23. マイクロ・ナノ工学
23.1 マイクロ・ナノ工学概観
23.2 三次元の微細形状創成技術
23.2.1 概況/23.2.2 樹脂やゲルの3D micro-AM/23.2.3 セラミックスの3D micro-AM/23.2.4 金属の3D micro-AM/23.2.5 材料と加工プロセスの比較
23.3 マイクロ・ナノマテリアル
23.4 マイクロ・ナノ熱流体
23.5 バイオ・医療MEMS
23.6 IoT
23.1 マイクロ・ナノ工学概観
日本政府が今後何に力を入れていくのかの方向性をまとめた未来投資戦略2018では,「Society5.0」「データ駆動型社会」への変革として,「Society5.0」で実現できる新たな国民生活や経済社会の姿を具体的に提示している.これを受け,経済産業省でも,第一の柱としてデータを核としたオープンイノベーションの推進によるSociety5.0の実現を目指して,①Connected Industriesの推進,②先端分野のおける製造技術・データ活用,③AI実装・研究開発/人材育成・活用等の施策を打ち出している.特に,日本の強みを活かしたリアルデータの活用を目指している.リアルデータの取得のためにはセンサが重要な役割を果たすため,センサ製造に不可欠なマイクロ・ナノ工学は今後益々重要になってくるものと思われる.また,MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術の変遷を考えるとMEMS技術は1990年代に自動車用のMEMSセンサを中心に第一の波として発展し,2010年から立ち上がってきたスマートフォンに多数のMEMSデバイスが搭載されるようになり第二の波を迎えた.現在はまさにSociety5.0に向けてIoT(Internet of Things),健康・医療,自動運転,ロボットアプリの分野を核としてMEMSの第三の波が始まろうとしている状況にある.
先ずはマイクロ・ナノ工学が大きな役割を果たしているMEMS産業について概観する.Yole Developpement(1)のMEMSデバイスの2017年売上げ及び2018年~2023年の売上予測を図1-1に示す.図1-1に示すように,2017年のMEMSデバイスの売上げは117.9億ドルで2016年度の117.6億ドルとほぼ横ばいであった.デバイスとしては,RF-MEMSデバイスの売上げが2016年度第1位の圧力センサの売上を抜いて第1位になった.図1-2に主要MEMS企業の売上げの推移を示す.RF-MEMSであるモバイル向けBAW(Bulk Acoustic Wave)フィルタが急成長し,Broadcom(Avago)が55%増加し,Boschを抜いて首位になった.BoschとST Microelectronicsは,2016年は売り上げを落としたが,2017年は売り上げを戻した.しかし,Broadcomに負けてしまった.DMD(Digital Mirror Device)のTexas Instrumentsは,2017年は売り上げを落とし,4位に落ちた.日本企業では2017年に日本企業トップのデンソーが大幅に売り上げを落として8位から16位に転落した.日本企業トップのTDKは8位,次いでパナソニックが10位,キャノンが14位であった.また,中国のマイクロフォンメーカGOERTEKが急成長(+58%)して11位に上がってきた.2018年~2023年の売上予測では,Society5.0で必須の4G(第4世代移動通信システム)のRF系の複雑化,4G/5G向けのRF(BAW)フィルタの市場ニーズの継続した高まりから,Yole Developpementでは図1に示すように,RF-MEMSは引き続き33.8%/年の成長を見込んでいる.また,タイミングデバイスのオシレータが成長率としてはトップの58.4%になるとみている.さらに,最近の注目分野のスマートヘルス,自動運転,VR(Virtual Reality:仮想現実感),AR(Augmented Reality:拡張現実感)等でもMEMSデバイスは中心的な役割を担うことが期待されている.このように,MEMS産業は引き続き成長分野になっていると言える(図1-1)(図1-2).
図1-1 MEMSデバイス売上予測
出典:Yole Developpement
図1-2 主要MEMS企業の売上推移
出典:Yole Developpement
次に,マイクロ・ナノ工学の代表的な国際会議であるMEMS2018(The 31th IEEE International Conference on Micro Electro Mechanical Systems@英国・北アイルランド,ベルファースト)とTransducersが隔年開催で2018年は開催されなかったため,Transducersの無い年に開催されるAPCOT2018(Asia-Pacific Conference on Transducers and Micro-Nano Technology 2018@香港)の投稿状況から2018年のマイクロ・ナノ工学の学術的な傾向に関して概観する.MEMS2018の投稿件数は675件(2017年:874件)で,2017年より約23%減少した.採択件数は全体で346件(2017年:347件),採択率は51%(2017年:40%)で2017年とほぼ同数の採択件数にしたため,投稿数が少なかった分,採択率は11%上昇した.2018年の基礎研究と応用研究の比率は38.3:61.7であり,2017年の38.6:61.4とほぼ同程度であった.分類別でみると,件数が多かったのはFabrication Technologies(non-Silicon)(71件),Mechanical Sensor(57件),Fluidics(55件)であった.2017年より増加が目立ったのはMechanical Sensor(44件→57件)であった.逆に,減少が目立ったのはCell & Subcellular components(41件→27件)であった.一方,APCOT2018の投稿数は157件で前回(2016年)の201件より22%減少した.理由は良くわからないが,MEMS2018も投稿数が23%減少しているので,2018年はMEMS分野の学術的な活性度が少し落ちたと思われる.採択件数は147件(前回2016年:189件)で,採択率は91%(2016年:94%)であった.APCOTはMEMSやTransducersと比較するとローカルな国際会議のため,採択率は高くなっている.APCOT2018年の基礎研究と応用研究の比率は28:72であり,2016年の28:70(どちらにも属さないのが2%)とほぼ同程度であった.MEMS2018と比較するとAPCOT2018の方が基礎研究の投稿割合が少なくなっている.APCOTもTransducersと同様に最近は基礎より応用に重きが置かれる傾向にあることが分かる.分類別でみると,件数が多かったのはMechanical Sensor(20件),Chemical Sensor(16件),Radiation/Material Substrate SensorとBio Senorがそれぞれ(12件)であった.2016年より増加が目立ったのはMechanical Sensor(15件→20件)であった.逆に,減少が目立ったのはOptical MEMS(17件→2件),Medical Systems(13件→1件)とPower MEMS(11件→3件)であった.2016年にホットであったOptical MEMS,Medical SystemsとPower-MEMSが2018年は少し沈静化しているように思われる.
国内においては,マイクロ・ナノ工学部門主催による日本機械学会マイクロ・ナノ工学シンポジウムが,この分野の関連学会と共同で実施しているFuture Technologies from SAPPOROとして,10月30日~11月1日に札幌市の札幌市民交流プラザで開催された.2018年は電気学会と応用物理学会に加え,化学とマイクロ・ナノシステム学会が新たに参画し,益々学会を跨いだ学際的な会議として多数の研究者が参加し,活発な議論がなされた.MEMS産業が益々成長する中,産学連携の研究開発を推進し,この分野が新しいSociety5.0を支える基幹技術として益々活性化することを期待したい.
〔武田 宗久 (一財)マイクロマシンセンター〕
参考文献
(1)Yole Developpement, Status of the MEMS Industry 2018,p29,38,39.
23.2 三次元の微細形状創成技術
23.2.1 概況
マイクロ・ナノデバイスの高集積化・高機能化において,三次元の微細形状創成技術は重要である.一般的にこれらのデバイスは,リソグラフィやエッチングなど,半導体製造技術で作製されている.一方で近年,3Dプリンタ技術の発展により,微細な付加加工(AM,Additive Manufacturing)が期待されている(1)(2).本節では,材料の点から3D micro-AM技術についてまとめる.
23.2.2 樹脂やゲルの3D micro-AM
樹脂の造形は,三次元積層造形法(3)-(7)とフェムト秒レーザを利用した三次元直接描画法(8)(9)に分けられる.前者は一般的な3Dプリンタ技術であるSTL(Stereolithography),粉末積層造形法(SLS: Selective Laser Sintering, SLM: Selective Laser Melting),FDM(Fused Deposition Modelling)をそれぞれ微細加工へスケールダウンしたもので,二次元パターンを積層して三次元形状を作製する.STLでは,感光性樹脂や感光性ゲルを層状に充填し,紫外線レーザ等を用いて選択的に硬化する.一層硬化後,更に材料を充填して積層を繰り返す.粉末積層造形法では,樹脂粉末を溶融積層し,三次元形状を形成する.FDMでは,熱可塑性樹脂を溶融してファイバ状に射出し,積層造形を行う.FDMはSTLや粉末積層造形法と比較すると加工精度は劣るが,装置が簡易という利点はある.
後者のフェムト秒レーザ利用した三次元直接描画法は,従来法の単なるスケールダウンではなく,微細加工に特化したものである.フェムト秒レーザパルスを集光すると焦点近傍の高強度領域のみで,まるで半波長の光を照射したかのような吸収(2光子吸収,TPA: Two Photon Absorption)が生じる.つまり,近赤外フェムト秒レーザパルスを用いると,焦点近傍では紫外光を照射したかのような現象が誘起される.従って,感光性樹脂内部にレーザパルスを集光すると焦点近傍のみが硬化し,走査することによって,積層することなく三次元微細構造を直接描画形成できる.TPAを利用した方法は,強度に依存する吸収特性を利用するため,光の回折限界を超えた高加工分解能を実現している.
23.2.3 セラミックスの3D micro-AM
近年,セラミックスの3D micro-AM報告が多い.低融点ガラスの三次元微細造形はFDMを用い,ガラスファイバをCO2レーザにより溶融積層して行われる(10)(11).また,シリカガラスの三次元微細造形も報告されている.シリカガラスビーズと光硬化性樹脂の混合原料を,STLによって樹脂を硬化すし,形状作製後に1300̊Cで焼結してシリカガラスの三次元微細形状を得る.また,SLSやインクジェットと熱処理を併用し,バイオマテリアルの三次元造形も行われている(13).
一方,TPAを利用した,セラミックスの三次元直接描画法も報告されている.本手法では,感光性樹脂内にシリカナノ粒子を分散させ,TPAによる樹脂の硬化を利用して三次元構造を形成する.熱処理を援用することによって樹脂を除去し,SiCNの三次元造形を行った報告もある(14).樹脂の三次元微細造形と同様,TPAを利用すると回折限界以下である数100nm程度の加工分解能を実現できる.
23.2.4 金属の3D micro-AM
金属の三次元微細造形は,従来の金属積層造形をスケールダウンした方法に近いものとして,液体金属や金属ナノ粒子インクの積層造形法が報告されている.これらをインクジェットによりプリントし,積層することによって三次元形状を造形する.原料として,液体金属ではGaInなど低融点金属(15),金属ナノ粒子インクにおいては,Ag,Au,Cuなど(16)を用いた報告がなされている.一方,金属酸化物ナノ粒子インクの還元焼結を利用した三次元積層造形では,還元度を制御した金属Cu・半導体Cu2Oの選択描画も実現している(17).
TPAを利用した三次元直接描画技術は,金属の三次元微細造形にも用いられている.AuやAgイオンを分散させたポリマー内部にTPAを利用してAuやAgを還元析出し,三次元微細構造を直接描画形成できるが,貴金属に限定されている(19).
23.2.5 材料と加工プロセスの比較
上記に述べた各種材料における三次元の微細形状創成技術の比較を表1にまとめた.それぞれの加工プロセスにおいて利点,欠点があるため,必要な特性に適した方法を選択する必要がある.3D micro-AM技術は現在も活発に研究がなされており,今後の発展が期待される.
表2-1 各種材料の造形のための3D micro-AM技術
材料 | プロセス | 加工分解能 | 参考文献 |
感光性ポリマー | STL | 数~数10µm | (3) |
感光性ゲル | STL | 数~数10µm | (4) |
ポリマー(原料:粉末) | SLM | 数10~数100µm | (5) |
ポリマー | FDM | 数100µm | (6)(7) |
感光性ポリマー | TPA | 数100nm~数µm | (8)(9) |
低融点ガラス | FDM | 数100µm | (10)(11) |
シリカガラス | STL&Sintering | 数100µm~数mm | (12) |
バイオマテリアル(TCP,Hap) | SLS,Inkjet | 数100µm~数mm | (13) |
セラミックス | TPA | 数100nm~数µm | (14) |
GaIn | Inkjet | 数10~数100µm | (15) |
Au | Inkjet/TPA | 数100nm~数µm | (16)/(18) |
Ag | Inkjet/TPA | 数100nm~数µm | (16)/(19) |
Cu | Inkjet, Reductive sintering | 数10~数100µm | (16)(17) |
〔溝尻 瑞枝 長岡技術科学大学〕
参考文献
(1)Vaezi, M., Seitz, H., and Yang, S., A review on 3D micro-additive manufacturing technologies, International Journal of Advanced Manufacturing Technology, Vol.67, (2013), pp.1721–1754.
(2)Bhushan, B., and Caspers M., An overview of additive manufacturing (3D printing) for microfabrication,Microsystem Technologies, Vol.23, (2017), pp.1117–1124.
(3)Ligon, S. C., Liska, R., Stempfl, J., Gurr, M., and Műlhaupt, R., Polymers for 3D printing and customized additive manufacturing, Chemical Reviews, Vol.117, (2017), pp.10212–10290.
(4)Shephred, J. N. H., Parker S. T., Shephred, R. F., Gillette, M. U., Lewis, J. A., and Nuzzo, R. G., 3D microperiodic hydrogel scaffolds for robust neuronal cultures, Advanced Functional Materials, Vol.21, (2011), pp.47–54.
(6)Gibson, I. and Rosen D. W., Additive manufacturing technologies, Springer, New York.
(7)Woodfield, T. B. F., Malda, J., Wijin, J. D., Péters, F., Riesle, J., and Blitterswijk, C. A. V., Design of porous scaffolds for cartilage tissue engineering using a three-dimensional fiber-deposition technique, Biomaterials, Vol.25, (2004), pp.4149–4161.
(8)Maruo, S., Nakamura, O., and Kawata, S., Three-dimensional microfabrication with two-photon-absorbed photopolymerization, Optics Letters, Vol.22, Issue2, (1997), pp.132–134.
(9)Kawata, S., Sun. B. H., Tanaka, T., and Takada, K., Finer features for functional microdevices, Nature, Vol.412, (2001), pp.697–698.
(10)Luo, J., Pan, H., and Kinzel, E. C., Additive manufacturing of glass, Journal of Manufacturing Science and Engineering, Vol.136, Issue6, (2004), art.no.061024.
(11)Witzendorff, P. von, Pohl, L., Suttman, O., Heinrich, P., Heinrich, A., Zander, J., Bragard, H., and Kaierles, S., Additive manufacturing of glass: CO2-Laser glass deposition printing, Procedia CIRP, Vol.74, (2018), pp.272–275.
(12)Kotz, F., Arnold, K., Bauer, W., Schild, D., Keller, N., Sachsenheimer, K., Nargang, T. M., Pichter, C., Helmer, D., and Rapp, E. B., Three-dimensional printing of transparent fused silica glass, Nature, Vol.544, (2017), pp.337–339.
(13)Shirazi, S. F. S., Gharehkhani, S., Mehrali, M., Yarmand, H., Metselaar, H. S. C., Kadri, N. A., and Osman, N. A. A., A review on powder-based additive manufacturing for tissue engineering: selective laser sintering and inkjet 3D printing, Science and Technology of Advanced Materials, Vol.16, (2015), art.no.033502.
(14)Pham, T. A., Kim, D. –P., Lim, T. –W., Park, S. –Hu, Yang, D. –Y., and Lee, K. –S., Three-dimensional SiCN ceramic microstructures via nano-stereolithography of inorganic polymer photoresists, Advanced Functional Materials, Vol.16, (2006), pp.1235–1241.
(15)Ladd, C., So, J. H., and Dickey, M. D., 3D printing of free standing liquid metal microstructures, Advanced Materials, Vol.25, (2013), pp.5081–5085.
(16)An, B. W., Kim, K., Lee, H., Kim, S. –Y., Shim, Y., Lee, D. –Y., Song, J. Y., and Park, J. –U., High‐Resolution Printing of 3D Structures Using an Electrohydrodynamic Inkjet with Multiple Functional Inks, Advanced Materials, Vol.27, (2015), pp.4322–4328.
(17)Arakane, S., Mizoshiri, M., Sakurai, J., Hata, S., Direct writing of three-dimensional Cu-based thermal flow sensors using femtosecond laser-induced reduction of CuO nanoparticles, Journal of Micromechanics and Microengineering, Vol.27, (2017), art.no.055013.
(18)Tanaka, T., Ishikawa, A., Kawata, S., Two-photon-induced reduction of metal ions for fabricating three-dimensional electrically conductive metallic microstructure, Applied Physics Letters, Vol.88, (2006), art.no.081107.
(19)Maruo, S., and Saeki, T., Femtosecond laser direct writing of metallic microstructures by photoreduction of silver nitrate in a polymer matrix, Optics Express, Vol.16, Issue 2, (2008), 1174–1179.
23.3 マイクロ・ナノマテリアル
マイクロ・ナノマテリアルを次世代材料システムの基幹部材として活用するためには,作製したマテリアルの各種物理的特性評価に加えて,マテリアルの把持や接合といった,微細マテリアルを使いこなすための周辺技術の拡充が不可欠である.
2018年度年次大会「マイクロ・ナノ機械の信頼性」では,特に微細材料の機械的特性評価について26件の講演があった.張らの「MEMSマイクロホンのダイアフラム用多結晶シリコン膜の引張強度評価」(1),中野らの「MEMSマイクロホンにおける薄膜の機械的信頼性評価」(2),森國らの「マイクロ引張試験片を用いたサブミクロン銅薄膜の機械的特性評価」(3),岩本らの「多孔質焼成銀薄膜の引張機械特性について」(4)はいずれも微小電気機械システム(MEMS)の主要構成要素である薄膜の力学特性を報告したものである.特に繰り返し負荷が想定される箇所での利用においては疲労特性が重要となるが,これに関連して,上杉と生津は「Si膜とSiGe膜の疲労特性比較」(5)について,帯谷らは「単結晶シリコンねじり梁を用いた振動型ミラーの共振疲労試験」(6)について報告している.さらに高温環境下における利用においてはクリープ特性が重要となるが,山口らは「サブミクロン単結晶Alのクリープ変形機構の解明」(7)について報告している.その他,川口らはパルスレーザによりシリコンウエハ内部を局所的に改質することにより切断面に加工痕跡を残さない興味深いダイシング技術を報告している(8).また金築らは独自の瞬間接合体の界面強度について報告しており(9),低次元接合界面の諸特性の把握は今後ますます重要になるものと思われる.
また第9回マイクロ・ナノ工学シンポジウムにおいては,マイクロ・ナノマテリアルに関するより広範囲の話題が提供された.切望されている新しいプロセス技術については,溝尻らによるCu直接描画(10),近藤らによる熱アシスト式反応性イオンエッチング法(11)や,塚本らによる超厚膜レジストの成膜に関する報告(12)があった.その他,字室らは細胞一次繊毛のマイクロ引張試験について(13),藤田と燈明は毛髪の曲げ剛性と含有金属量との関係について報告しており(14),マイクロ・ナノマテリアルの対象はバイオマテリアルにも拡大してきている.また古志らは波形状金属配線と無機半導体熱電素子とを組み合わせた伸縮性の高い熱電発電デバイスを報告しており(15),近年特に生活環境で生じる低温度差からの発電を目的とした熱電デバイスの開発が活発である(16).谷山と岩瀬による「切り紙型伸縮配線の機械特性の評価」(17),長友と三木による「ヤング率の異なるレイヤ積層による内視鏡触診用フレキシブル剛性センサの開発」(18)はいずれも材料のヤング率と構造でシステムの剛性を制御するものであり,非常に興味深い報告であった.
〔燈明 泰成 東北大学〕
参考文献
(1)張文磊, 土屋智由, 中野優, 笠井隆, 吉村知浩, 佐野浩二, MEMSマイクロホンのダイアフラム用多結晶シリコン膜の引張強度評価, 日本機械学会2018年度年次大会講演論文集 (2018), DOI: 10.1299/jsmemecj.2018.J2230102.
(2)中野優, 笠井隆, 内田雄喜, 吉村知浩, 佐野浩二, MEMSマイクロホンにおける薄膜の機械的信頼性評価, 日本機械学会2018年度年次大会講演論文集 (2018), DOI: 10.1299/jsmemecj.2018.J2230103.
(3)森國友章, 近藤俊之, 箕島弘二, マイクロ引張試験片を用いたサブミクロン銅薄膜の機械的特性評価, 日本機械学会2018年度年次大会講演論文集 (2018), DOI: 10.1299/jsmemecj.2018.J2230105.
(4)若本恵佑, 望月陽, 大塚拓, 中原健, 生津資大, 多孔質焼成銀薄膜の引張機械特性について, 日本機械学会2018年度年次大会講演論文集 (2018), DOI: 10.1299/jsmemecj.2018.J2230201.
(5)上杉晃生, 生津資大, Si膜とSiGe膜の疲労特性比較, 日本機械学会2018年度年次大会講演論文集 (2018), DOI: 10.1299/jsmemecj.2018.J2230302.
(6)帯谷和敬, 張文磊, 平井義和, 土屋智由, 田畑修, 単結晶シリコンねじり梁を用いた振動型ミラーの共振疲労試験, 日本機械学会2018年度年次大会講演論文集 (2018), DOI: 10.1299/jsmemecj.2018.J2230304.
(7)山口功太郎, 岸野遼馬, 嶋田隆広, 平方寛之, サブミクロン単結晶Alのクリープ変形機構の解明, 日本機械学会2018年度年次大会講演論文集 (2018), DOI: 10.1299/jsmemecj.2018.J2230104.
(8)河口大祐, 関本祐介, 原佳祐, 松平渉, ステルスダイシングを応用したクラックフリーなデバイスの作製, 日本機械学会2018年度年次大会講演論文集 (2018), DOI: 10.1299/jsmemecj.2018.J2230101.
(9)金築俊介, 三宅修吾, 生津資大, Al/Ni瞬間接合体の界面制御と機械信頼性, 日本機械学会2018年度年次大会講演論文集 (2018), DOI: 10.1299/jsmemecj.2018.J2230202.
(10)溝尻瑞枝, 青山慶子, 植月暁, 大石知, グリオキシル酸Cu 錯体のフェムト秒レーザ還元を利用したCu 直接描画, 日本機械学会第9回マイクロ・ナノ工学シンポジウム講演論文集 (2018), DOI: 10.1299/jsmemnm.2018.9.30am3-PN-27.
(11)近藤正之, 吉田将希, 桐生祐弥, 韓剛, 寒川雅之, 安部隆, 熱アシスト式反応性イオンエッチング法によるチタン合金製微小メスの作製と評価, 日本機械学会第9回マイクロ・ナノ工学シンポジウム講演論文集 (2018), DOI: 10.1299/jsmemnm.2018.9.30pm4-PN-28.
(12)塚本拓野, 山田功, 鈴木孝明, 薄膜多層スプレー塗布による超厚膜レジストの成膜, 日本機械学会第9回マイクロ・ナノ工学シンポジウム講演論文集 (2018), DOI: 10.1299/jsmemnm.2018.9.31am3-PN-125.
(13)字室勝善, Do, T. D., 大橋俊朗, マイクロ引張試験による細胞一次繊毛の力学特性計測, 日本機械学会第9回マイクロ・ナノ工学シンポジウム講演論文集 (2018), DOI: 10.1299/jsmemnm.2018.9.01pm1-PN-163.
(14)藤田賢人, 燈明泰成, 頭髪内の金属量変化に伴う力学特性の変化について, 日本機械学会第9回マイクロ・ナノ工学シンポジウム講演論文集 (2018), DOI: 10.1299/jsmemnm.2018.9.30am3-PN-3.
(15)古志知也, 福家加奈, 柏木誠, 岩瀬英治, 波形状金属配線と無機熱電素子を用いた伸縮性熱電発電デバイス, 日本機械学会第9回マイクロ・ナノ工学シンポジウム講演論文集 (2018), DOI: 10.1299/jsmemnm.2018.9.30am3-PN-15.
(16)Ogi, N. and Tohmyoh, H., Effect of Oxidation Temperature on the Thermoelectric Performance of the Plate-Type Thermoelectric Power Generator, 31st International Microprocesses and Nanotechnology Conference (MNC2018) (2018), 15P-7-98.
(17)谷山広樹, 岩瀬英治, 切り紙型伸縮配線の機械特性の評価, 日本機械学会第9回マイクロ・ナノ工学シンポジウム講演論文集 (2018), DOI: 10.1299/jsmemnm.2018.9.30am3-PN-5.
(18)長友竜帆, 三木則尚, ヤング率の異なるレイヤ積層による内視鏡触診用フレキシブル剛性センサの開発, 日本機械学会第9回マイクロ・ナノ工学シンポジウム講演論文集 (2018), DOI: 10.1299/jsmemnm.2018.9.31pm2-PN-108.
23.4 マイクロ・ナノ熱流体
マイクロ・ナノ熱流体は,様々なマイクロ・ナノスケールのデバイスで見られる熱流動現象を扱う分野である.マイクロ・ナノスケールの熱流動現象はマクロスケールの計算・計測手法ではその様相を捉えることができず,その現象のスケールにおいて適切な計算・実験手法を用いて解析を行う必要がある.近年のデバイス加工技術やナノ材料製造技術の発達により,このようなマイクロ・ナノスケールの熱流動現象は半導体や電池,バイオ機器,マイクロセンサの分野など多方面に見られ,今後もこれらの現象に対するより一層の理解が期待されている.また,計算・実験技術の発達により,今まで解析が困難とされてきたスケールでの現象の理解がこの分野で進むことが予想され,今後も幅広い研究の展開が予想される.
日本機械学会発行の論文誌において,マイクロ・ナノ熱流体に関連した論文は,磁性粒子サスペンションに対するミクロ・シミュレーション法としての多粒子衝突動力学法の有用性の検討(1),ナノ凹凸構造が凝縮核生成に及ぼす影響に関する分子動力学的研究(2),エンジン内壁面の熱流束を測定する金属基板MEMSセンサの開発(3),非マルコフ散逸粒子動力学に基づく水の粗視化モデルの構築(4),酸水素混合系の音速に対する古典的混合則の精度評価(5),局所熱流束を有するマイクロチャネル内部の伝熱に対する軸方向熱伝導の影響(6),等温ブロックを有するキャビティ内部のナノ流体の磁気対流とエントロピー生成(7),加熱された水平管内における通常流体とナノ流体での流動現象及び伝熱現象の比較(8)などが見られ,他にも分散混合液中のナノ粒子形成過程に関する論文なども見受けられる.近年では全般的に流体工学よりも熱工学の分野においてマイクロ・ナノ熱流動現象の研究が進展しているように見受けられる.
マイクロ・ナノ熱流体に関して,日本機械学会が関連する国外の講演としては,16th International Heat Transfer Conference(IHTC-16),29th International Symposium on Transport Phenomena(ISTP29)でマイクロ・ナノ熱流体関連のOSが企画されている.また,国内の講演としては,日本機械学会2018年度年次大会,第9回マイクロ・ナノ工学シンポジウム,日本流体力学会年会2018,第32回数値流体力学シンポジウム,第55回日本伝熱シンポジウム,第39回熱物性シンポジウムなどでマイクロ・ナノ熱流体関連のOSが企画され,多くの講演が行われている.内容としては現象に関するものがほとんどであるが,一部では解析法や計測法についての深い議論もなされており,今後の学術の発展へとつながっている.
今後,マイクロ・ナノ熱流体の分野は,半導体,エネルギー,医療関連の分野への展開が加速するだけでなく,高分子材料や複合材などの「材料分野」との連成が展開され,更なる研究の展開が期待される.また,計算機や計算技術,計測手法や測定技術の発達により,シミュレーション結果と実験結果の直接的な比較が可能になっており,両者の融合解析による一層の現象の理解と数値予測の精度の向上が期待できる.これにより,現在までに明らかにされていなかった現象の理解が進み,産業にも広く応用される分野に成長することを期待したい.
〔徳増 崇 東北大学〕
参考文献
(1)佐藤明, 磁性粒子サスペンションに対するミクロ・シミュレーション法としての多粒子衝突動力学法の有用性の検討, 日本機械学会論文集 Vol. 84, No. 858 (2018), p. 17-00440. DOI: 10.1299/transjsme.17-00440
(2)宇野元気, 藤原邦夫, 植木祥高, 芝原正彦, ナノ凹凸構造が凝縮核生成に及ぼす影響に関する分子動力学的研究, 日本機械学会論文集 Vol. 84, No. 858 (2018), p. 17-00409. DOI: 10.1299/transjsme.17-00409
(3)出島一仁, 中別府修, 中村優斗, 土屋智洋, 長坂圭輔, エンジン内壁面の熱流束を測定する金属基板MEMSセンサの開発, 日本機械学会論文集 Vol. 84, No. 858 (2018), p. 17-00414. DOI: 10.1299/transjsme.17-00414
(4)木原玄悟, 吉本勇太, 堀琢磨, 高木周, 杵淵郁也, 非マルコフ散逸粒子動力学に基づく水の粗視化モデルの構築, 日本機械学会論文集 Vol. 84, No. 865 (2018), p. 17-00193. DOI: 10.1299/transjsme.18-00193
(5)Ryuji TAKAHASHI, Nobuyuki TSUBOI, Takashi TOKUMASU, Shin-ichi TSUDA, Validation of classical mixing rule coupled with a van der Waals–type equation of state for supercritical mixture system of oxygen and hydrogen using molecular simulation, Mechanical Engineering Letters, Vol. 4 (2018), p. 18-00369. DOI: 10.1299/mel.18-00369
(6)Fawen YU, Tao WANG, Chengbin ZHANG, “Effect of axial conduction on heat transfer in a rectangular microchannel with local heat flux”, Journal of Thermal Science and Technology, Vol. 13 No. 1 (2018), JTST0013. DOI: 10.1299/JTST0013
(7)Soufien BELHAJ, Brahim BEN-BEYA, “Magnetoconvection and entropy generation of nanofluid in an enclosure with an isothermal block: Performance evaluation criteria analysis”, Journal of Thermal Science and Technology, Vol. 13 No. 1 (2018), DOI: 10.1299/JTST0019.
(8)Oussama BENZEGGOUTA, Toufik BOUFENDI, Sofiane TOUAHRI, “Comparative study of fluid flow and heat transfer between usual fluids and nanofluids in a heated horizontal pipe”, Journal of Thermal Science and Technology, Vol. 13 No. 2 (2018), DOI: 10.1299/JTST0027.
23.5 バイオ・医療MEMS
2018年度現在,マイクロ・ナノデバイス技術のバイオ・医療分野への応用では,創薬・診断・治療への貢献を目指して様々なデバイスが提案されている.既に萌芽的な研究内容に留まらず,実用性の検証にまで至っている研究も多く,バイオ・医療MEMS技術の適用範囲がますます広がっていく見通しであると言える.さらに,細胞と機械が融合したバイオハイブリッドマシンがいくつか報告され始めており,新たな概念が当該分野で芽吹きつつある.本稿では2018年度に行われた国内外の関連学会に着目し,萌芽的な内容から実用性の検証に至ったものまで幅広く示すことで,本分野における研究の潮流を紹介する.
2018年度のマイクロ・ナノ工学シンポジウムにおいては30~40%程度がバイオ・医療MEMSに関するトピックを発表していた.そのうち,バイオ分野への応用技術として,紐状3次元組織の構築技術(1)(2)に代表される組織構築技術,組織への電気刺激デバイス(3)や繰り返し引張刺激負荷デバイス(4)などの組織培養環境調整技術,細胞の電気インピーダンス(5)やグルコース濃度の動態計測デバイス(6)などの細胞評価技術,などが発表されていた.いずれも細胞の機能に注目した技術開発であり,体外での細胞または組織の機能の向上や計測を目的としている.今後はこの方向性は変わらずに,高効率化や低コスト化の技術開発が達成され,実用化へ向かっていくことが期待される.医療分野への応用技術では,電界誘起気泡を用いた治療法(7)(8)や埋込型透析装置の評価技術(9)に代表される治療技術,3軸力センサを用いた腹腔鏡下での触覚情報取得法(10)や低ノイズ計測用MRIマイクロコイル(11)などの診断技術,の発表があった.既に原理検証は達成されている研究が多く,企業との共同研究も進んでおり,実用化に向けての期待が高まっている.また,新たな研究の方向性として細胞と機械が融合したバイオハイブリッドマシンが報告されており,骨格筋組織の収縮運動で駆動するバイオロボット(12)(13),嗅覚受容体を発現した細胞を利用したバイオ匂いセンサ(14)が提案されていた.これらの基礎研究の積み重ねにより,新たな研究領域が開拓されることを期待する.
MicroTAS2018をはじめとするバイオ・医療MEMSで著名な国際会議でも上記に類する技術の研究報告が活発になされており,国外においても同じ方向性で研究開発が進んでいると思われる.一方,国内の研究と大きく異なる点として,MicroTAS2018では携帯型解析デバイスとマイクロ流路を統合したポータブル診断・解析デバイスの研究報告が多数見られる.例えば,回虫の感染を診断するためのスマートフォンとマイクロ流路の統合デバイスが提案されていた(15).これらのデバイスの中には,既に実際の患者に対して使用実証した例もあり,急速に実用化研究が進んでいくと考えられる.このようにバイオ・医療MEMS分野では多くの基盤技術が確立されつつあり,実用化が前進していくことが期待される.
図5-1 3軸力センサ付き把持鉗子(10)
図5-2 骨格筋組織の収縮運動で駆動するバイオハイブリッドロボット(12)
〔森本 雄矢 東京大学〕
参考文献
(1)横溝晃世, 森本雄矢, 竹内昌治, 細胞ファイバ技術を用いた3次元脂肪組織の作製, 日本機械学会第9回マイクロ・ナノ工学シンポジウム講演論文集 (2018), DOI: 10.1299/jsmemnm.2018.9.30am3PN41.
(2)鈴木果林, 板井駿, 倉科佑太, 尾上弘晃, キトサンハイドロゲルによるチューブ形状3次元培養デバイス, 日本機械学会第9回マイクロ・ナノ工学シンポジウム講演論文集 (2018),DOI: 10.1299/jsmemnm.2018.9.30am3-PN-49.
(3)深田佳祐, 倉科佑太, 尾上弘晃, ファイバ状3次元組織のための電気刺激デバイス, 日本機械学会第9回マイクロ・ナノ工学シンポジウム講演論文集 (2018), DOI: 10.1299/jsmemnm.2018.9.30am3-PN-43.
(4)坂齊史奈子, 森倉峻, 善明大樹, 尾上弘晃, 繰り返し引張刺激が筋芽細胞包含ゲルファイバの組織成熟化に与える影響, 日本機械学会第9回マイクロ・ナノ工学シンポジウム講演論文集 (2018), DOI: 10.1299/jsmemnm.2018.9.31am3-PN-117.
(5)伊藤健地, 山本貴富喜, 細菌1細胞の電気インピーダンス計測に向けた細菌1細胞トラッピングの研究, 日本機械学会第9回マイクロ・ナノ工学シンポジウム講演論文集 (2018), DOI: 10.1299/jsmemnm.2018.9.31am3-PN-121.
(6)鈴木智稀, 小森喜久夫, 木村 啓志, グルコースセンサ集積型マイクロ流体デバイスを用いた細胞動態のオンライン計測 -第二報 細胞毒性試験への応用-, 日本機械学会第9回マイクロ・ナノ工学シンポジウム講演論文集 (2018), DOI: 10.1299/jsmemnm.2018.9.31pm2-PN-110.
(7)住本芽衣, 松村大輔, 三輪佳子, 王英泰, 森泉康裕, 山西陽子, 電界誘起気泡を用いた網膜静脈閉塞症の新治療法確立のための研究, 日本機械学会第9回マイクロ・ナノ工学シンポジウム講演論文集 (2018), DOI: 10.1299/jsmemnm.2018.9.30am3-PN-45.
(8)松村大輔, 住本芽衣, 三輪佳子, 王英康, 森泉康裕, 山西陽子, 網膜静脈閉塞症治療のためのハンギングドロップ法による人工血栓作成, 日本機械学会第9回マイクロ・ナノ工学シンポジウム講演論文集 (2018), DOI: 10.1299/jsmemnm.2018.9.30pm4-PN-38.
(9)伊藤貴裕, 小屋慶彦, 三木則尚, ラットを用いた長期in vivo実験による埋め込み型人工腎臓におけるPES膜の性能評価, 日本機械学会第9回マイクロ・ナノ工学シンポジウム講演論文集 (2018), DOI: 10.1299/jsmemnm.2018.9.31am3-PN-115.
(10)中井亮仁, 下山勲, 腹腔鏡下手術における触覚情報取得のためのMEMS3軸力センサの開発, 日本機械学会第9回マイクロ・ナノ工学シンポジウム講演論文集 (2018), DOI: 10.1299/jsmemnm.2018.9.30pm4-PN-40.
(11)曾俊皓, 土屋大, 堀正峻, 土肥徹次, 生体観測のための低ノイズなMRI用マイクロコイル, 日本機械学会第9回マイクロ・ナノ工学シンポジウム講演論文集 (2018), DOI: 10.1299/jsmemnm.2018.9.01pm1-PN-151.
(12)森本雄矢, 尾上弘晃, 竹内昌治, 拮抗筋構造を有するバイオハイブリッドロボットの構築, 日本機械学会第9回マイクロ・ナノ工学シンポジウム講演論文集 (2018), DOI: 10.1299/jsmemnm.2018.9.30am3-PN-35.
(13)森大希, 尾上弘晃, チューブ型蠕動バイオアクチュエータのための骨格筋細胞の3次元配列, 日本機械学会第9回マイクロ・ナノ工学シンポジウム講演論文集 (2018), DOI: 10.1299/jsmemnm.2018.9.31am3-PN-111.
(14)平田優介, 森本雄矢, 竹内昌治, 細胞コラーゲン円柱による気相匂い物質検出, 日本機械学会第9回マイクロ・ナノ工学シンポジウム講演論文集 (2018), DOI: 10.1299/jsmemnm.2018.9.30am3-PN-39.
(15)Terry Juang, Wen-Bin Lee, Gwo-Bin Lee, DIAGNOSTICS OF INTESTINAL PARASITES USING A PORTABLE CENTRIFUGE DEVICE PAIRED WITH A SMARTPHONE-BASED MICROSCOPE, Proc. of MicroTAS2018 (2018), pp. 1753 – 1755.
23.6 IoT
IoT(Internet of Things)とは,モノ同士がインターネットを介して接続され,お互いに通信しあい情報を共有し,制御しあう概念を示す.このIoTが1999年に提唱されてから,約20年になる2019年には本格的に,その概念が実現しつつある.まさに2018年,2019年はIoT本格化の過渡期にある.今後,IoTは更に発展し,2022年~2025年には年間約一兆個のセンサが出荷されると予想されている.このような多数のセンサに囲まれた社会はTrillion Sensor Universeと呼ばれている.今後は,このセンサにおける”ムーアの法則”に従って社会が推移していくものと考えらえる.本論では,2018年,2019年初期に発表されたIoTを支えるセンサ技術,電源及び通信に関して論じる.
従来までセンサ開発はバイタルを検出するための物理センサを主体に開発が進んできた(1)(2).2016年に世界で初めてセンサの選択性を高めた汗成分のリアルタイム解析スマートデバイスが提案された(3).それ以来,電気化学反応を用いたスマートデバイスの提案(4)が研究レベルでなされてきた.2018年は更にセンサ感度を上げるためにFETを用いた電気化学センサの開発がなされている(5).また,バイオセンサの大きな括りの中では染谷らは,再生医療における組織工学と先進センサ技術を融合した超薄膜ハイブリット細胞センサを報告している(6).これらはバイオセンサをウェアラブルデバイスに実装するために,選択性と感度を従来よりも高める研究である.今後も,この傾向は続くものと考えられる.
センサの選択性と感度とともに注目されていることが電源である.センサを動作させるためにはエネルギーが必要である.2016年にNature誌を始めとするフレキシブルセンサ,スマートデバイスの研究開発において電源としてLi-Po電池を使用していた(3)(7).このようなリチウムをベースとした電池はウェアラブル端末で使用する上で発火などの危険性をはらんでいる.それを回避するためにRF-IDを始めとした非接触給電が開発されてきた(8).2018年にはNature誌で,超薄膜を使用した太陽電池の報告がなされている(9).今後,非接触給電,太陽電池,体内発電など様々な電源の研究がなされるであろう.
以上のようなセンサ,電源とともに,注目されている技術が5G(第5世代移動通信システム)である.この通信技術は2019年もしくは2020年に一般にも実用化されるであろう.5Gの特徴は,①1G/s/chの高速度,②1ms以下の超低遅延,③10万ch/100m平方の多数同時接続である.今後,ウェアラブル端末において,これだけの高速通信が必要となるかは不明であるが特筆すべきは超低遅延と多数同時接続である.1ms以下の超低遅延が実現されれば,世界中での同時セッション等エンターテインメント分野でのIoTの利用ができる.更に,多数同時接続が可能となれば2020年に開催予定の東京オリンピック会場(スタジアム)でのスムーズな通信が可能となる.次世代通信システムの5Gは,通信技術からの新たなIoTサービスを提供できる.
以上のように,IoT技術は本格化の過渡期にあり,まだまだ課題と日進月歩での発展性を秘めている.今後,社会・生活を大きく変える技術の一つとして期待できる.
参考文献
(1)B. Xu, A. Akhtar, Y. Liu et al., An Epidermal Stimulation and Sensing Platform for Sensorimotor Prosthetic Control, Management of Lower Back Exertion, and Electrical Muscle Activation, Advanced Materials, Vol. 28, No. 22 (2016), pp. 4462-4471.
(2)N. T. Tien, S. Jeon et al, A Flexible Bimodal Sensor Array for Simultaneous Sensing of Pressure and Temperature, Advanced Materials, Vol. 26, No. 5 (2014), pp. 796-804.
(3)W. Gao, S. Emaminejad, H. Y. Y. Nyein,et al, Fully-integrated wearable sensor arrays for multiplexed in-situ perspiration analysis, Nature, Vol. 529 (2016), pp. 509-514.
(4)L.-C. Tai, W. Gao, M. Chao,et al., Methylxanthine drug monitoring with wearable sweat sensors, Advanced Materials, Vol. 30, No. 23 (2018), p. 1707442.
(5)S. Nakata, M. Shiomi, Y. Fujita, et al., A wearable pH sensor with high sensitivity based on a flexible charge-coupled device, Nature Electronics, Vol. 1 (2018) pp. 596-603.
(6)S. Lee, D. Sasaki, D.Kim et al., Ultrasoft electronics to monitor dynamically pulsing cardiomyocytes, Nature Nanotechnology, Vol. 14 (2019) pp. 156.
(7)S. Emaminejad, W. Gao, E. Wu,et al. Autonomous sweat extraction and analysis applied to cystic fibrosis and glucose monitoring using a fully integrated wearable platform, Proceedings of the National Academy of Sciences, Vol. 114 (2017) pp. 4625-4630.
(8)J. Kim, P. Gutruf, A.M. Chiarelli et al., Miniaturized Battery-Free Wireless Systems for Wearable Pulse Oximetry. Advanced Functional Materials, Vol. 27 (2017) pp. 1604373.
(9)S. Park, S. Hao, W. Lee et al., Self-powered ultra-flexible electronics via nano-grating-patterned organic photovoltaics, Nature, Vol. 561, No. 7724, pp. 516–521.