津昭彦(東海大」,「油膜計算最前線/塩川祥二・福山順也(AVL Japan)」,「さらなる損失低減のために/村木一雄(日産自動車)」という4件の話題提供が行われた(4).ワークショップでは「現状のCO2 低減の課題として非炭素系燃料(アンモニア)の利活用/赤松史光(大阪大)」,「ガスエンジン発電装置と再生可能エネルギーの連携技術への取り組み/田中政之(三菱重工エンジン&ターボチャージャ)」,「再生可能エネルギー導入時における火力発電のメリットオーダーの変化と調整力の価値評価に向けた取り組み/白井裕三(電力中央研究所エネルギー技術研究所)」,「テーマ総括/芹澤 毅(ダイハツ工業)」という4件の話題提供が行われた(4).また,一般講演セッション「持続可能社会に貢献するエンジン燃焼・潤滑・後処理技術(1)~(6)」では合計22件の発表が行われた(4)

第31回内燃機関シンポジウム「協調と競争による内燃機関の進化」では基調講演として「Model based communication, control and collaboration/山崎由大(東京大)」,「国内の大気質改善に向けた取り組みと路上走行試験の活用/秦 寛夫(東京都環境科学研究所)」,「欧州におけるPN規制動向 (PEMSおよび台上試験)/山田裕之(東京電機大)」,「カーボンニュートラルに向けたハイブリッドと内燃機関の技術進化/新里智則(本田技研工業)」という4件の話題提供が行われた(5).また,一般講演セッションとして「SI機関(1)~(3)」,「CI機関(1)~(3)」,「2ストロークエンジン」,「ガス・水素エンジン(1)~(3)」,「潤滑」,「点火」,「計測診断」,「ガスタービン・新コンセプトエンジン」,「着火・燃焼(1)・(2)」,「噴霧(1)・(2)」,「後処理技術(1)・(2)」が設けられ,合計74件の発表が行われた(5)

〔桑原 一成 大阪工業大学〕

参考文献

(1) 経済産業省ホームページ, https://www.meti.go.jp/press/2020/12/20201225012/20201225012-1.pdf
(参照日2021年7月19日)

(2) ZEMコンソーシアムホームページ, https://zemconso.jp/
(参照日2021年7月19日)

(3) AICEホームページ, https://www.aice.or.jp/about/pdf/5.1_2019年度の研究テーマ概要r1.pdf
(参照日2021年7月19日)

(4) 日本機械学会2020年度年次大会ホームページ, https://jsmempd.com/conference/jsme_annual/2020/wp-content/uploads/2020/09/IntegratedProgram_v2.2.pdf
(参照日2021年7月19日)

(5) 日本機械学会第31回内燃機関シンポジウムホームページ, https://www.jsme.or.jp/conference/ICES2020/file/nainen31_program_20201107.pdf
(参照日2021年7月19日)

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9.2 各種エンジン

9.2.1 乗用車用エンジン
a.全体概要

2020年の乗用車の世界市場は,2019年比で15.8%減となり,日本で11.4%減,中国で5.9%減,北米で27.4%減,欧州で24.5%減と大きな減少に転じた.COVID-19による生産や物流への影響を受け減産を余儀なくされた年となった.各国からカーボンニュートラル政策が打ち出されたこともあり,パワートレインの電動化を推進する動きは引き続き強く,EV, PHEV, HEV, FCEV等の電動化比率は,10.3%と拡大傾向にある(1).欧州メーカーの中には2030年までに新車販売を全てEV化する動きも出てきた.将来の排出ガス規制,オフサイクル規制の動きもあり,各社各様に各地域の状況に応じてエンジン本体の効率向上と電動化時の使い方とその最適化を組み合わせで対応していくことが求められている.総じて燃費優先の開発傾向にはあるが,趣味性を持つ自動車の使われ方にも対応した機関が日欧米から市販化されており,低燃費と高出力を高いバランスで実現させることも進められている.

 

b.日本の動向

日本の2020年販売実績は2019年比11.4%減の381万台であった. 普通車が15.4%減と最も大きく,小型車,軽自動車は10%前後の落ち込みとなっている(2).一方,電動化比率は登録車が38%とやや落ち込んだものの軽自動車が32%と伸びており乗用車全体では36%と伸びている.新エンジンとしては,スバルが過給リーンバーンエンジンを商品化した(3).これは層状燃焼+NOx触媒の組み合わせによるものだが,オフセットシリンダー等の基盤技術も活用し燃費と排出ガスの現行規制をクリアすべく開発された.トヨタはBMEP2.9MPaという高出力エンジンをスポーツカー用に商品化した(4).将来の動向としては,政府のカーボンニュートラル戦略をLCAの観点から実現すべく電動車フルラインナップの強みを生かすことが期待される(5)

c.ヨーロッパの動向

COVID-19により各国でロックダウンを行ったこともあり,2019年比でドイツ19.1%減,フランス25.5%減,イギリス29.4%減と大きな落ち込みとなった.ディーゼル車離れ電動化促進の流れは変わらず,ノルウェーでは9月以降EV比率が90%前後と高水準で推移している(1).ガソリン車,ディーゼル車の販売禁止時期が各国から相次いで提示され,ロンドンのように都市部での走行を規制する動きがでてきた.このような動きを受けボルボや欧州フォードのようにEV専業を宣言する会社も現れた.一方で内燃機関に先進的な技術を市販化する例も見られる.少数生産ならではとも言えるが,ポルシェは形状自由度の高い3Dプリンタによるピストン(6),フェラーリは着火性を大きく改善できるプリチャンバーを採用したエンジン(7)をマセラッティ向けに商品化した.

 

d.北米の動向

トランプ前政権はCO2規制緩和方針を打ち出し,これをEPAが支持していたが,バイデン新政権が一転カーボンニュートラル政策を宣言したことから,今後のCAFE対応動向が注目されている.CO2規制で先行するカリフォルニア州では2020年9月の行政命令により,乗用車の新車販売は2035年以降ZEV化を推進することとなった.北米の乗用車販売は,2019年比で米国が26.6%減の361万台であり,これまでシェアを伸ばしていたライトトラックも減少に転じ,COVID-19の影響を強く受けた.新エンジンではGMからシボレーカマロ,コルベットといった米国を代表するスポーツカー用エンジンが市販化された.これはV型8気筒OHVエンジンと古典的な諸元ながらシリンダーヘッドの遠心鋳造やスーパーチャージャー,コンパクトなドライサンプといった新しい技術を採用している.

〔芹澤 毅 ダイハツ工業(株)〕

参考文献

(1)MARKLINES, https://www.marklines.com/ja/vehicle_sales/search(参照日2021年4月12日)

(2)日本自動車工業会, http://jamaserv.jama.or.jp/newdb/index.html(参照日2021年4月12日)

(3)スバル, https://www.subaru.jp/levorg/levorg/driving/powerunit(参照日2021年4月12日)

(4)トヨタ,https://toyota.jp/gryaris/(参照日2021年4月12日)

(5)日本自動車工業会,http://release.jama.or.jp/sys/interview/detail.pl?item_id=819(参照日2021年4月12日)

(6)ポルシェ,https://newsroom.porsche.com/en/2020/technology/
porsche-cooperation-mahle-trumpf-pistons-3d-printer-power-efficiency-911-gt2-rs-21462.html(参照日2021年4月14日)

(7)フェラーリ,https://www.maserati.com/jp/ja/news-event/
mc20-the-super-sports-car(参照日2021年4月14日)

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9.2.2 トラック・バス用機関
a.市場動向

2020年の小型四輪車,軽四輪車も含めた国内トラック販売台数は,2019年比11.5%減の77万9300台であった.車種別としては,軽四輪車は同10.3%減の38万6939台,小型車は同13.2%減の23万1683台,普通車は同11.9%減の16万678台と,新型コロナウイルス感染拡大による景気の後退により,各車種とも大幅に減少した.国内バス販売台数は,同31.3%減の9334台であった.小型バスは同28.6%減,大型バスも同36.2%減となり,観光業の低迷によりバス需要は大幅に減少した.輸出車は,トラックが同20.0%減の25万9879台,バスが同39.5%減の7万2954台と景気の影響を大きく受けた.トラックについては,アジア向けで同25.4%減,北米向けで同60.3%減と減少幅が顕著だった.バスについても,アジア向けで同48.9%減と大幅に減少した地域もあった.

 

b.国内の動向

2020年大幅に改良された新型トラック・バス用機関の市場への投入はなかった.一方,気候変動対策として温室効果ガスの排出量の最小化を各社推進し,脱炭素社会を目指し活動を進めて来ている.日野自動車は,トヨタ自動車と共同で,燃料電池で走行する大型トラックの開発に取り組むことを発表.また,いすゞ自動車は,本田技研工業と燃料電池をパワートレインに採用した大型トラックの共同研究契約を締結した.燃料に関しても脱炭素化への流れは進んでおり,いすゞ自動車は石油由来の軽油を100%代替可能な次世代バイオディーゼル燃料を完成させ,実証実験をいすゞ藤沢工場シャトルバスにて2020年4月1日より開始した.三菱ふそうは,量産型電気小型トラック「eCanter」が,2017年10月の販売開始から約2年で販売目標としていた150台を達成したと発表した.走行実績はグローバル全体で合計160万km以上に到達.近距離の小口配送からルート配送,宅配便の集配などに浸透しつつある.

c.海外の動向

海外においても,トラック・バス用機関の脱炭素化は推進されており,特に欧州ではその流れが顕著である.欧州では,再生可能エネルギー由来の発電により車両のカーボンニュートラルの実現可能性が高いことから,EVトラックの普及が推進されている.Renault TrucksはEVトラックシリーズを発売開始し,2025年にはトラック販売の10%をEVトラックとする目標も掲げている.DAF Trucks は,ごみ収集EVトラックの実証実験を開始.ごみ収集車へのEVトラック適用は,公共機関へのクリーン車両購入義務付け等の法規により,今後もさらに推進される見込みである.一方,大型トラック用の機関としては,内燃機関が今後も主流であると考えられる.Scania は,新型V8ディーゼルエンジンと新型トランスミッションを組み合わせて搭載した大型トラックを発売.最高出力566kW(1800rpm)最大トルク3700Nm(1000-1450rpm).燃費低減を目的に,高圧縮比,内部摩擦の低減,ボールベアリングターボチャージャ,などの技術が適用されている.

〔山下 健一 (株)いすゞ中央研究所〕

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9.2.3 オートバイ用機関

2020年の国内二輪車生産台数は,小型二輪車,軽二輪車,原付一種,原付二種の各クラスで前年を下回り,全体では2019年比14.6%減の48.5万台となり,2年連続の減少となった(1).日本二輪車メーカー4社(以下,ホンダ,ヤマハ,カワサキ,スズキと表記)が2020年に発売したエンジンについて簡単に紹介する

ホンダは,新設計の999cm3・水冷・4ストローク・4バルブ・直列4気筒エンジンを搭載した新モデルを発売した.ボアストロークの変更による大径バルブの採用とフリクション低減を狙ったショートストローク化,チタン鍛造コンロッドと高強度アルミ鍛造ピストンの採用による軽量化,フィンガーフォロワー式動弁機構の採用などにより,高出力・高回転化を実現させた.また,バルブ挟み角の狭角化とラムエアダクト通路の変更により,空気導入効率も向上させている.最高出力は160kW/14500rpmとなる(2)

ヤマハは,997cm3・水冷・4ストローク・4バルブ・直列4気筒エンジンを搭載した新モデルを発売した.シリンダヘッドを新作し,吸気ポート長を短くすることで吸気効率を向上させ,インジェクターの配置変更と10孔斜流インジェクターの採用により最適な燃料噴射位置を確保し,環境規制への適合とドライバビリティの向上を図った.また,各部オイル通路形状変更などによりオイル供給量を最適化し,パワーロスも低減させている(3)

スズキは,1036cm3・水冷・4ストローク・4バルブ・V型2気筒エンジンを搭載した新モデルを発売した.ワイヤーケーブル無しの直径φ49mm電子制御スロットルボディの採用,吸排気のカムプロフィールとカムタイミングの最適化により,出力の向上と排出ガス低減を図った.また,スロットルボディに搭載された独自のモーターは,リニアなスロットルレスポンスと全回転域で排出ガス低減に貢献している.最高出力は78kW/8500rpmとなる(4)

カワサキは,新設計の249cm3・水冷・4ストローク・4バルブ・直列4気筒エンジンを搭載した新モデルを発売した.ピストンの新規設計とシリンダヘッド燃焼室の切削加工により高圧縮比を実現し,ピストンシリンダ間の摺動抵抗低減と動弁系のばね諸元の最適化により,耐久性の確保と高回転化を図った.また,吸気系は各気筒のダクト長調整とセンターラムエアダクト構造の採用により,最高回転まで伸びのあるエンジン性能を実現させている.最高回転数は17000rpm以上,最高出力は33kW/15500rpmとなる.

〔水川 照章 川崎重工業(株)〕

参考文献

(1) 一般財団法人日本自動車工業会データベース,http://jamaserv.jama.or.jp/newdb/index.html(参照日2021年4月9日)

(2) ホンダCBR1000RR-R,https://www.honda.co.jp/CBR1000RRR (参照日2021年4月9日)

(3) ヤマハYZF-R1,https://www.yamaha-motor.co.jp/mc/lineup/yzf-r1/(参照日2021年4月9日)

(4) スズキVストローム1050,https://www1.suzuki.co.jp/motor/lineup/dl1050rcm1/(参照日2021年4月9日)

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9.2.4 汎用機関
a.エンジン生産の動向

日本陸用内燃機関協会の統計によると2020年(1月から12月)の汎用の国内ガソリンエンジンの生産は大幅に減少し1,872千台,前年比80.9%,金額ベースで395億円前年比82.4%である.ディーゼルエンジンは1,336千台,前年比86.1%,金額ベースで4,852億円前年比94.4%である.ガスエンジンは6.6千台,前年比86.9%,金額ベースで178億円前年比86.9%である.国内生産台数は,2020年はガソリン,ディーゼルエンジン,ガスエンジンで減少する傾向がうかがえる.

海外工場での汎用機関の生産は,ガソリンエンジンは8,230千台,前年比93.0%で,ディーゼルエンジンは376千台,前年度比107.5%である.ガスエンジンは30千台,前年度比144.3%である.ガソリンエンジンガスエンジンは,増加する傾向がうかがえる.

新型コロナウイルスの影響によって,上半期は減少傾向が見られたが,個人機器や中国の感染収束インフラ投資による急速な回復,政府補助金による防災発電需要,欧米の巣ごもり需要によるガーデニング需要などにより下半期は回復基調であった.しかし,新型コロナウイルスの収束状況によっては,汎用エンジンの需要が影響を受け不安定な状況が続くと思われる.2021年度は回復基調が続き,2020年度に比較して汎用エンジンの生産台数が増加する見通しである.また,汎用エンジンの海外生産比率が増大する傾向が見られる.

b.排気ガス規制の動向

国内の大気汚染防止法の定置用ディーゼル,ガソリンとガスエンジンのNOx 規制値は比較的厳しくなく,唯一GHP(ガスエンジンヒートポンプ,空調装置駆動用小形ガスエンジン,小規模低NOx機器) 用ガスエンジンの推奨ガイドラインが12モードで100 ppm 以下と低い.GHPは総容量は526万馬力であり,NOxが最大であった1999年に対し,2019年は1350トン/年と74.8%の低減を達成した.推奨ガイドラインに適合した機器は,環境省適合ラベルを表示することが出来る.地方自治体の条例による排気ガス規制が厳しいので,定置用エンジンはガスエンジンしか生産されていない.小形汎用ガソリン19 kW 以下では,陸用内燃機関協会の自主規制が行われ,2014年からさらに厳しい規制が行われている.さらに小形汎用火花点火エンジン排出ガス自主規制(3次)の改正が行われた.非携帯用エンジンクラスⅠの排気量80ccを超えて140cc未満のエンジンに対するHC+NOxの当初基準値(13.1 g/kW・h)は2019年12月31日までが適用期限となり,2020年1月1日より当該クラスのHC+NOxの基準値は10.0 g/kW・hに変更された.

排気ガス総量の傾向は,ディーゼルエンジン生産台数が減少し,ガソリンエンジンの生産では大形の生産台数が減少したため,総排出量は前年に対し減少傾向となった.全体の排出量は,(NM)HC+NOxが2,389トン/年(前年比97.9%),COが18,527トン/年(前年比91.3%)と減少した.ちなみにCO2の総排出量は120,139トン/年(前年比93.5%)で減少した.

c.新技術の動向

GHP用でストイキとリーンバーンを切り替えて運転できる小形ガスエンジンが開発された.従来ではリーンバーンで運転されていたが,中負荷以下ではリーンで運転し,高速,高負荷ではストイキで運転し三元触媒でNOxを低減することで低NOxと高出力,高効率を達成した.
小形発電用ガソリンエンジンのバルブ駆動ギアトレインをベルト駆動とし,オイル跳ねかけオイル室とギアトレインのある動弁径室を一体化することにより,小型化とエンジンが傾いても潤滑状態を保持ができる技術が開発された.

汎用ディーゼルと火花点火エンジンにハイブリット技術(電動モーターとエンジン)を適用する例がある.ピーク出力時にモーターでアシストし,同一の最大出力排気量を小さくして,燃料消費率を低減している.

また,除雪機で移動用モーターとエンジンによる除雪を分けることによって,除雪能力の向上と移動速度の向上の両立を達成している.小形で家庭用の作業機器用エンジンは電動モーターに変更される傾向があり,今後も電動化の傾向が続くと思われる.

〔中園 徹 ヤンマー(株)〕

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9.2.5 建設機械および鉄道車両用機関
a.建設機械の市場動向

2020年度は,新型コロナウイルス感染拡大の影響により,上期は国内・海外ともに大幅減少した.下期は大きく回復するものの,通期では減少すると見込まれる.建機の出荷金額は,国内8,416億円(前年同期比6%減少),海外9,909億円(前年同期比23%減少)となり,全体では1兆8,325億円(前年同期比16%減少)の見込みである.

2021年度は,国内は横ばい,輸出は回復するとみられ,全体では増加に転じると予想される.建機の出荷金額は,国内8,298億円(前年同期比1%減少),輸出1兆460億円(前年同期比6%増加)となり,全体では1兆8,758億円(前年同期比2%増加)と予測される(出所:日本建設機械工業会)

b.建機用機関の技術動向

建設機械用機関の排出ガス規制については,欧州で2019年よりStageVが実施されている.19kWから560kWの規制区分では四次規制に対してNOx規制値は同様であるが,PM規制値が0.015g/kWhとなりPN(粒子数)規制も導入された.一方日米については第四次規制が継続されている.

日米欧以外の地域では,カナダ,韓国,オーストラリア(New South Wales州)で第四次規制が実施されており,インド,トルコでも2020年~2021年頃に導入予定である.一方中国では,2022年から中国四次規制が導入されることが決まり,規制レベルは欧州StageⅢbに加えてPN規制が導入される.

また建機においても実稼働中の排出ガスを規制する動向がある.欧州StageVでは,PEMS(Portable Emission Measurement System)を用いて,一定数の建機の実稼働中排出ガスをモニターすることが要求されている.また中国四次規制では,建機の実稼働中排出ガスを規制値の2.5倍以下に抑えることが要求される.

建設機械用機関では,StageVに適合した新たな機関が市場導入されている.

キャタピラーは,StageVに適合したC3.6(排気量3.6L)を市場導入した.前モデルのC3.4(排気量3.4L)に対してコンパクト化を図ると共に出力は大幅アップした100kW(比出力28kW/L)としている.またConExpo2020の中で,C18(排気量18L)ハイブリッドコンセプトを発表した.機関本体出力600kWに対して,ハイブリッドモータにより450kWが加わることにより高出力化が可能となるほか,燃費低減,低騒音,低排気エミッション化が実現できるとしている.

カミンズは,新たにStageVに適合したパフォーマンス・シリーズと呼ぶ排気量3.8Lから15Lまでのエンジン系列を導入した.機関系列のうち,12LまではEGRを廃止し,DPFとSCRを一体化したシングルモジュールを採用し,機関の簡素化を図っている.性能面では,従来機に対して,平均で出力10%アップ・トルク20%アップしている.

ジョンディアからは排気量13.6Lの新エンジンが市場導入された.StageV対応としてDPF+SCRを装着するほか,油圧式自動ラッシュアジャスタ採用等サービス性向上を織り込んでいる.出力については,2ステージターボチャージャ採用により最大出力510kW(比出力38kW/L)まで対応している.またConExpo2020の中で排気量18Lの新エンジンを紹介しているが,13.6Lと同様の技術を採用することにより650kW(比出力36kW/L)の高出力化を図る.2022年量産予定とのことである.

国内メーカーからは,コマツが新機関としてSAA3D95E-1(排気量2.4L)を発表している.37~56kWの出力レンジに合わせて機関を小排気量化し,燃焼改善等と合わせて従来機に対し13%の低燃費化を達成している.後処理装置は欧州StageV対応としてDPFを装着する一方,日米の第4次規制に対してはDOCのみで対応する.

c.鉄道車両用機関の技術動向

鉄道車両用機関については,ハイブリッドシステムの営業運転が開始されて以降,更なる開発の促進と共にハイブリッド車両の営業エリアが拡大している.また国鉄時代に製作した一般気動車の老朽取替用として,新型一般気動車の新製が計画されている.JR北海道,JR東日本,JR九州では,車両および機関を一新させて電気式気動車として,営業運転を開始したところである.またJR貨物でも電気式機関車の営業運転を開始した.

〔飯島 正 (株)IPA〕

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9.2.6 舶用および発電用機関

舶用ディーゼル主機関を生産している国内主要ディーゼルエンジンメーカー9社の2020年1月~12月の生産実績は693台,641万馬力であった(2019年は753台,724万馬力).前年比11%減と大きく落ち込み,2003年以来17年ぶりに700万馬力を割り込む結果となった.また,2020年末時点の手持ち工事量は9社合計で496台,665万馬力となった.2019年末の626台,806万馬力に比べて,17%減の大幅な減少となった.

2020年の新造船マーケットは,依然として船腹過剰感が解消されない状況下,環境規制に伴う船の陳腐化リスク懸念に加えて,コロナ禍の影響で商談が進まず,リーマンショック後では2016年に次ぐ低調な一年となった.

2020年1月から一般海域におけるSOx規制が強化されたが,導入前に不安視されていた規制適合油の安定供給や粗悪油の流通による機関の故障などについては,大きな問題は報告されていない.

2020年は強まる環境規制を背景に,各エンジンメーカーからは,環境対応技術を採用した機関の製造に関する発表が相次いだ.IHI原動機からは,大型のLNG燃料船向けとしては国内初となるデュアルフューエルエンジン8X52DFを搭載した自動車運搬船が竣工したとの発表があった.さらに,川崎重工業では,国内初となるLPG焚きディーゼルエンジン7S60ME-C10.5-LGIPを完成させた.ジャパンエンジンでは,低圧EGR(排気ガス再循環)技術を採用したUEC50LSH-Eco-C2-EGR及びUEC60LSE-Eco-A2-EGR,低圧SCR(選択的触媒還元)技術を採用したUEC35LSE-Eco-B2-SCRの新型機関をそれぞれ完成させた.三井E&Sマシナリーでは,同社開発の廃熱回収システムであるTurbo Hydraulic System type2(THS2)を採用した主機関の初号機を完成したとの発表があった.

2020年は,IMO(国際海事機関)の2050年目標であるGHG総排出量50%削減の実現に向けて,国内外で様々なプロジェクトが本格的に動き始めた年となった.国内の産官学公の連携による「国際海運GHGゼロエミッションプロジェクト」からは,国際海運のゼロエミッションに向けたロードマップが発表された.また,今治造船,三井E&Sマシナリーなどが共同で,次世代燃料として水素と並び注目されるアンモニアを燃料とする,アンモニア燃料船の開発を目指す取り組みなども発表された.

〔東條 温司 (株)三井E&Sマシナリー〕

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9.2.7 ガスタービン

2020年はパリ協定の本格的な運用が開始される年であり,9月に内閣総理大臣に就任した菅義偉首相は所信表明演説で石炭火力発電に対する政策を抜本的に転換し,2050年までにカーボンニュートラル,脱炭素社会の実現を目指すことを宣言した.2018年に発表された第5次エネルギー基本計画では再生可能エネルギーを主力電源とすることが掲げられたが(1),菅首相の宣言を受けてその導入がますます加速するものと予想される.

その一方で,再生可能エネルギーは基本的に不安定な電源であり,導入を進める上で起動速度や負荷変化速度に優れるガスタービン発電設備がバックアップ電源として重要な役割を担うと考えられており(2),その低環境負荷化が重要な課題となっている.三菱日立パワーシステムズ株式会社(MHPS,現 三菱パワー株式会社)は,次世代1,650℃級JAC形ガスタービンに関して新開発技術の検証と発電プラントとしての機能確認が完了し,電力網に接続された状態での長期的な信頼性の検証を開始することを発表している(3).また,水素・水素キャリアを産業用ガスタービンの燃料として利用する動きが活発化しており,MHPSは,米国ユタ州のインターマウンテン電力が計画する水素を利用したガスタービン・コンバインドサイクル(GTCC)発電プロジェクトで,840,000kW級発電設備を受注し,水素焚き大型ガスタービン技術によるM501JAC形2基を中核とするGTCC発電設備を納入することを発表している(4).このプロジェクトでは,2025年に水素混焼率(体積比による混合比率)30%で運転を開始し,2045年までに水素100%での運転を目指している.国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO),川崎重工業株式会社,株式会社大林組は,水素社会構築技術開発事業(5)において,マイクロミックス燃焼技術を活用したドライ低NOx水素専焼ガスタービンの技術実証試験に世界で初めて成功したことを共同で発表している(6).株式会社IHIは,一般財団法人日本エネルギー経済研究所とサウジアラビアン・オイル・カンパニーが進めるブルーアンモニアのサプライチェーン実証試験に協力しており,このブルーアンモニアの一部を2,000 kW級ガスタービンの燃料として利用する混焼試験を実施することを発表している(7)

航空用ガスタービンに関しては,国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構がエンジン技術の実証に利用することを目的に調布航空宇宙センターに導入したF7-10エンジンの性能確認を終え,地上運転試験設備として運用を開始したことを発表している(8).航空業界においても低炭素・脱炭素社会の実現に向けた努力がなされており,株式会社IHIは,NEDOの航空機用先進システム実用化プロジェクト(9)の委託業務「次世代エンジン電動化システム研究開発」においてテールコーン内部にエンジン軸に直結して搭載するエンジン内蔵型電動機を世界で初めて開発したと発表している(10).また,同社はNEDOと微細藻類からバイオジェット燃料を安定生産する技術の開発事業(11)を進めており,同事業で確立したバイオジェット燃料の生産技術により,国際規格「ASTM D7566 Annex7」を取得している(12)

学術分野では,ASME TURBO EXPOは当初6月にロンドンでの開催が予定されていたが,新型コロナウイルス感染症のパンデミックの影響により,9月にオンライン形式で開催された.キーノートやプレナリーセッションは低炭素化・脱炭素化に向けたものが多く,エネルギーに関する世界的な潮流を考慮した内容となっていた.日本ガスタービン学会の定期講演会もオンライン形式で開催され,こちらでも環境問題を意識したキーノートや先端技術フォーラムが実施された.

〔金子 雅直 東京電機大学〕

参考文献

(1) エネルギー基本計画,経済産業省資源エネルギー庁
https://www.enecho.meti.go.jp/category/others/basic_plan/pdf/180703.pdf(参照日2021年4月12日)

(2) 日本ガスタービン学会調査研究委員会,調査研究委員会報告 NEDOプロジェクト「再生可能エネルギー大量導入時代の系統安定化対応先進ガスタービン発電設備の研究開発」について,日本ガスタービン学会誌,Vol. 44,No. 6(2016),pp. 506-526.

(3) 高砂工場内に新GTCC実証発電設備(第二T地点)が完成 次世代1,650℃級JAC形ガスタービンの長期実証運転を開始,三菱パワー株式会社
https://power.mhi.com/jp/news/20200701.html(参照日2021年4月12日)

(4) 米国ユタ州で再生可能エネルギー由来の水素を利用したGTCC発電プロジェクト インターマウンテン電力(IPA)向けに84万kW級水素焚きJAC形設備を初受注,三菱パワー株式会社
https://www.mhps.com/jp/news/20200312.html(参照日2021年4月12日)

(5) 水素社会構築技術開発事業,国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
https://www.nedo.go.jp/activities/ZZJP_100096.html(参照日2021年4月12日)

(6) 世界初,ドライ低NOx水素専焼ガスタービンの技術実証試験に成功―水素社会の実現に向けて水素発電の性能を向上―,国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_101337.html(参照日2021年4月12日)

(7) 世界初,カーボンニュートラルな「ブルーアンモニア」を利用する混焼試験を実施 ~CO₂フリーアンモニアのバリューチェーン構築に向けて,燃料製造側と利用側をつなぐ~,株式会社 IHI
https://www.ihi.co.jp/ihi/all_news/2020/resources_energy_environment/1196925_1601.html(参照日2021年4月12日)

(8) 航空エンジン技術の実証に向けたF7-10エンジンの運用開始について,国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構,https://www.jaxa.jp/press/2020/12/20201224-1_j.html(参照日2021年4月12日)

(9) 航空機用先進システム実用化プロジェクト,国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
https://www.nedo.go.jp/activities/ZZJP_100104.html(参照日2021年4月12日)

(10) 世界初,ジェットエンジン後方に搭載可能なエンジン内蔵型電動機を開発 ~CO2削減に向け,航空機システム全体のエネルギーマネジメント最適化を目指す~,株式会社 IHI
https://www.ihi.co.jp/ihi/all_news/2019/aeroengine_space_defense/1196481_1594.html(参照日2021年4月12日)

(11) バイオジェット燃料生産技術開発事業,国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
https://www.nedo.go.jp/activities/ZZJP_100127.html(参照日2021年4月12日)

(12) 微細藻類から製造するバイオジェット燃料が国際規格ASTM認証を新規取得-民間航空機への搭載に道.航空機のCO2排出削減に貢献可能に-,株式会社 IHI
https://www.ihi.co.jp/ihi/all_news/2020/other/1196533_1611.html

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9.2.8 スターリング機関

2020年はStirling Internationalによる19th International Stirling Engine Conferenceが開催される予定であったが,日本機械学会による協賛も承認されたが,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行による影響で開催が延期された.日本機械学会主催のスターリングサイクルシンポジウムも一度は会告が出た.しかしながら集会事業の開催を避ける方針を日本機械学会が決定したことを受け,スターリングサイクルシンポジウムも2020年度の開催を見送った.

2020年に発表された英文の研究報告で多かったのは,フリーピストンスターリングエンジン(FPSE),小型の熱電供給システム(Micro Combined Heat and Power: μCHP),廃熱や再生可能エネルギを利用するエネルギー変換の設備にスターリングエンジン(SE)を含む計算,再生器(1)-(7),リニア発電機(8)-(10),Dishで太陽光を集光して利用するDishタイプのスターリングエンジンである.

フリーピストンスターリングエンジン(FPSE)を議論する文献が多い点も例年通りである.ここでは参考になるか否かの判断は避けるが,人工知能分野の手法を用いた解析の報告があった(11)-(18)

μCHPや再生可能エネルギー・廃熱利用の設備の研究報告では,何らかの実験結果を伴う報告もあった(19)-(22).空気を液化させてエネルギーを小規模に貯蔵する取り組みにおいて,空気を液化させるスターリング冷凍機をスターリングエンジンとしても利用する旨の提案をする報告もあった(23)(24)

太陽熱利用については,スターリングエンジンの研究に取り組む研究者により,Dishで集光した光でスターリングエンジンを駆動するシステムよりソーラーパネルが優れている旨を示す報告がなされた(25).一方,Dishで集光した太陽光を利用するスターリングエンジンでも,太陽光で水エジェクターを稼働させて冷却に利用することで更なるコスト低減ができるとする主張(26)やDishの汚れの影響を解析した報告(27),市販のカメラで日射量を測定する報告(28)があった.

再生器では,英文で平行平板の間を動作流体が吹き抜けるようなものが今になって発表されている(29)(30)

宇宙利用や月面のその場資源利用技術(lunar in-situ resources utilization)に関連してスターリングエンジンに着目する研究が報告された(31)-(35).

特徴のあるスターリングエンジンの2020年度の報告を以下に挙げる.市販のMM-7に摩擦発電や圧電素子を取り付けた報告(36)や,ピストンにベローズを用いたフリーピストンスターリングエンジン(37)があった.熱交換器が簡素なスターリングエンジンも,熱伝導損失の影響で結果的に加熱部と冷却部の温度差が小さくなってはいるが,ストーブ等を想定した加熱温度による実験とCFDの解析を伴って報告された(38).熱音響機関とフリーピストンスターリングエンジンを組み合わせて,加熱によって発電と冷凍を行う装置の報告があった(39).成績係数1.3~1.5だが,ロータリーディスプレーサスターリングエンジンで液体ピストンを駆動して冷凍機を駆動させた報告もあった(40)

〔加藤 義隆 大分大学〕

参考文献

(1) Chi, C.Y., Mou, J., Lin, M.Q., Hong, G.T., Chen, H.L., The CFD study of three-dimensional model of porous medium regenerator with oscillating flow, IOP Conference Series: Materials Science and Engineering, 755 (1), (2020), art. no. 012063.

(2) Bitsikas, P., Rogdakis, E., Dogkas, G., CFD study of heat transfer in Stirling engine regenerator, Thermal Science and Engineering Progress, 17, (2020) art. no. 100492.

(3) Han, L., Yang, X., Tian, R., Zhu, H., Simulation and experimental analysis of the wire mesh regenerator, ICOPE 2019 – 7th International Conference on Power Engineering, (2020), pp. 1147-1151.

(4) El Hassani, H., Boutammachte, N.-E., El Hassani, S., Optimization of low temperature differential stirling engine regenerator design, Advances in Science, Technology and Engineering Systems, 5 (2), (2020), pp. 272-279.

(5) Yu, M., Xin, F., Lai, X., Xiao, H., Liu, Z., Liu, W., Study of oscillating flows through a novel constructal bifurcation Stirling regenerator, Applied Thermal Engineering, 184, (2021), art. no. 116413.

(6) Bitsikas, P., Rogdakis, E., Dogkas, G., Numerical Study of Pressure Drop in Stirling Engine Regenerator, Journal of Energy Engineering, 146 (4), (2020), art. no. 04020028.

(7) Nwoye, C.F., Otamiri, C.H., Numerical investigation of thermo fluid performance of a regenerator relative to the matrix geometry, International Journal of Heat and Technology, 38 (1), (2020), pp. 260-268.

(8) Zhang, M., Bodrov, A., Shuttleworth, R., Iacchetti, M.F., Current-Modulation-Based On-Line Resonance Tuning Strategy for Linear Generator Drives, IEEE Transactions on Industrial Electronics, 68 (4), (2021), art. no. 9032374, pp. 2812-2822.

(9) Subramanian, J., Famouri, D.P., Mahmudzadeh, F., Bade, M., Comparison of halbach, radial and axial magnet arrangement for single phase tubular permanent magnet linear alternators, 2020 IEEE Electric Power and Energy Conference, EPEC 2020, (2020)art. no. 9320008.

(10) Chen, H., Zhao, S., Wang, H., Nie, R., A Novel Single-Phase Tubular Permanent Magnet Linear Generator, IEEE Transactions on Applied Superconductivity, 30 (4), (2020), art. no. 9018272.

(11) Ye, W., Wang, X., Liu, Y., Chen, J., Analysis and prediction of the performance of free- piston Stirling engine using response surface methodology and artificial neural network, Applied Thermal Engineering, 188, (2021), art. no. 116557.

(12) Jiang, H., Xi, Z., A. Rahman, A., Zhang, X., Prediction of output power with artificial neural network using extended datasets for Stirling engines, Applied Energy, 271, (2020), art. no. 115123.

(13) Machesa, M.G.K., Tartibu, L.K., Tekweme, F.K., Okwu, M.O., Ighravwe, D.E., Performance prediction of a stirling heat engine using artificial neural network model, 2020 International Conference on Artificial Intelligence, Big Data, Computing and Data Communication Systems, icABCD 2020 -Proceedings, (2020), art. no. 9183890.

(14) Zare, S., Tavakolpour-Saleh, A.R., Sangdani, M.H., Investigating limit cycle in a free piston Stirling engine using describing function technique and genetic algorithm, Energy Conversion and Management, 210, (2020), art. no. 112706.

(15) Zare, S., Tavakolpour-Saleh, A.R., Predicting onset conditions of a free piston Stirling engine, Applied Energy, 262, (2020), art. no. 114488.

(16) Masoumi, A.P., Tavakolpour-Saleh, A.R., Experimental assessment of damping and heat transfer coefficients in an active free piston Stirling engine using genetical gorithm, Energy, 195, (2020), art. no. 117064.

(17) Ye, W., Wang, X., Liu, Y., Application of artificial neural network for predicting the dynamic performance of a free piston Stirling engine, Energy, 194, (2020), art. no. 116912.

(18) Chen, H., Hofbauer, P., Longtin, J.P., Multi-objective optimization of a free-piston Vuilleumier heat pump using a genetic algorithm, Applied Thermal Engineering, 167, (2020), art. no. 114767.

(19) Marra, F.S., Miccio, F., Solimene, R., Chirone, R., Urciuolo, M., Miccio, M., Coupling a Stirling engine with a fluidized bed combustor for biomass, International Journal of Energy Research, 44 (15), (2020), pp. 12572-12582.

(20) González-Pino, I., Pérez-Iribarren, E., Campos-Celador, A., Terés-Zubiaga, J., Las-Heras-Casas, J., Modelling and experimental characterization of a Stirling engine-based domestic micro-CHP device, Energy Conversion and Management, 225, (2020), art. no. 113429.

(21) Menniti, D., Pinnarelli, A., Sorrentino, N., Barone, G., Brusco, G., Mercuri, M., Polizzi, G., Vizza, P., Burgio, A., Nanogrid for Home Application for Micro CHP based on Free Piston Stirling Engine, 12th AEIT International Annual Conference, AEIT 2020, (2020), art. no. 9241120.

(22) Al-Nimr, M.A., Al-Ammari, W.A., A novel hybrid and interactive solar system consists of Stirling engine ̸vacuum evaporator ̸thermoelectric cooler for electricity generation and water distillation, Renewable Energy, 153, (2020), pp. 1053-1066.

(23) Bailey, N.A., Pollman, A.G., Paulo, E.P., Energy recovery for dual-stirling liquid air energy storage prototype, American Society of Mechanical Engineers, Power Division (Publication) POWER, 2020-August, (2020), art. no. v001t10a002.

(24) Girouard, C.M., Pollman, A.G., Hernandez, A., Yield and empirical relationship for a stirling cryocooler liquid air energy storage system, American Society of Mechanical Engineers, Power Division (Publication) POWER, 2020-August, (2020), art. no. v001t10a001.

(25) Awan, A.B., Zubair, M., Memon, Z.A., Ghalleb, N., Tlili, I., Comparative analysis of dish Stirling engine and photovoltaic technologies: Energy and economic perspective, Sustainable Energy Technologies and Assessments, 44, (2021), art. no. 101028.

(26) Al-Nimr, M., Kiwan, S., Keewan, A., A novel approach to improve the performance of solar-driven Stirling engine using solar-driven ejector cooling cycle, International Journal of Energy Research, 44 (13), (2020), pp. 10333-10353.

(27) Buscemi, A., Lo Brano, V., Chiaruzzi, C., Ciulla, G., Kalogeri, C., A validated energy model of a solar dish-Stirling system considering the cleanliness of mirrors, Applied Energy, 260, (2020), art. no. 114378.

(28) Xu, J., Li, S., Ruan, Z., Cheng, X., Hou, X., Chen, S., Intensive Flux Analysis in Concentrative Solar Power Applications Using Commercial Camera, IEEE Transactions on Instrumentation and Measurement, 69 (2), (2020), art. no. 8672213, pp. 501-508.

(29) Wang, H., Bao, Y., Tang, Y., Liu, M., Zhang, B., Zhu, S., Rao, Z., Analytical solutions of heat storage and heat transfer performance of parallel-plate regenerators in Stirling cycle, International Journal of Energy Research, 45 (2), (2021), pp. 3327-3342.

(30) Yanaga, K., Li, R., Qiu, S., Robust foil regenerator flow loss and heat transfer tests under oscillating flow condition, Applied Thermal Engineering, 178, (2020), art. no. 115525.

(31) Hu, D., Li, M., Li, Q., A solar thermal storage power generation system based on lunar in-situ resources utilization: modeling and analysis, Energy, 223, (2021), art. no. 120083.

(32) Smirnov, S.V., Sinkevich, M.V., Antipov, Y.A., Khalife, H.S., A calculation method of a heat rejection system in a lunar power plant consisting of a free-piston Stirling engine (FPSE), Acta Astronautica, 180, (2021), pp. 46-57.

(33) Dai, Z., Wang, C., Zhang, D., Tian, W., Qiu, S., Su, G.H., Design and analysis of a free-piston stirling engine for space nuclear power reactor, Nuclear Engineering and Technology, 53 (2), (2021), pp. 637-646.

(34) Li, J., Zhou, Q., Mou, J., Zhai, R., Lin, B., Xia, Y., Neutronic design study of an integrated space nuclear reactor with Stirling engine, Annals of Nuclear Energy, 142, (2020), art. no. 107382.

(35) Fleith, P., Cowley, A., Canals Pou, A., Valle Lozano, A., Frank, R., López Córdoba, P., González-Cinca, R., In-situ approach for thermal energy storage and thermoelectricity generation on the Moon: Modelling and simulation, Planetary and Space Science, 181, (2020), art. no. 104789.

(36) Zeeshan, Panigrahi, B.K., Ahmed, R., Mehmood, M.U., Park, J.C., Kim, Y., Chun, W., Operation of a low-temperature differential heat engine for power generation via hybrid nanogenerators, Applied Energy, 285, (2021), art. no. 116385.

(37) Rashad, M.I., Nada, S.A., Experimental and theoretical investigation on a proposed free piston Stirling engine with expansion bellow, Applied Thermal Engineering, 182, (2021), art. no. 116071.

(38) Huang, H.-D., Chen, W.-L., Development of a compact simple unpressurized Watt-level low-temperature-differential Stirling engine, International Journal of Energy Research, 44 (14), (2020), pp. 12029-12044.

(39) Sun, Y., Luo, K., Hu, J., Luo, E., Wu, Z., Zhang, L., Yu, G., Jia, Z., Zhou, Y., A combined cooling and power cogeneration system by coupling duplex free-piston stirling cycles and a linear alternator[Système de cogénération de refroidissement et d’électricité combinés par couplage de cycles Stirling à piston libre en duplexet d’un alternateur linéaire] International Journal of Refrigeration, 118, (2020), pp. 146-149.

(40) Lin, C.-S., Liu, J.-K., Chiang, H.-T.A, U-shaped oscillatory liquid piston compression air conditioner driven by rotary displacer stirling engine, Energies, 13 (15), (2020), art. no. 4091.

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9.2.9 燃料電池

2020年10月菅義偉内閣総理大臣が所信表明演説において2050年までのカーボンニュートラル実現を目指すことを宣言し,脱炭素社会実現に向けた動きが加速している.太陽光発電や風力発電で得られたエネルギーを貯蔵,輸送できる水素はカーボンニュートラル実現に向けた重要なエネルギーと考えられ,水素を高効率に利用できる燃料電池は次世代自動車などの移動体用電源として期待されている.我が国では水素基本戦略(1)や水素・燃料電池戦略ロードマップ(2)に基づいて燃料電池自動車や燃料電池バス,燃料電池フォークリフトなど水素利用システムの普及に向けた活動が各方面で進められている.経済産業省では,水素基本戦略や水素・燃料電池戦略ロードマップに基づいて,水素ステーションの整備を進めており,2018年には世界に先駆けて100か所を超える商用水素ステーションを国内に整備した. 2025年までに320か所,2030年までに900か所整備することを目標に掲げており,今後,更なるインフラの整備が期待される.

燃料電池を用いた自動車の開発は古くから行われており,2014年12月にトヨタ自動車は燃料電池を搭載した乗用車MIRAIの一般販売を開始した.また,2020年には燃料電池システムの性能を向上させた新型MIRAIを発表した.MIRAが搭載する燃料電池は固体高分子形燃料電池であり,330個のセルを直列に接続することで,最高128kWの出力が出せ,3本の高圧タンクに70MPaの水素を充填することで約750kmの走行が可能である.燃料電池自動車の国内保有台数は2019年度末時点で3600台(3)を超えており,徐々に日本市場へ浸透している.2020年にはメルセデス・ベンツや現代自動車も燃料電池自動車を発表しており,国内外で燃料電池自動車の開発が進んでいる.

近年では高負荷な用途への燃料電池の適用も進められている.トヨタ自動車は2017年から燃料電池バスの市場投入を開始しており,東京都は2017年3月に乗車定員77名の燃料電池バスを導入し路線バスでの営業運行を開始した.2018年3月には量販型燃料電池バスSORAを新たに導入している.2019年3月には京急急行バスもSORAを導入しており,燃料電池バスの導入が進んでいる.量販型燃料電池バスSORAは国内で初めて型式認証を取得した燃料電池バスであり,車両サイズは10,525×2,490×3,350mm,定員は79名である.車両のルーフ部分に70MPa高圧水素タンクを10本(タンク内容積: 600L),114kWの固体高分子形燃料電池スタックを2つ搭載しており,ニッケル水素バッテリーと組み合わせて最大出力113kW,最大トルク335N・mの交流同期モーターを2基駆動できる.この燃料電池バスは外部給電システムを搭載しており,災害時などに最高出力9kW,電力量235kWhの供給が可能である.大型トラックへの適用も進められており,2020年にトヨタ自動車はMIRAIに搭載さている燃料電池システムを採用した大型商用トラックのプロトタイプを公開した.また,トヨタ自動車,日野自動車,ヤマト運輸,NEXT Logistics Japan,西濃運輸,アサヒグループホールディングスは共同で燃料電池大型トラックの走行実証を2022年から開始すると発表しており,早期実用化に向けた取り組みが加速している.鉄道への導入も進められており,JR東日本,日立製作所,トヨタ自動車は2020年10月に燃料電池ハイブリッドシステムで駆動する鉄道車両HYBARIを開発し,営業路線で走行実証を開始すると発表した.燃料電池ハイブリッドシステムは燃料電池と蓄電池の両方から主電動機および補助電源装置にエネルギーを供給するシステムである.蓄電池には回生ブレーキから電力が供給され,主電動機等の負荷電力が小さい時には燃料電池からも電力が供給される.開発される車両は2両1編成であり,60kWの固体高分子形燃料電池が4つ,120kWhのリチウムイオン電池が2つ搭載される.70MPa高圧水素タンクを搭載し,最高速度100km/h,航続距離140kmを目標としている.2022年度には鶴見線,南武線尻手支線,南武線(尻手~武蔵中原)での実証試験が計画されている.欧州ではシーメンス・モビリティーとドイツ鉄道が燃料電池とリチウムイオン電池を搭載した2両編成車両の試験走行を計画しており,海外においても鉄道での燃料電池の利用が進んでいる.

フォークリフトも燃料電池の活用が期待される分野であり,豊田自動織機が2016年に2.5トン積燃料電池フォークリフトの販売を開始した.2019年にはラインナップを拡充し1.8トン積燃料電池フォークリフトを市場に投入した.燃料電池フォークリフトは燃料電池自動車や燃料電池バスと同じく固体高分子形燃料電池が搭載されている.水素の充填圧力は35MPaであり,8時間の稼働が可能である.燃料電池フォークリフトにおける水素の充填時間は3分と短く,充電時間が約8時間と長い従来の鉛バッテリーフォークリフトに比べ作業効率が向上する利点があり,今後の普及が期待される.海外では,物流倉庫への大量導入の動きもある.

燃料電池は様々な製品に適用され始めているが,更なる普及のためには燃料電池システムのコスト低減が不可欠である.2019年3月に策定された水素・燃料電池戦略ロードマップでは2030年までに燃料電池自動車80万台,燃料電池バス1200台,フォークリフト1万台という普及目標が設定されており,これら目標の実現には燃料電池自動車とハイブリッド電気自動車の価格差縮小,燃料電池バスの車両価格低減,燃料電池スタックや水素貯蔵システムのコスト低減などの必要性が示されている.燃料電池システムの低コスト化を実現するために,今後,貴金属の使用量低減や水素貯蔵システムにおける炭素繊維の使用量低減など様々な技術開発が求められる.

〔境田 悟志 茨城大学〕

参考文献

(1) 水素基本戦略,経済産業省
https://www.meti.go.jp/press/2017/12/20171226002/20171226002-1.pdf (参照日2020年4月1日)

(2) 水素・燃料電池戦略ロードマップ,経済産業省
https://www.meti.go.jp/press/2018/03/20190312001/20190312001-1.pdf (参照日2021年4月12日)

(3) EV等 保有台数統計,一般社団法人 次世代自動車振興センター
http://www.cev-pc.or.jp/tokei/hanbai.html (参照日2021年4月12日)

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