6. 流体工学
6.1 はじめに
6.2 圧縮性流れ
6.3 非平衡流
6.4 流体機械
6.5 CFD
6.6 壁乱流
6.7 乱流遷移
6.8 計測・流れの可視化
6.9 流れの制御
6.10 非ニュートン流れ
6.11 生体・生物
6.12 混相流
6.13 自然エネルギー
6.1 はじめに
流れを扱う学問は経験と古典力学をベースにして,利便性を考慮してまとめた水力学,微分幾何学に代表される数理解析を主とした流体力学,技術の発達と実験による機械の創造を可能にした流体工学という発展を遂げてきた.20世紀以後,ナビエストークス方程式を典型とする基礎方程式に基づき,テクノロジーの進歩による実験流体力学と数値流体力学が両輪となって産業機械,自動車,航空宇宙産業,医療機器等に次々と新しいページが追加されてきた.速度,圧力,流体力といった量を扱う物理学に支持され,流体工学は発展し続けるCAEの中では常にリードする存在である.
2019年度の研究動向に関する調査は,壁乱流,乱流遷移,流体機械,圧縮性流れ,非ニュートン流れ,混相流という比較的古典的なもの,テクノロジーの進歩が顕著にみられるCFD,可視化・流れの計測,非平衡流,流れの制御,他分野とも関係する生体・生物,自然エネルギーという12項目について行った.流れの数値計算は様々な分野で活用され,量子コンピュータ活用の試みといった新規性の高い取り組み,一方で設計開発の一般的ツールとしての可能性の確認と実用性の向上といったことが推進されている.近年では,計算機能力の向上と計算技術の進歩により,後に実験による検証を必要とする物理現象の発見がなされるようになってきた.次世代スーパーコンピュータ富岳の稼働や量子コンピュータの登場により,この流れの数値計算はさらに発展する様相である.この動きに呼応し,実験による現象の確認に対する必要性と頻度はより高まる傾向にあり,実験計測技術の進歩も留まることを知らない.特に,カメラ性能の向上と低価格化により画像計測の発展は著しい.圧縮性流れの計測において開発されているFLEETは他分野においても期待される計測技術である.非定常で複雑な流れ場全体の速度,圧力,濃度の空間分布が必要とされ,その定量化を実現できる手法が開発されている.時間分解能が優れる熱線センサーについても,数十マイクロというサイズのセンサーが実現されている.実験および計算の両手法に対して機械学習や深層学習が新しい可能性を与え.これらにより構築されたエキスパートシステムが人には見いだせない現象を抽出するアルゴリズムが提案されている.流体工学の優れた計測および解析能力は様々な分野で活躍し,テクノロジーの投入により更なる発展を続け,次世代における機械を創造への寄与が期待されてる.
〔望月 信介 山口大学〕
6.2 圧縮性流れ
流体の圧縮性はマッハ数が0.3を越えたあたりから顕著になる.マッハ数が2.2を越えると,流体が持つ運動エネルギーはエンタルピーを卓越する.このような高速流体が物体壁面や淀み点近傍で減速すると,急激な温度回復が生じる.これに伴い粘性係数などの物性値が急激に変化し,非圧縮性流体にはない熱力学的な効果を考慮しなければならなくなる.さらにマッハ数が5を越えると,速度変動のみならず,密度変動の影響が顕著となり,境界層遷移や乱流に影響が生じると言われている.このように,流体の圧縮性は高速流れで重要となるため,工学的には航空宇宙産業との結び付きが強い.ここでは主に航空宇宙分野に着目し,2019年度の研究動向を概観する.
毎年1月に開催されるアメリカ航空宇宙学会年会(AIAA Scitech Forum)では,アメリカのみならず世界中から著名な研究者が集まり,2500件近い発表が行われる.2019年の会議で特別セッションなどが組まれ関心を集めたセッションとして,① 高レイノルズ数における空気力学,② 極超音速領域における境界層遷移 などがあった.
①の高レイノルズ数空力に関しては,Scitechの特別セッションの他に,航空機実機相当の高レイノルズ数で試験が可能な極低温風洞を有するヨーロッパ(1)とアメリカ(2)で,それぞれ2019年5月と6月にワークショップ(3)が開かれ,各国研究者の意見交換が活発に行われていた.特に印象的だったのは,極低温風洞でも適用可能な非接触の速度計測法(FLEET)の開発(4)(5)に関する講演で,2019年と2020年のScitech Forumでも,これに関連する発表が7件あり,その関心の高さが伺える.この手法ではフェムト秒レーザーにより空気中に含まれる窒素内の電子を励起し,その緩和の際に発生する光をトレーサ(タグ)として速度を計測する.この手法では気流にトレーサを添加する必要がなく,簡便なセットアップで速度が計測できるため,極低温風洞のみならず,様々な風洞への展開が期待される.数値計算に関しても,ナビエ・ストークス方程式を解く一般的な手法ではなく,気体分子の統計的な振る舞いを記述するボルツマン方程式を解く格子ボルツマン法(6)(7)を用いて,ノズルを含めた試験部全域を計算することで,既存の手法より実験結果を精度良く再現できるとの報告が印象深かった.圧縮性流れの格子ボルツマン法に関しては,2019年に14件の論文(Scopus参照)があり,被引用件数も高い(例えば文献(8)や(9)).なお高レイノルズ数空力に関しては国内でも研究会が立ち上がり,現在研究が活発に行われつつある.
②の研究は境界層の遷移を取り扱う基礎研究であると同時に,極超音速旅客機の開発を目指したもので,極超音速域における正確な乱流遷移を予測する手法の確立を目指している.これらの研究では,気流擾乱がない飛行試験データと,静粛極超音速風洞を含む様々な風洞で計測されたデータが比較され,乱流遷移の位置と主流乱れの関係が見出された.またこれらデータを用いて,遷移を正確に予測する数値計算ツールが整備されている.アメリカではこれまでに2度,極超音速での境界層遷移の飛行試験が行われ,2020年5月には3回目の飛行試験(10)が予定されている.なお静粛極超音速風洞を用いた乱流遷移の研究は文献(11)に詳しい.また2020年に行われたScitechでは,静粛極超音速風洞の生みの親であるSchneider博士の生誕60年を祝って,極超音速領域における境界層遷移の特別セッションが行われた.
〔河内 俊憲 岡山大学〕
参考文献
(1)European Transonic Windtunnel, ETW,
https://www.etw.de/uploads/pdfs/ETW_Information_E.pdf(参照日2020年4月2日)
(2)NASA’s Aeronautics Test Program National Transonic Facility, NASA,
https://www.nasa.gov/sites/default/files/atoms/files/m187007_ntfprint_508.pdf(参照日2019年4月2日)
(3)AVT-328-RTC- Impact and Advanced Implementation of Cryogenics in Aerodynamic Testing,
https://events.sto.nato.int/index.php/upcoming-events/event-list/event/25-tc/235-avt-328-rtc-impact-and-advanced-implementation-of-cryogenics-in-aerodynamic-testing-cologne-ge, https://events.sto.nato.int/index.php/upcoming-events/event-list/event/25-tc/235-avt-328-rtc-impact-and-advanced-implementation-of-cryogenics-in-aerodynamic-testing-cologne-ge(参照日2020年4月2日)
(4)Reese, D., Danehy, P., Jiang, N., Felver, J., Richardson D., Gord J., Application of Resonant Femtosecond Tagging Velocimetry in the 0.3-Meter Transonic Cryogenic Tunnel, AIAA Journal, Vol. 57, No. 9(2019), pp. 3851-3858.
(5)Dogariu, L. E., Dogariu, A., Miles, R. B., Smith M. S., Marineau E. C., Femtosecond Laser Electronic Excitation Tagging Velocimetry in a Large-Scale Hypersonic Facility, AIAA Journal, Vol. 57, No. 11(2019), pp. 4725-4737.
(6)König, B., Fares E., Wright, M., Lattice Boltzmann Simulation of the ETW Slotted Wall Test Section, NATO STO Symposium AVT-284, MP-AVT-284-12.
(7)Singh, D., König, B., Fares, E., Murayama, M., Ito, Y., Yokokawa, Y., Yamamoto, K., Lattice-Boltzmann Simulations of the JAXA JSM High-Lift Configuration in a Wind Tunnel, AIAA Scitech 2019 Forum, AIAA 2019-1333(2019).
(8)Mostafa, S. S., Numerical simulation of compressible flows by lattice Boltzmann method, Vol. 75(2019), Pages 167-182.
(9)Saadat, M. H., Bösch, F., Karlin, I. V., Lattice Boltzmann Model for Compressible Flows on Standard Lattices: Variable Prandtl Number and Adiabatic Exponent, Physical Review E, Vol. 99, 013306(2019).
(10)Kostak, H. E., Bowersox, R., McKiernan, G. R., Graham, J. T., Candler, V., King, R. A., Freestream Disturbance Effects on Boundary Layer Instability and Transition on the AFOSR BOLT Geometry, AIAA Scitech 2019 Forum, AIAA 2019-0088(2019).
(11)Chynoweth, B. C., Schneider, S. P., Hader, C., Fasel, H., Batista, A., Kuehl, J., Juliano, T.J., Wheaton, B.M., History and progress of boundary-layer transition on a Mach-6 flared cone, Journal of Spacecraft and Rockets, Vol. 56, No 2(2019), pp. 333-346.
6.3 非平衡流
Scopusに収録された2019年発行の学術論文に関して,特に機械工学に関連する学術雑誌に絞った上で“Non-equilibrium flow”をキーワードに検索した結果,およそ670件が該当した.その中から被引用数が多く重要性が高いと考えられる論文を中心に示す.
本節では,分子間衝突における平均自由行程ほどの代表長さを対象とし,連続体近似を十分に満足する分子集団を指して広い意味での流体要素と定義する.さらにより狭義の解釈として連続体近似と同時に流体要素内部にて分子間衝突が十分になされた結果,局所的に熱力学平衡状態へと到達していることを必要条件として含める.例えば圧縮性流体力学では,質量と運動量,全エネルギーの保存則を連立することで流体要素の振る舞いを記述するが,方程式系を閉じるため構成方程式として熱力学状態方程式の導入が求められる.熱力学平衡状態のもと,質量密度と圧力,内部エネルギーの相互関係式を得るために構成分子の並進運動モードに加えて回転運動,振動,電子励起,自由電子の並進運動までを考慮する.局所熱力学平衡状態にある場合は,いずれの運動状態もエネルギー等分配則に従って自由度ごと同一の運動エネルギー量つまり同一の温度状態に達することとなるが,例えば強い衝撃波直後の領域では散逸を伴う加熱過程によって並進運動に対する温度のみが急激に上昇し,その後,分子間衝突によって他の運動状態である回転運動や振動などへ熱が伝わり温度が緩和する.そのため温度緩和時間を評価する物理モデルの精度が非常に重要となる(1).また,放電(2)や燃焼(3)などを伴う流れではそれぞれ自由電子温度や振動温度が高温となることで他との相対として温度緩和を生じると同時に,電離反応や解離反応などの化学反応も卓越することとなる.このような流動場を熱化学非平衡流または単に非平衡流と呼ぶ.
上記の通り,非平衡流が鍵となる研究課題は航空宇宙工学関連の分野が多く,地球や火星の大気圏突入問題のような強い衝撃波を伴う流れの数値シミュレーションと高エンタルピー風洞試験に関連し,温度緩和時間や化学反応速度係数のモデル精度の向上が主目的であった(4)-(7).また,超音速飛行機体の開発を目的として,前方主流の一部にビーム照射することでプラズマ生成し,衝撃波との相互作用を利用して造波抵抗を軽減させる流れ制御技術(8)などの取り組みも行われてきた.
非平衡流においては連続の式を化学種ごとに独立に定式化する必要があり,さらに物質相互の拡散輸送係数を評価することも求められる.流体要素内部が電離進行フェイズにある場合には,電荷間の相互作用として運動方程式に外力項を追加することもある.航空機まわりの流れ剥離制御にDBDプラズマアクチュエータを適用した際のストリーマやフィラメント構造におけるプラズマ進展過程の研究(2)も継続的に実施されている.
化学反応は分子間の非弾性衝突によって受吸熱を伴いながら発生することからエントロピー生成と消失の経路を流れ場の中で追跡する必要も生じる.その化学反応係数のモデル評価が系変化を記述することになるため,非平衡流の解析精度そのものを決定づける非常に重要な因子である.また,前6.1節でも取り上げた米国航空宇宙学会の年会 AIAA Scitech Forum 2019 にて非平衡流に関するセッションが開催され20数件の講演がなされ,そのうち他所より引用参照された2件の講演論文(9)(10)も非平衡性の物理モデルに関連する論文であった.
近年の非平衡流の工学応用研究における共通の最たる目標の一つは,流体支配方程式との連立を閉じるために必要となる構成方程式や物理過程モデルの評価精度向上にあることが分かる.
〔荻野 要介 高知工科大学〕
参考文献
(1)Kustova, E., Mekhonoshina, M., Kosareva, A., Relaxation processes in carbon dioxide, Physics of Fluids, Vol. 31, No. 4(2019), 046104.
(2)Shcherbanev, S. A., Ding, C., Starikovskaia, S. M., Popov, N. A., Filamentary nanosecond surface dielectric barrier discharge. Plasma properties in the filaments, Plasma Sources Science and Technology, Vol. 28, No. 6(2019), 065013.
(3)Zidane, A., Haoui, R., Sellam, M., Bouyahiaoui, Z., Numerical study of a nonequilibrium H2-O2 rocket nozzle flow, International Journal of Hydrogen Energy, Vol. 44, No. 8(2019), pp. 4361-4373.
(4)Candler, G. V., Rate Effects in Hypersonic Flows, Annual Review of Fluid Mechanics, Vol. 51,(2019), pp. 379–402.
(5)Mankodi, T. K., Myong, R. S., Quasi-classical trajectory-based non-equilibrium chemical reaction models for hypersonic air flows, Physics of Fluids, Vol. 31, No. 10(2019), 106102.
(6)Kosareva, A., Shoev, G., Numerical simulation of a CO2, CO, O2, O, C mixture: Validation through comparisons with results obtained in a ground-based facility and thermochemical effects, Acta Astronautica, Vol. 160,(2019), pp. 461-478.
(7)Gijare, H., Bhagat, A., Dongari, N., Numerical investigation of a chemically reacting and rarefied hypersonic flow field, Shock Waves, Vol. 29,(2019), pp. 857–871.
(8)Lapushkina, T. A., Erofeev, A. V., Azarova, O. A., Kravchenko, O. V., Interaction of a plane shock wave with an area of ionization instability of discharge plasma in air, Aerospace Science and Technology, Vol. 85,(2019), pp. 347-358.
(9)Sahai, A., Lopez, B. E., Johnston, C. O., Panesi, M., Novel approach for modeling CO2 non-equilibrium radiation: Application to wake flows, AIAA paper 2019-1051,(2019).
(10)Venturi, S., Sharma, M., Panesi, M., A machine learning framework for the quantification of the uncertainties associated with ab-initio based modeling of non-equilibrium flows, AIAA paper 2019-0788,(2019).
6.4 流体機械
2019年における流体機械に関連する国際会議としては,ASME Turbomachinery Technical Conference & Exposition(ASME 2019 Turbo Expo, 6月17日- 21日,米国・フェニックス), ASME-JSME-KSME Joint Fluids Engineering Conference 2019(AJK Fluids 2019,2019年7月28日- 8月1日,米国・サンフランシスコ),2nd IAHR-Asia Symposium on Hydraulic Machinery and Systems(IAHR-Asia 2019,2019年9月24日- 25日,韓国・釜山),15th Asian International Conference on Fluid Machinery(AICFM15, 2019年9月25日-28日,韓国・釜山)などが挙げられるが,ここでは,4年ぶり開催ということでAJK Fluids 2019に焦点を当てて,流体機械の国際的な研究開発動向についてまとめる.AJK Fluids 2019では,流体機械に関連するセッションとして,Fluid Machinery(21件),Pumping Machinery(69件), Rotating Machinery(29件)が存在し,Pumping Machineryについては,「Pump Design」,「Special Pumps」,「HPC-CFD LES Pump Study」,「Two-Phase Flow Pumps」,「Pump Turbines」,「Inducers」など多数のTopicsが設定されており,非常に多くの研究成果が公表されている.筆者の独断と偏見により,日本の研究成果を取り上げると,Fluid Machineryでは,子午面粘性流れ解析に基づく逆解法設計を使用した遷音速遠心圧縮機における二次流れの抑制に関する研究(1),Pumping Machineryについては,シュラウドレスインペラーを有する低比速度遠心ポンプの羽根付きディフューザ内の非定常流れ(2),喉部でのスリットがインデューサのキャビテーション不安定性の抑制に及ぼす影響に関する実験的研究(3),Rotating Machinery からは空調用遠心ファンの空力騒音の予測(4)などの報告があり,流体機械の複雑な内部流れに着目した研究内容が目立つ.
一方,2019年の国内の学会としては,第81回ターボ機械協会総会講演会(5月10日,東京,発表件数26件),日本機械学会2019年度年次大会(9月8日-11日,秋田,流体機械の研究開発におけるEFD/CFDのセッションにおける発表件数15件),第82回ターボ機械協会岡山講演会(9月20日,岡山,発表件数49件),日本機械学会第97期流体工学部門講演会(11月7日-8日,豊橋,流体機械の研究開発とそれに関連した複雑流動現象のセッションにおける発表件数14件)などが実施されており,第82回ターボ機械協会岡山講演会では,「舶用推進器に関する研究開発」と題したオーガナイズドセッションが企画され,ターボ機械協会地方講演会としては,最大規模の発表件数となった.
最後に,論文誌に着目すると,日本機械学会論文集には3件,ターボ機械には13件(再生可能エネルギーに関する論文を除く)の流体機械に関する論文が掲載されている.日本機械学会論文集については,軸流圧縮機のウインドミル駆動状態における動翼の仕事特性と損失の発生機構(5),ポンプ吸込水槽に発生する水中渦の流れ構造(6)に関する報告があり,航空エンジンの信頼性・安全性の向上やポンプ吸込水槽における水中渦の解明など,昨今の流体機械における課題に直結するテーマが対象となっている.また,ターボ機械においては,ラジアルタービンのVGSノズル内の流れに関する実験的研究(7),ロータダイナミック流体力の回転速度依存性を考慮した固有値解析によるLE-7A液体水素ターボポンプロータの非同期振動成分の考察(8),多翼送風機の低流量運転モードで発生する低周波数騒音に対する時系列PIV解析(9),二次元翼列を用いた理論解析に基づくキャビテーションサージ発生条件の再検討(10)などの論文が発表されており,ラジアルタービン,送風機,液体水素ターボポンプ,キャビテーションなど流体機械に関連する幅広い分野からの研究成果が報告されている.また,他にInternational Journal of Fluid Machinery and Systems(IJFMS),Journal of Fluids Engineering(JFE)などにおいても流体機械に関する多数の研究成果が報告されているが,文字数の制約があるため,残念ながら割愛させて頂く.
以上が筆者の捉える2019年の流体機械の研究動向であるが,その研究課題の高度化に伴い,LES,キャビテーションの数値解析,PIVなどのハイレベルな研究手法が一般化しつつある.流体機械は社会インフラを支える基盤技術であるため,今後も産業界の要望や学術的課題に対して積極的に研究が展開されていくことを期待したい.
〔重光 亨 徳島大学〕
参考文献
(1)Ito, S., Okada, S., Kawakami, Y., Manabe, K., Furukawa, M. and Yamada, K., Suppression of Secondary Flows in a Transonic Centrifugal Compressor Impeller Using an Inverse Design Method Based on Meridional Viscous Flow Analysis, Proceedings of the ASME-JSME-KSME 2019 8th Joint Fluids Engineering Conference(AJK Fluids 2019)(2019), Paper No.AJKFluids2019-5319, V03AT03A025.
(2)Ichinose, A., Takeda, T., Miyagawa, K., Ogawa, Y., Negishi, H. and Niiyama, K., Unsteady Flow in the Vaned Diffuser of a Low Specific Speed Centrifugal Pump With an Unshrouded Impeller, Proceedings of the ASME-JSME-KSME 2019 8th Joint Fluids Engineering Conference(AJK Fluids 2019)(2019), Paper No.AJKFluids2019-5599, V03BT03A042.
(3)Kanamaru, M., Kamikura, Y., Kawasaki, S., Shimura, T. and Iga, Y., An Experimental Study of Influence of Slits in Throat Position on Suppression of Cavitation Instabilities in Liquid Propellant Rocket Inducer, Proceedings of the ASME-JSME-KSME 2019 8th Joint Fluids Engineering Conference(AJK Fluids 2019)(2019), Paper No.AJKFluids2019-4838, V03BT03A009.
(4)Iwase, T., Sato, D., Obara, H., Yamade, Y. and Kato, C., Prediction of Aerodynamic Noise for Centrifugal Fan of Air-Conditioner by Tetra-Prism Grids, Proceedings of the ASME-JSME-KSME 2019 8th Joint Fluids Engineering Conference(AJK Fluids 2019)(2019), Paper No.AJKFluids2019-4638, V03BT03A055.
(5)藤澤 信道,西山 直道,太田 有,後藤 尚志,加藤 大,軸流圧縮機のウインドミル駆動状態における動翼の仕事特性と損失の発生機構,日本機械学会論文集,Vol. 85, No. 872(2019), DOI:10.1299/transjsme.18-00493.
(6)山出 吉伸,加藤 千幸,長原 孝英,松井 純,ポンプ吸込水槽に発生する水中渦の流れ構造,日本機械学会論文集,Vol. 85, No. 878(2019), DOI:10.1299/transjsme.19-00294.
(7)畑中健太郎,青木亮祐,辻田星歩,馬場隆弘,米村 淳,ラジアルタービンのVGSノズル内の流れに関する実験的研究,ターボ機械,Vol. 47, No. 2(2019), pp.109-115.
(8)木暮大貴,井上剛志,川崎 聡,内海政春,ロータダイナミック流体力の回転速度依存性を考慮した固有値解析によるLE-7A液体水素ターボポンプロータの非同期振動成分の考察,ターボ機械,Vol. 47, No. 3(2019), pp.179-184.
(9)川埼真俊,平原裕行,箭内優樹,姜東赫,多翼送風機の低流量運転モードで発生する低周波数騒音に対する時系列PIV解析,ターボ機械,Vol. 47, No. 4(2019), pp.208-218.
(10)渡邉 聡,辻本良信,二次元翼列を用いた理論解析に基づくキャビテーションサージ発生条件の再検討,ターボ機械,Vol. 47, No. 11(2019), pp.686-694.
6.5 CFD
現在,数値流体力学(Computational fluid mechanics,CFD)は理工学の様々な分野において,流れに関する自然現象の解明や人工物の設計に広く利用されている.1992年に出版された文献(1)の5頁,表1.1に掲載されている数値流体力学研究が行われている分野と比較しても現状のCFD分野が多く類似することから,長期に亘り安定した適用分野に育まれ発展してきたことが分かる.この発展は,流体計算に対する需要拡大に加え,計算機や計算手法の発展と同時進行してきた(2)-(13).単一分野のみならず,制御,最適化やデータ同化,また最近では機械学習(14)も取り込み発展が継続している.今日に至る一応の全体像を俯瞰してみると,流体分野は文献(15)のように分類される.論文著者の主観も大きく影響していると思うが,CFDの主要成果と今後の発展分野を文献(16)のように論じている文献もある.
査読済み文献の世界最大級の抄録・引用文献データベースであるScopusに,2019年と限定しcomputational fluid dynamicsと検索すると,本稿執筆時ではジャーナル論文,ブックチャプターや国際会議論文など併せて,約12,000件の文献がヒットする.互いに重なりを持ってカテゴリ分けされてはいるが,工学,エネルギー,物理学・天文学および化学工学の各分野がそれぞれ約60%,23%,20%および20%を占めている.体系化の必要性が増しているホットな分野はレビュー論文が多く執筆されると考えてレビュー論文を検索すると,約360件の文献の内,工学,エネルギー,化学工学, 医学および環境科学の各分野がそれぞれ,約40%,35%,13%,13%および11%を占めている.特に,レビュー論文では医学分野の割合が顕著になっており,今後急速に発展する領域とも予期される.各分野の文献を見ると,計算法に関しては,マルチスケールCFD(17),乱流モデリング(18)(19),乱流モデルの不確かさの定量化(Uncertainty Quantification, UQ)(20), Smoothed Particle Hydrodynamics(SPH)による流体構造連成(21),粒子懸濁液モデリング(22),氷着モデル(23)など,マルチスケール・マルチフィジックスに関連した文献が発表された.エネルギー分野では,包括的な議論(24)に加え,火力,原子力,水力や再生可能エネルギー発電およびそれらで重要となる燃焼(25)(26),混相流や相変化材料の現象理解や予測,原油増進回収法(27),水素燃料製造,CO2回収などの話題に関してCFDが適用されている.医学分野では,鼻(28),肺,眼球,動脈(特に,動脈瘤破裂)(29),心臓弁や脳(流体および溶解物輸送)(30)などを話題としたレビュー論文が発表されている.
2019年8月にスーパーコンピュータ「京」の運用が停止された.「京」の約100倍の計算性能と言われる次世代スーパーコンピュータ「富岳」の2021年度からの共用開始が発表された(31).一方,従来のCFDはノイマン型計算機に基づいているが,近年量子コンピューティングのハードウェアおよびアルゴリズム開発が活発化している(32).文献(33)では,CFDにおける従来式コンピュータと量子コンピュータとのハイブリット計算,非圧縮Navier-Stokes方程式を解く際のポアソン方程式に対する近似量子フーリエ変換(AQFT)や気体の分子運動論に基づく計算が議論されている.文献(34)では,将来的な乱流シミュレーションを見据え,簡略化されたNavier-Stokes方程式を断熱アニーリングに基づく量子コンピュータで解いている.欧州の航空宇宙機器メーカーであるAirbusは,2019年にThe Airbus Quantum Computing Challengeを掲げ,課題2として量子コンピュータのCFDにおける性能を検証する共同研究を募集した(35).以上纏めるに,2019年は今後におけるCFDの大変革を予感させる年となった.
〔松浦 一雄 愛媛大学〕
参考文献
(1)保原充,大宮司久明編,数値流体力学 基礎と応用(1992),東京大学出版会.
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(4)Chung, T. J., Computational fluid dynamics, second edition, Cambridge University Press(2010).
(5)Johnson, R. W., ed. The handbook of fluid dynamics, CRC Press(1998).
(6)Blazek, J., Computational fluid dynamics: principles and applications, Butterworth-Heinemann(2015).
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(8)Liu, G. R. and Liu, M. B., Smoothed particle hydrodynamics, a meshfree particle methods, World Scientific(2003).
(9)Karniadakis, G. E., Spectral/hp element methods for computational fluid dynamics, Oxford Science Publications(2005).
(10)Dolejší, V. and Feistauer, M., Discontinuous Galerkin method, analysis and applications to compressible flow,
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(11)Succi, S., The lattice Boltzmann equation for fluid dynamics and beyond, Oxford Science Publications(2009).
(12)Ferziger, J. H., Perić, M. and Street, R. L., Computational methods for fluid dynamics, fourth edition, Springer(2019).
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(15)https://www.cambridge.org/core/journals/journal-of-fluid-mechanics/information/list-of-keywords
(参照日2020年4月6日)
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(27)Jafari, A., et al., Application of CFD technique to simulate enhanced oil recovery processes: current status and future opportunities, Petroleum Science, Vol.17(2020), pp.434-456.
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(31)https://www.r-ccs.riken.jp/jp/post-k(参照日2020年4月6日)
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(33)Steijl, R., Quantum algorithm for fluid simulations, Advances in Quantum Communication and Information, IntechOpen(2019), pp.1-15.
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(35)https://www.airbus.com/innovation/tech-challenges-and-competitions/airbus-quantum-computing-challenge.html
(参照日2020年4月6日)
6.6 壁乱流
2019年度においても,壁乱流に関して渦構造の抽出,外的条件による変化,壁面抵抗との関係など多岐にわたって研究報告がなされた.ここでは,該当年度における研究を紹介しつつ,研究動向をみていく.
乱流構造としては,Attached eddy, Large scale motions, Very large scale motionsやストリークス構造などの秩序構造に着目して研究がなされている.Attached eddyについては,対数法則との関連性(1),尺度の提案(2),流れ方向への傾斜角(3),二次元経験的モード分解(BEMD)や正規直交分解(POD)による検出(4)(5)が行われている.Large scale motions(LSM)やVery large scale motions(VLSM)に関しては,壁面粗さや減速流の影響(6)(7),蛇行運動(8),形成過程や空間的組織パターン(9),PODによる瞬時構造の再構成(10)や識別(11)が行われている.壁乱流の多層構造の特徴の基づき,渦の階層構造の生成機構(12),振幅変調に基づく多数スケール間,粗さ底層と外層間,大スケールと小スケール間や壁近傍と対数層の流れ構造間の相互作用(13)-(16)の調査がなされている.さらに,乱れ生成と流れ構造の関係(17),管内流と境界層流れの流れ構造の差(18)(19)や内層領域で支配的な渦構造(ストリークスやヘアピン渦)の形態やトポロジーに着目した垂直方向の発展(20)について議論されている.
外的条件の影響としては,主として壁面である.スパン方向への壁面振動による抵抗低減と乱流構造への影響(21)(22),流れ方向への壁面移動による流れの再層流化(23),繊維状の壁面要素や柔軟な薄板要素が複数枚垂直に置かれた壁面上の流れに対する壁面要素の固有振動数の影響(24)(25),透過性壁面による抵抗低減の可能性(26),撥水性壁面上の流れについて壁面性状の抵抗低減への影響(27)やScaling lawに基づく抵抗低減の評価(28),粗面壁上の滑り条件による抵抗低減(29)や滑り条件の一般化表現(30)がされている.また,急激な壁面性状の変化による流れの回復過程の調査(31)(32)も行われている.
壁面抵抗に関して,粗面上に流れにおける精度良い決定法(33),広範囲なレイノルズ数の実験データを使用した速度分布の普遍性や抵抗則の評価(34)や摩擦抗力への寄与を直接散逸,乱れ生成および流れの空間発達について3分解した摩擦抗力生成の理解(35)がなされている.壁面抵抗の変化に関係する運動量輸送については,スパン方向に不均一な壁面性状によって生じた二次流れの瞬時構造やトポロジー(36),二次流れに対する壁乱流の応答(37)(38), ダクトコーナー部の二次流れ形成に関する物理的メカニズム(39),三次元粗面上に形成される二次流れによる抵抗増加(40)がある.さらに,粗面上の流れについてNaiver-Stokes方程式を時間と空間で二重平均することで付加的に生じるDispersive stressを考慮した粗さの壁面抵抗への影響(41)(42),dispersive stressの外層での減衰(43)やスカラー輸送との対比(44)がなされている.
〔亀田 孝嗣 近畿大学〕
参考文献
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6.7 乱流遷移
2019年の乱流遷移研究の話題としては,5年に1度開催されている国際理論・応用力学連合の乱流遷移に関する国際会議(IUTAM Symposium on Laminar-Turbulent Transition)が英国・ロンドンで9月2~6日に行われたことがあげられよう(1).本会議では,プレナリー講演6件,基調講演3件,口頭発表68件,ポスター発表74件の発表が行われた.そのセッションでは,線形安定性,受容性,力学系,高速流,制御,実験,一般と並んで,ステップや粗さなどの表面性状に関するテーマが取り上げられていることが注目される.
表面性状が乱流遷移に影響を与えることは,遷移研究の初期から認識されていたが,研究にかなりの進展が見られる近年でもその重要性は変わらず,2019年も粗さ,吸込,凹面,横断流などに関する研究が発表されている.もちろんこれらの中の一要因のみによる遷移という単純なケースではなく,複数の要因が複合したものが増えている.論文をJournal of Fluid Mechanicsから引用してみると,高速流中の菱形粗さ列の縦渦対の役割を明らかにした直接計算(2),高速流中の凹面上のゲルトラー渦を吸込と吹出の組み合わせで励起させた流れの直接計算(3),分布粗さが固有モードとの共鳴相互作用によって横断流不安定性に影響する解析(4),強い吸込が誘起する境界層内の不安定性の解析(5)などがある.
高速流における遷移の研究は前段落中でも引用したが,それ以外にも高速流,圧縮性流れについての研究は多い.気体内粒子による高速境界層の受容性(6),音波が滑面及び波状面上境界層の受容性(7)を一例としてあげるが,それ以外にも多数の研究がある.
一方で境界層を初めとする壁面せん断流の不安定性,遷移は古典的なテーマであるが,相変わらず活発に研究されており,平面ポアズイユ流におけるT-S型遷移とバイパス遷移の出現条件の直接計算(8),散乱された音波の受容性問題(9),平板境界層における乱流斑点の直接計算(10)などが見られる.
壁面せん断流の中でも境界層と並んで重要な円管内流れは,乱流パフやスラグのような孤立乱流塊の発生,成長過程が,近年かなり詳しく調べられている流れ場であるが,ここでは曲がり管内の孤立乱流塊界面の乱れエネルギを直管流と比較したもの(11)(12)や,周方向対称進行波の進化(13),速度分布形状を質量力によって(14),また壁面振動によって(15)変化させることによる円管内乱流の再層流化の研究が行われた.
自由せん断流においては,剥離泡内の遷移と主流乱れの関係の直接計算(16),ノズル出口境界層分布と噴流不安定性の関係に対するLES計算(17)が行われた.
乱れの開始における周期軌道の問題は,日本の研究者が大きな貢献をしてきたが,これ関しても,平衡解近傍に力学的に接続する軌道の計算に変分法を取り入れたもの(18)や,ミニマル平面クエット流におけるさらなる進展(19)が見られた.
線形安定性に比較して,いまだ研究途上と言える非線形安定解析に関しては,冒頭にあげた国際会議でも多数発表がなされているが,Annual Review of Fluid Mechanicsに,線形解析から始まり各種非線形安定解析にまで及ぶ詳しい解説が出された(20).今後,非線形安定解析のさらなる発展が期待される.
〔一宮 昌司 徳島大学〕
参考文献
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6.8 計測・流れの可視化
流体計測(flow measurements)および流れの可視化(flow visualization)に関する研究進展につき,当節にて概観する.まず熱線流速計(hot-wire velocimeter)について,引き続いて進展が見受けられ,定温度型熱線流速計(constant temperature anemometer)での較正について,温度較正ドリフトと比べて先行研究の少ない非温度較正ドリフトについて,非線形回帰手法を用いた再較正が試みられている(1).X型熱線プローブを用いた計測について,乱流統計量の計測値におよぼす熱線配置や較正の不確かさの影響が,直接数値シミュレーション(direct numerical simulation)を用いて調べられている(2).また,一辺が数十マイクロメートルという微小な検査体積を有するX型熱線プローブが開発され,高レイノルズ数円管乱流を用いて検証されている(3).
壁面上のせん断応力(wall shearing stress/ wall shear stress)の計測について,まず平均壁面せん断応力について,平均流速などの流速計測のみから境界層積分方程式を用いて算出する手法について,壁乱流(wall turbulence)としての境界層(boundary layer)を対象に研究されている(4).また熱式せん断応力センサの較正モデルについて,定温度型熱式センサに比して先行研究の少ない定電流型センサを対象として,取り組まれている(5).壁面上のせん断応力の変動成分については,電気化学的手法によりChilton-Colburnアナロジーを用いて,高レイノルズ数円管乱流を対象に計測されている(6).加えて,層流はく離泡のはく離・再付着の特性を対象に,その中での壁面せん断応力ベクトル場の時間発展が,感温塗料(temperature sensitive paint)により得た表面温度の時空間分布を用いて計測し,調べられている(7).生体流体力学に関連する血管壁上の壁面せん断応力の計測精度について,核磁気共鳴装置(nuclear magnetic resonance: NMR)を利用した流速計がレーザ流速計(laser velocimeter/laser Doppler velocimeter)および数値流体力学(computational fluid dynamics)の解析と比較されている(8).
粒子画像流速計(particle-image velocimeter: PIV)につき,まずPIVの誤差/不確かさの定量化についてのレビュー論文(9)が出ている.不確かさの定量化について,二次元二成分(2D2C)PIVの適用において,各平均流速および流速変動の各二次統計量について行われている(10).PIV計測における背景画像の除去について,回転翼や羽ばたき翼などの移動境界問題に関する計測対象に適用する手法が提案されている(11).圧力の変動の計測について,時系列ステレオPIV(time-resolved stereoscopic PIV)とトモグラフィック PIV(tomographic PIV)とを用いて,翼の後縁付近の流れの壁面近傍での圧力の変動を計測し,格子ボルツマン法(lattice-Boltzmann method)による数値解析結果と比較されている(12).
超音波流速分布計(ultrasonic velocity profiler: UVP)について,UVP結果から圧力場を計測するデータ処理手法が提案され,円柱後流の圧力場の計測に適用されている(13).このUVPは生体流体力学に関する分野においても用いられ,たとえばUVPを用いた嚥下プロセス解明に関するレビュー論文がある(14).感圧塗料(pressure-sensitive paint: PSP)について,高速応答型感圧塗料(fast-responding PSP)に関するレビュー論文(15)がある.このfast-responding PSPについて,音圧変動の計測への適用に向けた検証実験(16)が行われている.流れの可視化計測においてしばしば用いられる平面レーザ誘起蛍光(planer laser-induced fluorescence)法につき,他の可視化方法との比較により検証されている(17).
上記以外の点については,適用される手法の進展として,実験計測での乱流の生成手法につき,動的格子の適用において乱流の特性量の実験設定を拡大させる手法(18)がみられる.また萌芽的な進展として,流体の物理法則に配慮しながら機械学習(machine learning)を行うことで,可視化画像群からの速度場・圧力場の算出(19)が行われており,加えて,構造化照明顕微鏡(structured illumination microscopy)法と全反射照明蛍光(total internal reflection fluorescence)顕微鏡とを用いた,流れの超解像(super-resolution)可視化技術(20)が示されている.当節については以上である.
〔鈴木 博貴 山口大学〕
参考文献
(1)Agrawal, R., Whalley, R. D., Ng, H. C.-H., Dennis, D. J. C. and Poole, R. J., Minimizing recalibration using a non-linear regression technique for thermal anemometry, Experiments in Fluids, Vol.60, No.7(2019), 116.
(2)Baidya, R., Philip, J., Hutchins, N., Monty, J. P. and Marusic, I., Sensitivity of turbulent stresses in boundary layers to cross-wire probe uncertainties in the geometry and calibration procedure, Measurement Science and Technology, Vol.30, No.8(2019), 085301.
(3)Fu, M. K., Fan, Y. and Hultmark, M., Design and validation of a nanoscale cross-wire probe(X-NSTAP), Experiments in Fluids, Vol.60, No.6(2019), 99.
(4)Womack, K. M., Meneveau, C. and Schultz, M. P., Comprehensive shear stress analysis of turbulent boundary layer profiles, Journal of Fluid Mechanics, Vol.879(2019), pp.360–389.
(5)Yan, Y., Jiang, C., Ma, B., Luo, J. and Deng, J., A pre-verifiable calibration model of wall shear stress thermal sensor driven by constant current, Flow Measurement and Instrumentation, Vol.69(2019), 101591.
(6)Tong, T., Tsuneyoshi, T. and Tsuji, Y., Shear stress fluctuation measurements using an electrochemical method in pipe flow, Journal of Fluid Science and Technology, Vol.14, No.2(2019), 19-00456.
(7)Miozzi, M., Capone, A., Costantini, M., Fratto, L., Klein, C. and Di Felice, F., Skin friction and coherent structures within a laminar separation bubble, Experiments in Fluids, Vol.60, No.1(2019), 13.
(8)Bauer, A., Wegt, S., Bopp, M., Jakirlic, S., Tropea, C., Krafft, A. J., Shokina, N., Hennig, J., Teschner, G. and Egger, H., Comparison of wall shear stress estimates obtained by laser Doppler velocimetry, magnetic resonance imaging and numerical simulations, Experiments in Fluids, Vol.60, No.7(2019), 112.
(9)Sciacchitano, A., Uncertainty quantification in particle image velocimetry, Measurement Science and Technology, Vol.30, No.9(2019), 092001.
(10)dos Santos, A. A. C., Childs, M., Nguyen, T. D. and Hassan, Y., Convergence study and uncertainty quantification of average and statistical PIV measurements in a matched refractive index 5×5 rod bundle with mixing vane spacer grid, Experimental Thermal and Fluid Science, Vol.102(2019), pp.215–231.
(11)Adatrao, S. and Sciacchitano, A., Elimination of unsteady background reflections in PIV images by anisotropic diffusion, Measurement Science and Technology, Vol.30, No.3(2019), 035204.
(12)Ragni, D., Avallone, F., van der Velden, W. C. P. and Casalino, D., Measurements of near-wall pressure fluctuations for trailing-edge serrations and slits, Experiments in Fluids, Vol.60, No.1(2019), 6.
(13)Tiwari, N., Tasaka, Y. and Murai, Y., Pressure field estimation from ultrasound Doppler velocity profiler for vortex-shedding flows, Flow Measurement and Instrumentation, Vol.67(2019), pp.23–32.
(14)Qazi, W. M., Ekberg, O., Wiklund, J., Mansoor, R. and Stading, M., Simultaneous X-ray video-fluoroscopy and pulsed ultrasound velocimetry analyses of the pharyngeal phase of swallowing of boluses with different rheological properties, Dysphagia, Vol.2020(2020), pp.1–9.
(15)Peng, D. and Liu, Y., Fast pressure-sensitive paint for understanding complex flows: from regular to harsh environments, Experiments in Fluids, Vol.61, No.1(2020), 8.
(16)Gößling, J., Ahlefeldt, T. and Hilfer, M., Experimental validation of unsteady pressure-sensitive paint for acoustic applications, Experimental Thermal and Fluid Science, Vol.112(2020), 109915.
(17)Xu, F., Hébrard, G. and Dietrich, N., Comparison of three different techniques for gas-liquid mass transfer visualization, International Journal of Heat and Mass Transfer, Vol.150(2020), 119261.
(18)Griffin, K. P., Wei, N. J., Bodenschatz, E. and Bewley, G. P., Control of long-range correlations in turbulence, Experiments in Fluids, Vol.60, No.4(2019), 55.
(19)Raissi, M., Yazdani, A. and Karniadakis, G. E., Hidden fluid mechanics: Learning velocity and pressure fields from flow visualizations, Science, Vol.367, No.6481(2020), pp.1026–1030.
(20)Yoda, M., Super-resolution imaging in fluid mechanics using new illumination approaches, Annual Review of Fluid Mechanics, Vol.52(2020), pp.369–393.
6.9 流れの制御
機械工学における性能・環境性向上の要求から,流体制御分野の研究への期待が高まっている.なお,流れの制御というトピックは関連分野が広く,語の定義も研究領域によって異なっている.究極的には多様な流体場全てを思いのままに操ることが流体工学の夢であり,そのための手法は形状変更からアクティブ流体制御まで幅広い.ここでは,機械工学の分野によく現れる流体場を主な対象に絞り,日本機械学会論文集を含むいくつかの主要誌に掲載された論文から2019年の研究動向を紹介する.
流れの制御の対象として,理論面から長年の興味の対象となっているのは境界層流れである.工学的利用との関わりが深いのは境界層の乱流遷移制御であり,解析的手法としてstreamwise-travelling waves(1)や渦対(2)を導入する方法,壁面をスパン方向に振動させ遷移を抑制する手法(3)が調査され,そのアプローチの有効性が示されている.これらを実験・実機で実現する方法として微小ラフネスやDiscrete Roughness Element(DRE)の研究が進められており,後退翼の遷移制御についての有効性と課題について報告(4)(5)があった.また,近年は後述のように機械学習を用いた乱流解析と制御のアプローチ等の新しい戦略が提案されており注目を集めている.液体流については,古くから研究されているポリマー添加による壁面摩擦抵抗の低減について信頼度の高いデータが提供された(6).一方,剥離抑制は長年にわたり流体制御の中心的対象であり,盛んに研究がおこなわれている.2019年には剥離剪断層の不安定性との干渉に関する理学的な研究が報告されているほか,産業応用を念頭に置いた基礎的・応用的研究も多い(7)(8).
アクティブ流体制御を行うためのデバイスの開発・応用についても多くの研究がある.プラズマアクチュエータ等の放電を用いた流体制御デバイスの研究報告が多く,特に近年境界層遷移制御の可能性に注目が集まっている(9)(10).プラズマアクチュエータの応用研究の範囲は多岐にわたっており,国内でも噴流制御(11)や自動車車体周りの流れへの適用(12)等が報告されている.高速流の制御には準DC放電を用いて圧力波を形成する手法(13)についての研究がおこなわれており今後が期待される.シンセティックジェットについては乱流境界層中へ噴出した際の放出する渦の影響の研究(14)が興味深い.また,2019年はfluidic oscillator(15)(16)への注目度が増してきている.内部流れの自励振動を利用して振動する噴流を得るデバイスであり,剥離抑制等での有効性が示されている(17). さらに近年の機械学習をはじめとする計算科学の発展に伴い,流体制御適用手法の高度化やスマート化に関する研究が急速に注目を集めており,今後の発展が期待される.機械学習による制御戦略の創発(18)(19)について複数の報告があった.日本流体学会誌「ながれ」では特集が組まれている(20).
なお,航空機が中心ではあるが,流れの制御技術について,米国航空宇宙学会の論文集を再構築したFlow Control Virtual Collection(https://arc.aiaa.org/vc/flowcontrol)が立ち上がっており(21),流体制御に関する幅広い論文が収録されている.また,Shmilovichらにより航空機の流体制御手法と,その解析のための数値計算にかかわる話題について広範な調査を行ったレポートが出版されている(22).関連分野の研究者・技術者にとって良いガイドとなっており,興味のある諸兄はこれらについても参照されたい.
〔松野 隆 鳥取大学〕
参考文献
(1)Zhao, M., Huang, W., Xu, C., Drag reduction in turbulent flows along a cylinder by streamwise-travelling waves of circumferential wall velocity, Journal of Fluid Mechanics, Vol. 862(2019)pp. 75–98. DOI: 10.1017/jfm.2018.948.
(2)Xiao, D., Papadakis, G., Nonlinear optimal control of transition due to a pair of vortical perturbations using a receding horizon approach, Journal of Fluid Mechanics, Vol. 861(2019)pp. 524–555. DOI: 10.1017/jfm.2018.919.
(3)Yao, J., Hussain, F., Supersonic turbulent boundary layer drag control using spanwise wall oscillation, Journal of Fluid Mechanics, Vol. 880(2019)pp. 388–429. DOI: 10.1017/jfm.2019.727.
(4)Saric, W. S., West, D. E., Tufts, M. W., Reed, H. L., Experiments on Discrete Roughness Element Technology for Swept-Wing Laminar Flow Control, AIAA Journal, Vol. 57(2019)pp. 641–654. DOI: 10.2514/1.j056897.
(5)He, J., Butler, A., Wu, X., Effects of distributed roughness on crossflow instability through generalized resonance mechanisms, Journal of Fluid Mechanics, Vol. 858(2019)pp. 787–831. DOI: 10.1017/jfm.2018.817.
(6)Elsnab, J. R., Monty, J. P., White, C. M., Koochesfahani, M. M., Klewicki, J. C., High-fidelity measurements in channel flow with polymer wall injection, Journal of Fluid Mechanics, Vol. 859(2019)pp. 851–886. DOI: 10.1017/jfm.2018.873.
(7)Nair, A. G., Yeh, C., Kaiser, E., Noack, B. R., Cluster-based feedback control of turbulent post-stall separated flows, Journal of Fluid Mechanics, Vol. 875(2019)pp. 345–375. DOI: 10.1017/jfm.2019.469.
(8)Schloesser, P., Bauer, M., Gmbh, N., Active Separation Control at the Pylon-Wing Junction of a Real-Scale Model, AIAA Journal, Vol. 57(2019)pp. 132–141. DOI: 10.2514/1.J057345.
(9)Tol, H. J., Kotsonis, M., De Visser, C. C., Pressure Output Feedback Control of Tollmien–Schlichting Waves in Falkner–Skan Boundary Layers, AIAA Journal, Vol. 57(2019)pp. 1538–1551. DOI: 10.2514/1.J057010.
(10)Yates, H. B. et al., Plasma-Actuated Flow Control of Hypersonic Crossflow-Induced Boundary-Layer Transition, AIAA Journal,(2020)16p. article in advance. DOI: 10.2514/1.J058981.
(11)秋元雅翔, 木村元昭, バースト駆動を用いた同軸型DBDプラズマアクチュエータによる噴流制御(印加電圧とバースト周波数による噴流拡散過程の変化), 日本機械学会論文集, Vol. 85(2019)p. 19–00010. DOI: 10.1299/transjsme.19-00010.
(12)Shimizu, K., Nakashima, T., Sekimoto, S., Fujii, K., Aerodynamic drag reduction of a simplified vehicle model by promoting flow separation using plasma actuator, Mechanical Engineering Letters, Vol. 5(2019)p. 19–00354. DOI: 10.1299/mel.19-00354.
(13)Houpt, A., Leonov, S., Ombrello, T., Carter, C., Leiweke, R. J., Flow Control in Supersonic-Cavity-Based Airflow by Quasi-Direct-Current Electric Discharge, AIAA Journal, Vol. 57(2019)pp. 2881–2891. DOI: 10.2514/1.J058057.
(14)Berk, T., Ganapathisubramani, B., Effects of vortex-induced velocity on the development of a synthetic jet issuing into a turbulent boundary layer, Journal of Fluid Mechanics, Vol. 879(2019)pp. 651–679. DOI: 10.1017/jfm.2019.279.
(15)Woszidlo, R., Ostermann, F., Schmidt, H., Fundamental Properties of Fluidic Oscillators for Flow Control Applications, AIAA Journal, Vol. 57(2019)pp. 978–992. DOI: 10.2514/1.J056775.
(16)Ostermann, F., Woszidlo, R., Nayeri, C. N., The interaction between a spatially oscillating jet emitted by a fluidic oscillator and a cross-flow, Journal of Fluid Mechanics, Vol. 863(2019)pp. 215–241. DOI: 10.1017/jfm.2018.981.
(17)Kim, S., Kim, K., Effects of Installation Conditions of Fluidic Oscillators on Control of Flow Separation, AIAA Journal, Vol. 57(2019)pp. 5208–5219. DOI: 10.2514/1.J058527.
(18)Rabault, J., Kuchta, M., Jensen, A., Réglade, U., Artificial neural networks trained through deep reinforcement learning discover control strategies for active flow control, Journal of Fluid Mechanics, Vol. 865(2019)pp. 281–302. DOI: 10.1017/jfm.2019.62.
(19)西田浩之, 下村怜, 関本諭志, 大山聖, 藤井孝藏, 能動的流体制御デバイスを用いた翼周り剥離流れ制御への 深層強化学習の応用, ながれ, Vol. 38(2019)pp. 323–328.
(20)杵淵郁也, 水野吉規, 高垣直尚, 機械学習の流体力学研究への応用 特集の企画にあたって, ながれ, Vol. 38(2019)pp. 321–322.
(21)Greenblatt, D., Whalen, E. A., Wygnanski, I. J., Introduction to the Flow Control Virtual Collection, AIAA Journal, Vol. 57(2019)pp. 3111–3114. DOI: 10.2514/1.J058507.
(22)Shmilovich, A., Vatsa, V. N., Practical Computational Methods for Airplanes with Flow-Control Systems, AIAA Journal, Vol. 57(2019)pp. 35–52. DOI: 10.2514/1.J056876.
6.10 非ニュートン流れ
応力とひずみ速度が線形関係にない流体が非ニュートン流体である.例えば,粘性係数がひずみ速度の関数になる流体や,粘性だけでなく弾性をも兼備するような粘弾性流体,さらには,構成分子よりも遙かに大きなサイズの高次構造が内部に存在する,いわゆる複雑流体(高分子流体,サスペンション,エマルション,界面活性剤溶液,フォーム,液晶,MR/ER流体,生体液など)も非ニュートン流体である.マクロな流れ挙動に基づいて呼称すると非ニュートン流体となり,ミクロな構造変化に基づいて呼称すると複雑流体となるが,両者の範疇はほぼ同じである.さらに,複雑流体の多くは外場に反応することから,応用面から機能性流体と呼ばれることもある.2006年4月には流体工学部門の中に「複雑流体研究会」が設置され,この分野の研究がより活性化するとともに,情報交換も促進されてきた.ここでは,複雑流体研究会で活動している研究者の成果を中心に,2019年の研究を概観する.
口頭発表については,9月9日に秋田で開催された日本機械学会年次大会において,OS「複雑流体の流動現象」で14件の発表がなされた(1).続いて11月8日に豊橋で開催された流体工学部門講演会でも,OS「非ニュートン流体の流動現象」で13件の研究発表があった(2).
論文発表について言及する.まず,微細気泡を含む流れの研究は今もなお活発になされており,流れ挙動を詳細に調べた研究やその応用について検討した研究など,2019年度もその活動は高いレベルで継続されている(3)(4)(5).繊維懸濁液の流れは,最終製品の強化を目的として研究されてきた.流体力学的には異方性流体に分類され,圧力場や速度場に加えて分散繊維の配向場が流動特性に大きく影響する複雑流体である.一般的にはこの配向場は配向テンソルで定式化されるが,より詳細な配向情報を捉えるために,配向分布関数を使った研究や(6),濃厚な繊維懸濁液において繊維同士の接触がレオロジー特性に及ぼす影響を実験的に調べた研究(7)がなされている.最近では,分散する繊維の環境負荷を考慮した研究が散見される.例えばセルロースナノファイバー(CNF)懸濁液の流れ挙動やその流動配向状態を検討した研究や(8),凝集と分裂を考慮したモデルの提案(9)もなされている.さらには流動時の抵抗低減を目指し,竹繊維を懸濁させた研究も興味深い(10).非ニュートン流動の研究で,界面活性剤水溶液に関する研究は見逃せない.微小オリフィス通過時の特異挙動や(11),流動誘起による構造発現(Shear-Induced Structures)に関する実験研究がなされている(12).またひも状ミセル水溶液の極小円柱周りの流れ(13)についても実験的に調べられている.高分子流体や粘弾性流体の流れに関するユニークな試みも紹介する.流動中の高分子の抗力を測定する手法を開発した研究(14)や,伸長粘度の評価を目的として,円板と円筒の間隙を流れる粘弾性流体の二次元流れの数値計算を行い,幾何形状の妥当性を吟味している研究も興味深い(15).血液の粘弾性とチキソトロピーの測定およびモデリングに関する研究がなされている(16).また,チキソトロピーとそのモデリングについては,論文中の引用文献も含めて有益な解説がなされている(17).
非ニュートン流動に関しては,国内では日本レオロジー学会誌が,国際誌としてはJournal of Rheology,Journal of Non-Newtonian Fluid Mechanics,Rheologica Actaが情報源として知られているが,紙面の関係でこれ以上の紹介は割愛する.
〔蝶野 成臣 高知工科大学〕
参考文献
(1)2019年度日本機械学会年次大会部門企画行事プログラム
https://www.jsme.or.jp/conference/nenji2019/files/Program0827_v9.pdf
(2)日本機械学会第97期流体工学部門講演会 講演プログラム
https://www.jsme.or.jp/conference/fedconf19/download/program_final.pdf
(3)Ohta, M., Furukawa, T., Yoshida, Y. and Sussman, M., A three-dimensional numerical study on the dynamics and deformation of a bubble rising in a hybrid Carreau and FENE-CR modeled polymeric liquid, Journal of Non-Newtonian Fluid Mechanics, Vol.265(2019), pp.66-78.
(4)Takaki Kobayashi, Akiomi Ushida, Itaru Kourakata, Koichi Seto, Tadashi Hiwatashi, Taisuke Sato, and Takatsune Narumi, High stability of existence of ultra-fine bubble in a range of relatively high temperatures, Proceedings of The International Conference on Advanced Technology in Experimental Mechanics 2019(2019), No.3078916
(5)Iwata, S., Takahashi, T., Onuma, T., Nagumo, R., and Mori, H., Local flow around a tiny bubble under a pressure-oscillation field in a viscoelastic worm-like micellar solution, Journal of Non-Newtonian Fluid Mechanics, Vol. 269(2019), pp.24-32.
(6)Mezi, D., Ausias, G., Advani, S. G. and Férec, J., Fiber suspension in 2D nonhomogeneous flow: The effects of flow/fiber coupling for Newtonian and power-law suspending fluids, Journal of Rheology, Vol.63, No.3(2019), pp.405-418.
(7)Bounoua, S. N., Kuzhir, P., and Lemaire, E., Shear reversal experiments on concentrated rigid fiber suspensions, Journal of Rheology, Vol.63(2019), pp.785-798.
(8)Sato, T., Namatame, S., Narumi, T. and Ushida, A., Flow-induced orientation of cellulose nanofiber suspension in planar channels with an abrupt contraction, Proceedings of The International Conference on Advanced Technology in Experimental Mechanics 2019(2019), No.3090848
(9)Yamamoto, T., White-Metzner type viscoelastic model for cellulose nanofiber suspensions based on population balance equations for fiber floc aggregation-breakage, Journal of Non-Newtonian Fluid Mechanics, Vol.264(2019), pp.98-106.
(10)Ogata, S. and Kubo, T., Flow characteristics of drag-reducing natural bamboo fiber suspensions with minimal environmental load, TAPPI Journal, Vol.18(2019), pp.559-566.
(11)Ushida, A., Sato, T., Narumi, T. and Hasegawa, T., Anomalous phenomena of rod-like micelle surfactant solutions passing through small orifices, Proceedings of The International Conference on Advanced Technology in Experimental Mechanics(2019), No.3087182.
(12)Mizunuma, H., Nakamura, S., and Shimokasa, K., An anomalous curved jet emerging from laminar Poiseuille flow(gel-like behavior and breakdown of transparent shear-induced structures in dilute cationic surfactant solutions), Journal of Rheology, Vol.63(2019), pp.693-704.
(13)Haward, S. J., Kitajima, N., Toda, K., Takahashi, T. and Shen, A. Q., Flow of wormlike micellar solutions around microfluidic cylinders with high aspect ratio and low blockage ratio, Soft Matter, Vol.15, No.6(2019), pp.1927-1941.
(14)Hidema, R., Hayashi, S. and Suzuki, H., Drag force of polyethyleneglycol in flow measured by a scanning probe microscope, Physical Review Fluids, Vol.4(2019), 074201.
(15)Ito, S., Iwata, S., Sugihara, Y., and Takahashi, T., Planar elongation flow analysis of non-Newtonian fluids using a disk-shaped bob, Technische Mechanik, Vol.39(2019), pp.16-29
(16)Horner, J. S., Armstrong, M. J., Wagner, N. J., and Beris, A. N., Measurements of human blood viscoelasticity and thixotropy under steady and transient shear and constitutive modeling thereof, Journal of Rheology, Vol.63(2019), pp.799-813.
(17)Larson, R. G. and Wei, Y., A review of thixotropy and its rheological modeling, Journal of Rheology, Vol.63, No.3(2019), pp.477-501.
6.11 生体・生物
流体力学の分野においてすぐれた業績を残した研究者に4年に一度与えられる「Batchelor Prize」の発表があり,2020年の受賞(予定)者は85の候補者のうちAlexander J. Smits(Princeton大学)に決まった.氏の研究テーマは乱流構造,推進機構,スポーツ工学などと多岐にわたるが,その多くは生物の運動にヒントを得たものである.氏が2019年に発表した総説(1)の締めくくりで「泳ぎのメカニズムの調査は生物に触発されており,またそのような工学的研究が動物のパフォーマンスに関する理解を広げた」と述べたように,流体工学分野は生物の研究と共に発展してきた.前回2016年の受賞者は微生物遊泳の研究者であるRaymond E. Goldsteinであり,流体工学分野における生物の研究はここ数年の主要なトピックであり続けている.
近年では計算機の発達により,生体の微細構造や柔らかさなどの力学特性を考慮した生物運動解析が主流となってきた.2019年には翼の変形を考慮した飛行の計算(2),微細加工による昆虫飛行ロボット(3)などの研究が報告されている.他にも細菌べん毛のフック部の弾性を考慮した数値解析(4),流路内での細胞集団運動の不安定化(5)など微生物を対象とした研究報告もあり,流体工学の研究対象は様々な生物に及んでいる.日本機械学会が発行する英語論文誌では,2019年に「フィン装着時のヒト遊泳の数値解析」(6)など3報の論文が掲載された.生物運動について理工学・数学・生物学など様々な分野の研究者で構成する国内の学会「エアロ・アクアバイオメカニズム学会」が発行するJournal of Aero Aqua Bio-mechanisms誌には,2019年に1件の総説,飛翔や遊泳に関する11件の研究論文が発行された(7).研究対象はナマコ表皮の力学特性,イトマキエイの胸びれを用いた姿勢(ピッチ角)制御,Fish schoolの構造,クマバチの翼形状と慣性特性,高効率飛行,魚の推進効率,細菌走化性,背泳ぎ人型ロボットなど広範である.
流体工学は,医療技術の発展にも貢献してきた.心臓,血管内の血流のシミュレーションや計測について継続的に研究が行われているが,2019年の動向としてはわが国のグループの研究が比較的多く報告されているように感じる.海外論文誌では脳動脈瘤の解析(8),血流による血管蠕動運動に伴う血管周辺の髄液の流れ(9)などの報告がみられ,血流そのものだけではなく,周辺分野にも流体工学が浸透し始めている.日本機械学会関連では,Journal of Biomechanical Science and Engineering誌で,2019年は毛細血管内における血小板の挙動に関する数値解析(10)など3報の論文が掲載された.また,2019年の日本機械学会年次大会ジョイントセッション「流体工学とバイオエンジニアリング」や,同会バイオエンジニアリング部門主催の講演会において,これらの研究分野の最新成果が発表された.
対象物の直接シミュレーション以外にも,バイオ技術向上における流体工学の貢献は大きい.2019年にはFRAP(Fluorescence Recovery After Photobleaching)精度の数値解析による向上(11), FlowNMRによるリガンド結合現象の観察(12)などが報告されている.継続的に行われてきた生体運動・医工連携の研究が一分野として確立されたとともに,流体工学を活用した新たなバイオ技術が生まれつつあり,今後の発展が注目のバイオ流体工学分野である.
〔中井 唱 鳥取大学〕
参考文献
参考文献
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(4) Ishimoto, K., Bacterial spinning top, Journal of Fluid Mechanics, Vol.880(2019), pp.620-652, doi: 10.1017/jfm.2019.714.
(5) Lin, S-Z., Bi, D., Li, B. and Feng, X-Q., Dynamic instability and migration modes of collective cells in channels, Journal of the Royal Society Interface, Vol.16, 20190258, doi: 10.1098/rsif.2019.0258.
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(7) Journal of Aero Aqua Bio-mechanisms
https://www.jstage.jst.go.jp/browse/jabmech/8/1/_contents/-char/en(参照日2020年3月31日)
(8) Brindise, M. C., Rothenberger, S., Dickerhoff, B., Schnell, S., Markl, M., Saloner, D., Rayz, V. L. and Vlachos, P. P., Multi-modality cerebral aneurysm haemodynamic analysis: in vivo 4D flow MRI, in vitro volumetric particle velocimetry and in silico computational fluid dynamics, Journal of the Royal Society Interface, Vol.16, 20190465, doi: 10.1098/rsif.2019.0465.
(9) Thomas, J. H., Fluid dynamics of cerebrospinal fluid flow in perivascular spaces, Journal of the Royal Society Interface, Vol.16, 20190572, doi: 10.1098/rsif.2019.0572.
(10) Takeishi, N., Imai, Y. and Wada, S., Capture event of platelets by bolus flow of red blood cells in capillaries, Journal of Biomechanical Science and Engineering, Vol.14, No.3(2019), Paper No.18-00535, doi: 10.1299/jbse.18-00535.
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(12) Röding, M., Lacroix, L., Krona, A., Gebäck, T. and Lorén, N., A highly accurate pixel-based FRAP model based on spectral-domain numerical methods, Biophysical Journal, Vol.116(2019), pp.1348-1361 doi: 10.1016/j.bpj.2019.02.023.
6.12 混相流
6.12.1 分野別の論文発表状況
混相流は気相,液相,固相で様々な組み合わせが存在し,気相と液相が問題となる場合は流体力学的に取り扱われ,Journal of Fluid Mechanics, Physics of Fluidsなどへ研究成果が投稿される場合が多い.一方,固相が関係する場合は,固相が粒子でそちらに重きを置く場合は粉体工学系のジャーナル,例えばPowder Technology, Advanced Powder Technology, Particuologyなどに投稿される場合が多い.また,混相流は様々な工業プロセスで現れるため,取り扱う分野も多岐に渡り,それによっても投稿先が多い.例えば,液滴がエンジン内で扱われる場合は内燃機関関係のジャーナル(International Journal of Engine Researchなど)へ,化学反応器での粉体挙動は化学工学系のジャーナル(Chemical Engineering ScienceやAIChE Journal)へ投稿される場合が多い.現象と応用先の組み合わせで動向を考えるのは非常に難しいため,代表的なジャーナルであるInternational Journal of Multiphase Flow(IJMF)に関して,2019年の動向を見てみる.表12-1に2019年にIJMFで発表された論文を現象ごとに論文数をカウントしたものを示す.1つの論文で複数の現象を扱っていたり,分類が難しい場合もあるため,その点はご了承いただきたい.この結果を見ると,「沸騰・凝縮・相変化」や「液膜・液膜流」が20年ほど前から比べると減った印象がある.一方で「液滴・噴霧流」が比較的多い.なお,固気二相流が比較的少ないのは,先にも述べたように,粉体工学系のジャーナルへ投稿される場合が多いためと思われる.
表12-1 2019年にIJMFに発表された論文の現象別の論文数
6.12.2 国際学会
国際学会での発表もジャーナル同様,多種多様である.この中で最も多くの分野から参加があると思われるのがInternational Conference on Multiphase Flow(ICMF)であろう.ICMFは3年に一度開催され,2019年は3年に一度の年にあたり,5月にブラジル・リオデジャネイロで開催された.この学会の様子に関しては5件の参加報告(1)-(5)が日本混相流学会誌に掲載されているのでそちらを参照いただきたい.この他に計測技術系でInternational Symposium on Measurement Techniques for Multiphase Flowが11月に中国・江蘇省鎮江市で開催された.また,粉体工学系で見てみると,2019年4月にドイツ・ニュルンベルグでPARTEC 2019が,5月に中国桂林で第16回国際流動層技術会議(Fluidization XVI)が開催されている.
6.12.3 研究動向
まず気液二相流に関して見ていく.気泡同士の相互作用問題や壁との相互作用の問題は古くから行われてきており,1990年代ごろからはコンピュータの発展に伴い,数値解析による研究が多く行われるようになった.近年ではOpenFOAM(6)を使った研究が多く見られるようになった.二流体モデルや界面追跡法であるVOF法が使えるため,これまで利用できなかった研究者も含め,利用者が広がっているためと思われる.Guan et al.(7)はOpenFOAMを用い,相互作用する気泡の揚力や圧力分布の解析を行っている.IJMFで発表された論文でOpenFOAMを用いた研究の数を図1に示す.2010年にSchmidt et al.(8)により発表されて以降,多少の増減はあるが,2019年まで全般的に増加が続いている.2000年から2010年ごろに活発に行われたマイクロバブルやナノバブルなどファインバブルに関する研究は,国内でもいくつかのグループが精力的に研究を行っているが,以前に比べるとやや活気が薄らいだ感がある.
気液二相流のうち,液滴流や噴霧流などは内燃機関関係の研究で多く見られ,International Journal of Engine Researchなどで噴霧現象のモデリングや計測に関する論文が多数報告されている.Vol.21, Issue 2では,近年の直噴ガソリン機関や直噴ディーゼル機関における排気やオイル希釈の課題に関して,燃料噴霧と壁面の干渉の特集号が組まれており,壁面への液滴衝突・飛散や燃料液膜の挙動に関する論文が発表されている(例えば,(9)-(12)).
液液二相流に関しては,表12-1中で3件と少ないが,これは固気二相流と同じ理由から他のジャーナルへの投稿が多いためと思われる.マイクロチャンネル内の液液二相流に関する研究はマイクロリアクターを目的とする場合が多く,生体医工学や化学工学系のジャーナル(Lab on a Chip, Annual Review of Biophysicsなど)に投稿される場合が多いようである.Kihara et al.(13)は相互に溶解しない二相(水とシクロヘキサン)の流体をマイクロチャンネル内で合流させて生じる交互流に対して,水領域内の流れに関して混合度合いをエントロピの概念を用いて解析を行っている.この研究の数値解析においてもOpenFOAMが用いられている.
最後に固気二相流では2つの分野に跨った共同研究の成功事例に関して紹介する.Oshitani et al.(14)は最小流動化速度未満の擬似固定層中で粗大球が特異な挙動を示すことを見出している.特異な挙動とは最小流動化速度以下のガス流速でガスを流している固定層で,粗大球が沈降し,さらには粗大球の密度が固定層の粒子の密度よりわずかに小さい場合に最も深く沈降するというものである.この現象のメカニズムを,Tsuji et al.(15)はDEM-CFDカップリングモデルに基づくシミュレーションと超高速MRIを用いた可視化実験により明らかにしている.化学工学の研究者が実験で明らかにした特異な現象を機械工学の研究者が数値シミュレーションと可視化実験でそのメカニズムを解明した成功例と言えるだろう.
図12-1 OpenFOAMを用いたIJMF発表論文数の推移
〔桑木 賢也 岡山理科大学〕
参考文献
(1)野崎隆文,国際混相流会議(ICMF-2019)への参加報告,混相流,Vol.33, No.3(2019), pp.319-321.
(2)栗本遼,10th International Conference on Multiphase Flow 2019(ICMF2019)参加報告,混相流,Vol.33, No.3(2019), pp.322-324.
(3)朴炫珍,ICMF-2019に参加して,混相流,Vol.33, No.3(2019), pp.325-328.
(4)石崎貴大,10th International Conference on Multiphase Flow 2019に参加して,混相流,Vol.33, No.3(2019), pp.329-331.
(5)干若漪,10th International Conference on Multiphase Flow 2019参加報告,混相流,Vol.33, No.3(2019), pp.319-321.
(6)https://www.openfoam.com(参照日2020年4月2日)
(7)Guan1, C., Yanase, S., Matsuura, K., Kouchi, T. and Nagata, Y., Numerical Study of the Lift Force, Velocities and Pressure Distribution of a Single Air Bubble and Two Interacting Air Bubbles Rising in Quiescent Liquid, Open Journal of Fluid Dynamics, Vol. 10(2020), pp. 31-51
(8)Schmidt, D. P., Gopalakrishnan, S. and Jasak H., Multi-dimensional simulation of thermal non-equilibrium channel flow, International Journal of Multiphase Flow, Vol. 36, Issue 4,(2010), pp. 284-292.
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(10)Xiao, D., Ichikawa, Y., Li, X., Hung, D., Nishida, K. and Xu, M., Film breakup of tilted impinging spray under various pressure conditions, International Journal of Engine Research, Vol.21, Issue 2,(2020)pp.330-339.
(11)Huang, W., Moon, S., Wang, J., Murayama, K., Arima, T., Sasaki, Y. and Arioka, A., Nozzle tip wetting in gasoline direct injection injector and its link with nozzle internal flow, International Journal of Engine Research, Vol.21, Issue 2,(2020)pp.340-351.
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(13)Kihara, T., Obata, H., Hirano, H., Quantitative Visualization of Fluid Mixing in Slug Flow for Arbitrary Wall-Shaped Microchannel using Shannon Entropy, Chemical Engineering Science, Vol. 200, No. 8,(2019), pp. 225-235.
(14)Oshitani, J., Sasaki, T., Tsuji, T., Higashida, K. and Chan, D.Y.C., Anomalous Sinking of Spheres due to Local Fluidization of Apparently Fixed Powder Beds, Physical Review Letters, Vol. 116,(2016)068001
(15)Tsuji, T., Penn, A., Müller, C. R., Hattori, T., Oshitani, J., Pruessmann, K. P., On the Mechanism of Anomalous Sphere Sinking in Apparently Fixed Particle Beds(Discrete Particle Simulation and Ultra-Fast MRI Measurement), 8th World Congress on Particle Technology,(2018)pp. 37-37.
6.13 自然エネルギー
本節では,流体工学に関連する自然エネルギーの研究,特に風力利用分野と水力利用分野の研究について2019年の動向を述べる.
6.13.1 風力利用
2019年に開催された国内講演会では,大形風車について,洋上風力における風況計測,ライダー利用計測や制御への応用,後流の構造や後続風車への影響調査に関するものが多くみられた.小形風車については,水平軸型と垂直軸型の研究がほぼ同程度あり様々な研究が行われている.マグナス効果に関する研究,プラズマアクチュエータの風車失速制御への応用,着氷に関する研究などが比較的多く行われた.空中風力発電に関する発表も多く,この分野の国内における1つのトレンドと言える.
国内で発行された論文としては,洋上風力に関連して,風車後流の干渉を精密に模擬するために,風車翼形状を直接解像するフルロータCFD(Computational Fluid Dynamics)を用いた複数台風車の数値シミュレーション(1),大気安定度を考慮できるメソスケール気象モデルWRF(Weather Research and Forecasting model)とLES(Large Eddy Simulation)を組み合わせた数値シミュレーションおよび補正・検証用に2台のスキャニングライダーを用いた洋上風況調査法の提案(2)などがある.小形風車に関する論文として,直線翼垂直軸風車の性能向上に関するもの(3)(4)やヘリカルタービンに関する実験と数値計算および理論モデルの提案(5)が行われた.国外における風力タービンに関する研究は膨大であり,ここでは主要なジャーナルから一部をピックアップする.大型風力タービン開発における空力弾性解析は重要であるが,大変形を考慮するため,非線形ビーム理論に基づいた空力弾性解析が行われた(6).水平軸の大型タービンの後流に関する研究は活発であり,単一タービンを対象として,実機の後流計測(7),後流蛇行のモデル化(8),後流への新しい動的流入モデルの提案(9),翼端渦崩壊の数値解析(10)などが報告された.複数タービンを対象として,ヨー角制御による後流干渉の緩和の風洞実験(11),高さの異なるタービン列に関するLESシミュレーション(12)が実施された.マルチメガワットの垂直軸風車の最適翼が遺伝的アルゴリズムを用いて検討(13)されたほか,垂直軸型の二重ロータ構造の解析のためにアクチュエータ・シリンダー・モデルが拡張された(14).ツイスト型サボニウス風車の性能と後流を調べる風洞実験(15)やダクト(ディフューザ)付風力タービン(DWT)の数値解析も行われた(16).空中風力発電に関して,ラムエア・カイトの翼構造の最適化(17),インフレータブル・カイトの翼周りの境界層遷移に関するCFD解析(18)が行われ,従来風車と空中風力発電の利用可能な風力資源の比較(19)が報告された.
6.13.2 水力利用
近年,海洋エネルギーが注目されており,国内の講演会においても,潮流・海流発電および波力発電に関する研究が多く発表された.潮流・海流利用では,水中浮遊式の二重反転水車,表層潮流利用の下掛水車が検討され,案内羽根付集流装置やしなやかな管の振動を利用する方式等の検討もされている.波力については,振動水柱(OWC: Oscillating Water Column)型発電装置に関するものがほとんどであり,駆動するタービンとして,主流のウエルズタービンの他,セイルウイング型タービンや,直線翼垂直軸型タービン等が研究された.また,ツイン衝動タービンに使用する流体ダイオードの研究も行われた.小水力発電用タービンの研究もいくつかあり,主に,CFDを利用して,タービン周りの流れの解析が行われた.国内発行の論文として,超低落差用の下掛水車の研究(20)や傾斜側溝の浅水流に適用可能なダリウス水車の研究(21)が報告された.ターボ機械協会の会誌・ターボ機械では,海洋エネルギーの技術動向が特集され,OWC型波力発電(22)や相反転プロペラ式潮流発電(23)および水中浮遊式海流発電(24)について解説された.国外のジャーナルに掲載された潮流・海流関係の論文には水平軸タービンに関するものが多く,入力波状態を変化させた曳航実験(25),ザトウクジラのヒレを模擬したタービンブレードの実験(26),上流の乱流がタービンに及ぼす影響をLESで調査した研究(27),非定常負荷を受けるタービンブレードを解析するための動的失速を考慮したモデルの開発(28)などが行われた.波力発電関連では,振動水柱(OWC)方式の研究が多いが,直線状海岸に並べたOWCアレイ解析用の理論モデルの開発(29),階段状海底条件におけるOWC型装置のCFD解析(30),後ろ曲げ形ブイ(BBDB)方式の浮体を用いたOWC型波力発電(31)の解析が行われた.OWC型ではないが,水中の海面近くに設置したピッチ可変式直線ブレードロータを用いた波力変換装置(CycWEC)に関する数値解析(32)も行われた.小水力関連では,河川用の超低落差軸流タービンについて報告があり,コスト低減を目的とした複合材(炭素繊維)を用いたタービンブレードの開発(33)やキャビテーションのシミュレーション(34)が行われた.
〔原 豊 鳥取大学〕
参考文献
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