Menu

機械工学年鑑2019
-機械工学の最新動向-

19. 情報・知能・精密機器

関連部門ホームページ関連部門イベント


章内目次

19.1 コンピュータ・記憶装置・記憶メディア
19.2 入出力装置
19.3 ホームエレクトロニクス機器
19.4 医療福祉機器
19.5 知能化機器
19.6 柔軟媒体ハンドリング
19.7 社会情報システム・セキュリティ
19.8 生体知覚・感覚機能の機械システム応用
19.9 IoT

 


19.1 コンピュータ・記憶装置・記憶メディア

 2018年のパソコン(PC)総出荷台数は約2億5300万台と対2017年比-0.4%の微減と昨年に続き安定傾向が見られている.
 2018年のHDD(磁気ディスク装置)の生産台数は対2017年比7%減の約3億7500万台であった.今後が期待されるニアラインHDDは,10TB以上の容量帯においてヘリウム封止HDDの比率が高まっており主な出荷先はハイパースケール・クラウド・プロバイダー向けとなっている.
 一方の8TB以下の容量帯では従来のエアHDDが一定の根強い需要を形成している.また総出荷容量は対2017年比19%増の855.3EBと前年を上回る伸び率を示しており,一台当たりの記録容量の上昇傾向が続いている.
 2018年のSSD(Solid State Drive)市場は2017年比で約37.2%増の16715万台(推定)と堅実に増大している.2016年後半から続いたNAND不足とそれにともなう価格上昇も3D NANDモデルの拡大と歩留り向上により緩和され下落傾向に転じた.
 用途別では,PC向けがもっとも多く58%を占め伸び率も最も高い.エンタープライズ向けは,映像配信などの高速,大容量コンテンツ用途として高速性へのニーズが高まっている(統計はテクノ・システム・リサーチ社による).

〔江口 健彦 (株)HGSTジャパン〕

目次に戻る


19.2 入出力装置

 「事務機械出荷実績」(1)によれば,2018年の事務機械総出荷額(一般社団法人ビジネス機械・情報システム産業協会会員企業のみの集計)は1兆4,679億円(対前年比101.6%)であった.2016年には1割近くの減少となったが,以降は,安定した実績を示しており,2018年度は対前年微増となっている.国内外別では,国内が3,534億円(同100.3%),海外が1兆145億円(同102.1%)であり,海外向け出荷の増加が国内向けの増加を上回った.複写機・複合機とページプリンタの総出荷額は,それぞれ8,843億円(98.3%)と2,000億円(100.1%)である.

 2018年は,複写機・複合機に用いられている主要な画像形成方式である電子写真技術が開発されて,80周年の節目であった.関連学会による「複写機遺産」の認定事業が創設され,第一回の2018年度は,1950~1960年代に発売された4機種が「複写機遺産」として初めての認定を受けた.

 オフィス向け出力機器として,ワークスタイルの変革や多様性に対応したカラー複合機の製品開発が継続して精力的になされている.電子写真方式のオフィス向け出力機器が主流となっている中で,インクジェット方式による製品の投入も見られた.もう一つの主力市場として注目されるデジタル印刷市場向けの製品も継続して発表がなされており,比較的低速領域向けの電子写真方式製品と,より高速領域に対応させたインクジェット方式製品の投入が相次いでいる.

 インクジェット技術を中心とする三次元造型への応用が推進されている中で,さらに経時的な構造変化など,もう一つの機能を付加した四次元造型への研究開発が活性化している.

 開発プロセスの効率化の観点では,従来の物理シミュレーションに加えて,現象を縮退モデルで表現し設計の効率化に特化した,モデルベース開発(Model Base Development)の取り組みが広がってきている.

〔中山 信行 富士ゼロックス(株)〕

参考文献

(1)事務機械出荷実績,一般社団法人ビジネス機械・情報システム産業協会

http://www.jbmia.or.jp/statistical_data/index.php (参照日2019年5月2日)

目次に戻る


19.3 ホームエレクトロニクス機器

 一般社団法人 日本電機工業会の発表によると,2018年の冷蔵庫・洗濯機・エアコンなどの白物家電の国内出荷額は,約2.4兆円,前年比104.1%となり,3年連続のプラスとなった.昨夏は全国的に気温の高い日が続き,ルームエアコン等の主要製品が好調に推移し,民生用電気機器全体では1997年以降最も高い出荷金額となった.洗濯機では,昨年同様,まとめ洗いや大物洗いへのニーズが高く,大容量化へシフトした需要となった.一方,冷蔵庫では,少人数世帯の増加もあり401L以上の大容量クラスへのシフトは落ち着きをみせている.掃除機では,「キャニスター形」の台数構成比が減少する中で,「たて形(スティック型)」の構成比が伸長している(1)

 また,モノとインターネットをつなぐIoT(Internet of Things)の普及を背景に,ユーザーの音声を命令や質問として認識することができる「スマートスピーカー」が日本市場にも続々と登場している.ホームネットワーク(家庭内の無線通信環境)にスマートスピーカーと家電製品を接続し,音声で家電製品を操作する,というような,これまでにない機能・付加価値の創出が期待されている.今後は,これらの通信可能機器と家庭内外の生活サービスを連携させるビジネスの動きがますます活発化すると予想される.

〔松井 康博 (株)日立製作所〕

参考文献

(1) 一般社団法人 日本電機工業会,民生用電気機器 2018年12月度ならびに2018年(暦年)国内出荷実績,ニュースリリース(2019-1).

目次に戻る


19.4 医療福祉機器

 ここ20年にわたり寡占状態を維持している手術ロボットda Vinci(1)は,引き続き展開し続けている.日本では2018年度の診療報酬改定にてロボット支援下内視鏡手術の保険適用が拡大したことにより,医療機関への更なる導入が進んでいる.その一方で,ポストda Vinci,もしくは新たな医療ロボットが国内外で研究開発されており注目を集めている.例えば海外企業では,内視鏡下手術支援ロボットとしてTrans Enterix社によるSenhance Surgical System(2)や,MicroSure社のマイクロサージェリーロボット(3),Titan Medical社のsingle port内視鏡手術ロボット(4),AURIS社の呼吸器外科治療支援ロボット MONARCHプラットフォーム(5),Corindus社の血管カテーテルロボットCorPath GRX(6),Googleが出資したことで有名なVerb Surgical社(7)のロボットなどの動向が注目を受けている.日本国内においては,アカデミア発ベンチャー企業としてリバーフィールド社(8),A-Traction社(9)による内視鏡下手術支援ロボット,川崎重工とシスメックスの共同出資で設立されたメディカロイド社(10)による医療用ロボットベッドや内視鏡下手術支援ロボットなどがプレゼンスを増して来ており,今後の動向に注目が集まるものと考えられる.

 既にこれまでの年鑑にて言及されている通り,手術支援ロボットの有する機械の自律度(DoA)は自動車の自動運転と比べてもまだ低く,術者や助手が行う動作を忠実に再現し手術を進める段階である.その中で,自動化や人間とのインタラクションの研究が継続的に各所で行われている.手術の自動化やHMIの研究には,生体センシング技術や環境認識,臨床的な情報を含めた多情報による機械学習・予測などの研究が重要であり,本学会の情報・知能分野においても関連研究の発表が増えて来ている.

 福祉機器開発については扱う技術分野の裾野が広く,本学会にとっても関心は高い状態である.傾向として医療機器と同様に情報センシング,知能化技術が演題として取り上げられている.例えばICT/IoTによりセンサや機器が繋がる福祉用具や,高齢者の在宅や施設での見守り技術など,センサの分散化・個別対応化によるユーザー視線にたった研究が見受けられる.

 医療福祉機器の研究動向として注意すべきことは,技術を普及させるための戦略を取るべきか否かで研究開発の方向性が大きく変わりうることである.上述で紹介したロボットの多くは医療や福祉の局所的なニーズに応えたものであるが,普及を考えた場合には,潜在的なニーズの理解・抽出,経済性や規制,品質保証その他含めたより広い視野で検討しなければならず,時には全く異なるアプローチで解決することもある.すなわち,ロボットやセンサ計測などの技術は解決手段の一つであるが医療における最適解ではないことも多い.ここ数年にわたり,スタンフォード大学バイオデザイン等の取り組み(11)や,AMED国産医療機器創出基盤整備等事業(12)などに注目が集まっている.一研究室,一企業での研究開発は技術ベースであることから,時として限界がある.このためオープンイノベーションによる取り組みや,ベンチャー企業などによる実施が必然となるものと考えられ,今後より一層それら包括的なデザインを意識した研究開発が増えるであろう.

〔正宗 賢 東京女子医科大学〕

参考文献

(参照日は全て2019年5月20日)
(1)Intuitive Surgical社 https://www.intuitive.com/
(2)Senhance社 https://www.senhance.com/
(3)Microsure社 http://microsure.nl/
(4)Titan medical社 https://titanmedicalinc.com/technology/
(5)Auris Health社 https://www.aurishealth.com/monarch-platform/
(6)CORINDUS社 https://www.corindus.com/
(7)VERB surgical 社 https://www.verbsurgical.com/
(8)リバーフィールド社 https://www.riverfieldinc.com/
(9)A-Traction社 https://www.a-traction.co.jp/
(10)メディカロイド社 http://www.medicaroid.com/
(11)ジャパンバイオデザイン http://www.jamti.or.jp/
(12)AMED国産医療機器創出基盤整備等事業 https://www.amed.go.jp/program/list/02/01/003.html

目次に戻る


19.5 知能化機器

 近年,人工知能技術を各種機器へ応用し,潜在的価値を高めるべく研究開発が行われている.特に深層学習に代表される教師あり機械学習では,識別および予測の2つのアプローチを軸として,それぞれ発展している.

 識別については,Convolution Neural Network:CNNを中心に画像認識技術の精度が向上している.さらに,学習データの充実や学習対象の大幅な拡大により,多岐にわたる物体に対する識別が可能となりつつある.しかし,フレーム問題に代表されるように,世の中あらゆる事象をすべてデータベース化することは不可能である.特に,学習対象の抽象度の設定は今後の課題である.例えば,猫の識別において,オス猫かメス猫かを見分ける,猫の年齢推定,健康か病気かの判断,などを実現したければ,それぞれ用途に応じた多数の学習データセットが必要となる.このように,人工知能技術を機器制御に応用する際には,その用途に応じた学習対象の抽象度設計が必要となる.

 また,Generative Adversarial Networks:GAN(敵対的生成ネットワーク)が注目を集めている(1).これはGenerator(生成器)とDiscriminator(識別器)の2種類のネットワークを競合的に学習することで,サンプル画像にインスパイアされた着色パターンの生成や,架空の画像生成を可能とするものである.実際にGAN学習を成功させるためには,種々のパラメータ調整など課題も多い一方,その汎用性の高さから幅広い分野への応用が期待される技術である.

 機械学習による時系列予測については,Recurrent Neural Network(再帰的ニューラルネットワーク)の一種であるLong Short-Term Memory:LSTM(2)が幅広い分野に応用され,その有用性が認められている.人間の有する短期記憶,長期記憶をモデル化したLSTMは,音声認識や翻訳など,すでに実用化されつつある.また,TensorFlowやPyTorchなどの人工知能フレームワーク(フリーの人工知能プログラミングライブラリ)に標準で組み込まれており,今後の導入事例の増加が見込まれる技術である.

 知能化機器は,日進月歩で発展を続ける人工知能技術を導入することで,ソフトウェアを中心とする比較的低コストで製品価値を高めるポテンシャルを有している.現状の人工知能技術には,学習データセットの準備や経験に基づくチューニングの必要性などの問題を抱えている.一方,用途を限定し,適切な設計を施すことができれば,様々な製品に応用可能である.

〔五十嵐 洋 東京電機大学〕

参考文献

(1)Ian J. Goodfellow, et al.: Generative Adversarial Nets, Advances in Neural Information Processing Systems 27 (2014), pp. 2672-2680.

(2)F.A. Gers, et al.: Learning to forget: continual prediction with LSTM, 9th International Conference on Artificial Neural Networks: ICANN ’99(1999), pp. 850–855.

目次に戻る


19.6 柔軟媒体ハンドリング

 インターネットの高速・大容量化と情報端末装置の小型化の進展,そして環境問題に関連したペーパーレスへの取り組みなどより,日常生活において紙媒体を使用することは年々減少しつつある.このような状況に対応して,紙媒体やフィルムなどを取り扱う柔軟媒体ハンドリングの研究や技術開発の取り組みは,柔軟媒体のハンドリングを活用した新たな展開への取り組みと従来技術の一層の深化への取り組みの二つが主流となっている.新たな展開の具体的な内容は,2016年5月の日本機械学会誌(1)に記載された五つの技術的ブレークスルーに関係する,①印刷技術を用いて電気回路やセンサなどを製造するプリンティッドエレクトロニクス(PE)に関する研究,②より薄いフィルムを高信頼に取り扱う技術に関する研究,③冊子類の取扱いに関する研究,④高分子ナノシートといった医療応用の分野に向けた研究などである.

 このような状況を反映し,2018年に開催された機械学会の柔軟媒体ハンドリング分野の講演会でも,印刷プロセスを用いたデバイスの開発や柔軟媒体の高度なハンドリングに関する発表が大きな割合を占め,ロール・ツー・ロールと印刷技術を利用した圧力センサやナノシート創生に関する事例(2)(3),フィルム製品の生産性の低下をもたらすフラッタ発生を抑制する研究事例(4)などが発表された.また従来の柔軟媒体ハンドリングに関係する内容として,紙媒体の搬送の信頼性に大きく関係するゴムローラへの紙粉付着の影響に関する研究事例(5)なども報告された.その一方で,カット紙に関する研究報告は1件(6)のみであり,カット紙や帳票類を取り扱うプリンタ複写機などに関する研究が減少していることが窺われる.またカット紙や長尺ウェブなどの変形やシワといった柔軟媒体そのものに関する研究事例も見られず,柔軟媒体ハンドリングに関する基礎的な研究も減少していると考えられる.

 柔軟媒体ハンドリング技術は今後のIoT社会を支えるコア技術の一つになる可能性が大きく,さらに薄く,長く,広いフィルムを高信頼に取り扱うハンドリング技術を実現する必要がある.そのためにも,柔軟媒体ハンドリングを用いた応用分野の研究だけでなく,摩擦や媒体のシワといった従来からの課題に対する基礎的な研究と,これら課題を解決する新たなブレークスルー技術の開発が必要と考える.

〔吉田 和司 山陽小野田市立山口東京理科大学〕

参考文献

(1)日本機械学会誌,Vol.119,No.1170(2016),pp.87. DOI: 10.1299/jsmemag.119.1170_319

(2)[№18-1]池田祐太,橋本巨,砂見雄太,ロール・ツー・ロール印刷技術を用いたフレキシブルデバイス作製の基礎検討,日本機械学会2018年度年次大会講演論文集(2018年), DOI: 10.1299/jsmemecj.2018.S1620001.

(3)[№18-1]田島伸一,橋本巨,砂見雄太,高分子超薄膜の高機能化に関する検討,日本機械学会2018年度年次大会講演論文集(2018年), DOI: 10.1299/jsmemecj.2018.S1620003.

(4)[№18-1]高橋輝,渡辺昌宏,廣明慶一,武田真和,ノズルからの流体吹出し吸込みによるシートフラッタの非接触アクティブ制振,日本機械学会2018年度年次大会講演論文集(2018年), DOI: 10.1299/jsmemecj.S1620002.

(5)[№18-1]月山陽介,淺田岬,佐藤陽平,新田勇,ローラ摩擦式紙粉検出法による紙粉の良し悪しの評価,日本機械学会2018年度年次大会講演論文集(2018年), DOI: 10.1299/jsmemecj.S1620004.

(6)[№18-9]北内大介,宮坂徹,速度の異なるローラ間搬送時の紙姿勢の基礎検討,IIP2018情報・知能・精密機器部門(IIP部門)講演会 講演論文集(2018年), DOI: 10.1299/jsmeiip.2018.2B02_1.

目次に戻る


19.7 社会情報システム・セキュリティ

 加速する企業,社会におけるデジタル変革への拡大投資を背景に,ビッグデータ・IoT市場が成長を続けている.業界別には,製造業における投資が最も拡大しており,これまで独自技術によって比較的クローズドな環境で運用されてきた制御システム領域において,IT技術を活用し,製造工程やサポート,製品自体の高度化,付加価値をめざす動きが活発化している.セキュリティ市場が大きく拡大するポイントとして,IoT化の進展によってインターネットに接続されるデバイスが増加すること,OSやプラットフォーム,コネクティビティ,アプリケーションなどの領域におけるオープンな汎用技術の活用拡大による,セキュリティリスクの増加が背景としてある(表7-1).こうしたニーズに支えられて,セキュリティサービス・製品の市場規模は,2017年度に4,471億円,2022年度に5,735億円と予測されている(1)

 社会情報システムや産業制御システムをおびやかすようなサイバーセキュリティのインシデントは,2018年は大きな事案はなかったと言われる(2).2017年に世界的な被害となった,身代金要求型マルウェア「WannaCry」騒動のインパクトが大きすぎたためと見られる.そのWannaCryの亜種は2018年にも引き続き被害を出しており,8月には台湾の半導体受託生産の世界最大手の主力工場が6日にわたり生産を一時停止した.工場停止の原因は,セキュリティパッチ未適用の端末を運用していたためであった(3)

 政府のサイバーセキュリティに関する予算は,2017年に598.9億円から,2018年に727.5億円に増加した(4).2020年オリンピック・パラリンピックに向けた態勢の整備や,サイバーセキュリティに関する情報の収集・分析機能の強化が進められている.さらに「Society 5.0」「Connected Industries」へ向けてサイバー空間とフィジカル空間の高度な融合に伴い,サイバー攻撃の起点が増大するとともに,複雑につながるサプライチェーンを通じてサイバーリスクの範囲拡大が懸念される.そのため経済産業省は産業に求められるセキュリティ対策の全体像を整理した「サイバー・フィジカル・セキュリティ対策フレームワーク」を策定した(5)(6).とくに産業分野別の強化策として,エレベータや空調など多くの制御系機器を有するビルシステムに関するサイバーセキュリティ対策のガイドラインを取りまとめた(7)

 

表7-1 IoT化の業界別動向とセキュリティリスク

業界 IoT化の動向 IoT関連リスク
自動車 ・車載センサ,ソフトウェア,通信モジュールを活用した運転制御の高度化
・コネクティッドカー
・インフォテインメント
・不正操作,不正プログラム埋め込みによる自動車事故
・車載コントローラ間,社外通信を経由した情報搾取,情報改ざん,不正操作
・攻撃者によるターゲットとしての関心が高い
社会インフラ ・IoTを活用した設備保全
・スマートグリッド
・ビッグデータ,AIの活用
・パブリックセーフティ,災害のIoT監視
・重要インフラの停止,不正操作による事故など,生活や人命に関するリスクが高い
・攻撃者によるターゲットとしての関心が高い
製造 ・スマートファクトリ
・スマート製造
・人と一緒に働く協働ロボット
・製品にセキュリティインシデントがあった際の,製造メーカとしてのIoTリスクや責任の増加
・製造,生産ラインの停止による損失
ホームネットワーク ・宅内機器の遠隔操作およびデータ連携
・ウェアラブルヘルスケア
・IoTによる見守り,在宅医療
・宅内機器環境の最適化
・個人情報の搾取,漏えい
・ボット化による攻撃加担(分散型サービス提供不能攻撃)の踏み台

〔甲斐 賢 (株)日立製作所〕

参考文献

(1)株式会社富士キメラ総研,2018ネットワークセキュリティビジネス調査総覧(2018年10月)

(2)宮地利雄,制御システム・セキュリティの現在と展望~この1年間を振り返って~,制御システムセキュリティカンファレンス2019, https://www.jpcert.or.jp/event/ics-conference2019.html (参照日2019年4月2日)

(3)piyolog, TSMCのWannaCry被害についてまとめてみた,

https://piyolog.hatenadiary.jp/entry/20180807/1533667250 (参照日2019年4月2日)

(4)内閣官房サイバーセキュリティセンター, 政府のサイバーセキュリティに関する予算, https://www.nisc.go.jp/active/kihon/pdf/yosan2018.pdf (参照日2019年4月2日)

(5)奥家 敏和,サプライチェーンサイバーセキュリティの強化に向けて -サイバー・フィジカル・セキュリティ対策フレームワークの策定-,情報処理 Vol.59 No.12(2018年) pp.1084-1089.

(6)経済産業省,「サイバー・フィジカル・セキュリティ対策フレームワーク(案)」に対する意見公募結果を取りまとめました, https://www.meti.go.jp/press/2018/10/20181001004/20181001004.html (参照日2019年4月2日)

(7)経済産業省,「ビルシステムにおけるサイバー・フィジカル・セキュリティ対策ガイドライン(β版)」を取りまとめました, https://www.meti.go.jp/press/2018/09/20180903003/20180903003.html (参照日2019年4月2日)

目次に戻る


19.8 生体知覚・感覚機能の機械システム応用

 生体知覚や感覚機能といった生理的特性に関する知見を機械システム設計に利用する枠組みとしては,主に2つが考えられる.

 1つ目は,生体知覚や感覚機能の根本的な生体原理を究明し,本質的な構造を解明することにより,その構造の一部分を等価構造として機械システムに応用する方法である.具体的には,生体知覚構造などの生理的機能の原理分析から得られた知見をセンサの構造やアクチュエータの設計に取り入れ,従来の方法論では実現が難しかった課題を解決しようとする.バイオミメティック分野など機械システム設計上の新しい気づきを与えてくれる枠組みである.たとえば,大岡ら(1)のベルベット錯触の発生メカニズムを解析し,小村ら(2)が錯触を与えるための物理的条件を特定する一連の研究の流れは,上記の視点から機械システムを設計していく好例である.

 2つ目は,生体知覚や感覚機能に関する生理的な検討によって得られた各機能の入出力関係を非解析的に模擬して機械システムに適用しようとする方法である.この方法の延長上に機械学習やDeep Learning手法といった機械システムの入出力関係を自己組織的に獲得するための手段が存在する.こうした方法論は,陽に生体の仕組みや機序といった解析的な分析を行わず,生体知覚などの入力と出力の関係をブラックボックスとして扱う.これにより,解析的に扱いにくい生理的な入出力関係を従来の機械システム設計方法論で扱う際に生ずる多くの課題を回避して,機械システムとしての挙動を実現する事ができる.たとえば,森岡ら(3)は,物体ごとに最適な把持を行うことができる義手の開発のために,ニューラルネットワークを用いて把持形態の分類を行い.義手の設計指針を明かにしている.もちろん機械学習などによって形成された入力と出力の関係概念を解析的に解釈し,従来まで気が付かなかった入出力関係を間接的に気付く場合もあるが,入力と出力の関係を帰納的に同定する手法としては,新しい方法論である.

 上記の2つのアプローチは,一見相反するように見えるが,機械システムの実現という実現化問題の元では,意外と親和性の高い側面を持つ.たとえば,前者の方法は,機械システムのハードウエア設計のための指針として期待され,後者は,機械システム制御のアルゴリズム設計のフレームワークの一つとして期待される.よって,人間の生体知覚や感覚特性を考慮した機械システムの設計には重要な2つのアプローチとなる.

 ただ,ここで重要なのは,上記のようなプロセスで設計された機械システムの信頼性や強靭性(対脆弱性)をどのように担保するかという問題である.1つ目のアプローチは,従来の機械工学の設計論の延長上にあり,機械システムに含まれるセンサやアクチュエータといったデバイス挙動の動作保証などが決定論的に評価でき,機械としての信頼性を予測することができる.一方,2つ目のアプローチにおいて入力と出力の関係が解析的モデルで規定されない場合,従来の機械システムとしてどのような挙動を示すかを予測することが難しくなる.もちろん,実際の機械システムにおいては,異常動作を検出するブロックやセンシングやアクチュエーションの動作範囲を制限する上位層のリミッタ機能を持つアルゴリズムにより,機械システム全体としての挙動の安全性は保証されていると考えることはできる.しかし,なぜ,そうなったのかの根本的な原因が陽に扱われないまま,リミット装置で制限される機械システムの信頼性は危ういかもしれない.その意味で,機械システムにおける生体知覚や感覚特性の適用指針としては,実世界で利用するための信頼性や対脆弱性をいかに解決していくかが重要な実現化の課題となる.

〔高橋 宏 湘南工科大学〕

参考文献

(1)大岡昌博,三井雄介,小村啓,ポケットNIRSによるベルベット錯触の発生メカニズムの解明,日本機械学会2018年次大会,(2018),  DOI: 10.1299/jsmemecj.2018.J1620001.

(2)小村啓,大岡昌博,ベルベットハンドイリュージョンを生起する2本の平行線の刺激条件について,日本機械学会2018年次大会,(2018),DOI: 10.1299/jsmemecj.2018.J1620003.

(3)森岡大輔,北山一郎,川村美雪,長嶺健,辻野一輝,ニューラルネットワークを用いた把持形態の分類,日本機械学会2018年次大会,(2018), DOI: 10.1299/jsmemecj.2018.J1130001.

目次に戻る


19.9 IoT

 あらゆるモノをインターネットに接続し,新しいサービスを創造,提供するIoT(Internet of Things)技術が注目を集めている.特にIoT技術はデジタル技術を基礎とする第四次産業革命の中核技術の一つに挙げられており,将来の社会を変革する大きな原動力となる可能性を有している.近年では特にスマートフォンに代表される携帯情報端末の普及に伴い,多くの情報を手元で取得,コントロールできる環境が確立され,従来はヒトを繋ぐコミュニケーションツールであったインターネットが,将来的にはあらゆるモノから有用なデータを取り出し,その情報を活用・制御する技術環境が整備されることで,特にSustainable Development Goals(SDGs:持続可能な開発目標)を実現するための技術として期待されている.一方,IoT技術そのものの定義についてはまだ明確な定義がなく,その技術分野や要素技術については今後実用化が進むにつれ変化していく可能性があるが,一般的に以下の階層に分類することができる(1)

  • 機能性デバイス:マイクロセンサ,センサノード,駆動電源
  • ネットワーク:インターネット,無線通信,データストレージ,クラウド
  • データ分析:ビッグデータ,人工知能(AI),情報セキュリティ
  • アプリケーション:IoT応用プロダクト,サービス

 近年のAI技術の進展,およびビッグデータやクラウドコンピューティングの利用拡大により,情報処理分野におけるIoTのコア技術が近年急速に進展してきた.この技術を従来からある各種家電製品,自動車をはじめとする交通技術,建築物等に導入することで,ライフスタイルに直接関係するサービス・プロダクトの革新が期待されている他,製造プロセスや流通等の効率化,低コスト化においても大きく寄与すると予想されている.

 機械工学と特に関連の深い分野として,センサやアクチュエータ等の機能性デバイスの技術分野が挙げられる.特に無線通信機能を実装したセンサ素子(センサノード)の開発に加え,多数のセンサノードを駆動するための電力源として環境発電(エナジーハーベスト)技術の実現が求められており(2),自立駆動可能な機能性マイクロセンサ技術の進展はIoTの全体像を左右する重要なIoT基盤技術と位置づけられる.

 以上,IoT技術は現在最も注目されている技術イノベーションとして世界的な技術開発競争が繰り広げられており,その標準化,デファクト化に向けて活発化している.個別の要素技術の性能向上のみではなく最終的なサービス・製品形態,また各技術階層との整合性を意識することが必要となる.特に情報セキュリティやプライバシーについてその重要度が増すと予想され,体系的な技術開発が今後求められる.

〔神野 伊策 神戸大学〕

参考文献

(1)神野伊策,特集「機械工学が拓くIoT技術」,日本機械学会誌, Vol.121, No.1201 (2018), pp.4–5. DOI: 10.1299/jsmemag.121.1201_4.

(2)神野伊策,谷 弘詞,橋口 原,IoT電源としての振動発電技術,日本機械学会誌, Vol.121, No.1201 (2018), pp.22–25. DOI: 10.1299/jsmemag.121.1201_22.

目次に戻る