5. 機械材料・材料加工
5.1 機械材料
5.1.1 鉄鋼材料
a.生産/b.新設備/c.研究/d.新技術・製品
5.1.2 非鉄金属材料
a.アルミニウム/b.マグネシウム/c.銅/d.チタン
5.1.3 無機材料
a.生産/b.研究
5.1.4 高分子・複合材料
a.高分子材料/b.FRP生産/c.複合材料研究
5.2 材料加工
5.2.1 鋳造/5.2.2 塑性加工/5.2.3 プラスチック加工/5.2.4 溶接,接合/5.2.5 粉末加工/5.2.6 特殊加工
5.1 機械材料
5.1.1 鉄鋼材料
a.生産
日本鉄鋼連盟によれば,日本経済は,製造業・非製造業ともに経済活動は低迷している.2019年 10月の消費税増税後,持ち直しの動きはみられない.個人消費の落ち込みやインバウンド需要の減少,設備投資意欲の減退,サプライチェーンの混乱に よる生産への影響,世界経済の減速による輸出の減少等,景気は悪化してきた.日本経済は,2019年は外需中心に減速し,内需が堅調だったが,国内鉄鋼市場は弱い動きとなった.
鉄鋼業界の動向としては,原料高・製品安の構造継続のもと,国内各社の経営状況は厳しいものとなっている.日本製鉄(株)は,日新製鋼(株)を完全小会社化し日鉄日新製鋼(株)を設立した.さらに2020年4月には日鉄日新製鋼を日本製鉄に統合した.従来の製鉄所を統合再編成して6製鉄所体制とした.国内高炉製鉄会社は,日本製鉄,JFEスチール(株),(株)神戸製鋼所の3社体制となった.
世界の粗鋼生産量は2019年の18億837万tから18億6992万tへと増加した.その中で,中国の粗鋼生産量は過去最高の9億9643万tに達した.中国鉄鋼業は,依然として過剰生産能力を抱えたままであり,世界鉄鋼業界の利益逓減リスクは軽減されていない.全世界生産量の50%を占めている.インド経済は高成長率での景気拡大が続き,インドの粗鋼生産量は1億646万tから増加し1億1125万tとなり,2019年に続き我が国を超え,世界第2位の生産量となった.日本は第3位となった.アメリカの粗鋼生産量のみが唯一増加した.
国内の粗鋼生産量は2017年度の1億433万tに対し,4.8%減の9,928万tとなった.5年連続で前年を下回る結果となった.内需・外需ともに減少したことが影響した.
b.新設備
日本製鉄やJFEスチールでは,老朽化したコークス炉の改修が続いている.高炉については,日本製鉄は和歌山製鉄所第5高炉を休止し,第2高炉が稼働した.日本製鉄は八幡製鉄所の戸畑地区にブルーム連続鋳造機を新設した.また,JFEスチールでは全高炉にデータサイエンス技術を導入し,革新的な生産性向上を目指すという発表があった.薄板製造設備関連では,JFE スチールはメキシコでNUCOR-JFE STEEL MEXICO社において,自動車用溶融亜鉛鍍金鋼板製造設備を稼働させた.神戸製鋼所溶接事業部門は,新型アーク溶接ロボット「ARCMAN™ A60」(以下 A60)を開発し,販売を開始するとい発表があった.
c.研究
2019年度も2018年度に引き続き,環境・エネルギー, プロセス, 材料分野で公的資金による研究が多く行われている.環境調和製鉄プロセス技術開発(COURSE50)は,CO2排出の抑制とCO2の分離・回収により,CO2排出量を約30%削減する技術を開発に向けて,2018年6月より実用化開発第1段階(フェーズⅡstep1)に着手し,2019年度も研究計測中である(1).
材料関係では,「革新的構造用金属材料創製を目指したヘテロ構造制御に基づく新指導原理の構築」が2019年度終了した.材料に存在する様々なスケールでの不均一性(heterogeneity)を積極的に利用することで,従来にない革新的構造材料を生み出すことを目的とした優れたプロジェクトであった(2).
2013年度からスタートした革新的構造材料技術開発ISMA(2013-2022)も7年目になり,1500MPa-20%鋼や異種材料の接合など,開発した材料を実用化するための設計技術やマルチマテリアル化技術の開発に注力している(3).
さらに,内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム,SIPプロジェクト二期が2019年度にスタートした.統合型材料開発システムによるマテリアル革命である.第一期が,米欧が席巻する航空機産業の一角に食い込むための革新的構造材料の実現に向けたプロジェクトであったのに対し,第二期は3次元造形と統合型材料開発システムの開発に力点を置いたものである.
そのほか,「超高圧水素インフラ本格普及技術研究開発事業」(2018~2022年度,「超先端材料超高速開発基盤技術プロジェクト」 (2016~2021年度)の研究,「ミルフィーユ構造の材料科学-新強化原理に基づく 次世代構造材料の創製」(2018~2022年度)も行われている.
d.新技術・製品
日本製鉄とJFEスチールがそれぞれ開発した1310MPa級ハイテンが,マツダ(株)の新型車の車体骨格 部品に世界で初めて採用された.神戸製鋼所はホットスタンプ用 めっき鋼板(焼入後強度1500MPa級)を開発し,車体骨格 部品用途で量産を開始した.
JFEスチール溶接性を高めた高速溶接缶用ティンフリースチールBRITE-ACEが,大和製罐株式会社に溶接飲料缶胴用途として採用された.高速溶接を行う飲料缶にティンフリースチールが採用されるのは,世界で初めてである.(株)日本製鋼所と高圧昭和ボンベ(株),新日鐵住金(株) は,水素ステーション用鋼製蓄圧器の新型を共同で開発し, 商業生産を開始した.99MPa高圧水素に耐える粘り強さと高強度を両立した大径厚肉シームレス鋼管が採用されている.神戸製鋼所とマツダ株式会社は,足回り部品の防錆性能を高めた溶接方法である「自動車足回り向けスラグ低減溶接プロセス」を開発し,マツダ「MAZDA3」に初めて採用された.
2019年に引き続き,構造材料関係の2つの大型国家プロジェクト,ISMA,SIPが並行して行われ,さらに,超高圧水素インフラ本格普及技術研究開発事業も始まっている.鉄鋼材料にとっては,大変よい環境がつづいている.鉄鋼関連のプロジェクトは,上記以外にも7つあり,産官学連携して革新構造材料や鉄鋼プロセス技術の研究開発に取り組む好機がつづく.体制・拠点を確固たるものにして,永続的な発展を期待したい.
〔鳥塚 史郎 兵庫県立大学〕
5.1.2 非鉄金属材料
a.アルミニウム
日本アルミニウム協会によると,2019 年の箔を除くアルミニウム圧延品の生産量は1,904,921トンで前年比4.9%のマイナスとなり,6年ぶりに200万トンを下回った.板材の生産量は1,149,403トンで前年比5.7%のマイナス,押出材の生産量は755,518トンで前年比3.7%のマイナスであった.板材のマイナスは,半導体需要の低迷による一般機械向け,卸・小売り向けの大幅減によるところが大きい.一方,乗用車へのアルミ需要増を受けて自動車用は年間を通じて好調であった.また,板材の約3分の1を占め,最大用途である缶材は前年比微増であった.押出材のマイナスは,熱交換器をはじめ自動車用の減少によるところが大きい.押出材の約6割を占め,最大用途である建設用は防災用アルミフェンスの需要増を受けてプラスとなった.ダイカストの生産量は1,001,382トンで前年比4.8%のマイナス,鋳物は437,496トンで前年比3.6%のマイナスであった.ダイカストは自動車用が896,899トンと前年比4.7%のマイナスとなった.鋳物は自動車用が410,960トンと前年比3.2%のマイナスとなった.鍛造品は42,853トンで前年比8.7%のマイナスで,その内自動車用が31,318トンで前年比2.6%のマイナスとなった.電線は30,269トンで前年比5.6%の増加であった.2020年度は,新型コロナウイルスの影響により,見通しは不透明である.
b.マグネシウム
日本マグネシウム協会によると,2019年の国内マグネシウム需要量は,構造材向けのマグネシウム合金需要が前年比1.3%増の7,590トン,添加材向けの純マグネシウム需要が同0.2%増の26,350,防食その他向けが同15.9%減の925トン,輸出が同12.8%減の225トンとなり,全体では35,090トンで同0.2%微減と,ほぼ横ばいでの推移となった.マグネシウム合金を使用する構造材向けの需要では,鋳物部門が前年比46.2%増の190トン,射出成形部門が同25%増の1,200トンと増加し,増加が期待されていたダイカスト部門が同1.9%減の5,100トン,展伸材部門が同横ばいの800トンとなり,その他合金の同25.0%減となる300トンと合わせ,合計は前年から若干増加の7,590トンとなった.自動車分野における環境負荷軽減や電動化に伴う軽量化ニーズの高まりにより,環境負荷の少ない製造工程である射出成形品は,使用部品のサイズ増,部品数の増により需要量の増加が続いた.鋳物は,航空宇宙分野での試作対応等,自動車部品以外での使用量が増加傾向にある.純マグネシウムを使用する添加材向けの需要は,主要分野のアルミ合金添加部門が前年比0.6%減の17,000トン,鉄鋼脱硫部門が同3.5%増の4,140トン,ノジュラ鋳鉄部門は同横ばいの2,700トンと,前年から安定的に推移した.その他,チタン製錬部門は同44.3%増の1,010トン,化学・触媒部門はやや低調で同16.7%減の1,500トンとなり,合計は26,350トンとほぼ横ばいでの推移となった.防食その他は,前年比15.9%の減少となったが,数量のうち約100トンが防食向けの需要で,これはほぼ横ばいでの推移となったが,その他の特殊な用途の需要量が減少することとなった.地金の輸出は財務省貿易統計の数値によるもので,純マグネシウム地金が0.5トン,マグネシウム合金地金が224.5トンとなり,前年から12.8%減の225トンとなった.2020年度は,新型コロナウイルスの影響により,見通しは不透明である.
c.銅
日本伸銅協会によると,2019年度の伸銅品の需要の見通しの合計は,766,500トンであり,前年度比5.4%減となる見込みである.銅では,最も需要の大きい条は255,600トンであり前年度比5.0%減,前年度比の増加が見込まれるのは板であり19,000トンの14.2%増,減少が見込まれるのは線であり2,950トンの10.2%減である.また 2023 年度までの中期見通しについては,最終年度(2023 年度)を 832.0 千トンと見通した.(対2018年度対比 年平均伸び率+0.5%).銅需要の減少は,米中貿易摩擦の影響が大きいと見られている.2020年度は,銅需要の増加が期待されていたが,新型コロナウイルスの影響により,見通しは不透明である.
d.チタン
日本チタン協会の金属チタン統計によると,2019年1月~6月の展伸材の出荷は前年同期比5.4%減の8456トンだった.中国の経済成長減速の影響を受け,プレート熱交換器や海外プラント向けが減少した.ただし合金展伸材は80.1%増の1572トンと,過去最多だった前年を上回るペースで急増した.インゴット生産は1.4%増の1万1616トンだった.スポンジチタンを主とする「チタン塊・粉その他」の2019年輸出量は前年比24.3%増の33,789トンと4年連続で増加し,12年に記録した30,702トンを上回った.海外航空機市場での需要増加を受け,年間を通じて力強い伸びを示した.2020年度は,新型コロナウイルスの影響により,見通しは不透明である.
〔西田 進一 群馬大学〕
5.1.3 無機材料
a.生産
(一社)日本ファインセラミックス協会(JFCA)が毎年実施している産業動向調査(1)によれば,ファインセラミックス部材の生産総額は2017年に3兆円弱,2018年に3.2兆円となり,2019年はわずかに3.1兆円への減少する見込みである.長期的な展望を見ると,1990年代と比べても生産額は倍増加しており,2018 年,2019年と,引き続き過去最高生産額が3兆円超えに達する見通しと順調に成長している.内訳を見ると,全生産額の7割を占めている「電磁気・光学用」部材がもっと多く,ついで,「機械的」部材と「熱的・半導体関連」部材がそれぞれ全生産額の1割,さらに「化学,生体・生物・他」部材が全生産額の1割弱となっている.「汎用及びその他」は,全生産額の0.1%とわずかである.基本的にはここ数年大きな変化はないが,その中では,「電磁気・光学用」部材と「熱的・半導体関連」部材は堅調であった.この要因は,スマートフォンに代表される情報通信機器の需要と自動車の電装化・電子化が挙げられている.しかしながら,2020年1月から始まったCOVID-19のパンデミックによる景気減退は大きな影響を及ぼすものと懸念される.
b.研究
2019年9月に関西大学で開催された日本機械学会年次大会において,「セラミックスおよびセラミックス系複合材料」が企画運営され,6件の講演発表があった.その他のセッションでの関連講演を含めると11件程度の発表があった.また,2019年M&P2019が福井市で開催され,「セラミックス/セラミックス系複合材料」や「自己治癒材料・システム」をはじめ,19件のセラミックスに関する講演があった.講演内容としては,一般的な構造用セラミックスの他,セラミックス基複合材料(CMCs),自己治癒セラミックス,歯科セラミックス,金属との接合など,多岐にわたっていた.また,日本セラミックス協会秋季シンポジウムはPACRIM13として沖縄で開催され,機械材料としてのセラミックスは「Advanced Structural Ceramics for Extreme Environments」,「Engineering Ceramics: Processing and Characterization」,「Advanced Wear Resistant Materials: Tribology, Coatings and Reliability」の3つのセッションが開催された.また,セラミックスの3Dプリンティングに関するセッションも行われた.
近年,SiC系CMCsの航空機エンジンの応用をGEが進めたことを皮切りに,日本でも国家プロジェクトが立ち上げられている.また,この材料を軽水炉の燃料管に応用しようという動きもある.CMCs以外に,自己治癒セラミックスが徐々に注目されており,研究グループが増加している.また,三元系層状構造炭化物/窒化物であるMAX相セラミックスが注目されている.この材料は,機械的強度や破壊靱性値が比較的高い上,超硬合金による切削加工が可能であるという特徴を有する.Cr2AlCやTi2AlC,Ti3SiC2など,化学組成によっては,優れた高温耐酸化性や自己治癒機能を有している.しばしば,大きな国際会議ではMAX相セラミックスのセッションが企画されている.加えて,構造用セラミックスの3Dプリンティングも注目されており,今後の進展が期待される.
〔南口 誠 長岡技術科学大学〕
参考文献
(1)(一社)日本ファインセラミックス協会, 2019年日本ファインセラミックス産業動向調査.
5.1.4 高分子・複合材料
a.高分子材料(1)
2019年におけるわが国のプラスチック原材料の生産実績は前年比1.6%減の1050万tである.3.6%減の2018年から減少に転じた.熱硬化性樹脂全体の生産量は92.0万t(5.2%減)である.主な内訳は,フェノール樹脂(28.8万t(4.6%減)),ユリア樹脂(5.8万t(3.3%減)),メラミン樹脂(7.6万t(8.4%減)),不飽和ポリエステル樹脂(11.9万t(4.0%減)),エポキシ樹脂(11.6万t(12.1%減))である.一方,熱可塑性樹脂全体の生産量は939.8万tで2018年比0.9%減となった.主な内容は,ポリエチレン(244.8万t(0.8%減)),ポリスチレン(76.8万t(2.0%減)),AS樹脂(6.6万t(8.3%減)),ABS樹脂(33.9万t(11.0%減)),ポリプロピレン(244.0万t(3.5%増)),メタクリル樹脂(14.3万t(5.9%減)),ポリビニルアルコール(20.8万t(2.3%減)),塩化ビニル樹脂(173.3万t(2.5%増)),ポリカーボネート(29.8万t(6.9%減)),ポリエチレンテレフタレート(36.5万t(7.1%減)),ポリブチレンテレフタレート(11.5万t(5.0%減))などとなっている.
b.FRP生産(2)
2012年に見直しを受けた用途別FRP出荷数量統計について2018年分について示すと(カッコ内は前年比%),合計233千t(3.7%減)となった.その内訳は,建設資材32.5千t(5.2%減),住宅機器69.8千t(3.7%減),浄化槽27.9千t(0.7%減),舟艇/船舶6.9千t(増減なし),自動車/車両20.4千t(10.5%減),タンク/容器18.4千t(0.5%減),工業機材21.9千t(3.1%減)などとなっている.
c.複合材料研究
国内で開催された複合材料に関わる行事として,2019年3月に第10回日本複合材料会議(JCCM-10,日本複合材料学会,日本材料学会主催,東京)が行われた.この会議は「日本0を代表する複合材料に関する会議」の設立を目的に2010年京都で第1回が行われ,第2回(2011年東京にて開催予定であった)が震災で講演中止となったものの,その後毎年東京と京都で交互に行われているものである.構造の軽量化要求への一つの回答として複合材料実用化への期待から,企業からの参加者数が引き続き増加傾向にある.材料および構造の複合化のみにとどまらず,機能化・知能化等にも関連する幅広い分野からの講演が行われた.残念ながらコロナウィルスの影響で,2020年3月に予定されていた第11回会議は中止となった.また,歴史ある国内会議として,2019年9月に第44回複合材料シンポジウム(日本複合材料学会主催,岡山),10月に第64回FRP総合講演会・展示会(FRP CON-EX)(強化プラスチック協会主催,岐阜)が開催された.これらは,それぞれ,学会,産業界が中心となり特徴ある情報発信を続けている.さらに,日本機械学会2019年度年次大会(9月(秋田大学)では,機械材料・材料加工部門と材料力学部門により合同セッション「先端複合材料の加工と力学特性評価」が企画された.さらに,日本機械学会機械材料・材料加工部門主催の第27回機械材料・材料加工部門技術講演会(M&P2019)(11月,福井大学)においては「高分子/高分子基複合材料の成形加工」のセッションが組まれ,成形から評価まで多くの研究成果が発表された.国際会議に目を向けると2019年はオーストラリア・メルボルンで第22回国際複合材料会議(ICCM-22)(8月)開催された.この会議は,複合材料関係の会議としては最大と考えられ,50カ国以上から1500以上の研究発表がなされている.
〔荻原 慎二 東京理科大学〕
参考文献
(1)日本プラスチック工業連盟ホームページ,http://www.jpif.gr.jp
(2)古屋秀樹,強化プラスチック需要動向ー2018年―,強化プラスチックス,第66巻,第2号,85-86,強化プラスチック協会,2020
5.2 材料加工
5.2.1 鋳造
生産量において,2019年における鋳鉄(銑鉄鋳物,鋳鉄管と可鍛鋳鉄),鋳鋼品,非鉄鋳造品(銅合金,アルミニウムとダイカスト)および精密鋳造品を合計した鋳物の総生産量は528万tであり,2018年の総生産量557万tに対して,若干の減少傾向を示した.総生産量が695万tとピークであった2007年と比較して,2019年は76%と全盛期に比較してまだ低い水準にある.銑鉄鋳物は332万tで前年と比較して95%と減少し,2017年から連続してのプラス傾向からマイナス傾向に転じた.用途別では,自動車を含む輸送機械用が230万tで前年から微減し,産業機械器具用,金属工作・加工機械用を含む一般・電気機械用は87万tと前年比90%減少した.鋳鉄管は23万tで,前年度から1万t減少した.可鍛鋳鉄は4.0万tで前年とほぼ同一であった.鋳鋼品は船舶,土建鉱山機械,鋳鋼管,破砕機・摩砕機・選別機などを中心に合計15.3万tが生産され,前年比91%と減少した.非鉄鋳物では,銅合金鋳物が7.1万tで前年から3千t減少した,アルミニウム鋳物は43.7万tの生産量で前年比96%と微減した.ダイカストは102万tで2018年比95%と減少した.精密鋳造品は4,157 tで前年比82%と2年連続で減少した.2019年の鋳造品の生産量に関して,すべての鋳物製品で前年度より減少傾向を示した.2019年の鋳物の総生産金額は, 1兆9862億円となり前年比-4%であり,マイナス傾向となった.個別の生産額と2018年度比を見ると,銑鉄鋳物は7,142億円で97%,鋳鉄管671億円で92%,可鍛鋳鉄は153億円で98%,鋳鋼は1,332億円で92%,銅合金は885億円で93%,アルミニウム鋳物は2,967億円で95%,ダイカストは6,260億円で97%であった(1).(公社)日本鋳造工学会では,「鋳物品質向上に寄与する精密鋳造用各種材料の特性把握」,「現場技術改善事例」,「日韓共同セッション」と題したオーガナイズドセッションが開催された.また,「鋳造分野におけるバーチャルエンジニアリングの最新動向」,「生産性向上のための最新技術の活用」と題した2件の技術講習会が開催された.鋳造工場へのIT/IoT技術の導入及びCAEやVR技術を用いたバーチャルエンジニアリングの講習が行われた.CAE分野では粒子法を用いた解析の発表が多数を占めていた.また,3D造形技術を用いた砂型積層鋳型の研究が活発化している(2)(3).(一社)日本鋳造協会ではIoTの研究・導入推進.支援を目的としたIoT推進委員会よってIoT技術導入に関する現状分析が行われた(4).世界最大規模の鋳造業展示会GIFA2019が6月にデュッセルドルフで開催され2,368の出展と72,500人の参加者があった.大型出店の半数が中国企業であった(5).また,鋳造技術の伝承と高度化を目指した「鋳造カレッジ」は12年目を迎え,協会認定の鋳造技師の認定数は累計999名(2018年度まで)を数えている.2019年度は鋳鉄コースに73名,上級コースに13名が受講した(6).
〔長船 康裕 室蘭工業大学〕
参考文献
(1)素形材工業生産実績, 素形材,Vol.61, No.3 (2020), 75-79.
(2)第173回全国講演大会講演概要集, 公益社団法人日本鋳造工学会,(2019).
(3)第174回全国講演大会講演概要集, 公益社団法人日本鋳造工学会,(2019).
(4)鋳造ジャーナル,vol.15,No.8(2019)52-53.
(5)藤原宏嗣,鋳造ジャーナル,vol.15,No.9(2019)22-30.
(6)鋳造ジャーナル,vol.16,No.3(2020)22-24.
5.2.2 塑性加工
2018年に引き続き,塑性加工プロセス中の各種情報のセンシング技術と機械学習を援用した研究・技術開発が精力的に取り組まれた.主にビッグデータ,機械学習に資するデータの収集手法,センサ技術の開発および加工現象との関係性の分析であり,また機械学習による加工条件の適正化や流動応力等の材料物性の同定が講演会や学術論文にて公表され始めた.一方,自動車の電動化に呼応して,電池やモータに関連する部品の塑性加工に対して特に産業界から高い関心が寄せられた.
圧延分野では,鋼材を対象としたものでは熱間圧延に関する研究報告が多く,形鋼の形状制御,板の幅制御やトライボロジー現象が中心であった.アルミニウム合金等の非鉄金属を対象としたものでは,表面性状や材質(組織)変化に主眼が置かれた研究報告が多数なされた.また異種金属を積層したクラッド材や炭素繊維強化樹脂(CFRP)等の複合材料を対象とした圧延特性についても基礎的な取り組みが報告された.押出し分野においては,アルミニウム合金,マグネシウム合金を中心とする軽金属を対象に,材質(組織)変化,押出し後の機械的特性に主眼が置かれたものが研究報告の中心であった.
鍛造分野では,国内外問わず,軽量化,複雑形状をターゲットに,加工法,トライボロジー,材料の観点から多数の研究報告がなされた.また有限要素シミュレーションの高精度化を目的として,高ひずみ域での流動応力-ひずみ曲線の測定・同定手法やモデリング手法の研究報告も多数なされ,中には機械学習を援用したものも含まれた.熱間鍛造においてはニッケル基合金,チタン合金の材質(組織)変化・制御に関する研究報告が目立った.これは内閣府・戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の一つ「大型精密鍛造シミュレータを用いた革新的新鍛造プロセス開発と材料・プロセスデータベース構築」が2018年度に終了し,その成果が多数公表されたことが関係している.一方,産業界から高い関心が寄せられている板鍛造については,2018年に引き続き,研究報告は少なく,基礎研究から実用化へ移行しつつある可能性がある.
板材成形分野では,国内外問わず,軽量化・高強度化,高形状精度をターゲットに,主に材料モデリング,加工法,材料の観点から多数の研究報告がなされた.特に高張力鋼,CFRPの難成形材料を対象として,各種評価試験による変形特性(主に成形限界)の測定と有限要素シミュレーションの高精度化のための材料モデリングに関する研究報告がさかんであった.また結晶塑性有限要素シミュレーションによる成形解析に関する基礎研究も多く研究報告された.材料モデリングについては,機械学習を援用した研究報告も見られた.一方,加工法については,ホットスタンピングやインクリメンタル加工の研究報告が多数なされた.
塑性接合分野では,高張力鋼やアルミニウム合金を対象にして,メカニカルクリンチング,摩擦圧接,電磁圧接,超音波や摩擦攪拌現象を利用した接合に関する研究報告がなされた.またマルチマテリアル構造をターゲットに,異種金属,金属とCFRP,樹脂の接合に関する研究報告が国内外問わずに精力的になされた.
第27回機械材料・材料加工技術講演会(M&P2019)では塑性加工に関するオーガナイズドセッションが設けられ,板材成形の講演発表が多数を占めた.また2019年度塑性加工春季講演会(1)では粉末成形,IoT・センシング技術,板材成形,生体材料の塑性加工に関するテーマセッション,第70回塑性加工連合講演会では鍛造加工,引抜き加工,ポーラス材料,結晶塑性シミュレーション,CFRP・GFRPに関するテーマセッションが設けられた.なお第70回塑性加工連合講演会は令和元年東日本台風により開催が中止された(講演論文集は発行.講演発表は公知扱い)(2).第6回プレス・板金・フォーミング展MF-Tokyo 2019が2019年7月に東京で開催され,各種加工機械や周辺機器の展示とともに塑性加工とその周辺技術に関する講演会やセミナーも併催された(3).一方,国際生産工学アカデミー(CIRP)第69回総会(CIRP 2019)が2019年8月にイギリス・バーミンガムにて開催され,塑性加工部門では18件(6カ国)の講演発表があった.
〔松本 良 大阪大学〕
参考文献
(1)宮本博之, 2019年度塑性加工春季講演会の報告, ぷらすとす, Vol.2, No.21 (2019), pp.600–601.
(2)米山猛, 第70回塑性加工連合講演会の中止を受けて, ぷらすとす, Vol.2, No.24 (2019), p.836.
(3)桑原利彦, MF-TOKYO出展報告, ぷらすとす, Vol.2, No.23 (2019), pp.732-741.
5.2.3 プラスチック加工
高品質なプラスチック成形品を多量に生産するためには,射出成形機本体のみならず周辺機器も含めた総合的な品質管理や生産管理が求められている.この背景を受けて制御装置のデジタル化が推進され,インダストリ−4.0と呼ばれるモノづくりの手法が広く採用されるに至り,射出成形分野においても成形・生産上の群管理に加えて,稼働状況の管理,アフターサービスの事前予知などの手法が提案されている.成形機は精密制御とともに成形工程の複合化が進み,ニアネットシェイプ成形による高品質成形品の開発が加速している.
プラスチックの高付加価値化への押出・ブロー技術の貢献は大きく,多くの技術報告が行われている.多様なコンポジットの検討が報告される中,押出機には,高混練,高精度,省エネルギー化が求められており,多軸化,高トルク対応,高速回転,スクリュ深溝化が進む.また,CAE(Computer Aided Engineering)支援によるスクリュ形状最適化やセンシング技術を用いた異物のオンライン検知除去技術の報告なども見られ,高機能化とプロセス合理化の両立に応えている.また,持続可能な素材として注目される天然セルロースによるプラスチック強化技術においては,セルロースをナノレベルに解繊するプロセスが肝要であり,混練押出機が重要な役割を果たしている.
ブロー成形は,中空形状を活かしたダクト,ホース,タンクなどの自動車部材に適用される.この分野では,近年液体ブロー成形法が開発され,プラスチックのみならず金属ガラスへの適用が世界的に検討されている.ポリエチレンテレフタレート(PET)ボトルの延伸ブロー成形においては,サーボポンプ採用や電動化などにより,省エネルギー,ハイサイクル,低コスト化とプロセスの洗練が進む.また,ブロー成形の形状自由度を活かし,多品種小ロット対応によるユニーク形状ボトルの報告は,魅力的な差別化手法の提案である.
地球環境改善を目的とした自動車の軽量化に伴い,長繊維強化樹脂に代表される高分子基複合材料が採用され,同材料の成形加工で生じるスクリュ内での繊維の圧損・分散挙動や金型内での繊維配向挙動の研究が進んでいる.長繊維強化樹脂の成形加工では,コストダウンを目的とした連続繊維直接成形と呼ばれる,直接繊維と樹脂を成形機に投入する成形加工法が欧米で進み,日本においても研究が進んでいる.一方で,溶融積層法を用いた炭素繊維強化熱可塑性樹脂の三次元造形に関する結果も報告され,ほかの繊維を用いた三次元造形も検討され始めている.さらに天然繊維や木粉に加えて,セルロースナノファイバーの分散性の向上,乾燥技術,成形加工法の研究が活発化している.自動車部品,特に外装品へのプラスチック材料の採用にあたっては,難燃化が熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂においても行われている.一方で近年,エレクトロニクスデバイスの高性能化,小型化に伴い,発生する熱管理が重要となっている.プラスチックは絶縁性や柔軟性に優れるものの,熱伝導性の低さが弱点であり,高熱伝導性と絶縁性を有するフィラーを複合化することにより樹脂の熱伝導性を向上させる技術が検討されている.
また,金属材料と繊維強化樹脂,あるいは樹脂材料と繊維強化樹脂の組み合わせによるマルチマテリアル化が推進されている.この異種材料による複合化にあたって,物理処理や化学処理によるアンカー効果の発現,接着剤の研究など異種材料間の接合接着に関する研究も多く,自動車部品などへの実用化に向け今後の展開が期待される.
2019年度の容器包装リサイクル法に基づく一般廃棄物系の廃プラスチックのリサイクルは,回収量66万トンであり,この量はここ数年ほぼ一定である.落札量は,プラスチックパレット等に再加工する,いわゆる材料リサイクルが約53%,コークス炉化学原料化が33%,ガス化が9%,高炉還元剤が5%程度である.これにより,CO2削減や,バージンプラスチックの削減に貢献している.
2017年に中国が廃プラスチックの輸入を停止すると発表し,同年末に実施された.このため従来日本から中国へ輸出されていた年間約80万トン(香港経由分を含めると推定140万トン)の廃プラスチックが行き場を失うことになった.現在は,ベトナム等東南アジア諸国へ振向けられ,ペレット化したのち中国へ輸出する動きが中心となっているが,これらの諸国も将来は輸入を規制する可能性もあり,世界的に廃プラスチックのだぶつきが問題となりうる.したがって,コスト的に優位な材料・ケミカルリサイクルの利用拡大が期待される.海外の研究では,リサイクルPETの高次構造と機械的特性の時間依存性の検討など,基礎研究に基づく文献が報告されている.炭素繊維強化プラスチック(CFRP)は構造部材用途で注目を集めており,国内外を問わずCFRPのリサイクルの事業化事例が出てきている.邦文では,低密度ポリエチレンの再成形で形成される構造と物性の関係,樹脂溜を設けた押出機を用いたリペレットによる物性改善等がなされている.
〔高山 哲生 山形大学〕
5.2.4 溶接,接合
溶接・接合の日本国内における研究開発動向は,溶接学会全国大会で確認できる(1).2019年度春季と秋季の全国大会での一般講演の総数は287件であった.溶接法ごとの発表件数で比較するとアーク溶接102件,レーザ/電子ビーム溶接(レーザクラッディングを含む)35件,固相接合(超音波接合,摩擦圧接,拡散接合などを含む)33件,摩擦攪拌接合/摩擦攪拌プロセス33件,ろう接/はんだ15件,抵抗溶接13件であった.また,機械的締結についても5件の発表があった.また,異材接合の発表件数は35件あり,異種金属接合31件,金属/樹脂接合3件,であった.異種金属接合のうち13件が鉄とアルミの接合,異種アルミの接合が2件であった.異材接合のうち摩擦攪拌接合11件,固相接合15件,ろう接が5件,レーザ溶接が2件,アーク溶接が1件であった.また,3D積層造形のセッションが設けられており,発表件数は7件であった.その他に,AIやDeep Learningに関する発表が4件あり,春季全国大会では「超スマート社会における溶接プロセス技術の姿-IoT とAI が魅せるモニタリングと制御の未来-」と題したフォーラムが開催された.溶接学会誌においても「深層学習・機械学習を応用した溶接技術」と題する特集が組まれるなどAIやDeep Learningが本分野でも注目を集めている(2).
皮膜形成技術である溶射の日本国内における研究開発動向は,日本溶射学会全国講演大会で確認できる(3)(4).2019年度春季と秋季の全国大会での一般講演の総数は33件であった.溶射法ごとの発表件数で比較するとプラズマ溶射13件(このうちサスペンションプラズマ溶射2件),コールドスプレー8件, HVOF/HVAF溶射4件,エアロゾルデポジション/超音速フリージェットPVD3件,アーク溶射1件,レーザクラッディング3件,ウォームスプレー1件であった.材料別で比較するとセラミック13件,金属10件,サーメット4件,TBC3件,樹脂1件であった.また,コーティングの評価技術についての講演が3件なされた.春季大会ではコーティングの非破壊検査技術についてのオーガナイズドセッションが組まれ,最新の溶射技術の重要性が議論された.なお,2019年6月には国際溶射会議が日本の横浜で開催され,全230件の講演発表があった(5).詳細は日本溶射学会より開催報告が出されているので参考にされたい(6).
溶射を含む溶接・接合をめぐる産業界・教育関係・国際関係など様々な分野の最新の動向は溶接学会から詳細な報告書が出されているので合わせて参考にされたい(7).
〔安井 利明 豊橋技術科学大学〕
参考文献
(1) 溶接学会全国大会講演概要, 溶接学会.
https://www.jstage.jst.go.jp/browse/jwstaikai/-char/ja (参照日2020年3月10日)
(2) 特集 深層学習・機械学習を応用した溶接技術, 溶接学会誌,Vol.88 (2019) 8-35.
(3) 日本溶射学会編集委員会編, 日本溶射学会全国講演大会講演論文集, Vol.109th (2019).
(4) 日本溶射学会編集委員会編, 日本溶射学会全国講演大会講演論文集, Vol.110th (2019).
(5) 国際溶射会議ITSC2019 in Yokohama, ASME International
https://www.asminternational.org/web/itsc-2019 (参照日2020年3月10日)
(6) シャヒン, 齋藤, 鈴木, 篠田, 国際溶射会議ITSC2019報告, 溶射, Vol.56 (2019) 143-146.
(7) 特集 溶接・接合をめぐる最近の動向, 溶接学会誌, Vol.88 (2019)38-132.
5.2.5 粉末加工
日本粉末冶金工業会が毎年7月に発行する年報において,前年度の粉末冶金製品生産状況や技術など業界の動きが報告されている.2019年の報告(2018年度実績)における国内生産実績によれば,粉末冶金製品の主力である機械部品および軸受合金に関して若干の減少を示したものの,摩擦材料が3.0%(金額で8.0%)増となり,ここ数年間の生産実績としては横ばいとなっている.原料粉末の動きとして,ステンレス鋼粉とMIM用原料粉が耐食・耐熱部品への採用拡大等で需要を増やしていることから,粉末加工の利点を生かした堅調な技術開発が進んでいることが伺われる.技術の動きとして,AL青銅粉の商品化や黒鉛偏析防止鉄粉など各種原料粉の開発や,IoT技術の活用による検査自動化,成形-焼結-サイジング-機械加工までの同期生産の実現などが挙がっている一方で,今後の重要技術として,粉体特性の安定化,寸法安定化,二アネットシェイプ化といった普遍的な課題の他に,3D積層造形やCAEを活用したデジタル生産技術が期待されている.粉末成形~焼結法に関する国内の研究動向に関しては(一社)粉体粉末冶金協会の春季および秋季大会における講演の状況にて確認できる.2019年春季大会において「粉末成形・加工による特異組織構造形成と高次機能化」と題したセッションがあり,SLM(Selective Laser Melting)積層造形におけるプロセスパラメータが生じさせる様々な特異組織とその機能(高強度・耐腐食・熱伝導異方性など)が報告された他,金属マイクロサイズ粒子の焼結現象を用いた新規接合技術,組織にヘテロ構造を有する粉末を焼結して生成される高強度・高延性の調和組織,Al-Fe系超急冷粉末を用いた粉末熱間押出材の創製,などが報告されている.特に3D積層造形技術に関しては粉末を出発点とする加工法の新機軸として,同協会秋季大会においても多くの報告がなされている.同様に注目すべき動向として,近年その特異な性質から注目されているハイエントロピー合金および金属ガラスに関するセッションが企画され,その凝固現象や組織形成過程ならびに力学特性に関する報告が多くなされた.
〔谷口 幸典 奈良工業高等専門学校〕
5.2.6 特殊加工
特殊加工の中でも産業界においてこの数年ますます注目を集めているのは金属材料の3Dプリンティング関連であるが,国内では2019年3月に次世代3D積層造形技術総合開発機構(TRAFAM)が主導した次世代型産業用3Dプリンタ造形技術開発の国家プロジェクトが終了した.本プロジェクトでは,レーザや電子ビームをエネルギ源とした金属材料の高速・高精度造形を目標とし,国内の多くの大学,研究機関,企業が参画して5年にわたり研究開発を進めてきた.本プロジェクト発として,パウダーベッドタイプよりも大型部品の高速,高精度造形性能に優れるパウダーDED(Directed energy deposition,指向性エネルギー堆積)方式3次元金属積層造形機が2019年4月に三菱重工から(1),同10月には東芝機械(現芝浦機械)からも発表され(2),プロジェクトの成果が製品化された.日本機械学会誌においても,2019年3月号で「“ものづくり”を革新する3Dプリンティング技術」と特集が組まれ,TRAFAMのプロジェクトリーダーであった京極秀樹近畿大学特任教授によりレーザや電子ビームを用いた金属3Dプリンティングの国内外の研究動向が示された(3).
NEDOの2019年の報告資料によれば,金属3Dプリンティングの市場規模は2016-7年の1,333億円から2030年には3兆円以上まで拡大すると予測されており,この内の約2兆円は造形品の市場である(4).これは,従来の機械加工法では製造が困難な形状の創出という本技術の付加価値を活かし,メタマテリアルや医療といった要請の高い分野を含む非常に広い分野,市場での活用が期待されるためである.海外の動向に目を向けると,3Dプリンティング分野で世界有数規模を誇る国際展示会Formnext2019が11月にドイツで開催され,出展数852件,来場者数約3万5千人で,前年から来場者数は約1万人の増加となっており,この分野への世界的な注目の高さを裏付けている.金属3Dプリンティングを装置・原料サプライヤーとエンドユーザーという二方向から牽引してきたGEを中心に,ニッケル合金やチタン合金といった高機能金属の最終製品の量産や大型部品への展開が進んでおり,このトレンドの中で,日本発の技術,製品の追い上げが期待される.
〔青野 祐子 東京工業大学〕
参考文献
(1)レーザビームによる“金属3Dプリンター”の商用モデルを製品化,三菱重工プレスリリース(2019.4.16)
(2)金属3D積層造形装置「ZKシリーズ」の受注を開始,芝浦機械プレスリリース(2019.10.31)
(3)京極秀樹,3Dプリンティング技術の最新動向と今後の展開,日本機械学会誌 (2019) Vol.122,pp.4-7.
https://www.jsme.or.jp/kaisi/1204-04/
(4)国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)技術戦略研究センター(TSC),金属積層造形プロセス分野の技術戦略策定に向けて,TSC Foresight (2019) Vol.32.