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機械工学年鑑2020
-機械工学の最新動向-

2. 計算力学

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章内目次

2.1 はじめに
2.2 計算固体力学
 2.2.1 計算固体力学に関わる国際会議に見る動向/
 2.2.2 勾配効果と非局所効果に見るマイクロメカニクス・ナノメカニクス
2.3 計算流体力学
2.4 大規模解析
 2.4.1 概況/2.4.2 産業利用/2.4.3 将来展望
2.5 マルチスケール(マテリアル関係)
 2.5.1 金属材料・他関連材料/2.5.2 複合材料・機能構造材料/2.5.3 高分子材料・ソフトマテリアル/2.5.4 海外の最新研究動向
2.6 逆問題・データ同化・最適化
2.7 機械学習・統計数理と計算力学の融合
 2.7.1 はじめに/2.7.2 ベイズ最適化/2.7.3 固有直交分解による次元縮約モデル化/2.7.4 様々な機械学習の計算力学への応用とデジタルツイン開発
2.8 産業界での計算力学
2.9 防災関連

 


2.1 はじめに

 機械工学における計算力学は,いわゆる4力学におけるシミュレーション技術としてだけでなく,背景とするハードウェアの規模や性能を考慮した計算アルゴリズムの構築や,力学的な理論が確立できないような分野における役割が求められるようになった.深層学習や人工知能といった,膨大なデータに基づき,そのデータの発生原因やそれに起因する現象を高速に同定する技術の有用性がはっきりとし,様々な自然現象や社会現象に応用されようとしている.それらは,機械工学よりも情報科学といった分野で急速に発展しているようである.しかしながら現実の問題において遭遇するように,機械をどう作動させるべきかを厳格なアルゴリズムに従った計算で記述し得ないケースがある.その場合においても実際にわれわれの脳が行っているように,極めて高速かつ正確に機械に反応させるための技術の開発が,機械工学において今後増えてくると考えられる.従来の数学や物理の理論に基づくシミュレーション技術に加え,この方面での発展が今後期待されるところである.

〔松本 敏郎  名古屋大学〕

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2.2 計算固体力学

2.2.1 計算固体力学に関わる国際会議に見る動向

 2018年10月にThe 9th International Conference on Multiscale Materials Modeling (MMM2018)を大阪において開催した(1).この会議は,スケールを跨ぐ材料や構造の強度や変形に関わる挙動を,主として計算機シミュレーションにより解明するためのモデリングや理論に関わる国際会議である.したがって,その申込み状況から,現在注目度の高い分野についてまず述べる.オーガナイズドセッション(OS)を15件設定し,6件の基調講演以外の招待講演は134件,口頭発表は441件,ポスター発表は166件申し込まれ,合計741件の固体力学に関わる最新の研究成果が対象である.15件のOSの中で,100件近い講演申込みとなったトップ3の分野は,(1)From Microstructure to Properties: Mechanisms, Microstructure, Manufacturing,(2)Deformation and Fracture Mechanism of Materials,(3)Crystal Plasticity: From Electrons to Dislocation Microstructureである.内部構造や内部欠陥に基づくマルチスケールモデリングが,引き続き裾野の拡がった重要な課題・分野であることがわかる.この会議に発表された講演を対象に,Modelling and Simulation in Materials Science and Engineering (MSMSE; IOP Publishing)において特集号が組まれた(2).厳正な査読の結果,最終的には25編の論文が掲載され,最も掲載の多い分野がPhase Field法に関わる内容で,ついで機械学習によるポテンシャル開発を含めた分子動力学シミュレーションの解析であった.詳細は文献(2)を参照されたい.第一原理計算や大規模分子動力学シミュレーション,そして超多自由度なPhase Fieldシミュレーションによるマクロ場への漸近を試みる研究に対して,連続体力学の枠組からマルチスケールモデリングを捉える傾向が最近注目されている.次項でその点を取り上げる.

2.2.2 勾配効果と非局所効果に見るマイクロメカニクス・ナノメカニクス

 FRACTURE An Advanced Treatise (1968)に掲載されたEringenの論文において,密度とそれを計測する試料の体積との関係を表す模式図がある(3).密度が一定な連続体領域と,大きく揺らぐ原子・分子構造体との領域間をMicrocontinuumと定義している.1907年に発表されたCosserat弾性理論を包括する体系として定義され,連続体の物体点に変位以外の自由度を付加する形で変形の多様性を表現する非局所理論である.物体点に付加された回転に関わる自由度は,ひずみの1次勾配(変位の2次勾配)に対応し,勾配理論との関連性もある.ひずみの高次勾配項で展開される勾配理論,相関関数を取り入れた統計連続体力学理論とともに,新たなモデリングの拡張の礎となった一般化連続体力学と称されている.1世紀以上の歴史がある一方,多自由度の定式化と境界条件の設定の困難さや曖昧さから実用的な段階には至っていない.2009年にEringenが死去し,その功績を讃えた特集号がInternational Journal of Engineering Scienceの2011年49巻12号に掲載された(4).24編の学術論文には,勾配効果や非局所効果で表現を試みるナノスケールでの表面応力,フラクタル特性,結晶塑性,粗視化,熱弾性や流体構造関連問題,衝撃波や振動問題等幅広い展開が見られる.最近,材料や構造に見られる非局所連続体力学のハンドブックが出版された(5).そこでは,急峻なひずみ勾配を示すナノインデンテーション,結晶塑性の勾配理論や塑性不安定,時間スケールのマルチスケール化が必要な衝撃破壊やサイズ依存性を持つ振動問題,そしてペリダイナミクス等が適用される従来の連続体力学理論では表現できない現象をMicrocontinuumでモデル化する試みが取り上げられている.勾配効果や非局所効果は,代表寸法がマイクロメータからナノメータのサイズを持つ事象には必然的な特性であり,連続体力学の枠組でモデル化する,いわば“トップダウン”でのマルチスケールモデリングと言える.分子動力学シミュレーションに代表される原子系から粗視化の過程を経て,連続体近似にアプローチする“ボトムアップ”のマルチスケールモデリングとは反対の方向性を持つが,統計熱力学のエルゴード性やゆらぎに関わる原子の微視構造まで連続体近似可能かどうかの未知の部分を含むモデリングであることに留意すべきである.

〔渋谷 陽二 大阪大学〕

参考文献

(1)第9回材料のマルチスケールモデリングに関する国際会議(MMM2018),MMM実行委員会http://mmm2018.jp/index.html (参照日2020年3月16日); 渋谷陽二,第9回材料のマルチスケールモデリングに関する国際会議(MMM2018), 材料, Vol. 68, No. 3 (2019), pp. 306-307.
(2)Shibutani, Y., Ogata, S. and Shimokawa, T., Preface for MMM 2018 focus issue, Modelling and Simulation in Materials Science and Engineering, Vol. 28 (2020), pp. 030301.
(3)Eringen, A. C., Theory of micropolar elasticity, FRACTURE An Advanced Treatise, ed. by Liebowitz, H., Academic Press Inc. (1968), p. 621-729.
(4)Advances in generalized continuum mechanics; A collection of studies in Engineering Science in memory of the late A. C. Eringen (1921-2009), ed. by Maugin, G. A. and Lee, J. D., International Journal of Engineering Science, Vol. 49, No. 12 (2011), pp. 1281-1526.
(5)Handbook of Nonlocal Continuum Mechanics for Materials and Structures, ed. by Voyiadjis, G. Z., Springer (2019), p. 1-1538.

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2.3 計算流体力学の動向

 国内の計算流体力学の動向は,毎年年末近くに開催される数値流体力学シンポジウムに反映されると考えられるため,以下では過去数年にわたるセッションごとの発表件数を示す.また近年発表件数が増えているセッションの動向について,毎年11月に開催される米国物理学会(APS)・流体力学部門(DFD)における発表件数との比較を行う.
 第33回数値流体力学シンポジウムは2019年11月27-29日に北海道大学にて開催された(1).16のオーガナイズド・セッションおよび一般セッションに対して約239件の講演発表が行われたほか,日韓CFDワークショップと以下の二件の特別講演が行われた:川村秀憲先生(北海道大学)「人工知能の最前線と応用例」,Matthias Ihme先生(Stanford University)「Numerical modelling of supercritical flows: Progress, challenges, and outstanding issues」.
 各オーガナイズド・セッションにおける講演件数を以下にまとめてみる.後ほど,講演件数を年ごとに比較するため(一般セッションを除いて)講演件数の降順で示す.
 乱流・波動:25,地域環境と防災(都市,建築,海岸,河川,湖沼,防災など):22,輸送用機械に関連する流れ(航空宇宙,船舶海洋,鉄道,自動車など):22,複雑流体の流れ(混相流,非ニュートン流体の流れ,反応流,燃焼流など):20,混相流体・相変化・界面:19,可視化・ポスト処理・データ同化・機械学習(人工知能)・データ分析法:19,離散要素型解法(粒子法,格子ボルツマン法,渦法,MDなど):18,種々の連成問題(音響,流体構造,生体流れなど):15,エネルギーに関する流れ(流体機械,再生可能エネルギー,発電技術,省エネルギーなど):14,原子・分子の流れ:13,直交格子・適合細分化格子法:10,連続体力学的解法(計算格子,メッシュレス,差分法,有限要素法など):10,電磁流体・プラズマ流:7,非圧縮流れ解法・圧縮流れ解法:6,新規解法および高性能化に向けた既存手法の改良:6,設計探査・最適化:4,一般セッション:9.
 さらに2016年から2018年の過去三年間に開催された同シンポジウム(2)-(4)における講演の件数を比較したのが図2-1である.カテゴリーが大筋で一致したセッションを比較し,明確な比較対象が見当たらないものは個別に表示している.
 セッションによっては年ごとに講演数が大きく変動しているものがある.その理由の一部にはシンポジウムの運営上の事情や,セッションの内容に重複があるためと考えられる.たとえば2017年の「輸送用機械に関連する流れ」セッションに見られる減少は,同年「宇宙機開発におけるCFD活用」の件数と合わせると著しい減少とはいえない.また「複雑流体の流れ」の件数は年々増加傾向にあるが,「混相流体・相変化・界面」と分野の重複があり,2セッションをまとめてみると漸増である.したがって全体として,各セッションの講演件数は著しい変動は少ないとみられる.
 ただし顕著な特徴として「可視化・データ同化・機械学習」における講演数の急増が挙げられる.なお2019年には「設計探索・最適化」のセッションが分離・新設されたので,その講演数も考慮すると,この分野における活発な研究の進展がうかがえる.
 この傾向は別の学会でも顕著である.上述APS-DFD 講演会において,入手できた2017年から2019年の三年間のプログラム(5)-(7)における傾向は興味深いので採り上げてみる.2017年にDenverで開催された同講演会では,「Computational Fluid Dynamics (CFD)」という大区分の中で「Data-Driven Modeling」という1セッションに6件の講演が登録されている.2018年にAtlantaで開催された同講演会では,同大区分の中でオーガナイズド・セッションが2つに増え,合計20件の講演の登録がある.両年とも講演室に入りきれないほどの聴衆を集めていたのを記憶している.その影響があってか,2019年には,「Data-driven and Machine Learning」という大区分が新設され,その中に7つのオーガナイズド・セッションがあり,合計で54件の登録,うち6件は二講演分の時間を使った特別セッションである.
 いずれの講演会においても同分野における期待が読み取れ,この傾向は他の学会でも広がると予想される.

図2-1 数値流体力学シンポジウムのセッション構成と発表件数の変遷

〔竹内 伸太郎 大阪大学〕

参考文献

(1)http://www2.nagare.or.jp/cfd/cfd33/
(2)http://www2.nagare.or.jp/cfd/cfd32/
(3)http://www2.nagare.or.jp/cfd/cfd31/
(4)http://www2.nagare.or.jp/cfd/cfd30/
(5)https://www.apsdfd2019.org/
(6)https://www.apsdfd2018.org/
(7)http://www.apsdfd2017.org/
(参照日2020年4月22日)

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2.4 大規模計算

2.4.1 概況

 大規模計算を行うためには高性計算機と共に,その能力を最大限に活用できるアプリケーションが必須である.TOP500(1)では毎年6月と11月にスーパーコンピュータの世界ランキングが発表される.2019年11月時点での世界第一位の計算機は米オークリッジ国立研究所のサミットで148.6ペタフロップスであった.また,毎年米国で開催されるスーパーコンピュータの国際会議SCでは国際学会ACMよりHigh Performance Computing(HPC)における卓越した業績を評価するためにゴードンベル賞が授与される.2019年にデンバーで行われたSC’19ではスイス連邦工科大学(ETH)チューリッヒの6名のグループが10,000個の原子で構成されるトランジスタの2次元スライスを通じて電気がどのように輸送されるかをシミュレーションしてゴードンベル賞を受賞した.大規模流体解析ではジョージア工科大学のRavikuumar等(2)がGPUを使った18,4323自由度の乱流シミュレーションを行った.

2.4.2 産業利用

 大規模計算の産業利用も進んでいる.船舶の曳航水槽試験をLarge Eddy SimulationLES)で代替する試みにおいては西川等(3)が2013年に曳航水槽試験用の船体周りの流体計算を行い,実験結果との差が実験誤差範囲に入ることを検証した.船長約5.5m,曳航速度約1.0m/sでレイノルズ数Reが4.6×106乱流境界層中の船体表面近傍の縦渦の直径は約0.87mmである.これを計算格子で解像するために,主流方向に866μm,船体表面から垂直方向に86.6μm,船体ガース方向に433μmの大きさの計算格子を配置し,喫水面より下側の水に浸かっている部分だけの計算領域で約320億点の計算格子が必要であることが分かった.LESで必要となる計算格子数N はChoi等(4)によるとレイノルズ数Reの1.9乗に比例すると予想されている.対象となる産業機器の形状によって格子配置トポロジーが違ってくるので同じレイノルズ数でも格子数にもかなりの違いが出てくる.加藤(5)による必要な計算格子数の予測は自動車で790億,ポンプで3900億,風車で400億,軸流ファンで86億,プロペラファンで1億である.船舶海洋分野での実績としては潜水艦の形状を単純化した軸対称回転体に関して,付加物の影響による伴流の渦やその他詳細な流場をPosa等(6)が28億格子LES解析,Kumar等(7)が6億格子を使ったLES解析を行なっている.

2.4.3 将来展望

 流体解析分野では風洞試験や水槽試験を数値解析で代替することは研究者,設計者の長年の悲願であった.これらの試験を数値解析で代替できるとすれば,設計期間の短縮,コストの削減が期待できる.また,多くの工業製品の設計において試験は基本的には流体力を計測することを主眼としているが,全ての流れの様子が見えれば流体設計には非常に有益である.現在においても,多くの流体機器周りの流れのメカニズムは全てが解明されている訳ではない為,熟練設計者の経験と勘に頼る部分は少なくない.流場情報が得られれば,理論的な裏付けが得られる為,多少経験が足りなくてもそれを補うことができる.また,これまでは消極的にならざるを得なかった斬新なアイデアでも,理論的な裏付けが得られることによって,失敗のリスクを抑えつつ設計の幅を広げることが可能となる.船舶分野ではこのような夢を実現するために1990年代からReynolds-Averaged Navier-Stokes(RANS)法の乱流モデルの開発が盛んに行われた.しかしながら,乱流モデルを水槽試験結果と比較しながらチューニングしても船のタイプが少し変わると,また,それに対応する乱流モデルのチューニングが必要になり,新たに水槽試験を行わなければならない.いつしか,計算と実験は共存共栄するものだと言われるようになった.2000年代に入って,設計の初期段階で計算が利用され,最終的な性能確認は実験で行うといったルーチンが定着した.2010年代に入って,計算機の性能向上に伴い,LESの産業利用が行われつつある.LES乱流の生成に支配的な渦を全て計算する手法であり,モデル依存型のRANSに対して全ての渦を直接計算するDirect Numerical Simulation(DNS)と共に第一原理的手法と呼ばれている.膨大な計算量が必要となるが,LESを産業利用する場合,DNSとほぼ同じ程度の精度が得られると考えられており,計算量はDNSの1/100程度で良いため,LESがこれからの流体設計ツールの主流になると考えられている.
 現在,実用的な流体解析としては数百億格子が最大である.加藤の予測(5)の中ではポンプ以外は実用的に解析が可能である.航空機や実船のレイノルズ数はこれよりかなり高く,例えば実船のレイノルズ数は108から109のオーダーである.計算機の能力(処理速度)は過去10年で1000倍になっている.ムーアの法則が終わるとの予測もあるが,仮にこの傾向が続くと仮定すれば,2030年頃にはほとんどの流体機械のLES計算が可能となる.一方で,各機械メーカーが世界最高クラスの性能の計算機を通常の設計業務に使えるかといえば,現実的には難しい.メーカー側としてもできれば自前の計算機で解析を行いたいと考える.大企業が自前で調達できる計算機,あるいは計算資源は世界最高性能の計算機の1/100から1/1000の能力である.前述の西川等の計算では2011年に運用を開始した理化学研究所の「京」コンピュータの1/3程度を用いて,320億点の計算が収束するまでに57.9時間かかった.2020年にはこのクラスの計算は各メーカーで導入できる価格帯に入りつつある.一方、2021年に運用が開始される「富岳」では、この計算が1時間で実行できる見通しが既に得られている.

〔西川 達雄 日本造船技術センター〕

参考文献

(1)TOP500リスト http://www.top500.org/lists/(参照日2020年4月6日)
(2)Ravikumar, K., Appelhans, D., Yeung, P.K., GPU acceleration of extreme scale pseudo-spectral simulations of turbulence using asynchronism, SC ’19: Proceedings of the International Conference for High Performance Computing, Networking, Storage and Analysis, November 2019 Article No.: 8 Pages 1–22.
(3) Nishikawa, T., Yamade, Y., Sakuma, M., Kato, C., 2013, “Fully Resolved Large Eddy Simulation as Alternative to Towing Tank Resistance Tests- 32 Billion Cells Computation on K computer,” 16th Numerical Towing Tank Symposium (NuTTS’13), Duisburg, Germany, 2013.
(4) Choi, H., Moin, P., Grid-point requirements for large eddy simulation: Chapman’s estimates revisited, Physics of Fluids 24, January 2012.
(5) Kato, C., APPLICATIONS OF FULLY-RESOLVED LARGE EDDY SIMULATION TO UNSTEADY FLUID FLOW AND AEROACOUSTICS PREDICTIONS, TSFP-7, Proceedings of international symposium on turbulence and shear flow phenomena, 2011.
(6) Posa, A., Balaras, E., A numerical investigation of the wake of an axisymmetric body with appendages, J. Fluid Mech. (2016), Vol. 792, pp. 470-498
(7) Kumar, P., Mahesh, K., Large-eddy simulation of flow over an axisymmetric body of revolution, J. Fluid Mech. (2018), Vol. 853, pp. 537-563

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2.5 マルチスケール(マテリアル関係)

 昨今,科学技術の発展に伴って様々なスケールでの実験観察と解析検証を網羅的に実施する研究が実現されつつあり,一連の研究成果が分野横断的に盛んに報告されている.そのキーワードとして“マルチスケール”という言葉が浸透しており,特定の分野に搾って説明を一概に与えることは時勢に合わないかもしれない.このような研究背景を冒頭に置いて,本節では主に2019年に催された第32回計算力学講演会(CMD2019)の講演論文集(1)を参考にして,マルチスケールとマテリアルに関係する最新の研究動向について紹介したい.

 計算力学の視点では,“マルチスケール解析”や“マルチスケールモデリング”に代表される計算手法・方法論の構築が主な目的となる.電子論・原子論的解析としては,例えば,本講演会「OS16:電子・原子・マルチシミュレーションに基づく材料特性評価」で議論されるような分子動力学(MD)法や第一原理計算が中心となる.一方,連続体力学ベースの有限要素法(FEM)や差分法有限差分法の研究としては,均質化法,結晶塑性解析および確率FEM,ならびにフェーズフィールド法などの計算手法が挙げられて,複数件のOSで積極的な研究報告がなされている.また,FEMでは解析困難な初期値・境界値問題を離散的に求解する手法としてメッシュフリー法/粒子法やペリダイナミクスに関連するOSが企画されている.マルチスケール解析では,上記手法の拡張や連成によって時間・空間の制約を克服するモデル構築が主軸となる.一方,別の切り口として,Cosserat理論や高次ひずみ勾配理論に基づく一般化連続体力学のサイズ効果に着目した研究も増えており,再注目されている.
 固体力学分野ではあらゆる材料を対象とするが,本節では材料種別に“金属材料・他関連材料”,“複合材料・機能構造材料”,および“高分子材料・ソフトマテリアル”の3つに分類して,それらのマルチスケール解析の取り組みについてまとめる.また最後に海外の研究動向として1件の国際会議に関して報告する.

2.5.1 金属材料・他関連材料

 金属材料を対象とした研究では,微視的な結晶欠陥(点欠陥/線欠陥/面欠陥)をMD解析で取り扱う材料モデルの開発が継続的に行われており,例えば,点欠陥を有するα鉄の炭素拡散挙動やNi基超合金の粒界強度支配因子が検討されている.また,第一原理計算を用いてLPSO構造Mg合金のフォノン状態の解析などが報告されている.一方,フェーズフィールド法を利用して,粒界物性の異方性を考慮した粒成長,CCT線図のデータベースと連携させた鉄鋼の溶接組織,および鉄鋼の加熱過程における合金元素拡散挙動に関するシミュレーションなどが発表されている.
 他にもペロブスカイト型酸化物の格子欠陥誘起マルチフェロイック特性,ならびにグラフェン材料に関する二元性電気伝導特性やガス吸着特性などのマルチフィジクスな性質を第一原理計算によって議論されている.また,パワー半導体デバイスに向けた有限温度における4H-SiCの積層欠陥エネルギーの第一原理解析が報告されている.
 連続体力学ベースの結晶欠陥に関するマルチスケール解析では結晶塑性モデルが有用である.例えば,純チタン,チタン合金および微細粒アルミニウムを対象にした多結晶塑性解析が提案されている.一方,一般化連続体力学を応用した研究として,Micropolarモデルに基づく回位密度に対する結晶塑性や拡張アイソジオメトリック解析を用いた転位ループのモデル化が検討されている.
 また異なる学会ではあるが,日本材料学会が主催するマルチスケール材料力学シンポジウム(2)(3)も最新のマルチスケールモデリングの知見が得られる重要な国内会議としてここに紹介する.

2.5.2 複合材料・機能構造材料

 高比剛性・高比強度の優れた材料として炭素繊維強化プラスチック(CFRP)の航空機部材などへの積極的代替が進められている.本講演会でも,熱可塑樹脂材料を用いたCFRPの直交異方性マクロモデルによるマルチスケール成形シミュレーションが報告されている.また,層間はく離の強度に着目した均質化理論に基づくCFRPの非弾性ツースケール解析も発表されており,複合材料においても連続体力学ベースのマルチスケール解析が明るい.現実の複合材料ではCFRP内部の繊維の分散と配向にばらつきがありそれらが損傷に大きく影響する.上記の問題に対して確率均質化法に基づくマルチスケールモデルを構築して短繊維強化複合材料の損傷進展を予測する研究も報告されている.

 多孔質材料は,空孔を利用することで超軽量性に加えて衝撃吸収特性から触媒・分離・ガス貯蔵までの多種多様な機能を付加することのできる機能構造材料のひとつである.本講演会でも漸近展開法を適用して多孔質体内部流れの浸透係数を算出する研究が報告されている.また,クローズドセル発泡体の衝撃圧縮と塑性波の伝播挙動をFEMで予測する研究も報告されている.

2.5.3 高分子材料・ソフトマテリアル

 高分子材料としては樹脂やゴムに代表される粘弾性体・超弾性体モデルによるFEM開発が活発である.本講演会では日本ゴム協会との合同企画による「OS23:ゴムの計算力学と関連話題」が催されており,工業用ゴムに対する粘弾性モデルによる応力緩和履歴や微圧縮大変形を表現するFEM解析などの研究成果が報告されている.また,ミクロスケールでは,高分子鎖の集団的・統計的な挙動に基づくエントロピー弾性体としてMD法などを用いたマルチスケール解析が重要なテーマとなっている.
 近年,“ソフトマテリアル”という言葉をよく耳にする.その多くは高分子材料のことを指すが,例えば生体工学分野,医療工学分野,およびソフトロボティクス分野などでの新しい応用・展開を捉えた用語だと筆者は認識している.詳細は機械工学年鑑2019(4)を参照されたい.例えば,高分子ゲルはミクロな分子鎖網目に溶媒が浸透することで材料自身が膨潤する性質を持つ.2019年度は,その膨潤誘起力学特性を対象にした硬質ゲル膜の分岐パターン発生やハイドロゲルの速度形構成式の定式化に関する研究が報告されている.

2.5.4 海外の最新研究動向

 最後に海外の研究動向として,2019年10月13~15日にワシントン大学セントルイス校で開催されたSociety of Engineering Science 56th Annual Technical Meeting (SES2019)(5)について簡単に報告する.米国を中心とした機械工学関係(とりわけ固体力学分野)の著名な研究者らが一堂に会する本会議では,マルチスケール関連の研究が充実していた—“multiscale”がタイトルに含まれているシンポジウムだけでも52件中5件あった.研究手法や方法論については前述したCMD2019の講演発表と多くの類似点がみられる反面,解析結果と実験結果との比較検証の点においてはSES2019の発表講演の方がたくさん取り組まれている印象を受けた.国内でもより一層の実験と計算・解析とのコラボレーションが期待される.

〔田中 展 大阪大学〕

参考文献

(1)日本機械学会, 第32回計算力学講演会講演論文集(CD-ROM) (2019).
https://www.jstage.jst.go.jp/browse/jsmecmd/2019.32/0/_contents/-char/ja
(2)日本材料学会マルチスケール材料力学部門委員会ホームページ, http://m3.jsms.jp/index.html (参照日2020年4月5日).
(3)第4回マルチスケールシンポジウムプログラム, http://www.jsms.jp/kaikoku/68mdpro.pdf (参照日2020年4月5日).
(4)奥村大, 機械工学年鑑2019 -機械工学の最新動向-:3.5節 ソフトマテリアル, https://www.jsme.or.jp/kikainenkan2019/chap03/#a05 (参照日2020年4月5日).
(5)Society of Engineering Science 56th Annual Technical Meeting (SES2019), https://ses2019.wustl.edu/ (参照日2020年4月6日).

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2.6 逆問題・データ同化・最適化

 結果から原因を推定する逆解析や観測情報と数値モデルから状態の確率的推定を行うデータ同化は,コスト関数の最小化や尤度の最大化問題として定式化され,最終的には最適化アルゴリズムに頼ることになる.そのような意味で逆問題・データ同化・最適化の三者は近い関係にあると言える.強いて違いを挙げるとすれば,データ同化は気象海洋分野で発展した,大規模数値モデルに観測データを埋め込む(同化する)ための統計手法であるのに対して,広義の逆問題は観測された結果から原因を推定するアプローチ全般を指している場合が多い.そして,逆問題やデータ同化から見ると最適化はそれらに必要な技術の一つである.一方で,逆問題およびデータ同化によく用いられるもう一つの手法体系として制御理論に基づくカルマンフィルタがある.

 逆問題,データ同化,そして,最適化研究の近年の動向を探るべく,一例としてJournal of Computational Physics(JCP)において2019年に出版された2,000報程度の論文をInverse problems, Data assimilation, Optimizationというキーワードで絞り込んだ結果を検討する.検索にヒットした文献数は,Inverse problems,Data assimilationおよびOptimizationがそれぞれ290,25および267報である.ちなみに2010年からの論文数の伸びはそれぞれ1.5,2.8,1.4倍である.2019年の検索結果を精査すると,Inverse problemsやOptimizationという言葉が広く数値計算に使われていることから,実際に逆解析や最適化を行った論文ではない場合が多かった(特に計算効率の最適化など数値計算手法の論文が多くヒットした).それらを除くと実際の論文数は,Inverse problems: 77報,Data assimilation: 22報,そして,Optimization: 92報であった.表7-1に示すように,それらの文献には重複も多く,例えば,Inverse problemsとOptimizationの検索結果のうち,重複している論文は58報あった.

表7-1 2019年にJCPで発表された逆問題・データ同化・最適化に関する論文数

※IPはInverse problems, DAはData assimilation, OPはOptimization,そして,&はAND検索を示す

 それらの文献で取り上げられている内容をいくつか挙げると以下のようになる.データ同化に関しては,逐次型データ同化や変分型データ同化において,計算コストの増加に対処する工夫が見られた.多項式カオス法を使ってアンサンブルカルマンフィルタの確率分布を表現することによるアンサンブル計算のコスト削減(1)や,打ち切り特異値分解を使った変数削減による変分法のコスト削減(2)が行われている.尤度評価を多数回繰り返す必要があるマルコフ連鎖モンテカルロ法では,変数のブロック分解(3)や次元縮約モデルによるコスト削減が提案されている(4).また,アンサンブルカルマンフィルタのアンサンブルメンバー数をKriging応答曲面法により仮想的に増やすことで計算コストを抑える方法も提案されている(5).検索結果には深層学習が関連する論文も多く,深層学習を用いたデータ駆動型の支配方程式推定が検討されている(6),さらに,深層学習によって決定されたモデル式に含まれるパラメータをデータ同化によって推定するといった複合的なアプローチも提案されている(7).逆問題に関しては上記のデータ同化研究と重複するところが多いが,逆問題特有の論文としては,波形インバージョンなど,いわゆる音波や地震波の逆解析が行われている(8)-(10).また,逆解析においても次元縮約モデルによる計算コスト削減が行われている(11).最適化に関しては,例えば,形状や条件の不確実性に対するロバスト性を考慮したトポロジー最適化(12)など,近年の積層造形・3Dプリンタの発展と相まってトポロジー最適化の文献がいくつか見られた.(JCPから多少脱線するが)トポロジー最適化では次元の大きな設計変数を扱うため感度情報に基づく勾配法によって形状が生成されるが,感度情報を必要としない創発的なトポロジー最適化の試み(13)や深層学習を使った最適トポロジーの高速推定(14)も行われている.

 全体として,計算負荷が高くなりがちなベイズ推定や最適化における計算コスト削減が,既存の応答曲面法や次元削減モデル,さらに近年の深層学習手法を利用しつつ,共通の研究要素となっている印象である.また,深層学習による「数値シミュレーションの物理モデル離れ(物理モデル式を緩く利用したデータ駆動型の解析技術)」の動きもあり,雨後の筍のように様々なアプローチが提案されている.

 さて,国内の状況に目を向けてみると,第32回計算力学講演会においては,最適化の話題が「OS06計算力学と最適化」,逆問題・データ同化の話題が「OS12逆問題とデータ同化の最新展開」というセッションで主に扱われている.最適化に関しては,トポロジー最適化が一つのトピックとなっているようであり,構造体の形状・トポロジー最適化(15)や光学デバイス(16)トポロジー最適化が報告されている.逆問題・データ同化セッションでは,カルマンフィルタ(17)(18)や粒子フィルタ(19)による逐次型データ同化が利用されている.観測データを用いるというデータ同化の特徴から,本セッションでは実問題に関連した解析が多く見られた.一方で,数多く存在するデータ同化アルゴリズムを独自の問題に試行錯誤的に適用して得られた知見を,問題に適したデータ同化アルゴリズム選択に関する指針へと昇華させ,実問題におけるデータ同化の有用性をこれまで以上に示していくことが今後の課題と考えられる.上記セッション以外にも,「フェーズフィールド法の深化と拡大」において,逐次型データ同化における状態ベクトルの保存性に関する発表が行われている(20).また,データ同化の統計的基礎となっているベイズ推定はKriging応答曲面法を用いたベイズ最適化としてもよく利用されている(21)(22)

 データ同化に偏った見方となってしまった点は否めないが本記事を以下のようにまとめたい.逆問題・データ同化・最適化は各工学分野の計算力学の発展に寄り添い,引き続き重要な役割を果たしてくと予想される.サイバー・バーチャル空間の技術である計算力学が更にフィジカル・リアル空間の現象に近づくことによって,観測情報と数値モデルから真の状態を推定するベイズ的アプローチが広く用いられ,それがサイバーとフィジカルの融合を促進し,計算力学に留まらない研究・応用へと繋がることが期待される.

〔三坂 孝志 産業技術総合研究所〕

参考文献

(1)Y. Wang, K. Hu, L. Ren, G. Lin, Optimal observations-based retrieval of topography in 2D shallow water equations using PC-EnKF, Journal of Computational Physics Vol. 382 (2019), pp. 43-60, DOI: 10.1016/j.jcp.2019.01.004
(2)R. Arcucci, L. Mottet, C. Pain, Y.K. Guo, Optimal reduced space for variational data assimilation, Journal of Computational Physics, Vol. 379 (2019), pp. 51-69, DOI: 10.1016/j.jcp.2018.10.042
(3)N. Chen, A.J. Majda, A new efficient parameter estimation algorithm for high-dimensional complex nonlinear turbulent dynamical systems with partial observations, Journal of Computational Physics, Vol. 397 (2019), 108836. DOI: 10.1016/j.jcp.2019.07.035
(4)B. Kramer, A.N.Marques, B. Peherstorfer, U. Villa, K. Willcox, Multifidelity probability estimation via fusion of estimators, Journal of Computational Physics, Vol. 392 (2019), pp. 385-402. DOI: 10.1016/j.jcp.2019.04.071.
(5)V. Mons, Q. Wang, T.A. Zaki, Kriging-enhanced ensemble variational data assimilation for scalar-source identification in turbulent environments, Journal of Computational Physics, Vol. 398 (2019), 108856. DOI: 10.1016/j.jcp.2019.07.054.
(6)M. Raissi, P. Perdikaris, G.E. Karniadakis, Physics-informed neural networks: A deep learning framework for solving forward and inverse problems involving nonlinear partial differential equations, Journal of Computational Physics, Vol. 378 (2019), pp. 686-707. DOI: 10.1016/j.jcp.2018.10.045.
(7)H. Chang, D. Zhang, Identification of physical processes via combined data-driven and data-assimilation methods, Journal of Computational Physics, Vol. 393 (2019), pp. 337-350. DOI: 10.1016/j.jcp.2019.05.008.
(8)P. Yong, W. Liao, J. Huang, Z. Li, Y. Lin, Misfit function for full waveform inversion based on the Wasserstein metric with dynamic formulation, Journal of Computational Physics, Vol. 399 (2019), 108911. DOI: 10.1016/j.jcp.2019.108911.
(9)O.I. Yaman, Reconstruction of generalized impedance functions for 3D acoustic scattering, Journal of Computational Physics, Vol. 392 (2019), Pages 444-455. DOI: 10.1016/j.jcp.2019.04.060.
(10)A. Carpio, T.G. Dimiduk, F. Le Louër, M.L. Rapún, When topological derivatives met regularized Gauss-Newton iterations in holographic 3D imaging, Journal of Computational Physics, Vol. 388 (2019), pp. 224-251, DOI: 10.1016/j.jcp.2019.03.027.
(11)L. Borcea, V. Druskin, A.V. Mamonov, M. Zaslavsky, Robust nonlinear processing of active array data in inverse scattering via truncated reduced order models, Journal of Computational Physics, Vol. 381 (2019), pp. 1-26. DOI: 10.1016/j.jcp.2018.12.021.
(12)N. Lebbe, C. Dapogny, E. Oudet, K. Hassan, A. Gliere, Robust shape and topology optimization of nanophotonic devices using the level set method, Journal of Computational Physics, Volume 395 (2019), Pages 710-746. DOI: 10.1016/j.jcp.2019.06.057.
(13)M. Yoshimura, K. Shimoyama, T. Misaka, S. Obayashi, Optimization of passive grooved micromixers based on genetic algorithm and graph theory, Microfluid Nanofluid, Vol. 23 (2019), pp. 30-1-21.  DOI: 10.1007/s10404-019-2201-6
(14)Y. Yu, T. Hur, J. Jung, I.G. Jang, Deep learning for determining a near-optimal topological design without any iteration. Structural and Multidisciplinary Optimization volume, Vol. 59 (2019), pp. 787–799.  DOI: 10.1007/s00158-018-2101-5
(15)原田直人, 劉陽, 下田昌利, 圧力荷重を受ける構造体の形状・トポロジー同時最適化手法, 日本機械学会第32回計算力学講演会講演論文集(2019), Paper No. 023. DOI: 10.1299/jsmecmd.2019.32.023
(16)山本遼, 飯盛浩司, 松本敏郎, 高橋徹, 光学定理を用いた散乱断面積の最小化によるクローキングデバイスのトポロジー最適化, 日本機械学会第32 回計算力学講演会講演論文集(2019), Paper No. 036. DOI: 10.1299/jsmecmd.2019.32.036
(17)綿引壮真, 佐々木健吾, デジタル画像相関法を用いた逐次データ同化による材料パラメータと境界条件推定, 日本機械学会第32回計算力学講演会講演論文集(2019), Paper No. 090. DOI; 10.1299/jsmecmd.2019.32.090
(18)峯村孝征, 倉橋貴彦, 剱地利昭, 水際線の移動を考慮したカルマンフィルタFEMに基づく浅水域の流況推定解析, 日本機械学会第32 回計算力学講演会講演論文集(2019), Paper No. 013. DOI; 10.1299/jsmecmd.2019.32.013
(19)斎藤達哉, 田代賢吉, 天谷賢治, パーティクルフィルタを用いた海中測定器の位置と犠牲陽極の出力電流の同時推定, 日本機械学会第32回計算力学講演会講演論文集(2019), Paper No. 076. DOI: 10.1299/jsmecmd.2019.32.076
(20)佐々木健吾, 山中晃徳, 保存則を考慮したデータ同化アルゴリズムのフェーズフィールド法への適用, 日本機械学会第32回計算力学講演会講演論文集(2019), Paper No. 115. DOI: 10.1299/jsmecmd.2019.32.115
(21)三好昭生, 中村伸也, 荻野正雄, ベイズ最適化を利用したランダム粒子パッキングにおける充填率最大化の検討, 日本機械学会第32回計算力学講演会講演論文集(2019), Paper No. 011. DOI: 10.1299/jsmecmd.2019.32.011
(22)佐藤孝磨, 高岸毎明, 加藤学,ベイズ最適化を利用した連続式インクジェットプリンタ向け帯電制御最適化技術の開発, 日本機械学会第32回計算力学講演会講演論文集(2019), Paper No. 033. DOI: 10.1299/jsmecmd.2019.32.033

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2.7 機械学習・統計数理と計算力学の融合

2.7.1 はじめに

 本節では,2019年度における計算力学の進展に関連して,特に機械学習・統計数理との融合に関する研究動向を紹介する.ここで言う統計数理とは,支配方程式から導かれる数理モデルを数値的に解く演繹的手法である計算力学に対し,入力と出力に注目しその機能(入出力関数)を近似する数理モデルの諸パラメータを統計的に学習する帰納的手法と定義される(1).統計数理はデータ駆動型手法であり,近年急速に発展してきた深層学習を含めた機械学習も広義の統計数理手法と言える.統計数理の基本は変数を確率分布として扱うことであり,確率論的演算はベイズ推論を用いる.ここではベイズ最適化の計算力学分野への活用例に関しても紹介するが,データ同化については別の節にて取り扱われているのでこの節では直接には触れない.

2.7.2 ベイズ最適化

 近年,高度化・複雑化する深層学習の学習効率を改善するために,ハイパーパラメータの最適化にベイズ最適化が使われている.特に深層強化学習の成功例であるAlphaGoの開発において多用され,ガウス過程ベイズ最適化(GP-BO)の有効性が示された(2).これは多峰性のある応答曲面に対して,獲得関数による改善期待値を利用して最小の詳細数値計算回数で逐次的に最適解を求めるもので,最適化探索問題の効率的解法として様々な分野で利用されつつある.2019年9月に開催された機械学会計算力学講演会(CMD2019)では分岐管内流体解析による圧力最小化に適用した例(3),インクジェットプリンタの帯電制御の最適化に活用した例(4)が報告されている.特に,流体解析や構造解析を用いた設計最適化問題は計算力学と統計数理の融合対象として大変有効なものであるが,パラメータ数が多くなると計算量が大きくなる課題があった.これに対して計算量を大幅に削減する手法としてLimited-GP(5)が提案され,今後の活用が期待される.

2.7.3 固有直交分解による次元縮約モデル化

 統計数理で代表的な多変量解析の一つである主成分分析と等価な固有直交分解(POD: Proper Orthogonal Decomposition)は,比較的古くから特に流体解析分野で流れ場の渦構造を見出すために用いられ(6),動的モード分解と組合せて次元縮約モデル(ROM: Reduced Order Model)構築に用いられている(7).日本機械学会計算力学部門では「設計に活かすデータ同化研究会」にて積極的に取り上げ(8),実験流体力学でも3次元PIVなどの新計測法によって得られる膨大なデータを処理するために使われている(9).2019年7月に開催された米国計算力学学会(USSCCM2019)における基調講演では,流体や構造の非線形物理特性とそのダイナミック制御を組み合わせた動的システムのための次元縮約手法を汎用的にProjection-Based Model Reduction Method(10)として報告され,関連したセッションが開催された(11)(12).特に不確かさの定量化(UQ: Uncertainty Quantification)と組合せたadaptive ROM(13),空間次元圧縮と合わせて時間軸圧縮を行うspace-time ROM(14)や,非線形性の強い輻射熱伝達問題への適用(15)等が注目される.一方日本においても,自動車のフルモデル衝突解析結果の大規模データを次元圧縮し縮約モデルを構成することで,自動車の衝突安全設計の膨大な工数を大幅に削減可能とする研究 (16)も進んでいる.またCMD2019では,実用的問題の取組みとしてプラント配管内旋回流解析の高速化(17)が報告された.

2.7.4 様々な機械学習の計算力学への応用とデジタルツイン開発

 近年の機械学習の進展は目覚ましいもので,深層学習のみならず様々な機械学習のモデルが出現し日々発展している.ここでは機械学習の計算力学分野への多様な適用を概観する.USSCCM2019では機械学習を含めたセッションが複数設定され(18)(19),他のセッションでも機械学習を取込んだアプローチが多数報告された.特に参考文献(18)では,Physics Informed Machine Learningと呼ばれる物理方程式の知識を使った機械学習の新しいアプローチ(20)や,ノイズを含むデータから支配方程式を再現するSINDy(Sparse Identification of Nonlinear Dynamics)フレームワークと深層NNのAutoencoderを組合わせたアプローチ(21)が紹介された.さらに,PODによる次元縮約が線形多様体への写像(Galerkin projection)であるのに対し,Autoencoderによる次元縮約は非線形多様体への写像(LSPG projection)であり特に移流項が支配的な問題にはより高精度であることが報告(22)された.流体解析分野でも機械学習の活用に関する取り組みが複数報告されたが,ここではガスタービンやジェットエンジン燃料噴射器設計のためのLarge Eddy Simulationに対しGappy-PODを適用し,さらに燃焼室形状を変化させるために敵対的生成ネットワーク(GAN: Generative Adversarial Networks)を用いた形状生成の例(23)を挙げる.材料科学分野では特に不均質微細構造のモデリングに,三次元画像処理に活用されつつある3D-CNNを用いた例が複数報告された(24)(25).工学的実問題として,多数の自動車衝突解析結果を機械学習し代理モデルを構築しさらに決定木型学習によって幾何学的設計変数間の関係を明らかにして衝突安全設計に適用した例(26),循環器疾患臨床適用のための血流シミュレーション高速化を目指しNS方程式と境界条件を損失関数に組み込んだ構造化DNNによる代理モデル(Surrogate Model)構築(27)等が報告された.
 CMD2019ではOS「深層学習と機械学習」にて12件の発表があり,アダプティブFEMに深層学習を適用し高速化する方法(28)第一原理計算で得られる多数の形状記憶合金変態温度データを多層NNによって非線形回帰し代理モデル化する例(29),アルミ合金の代表的な集合組織の画像情報を学習することで代理モデルを構築し条件付きGANを用いて極点図画像を生成した例(30),道路交通量シミュレーションにおいてミクロモデルとマクロモデル間の異なるパラメータを対応させるために,マクロモデルの多数の計算値を教師データとした逆関数型代理モデルを作成した例(31),翼形状設計CFDにおいて剥離が発生する条件を判定する分別器をCNNの学習により構築した例(32)等が注目される.
 大規模・複雑な非線形システムに対しPOD等を用いた縮約モデル化や,設計最適化のための多層NN回帰モデルによる代理モデル化によって製品開発の最適化プロセスを高速化し,システム運用時のスマートサービスを提供するデジタルツインを構築できる(33).2019年12月に開催されたSC19(Super Computing 2019)の招待講演でWillcoxが発表した無人航空機(UAV)開発におけるデジタルツインの役割は,UAVが自らの作動状態や構造健全性をセンサーデータで収集しながら自身(Edge側)が持つデジタルツインと比較しながら自立運転するもの(34)であり,機械学習・統計数理と計算力学の融合の特筆すべき例と考える.

〔平野 徹 ダイキン情報システム〕

参考文献

(1) 樋口知之,統計数理の誕生とその広がり,横幹,Vol.5巻第1号 (2014), pp.14-21.
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(3) 片山達也,Sequential Model-Based Optimizationによる流体解析結果の最適化,日本機械学会第32回計算力学講演会講演論文集(2019)F01-2. DOI: 10.1299/jsmecmd.2019.32.F01-2
(4) 佐藤孝麿,高岸毎明,加藤学,ベイズ最適化を利用した連続式インクジェットプリンタ向け帯電制御最適化技術の開発,日本機械学会第32回計算力学講演会講演論文集(2019)033. DOI: 10.1299/jsmecmd.2019.32.033
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(16) 橋本将太,小野寺啓祥,山前康夫,安木剛,Reduced Modelによる全面衝突時の車体変形予測技術の開発,自動車技術会論文集 Vol.50 (2019), pp.1102-1107.
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(18) MS203: Data-driven Modeling Using Uncertainty Quantification, Machine Learning and Optimization, in ABSTRACTS of 15th US National Congress on Computational Mechanics (2019).
(19) MS207: Model Construction, Uncertainty Quantification, and Data-driven Modeling in Computational Mechanics, in ABSTRACTS of 15th US National Congress on Computational Mechanics (2019).
(20) Darve, E., Physics Informed Machine Learning, 15th U.S. National Congress on Computational Mechanics, http://15.usnccm.org/ (参照日2020年4月3日)
(21) Sun, H., Deep Learning Enabled Data-driven Discovery of Nonlinear Governing Laws, 15th U.S. National Congress on Computational Mechanics, http://15.usnccm.org/ (参照日2020年4月3日)
(22) Lee, K., Carlberg, K., Model Reduction of Dynamical Systems on Nonlinear Manifolds Using Deep Convolutional Autoencoders, 15th U.S. National Congress on Computational Mechanics, http://15.usnccm.org/ (参照日2020年4月3日)
(23) Akkari, N., Different Reduction Techniques Based on Physical Reduced Order Modeling and Deep Learning for Geometrical Exploration of Turbulent and Incompressible Fluid Flows, 15th U.S. National Congress on Computational Mechanics, http://15.usnccm.org/ (参照日2020年4月3日)
(24) Jiang, Y., Rao, C., Zhang, R., Liu, Y., Deep Convolutional Neural Networks for Heterogeneous Material Homogenization, 15th U.S. National Congress on Computational Mechanics, http://15.usnccm.org/ (参照日2020年4月3日)
(25) Zhang, X., Garikipati, K., Machine Learning Material Physics: A Data-driven Approach for Predicting Effective Material Properties in Multi-component Crystalline Solids, 15th U.S. National Congress on Computational Mechanics, http://15.usnccm.org/ (参照日2020年4月3日)
(26) Du, X., Zhu, F., Machine Learning Based Vehicle Crashworthiness Design, 15th U.S. National Congress on Computational Mechanics, http://15.usnccm.org/ (参照日2020年4月3日)
(27) Wang, J., Gao, H., Sun, L., Surrogate Modeling for Vascular Flow Simulations Based on Physics- Constrained, Label-Free Deep Learning, 15th U.S. National Congress on Computational Mechanics, http://15.usnccm.org/ (参照日2020年4月3日)
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(29) 南大地,上杉徳照,瀧川順庸,東健司,機械学習と第一原理に基づいた形状記憶合金の変態温度,日本機械学会第32回計算力学講演会講演論文集(2019)041. DOI: 10.1299/jsmecmd.2019.32.041
(30) 肥沼康太,上條龍之介,庄司香織,山中晃徳,アルミニウム合金のミクロ組織設計に資する条件付き敵対的生成ネットワークの構築,日本機械学会第32回計算力学講演会講演論文集(2019)061. DOI: 10.1299/jsmecmd.2019.32.061
(31) 奥山里奈,三目直登,内田英明,藤井秀樹,山田知典,吉村忍,機械学習を用いた交通量モデルのパラメータ同定,日本機械学会第32回計算力学講演会講演論文集(2019)033.DOI: 10.1299/jsmecmd.2019.32.033
(32) 深沢拓人,今村太郎,機械学習により二次元形状の層流剥離を判定する分類器に関する検討,日本機械学会第32回計算力学講演会講演論文集(2019)285. DOI: 10.1299/jsmecmd.2019.32.285
(33) 平野徹,CAEとAIの融合によるデジタルツイン開発とスマートサービスのモデル化,日本機械学会第32回計算力学講演会講演論文集(2019)F01-1. DOI: 10.1299/jsmecmd.2019.32.F01-1
(34) Willcox, K.E., Predictive Data Science for Physical systems: From model reduction to scientific machine learning, https://www.oden.utexas.edu/about/news/589/ (参照日2020年4月3日)

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2.8 産業界での計算力学

 産業界における計算力学の応用は,小規模なモデルを用いる計算と,大規模なモデルを用いる計算の二つに大別される.小規模なモデルを用いる計算には,1DCAEや二次元モデルも含まれるが,三次元モデルの場合でも,例えばターボ機械の流体解析の事例では数万から数百万要素規模のもので,定常状態の解を求める計算が主流である.近年では,この計算は数値最適化手法やAIと組み合わせることにより,製品の仕様や寸法,形状を最適設計する技術が広く応用されている.大規模なモデルを用いる計算は,数千万から数十億要素規模のもので,非定常状態の解を求める計算が主流である.この計算は,大きな計算リソースを必要とすることから,パラメータサーベイには向いておらず,複雑な物理現象の解明を主な目的としていることが多い.

 産業界における計算力学の応用事例は,近年においても多くの研究が発表されている.例えば,日本機械学会第32回計算力学講演会(CMD2019)(1)では,フォーラム「IoT,AI,5G実装のための革新的CAE活用」,オーガナイズドセッション「企業におけるCAEおよび産学連携の事例」が開催されている.また,日本機械学会第97期流体工学部門講演会(fedcof19)(2)では「インダストリアルセッション」が開催されている.これらの講演会においては,小規模なモデルを用いる計算は既に実用レベルにまで至っていることもあり,計算方法そのものの事例は少なく,最適設計に関する研究に重きを置いた事例の報告が多い.一方で,後者の大規模なモデルを用いる計算に関する事例は増加傾向にある.産業界においては,計算リソースの確保と同時に,計算ソフトウェアのライセンス費用の増大が大きな課題である.これを解決する手段としてオープンソースソフトウェアの活用が有効である.このような状況の中,CMD2019ではフォーラム「企業におけるオープンCAEの活用」が開催され,事例報告と議論がなされている.

 大規模なモデルを用いる計算は,大学や公的な研究機関との産学連携により推進されていることが多い.産学連携の事例としては(社)ターボ機械協会における「ターボ機械HPC実用化分科会」(3)がある.この分科会は多くのターボ機械の設計者と研究者が参加しており,ターボ機械の流体・振動・騒音などの連成現象のメカニズム解明と性能の予測およびHPC(High Performance Computing)技術の実用化加速を目的としたものである.この活動の中にはスーパーコンピュータ「京」などのHPCのための計算機を使った研究も含まれる.活動の成果は,細隙部を含めたポンプのLES解析に関する研究(4)や上流側に曲り配管を有する遠心圧縮機の研究(5)として報告されている.また,この分科会に参加する企業が,この分科会で得たノウハウを応用した独自の研究事例として,電動モータの冷却ファンの騒音に関する研究(6)や電子機器冷却ファンの騒音に関する研究(7)が報告されている.

 海外においても,企業によるターボ機械の最適設計や大規模なモデルを用いる計算事例の報告は多い.3年に1度のファンを対象とした講演会(International Conference on Fan Noise, Aerodynamics, Applications and Systems)で2018年に開催されたFAN2018において,自動車用多翼ファンを対象とした騒音低減に関する研究(8),熱交換器とファンが実装される製品の騒音に関する研究(9),プロペラとガイドベーンから構成されるファンの最適設計に関する研究(10)などが報告されている.また,AJKFluids2019において,ボリュート付き遠心ポンプの逆解法による研究(11)が報告されている.これらの研究はかなり実用的な内容であり,海外企業における計算力学の製品開発への応用の浸透度合いをうかがい知ることができる.また,大学とソフトウェアメーカーの産学連携として,格子ボルツマン法を用いたUltra High-Efficiency Quiet Fans(UHEQ)に関する研究(12)の報告がされている.これは上述のターボ機械HPC実用化分科会に近い狙いのものであると思われ,海外の企業も日本と同様の課題意識を持っていると推察される.

 今後の展開としては,小規模なモデルを用いる計算については,産業界の製品開発や設計において,さらに日常的に用いられるようになると予想する.今後はこれとAI等との組み合わせによって付加価値をつけてゆくことになると予想する.大規模なモデルを用いる計算については,多くの課題が残されている.例えば,複雑かつ特性時間のスケールが大きく異なるマルチスケール問題である圧縮機のサージ現象の解明や,レイノルズ数が大きい多段ポンプの性能試験を数値解析で代替することはまだ実用レベルまでには達していない.また,高精度な計算結果を得るためには対象毎に多くのノウハウの構築が必要であることが明らかとなりつつある.このノウハウを多くの研究者や設計者が如何に使える技術に仕上げるかが課題であり,継続的な研究が必要である.おりしも「京」の後継機であるスーパーコンピュータ「富岳」(13)が2021年度からの共用開始が計画されている.残された課題のいくつかについては「富岳」によって解決されることが期待される.一方で,例えばレイノルズ数の小さいファンの空力騒音はかなり実用的な精度で予測できるようになってきた.「富岳」を代表とする高性能な計算機を用いることによって,これまで「大規模」とされてきた計算が,もはや大規模ではなくなり,パラメータサーベイや最適設計を実現できるレベルにまで実用化され,産業界で応用できるようになることが期待される.

〔岩瀬 拓 日立製作所(株)〕

参考文献

(1)日本機械学会第32回計算力学講演会,https://www.jsme.or.jp/cmd/conference/cmdconf19/ (参照日2020年3月23日)
(2)日本機械学会第97期流体工学部門講演会,https://www.jsme.or.jp/conference/fedconf19/ (参照日2020年3月23日)
(3)加藤千幸,ターボ機械HPC実用化分科会の活動紹介,ターボ機械,Vol.46, No.10(2018), pp.582-586.
(4)Takamine, Taiki, Satoshi Watanabe, NUMERICAL INVESTIGATION OF THE INFLUENCE OF IMPELLER-DIFFUSER GAP (AANDB-GAPS) ON UNSTEADY FLOW IN A CENTRIFUGAL PUMP AT PART FLOWS, Proceedings of the ASME-JSME-KSME 2019 8th Joint Fluid Engineering Conference, AJKFluids2019-5372.
(5) Kazutoyo Yamada, et al., Effects of Upstream Bend on Aerodynamic Performance of a Transonic Centrifugal Compressor, Proceedings of the ASME Turbo Expo 2019, GT2019-90794.
(6)Kimihisa Kaneko, Tsutomu Yamamoto, PREDICTING COOLING FAN NOISE OF ELECTRIC MOTOR USING COMPRESSIBLE LARGE EDDY SIMULATION, Proceedings of the ASME-JSME-KSME 2019 8th Joint Fluid Engineering Conference, AJKFluids2019-4699.
(7)内河邦治,松野友樹,電子機器の流路構造の影響によるファンの空力騒音変化の数値解析,日本機械学会第97期流体工学部門講演会論文集(2019),IS-35.
(8)Manuel Henner, et al., HUMMING NOISE MECHANISM IN AUTOMOTIVE BLOWER, FAN2018.
(9)Andreas Lucius, EXPERIMENTAL AND NUMERICAL INVESTIGATION OF AXIAL FAN AEROACOUSTICS AT DISTURBED INFLOW CONDITIONS, FAN2018.
(10)Walter Angelis, Frieder Lorcher, FAN UNIT WITH COMPACT GUIDE VANE DESIGNED FOR LOW HUB RATIO AXIAL FANS, FAN2018.
(11)Luying Zhang, et al., Multi-Objective Optimization of a High Specific Speed Centrifugal Volute Pump Using 3D Inverse Design Coupled With CFD Simulations, Proceedings of the ASME-JSME-KSME 2019 8th Joint Fluid Engineering Conference, AJKFluids2019-4676.
(12)Aurelien Marsan, et al., TIP LEAKAGE FLOW AND ITS IMPLICATION ON THE ACOUSTIC SIGNATURE OF A LOW-SPEED FAN, FAN2018.
(13)スーパーコンピュータ「富岳」について,https://www.r-ccs.riken.jp/jp/post-k (参照日2020年3月23日)

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2.9 防災関連

 2019年9月9日に関東地方に上陸した台風15号は,関東地方に上陸したものとしては観測史上最強クラスの勢力で,千葉県を中心に甚大な被害を出した.また,同年10月12日に伊豆半島に上陸した台風19号は,さらに追い打ちをかけるように関東地方や甲信地方,東北地方などに記録的な大雨と甚大な被害をもたらした.これらの台風では,洪水や土砂に襲われ亡くなった者が続出し,また,全国で多くの住家(15号:7万棟以上,19号:9万棟以上)に被害が及んだ.このように,2019年は台風による風害や水害,記録的豪雨による水害などのニュースが頻繁に流れる年となった.2011年に発生した東日本大震災による津波被害を受け,建築・土木・機械などの様々な分野で津波被害メカニズムに関連する現象のシミュレーションが活発に行われているが,今後は,都市防災の観点から,特に前記の水害に強い街づくりに寄与する解析手法の発展が期待される.

 さて,防災関連のシミュレーションに関する国内の研究動向は,例えば日本計算工学会第24回計算工学講演会(1)(2019年5月29-31日,大宮ソニックシティ),日本建築学会2019年度大会(2)(2019年9月3-6日,金沢工業大学),第32回計算力学講演会(3)(2019年9月16-18日,東洋大学),日本地震工学会第14回年次大会(4)(2019年9月19,20日,京都大学)などに参加すると伺い知ることができる.また,国外に目を向けると例えば7th International Conference on Computational Methods in Structural Dynamics and Earthquake Engineering (5)(COMPDYN 2019, 2019年6月24-26日,ギリシャ・クレタ島)や7th Asia-Pacific Congress on Computational Mechanics (6)(APCOM 2019, 2019年12月17-20日,台湾・台北市)などで防災関連のミニシンポジウムやセッションが多く企画されている.

 最近の防災関連研究で頻繁に目にするキーワードとしては,「不確かさ(uncertainty)」「レジリエンス(resilience)」「修復性(repairability)」などがある.いずれも用語としてはかなり以前から使われていたが,計算機能力の拡充に伴って初期条件を変えて網羅的に解析を実施することが可能となり,ますます本格的に研究が進んでいる感が伺える.特に天災を相手にする防災関連分野では,入力荷重や構造パラメータの「不確かさ」モデリングの必要性が増している.また,特に文化が成熟した諸国では,既存インフラを被災後に再利用したり,劣化に伴うインフラの取り壊しを判断したりする上で「レジリエンス」や「修復性」の評価が重要となってきているようである.ギリシャで開催されたCOMPDYN 2019 (5)で特にこれら2つの用語が頻繁に見られたのは,大変興味深い.

 一方,材料・計測その他の分野でよく目にする「機械学習」「深層学習」「AI(人工知能)」などの用語も,防災関連分野で少しずつ見られるようになってきており,例えば航空写真による被害状況把握への適用,建物の損傷同定や制振技術への応用などが行われている.しかし,対象とする事象が大きいために困難なのかもしれないが,防災関連解析への適用例はまだ少ない.「不確かさ」が必ず介在する分野だけに,今後はAIや学習と数値解析を組み合わせた総合的な解析・評価技術の発展が期待される.

 ところで,2020年3月には神戸で3rd International Conference on Computational Engineering and Science for Safety and Environmental Problems(7) (COMPSAFE2020)が開催される予定であったが,新型コロナウィルスの影響で2020年12月8-11日に開催が延期された.この会議では,防災・減災に関連した多くの計算力学的研究の成果が発表される予定である.キーワードの移り変わりを含め,最新の研究動向に注目したい.

 最後に,シミュレーションを利用した防災関連の研究は多岐に渡るため,ここで紹介した事例・会議などはそのごく一部にしか過ぎないことをお断りしたい.

〔磯部 大吾郎 筑波大学〕

参考文献

(1)日本計算工学会 第24回計算工学講演会,https://www.jsces.org/koenkai/24/(参照日2020年3月5日).
(2)日本建築学会 2019年度大会,http://taikai.aij.or.jp/2019/(参照日2020年3月5日).
(3)日本機械学会 第32回計算力学講演会(CMD2019),https://www.jsme.or.jp/cmd/conference/cmdconf19/(参照日2020年3月5日).
(4)日本地震工学会 第14回年次大会,https://www.jaee.gr.jp/jp/event/annual/(参照日2020年3月5日).
(5)7th International Conference on Computational Methods in Structural Dynamics and Earthquake Engineering (COMPDYN 2019),https://2019.compdyn.org/(参照日2020年3月5日).
(6)7th Asia-Pacific Congress on Computational Mechanics (APCOM 2019),http://www.apcom2019.org/(参照日2020年3月5日).
(7)3rd International Conference on Computational Engineering and Science for Safety and Environmental Problems (COMPSAFE2020),https://compsafe2020.org/(参照日2020年3月5日).

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