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機械工学年鑑2020
-機械工学の最新動向-

20. 交通・物流

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章内目次

20.1 自動車
 20.1.1 概況 a.生産/b.輸出/c.輸入/d.保有台数
 20.1.2 四輪自動車の技術動向
 20.1.3 二輪車の技術動向
 20.1.4 生産技術・材料
 20.1.5 基礎研究
20.2 鉄道
 20.2.1 概況20.2.2 新幹線・リニアモーターカー20.2.3 在来鉄道・都市鉄道
20.3 航空宇宙
 20.3.1 概況20.3.2 航空20.3.3 宇宙
20.4 船舶
 20.4.1 概況20.4.2 話題
20.5 昇降機・遊戯施設
 20.5.1 概況20.5.2 技術動向
20.6 荷役運搬機械
 20.6.1 概要20.6.2 物流システム機器20.6.3 運搬車両

 


20.1 自動車

20.1.1 概況
a.生産

 2019年の四輪車生産(1)は968万台(前年比0.5%減)で,内訳は乗用車833万台,トラック123万台,バス12万台で,二輪車生産は57万台(同13.0%減)である.

b.輸出

 2019年の新車輸出(1)は乗用車437万台(同0.3%増)で生産に占める割合は52.5%で2018年より0.7%増加した.二輪車は40万台(同6.1%減)で生産に占める割合は70%で2018年より0.4%減少した.

c.輸入

 2019年の日本メーカー車を含めた輸入車新規登録台数(2)は34.8万台で,前年比4.9%減となった.

d.保有台数

 2019年12月末で,乗用車6224万台,トラック1450万台,バス23万台,原付を除く二輪車371万台になっている(3)

〔関根 康史 福山大学〕

参考文献

(1)統計データベース,一般社団法人 日本自動車工業会
http://jamaserv.jama.or.jp/newdb/index.html  (参照日2020年3月9日)
(2)輸入車統計データベース,日本輸入車組合(JAIA)
http://www.jaia-jp.org/  (参照日2020年3月9日)
(3)自動車保有台数,一般財団法人 自動車検査登録情報協会
http://www.airia.or.jp/ (参照日2020年3月9日)

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20.1.2 四輪自動車の技術動向

 2019年のEVの世界販売台数は約163万台と,前年の126万台から約3割の伸びであった(1).一方で,ライフサイクルでCO2排出量を評価するLCA(Life Cycle Assessment)の議論が欧州で始まり(2),また国内においても,新たな燃費基準の算定に車両上流側の効率を考慮した Well-to-Wheel の考え方を用いることが示される(3)等,ユーザーニーズと環境性能の両立に向けた現実解を模索する動きが見られた.内燃機関技術では,ガソリンエンジンで圧縮着火させることにより,ディーゼルエンジン並みの高圧縮比を実現する技術が商品化された(4).ディーゼルエンジンについても,尿素SCR(Selective Catalytic Reduction)を直列に2つ配置するシステムにより,排気ガス中の窒素酸化物を大幅に削減する技術が市場導入された(5).また,大型トラックのハイブリッドシステムにおいて,GPS等で走行ルートの勾配を先読みし,AIによる走行負荷予測に基づきバッテリーマネジメントを行う技術が採用された(6).これらの技術革新に加え,政策的に環境や地域経済等の諸課題の同時解決を図ることを目的に,グリーンスローモビリティ(20km/h未満で公道走行可能な電動パブリックモビリティ)を推進する取り組みがなされ,国内各地で実証実験が進められている(7)
 安全技術については,衝突被害軽減ブレーキの2019年の国内新車乗用車普及率は80%を超えたものとみられる(8).国際的には,国連欧州経済委員会において40カ国・地域が衝突被害軽減ブレーキの義務付け規則の原案に合意し,性能要件についても国連専門部会において,対車・対歩行者それぞれに対する国際基準が成立した.これを受けて,日本では2021年11月以降の新モデルから装備が義務付けられることが決定した(9).また,大型トラックやバスの左折時の巻き込み事故(左側通行の場合)を回避する技術として,走行中に車両内輪側の歩行者や車両をレーダーが感知し,操舵またはウインカ操作に入ると警報音でドライバに警告するシステムが日欧で市場導入された(10)(11).国内では急病等のドライバの異常に起因する事故が年間200~300件発生している.これまでに高速道路でのドライバ異常時対応システムのガイドラインが制定されているが,2019年には一般道での回避支援機能に関するガイドラインが策定された(12)
 コネクティッドに関しては,5G(第5世代移動通信システム)の導入が始まり,国内でも2020年には商用サービスが開始される.自動車技術への応用として,5Gの超高速・超低遅延・多数接続の特長を生かし,遠隔運転・隊列走行などの自動運転サポートや高精細な4K映像伝送による道路環境監視の実証実験が行われた(13)(14).今後,交通・物流はじめ様々な分野での応用が期待される.
 自動運転に関しては,政府は2020年までに公道での限定地域での無人自動運転(レベル4)移動サービスを開始し,2025~2030年を目途に全国に普及することを目指している(15).これを受けて国土交通省により,自動運転技術の実用化に向けた技術基準の整備や,自動車運送事業への導入に向けた法整備が推し進められた(16).また,自動運転社会の実現を見据え,次世代のオンデマンドモビリティサービスに向けた実証実験が全国各地の自治体で実施された(17).個人所有車両の自動運転技術としては,国内においても高速道路におけるハンズオフ機能付きのレベル2自動運転機能が市場導入された(18)(19).また,大型トラック・バスについてもレベル2自動運転搭載車両が発売された(20).低速の運転支援機能としては,直近50mの走行ルートを記録し,必要時にはステアリング操作不要で元のルートに沿って後退できる機能が国内市場に導入された(21).また,ドイツにおいて完全無人の自動バレーパーキング(車両が駐車スペースに自走・返却時には乗車場所に自走)が実現した(22)
 2019年9月の台風15号による関東での大規模停電に際し,EVやPHVといった電動車両からの電力供給がバックアップ機能として活用された.今後の電動車両の普及並びにV2X(Vehicle to Everything)の整備により,災害復旧や事業継続の備えとなることが期待される(23)

〔門崎 司朗 トヨタ自動車(株)〕

参考文献

(1)EV Sales: 2019 sales by OEM
http://ev-sales.blogspot.com/2020/02/2019-sales-by-oem.html (参照日2020年4月17日)
(2)業界レポート『電動車の将来展望』 | & MOBILITY
https://www.sc-abeam.com/and_mobility/article/20200122-02/ (参照日2020年4月17日)
(3)報道発表資料:「乗用車の新たな燃費基準に関する報告書」の公表 – 国土交通省
https://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha10_hh_000217.html (参照日2020年4月17日)
(4)MAZDA NEWSROOMマツダ,MAZDA3「SKYACTIV-X」搭載車を発売|ニュースリリース
https://newsroom.mazda.com/ja/publicity/release/2019/201911/191125a.html (参照日2020年4月17日)
(5)Twin dosing reduces emissions | Volkswagen Newsroom
https://www.volkswagen-newsroom.com/en/stories/twin-dosing-reduces-emissions-5750 (参照日2020年4月17日)
(6)ハイブリッド | 日野プロフィア | 日野自動車
https://www.hino.co.jp/profia/profia_hv/ (参照日2020年4月17日)
(7)環境:グリーンスローモビリティ – 国土交通省
http://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/environment/sosei_environment_fr_000139.html (参照日2020年4月17日)
(8)「自動運転の実現に向けた 国土交通省の取り組みについて」pp.11
https://www.forum8.co.jp/fair/df/movie-ppt/day1-l04.pdf (参照日2020年4月17日)
(9)報道発表資料:乗用車等の衝突被害軽減ブレーキに関する国際基準を導入し,新車を対象とした義務付けを行います.- 国土交通省
https://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha08_hh_003618.html (参照日2020年4月17日)
(10)Super Great | Mitsubishi Fuso Truck and Bus Corporation
https://www.mitsubishi-fuso.com/ja/product/super-great/ (参照日2020年4月17日)
(11)Perfect teamwork: Sideguard Assist and MirrorCam provide for greater safety | Daimler > Products > Trucks > Mercedes-Benz
https://www.daimler.com/products/trucks/mercedes-benz/sideguard-assist-and-mirrorcam.html (参照日2020年4月17日)
(12)報道発表資料:一般道において路肩等に自動で退避するドライバー異常時対応システムのガイドラインを策定しました- 国土交通省
https://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha07_hh_000310.html (参照日2020年4月17日)
(13)総務省|令和元年度5G総合実証試験の開始
https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban14_02000390.html (参照日2020年4月17日)
(14)世界初,5Gの新たな無線方式に基づく車両間直接通信の屋外フィールド通信試験における1ms以下の低遅延通信の成功について | プレスリリース | ニュース | 企業・IR | ソフトバンク
https://www.softbank.jp/corp/news/press/sbkk/2019/20190129_02/ (参照日2020年4月17日)
(15)「官民ITS構想・ロードマップ2019」pp.110
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/kettei/pdf/20190607/siryou9.pdf (参照日2020年4月17日)
(16)「自動運転の実現に向けた 国土交通省の取り組みについて」pp.5-7
https://www.forum8.co.jp/fair/df/movie-ppt/day1-l04.pdf (参照日2020年4月17日)
(17)ニュース | MONET Technologies
https://www.monet-technologies.com/news?news_tags%5B%5D=66 (参照日2020年4月17日)
(18)日本初,高速道路渋滞時ハンズ・オフ機能付き渋滞運転支援システム.
https://www.bmw.co.jp/ja/topics/brand-and-technology/technology/visionary_safety/hoo.html (参照日2020年4月17日)
(19)プロパイロット 2.0 (インテリジェント高速道路ルート走行)| 日産|技術開発の取り組み
https://www.nissan-global.com/JP/TECHNOLOGY/OVERVIEW/ad2.html (参照日2020年4月17日)
(20)大型トラック「スーパーグレート」2019年モデルを発売 :国内初となる運転自動化レベル2の高度運転支援機能を搭載した大型トラックを発表 | Mitsubishi Fuso Truck and Bus Corporation
https://www.mitsubishi-fuso.com/ja/news/2019/10/23/大型トラック「スーパーグレート」2019年モデルを/ (参照日2020年4月17日)
(21)リバース・アシスト BMWの先進の安全性能.|BMW Japan
https://bmw-japan.jp/visionary/safety/425?tab=js-tab-contents2 (参照日2020年4月17日)
(22)世界初:ボッシュとダイムラーが人間による監視不要のドライバーレスパーキングに関する承認を取得 | プレスリリース | ニュースとストーリー | 日本のボッシュ・グループ
https://www.bosch.co.jp/press/group-1907-03/ (参照日2020年4月17日)
(23)電動車活用社会推進協議会 第1回電動車活用促進WG 資料
http://www.cev-pc.or.jp/xev_kyougikai/xev_pdf/xev_kyougikai_wg01-1_tepco.pdf (参照日2020年4月17日)

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20.1.3 二輪車の技術動向

 走行性能や環境性能の向上とともに,乗る楽しみを追求した技術開発が進められた.旋回性と快適性の両立をねらったステアリング・サスペンション機構,様々な走行状況に適応した電子制御機能,走行記録やナビゲーションの表示が可能なスマホアプリ連携の発表が,各社から相次いだ.安全面では,先進運転支援の二輪車用システム,車両の自立アシスト機能を発表する例が見られた.
 環境面では,各国での排ガス規制強化が進んでいる.高効率燃焼技術やロス低減により規制対応した二輪車が発売された.電動化の波が加速し,新興国市場メーカーの新規参入が盛んである.レンタルサービス,優遇措置,コンソーシアム活動などにより,普及促進を行っている.今後の電動二輪車の大型化を見越し,普通自動二輪車と大型自動二輪車を定格出力により区分する法整備が国内で実施された.

〔品川 晃徳 ヤマハ発動機(株)〕

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20.1.4 生産技術・材料

 2019年度は米中の貿易摩擦影響とCASE(相互通信,自動運転,カーシェアリング,電動化)へ対応が求められ,IoTやAIなどによる生産設備・品質保証機器・生産管理システムなどの知能化・進化が推進されている中,年度末に中国武漢で発生した新型コロナ肺炎の感染拡大影響により国内外で生産調整が出始め,先行き不透明な状況である.
 車体系材料の進化としては,ハイテン鋼板材でホットスタンプ材に並ぶ超高強度材が開発され,アルミニウム材料や炭素繊維強化プラスチックなどの樹脂材料と共に,高級車の骨格や小型・軽乗用車へ適用が拡大しており,それぞれの材料に最適な製法や加工技術が求められている.
 パワートレイン系材料では,鉄系軸物部品の鋳造・鍛造材料の歩留向上技術と局所熱処理技術などの進化に加え,エンジン・ミッション・電動化ユニットのケース類などで薄肉化・軽量化のためのアルミニウム鋳造材・鍛造材などが表面処理加工技術と共に適用が進んでいる.
車両生産ラインでは電動化対応として,電池パック搬送・組付,先進自動運転支援ADAS検査機器などの進化と適用が進んでいる.電動化デバイスであるモータ磁石や各種電池に必要とされるレアアース(Nd,Co,Ptなど)希少金属材料などの使用量削減と共に,資源リサイクル・材料再資源化技術への取組みも加速されている.

〔倉橋 秀範 本田技研工業(株)〕

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20.1.5 基礎研究

 自動車に対する新しい付加価値としてCASE「Connected:コネクティッド化」「Autonomous:自動運転化」「Shared/Service:シェア/サービス化」「Electric:電動化」をキーワードとした研究は近年益々盛んになってきており,2019年においてはそれらの実現のための基礎研究がより多く見られ,当面この傾向は続くと思われる.
 2019年に発表された自動車技術の内容を振り返ると,それらの研究は「走行状況を正しく認識するための推定技術」,「ドライバの安心安全を向上させるための技術」に大別できる.前者の研究としては,走行経路と速度プロファイルの研究(1),推定方法やオブザーバに関する研究(2),車載カメラによる車体挙動の研究(3),車両運動の解析に関する研究(4)(5)などがあげられる.後者の研究としてはシミュレーションを活用した評価技術の研究(6)(7)や,生体反応や人間行動の研究(8)-(10),パーソナルモビリティの運転行動に関する研究(11)(12)などがあげられる.いずれも自動車を交通システムの一要素として捉え自動車と外部環境との関係を研究することに主眼が置かれているのが特徴である.
 交通社会-自動車-人,間の相互作用に関係する基礎研究は今後も更に活況を呈し,それらの成果が複合して新たな付加価値を生み出し,交通システム全体を最適化することで,将来の自動車社会に大きな変革をもたらすと期待されている.

〔豊島 貴行 (株)本田技術研究所〕

参考文献

(1)(文献番号19-309)山本ほか,自動運転自動車の交差点通行時の走行経路と速度プロファイルに関する理論的考察,日本機械学会第28回交通・物流部門大会予稿集(2019).講演No.1103
DOI: 10.1299/jsmetld.2019.28.1103
(2)(文献番号19-309)楊ほか, 異なる推定方法のオブザーバによるロバスト操舵制御則の外乱抑制効果の比較,日本機械学会第28回交通・物流部門大会予稿集(2019).講演No.1011
DOI: 10.1299/jsmetld.2019.28.1111
(3)(文献番号19-309)熊澤ほか, ドライブレコーダー映像における単眼車載カメラのピッチ角推定,日本機日本機械学会第28回交通・物流部門大会予稿集(2019).講演No.3103
DOI: 10.1299/jsmetld.2019.28.3103
(4)(文献番号19-309)大塚ほか, 一般化α法を用いたリアルタイム車両運動解析,日本機械学会第28回交通・物流部門大会予稿集(2019).講演No.2101
DOI: 10.1299/jsmetld.2019.28.2101
(5)(文献番号19-309)門崎ほか, 車両の過渡姿勢が制動感に及ぼす影響に関する研究, 日本機械学会第28回交通・物流部門大会予稿集(2019).講演No.1019
DOI: 10.1299/jsmetld.2019.28.1019
(6)(文献番号19-309)藏本ほか, 非線形特性を有する要素を含むHILSシステムの特性評価, 日本機械学会第28回交通・物流部門大会予稿集(2019)).講演No.2102
DOI: 10.1299/jsmetld.2019.28.2102
(7)(文献番号19-309)山口ほか,市街地路走行における危険予測運転に基づいた自動操舵モデル構築のためのリスクポテンシャル推定法, 日本機械学会第28回交通・物流部門大会予稿集(2019).講演No.3102
DOI: 10.1299/jsmetld.2019.28.3102
(8)(文献番号19-309)藤田ほか, 動物の飛び出しが原因で発生するヒヤリハットの発生状況, 日本機械学会第28回交通・物流部門大会予稿集(2019).講演No.2106
DOI: 10.1299/jsmetld.2019.28.2106
(9)(文献番号19-309)河野ほか, 空間電位変動を利用した歩行検知の特性向上, 日本機械学会第28回交通・物流部門大会予稿集(2019).講演No.2107
DOI: 10.1299/jsmetld.2019.28.2107
(10)(文献番号19-309)関根ほか, アクセルとブレーキのペダル段差がペダル踏み間違いに及ぼす影響の分析,日本機械学会第28回交通・物流部門大会予稿集(2019).講演No.2108
DOI: 10.1299/jsmetld.2019.28.2108
(11)(文献番号19-309)松田ほか, リーン機構を有するパーソナルモビリティビークルの車両特性を考慮した運転行動に関する研究, 日本機械学会第28回交通・物流部門大会予稿集(2019).講演No.2202
DOI: 10.1299/jsmetld.2019.28.2202
(12)(文献番号19-309)浅田ほか, パーソナルモビリティの振動解析と乗り心地に関する一考察, 日本機械学会第28回交通・物流部門大会予稿集(2019).講演No.2203
DOI: 10.1299/jsmetld.2019.28.2203

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20.2 鉄道

20.2.1 概況

 国土交通省ホームページの鉄道車両等生産動態統計調査(1)によると,2019年1月から12月までの1年間の車両生産数は,総生産数1984両(内新幹線車両290両)で,国内向け車両が1751両,輸出向け車両が233両であった.2018年1年間の総生産数は,1857両(内新幹線240両,国内向け1513両,輸出向け344両)であり,2019年は,前年比で総生産数+7%(内新幹線車両数+21%)で,国内向け車両数+16%,輸出向け車両数-32%,という結果であった.
 10月には,台風第19号が大型で強い勢力のまま伊豆半島に上陸した後,関東地方を通過し,東北地方の東海上に抜けた.東日本を中心に17地点で500ミリを超える記録的な大雨となり,鉄道関係でも,線路への土砂流入や路盤・道床流出,浸水等の数多くの被害が発生した.なかでも,千曲川の決壊により,北陸新幹線の長野車両センターが冠水し,電気設備や留置車両10編成が浸水被害を受けた(2).一昨年に続き,大雨被害が発生し,改めて自然災害に対する対策の必要性が認識された.
 11月27日~29日に第28回交通・物流部門大会(TRANSLOG2019)がサテライトキャンパスひろしまで開催され,12月4日~6日に第26回鉄道技術連合シンポジウム(J-RAIL2019)が国立オリンピック記念青少年総合センターで開催され,鉄道分野の研究開発成果が数多く報告された.また,11月27日~29日には,第6回鉄道技術展が開催され,鉄道車両技術に加えて,ホームドアやメンテナンス機器等の周辺設備に関する技術も多数紹介された.
一方,鉄道技術に関する主な国際会議では,10月28日~11月1日までの5日間にわたり,東京国際フォーラムにて,「カスタマー・エクスペリエンスを高めるための鉄道研究」をメインテーマに,第12回世界鉄道研究会議WCRR2019が開催された.

 

20.2.2 新幹線・リニアモーターカー

 次世代新幹線車両の開発が進められており,安全性,快適性,環境性,速達性を向上させる取り組みが続けられている.
 東海道・山陽新幹線の次期モデルN700Sは走行試験が続けられており,2019年6月には,最高360km/hでの高速試験走行が行われ,車両性能が確認された.また,高速鉄道として初めて採用される「バッテリー自走システム」は,2019年7月~8月にかけて,30km/hでの試験確認が行われた.これにより,自然災害等による架線停電時に乗客を安全な場所に移動させるといった安全性向上が図られている.台車についても,軽量化のための台車枠の構造改良,低騒音化のための歯車装置の改良,乗り心地向上のためのフルアクティブ制振制御の採用といった技術が盛り込まれている.その他,主回路機器においても,高速鉄道で初となるSiC素子を搭載したシステムが採用されている.営業投入は,2020年7月からの予定であり,2020年度中に12編成,2021年度と2022年度にそれぞれ14編成の導入が計画されている(3)
 東北新幹線においては,次世代新幹線の開発プラットフォームとして,試験車両「ALFA-X」E956形が5月に完成し,最高360km/hでの営業運転に向けた走行試験が開始された.技術的な特徴では,地震安全対策として,脱線しにくくするための地震対応ダンパ及びクラッシャブルストッパ,早く止まるための空力抵抗板ユニット及び電磁力を利用したレール電磁吸着ブレーキが搭載された.快適性向上には,上下方向と左右方向の揺れを抑えるための制振装置,車体傾斜制御装置が備わる.また,環境性向上のため,トンネル突入時の圧力波の抑制を図るため,22mのロングノーズ形状の試験も行われる.また,メンテナンス性向上には,地上・車両のモニタリングとCBM(Condition Based Maintenance)が盛り込まれる.なお,「ALFA-X」の走行試験は2022年3月まで行われる予定で,最高速度360km/hの走行に加えて,高速性能試験として,最高速度400km/hで試験走行することも発表されている(4)
 北海道新幹線では,2019年3月のダイヤ改正から,青函トンネル内における北海道新幹線の最高速度を140km/hから160km/hに速度向上させて,東京-新函館北斗区間の所要時間を最大4分短縮(最短で3時間58分)し,「4時間切り」を達成した.引き続き,更なる高速化に向けて,2019年9月~10月にかけて,青函トンネル内で新幹線が200km/h超で走行した際のレールへの影響や風圧を確認する試験が行われた(5).今後,試験データの分析が行われ,同トンネル内での更なる高速化が進められていく予定である.
 リニアモーターカーについては,2027年の東京~名古屋間の開業に向けて工事が進められており,営業車両の仕様策定に向け,L0系をブラッシュアップさせた改良型の試験車を製作中で,2020年春に完成予定という.技術的な改良として,①先頭形状の最適化による空気抵抗低減(約13%),②前照灯・前方視認用カメラ位置を上部に変更することによる前方視認性向上,が挙げられている(6)

 

20.2.3 在来鉄道・都市鉄道

 在来鉄道,都市鉄道では,AI/IoTの進展に伴い,CBMを取り入れる試みが広がっており,車両や軌道だけでなく,ホームドア等の駅設備を含めた鉄道システム全体に対して取り組みが拡大しつつある.車両状態モニタリングでは,台車の振動や温度,運転パネルに表示される情報等を地上側に送信し,正常時のデータとの比較による異常早期検知や異常発生後の車上/地上間の情報共有に活かされるようになってきた.また,軌道状態モニタリングでは,レーザセンサやカメラセンサを営業車両に搭載し,レールの狂いや締結装置の検査が行われるようになってきた.今後,モニタリングにより集められた大規模データに対して,機械学習やAIを用いた分析手法の適用による技術開発の進展が期待される.
 また,自動化もトレンドの一つとなってきており,在来鉄道・都市鉄道の自動運転化に向けた試みが広がっている.1月には東京・山手線での自動運転試験が公開され,12月には福岡・香椎線でも自動運転試験が公開された.最近では,大阪環状線でも自動運転の実車走行試験が試みられている状況である.このように自動化は,前記したモニタリングによる検査自動化だけでなく,運行業務の領域にも広がっており,今後の自動化技術の進展が期待される.
 電力関係では,鉄道システムへの蓄電装置の活用が多様化してきている.機関車や気動車に対しては,エンジンと蓄電装置のハイブリッド化や,架線システムと蓄電池のハイブリッド化が進んできている.また,新幹線や在来鉄道でも,非常走行用の電源として蓄電装置を搭載した車両が増加してきている.なお,蓄電装置においては,リチウムイオン電池や燃料電池,スーパーキャパシタといった各種装置が,車両の運用方法を加味して適用性の高いものが選定採用されている.
 以上のように,鉄道の安全性,信頼性を更に高めるための技術開発が継続的に行われている.

21.2.4 海外鉄道市場の開拓

 2019年3月には,インドネシアの首都ジャカルタにおいて,同国初の地下鉄となるジャカルタ都市高速鉄道の運行が開始された.本システムは円借款を活用して建設されたもので,土木工事,車両の製造,電力設備,運行システム等の整備工事の全てを日本企業が実施したオールジャパンによる「日本式」の都市鉄道建設事業となったものである(7).運行開始後も,日本企業JVによる運営維持管理支援を行い,高い定時運行率を達成しているとの事である(8)
 今後とも,日本の高品質な鉄道技術を活かし,オールジャパンでの日本式鉄道システムが世界に広がることが期待される.

〔河野 浩幸  三菱重工業(株)〕

参考文献

(1)鉄道車両等生産動態統計調査,国土交通省
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&toukei=00600310 (参照日2020年3月24日)
(2)令和元年台風第19号等による被害状況等について,国土交通省
http://www.mlit.go.jp/saigai/saigai_191211.html (参照日2020年3月9日)
(3)JR東海 新幹線「N700S」量産車第一編成の搬出作業を公開,トラベルWatch
https://travel.watch.impress.co.jp/docs/news/1237392.html (参照日2020年3月9日)
(4)新幹線の試験⾞両ALFA-X まもなくデビュー,東日本旅客鉄道株式会社
https://www.jreast.co.jp/press/2018/20190315.pdf (参照日2020年3月9日)
(5)北海道新幹線 青函共用走行区間における高速走行試験について,鉄道・運輸機構(JRTT)
https://www.jrtt.go.jp/corporate/public_relations/pdf/press20190711-1.pdf (参照日2020年3月9日)
(6)超電導リニア 改良型試験車の製作について,東海旅客鉄道株式会社
https://jr-central.co.jp/news/release/_pdf/000039077.pdf (参照日2020年3月9日)
(7)「インドネシア初となる地下鉄開通:ジャカルタ都市高速鉄道(MRT南北線)開業式典」~オールジャパンの支援による地下鉄開業~,独立行政法人 国際協力機構(JICA)
https://www.jica.go.jp/press/2018/20190325_01.html (参照日2020年3月9日)
(8)「日本式」ジャカルタ地下鉄,開業半年の通信簿,東洋経済ONLINE
https://toyokeizai.net/articles/-/316385 (参照日2020年3月9日)

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20.3 航空宇宙

20.3.1 概況

 (一社)日本航空宇宙工業会によると,2019年の航空機生産額は2018年より35億円増の1兆8257億円となった.2013年から2015年まで増額基調が続いた後,2016年は一旦減額となったが,2017年以降は再び穏やかな増額基調となっている(1).また,国土交通省航空局によると,2019年12月末の登録航空機数は2,866機となった.毎年末の登録航空機数がピークだったのは1991年末の2,882機であり,その後,減少基調となったが,2011年末の2,633機で底を打ち,以降は増加基調となり現在に至っている(2).日本政府観光局(JNTO)によると,2019年の訪日外客数は前年比2.2%増の3,188万2千人で,JNTOが統計を取り始めた1964年以降,最多の訪日外客数となった(3).航空旅客の増加に伴い,首都圏空港の更なる機能強化に向けた取り組みが進められている.羽田空港では,2018年10月より実施していた羽田空港第1ターミナルのリニューアル工事が,2019年9月30日に完了した(4)

 

20.3.2 航空

 国内における航空機分野に関して,三菱重工はボンバルディア・エアロスペース社(カナダ)とCRJ(双発ジェット旅客機)の事業買収に向けた協議を進めていることを明らかにした.三菱重工の子会社である三菱航空機は,2019年6月13日に開発を進めている国産リージョナルジェット機の名称をMitsubishi Regional Jet(MRJ)からMitsubishi SpaceJet(三菱スペースジェット)に変更すると発表した(5).2020年3月時点において型式証明試験中の機体(従来の「MRJ90」)は「SpaceJet M90」,70席クラスの短胴派生型(従来の「MRJ70」)は「SpaceJet M100」とそれぞれ改称する.また,川崎重工は2019年12月16日,ボーイング787の1000号機用前部胴体の完成を記念して,出荷式を開催した(6).SUBARUは,2019年6月18日に,米国ベル社との協力のもとSUBARU BELL 412EPXを世界初受注したことを発表した(7)
 ボーイング社(アメリカ)は737MAXの墜落事故2件について,機体を制御するためのMCAS(Maneuvering Characteristics Augmentation System)に不具合があることを認めた.2020年3月現在,737MAXの引き渡しは中止しており,FAA(Federal Aviation Administration)によるMCASのソフトウエア修正版の認証取得に取り組んでいる(8).737MAXの運航再開時期については,2020年半ばになる見通しである.一方,エアバス社(欧州)はA321neoの航続距離をさらに延長した超長距離型,A321XLRを2019年6月17日,ローンチした(9).従来型(A321LR)と比較して航続距離が15%長くなっており,2023年の納入開始を予定している.また, エアバスはA220の製造が100機に到達し,記念式典がA220プログラムの本拠地であるカナダのミラベルで開催された(10)

 

20.3.3 宇宙

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は,2020年度のH3ロケット試験機1号機の打上げに向け,H3ロケット用固体ロケットブースタ(SRB-3)の開発を進めている.2019年8月28日にSRB-3開発の一環として認定型モータ地上燃焼試験実施し,予定したデータを取得した(11)
 種子島宇宙センターから2014年12月3日に打ち上げられた小惑星探査機「はやぶさ2」に搭載した衝突装置が,2019年4月5日,小惑星Ryugu(リュウグウ)に向けて分離され,人工クレーターが生成された(12).また,リュウグウへの2回のタッチダウンおよびリュウグウの試料を採取する運用を成功させた(13).2019年11月13日の「はやぶさ2」の運用において,「はやぶさ2」の化学推進系スラスタを噴射して軌道制御の運用を行い,小惑星Ryuguからの出発を確認した(14)
 2019年はアポロ11号の月着陸(1969年)からちょうど50周年にあたり,火星に宇宙飛行士を送り込む準備としての持続的な月開発を目的としたArtemis(アルテミス)プログラムが発表された(15).2024年までに月へ宇宙飛行士(初の月への女性宇宙飛行士を含む)を送り込む予定とのことである.より重いペイロードを月面に届けることができる月着陸船を提案するため,Blue Origin社やSpaceX社等複数の米国企業が計画に参画している(16)

〔今村 太郎 東京大学〕

参考文献

(1)令和元年航空機生産額は前年比342億円の増額,(一社)日本航空宇宙工業会https://www.sjac.or.jp/common/pdf/kaihou/202003/20200304.pdf (参照日2020年3月22日)
(2)登録航空機の推移(1967年(S42)から2019年(H31,R1)まで), 国土交通省航空局
https://www.mlit.go.jp/common/001323294.xlsx (参照日2020年3月22日)
(3)訪日外客数(2019 年 12 月および年間推計値), 日本政府観光局(JNTO)
https://www.jnto.go.jp/jpn/statistics/data_info_listing/pdf/200117_monthly.pdf (参照日2020年3月22日)
(4)羽田空港第 1 ターミナル リニューアル工事完了,日本空港ビルデング株式会社
https://tokyo-haneda.com/old_resource/files/whats_new/1337_0930_1259.pdf (参照日2020年3月22日)
(5)三菱航空機,開発中のリージョナルジェット機はMitsubishi SpaceJetファミリーへ,三菱航空機株式会社 https://www.mitsubishiaircraft.com/ja/latest/mitsubishi-aircraft-corporation-introduces-the-mitsubishi-spacejet-family-of-aircraft (参照日2020年3月22日)
(6)ボーイング787型機1000号機用の前部胴体が完成,川崎重工業株式会社
https://www.khi.co.jp/pressrelease/detail/20191216_2.html (参照日2020年3月22日)
(7)「SUBARU BELL 412EPX」 警察庁から世界初受注を獲得,株式会社SUBARU
https://www.subaru.co.jp/press/news/2019_06_18_7383/ (参照日2020年3月22日)
(8)737 MAXの認証と運航再開について,ボーイング
https://www.boeing.jp/ニュース/プレスリリース/2019/may/737-MAX-Certification-and-Return-to-Service.page (参照日2020年3月22日)
(9)A321XLRをローンチ,Airbus Japan Newsletter/June 2019
https://www.airbus.com/content/dam/channel-specific/website-/company/global-presence/japan/japan-newsletter-june2019.pdf (参照日2020年3月22日)
(10)A220,製造100機に到達,Airbus
https://www.airbus.com/company/worldwide-presence/japan/japan-jp/news.html (参照日2020年3月22日)
(11)H3ロケット用固体ロケットブースタ(SRB-3)認定型モータ地上燃焼試験(その1)の結果について
http://www.jaxa.jp/press/2019/08/20190828b_j.html (参照日2020年3月22日)
(12)小惑星探査機「はやぶさ2」衝突装置運用の成功について
http://www.jaxa.jp/press/2019/04/20190425a_j.html (参照日2020年2月24日)
(13)小惑星探査機「はやぶさ2」第2回目タッチダウン成功について
http://www.jaxa.jp/press/2019/07/20190711a_j.html (参照日2020年2月24日)
(14)小惑星探査機「はやぶさ2」の小惑星Ryugu出発について
http://www.jaxa.jp/press/2019/11/20191113a_j.html (参照日2020年2月24日)
(15)Humanity’s return to the moon, NASA, https://www.nasa.gov/specials/artemis/ (参照日2020年3月22日)
(16)New Companies Join Growing Ranks of NASA Partners for Artemis Program, NASA
https://www.nasa.gov/press-release/new-companies-join-growing-ranks-of-nasa-partners-for-artemis-program (参照日2020年3月22日)

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20.4 船舶

20.4.1 概況

 2019年の世界の新造船建造量(竣工量)は2018年の約5,783万総トン(2,400隻)から約6,614万総トン(2,541隻)と14%程度増加した.日本は約1,621万総トン(493隻)とシェア24.5%で,中国の34.8%,韓国の32.9%に次いで,世界第3位であった.一方,2019年の世界の新造船受注量は,2018年の約5,040万総トン(1,608隻)から約4,149万総トン(1,374隻)と18%程度減少している.そのうち,日本は約671万総トン(296隻)とシェア16.2%で,韓国の41.9%,中国の32.9%に次いで,世界第3位であった(1)
 世界の造船業は,本来公正な国際競争のもとに発展してきたが,近年,一部の造船国において政府よる大規模な公的助成がなされており,日本は,この公的支援措置が世界的な船舶の供給過剰の要因の一つであると考えている.この是正のため,現在,WTO紛争解決手続きが取られている(2)(3)

 

20.4.2 話題

 近年,海事分野においては,海上ブロードバンド通信の進展や,ICTを活用した運航支援技術の高度化を背景に,自動運航船の導入に向けた動きが世界的に活発化してきている.また,上記概況で述べたような造船業のシェア確保における国際的課題もある.これらを踏まえ,日本では,海事生産性革命の一つの柱として,造船の輸出拡大・海運の効率化を目指し,国際的競争力向上を図るため,船舶の開発・建造から運航に至るすべてのフェーズにICT等を取り入れたi-Shippingが進められている(4)
 開発・設計段階においては,新船型開発及び基本性能確認に必須の大型水槽試験を代替するCFDの精度向上に取り組んでいる.また,船舶では船内に各種の配管があり,その配置図面作成が生産設計において負担となっている.そこで,AIを活用した設計支援の検討が開始されている.
 建造段階においては,AIを活用した自動溶接ロボットの開発,造船工程の見える化システムの開発などの技術開発に取り組んでいる.
 運航段階においては,前述の通り,自動運航船に関する世界的に活発な動きがあり,日本においても,2025年までの実用化を目指した取り組みがなされている.2018年度からは,自動運航船の主要技術である,自動操船機能,遠隔操船機能及び自動離着桟機能に関する実証事業が,海運会社及び造船会社を中心に共同体制を組んで進められている.
 自動運航船に関しては,さらに,2020年から大規模な自動運航船の実証実験が開始される予定であり(5),商業運航に向けた国内での動きがさらに活発になる見込みである.

〔宮崎 恵子 海上技術安全研究所〕

参考文献

(1)造船関係資料2020年3月,日本造船工業会,
https://www.sajn.or.jp/data/view/736b4af974583ad6d80a0a6f64528502892842cf (参照日2020年4月3日)
(2)造船業における公正な国際競争環境の整備に向けて,日本造船工業会,
https://www.sajn.or.jp/press/view/d59ac3c72d6f8d681d98e01a046b91af5068d3d5 (参照日2020年4月3日)
(3)報道資料,国土交通省,http://www.mlit.go.jp/report/press/kaiji05_hh_000209.html (参照日2020年4月3日)
(4)海事レポート2019,国土交通省,https://www.mlit.go.jp/maritime/maritime_tk1_000083.html (参照日2020年4月3日)
(5)無人運航船の実証実験にかかる技術開発助成プログラム申請ガイド,日本財団,
https://www.nippon-foundation.or.jp/grant_application/programs/unmanned-ships (参照日2020年4月3日)

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20.5 昇降機・遊戯施設

20.5.1 概況

 日本エレベーター協会の2019年調査(1)による2018年度の国内の昇降機全体の新規設置台数は27,416台(2017年度28,113台)であり,2015年度以降は27千台から28千台を推移している.新規設置台数の内訳は,エレベーターが23,697台(2017年度23,943台),エスカレーターが1,504台(2017年度1,360台),小荷物専用昇降機が2,097台(2017年度2,398台),段差解消機が118台(2017年度412台)であった.建物の用途別に見ると,2016年度以降の3年間で住宅,商業施設,事務所,工場・倉庫,駅舎・空港の昇降機が増加しているのに対し,病院・福祉は減少している.

20.5.2 技術動向

 国内の講演会では,ガイド機構の摺動音対策,SEAを用いたかご内騒音予測などの振動・騒音に関する研究,およびロープ横揺れの現象解明・リスク分析に関する研究発表が行われた.また,混雑状況表示,乗り込み状況判定などサービス性に関する研究や,レールブラケットの締結,ワイヤロープの健全性評価などの据付・保守作業軽減に関する研究も発表された.(2020年1月:技術講演会“昇降機・遊戯施設の最近の技術と進歩”).また,画像処理技術を活用したロープ状態の点検(2)など,情報,電子分野の技術を昇降機の安全性向上に適用する開発が進められている.

〔渡辺 誠治 三菱電機〕

参考文献

(1)一般社団法人日本エレベーター協会, 2018年度昇降機設置台数等調査結果報告, Elevator Journal No.26,(2019).
(2)交通物流部門ニュースレターNo.59, 日本機械学会
https://www.jsme.or.jp/tld/home/topics/no059/topics3.html (参照日2020年3月27日)

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20.6 荷役運搬機械

20.6.1 概要

 経済産業省の生産動態統計(確報)による,2019年1月~12月の荷役運搬機械運搬機械からエレベータエスカレータを除いた)生産額は,4,487億円(2018年度比0.4%,19億円増)であった.このうち,クレーンは2018年度比6.2%増,巻上機は3.6%減,コンベヤは3.6%増,機械式駐車装置は29.1%増,自動立体倉庫装置は15.5%減である.
 (一社)日本産業車両協会の調査による,2019年1月~12 月のフォークリフト生産台数は11.1万台で,2018年度比9.2%減,輸出を含めた販売台数は8.6%減,国内販売台数は4.4%減の状況である.
 2020年の設備投資は,日銀短観の3月調査では例年並みの出だしとなったものの,新型コロナによる経営環境の悪化を十分に織り込んでいない可能性が高いため,大きく減少すると考えられる.

〔上田 雄一 (株)ダイフク〕

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20.6.2 物流システム機器

 2018年度の物流システム機器の総売上金額は,2017年度の4,626億円から26.6%増の5,859億円となった.一方,売上件数も2017年度の139千件から142千件へと増加した(前年度比1.7%増).
 機種別に見ると,自動倉庫が1,390億(前年度比21.5%増),コンベヤが1,268億(前年度比17.1%増),台車関連が1,299億(前年度比62.2増),棚が307億(前年度比0.6%微減)となっている.
 設備投資意欲はここ数年継続して高まっており,総売上金額は5,000億を超え,過去最高額となった.前述の受注金額が増加傾向にあることを踏まえると,拡大する需要に応えるべく,メーカー各社が供給能力を高め,大規模案件を中心として着工・出荷対応がなされたものと推察される.
売上金額を領域別に見ると,海外向けは24.0%増加し,クリーンルーム向けも50.3%の増加となった.業種別に見ると,「電機・精密機器」に対する売上の比率が依然として高水準となっている.

〔長部 洋介 住友重機械搬送システム(株)〕

参考文献

2018年度 物流システム機器生産出荷統計 【概要版】,(公社)日本ロジスティクスシステムシステム協会
https://www1.logistics.or.jp/Portals/2018__mh_statistics.pdf

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20.6.3 運搬車両

 2019年の産業車両の国内生産実績は3,286億円(前年比90.9%),うち,主力機種のフォークリフトは2,271億円(前年比90.4%),110,759台(前年比90.8%)で,いずれも3年ぶりの減少となった(表1).ただし,台風被害により部品供給が滞ったことが生産減少の一因となっており,需要そのものについては,国民生活や産業活動に必要な物流機能を安定的に確保するため,国が主唱する「ホワイト物流」推進運動等も展開されていることから,フォークリフト等を活用した物流改善の動きも広がっており国内市場の動きは底堅いと考えられる.

 

表6-1 産業車両及びフォークリフト生産実績


 フォークリフトの国内販売では,電池を搭載した電気駆動車の割合が4年連続で全体の6割を超え,水素を燃料とする燃料電池車も国内各地で導入が進んでいる.各メーカーでは,ロボティクス,IoTや次世代電池等の新技術を取り込んだ,物流の効率化,安全向上,環境負荷低減に貢献する信頼性の高い商品やソリューションの開発と提供を引き続き推進している.
 自動で走行・荷役を行うことができる無人搬送車システム(AGVS)も,これまでは製造業向けが多かったが,物流施設等の非製造業分野でも導入が進み,床面への誘導体の設置が不要な,自律移動式の導入も増えている.なお,無人搬送車システムに関する世界初の国際安全規格ISO3691-4が,2020年2月に発行された.

〔高瀬 健一郎 一般社団法人日本産業車両協会〕

参考文献

フォークリフト生産・販売統計, 一般社団法人日本産業車両協会
http://www.jiva.or.jp/data.html
無人搬送車システム納入実績, 一般社団法人日本産業車両協会
http://www.jiva.or.jp/pdf/AGV-Stat-2018.pdf

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