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機械工学年鑑2021

5. 材料力学

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章内目次

5.1 まえがき
5.2 強弾性挙動
 5.2.1 強誘電セラミクスの強弾性/5.2.2 強弾性による強靭化機構/5.2.3 強弾性ドメイン壁の機能/5.2.4 有機無機ハイブリッド半導体の強弾性
5.3 逆磁歪現象~応力誘起磁束密度~
 5.3.1 センシングデバイス/5.3.2 エネルギーハーベスティングデバイス
5.4 固体イオニクスにおける応力誘起現象
 5.4.1 ヘテロ界面におけるナノスケール応力誘起現象/5.4.2 エネルギー変換デバイスに導入される残留応力による応力誘起現象

 


5.1 まえがき

機械構造物の剛性強度に関連して,応力ひずみなどで表示される材料特性を基準に設計仕様として使われており,応力ひずみ外力変形が与えられたときに生じる量であり受動的に受け入れるものとされてきた.これに対して,応力ひずみを材料に与えることで材料特性を変化させる,あるいは特性を発現させる応力誘起現象に関する研究が活発に行われている.応力ひずみを加えて材料内に分極を生じる圧電効果,逆に電圧を加えることでひずみを生じる逆圧電効果がその代表例であり,また強磁性体における応力ひずみ-磁化の関係である磁歪効果および逆磁歪効果もよく知られている.さらに超電導材料,固体電解質材料においても,応力ひずみを加えることで超電導特性,酸素イオン伝導率が変化し,材料特性が向上することが知られている.このように材料内の応力ひずみを積極的に利用した様々な機能性材料が開発されている.そこで本稿においては,応力誘起による機能性材料に関する研究を活発に行っている3名の研究者により,それぞれの立場から関連の研究動向についてご寄稿をいただいた.

 〔足立 忠晴 豊橋技術科学大学〕

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5.2 強弾性挙動

強弾性(Ferroelasticity)は,強誘電性(Ferroelectricity)や強磁性(Ferromagnetism)などと同じく,フェロイクス(Ferroics)の性質の一つとして知られる.これらのフェロイック(Ferroic)材料は,微視的・巨視的に共通する特徴を有する.微視的には,結晶内にドメインと呼ばれる複数の配向構造を持つ.これらのドメインは,応力場・電場・磁場などの外場によって再配向(ドメインスイッチング)を生じる.このようなドメイン再配向により,ひずみ・分極率・磁化率などの巨視的応答と外場の関係は,顕著なヒステリシスを示す.強弾性材料の場合,結晶内に自発ひずみによる強弾性ドメインを有し,応力場によりドメインが再配向することにより大きなひずみが生じるため,力学的には非常に特異な挙動を示す.このような強弾性ドメイン・強弾性挙動は,合金や圧電材料など主に金属やセラミクスをはじめとして様々な材料で確認されている.強弾性による力学機能としては,形状記憶・超弾性や高靭性が挙げられる.一方,強弾性は他のフェロイクスの性質との相互作用が期待されており,マルチフェロイクス分野でも関心が高まっている.これまでに,強弾性結晶とその挙動については総説や書籍に詳しくまとめられている(1)-(3).本稿では,2020年に発表された論文を中心に,近年の強弾性研究の動向について紹介する.特に,従来から研究が行われてきた「強誘電セラミクスの強弾性」や「強弾性による強化機構」に関する最新の報告に加え,近年加速的に研究が進められている「ドメイン壁の新規機能」や「有機・無機ハイブリッド半導体の強弾性」に関する研究を紹介する.(ただし,強弾性を主なテーマとしないフェロイクス関連論文は本稿では省略するため,他の総説(4)(5)を参照されたい.)

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5.2.1 強誘電セラミクスの強弾性

強誘電体として知られるPb(ZrxTi1–x)O3, (PZT)やBaTiO3(BTO)の強弾性については,古くより研究が行われてきたが,近年のマルチフェロイクス研究の発展において,強弾性はさらに重要性を増している.Langenbergら(6)は,PbTiO3エピタキシャルフィルムにおける強弾性ドメインの生成に成功しており,基板(による残留応力)や膜厚によりドメイン生成が制御可能であることを示している.Nakajimaら(7)は,PbZr0.4Ti0.6O3フィルムに高密度で強弾性ドメインを生成することに成功している.Liら(8)は,PZTにおける強弾性ドメイン壁の観察・測定を行い,ユニットセルレベルでのひずみの同定に成功している.Pengら(9)は,自立型BiFeO3薄膜を作製し,その超弾性メカニズムを解明している.今後,解明された機構や開発された構造を基に,様々なナノ電子デバイスの開発やドメイン制御により高い性能を有する強誘電体の開発が進むことが期待される.

5.2.2 強弾性による強靭化機構

耐熱・熱遮蔽材料として知られる安定化ジルコニアなどにおける強化機構として,応力誘起相変態と強弾性ドメインスイッチングが知られてきたが,近年,強弾性による強化機構の詳細が明らかになりつつある.Masudaら(10)は,擬似単結晶マイクロピラーを用いた圧縮試験を行い,t’-YSZのドメインスイッチングによる強靭化を確認している.Sunら(11)は,フェーズフィールド法を用いてt’-YSZのき裂進展時のドメインスイッチングの解析手法を開発し,強弾性による強靭化を説明している.また,ジルコニア以外の強弾性材料における強靭化機構の研究も進められている.例えばChenら(12)は,新たな圧電材料として期待されるNb/Ce-PZTについて,分極方向とき裂進展の相関を明らかにしている.Zhangら(13)は,新たな熱遮蔽材料として期待されるRENbO4(RE = Nd, Sm, Gd, Dy, Er, Yb)の持つ強弾性と高い靭性を報告している.今後も引き続き,強弾性による強化機構の理解が進むことにより,新たな耐熱・熱遮蔽材料や高強靭性材料の開発が進められることが期待される.

5.2.3 強弾性ドメイン壁の機能

最近,強弾性体のバルクそのものの持つ性質だけでなく,強弾性ドメイン壁(双晶界面)が発現する新規機能に大きな注目が集まっている.例えば,ドメイン壁の移動(動き)を制御することにより,伝導・超伝導,強誘電性,磁性,光起電性など,バルクが本来持たない性質を発現することが報告されている.Luら(14)は,強弾性ドメイン壁の移動が変位電流を生むことにより,非磁性材料が磁性を示すことを報告している.Yunら(15)は,大きなひずみ勾配を有するWO3ドメイン壁が生む,フレクソエレクトリック効果を確認している.Salje(16)は,このようなドメイン壁移動に関する近年の研究動向を総説にまとめている.将来,強弾性ドメイン壁およびその制御を利用することにより,バルクの性能を超える,あるいは新機能を発現する材料やデバイスの開発が期待されており,そのためにもドメイン壁移動に関するさらなる基礎研究は欠かせないと考えられる.

5.2.4 有機無機ハイブリッド半導体の強弾性

エネルギー変換効率の高い新しい太陽電池材料として,有機無機ハイブリッド半導体が注目されている.中でも,ハロゲン化金属ペロブスカイト(例えばCH3NH3PbI3など)の有する強弾性およびそのドメイン構造,さらにその性能との相関に高い注目が集まっている.Xiaoら(17)は,二次元層状単結晶におけるドメインスイッチングの観察に成功し,機構解明を行っている.Marcal(18)らは,単結晶ナノワイヤにおけるドメイン構造解析に成功している.Kennardら(19)は,薄膜を用いた応力ひずみ線図(ヒステリシス)の評価に成功している.一方,Xiaoら(20)は強弾性ドメイン壁でのキャリア輸送への影響や性能劣化を報告している.そのほか,有機半導体(Parkら(21))が示す強弾性挙動や無機ハライド化合物(Zhangら(22))が有する強弾性ドメイン構造が報告されている.今後も,新たな強弾性半導体の発見,さらに強弾性の持つ柔軟性を活かした太陽電池や電子デバイスの開発が期待される.

〔荒木 稚子 埼玉大学〕

参考文献

(1) 相津敬一郎, 強誘電強弾性体Gd2(MoO4)3 I. 強弾性一般理論, 応用物理, Vol.38, (1969), pp. 825-832.

(2) Wadhawan, V. K., Ferroelasticity and related properties of crystals, Phase Transitions, Vol.3, (1982), pp.3-103.

(3) Salje, E. K., Phase Transitions in ferroelastic and co-elastic crystals, (1991), Cambridge University Press.

(4) Nataf, G. F., Guennou, M., Gregg J. M., Meier, D., Hlinka, J., Salje E. K. H. and Kreisel, J., Domain wall engineering: mastering topological defects in ferroelectric and ferroelastic materials, Nature Reviews Physics, Vol.2, (2020), pp.634–648.

(5) Evans, D. M., Garcia, V., Meier, D. and Bibes, M., Domains and domain walls in multiferroics, Physical Sciences Reviews, Vol.5, (2020), https://doi.org/10.1515/psr-2019-0067.

(6) Langenberg, E., Paik, H., Smith, E. H., Nair, H. P., Hanke, I., Ganschow, S., Catalan, G., Domingo, N. and Schlom, D. G., Strain-engineered ferroelastic structures in PbTiO3 films and their control by electric fields, ACS Applied Materials and Interfaces, Vol.12, (2020), pp.20691–20703.

(7) Nakajima, M., Shimizu, T., Nakaki, H., Yamada, T., Wada, A., Nakashima, T., Ehara, Y. and Funakubo, H., Large electromechanical responses driven by electrically induced dense ferroelastic domains: beyond morphotropic phase boundaries, ACS Applied Electronic Materials, Vol.2, (2020), pp.1908–1916.

(8) Li, Q., Wang, B., He, Q., Yu, P., Chen, L.-Q., Kalinin, S. V. and Li, J.-F., Ferroelastic nanodomain-mediated mechanical switching of ferroelectricity in thick epitaxial films, Nano Letters, Vol.21, (2021), pp.445–452.

(9) Peng, R.-C., Cheng, X., Peng, B., Zhou, Z., Chen, L.-Q. and Liu, M, Domain patterns and super-elasticity of freestanding BiFeO3 membranes via phase-field simulations, Acta Materialia, Vol.208, (2021), https://doi.org/10.1016/j.actamat.2021.116689.

(10) Masuda, H., Morita, K., Watanabe, M., Hara, T., Yoshida, H. and Ohmura, T., Ferroelastic and plastic behaviors in pseudo-single crystal micropillars of nontransformable tetragonal zirconia, Acta Materialia Vol.203, (2021), https://doi.org/10.1016/j.actamat.2020.11.013.

(11) Sun, Y., Luo, J. and Zhu, J., Ferroelastic toughening of single crystalline yttria-stabilized t’ zirconia: A phase field study, Engineering Fracture Mechanics, Vol.233, (2020), https://doi.org/10.1016/j.engfracmech.2020.107077.

(12) Chen, Y., Xu, J., Xu, Q., Xie, S., Wang, Q. and Zhu, J., Ferroelastic domain switching and R-curve behavior in lead zirconate titanate (Zr/Ti = 52/48)‐based ferroelectric ceramics, Journal of the American Ceramics Society Vol.103, (2020), pp.1067–1078.

(13) Zhang, P., Feng, Y., Li, Y., Pan, W., Zong, P., Huang, M., Han, Y., Yang, Z., Chen, H., Gong, Q. and Wan, C., Thermal and mechanical properties of ferroelastic RENbO4 (RE = Nd, Sm, Gd, Dy, Er, Yb) for thermal barrier coatings, Scripta Materialia, Vol.180, (2020), pp.51-56.

(14) Lu, G., Li, S., Ding, X., Sun, J. and Salje, E. K. H., Current vortices and magnetic fields driven by moving polar twin boundaries in ferroelastic materials, npj Computational Materials, Vol.6, (2020), https://doi.org/10.1038/s41524-020-00412-5.

(15) Yun, S., Song, K., Chu, K., Hwang, S.-Y., Kim, G.-Y., Seo, J., Woo, C.-S., Choi, S.-Y. and Yang, C.-H., Flexopiezoelectricity at ferroelastic domain walls in WO3 films, Nature Communications, Vol.11, (2020), https://doi.org/10.1038/s41467-020-18644-w.

(16) Salje, E. K. H., Ferroelastic domain walls as templates for multiferroic devices, Journal of Applied Physics, Vol.128, (2020), https://doi.org/10.1063/5.0029160.

(17) Xiao, X., Zhou, J., Song, K., Zhao, J., Zhou, Y., Rudd, P. N., Han, Y., Li, J. and Huang, J., Layer number dependent ferroelasticity in 2D Ruddlesden–Popper organic-inorganic hybrid perovskites, Nature Communications, Vol.12, (2021), https://doi.org/10.1038/s41467-021-21493-w.

(18) Marcal, L. A. B., Oksenberg, E., Dzhigaev, D., Hammarberg, S., Rothman, A., Björling, A., Unger, E., Mikkelsen, A., Joselevich, E. and Wallentin, J., In situ imaging of ferroelastic domain dynamics in CsPbBr3 perovskite nanowires by nanofocused scanning X‑ray diffraction, ACS Nano, Vol.14, (2020), pp.15973-15982.

(19) Kennard, R. M., Dahlman, C. J., DeCrescent, R. A., Schuller, J. A., Mukherjee, K., Seshadri, R. and Chabinyc, M. L., Ferroelastic hysteresis in thin films of methylammonium lead iodide, Chemistry of Materials, Vol.33, (2021), pp.298-309.

(20) Xiao, X., Li, W., Fang, Y., Liu, Y., Shao, Y., Yang, S., Zhao, J., Dai, X., Zia, R. and Huang, J., Benign ferroelastic twin boundaries in halide perovskites for charge carrier transport and recombination, Nature Communications, Vol.11, (2020), https://doi.org/10.1038/s41467-020-16075-1.

(21) Park, S.-K., Sun, H., Chung, H., Bijal B. Patel, B. B., Zhang, F., Davies, D. W., Woods, T. J., Zhao,K., Diao, Y., Super- and ferroelastic organic semiconductors for ultraflexible single-crystal electronics, Angewandte Chemie, Vol.59 (2020), pp.13004-13012.

(22) Zhang, X., Wang, F., Zhang, B.-B., Zha, G. and Jie, W., Ferroelastic domains in a CsPbBr3 single crystal and their phase transition characteristics: An in situ TEM study, Crystal Growth and Design, Vol.20, (2020), pp.4585-4592.

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5.3 逆磁歪現象~応力誘起磁束密度~

強磁性体に磁場を負荷すると,長さが変化する.これは,磁歪効果と呼ばれ,1842年にジュールによって最初に説明された(1).続いて,ビラリは磁歪効果を有する強磁性体に応力を加えると磁束密度が変化することを発見し,この現象は逆磁歪効果と呼ばれている.

800-1600 ppm(ppmは10-6)程度の超磁歪を示すTb-Dy-Fe合金(Terfenol-D)は,脆さや渦電流発生などが問題となっており,高価格であるという欠点も有している.また,Fe-Ga合金(Galfenol)は,400 ppm程度の磁歪を示すが,生産・加工の難しさが製品化の障害となっている.最近,磁歪Fe-Co合金が鍛造・冷間加工によって開発され,合金組成と熱処理の影響が検討されている(2).Fe-Co合金は,高強度延性,優れた加工性を示し,線材としても容易に加工可能で,樹脂に埋め込むことも可能である(3)(4)

逆磁歪現象すなわち応力誘起磁束密度を利用した非接触応力センサの開発が進められている.また,応力誘起磁束密度の変化はコイルを用いて電圧に変換できるため,力学的エネルギーを電気エネルギーに変換するエネルギーハーベスティング(環境発電)も注目されている(5)(6).本節では,逆磁歪現象を利用したセンシングデバイスとエネルギーハーベスティングデバイスを取り上げ,最近の研究状況を紹介する.

5.3.1 センシングデバイス

最近,逆磁歪現象を利用したセンサとして,Galfenolワイヤを用いた触覚センシングデバイスが開発されており,力と出力電圧の関係が評価され,はり理論と電磁気理論を組み合わせた数値解析も行われている(7).同様に,静的・動的な力の検出と対象物の剛性評価についても考察が行われている(8).また,Galfenolはりを利用した衝撃荷重センサに関する研究が行われ,荷重と磁束密度変化の関係に及ぼすはり形状の影響が解明されている(9)ほか,振動センサについても同様な研究が行われている(10).さらに,長期的に地震を監視する自己給電磁歪センサの開発を目指し,片持ちはり形状のステンレス鋼板に磁歪Fe40Ni38Mo4B18合金(Metglas)が積層され,振動振幅と出力電力の関係が明らかにされている(11).一方,Fe-Co合金でボルトが作製され,逆磁歪現象を利用した軸力評価が理論・実験両面から行われている(12).非接触で締結力の予測が可能となれば,ボルトの弛みによる機械や構造物の破壊を防ぐことが可能となる.このためにも,磁歪Fe-Co合金のさらなる高性能化が重要であり,力学・磁気・磁歪特性に及ぼす微視構造の影響の解明が望まれる(13)

磁歪材料のウイルスセンサへの応用も注目されており(14),ヒト血清アルブミンの質量を検出するNiFe2O4/ペーパーバイオセンサが開発されている(15).振動状態にある磁歪材料に抗体を固定してそれに抗原が付着すると,質量の変化により共振周波数が変化する点を利用している.この変化を把握することで,ウイルスの検出が可能となる.

5.3.2 エネルギーハーベスティングデバイス

最近,Galfenol板と弾性板の積層片持ちはりが試作され,振動発電性能に及ぼす積層構成,弾性板の材料・寸法,バイアス磁石の位置・数,負荷抵抗などの影響が検討されている(16).最適化された条件で,最大13.3 mWの電力と最大3.7 mWcm-3g-1の電力密度が得られている.また,Galfenolを用いて双曲線形状の片持ちはりが解析され,曲げ振動による出力電圧が長方形・台形・三角形形状の片持ちはりと比較されている(17).双曲線形状のはりは低周波振動エネルギーハーベスティングに適しており,実験結果も報告され,50 Ωの負荷抵抗を接続した場合に403.8 μWの電力が得られている.さらに,Galfenol積層片持ちはりによる振動エネルギーハーベスティングデバイスが開発され,バイアス磁場と積層数の観点から性能の最適化が行われており,最大7.4 mWcm-3g-1の電力密度が得られている(18).一方,床の下に磁歪材料が搭載され,人の歩行により31.3 mWの電力が得られており(19),100個の発光ダイオード(LED)を同時に点灯できる可能性がある.また,磁歪Fe-Co-V(Permendur)ロッドを利用した衝撃滑り構造の型振動エネルギーハーベスティングデバイスが開発され,発電特性評価の結果,1592 μJの出力エネルギーが得られている(20)

Fe-Coワイヤ/Al合金複合材料が作製され,圧縮荷重による出力電力が評価されている(21).続いて,2本のFe-Coワイヤが撚って埋め込められ,出力電力の増大が報告されている(22).金属母材の複合材料によって,強度が必要とされるAl合金製の自動車部材や高温環境で使用される輸送機器のエンジン駆動部からも電力が得られ,これらの部品に電源機能を付与することが可能となり期待される.

モノのインターネット(IoT)システムの自立電源として利用できる振動・衝撃発電材料の開発がますます重要となることが予想され,逆磁歪現象を示す複合材料研究のさらなる発展が望まれる.今後,振動・衝撃発電機能とウイルスセンシング機能を併せ持つIoT用磁歪複合材料の研究開発が注目される.

〔成田 史生 東北大学〕

参考文献

(1) du Tremolet de Lacheisserie, E., Magnetostriction: Theory and Applications of Magnetoelasticity, (1993), CRC Press.

(2) Yamaura, S., Nakajima, T., Satoh, T., Ebata, T. and Furuya, Y., Magnetostriction of heavily deformed Fe-Co binary alloys prepared by forging and cold rolling, Materials Science and Engineering: B, Vol.193, (2015), pp. 121-129.

(3) Wang, Z., Mori, K., Nakajima, K. and Narita, F., Fabrication, modeling and characterization of magnetostrictive short fiber composites, Materials, Vol.13, No.7, (2020), https://doi.org/10.3390/ma13071494.

(4) Yang, Z., Wang, Z., Nakajima, K., Neyama, D. and Narita, F., Structural design and performance evaluation of FeCo/epoxy magnetostrictive composites, Composites Science and Technology, Vol.210, (2021), https://doi.org/10.1016/j.compscitech.2021.108840.

(5) Narita, F. and Fox, M., A review on piezoelectric, magnetostrictive, and magnetoelectric materials and device technologies for energy harvesting applications, Advanced Engineering Materials, Vol. 20 (2018), https://doi.org/10.1002/adem.201700743.

(6) 春本高志,藤枝 俊,細川裕之,三井好古,梅津理恵,磁歪・逆磁歪材料の基礎と振動発電への応用,まてりあ,Vol.59, No.1, (2020), p.5.

(7) Zhang, B., Wang, B., Weng, L. and Liu, H., A Magnetostrictive tactile sensing unit and the integration of sensor array for intelligent manipulator, IEEE Access, Vol.8, (2020), pp.187848-187857.

(8) Weng, L., Xie, G., Zhang, B., Huang, W., Wang, B. and Deng, Z., Magnetostrictive tactile sensor array for force and stiffness detection, Journal of Magnetism and Magnetic Materials, Vol.513, (2020), https://doi.org/10.1016/j.jmmm.2020.167068.

(9) Shu, L., Yang, J., Li, B., Deng, Z. and Dapino, M.J., Impact force sensing with magnetostrictive Fe-Ga alloys, Mechanical Systems and Signal Processing, Vol.139, (2020), https://doi.org/10.1016/j.ymssp.2019.106418.

(10) Patra, S., Design and development of magnetostrictive low power dc generator and vibration sensor, IEEE Sensors Journal, Vol.20, No.12, (2020), pp.6324-6330.

(11) Ren, L., Yu, K. and Tan, Y., A self-powered magnetostrictive sensor for long-term earthquake monitoring, IEEE Transactions on Magnetics, Vol.56, No.3, (2020), https://doi.org/10.1109/TMAG.2019.2958783.

(12) Mori, K., Horibe, T. and Maejima, K., Evaluation of the axial force in an FeCo bolt using the inverse magnetostrictive effect, Measurement, Vol. 165 (2020), https://doi.org/10.1016/j.measurement.2020.108131.

(13) Yamazaki, T., Katabira, K., Narita, F., Furuya, Y. and Nakao, W., Microstructure-enhanced inverse magnetostrictive effect in Fe–Co alloy wires, Advanced Engineering Materials, Vol.22, No.10, (2020), https://doi.org/10.1002/adem.202000026.

(14) Narita, F., Wang, Z., Kurita,H., Li, Z., Shi, Y., Jia, Y. and Soutis, C., A review of piezoelectric and magnetostrictive biosensor materials for detection of COVID-19 and other viruses, Advanced Materials, Vol.33, (2021), https://doi.org/10.1002/adma.202005448.

(15) Guo, X., Liu, R., Li, H., Wang, J., Yuan, Z., Zhang, W. and Sang, S., A novel NiFe2O4/paper-based magnetoelastic biosensor to detect human serum albumin, Sensors, Vol.20, No.18, (2020), https://doi.org/10.3390/s20185286.

(16) Liu, H., Cong, C., Cao, C. and Zhao, Q., Analysis of the key factors affecting the capability and optimization for magnetostrictive iron-gallium alloy ambient vibration harvesters, Sensors, Vol.20, No.2, (2020), https://doi.org/10.3390/s20020401.

(17) Meng, A., Yan, C., Li, M., Pan, W., Yang, J. and Wu, S., Modeling and experiments on Galfenol energy harvester, Acta Mechanica Sinica, Vol.36, No.3, (2020), pp.635-643.

(18) Liu, H., Cao, C., Sun, X., Zhao, L. and Cong, C., Magnetostrictive iron-gallium alloy harvester with efficient two-mode AC-DC converting technology for effective vibration energy harvesting, AIP Advances, Vol.10, No.11, (2020), https://doi.org/10.1063/5.0025550.

(19) Tan, Y., Lu, G., Cong, M., Wang, X. and Ren, L., Gathering energy from ultra-low-frequency human walking using a double-frequency up-conversion harvester in public squares, Energy Conversion and Management, Vol.217, (2020), https://doi.org/10.1016/j.enconman.2020.112958.

(20) Yamaura, S.-I., Nakajima, T., Kamata, Y., Sasaki, T. and Sekiguchi, T., Production of vibration energy harvester with impact-sliding structure using magnetostrictive Fe-Co-V alloy rod, Journal of Magnetism and Magnetic Materials, Vol.514, (2020), https://doi.org/10.1016/j.jmmm.2020.167260.

(21) Seino, M., Jiang, L., Yang, Z., Katabira, K., Satake, T., Narita, F. and Murasawa, G., Impact energy harvesting by Fe-Co fiber reinforced Al-Si matrix composite, Materialia, Vol. 10, (2020) p. 100644.

(22) Yang, Z., Wang, Z., Seino, M., Kumaoka, D., Murasawa, G. and Narita, F., Twisting and reverse magnetic field effects on energy conversion of magnetostrictive wire metal matrix composites, Physica Status Solidi – Rapid Research Letters, Vol.14, No.10, (2020), https://doi.org/10.1002/pssr.202000281.

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5.4 固体イオニクスにおける応力誘起現象

固体イオニクスは,固体のイオン導電体(固体電解質)とその関連材料,応用に関する学問分野であり,最終製品は固体酸化物形燃料電池(Solid Oxide Fuel Cell: SOFC),全固体リチウムイオン二次電池(All Solid State Lithium Ion Battery: ASSLiB)に代表されるエネルギー変換デバイス群である.

金属材料に対し蛍石型,ペロブスカイト型のようにカチオンとアニオンからなる複雑な結晶格子内で,格子内において有意な体積を占めるイオンが移動,格子点,空格子点への脱侵入,格子間鞍点を通過するには,局所的に結晶格子を歪ませる必要がある.そのため,固体電解質のイオン伝導における活性化障壁には必ずこの歪みの寄与が含まれており,多かれ少なかれ外力に対してそのイオン導電率を変化させる.これが固体イオニクスにおける一つ目の応力誘起現象である.ピストンシリンダー,マルチアンビル等の高圧装置を使った等方圧に対する研究は,1970年頃から主に固体電解質のイオン伝導機構の解明に使われ,1980年代には銀,ハロゲン化物イオン導電体について体系的な評価が行われた(1).その後,リチウムイオン導電体においても同様に高圧下におけるイオン導電率の低下が報告されている(2)(3)

第二の応力誘起現象は,外界との電気化学ポテンシャルの釣りあいによりその組成を変化させる固体イオニクス材料(その多くは電極もしくは電極活物質である)に対して外力により生じる釣りあいの変化である.熱力学における化学ポテンシャルの変化量に対して成り立つ関係式(ギブス-デュエムの式)が示すように,外力に対して化学ポテンシャルが変化するのは広く知られるところである.1970年代から固体イオニクス材料への適用を考えた体系化(4)(5)が行われ,その後,国内でも酸化物イオン導電体を用いた実験的実証が行われ,現在ではリチウムイオン導電体へと展開されている(6)(7)

5.4.1 ヘテロ界面におけるナノスケール応力誘起現象

これらの比較的古くから知られていた応力誘起現象に,近年大きな注目が集まっている理由の一つとして,ボトムアップ技術の進歩により基板と薄膜間の格子不整合を駆動力とすることで数%に達する残留歪みが導入された超格子等の薄膜試料が作製可能となったこと(8)(9),高解像度透過電子顕微鏡(TEM)等の評価技術,計算機科学の発展により界面近傍の原子スケール観察とその解析が可能となったことが挙げられる.さらに2008年に歪みが導入された積層膜において数桁を超える非常に大きな導電率向上が報告され(10),それが数%に及ぶ引張歪みの影響とされたこと(11)が大きなムーブメントを起こし国外においてはMechano-Electro-chemo-effectsと呼称された固体イオニクスにおける応力誘起現象についての研究が多くの研究者らにより行われている.その中で第三の応力誘起現象として表面交換反応への影響が発見され,また微細加工技術を用いたナノスケール自立膜での研究やSOFCへの適用が検討されるなど幅広く展開されている(12)-(14).国内においても2004年に開始された特定領域研究“高温ナノイオニクスを基盤とするヘテロ界面制御フロンティア”においてヘテロ界面近傍のナノスケール領域に展開される空間電荷層,歪みによる格子変調について研究が行われた(15).また,2019年から開始された新学術領域“蓄電固体デバイスの創成に向けた界面イオンダイナミクスの科学”(16)においては界面近傍における歪みの影響が明らかにすべき因子の一つとされるなど本分野において応力誘起現象は引き続き大きな注目を集めている(17)

5.4.2 エネルギー変換デバイスに導入される残留応力による応力誘起現象

近年のSOFCの実用化,ASSLiBの開発進展は応力誘起現象への関心をより高めている.両者は共に異なる熱機械特性の固体イオニクス材料を含む機能性セラミックスの積層構造を持ち,さらにSOFCはその作製温度と作動温度の間に数百度を超える大きな差があり,熱応力に起因する100 MPaを超える大きな残留応力が電解質に導入される(18)-(20).また全固体電池は充放電時に電極活物質が最大で数百%の体積変化を示す.そのため,化学応力に起因する大きな残留応力が,2020年段階ではその直接計測は行われていないものの主に電極,電解質に導入されると考えられる.これらの結果は,実際のデバイス内で導入される残留応力により,無視できないレベルで応力誘起現象が生じることを示唆するものである.そのため,全固体電池において第二の応力誘起現象を取り入れた数値計算も行われ始めている(21)(22).さらにこれまでの様々な報告例は,応力誘起現象を単純なデバイス内における現象の解明に用いるのではなく,能動的に利用することで従来の材料設計,材料開発による性能向上とは異なる視点でデバイスの性能向上が図れることを示唆している.しかし,そのためには解決すべき課題も多い.実際のデバイスにおいては,ヘテロ界面を介して等方圧ではなく,異方性を持つ応力が導入される.等方圧と異方性圧力が同じ応力依存性を示すとは考えにくく,さらに引張応力の場合は,一般的な等方圧における変化量より大きな変化量を示すことが報告されている(23)(24).このような異方性応力に対する知見の集積は,固体酸化物形燃料電池,全固体電池構成材料双方においてほとんど進んでいない.また,デバイス内に導入される残留応力についてもクリープ等の塑性変形や,ナノスケールの局所的な応力集中,破壊等,いまだ検討されていない事項も多い.

固体酸化物形燃料電池,全固体電池は電気化学分野の製品と捉えられがちであるが,構造物としてみた場合,その構成材料への応力導入プロセス,弾性変形塑性変形そこから破壊に繋がる一連の現象は,まさに機械工学で扱われるものである.応力誘起現象の解明,その利用,またこれらのエネルギー変換デバイスの強靭化等,今後のこれらのデバイスの発展に対する機械工学の貢献に期待している.

〔井口 史匡 日本大学〕

参考文献

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(4) Larché, F. and Cahn, J. W., A linear theory of thermochemical equilibrium of solids under stress, Acta Metallurgica, Vol.21, (1973), pp.1051-1063.

(5) Johnson, W. C. and Schmalzried, H., Gibbs-Duhem and Clausius-Clapeyron type equations for elastically stressed crystals, Acta Metallurgica et Materialia, Vol.40, (1992), pp.2337-2342.

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(9) Azad, S., Marina, O. A., Wang, C. M., Saraf, L., Shutthanandan, V., McCready, D. E., El-Azab, A., Jaffe, J. E., Engelhard, M. H., Peden, C. H. F., andThevuthasan, S., Nanoscale effects on ion conductance of layer-by-layer structures of gadolinia-doped ceria and zirconia, Applied Physics Letters, Vol.86, (2005), https://doi.org/10.1063/1.1894615.

(10) Garcia-Barriocanal, J., Rivera-Calzada, A., Varela, M., Sefrioui, Z., Iborra, E., Leon, C., Pennycook, S. J. and Santamaria, J., Colossal ionic conductivity at interfaces of epitaxial ZrO2: Y2O3/SrTiO3 heterostructures, Science, Vol.321, (2008), pp.676-680.

(11) Kushima, A. and Yildiz, B., Oxygen ion diffusivity in strained yttria stabilized zirconia: where is the fastest strain?, Journal of Materials Chemistry, Vol.20, (2010), pp.4809-4819.

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(15) 山口周,ナノイオニクス 最新技術とその展望, (2008), シーエムシー出版.

(16) 新学術領域研究 蓄電固体界面科学 Webページ, https://interface-ionics.jp/ (参照日 2021年4月1日).

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(19) Iguchi, F., Onodera, S., Sata, N. and Yugami, H., Study of Raman peak shift under applied isostatic pressure in rare-earth-doped ceria for evaluation of quantitative stress conditions in SOFCs, Solid State Ionics, Vol.225, (2012), pp.99-103.

(20) Nakajo, A., Wuillemin, Z., Van Herle, J. and Favrat, D., Simulation of thermal stresses in anode-supported solid oxide fuel cell stacks. Part II: Loss of gas-tightness, electrical contact and thermal buckling, Journal of Power Sources, Vol.193, (20099, pp.216-226.

(21) Ding, Z., Li, J., Li, J. and An, C., Review-interfaces: key issue to be solved for all solid-state lithium battery technologies, Journal of the Electrochemical Society, Vol.167, (2020), https://orcid.org/0000-0002-8376-8650.

(22) Zhao, Y., Stein, P., Bai, Y., Al-Siraj, M., Yang, Y. and Xu, B.-X., A review on modeling of electro-chemo-mechanics in lithium-ion batteries, Journal of Power Sources, Vol.413, (2019), pp.259-283.

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(24) Sato, K., Suzuki, K., Narumi, R., Yashiro, K., Hashida, T. and Mizusaki, J., Ionic conductivity in uniaxial micro strain/stress fields of yttria-stabilized zirconia, Japanese Journal of Applied Physics, Vol.50, (2011), https://doi.org/10.1143/JJAP.50.055803.