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機械工学年鑑2021

6. 機械材料・材料加工

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章内目次

6.1 機械材料
 6.1.1 鉄鋼材料
  a.生産/b.新設備/c.研究/d.新技術・製品
 6.1.2 非鉄金属材料
  a.アルミニウム/b.マグネシウム/c.銅/d.チタン
 6.1.3 無機材料
  a.生産/b.研究
 6.1.4 高分子・複合材料
  a.高分子材料/b.FRP生産/c.複合材料研究
6.2 材料加工
 6.2.1 鋳造6.2.2 塑性加工6.2.3 プラスチック加工6.2.4 溶接,接合6.2.5 粉末加工6.2.6 特殊加工

 


6.1 機械材料

6.1.1 鉄鋼材料
a.生産

日本鉄鋼連盟によれば,日本経済は,新型コロナウイルス感染症の影響で厳しい状況にあるが,一部に持ち直しの動きもみられる.個人消費は感染症再拡大の影響により弱含んでおり,小売業販売額や全世帯消費支出がともに前年割れとなっている.一方,機械受注は,短観でも生産用機械や汎用機械の足元の業況が改善していることに加え,先行きも改善が見込まれている.

鉄鋼業界の動向としては,原料高・製品安の構造継続のもと,国内各社の経営状況は厳しいものとなっている.国内高炉は,2020年4月の日本製鉄(株)と日鉄日新製鋼(株)の合併により,日本製鉄,JFEスチール(株),(株)神戸製鋼所の3社体制となった.日本製鉄が呉製鉄所の全設備休止,JFEスチール京浜製鉄所の上工程休止など,約900万トンの粗鋼生産能力が削減された.

世界の粗鋼生産量は2019年の18億8013万tonから18億6398万tonと大きな変化なかった.その中で,中国の粗鋼生産量は10億5300万トン(5.2%増)に達し,過去最高を更新した.中国鉄鋼業は,依然として過剰生産能力を抱えたままであり,世界鉄鋼業界の利益逓減リスクは軽減されていない.全世界生産量の50%を占めている.インド経済は高成長率での景気拡大が続いているものの,インドの粗鋼生産量は1億1125万tonから微減し9967万トンとなった.2020年に続き我が国を超え,世界第2位の生産である.日本は第3位となった.以下,ロシア(7340万ton),アメリカ(7268万ton),韓国(6712万ton)と続く.

国内の2020年の粗鋼生産量は8,319万トン(対前年-16.2%)となり,リーマンショック後の8,753万トン(2009年)を下回る大幅減となった.また,1971年度(8,844.1万トン)以来の9,000万トン割れとなった.日本鉄鋼協会によれば,これは2020年来の米中貿易摩擦を背景とした世界経済の成長鈍化とコロナ禍の影響で自動車向けを中心とした材需要が減少したことが原因である.

b.新設備

鉄鋼需要の急激な減少に対応するため,2020年末時点の稼働高炉数は20基で,2019年末と比較して稼働高炉数は5基減少した.一方,JFEチールは,西日本製鉄所(福山地区)に建設していた中規模フェロコークス製造設備(製造量300トン/日)を完成させ,10月より実証試験を開始した.また,神戸製鋼所は「AIによる高熱予測システム」を開発し,8 月より加古川製鉄所第2高にて運用を開始した.

c.研究

2020年度も2019年度に引き続き,環境・エネルギー, プロセス, 材料分野で公的資金による研究が多く行われている.環境調和製鉄プロセス技術開発(COURSE50)は,CO2排出の抑制とCO2の分離・回収により,CO2排出量を約30%削減する技術を開発に向けて,2018年6月より実用化開発第1段階(フェーズⅡstep1)に着手し,2020年度も研究継続中である(www.jist.or.jp/course50).また,ゼロカーボンスチール」の実現に向けた技術 開発( 2020~2021年度,委託先:NEDO)が新たに開始された.

材料関係では2013年度からスタートした革新的構造材料技術開発ISMA(2013-2022)も8年目になり,1500MPa-20%や異種材料の接合など,開発した材料を実用化するための設計技術やマルチマテリアル化技術の開発に注力している(http://isma.jp/about/).

さらに,内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム,SIPプロジェクト二期が2019年度にスタートし,2年目となった.統合型材料開発システムによるマテリアル革命である.第二期は3次元造形と統合型材料開発システムの開発に力点を置き,我が国で開発してきたマテリアルズインテグレーション(MI)の技術基盤を生かし,欲しい性能から材料・プロセスをデザインする逆問題MIに対応した統合型材料開発システムを世界に先駆けて開発を目指している(https://www8.cao.go.jp/cstp/stmain.html).

そのほか,「超高圧水素インフラ本格普及技術研究開発事業」(2018~2022年度,「超先端材料超高速開発基盤技術プロジェクト」 (2016~2021年度)の研究,「ミルフィーユ構造の材料科学-新強化原理に基づく 次世代構造材料の創製」(2018~2022年度)もおこなわれている.新たに開始されたプロジェクトとしては,「ゼロカーボンスチールの実現に向けた技術 開発」( 2020~2021年度,委託先:NEDO)がある.

d.新技術・製品

JFEスチールは,冷間プレス用1.5GPa級高張力冷延板を開発,自動車の車体骨格部品に初採用された.1.5GPa級は,従来はホットスタンピングによる製造にかぎられ,冷延板は1.3GPa級であった.西日本製鉄所(福山地区)にある独自のWQ方式連続焼鈍プロセスの高い冷却能力を活用して,合金の添加と鋼板の微視組織の不均一性を極限まで低減により実現した.

また,JFEスチールはCVD(化学気相蒸着)連続浸珪プロセス技術を用い,高周波鉄損の低減と磁束密度の向上を両立した高速モータ用Si傾斜磁性材料『JNRF™』を新たに開発した.これにより,モータの高トルク化と大幅な高効率化(省エネ)を両立することが可能となった.

日本製鉄と日鉄ステンレス鋼管株式会社が製造・販売する高圧水素用ステンレス鋼「HRX19®」が,東京ガス株式会社(以下,東京ガス)と日本水素ステーションネットワーク合同会社が共同で建設し,本日1月16日に開所した「豊洲水素ステーション」に採用された.本は,高強度オーステナイトステンレス鋼で,高圧水素環境下においても 水素脆化を起こさないことから,水素ステーションの長寿命化・安全性向上を実現した.

2020年に引き続き,構造材料関係の2つの大型国家プロジェクト,ISMA,SIPが並行して行われ,鉄鋼材料にとっては,大変よい環境がつづいている.超高圧水素インフラ本格普及技術研究開発事業も2020年に始まり,さらに,「ゼロカーボンスチール」の実現に向けた技術開発」も始まった.鉄鋼関連のプロジェクトは,上記以外にも6つある.鉄鋼業界のカーボンニュートラルという大きな目標に向かって,産官学連携して革新構造材料や鉄鋼プロセス技術の研究開発に取り組む好機がつづくが,責任も大きい.体制・拠点を確固たるものにして,永続的な発展を期待したい.

〔鳥塚 史郎 兵庫県立大学〕

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6.1.2 非鉄金属材料
a.アルミニウム

日本アルミニウム協会によると,2020年の箔を除くアルミニウム圧延品の生産量は1,718,607トンで2019年比9.8%のマイナスとなり,2年連続で200万トンを下回った.板材の生産量は1,054,499 トンで2019年比8.3%のマイナス,押出材の生産量は664,108トンで2019年比12.1%のマイナスであった.板材のマイナスは,新型コロナウイルス感染症の影響で自動車の生産が一時的に落ち込んだことによる自動車用の減少によるところが大きい.また,板材の約3分の1を占め,最大用途である缶材もコロナの影響による外出自粛でコンビニ,自販機での販売が縮小し,2019年比マイナスとなった.押出材のマイナスは,住宅着工戸数の減少に加え,コロナの影響で建設工事が停滞したことによる建設用の減少によるところが大きい.また,板材同様にコロナの影響で自動車の生産が一時的に落ち込んだことにより,自動車用もマイナスとなった.ダイカストの生産量は822,922トンで2019年比17.7%のマイナス,鋳物は343,706 トンで2019年比21.4%のマイナスであった.ダイカストは自動車用が736,289トンと2019年比17.8%のマイナスとなった.鋳物は自動車用が319,754トンと2019年比22.2%のマイナスとなった.鍛造品は39,913 トンで2019年比6.9%のマイナスで,その内自動車用が28,743トンで2019年比8.2%のマイナスとなった.電線は33,300トンで2019年比10.0%の増加であった.

b.マグネシウム

日本マグネシウム協会によると,2020年の国内マグネシウム需要量は,構造材向けのマグネシウム合金需要量が2019年比12.3%減の6,660トン,添加材向けの純マグネシウム需要量が同15.1%減の22,370トン,防食その他向けが同8.1%増の1,000トン,輸出が同54.7%減の102トンとなり,全体では30,132トンで同14.1%減となった.コロナの影響を受け,特に我が国において緊急事態宣言が発出された4月以降に生産量が大きく減少した.秋頃からは回復基調となっているが,いずれの分野も前年からは1-2割程度の減少での推移となった.マグネシウム合金を使用する構造材向けの需要の内訳は,ダイカスト部門が2019年比7.8%減の4,700トン,鋳物部門が同47.4%減の100トン,射出成形部門が同20.0%減の960トン,展伸材部門が同12.5%減の700トン,その他合金が同33.3%減の200トンとなった.純マグネシウムを使用する添加材向けの需要の内訳は,アルミ合金添加部門が2019年比14.7%減の14,500トン,鉄鋼脱硫部門が同27.5%減の3,000トン,ノジュラー鋳鉄部門が同6.7%減の2,520トン,チタン製錬部門が同1.0%減の1,000トン,化学・触媒部門が同10.0%減の1,350トンとなった.防食その他は,2019年比8.1%増の1,000トンと,全項目で唯一増加での推移となった.数量のうち約100トンが防食向けの需要で,これはほぼ横ばいでの推移となり,その他の特殊な用途の需要量が増加することとなった.地金の輸出は財務省貿易統計の数値によるもので,純マグネシウム地金が約2トン,マグネシウム合金地金が約100トンなり,2019年比54.7%減となった.構造材向けの需要は,2020年後半から回復基調となっており,合計は2020比12.6%増の7,500トンになるものとの予測である.添加材向けの需要も,2020年後半から回復基調となっており,合計では24,400トン,2020年比9.1%増との予測である.防食その他,輸出はほぼ横ばいで推移するものとの予測である.2021年の国内マグネシウム総需要量は,2019年の水準までとはいかないものの,2020年からは回復し,33,000トン,前年比9.5%増になるものとの予測である.

c.銅

日本伸銅協会の速報によると,2020年の伸銅品生産量(速報)は前年比14.4%減の64万3958トンだった.コロナの感染拡大が響き,年前半に製造業の需要が落ち込んだ.年後半に自動車向けがけん引し回復に向かったが補えず,1975年以来の低水準となった.2020年は3年連続で前年実績を下回った.2021年度の伸銅品の需要は73万8300トンと20年度に比べ13.4%増える見通しである.自動車の電装化や在宅勤務の増加などで銅板条の需要好調が続き,19年度の73万7396トンを上回り,コロナの感染拡大前の水準に戻るとの予想である.一方で,ロンドン金属取引所(LME)銅相場は,2011年以来となるトン9000ドル台に達しており過熱感が出ている.

d.チタン

日本チタン協会の金属チタン統計によると,2020年1~6月のチタン展伸材の出荷量は前年同期比5.5%減の7991トンだった.国内・海外向けともに前年を割った.用途別では,国内は航空機や電解,プレート熱交換器向けが減少したが,自動車や販売業者向けは前年を上回った.海外は航空機,自動車向けが減った一方,電力やプレート熱交換器向けが増加した.インゴット生産量は43.8%減の7850トンと大幅に減少した.一方で,チタン材料価格が高止まりしている.17年後半頃からチタン鉱石の国際市況が上昇し,高止まり基調からの脱却が見通せない状況である.

〔西田 進一 群馬大学〕

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6.1.3 無機材料
a.生産

(一社)日本ファインセラミックス協会(JFCA)が毎年実施している産業動向調査(1)によれば,ファインセラミックス部材の生産総額は2017年に3兆円弱,2018年に3.2兆円となり,2019年はわずかに3.1兆円への減少する見込みである.長期的な展望を見ると,1990年代と比べても生産額は倍増加しており,2018 年,2019年と,引き続き過去最高生産額が3兆円超えに達する見通しと順調に成長していたが,2020年は2.8兆円とCOVID-19の影響が現れる結果となった.内訳を見ると,全生産額の7割を占めている「電磁気・光学用」部材がもっと多く,ついで,「機械的」部材と「熱的・半導体関連」部材がそれぞれ全生産額の1割,さらに「化学,生体・生物・他」部材が全生産額の1割弱となっている.「汎用及びその他」は,全生産額の0.1%とわずかである.基本的にはここ数年大きな変化はないが,その中では,「電磁気・光学用」部材と「熱的・半導体関連」部材は堅調であった.この要因は,スマートフォンに代表される情報通信機器の需要と自動車の電装化・電子化が挙げられている.この傾向は,今後のデジタルトランスフォーメーション(DX)や,電気自動車の普及に伴い,さらに進むものと考えられる.

b.研究

2020年9月に開催された日本機械学会年次大会は,COVD-19の感染対策からweb開催となった.当該大会において,「セラミックスおよびセラミックス複合材料」が企画運営され,10件の講演発表があった.その他のセッションでの関連講演を含めると15件程度の発表があった.また,2020年11月にはM&P2020がオンライン開催され,「セラミックス」や「スマート材料」のセッションで11件の講演があった.講演内容としては,一般的な構造用セラミックスの他,セラミックス複合材料(CMCs),機能性セラミックス,金属との接合,評価技術など,多岐にわたっていた.

近年,SiC系CMCsの航空機エンジンの応用をGEが進めたことを皮切りに,日本でも国家プロジェクトが立ち上げられている.また,この材料を軽水の燃料管に応用しようという動きもある.CMCs以外に,自己治癒セラミックスが徐々に注目されており,研究グループが増加している.この他,三元系層状構造炭化物/窒化物であるMAX相セラミックスが注目されている.この材料は,機械的強度や破壊靱性値が比較的高い上,超硬合金による切削加工が可能であるという特徴を有する.Cr2AlCやTi2AlC,Ti3SiC2など,化学組成によっては,優れた高温耐酸化性や自己治癒機能を有している.しばしば,大きな国際会議ではMAX相セラミックスのセッションが企画されている.さらに,高エントロピー合金と同様のコンセプトで高エントロピーセラミックスも登場し,研究成果が報告されるようになってきた.セラミックスのプロセスとしては,構造用セラミックスの3Dプリンティングも注目されており,金属同様,今後の進展が期待される.また,通電による瞬間的な発熱による超高速焼結を実現するフラッシュ焼結が注目を浴び,国内外での発表は多数見られるようになっている.現在は,基礎研究といったところだが,パルス通電焼結との組み合わせなど,今後の進展に注目したい.

〔南口 誠 長岡技術科学大学〕

参考文献

(1)(一社)日本ファインセラミックス協会, 2020年日本ファインセラミックス産業動向調査.

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6.1.4 高分子・複合材料
a.高分子材料(1)

2020年における我が国のプラスチック原材料の生産実績は前年比8.3%減の963万tである.1.6%減の2019年からさらに減少した.熱硬化性樹脂全体の生産量は82.0万t(11.0%減)である.主な内訳は,フェノール樹脂(25.8万t(10.5%減)),ユリア樹脂(4.9万t(14.5%減)),メラミン樹脂(6.4万t(15.8%減)),不飽和ポリエステル樹脂(10.8万t(9.4%減)),エポキシ樹脂(10.8万t(6..8%減)である.一方,熱可塑性樹脂全体の生産量は862万tで2019年比8.3%減となった.主な内容は,ポリエチレン(225万t(8.2%減)),ポリスチレン(72.4万t(5.8%減)),AS樹脂(5.8万t(12.7%減)),ABS樹脂(27.9万t(17.5%減)),ポリプロピレン(247万t(7.9%増)),メタクリル樹脂(12.9万t(9.5%減)),ポリビニルアルコール(17.8万t(14.4%減)),塩化ビニル樹脂(163万t(6.1%減)),ポリカーボネート(27.0万t(9.4%減)),ポリエチレンテレフタレート(34.2万t(6.2%減)),ポリブチレンテレフタレート(9.3万t(18.4%減))などとなっている.

b.FRP生産(2)

2012年に見直しを受けた用途別FRP出荷数量統計について2019年分について示すと(カッコ内は前年比%),合計226千t(3.2%減)となった.その内訳は,建設資材30.6千t(5.7%減),住宅機器69.0千t(1.1%減),浄化槽26.1千t(6.5%減),舟艇/船舶6.9千t(0.9%増),自動車/車両19.8千t(2.9%減),タンク/容器17.2千t(6.4%減),工業機材20.0千t(8.6%減)などとなっている.

c.複合材料研究

国内で開催された複合材料に関わる行事として,新型コロナウイルス感染症の影響により中止またはオンライン開催となった.国内で代表的な複合材料研究に関する学会は日本複合材料会議が挙げられる.この会議は「日本を代表する複合材料に関する会議」の設立を目的に2010年京都で第1回が行われ,第2回(2011年東京にて開催予定であった)が震災で講演中止となったものの,その後毎年東京と京都で交互に行われているものである.2020年3月に予定されていた第11回会議は残念ながら新型コロナウイルスの感染拡大の影響で中止となったが,2021年3月には第12回日本複合材料会議(JCCM-12,日本複合材料学会,日本材料学会主催)がオンラインで開催された.構造の軽量化要求への一つの回答として複合材料実用化への期待から,企業からの参加者数が引き続き増加傾向にある.材料および構造の複合化のみにとどまらず,機能化・知能化等にも関連する幅広い分野からの講演が行われた.今回はCFRP水素容器開発についてのセッションが立ち上げられた.また,歴史ある国内会議として,2020年9月に第45回複合材料シンポジウム(日本複合材料学会主催,オンライン)が開催された.また,日本機械学会2020年度年次大会(9月,オンライン)では,機械材料・材料加工部門と材料力学部門により合同セッション「先進複合材料のプロセスと力学的特性評価」が企画された.さらに,日本機械学会機械材料・材料加工部門主催の第28回機械材料・材料加工部門技術講演会(M&P2020)(11月,オンライン)においては「高分子材料」のセッションが組まれ,成形から評価まで幅広い研究成果が発表された.一方,新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて,いくつかの行事が中止または延期となった.2020年10月に開催が予定されていた第65回FRP総合講演会・展示会(FRP CON-EX)(強化プラスチック協会主催)が残念ながら中止となった.複合材料関係の会議としては最大の国際会議である国際複合材会議(第23回国際複合材料会議(ICCM-23))が,2021年に北アイルランド,ベルファストで開催される予定であったが,2023年7月に延期されることが発表された.コロナ禍にも関わらず,運営委員の方々のご尽力によって国内外の講演会などはオンラインで開催され,学会,産業界が中心となり特徴ある情報発信が続けられている.一方,学会等の講演会では対面での情報交換や交流も重要であり,一日も早くコロナ禍が収束して日常が戻ってくることを願う.

〔細井 厚志 早稲田大学〕

参考文献

(1)日本プラスチック工業連盟ホームページ,http://www.jpif.gr.jp

(2)強化プラスチック協会ホームページ,http://www.jrps.or.jp

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6.2 材料加工

6.2.1 鋳造

生産量において,2020年における鋳鉄銑鉄鋳物鋳鉄管と可鍛鋳鉄),鋳鋼品,非鉄鋳造品(銅合金,アルミニウムとダイカスト)および精密>品を合計した鋳物の総生産量は440万tであり,総生産量529万tの 2019年度に比較して83%と大幅な減産となった.これは2019年末から新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行により,国内はもとより全世界での経済活動が鈍化したためである.銑鉄鋳物(調査対象事業所30人以上)は276万t(前年度比83%)と減少した.用途別では,自動車を含む輸送機械用が191万t(前年度比83%),産業機械器具用,金属工作・加工機械用を含む一般・電気機械用は71万t(前年度比82%)であった.鋳鉄管は23万tと前年度とほぼ同じ生産量であった.可鍛鋳鉄調査対象事業所30人以上)は2.9万t(前年度比76%)と前年度より大幅減となった.鋳鋼品(調査対象全事業所)は船舶,土建鉱山機械,鋳鋼管,破砕機・摩砕機・選別機などを中心に合計12.2万t(前年度比80%)と減少した.非鉄鋳物では,銅合金鋳物(調査対象事業所10人以上)が1.6万tで前年から2.5千t減少した,アルミニウム鋳物(調査対象事業所20人以上)は34.4万t(前年度比79%)で輸送機械部品用鋳物の生産量低下が大きく影響していた.ダイカスト(調査対象事業所30人以上)は84万t(前年度比82%)と精密鋳造品(調査対象事業所30人以上)は4,436 t(前年度比106%)で微増した.2020年の鋳物の総生産金額は, 1兆6721億円となり前年比-15%の大幅な減収となった.個別の生産額は,銑鉄鋳物は6,000億円(前年度比84%),鋳鉄管739億円(前年度比110%),可鍛鋳鉄は119億円(前年度比78%),鋳鋼は1,073億円(前年度比81%),銅合金は726億円(前年度比82%),アルミニウム鋳物は2,356億円(前年度比79%),ダイカストは5,253億円(前年度比84%)であった(1)(公社)日本鋳造工学会の活動では,156回(名古屋市)および157回(室蘭市)全国講演大会が中止となった.157回大会では初の取り組みとしてリモート講演会が行われた.また,鋳造関連の世界鋳物会議74th-WFC(釜山市),11th-SPCI(室蘭市)の開催も1年後に延期された. 鋳造分野で注目されている技術として, IT/IoT技術とAIの活用による生産現場の省人化・業務支援や品質改善が進められている.学会誌では特集が組まれ,ニューラルネットワークやIoTの活用事例が多数紹介されている(2).また,2011年から2020年の10年間における18分野の鋳造技術(鋳鉄鋳造鋳鋼鋳造アルミニウム合金鋳物アルミニウム合金ダイカスト,>マグネシウム合金ダイカスト,銅合金鋳物生型造形,特殊鋳型造形,精密鋳造鋳造設備,ダイカスト金型,鋳造複合化,環境対応,鋳鉄鋳物の評価,アルミニウム合金ダイカスト評価,凝固シミュレーション,金属積層造形)がレビューされ,従来の鋳造技術のほかに金型,積層造形(3D造形),IoTの3分野が追加された(3)

〔長船 康裕 室蘭工業大学〕

参考文献

(1)素形材工業生産実績, 素形材,Vol.62, No.3 (2021)83-85.

(2)鋳造工学,vol.92,No.8(2020)396-456.

(3)鋳造工学,vol.92,No.12(2020)628-713.

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6.2.2 塑性加工

自動車の電動化を背景に,今後求められる塑性加工技術について,特に産業界から高い関心が寄せられた.学協会を中心に各種シンポジウムやセミナーで特集され,ターゲットとなる部品,加工技術や加工特性に対する研究・技術開発の課題が議論された.一方,2019年に引き続き,塑性加工プロセス中の各種加工情報のセンシング技術やデータサイエンスを援用した研究・技術開発も精力的に取り組まれた.収集した加工情報データと加工現象の関係に関するデータ分析,人工知能(AI)・機械学習による加工条件の適正化や塑性変形に関する材料物性の同定が講演会や学術論文にて報告された.

圧延分野では,材を対象としたものでは熱間圧延および調質圧延に関する研究報告が多く,酸化皮膜,トライボロジー現象を対象としたものが中心であった.また長年培われてきた圧延の操業データを背景にシェアードコントロールに関する取り組みについても報告された.一方,アルミニウム合金等の非鉄金属を対象としたものでは,2019年に引き続き,表面性状や材質(組織)変化に主眼が置かれた研究報告が多数なされた.押出し分野では,軽金属の熱間押出しを対象に材質(組織)変化,押出し後の機械的特性に主眼が置かれたものが研究報告の中心であり,他にはアルミニウム合金を基材とした複合材料の創製が報告された.

鍛造分野では,国内外問わず,部材の軽量化を基軸に,加工法,材料の観点から研究報告が多数なされた.ただし,部材の軽量化の有効な加工法の一つである板鍛造については,実部品の製造に直結する観点から2019年と同様に研究報告は少なかった.一方,加工荷重の低減を基軸に,工程設計,加工法の観点から研究報告がなされた.また有限要素シミュレーションの高精度化を主眼に,入力パラメータである材料物性や境界条件パラメータの高精度な測定・同定が取り組まれた.

板材成形分野では,国内外問わず,主に高張力鋼ステンレス鋼チタン合金CFRPの難成形材料を対象に,材料特性,材料モデリング,加工法の観点から多数の研究報告がなされた.特に変形特性(主に成形限界と異方性)の測定と有限要素シミュレーションのための材料モデリングに関する研究報告が活発であり,機械学習を援用した取り組みも報告された.また結晶塑性有限要素シミュレーションによる成形解析もいくつか報告された.一方,加工法については,2019年と同様に,ホットスタンピング,インクリメンタル加工やサーボプレスを活用した加工法の研究報告が中心であった.

塑性接合分野では,マルチマテリアル構造をターゲットに,異種金属,金属とCFRPや樹脂の接合を対象とした研究が国内外問わずに精力的に報告された.摩擦攪拌現象を利用した接合,ショットピーニング鍛造との組み合わせによる接合,メカニカルクリンチング等,多岐の接合法が報告された.また接合された部材の腐食特性に関する報告も多数みられた.

第28回機械材料・材料加工技術講演会(M&P2020)では鍛造プレス接合に関するセッションが設けられた.また第71回塑性加工連合講演会(1)では鍛造金型,3D積層造形,結晶塑性シミュレーション,遅れ破壊,チューブフォーミング,半溶融・半凝固加工塑性加工シミュレーションに資する材料・境界条件のモデリング技術に関するテーマセッションが設けられた.なお2020年度塑性加工春季講演会は新型コロナウイルス感染症拡大防止の観点から開催が中止された(2).そのほか国内外で開催予定であった国際会議はオンライン開催あるいは延期・中止となった.

〔松本 良 大阪大学〕

参考文献

(1) 吉原正一郎, 陳中春, 第71回塑性加工連合講演会WEB講演会実施報告, ぷらすとす, Vol.4, No.39 (2021), pp.184-186.

(2) 米山猛, 2020年度塑性加工春季講演会の中止にあたって, ぷらすとす, Vol.3, No.29 (2020), p.295.

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6.2.3 プラスチック加工

高品質なプラスチック成形品を効率よく生産するためには,射出成形機本体のみならず周辺機器も含めた総合的な品質管理や生産管理が求められている.この背景を受けてデジタル技術を通じた知識集約型の経済社会構造(Society5.0)へ転換するべく制御装置のデジタル化が推進され,インダストリ−4.0と呼ばれるモノづくりの手法が広く採用されるに至り,射出成形分野においても成形・生産上の群管理に加えて,稼働状況の管理,アフターサービスの事前予知などの手法が提案されている.成形機は精密制御とともに成形工程の複合化が進み,ニアネットシェイプ成形による高品質成形品の開発が加速している.

プラスチックの高付加価値化への押出・ブロー技術の貢献は大きく,多くの技術報告が行われている.多様なコンポジットの検討が報告される中,押出機には,高混練,高精度,省エネルギー化が求められており,多軸化,高トルク対応,高速回転,スクリュ深溝化が進む.また,CAE(Computer Aided Engineering)支援によるスクリュの混合性能評価やポリマーアロイ製造プロセス予測の報告なども見られ,高機能化とプロセス合理化の両立に応えている.また,持続可能な素材として注目される天然セルロースによるプラスチック強化技術においては,セルロースをナノレベルに解繊するプロセスが肝要であり,多軸混練押出機が重要な役割を果たしている.

ブロー成形は,中空形状を活かしたダクト,ホース,タンクなどの自動車部材に適用される.この分野では,近年液体ブロー成形法が開発され,プラスチックのみならず金属ガラスへの適用が世界的に検討されている.インフレーション成形においては空気圧アクチュエータを採用したフィルム膜厚の均一化やサーボポンプ採用や電動化などによるポリエチレンテレフタレート(PET)ボトルの延伸ブロー成形の省エネルギー,ハイサイクル,低コスト化とプロセスの洗練が進んでいる.また,ブロー成形の形状自由度を活かし,多品種小ロット対応によるユニーク形状ボトルの報告は,魅力的な差別化手法の提案である.

地球環境改善を目的とした自動車の脱炭素化に伴い,長繊維強化樹脂に代表される高分子基複合材料が採用され,同材料の成形加工で生じるスクリュ内での繊維の圧損・分散挙動や金型内での繊維配向挙動の研究が進んでいる.長繊維強化樹脂の成形加工では,コストダウンを目的とした連続繊維直接成形と呼ばれる,直接繊維と樹脂を成形機に投入する成形加工法が検討されている.一方で,溶融積層法を用いた炭素繊維強化熱可塑性樹脂の三次元造形に関する結果も報告され,ほかの繊維を用いた三次元造形も検討されている.さらに天然繊維や木粉に加えて,セルロースナノファイバーの分散性の向上,乾燥技術,成形加工法の研究が活発化している.自動車部品,特に外装品へのプラスチック材料の採用にあたっては,難燃化が熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂で行われている.一方で近年,エレクトロニクスデバイスの高性能化,小化に伴い,発生する熱管理が重要となっている.プラスチックは絶縁性や柔軟性に優れるものの,熱伝導性の低さが弱点であり,高熱伝導性と絶縁性を有するフィラーとの複合化により樹脂の熱伝導性を向上させる検討が行われている.

また,金属材料と繊維強化樹脂,あるいは樹脂材料と繊維強化樹脂の組み合わせによるマルチマテリアル化が継続して推進されている.この異種材料による複合化にあたって,物理処理や化学処理による機械的接合機能の発現,接着剤の研究など異種材料間の接合接着に関する研究も多く,自動車部品などへの実用化に向け今後の展開が期待される.

2020年度の容器包装リサイクル法に基づく一般廃棄物系の廃プラスチックのリサイクルは,回収量66万トンであり,この量はここ数年ほぼ一定である.落札量は,プラスチックパレット等に再加工する,いわゆる材料リサイクルが約54%,コークス化学原料化が32%,ガス化が9%,高還元剤が5%程度である.これにより,CO2削減や,バージンプラスチックの削減に貢献している.

近年は可能な限り資源の経済価値を維持しつつ,効率的に利用することで付加価値を生み出す「循環経済」への転換に向けた取り組みが欧州を中心に活発化している.また,プラスチックごみによる海洋汚染が地球規模の新たな課題として顕在化するとともに,中国での廃棄物輸入規制強化に端を発する国際的な資源循環の枠組みが変化してきている.これらの背景を踏まえて,日本政府は2020年5月に「海洋プラスチックごみ対策アクションプラン」を策定し,関係省庁では「プラスチック資源循環戦略」を策定した.このようにプラスチックを取巻く社会環境は劇的に変化しており,この事実を真摯に受け止めて研究開発を行うことが今の研究者に求められている.

〔高山 哲生 山形大学〕

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6.2.4 溶接,接合

溶接学会の全国大会より,溶接・接合の日本国内での研究動向を総括する(1).2020年度の春期大会および秋季大会の一般講演の総数は253件であった.溶接プロセスに関して,溶融溶接ではTIG溶接やGMA溶接などのアーク溶接,抵抗スポット溶接,ウェルドボンドレーザ溶接およびレーザ・アークハイブリッド溶接など,固相接合ではFSW,FSP,摩擦圧接,超音波接合などに関する研究発表があった.また,ろう接合,はんだ接合のほか,かしめやドリルスクリューなどの機械締結に関する研究発表もあった.実際の製品,構造物では,溶接・接合のプロセスとともに接合部の強度特性および強度信頼性が重要となる.そのため,溶接割れ,疲労,破壊(延性破壊,ぜい性破壊)などの強度,力学特性に関する研究報告も多くあった.また,異材接合に関しては,アルミニウム合金のような異種金属接合のほか,FRPと金属の接合の報告があり,異材接合の技術開発,実用化が進められていることがわかる.他には,近年,急速に研究・開発が進められている金属の積層造形に関する研究発表があった.また,IoT,ビッグデータ,機械学習,AIなど,デジタル技術の活用,情報工学と融合した溶接・接合に関する研究も注目される(2)溶接プロセスや残留応力の数値解析・シミュレーション,AIや機械学習を活用したプロセス技術,また,プロセス・モニタリングや画像解析,センシング技術などに関する研究発表があった.

日本機械学会機械材料・材料加工部門第28回機械材料・材料加工技術講演会の「接合」セッションでは,溶接・接合プロセスに関しては抵抗スポット溶接,FSW,SPR接合,接着接合など幅広い接合法が,材料に関してはFRPマグネシウム合金などの新しい構造材料が取り上げられていた(3).また,異材接合に関しても発表があり,接合プロセスと接合体の特性評価(継手の静的強度,破壊じん性,腐食など)に関する研究発表が行われていた.他にも,溶接・接合に関連するセッションとして,積層造形やプレス接合などがあった.

以上に述べた溶接・接合に関する研究動向をまとめると,FRP新素材の接合技術,異材接合,積層造形,そして,デジタル技術・情報工学の応用が注目される.この傾向は海外においても同様であり,溶接・接合プロセス技術および装置の開発も活発に行われている.IIW(国際溶接学会)の雑誌Welding in the Worldにも,上述の注目される溶接・接合技術に関する論文が掲載されている.同雑誌に掲載された論文の2020年に関するレビューによると計179編の論文が掲載された(4).内容は,固相接合関係12%,ろう接合・はんだ接合関係11%,アーク溶接関係10%,積層造形関係10%,高エネルギー密度プロセス関係7%,樹脂の接合関係3%などとなっている.なお,積層造形については,Special Editionを発行している.

以上のように,2020年度も,溶接・接合関係の活発な研究・技術開発が行われていた.一方,新しい溶接・接合技術の実用化のためには,プロセスと力学・強度の両者についての検討が不可欠である.そのため,日本機械学会2020年度年次大会では「異種材料の界面強度評価と接合技術」と題したオーガナイズドセッションが企画され,16件の講演発表があった(5)

〔宮下 幸雄 長岡技術科学大学〕

参考文献

(1) 溶接学会全国大会講演概要, 溶接学会. https://www.jstage.jst.go.jp/browse/jwstaikai/-char/ja (参照日2021年5月19日).

(2) 特集「デジタル技術がもたらすものづくり産業のイノベーション」,溶接学会誌,Vol.90, No.1(2021).

(3) 日本機械学会 機械材料・材料加工部門 第 28 回 機械材料・材料加工技術講演会(M&P2020)講演論文集.

(4) John C. Lippold, Ing Thomas Böllinghaus, Américo Scotti, Welding in the World update-2021, Welding in the World, 65(2021) pp.167–169.

(5) 日本機械学会 2020年度年次大会講演論文集.


6.2.5 粉末加工

粉末成形焼結法に関する国内の研究動向に関しては(一社)粉体粉末冶金協会の春季および秋季大会における講演の状況にて確認できる.COVID-19感染拡大のため2020年春季大会は中止となり,秋季大会はオンライン開催された.セッション「磁性材料・磁気デバイスにおける微細構造制御と機能発現」で12件の報告があり,フェライト,希土類系を含む永久磁石用ハード磁性材料,ソフト磁性材料の他,薄膜やナノ粒子の電波吸収などが報告された.「ナノ材料の合成とその複合化技術の新展開」では17件の報告があり,ナノ粒子複合体の他,ナノ粒子表面コーティング,ナノシート作製などの試みがある.「粉末冶金技術と製品評価に関する新たな展開」では,圧密化挙動および焼結微視組織の解析に関して進展がある他,焼結,医療デバイス用TiNi系合金,Ni基超合金などの特性向上について報告された.「粉末製造技術と粉末積層3D造形の最先端」においては20件以上の報告があり,最終製品製造プロセスとしてのバインダージェット方式の適用例と課題が示された他,レーキ過程の個別要素法解析などプロセスにおける挙動解明が進んでいる.他,電池材料7件,各種セラミックス,硬質材料合わせて25件の講演があった.

Web検索により金属粉成形に関連する研究動向を調査すると,数値解析,成形技術,材料創製プロセス技術として90件程度の報告がある.数値解析では,ナノ粒子の分子動力学による圧密解析,クラッチプレート成形から抜出しまでのFEM解析,Drucker-Prager CAPモデル材料パラメータの逆解析による取得,高温静水圧成形解析,振動充填のDEM解析などがある.成形技術においては爆発成形やせん断ひずみ付与,プロセス技術としては金属とセラミックスの複合化の試みが進展しており,ナノ粒子とメカニカルアロイングを用いた各種炭化物および酸化物による複合強化や,カーボンナノチューブ,グラフェンによる強化に関する報告が多数みられた.

〔谷口 幸典 奈良工業高等専門学校〕


6.2.6 特殊加工

微細加工技術は従来の半導体製造機をはじめ既に広く応用されているが,現在も半導体の回路形成のためのリソグラフィ技術は,ムーアの法則に従いパターンの微細化が進んでいる.次世代技術の極端紫外線(EUV)リソグラフィは,7 nmのライン&スペース(L&S)が実現可能で,2016年にASMLよりR&D機がTSMLやSamsung Electronicsに出荷され,2020年にはSamsungがEUVを使用したDRAMの量産を開始したとアナウンスがあった(1)

その一方,近年の半導体の需要増加に伴い,従来の10nm対応の半導体露光装置の投資も増えており,その中でさらなる低コストで微細化を実現できるナノインプリントリソグラフィ技術が注目されている.日本では,Molecular imprintsを前身としたCannonとキオクシア(旧東芝メモリ)が,ナノインプリントにより14 nmの一括成形に成功している.スループットやテンプレート(>金型)の寿命等も量産に耐えうるレベルに達しており(2),まだまだ需要の多い10 nm対応したナノインプリント装置の量産技術としての投入が待たれる.

またナノインプリントは半導体露光装置以外への応用も進んでおり,フォトニクス結晶(構造)をベースとしたバイオチップなどの医療分野や,マイクロレンズや等のオプティクス分野への応用も盛んである.またその一方,Flat Panel Displayの反射防止構造や太陽電池等の大面積化の応用技術開発も進んでおり.2020年には信越エンジニアリング(株)よりG5基板(1.1 m×1.3 m)用のNIL装置の発表があった(3).今後も大面積化や大量生産を念頭に置いたRoll to RollやRoll to Plateのナノインプリントの技術開発が期待される.

学術的には日本では応用物理学会主催のナノインプリント技術研究会やMNC(Microprocesses and Nanotechnology Conference) 2020での講演が盛んで,国際学会でも2020年はCOVID-19で開催されなかったが2019年に開催されたNNT(Nanoimprint and Nanoprint Technologies)2019では,ナノインプリント技術に重要なインプリント材料,金型,インプリント技術,応用研究が横断的に議論された.

〔青野 祐子 東京工業大学〕

参考文献

(1) https://news.samsung.com/global/samsung-announces-industrys-first-euv-dram-with-shipment-of-first-million-modules

(2) T Kono, M. Hatano, H. Tokue, H. Kato, K. Fukuhara, and T. Nakasugi, “Half pitch 14nm direct patterning with Nanoimprint Lithography”, Proceedings of SPIE – The International Society for Optical Engineering, 10958 (2019).

(3) https://www.shinetsu.co.jp/wp-content/uploads/2020/02/Nano-Imprint-Equipment.pdf

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