18. ロボティクス・メカトロニクス
18.1 総論
18.2 World Robot Summitの状況
18.3 産業分野
18.3.1 市況/18.3.2 トピック/18.3.3 技術動向/18.3.4 研究動向/18.3.5 各国国策動向/18.3.6 まとめ
18.4 サービス分野
18.5 土木・建築分野
18.5.1 背景/18.5.2 土木工事/18.5.3 建築工事/18.5.4 インフラ点検
18.6 農業分野
18.7 注目技術動向
18.8 ImPACTタフ・ロボティクス・チャレンジの成果
18.9 ロボット関連プロジェクトの動向
18.1 総論
ロボティクス・メカトロニクス技術は,現代の機械を構成する重要な技術として発展してきており,ものづくり分野のみならず,さまざまな分野の機械・システムに適用されて,機能の向上に貢献している.特に,2014年に開催された「ロボット革命実現会議」により2015年「ロボット新戦略」(1)が発行され,ロボティクス・メカトロニクスを適用した産業発展を目指す政策が立案された.この政策を反映して「ロボット革命イニシアチブ」が5か年の計画でスタートし,2018年は4年目にあたることから,これまで取り組まれてきたさまざまな成果が得られ始めてきている.そこで,イノベーションにつながる活動と各産業分野での実用化を中心に紹介する.
まず,「ロボット革命イニシアチブ」の活動の一つとしてイノベーション創出を目指し,2020年に開催を計画しているロボット競演会であるWorld Robot Summitのプレ大会が2018年に東京で開催された.2018年のプレ大会の結果および2020年本大会に向けての概況を紹介いただいた.
次に,「産業分野」,「サービス分野」,「土木・建設分野」,「農業分野」といった多岐に渡る分野でのロボティクス・メカトロニクス技術やIoT技術を利用した応用製品は,工場内だけでなく,屋内外のさまざまな場面に広がっている.これらの最新の技術動向などについて紹介する.
一方,本部門での最も大きなイベントである部門講演会ROBOMECHでは,「地方から創生するロボティクス・メカトロニクス」をテーマに約1,300件の最新技術の発表と約2,000人の参加者で開催された.この中での注目技術を紹介する.
各種政策により,大型プロジェクトが推進されてきたが,2018年度で主なものが終了した.その中でも,ImPACT「タフロボティクス・チャレンジ」では,数多くの世界最高レベルの技術が開発され,イノベーションを産み出す基礎ができてきたことから,開発された技術を紹介いただく.最後に,この数年は多くのプロジェクトが立ち上がったが,大型のプロジェクトが2018年度で終了したこともあり,これまでのプロジェクトの動向と今後の課題について紹介する.
日本では,2014年から盛り上がってきた各種開発は,かなりの成果を出してきた.これからは,実用化段階での実証を通して実際の社会に組み込むことが必要となるが,多くのプロジェクトが終了しており,これまでの勢いをいっそう加速するようなさまざまな取り組みが必要である時期に来ている.
〔村上 弘記 (株)IHI〕
参考文献
(1)ロボット新戦略,日本経済再生本部,2015年2月10日 https://www.kantei.go.jp/jp/singi/robot/pdf/senryaku.pdf (参照日2019年7月22日)
18.2 World Robot Summitの状況
World Robot Summit(WRS)は,世界のエクセレンスを集めて開催されるロボット競演会であり,ロボット競技会(World Robot Challenge:WRC)とロボット展示会(World Robot Expo:WRE)の統合イベントである.そのプレ大会であるWorld Robot Summit2018が,10月17日〜21日に東京ビッグサイトで,リアルな日々の生活や学校生活,社会,産業分野でのロボットの研究開発と社会実装を加速させることを目的として,8万人の参加者を得て,次のように開催された(1).
1)競技会(WRC)は,ものづくり,サービス,インフラ・災害対応,ジュニアの4つのカテゴリーにおける9種目で企画され,23力国・地域126チームが参加し,多様な技術やアイデアが出される技術加速の場となった.
2)展示会(WRE)は,一般企業・大学生・研究機関等が出展・展示を行う一般出展エリアで,ロボット導入の事例を世界へ発信した.また,国内の自治体による地域でのロボッ卜の社会実装の先進的な事例を紹介する実証サイト見学(地域展示)を実施した.また,世界各国の有識者や関係者による国際フォーラムや協賛企業によるプレゼンテーション,ワークショップを開催するとともに,参加型,体験型のサイドイベントも実施した.
結果的に,94社・団体が出展し,5日間にわたる国内外のロボット関連の有識者が登壇する講演や実演企画により,さらに7地域と自治体(愛知県,大阪府・大阪市,神奈川県,福島県,北九州市,相模原市,千葉市)が参加する地域展示を介して,ロポットの現在と未来や,その社会実装の姿を発信することができた.
1960年代から追求されてきたロボット技術は,現在,あるレベルを達成した成熟時期を迎えている.そこでは,技術の組み合わせが,新しい価値を生む.衆知を集めるチャレンジは,ロボットイノベーション(ロボットによる社会変革)の重要な手段となっている(2).また,衆目にロボット技術を披露するエクスポは,ロボットの社会普及を加速する.このことからWRSは,ロボットの社会実装(ロボットの技術や社会変革)の加速手段として位置づけられ,技術飛躍加速力,社会実装加速力,国際性,社会訴求力・発信力,継続性,人材育成性を備えた競技や展示を基本とする競演会とする方針のもと,経産省とNEDOにより推進されているものである(3).
今回のWRS2018(4)の経験をふまえ,本大会となるWorld Robot Summit 2020を,2020年8月と10月に福島ロボットテストフィールドと愛知県国際展示場でそれぞれ開催することとして,準備がすすめられつつある.
参考文献
(1)日本ロボット学会誌Vol.37,No.3,“特集:World Robot Summit2018”, Apr.2019
(2)Jim Pippine, Jessse Straus, Johanna Spangenberg-Jones and MAJ Chris Orlowski,” DARPA Robotics Challenge:Ten Years of Lessons Learned Put to Action”
(3) ロボット新戦略, http://www.kantei.go.jp/jp/singi/robot/pdf/senryaku.pdf
(4)World Robot Summit, http://worldrobotsummit.org/
18.3 産業分野
18.3.1 市況
2018年も産業用ロボット市場は活況であった.国際ロボット連盟(IFR:International Federation of Robotics)(1)の年次統計によれば,2009年のリーマンショック以降,2012年にやや落ち込むものの,2017年に至るまで産業用ロボットの出荷台数は増え続けている.なかでもアジア/オーストラリアへの出荷が2次曲線的に増加している(2).同資料本文には,とりわけ中華人民共和国への出荷シェアが2016年に30%,2017年に36%と顕著な伸びを示したことを述べており,The China Robot Industry Allianceからの報告によれば2017年の約137,900台のうち約34,700台が国内産で,この割合は年々増加中とのことである.IFRは今後2021年に至るまで年率平均14%の伸長を予測している(3).一方,2018年の半ば以降,表面的には追加関税の応酬に端を発する中国経済の急減速が伝えられており,今後の動向は注視する必要がある.一方,多分野からの自動化ニーズを受け,マニピュレータ型以外の業務向けサービスロボットも売上ベースで30%台の年次伸長を見せている.例えば物流,医療手術,搾乳に代表される農業などの伸びが特筆される(4).以下,2018年のトピックを列挙する.
18.3.2 トピック
2018年5月にはロボット・セーフティアセッサ資格の認証制度が発足し,同7月に第1回試験が行われた.この制度はセーフティグローバル推進機構が設立し(5),日本認証株式会社が制度運用委託を受けて実施している(6).既に2回の試験が実施され,263名の合格者を有する(7).同制度は需要の拡大する産業用ロボットを,事故無く安全に使うためのリスクアセスメントやリスク低減手法の啓発を目的とする.近年高まりを見せる協働ロボットの動向ともマッチし,そのグルーバル展開が期待されている(8).
2018年7月には日本ロボット工業会の中に,FA・ロボットシステムインテグレータ協会(SIer協会と略)が発足した(9).これまで産業用ロボットを用いてエンドユーザの現場に合目的のシステムを構築する企業の存在がよくは知られておらず,国内の同業者数の把握も正確にはできていなかったところ,業界の共通基盤組織として連携を促進し,事業環境および能力強化による産業競争力維持発展の明確化を期して組織された.現在,会員148社,協力会員39社が集う.これに先立つ動きとして経済産業省のロボット導入実証事業(10)と連動する情報WWWサイト「ロボット活用ナビ」(11)が設置されている.これはエンドユーザとSIer企業を有機的に結びつけることが狙いである.
18.3.3 技術動向
やはりIoTの利活用,深層学習に代表されるAIの応用について事例が増加している.いわゆるキラーアプリが登場すること無く静かに着実に広がっていく気配となっている.現場で発生する大量のデータをもとに製品のライフサイクルサポートを実現するという,永らく語られてきた常套句が,IoT技術の深化と利便性の向上が相まってセキュリティやコストの面の目途も立ち,ようやく実現し始めた.協働ロボットについては世界中で専業ベンチャーが起業し,既存メーカ製を含め多数の新製品が発表されるようになった.こちらは適材適所で普及が進んでいるようである.なお,2018年10月はじめに,協働ロボットのRethink Robotics社が事業閉鎖を発表したが,はやくも同月末には独HAHNグループが同社を買い取って,ロボット部門(システムインテグレーション,レンタルリースなど)の傘下に収めた(12).
またエンドユーザの生産現場の自動化に対する複雑なニーズをそのままコンテスト化する動きが増加し,Amazon Robotics ChallengeやAirbus Shop Floor Challengeなどが開催されたが2018年には収束し,その後の議論と活動の中心は国際会議・展示会などに移っている.2018年に中華人民共和国のWorld Robot Conferenceにおいて製造業向けの協働ロボットの競技会が始まっているとのことであるがWWWサイト以上の情報がなく現在調査中である.
18.3.4 研究動向
学術サイドでは,このところロボットシステムの性能・機能を比較するため,ベンチマーク,あるいはメトリックと呼ばれる評価指標の創出が世界的に話題になっている.これは,これまでの産業ロボットでは,例えば米Adept社がはじめて使ったロボット速度の指標(アデプトサイクルと呼ばれていた.ロボット手先が25mm上昇→305mm水平移動→25mm下降する軌道を一往復するのに要する時間,または1分間に何往復できるかの値)など,単純な性能を比較する指標が用いられていたのに対し,昨今の自動化アプリケーションに必要な速度などの性能がどのロボットでも満たされる時代になると,もはやその優劣は,最終的に実現したいソリューションの比較としては意味がなくなってしまったことに起因する.ベンチマークに関する一連の動きは日本語で書かれた参考文献(13)に,よくまとまっている.
さらに付け加えるなら,ロボット化困難作業の同定と評価基準の策定に関する米NIST(National Institute of Standards and Technology:アメリカ国立標準技術研究所)のManipulation and Mobility Systems Groupの活動(14),特に典型的なロボット化困難作業をひとまとめに試験可能なタスクボード(15)の提案が特筆される.および,そもそも製造業向けのロボットシステムに求める究極のニーズとして,瞬間的な生産対象機種切り替えや,その際の自身の機材の無駄のない100%使い回しについて,自動車の自動走行レベル表に模したレベル化を試み,高レベルの実現にチャレンジする競技会として,経済産業省World Robot Summitのものづくりカテゴリー競技がある(16).同競技委員会コアメンバーは上述のNISTメンバーとも議論し彼らの成果をルールに取り入れ,かつNISTメンバーが競技審判として競技会に参加している.文献(16)には上述の究極のレベル表が例示されている.
18.3.5 各国国策動向
最後に,各国国策に関するトピックに触れる.欧州では製造業向けの産官学連携による課題解決プロジェクトが連綿と継続中である.ロボティクス・メカトロニクスを含むHorizon2020が規模を拡大しつつあり,日本からも一定の条件を満たすことで参画可能である.
米トランプ政権は製造業国内回帰を強力に主張しており,政財界や産業界,学術界からの新たなロボット開発活用施策の提言が繰り返し行われてプロジェクト化している.実はオバマ政権のときから始まったManufacturing USAプロジェクトも多くのサブプロジェクトを抱えながら進行中である.これらのなかには若手人材教育も含まれている.一連の事情は例えば文献(17)に詳しく解説されているので参照されたい.
中華人民共和国は産業政策「中国製造2025」を推進中である.先に述べた米国の追加関税は同政策の不公平感からその重点推進項目を狙い撃ちにしたとの説もある.
18.3.6 まとめ
以上をまとめると2018年は産業用ロボットビジネスの好調が継続しているが伸長には不安材料が見えてきた,産業用ロボットシステムにとっていくつかの特筆事項が発生している.ということになる.これらの動きが良い方向に変曲点を迎えれば,後年2018年が産業用ロボット新元年と呼ばれる可能性があり,過酷な高速グローバル競争のなかで日本がこれらの流れをリードできるかどうか,ロボット技術者・研究者は傍観している暇はない.
〔野田 哲男 大阪工業大学〕
参考文献
(1)国際ロボット連盟 International federation of Robotics https://ifr.org/ (参照日2019年5月21日)
(2)https://ifr.org/downloads/press2018/Executive_Summary_WR_2018_Industrial_Robots.pdf (参照日2019年5月21日)
(3)IFRの市場予測(スライド6枚目) https://ifr.org/downloads/press2018/WR_Presentation_Industry_and_Service_Robots_rev_5_12_18.pdf (参照日2019年5月21日)
(4)IFRの業務用サービスロボット市場の伸び(スライド19枚目以降) https://ifr.org/downloads/press2018/WR_Presentation_Industry_and_Service_Robots_rev_5_12_18.pdf (参照日2019年5月21日)
(5)セーフティグローバル推進機構 ロボット・セーフティアセッサ資格認証制度 http://institute-gsafety.com/robot/ (参照日2019年5月21日)
(6)日本認証機構 ロボット・セーフティアセッサについて https://www.japan-certification.com/certifying-examination/robot-saftiasessa/about/ (参照日2019年5月21日)
(7)日本認証機構のニュースページ https://www.japan-certification.com/news/ (参照日2019年5月21日)
(8)日本認証機構 国内・海外の資格保有者数 https://www.japan-certification.com/certifying-examination/qualification_transition/ (参照日2019年5月21日)
(9)FA・ロボットシステムインテグレータ協会WWWサイト http://www.farobotsier.com/ (参照日2019年5月21日)
(10)経済産業省 ロボット導入実証事業 http://www.robo-navi.com/intro.html (参照日2019年5月21日)
(11)ロボット活用ナビ(情報WWWサイト) http://www.robo-navi.com/ (参照日2019年5月21日)
(12)独HAHNグループによるRethink社の買収 https://www.hahn.group/en/news/detail/news/detail/News/rethink-robotics-meets-german-engineering/ (参照日2019年5月21日)
(13)山本知幸, ロボットのタスクレベルパフォーマンスを評価するベンチマーク手法を求めて, 日本ロボット学会誌, 2019, 37 巻, 3 号, p. 243-247, 公開日 2019/04/18, Online ISSN 1884-7145, Print ISSN 0289-1824, DOI: 10.7210/jrsj.37.243, (2019)
(14)米NISTのManipulation and Mobility Systems Group https://www.nist.gov/el/intelligent-systems-division-73500/manipulation-and-mobility-systems-group
(15)米NISTのAssembly Performance Metrics and Test Methodsにおける「タスクボード」の例 https://www.nist.gov/el/intelligent-systems-division-73500/robotic-grasping-and-manipulation-assembly/assembly(参照日2019年5月21日)
(16)横小路泰義, 河井良浩, 柴田瑞穂, 相山康道, 琴坂信哉, 植村渉, 野田哲男, 土橋宏規, 阪口健, 横井一仁, World Robot Summit 2018 ものづくりカテゴリー競技 「製品組立チャレンジ」の概要, 日本ロボット学会誌, 2019, 37 巻, 3 号, p. 208-217, 公開日 2019/04/18, Online ISSN 1884-7145, Print ISSN 0289-1824, DOI: 10.7210/jrsj.37.208,
(17)特集―欧米を中心とした世界のロボット事情,機関紙ロボット, No.248, May, 2019, 日本ロボット工業会, (2019)
18.4 サービス分野
2018年10月18日に国際ロボット連盟が発表した「2018年度World Robotics Report」(1)によると,2017年のサービスロボットの世界売上高は39%増の66億米ドルに達し,販売台数も85%増加したとしている.特に物流システムへの導入が大きく,無人搬送車(AGV)が,製造分野において6,700台,非製造分野において62,200台が導入された(2016年度比138%増).また,エンターテイメントロボットなどの個人用サービスロボットの販売台数は,25%増の850万台,掃除や芝刈りなどの家庭用ロボットは,31%増の610万台が販売され,今後も順調に増加すると見込まれている.日本では,経済産業省の「ロボット産業市場動向調査結果」(2)によると,サービス分野における将来の市場規模は2020年には1兆円(全体の36%)となり,2025年に2.6兆円(同50%)になると予測されている.このように,サービスロボットへの期待が高まる中,IDC Japan 株式会社が2018年8月22日に発表した「国内サービスロボット/ドローンユーザー利用動向調査結果」(3)によると,サービスロボットの活用領域は,受付/案内/接客が34.8%で最も高く,顧客と対話するコミュニケーションロボットの需要が高く,工場内搬送と検査/点検/補修が30%,倉庫内搬送が27%,警備/監視が22%と続く.
現在,人材不足を補うためや業務の高コスト構造の改善のために,ロボットの導入の重要性が示唆されている.人材不足を補うためには,定型的なホワイトカラー業務をロボットによって置き換えるRPA(Robotic Process Automation)による無人化が進みつつある.一方,業務の高コスト構造を改善するために,業務を行うロボットだけでなく,機能(サービス)を提供する制御用ソフトウェアをクラウド経由で貸し出すRaaS(Robot(あるいは,Robotics)as a Service)事業が普及し始めている.RaaSの特徴としてロボットの稼働状況などもクラウド上で管理できるため,ロボットの台数や使用量や使用時間などにあわせて課金する仕組みを提供することにより,初期導入費なしにロボットを提供するビジネスが展開されている.また,RaaSは,人間とのコミュニケーションに必要とされる音声・画像処理能力の高度化や物流や検査などの実用化に耐え得る認識能力などをクラウド上の深層学習を用いて実装でき,また,各種設定もロボット上で行うのでは無く,クラウド上でできるため,専門知識の無いユーザーも容易に利用できる点も普及に貢献している.
国内におけるRaaSの先駆的事例であるソフトバンクロボティクスのPepperの法人モデル「Pepper for Biz」(4)の導入企業数は,2018年10月現在,2000社を超えたという.Pepper for Biz 基本プランでは,業界にあわせた会話や動きを設定した200テンプレートが用意されており,誰でも簡単にアプリケーションを作成することができ,さらに,必要にあわせて,顧客へのクーポンの配信や写真撮影などのサービスを,別額で提供することにより,様々なサービスをインテグレーションすることができる.また,オリィ研究所(5)は,孤独の要因となる移動・対話・役割などの問題を解決し,これからの時代の新たな「社会参加」を実現するために,OriHime(オリヒメ)やOriHime-D(オリヒメディー)を開発した.OriHimeは,「その場にいる」ようなコミュニケーションを実現し,テレワークなどに用いられている.OriHime-Dは,遠隔で接客やものを運ぶなどの業務を行うことができ,カフェでの実証実験が行われている.
海外でのRaaSの例として,Aeolus Robotics社の「アイオロス・ロボット」(6)のレンタルサービスが2019年8月に開始される予定である.クラウドではなくロボット内に高度な物体検知能力・空間認識機能・生体信号検知機能が実装され,人の顔や姿勢を詳細に検知し,認識することができ,介護施設内の監視や日用品の運搬といった介護士の業務サポートを,今後,空港・ホテル・レストラン・病院などの公共施設内のパトロールや配達業務にも展開される予定である.
一般に,サービス分野では,人との共生・共存を前提とするため,設計・開発者が想定困難な状況に遭遇する可能性があり,実用化には様々な実証実験を行う必要がある.経済産業省と日本ロボット工業会が発行した「ロボット導入実証事業事例紹介ハンドブック2018」(7)によると,倉庫や空港での搬送・ピッキング,食品スーパーにおける陳列作業,料亭での料理搬送などを行う移動ロボットの他,空港でのサイネージ用ロボットなどの実証実験が実施された.NEDOロボット活用型市場化適用技術開発プロジェクトの「平成30年度実施方針」(8)では,ロボットのプラットフォーム化に特化した技術開発が行われ,東芝テックは,小売業界への導入を目指して,2018年5月に,スーパーにおけるロボットを活用した売価チェックの実証実験を行った(9).また,東京都では,オリンピック・パラリンピック2020の開催に向けて,ICTやAI,ロボット技術のショーケース化を目指して,2017年度に「都庁舎サービスロボット実証実験」(10),2018年度に「都営地下鉄施設内における案内・警備ロボット実証実験」(11)が実施され,ロボットの実用化と商品化が様々なサービス分野で加速している.
〔久保田 直行 首都大学東京〕
参考文献
(1)WR 2018 Service Robots press release Japanese, International Federation of Robotics(2018年10月18日).
(2)ロボット産業市場動向調査結果,経済産業省(2013年7月公表)
(3)国内サービスロボット/ドローンユーザー利用動向調査結果,IDC Japan 株式会社,https://www.idcjapan.co.jp/Press/Current/20180822Apr.html(参照日2019年4月8日)
(4)Pepper for Biz,ソフトバンクロボティクス,https://www.softbankrobotics.com/jp/product/biz2/(参照日2019年4月8日)
(5)オリィ研究所, http://orylab.com/(参照日2019年4月12日)
(6)Aeolus Robotics(アイオロス・ロボティクス),https://aeolusbot.com/our-robots/(参照日2019年4月8日)
(7)ロボット導入実証事業 事例紹介ハンドブック2018,経済産業省・ロボット工業会(2018)
(8)ロボット活用型市場化適用技術開発プロジェクト平成 30 年度実施方針,国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(2018).
(9)スーパーにおけるロボットを活用した売価チェックの実証実験,https://www.toshibatec.co.jp/release/20180521_01.html(参照日2019年4月8日)
(10)都庁舎サービスロボット実証実験,http://www.metro.tokyo.jp/tosei/hodohappyo/press/2017/11/02/07.html(参照日2019年4月8日)
(11)都営地下鉄施設内における案内・警備ロボット実証実験,http://www.metro.tokyo.jp/tosei/hodohappyo/press/2018/11/22/25.html(参照日2019年4月8日)
18.5 土木・建築分野
18.5.1 背景
これまで土木・建築分野は,製造業とは異なり作業現場が毎回異なることや元請や下請けなどによる複雑な分業制などによって作業の標準化を行うことが難しく,ロボット化の難易度が最も高い分野と言われており,生産性向上への取り組みが進まない状況が続いていた.しかしながら,近年の新規投資における建設需要の拡大や,深刻な人手不足により,作業の効率化に取り組むことは急務となっており,国の政策転換なども功を奏し,現在は新規技術開発に対し追い風が吹いている環境にある.
18.5.2 土木工事
国土交通省は,生産性革命における取り組みとして,工事全体に一貫してICT施工を用いる「ICT‐フル活用工事」の試行に踏み出すとしている.BIM/CIMの活用を先導するi-Construction『モデル事務所』などを設置,全国的な普及・拡大を目指している(1).
そのような中,ロボット技術としてはドローン活用が特に目覚ましい.最近では,工程進捗を単に確認する工事写真撮影にとどまらず,土工,舗装工,浚渫工などの現場では,ドローン測量による施工,検査に至る建設プロセス全体の3次元データ化が進められている.また,2019年度までには橋梁やトンネル,ダムなどの公共工事の現場全てのプロセスに対象を拡大し,中小事業者や自治体への3次元データの活用やICT導入への支援をさらに強化するとされている.さらに,AI活用・ロボット導入等により施工管理や点検・災害対応の高度化等を推進し,実用段階前の新技術の現場での実証を進めていく方針も打ち出された(2).
ICT建機のロボット化に関する研究も進みつつある.ロボティクス・メカトロニクス部門の講演会であるROBOMECH2019でも,油圧ショベルの自律運転や遠隔操作に関する研究が多数報告されている.
18.5.3 建築工事
建築現場でのロボット活用の実現に向けては,センサやアクチュエータ等の劣悪環境対応とともに,ロボットを統合管理するシステムの開発が必須となる.現在技術課題として考えらえるものは以下であり,今後継続してさらなる技術開発が必要である.
・ロボット位置情報取得技術の確立
・BIMによる工程管理とロボット制御システムの連携
・工事現況の把握(点群計測データから3次元モデル生成)とデータ活用
・ロボット活用を前提とした建築工法の見直し(ユニット化,モジュール化等)
・鉄骨など磁性体環境での安定的な無線通信技術の確立
これらの課題解決に向けた取り組みとして,屋内測位技術やBIM/IoTを活用したロボットの位置同定に関する研究開発が進められている.また,建築生産そのものをロボット活用前提とした施工方法にシフトするための検討が進められている.
また,作業員の重労働低減を目的とした,パワーアシスト,サポート技術も深化しつつある.
18.5.4 インフラ点検
インフラ点検に関しては,戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)インフラ維持管理・更新・マネジメント技術(2014~2018年度)で,橋梁,トンネル,水中などのインフラ点検用ロボット技術の開発が行われた.ここでは,飛行型の目視点検ロボットやトンネル全断面を点検・診断するシステム,遠隔操作による半水中作業システムなどの様々なタイプのロボット技術が開発され,地域実装の方策と合わせ活動が加速されつつある(3).
〔柳原 好孝 東急建設(株)〕
参考文献
(1)i-Constructionの取組をリードする事務所を決定! (プレスリリース),国土交通省
http://www.mlit.go.jp/report/press/kanbo08_hh_000562.html (参照日2019年3月14日)
(2)新しい経済政策パッケージ(2017-12閣議決定),内閣府
(3)インフラ技術総覧 SIPインフラ維持管理・更新・マネジメント技術,内閣府
18.6 農業分野
日本農業の労働力不足は厳しい状況にある(1).今後ロボットを含めた超省力技術の開発が,日本農業を持続させる上で必須である.さらに日本農業が抱えている労働力不足は先進国・新興国でも共通である.農業従事者の減少,特に技術を有した人材の不足が社会問題になっており,国際的にロボットのニーズは高い.
日本ではロボット農機の社会実装が2018年にスタートしたところである.農機業界では2018年を農業ロボット元年と位置付けている.ロボットトラクタはじめロボット農機の基本機能は高精度GNSS(Global Navigation Satellite System)と姿勢角センサを使用してPCなどで作成した作業計画マップを参照しながら走行誤差5cm以下,作業速度も慣行作業以上を可能にする技術である(2).また,ロボット農機は障害物検出センサを装備し,安全に作業することができる(3).農林水産省はロボット農機の社会実装を実現するために2017年3月にロボット農機の安全性確保のためにメーカーや使用者が順守すべき事項を定めた「農業機械の自動走行に関する安全性確保ガイドライン」を策定した(4).このガイドラインの対象とするロボット農機は使用者が圃場内や圃場周辺から監視することが前提である.2018年現在,ロボット農機の使用法はこのガイドラインに準拠しており,その一つの利用法が図6-1に示したような人間との協調作業である.たとえば前方にロボットトラクタが無人で整地作業を行い,有人トラクタがロボットに随伴して施肥・播種作業を行う.この目視監視の次は遠隔監視によって1人が複数台のロボットを管理できるシステムに発展する.日本政府はこの遠隔監視ロボットシステムの2020年までの実現をKPIにしている(5).
農業現場では施設内で働くロボットの導入も期待されている.たとえばイチゴ生産における育苗,定植,管理,収穫,調製,出荷などの合計労働時間は10a当たり2,019時間にもなり,稲作労働時間の25時間/10aの80倍といったデータもある.このような事情からイチゴ収穫ロボットは農研機構農業技術革新工学研究センターなどで開発を進めている(6).イチゴなどの果菜類を収穫するロボットを開発する上で必要な要素技術は①果実のセンシング技術,②果実のハンドリング技術,③走行技術の3つである.特に技術課題は果実の「センシング技術」と「ハンドリング技術」にある.センシング技術とは熟したイチゴを認識して,位置を計測することである.最近話題のAI(人工知能)利用も研究されているが,いまだ開発途上にある.収穫は適期果実の60~70%に留まる.これは,果実が葉に隠れている場合や果実同士が重なり合っている場合など個々の果実を正確に認識することが困難だからである.また採果時間も9秒/果であり,人に比べるとかなり遅い.付加価値の高い果物,野菜,花卉等の高価格な農産物を法人組織で大規模に生産することで,ロボット導入の効果を最大化できることも魅力である.
図6-1 ロボット農機の現状
〔野口 伸 北海道大学〕
参考文献
(1)提言:IT・ロボット技術による持続可能な食料生産システムのあり方,日本学術会議 (2008).
(2)Noguchi N.,Agricultural Vehicle Robot, Journal of Robotics and Mechatronics,Vol.30,No.2 (2018),pp.165-172.
(3)Noguchi,N.: Agricultural Automation – Fundamentals and practices (2013),pp.15-39.
(4)ロボット農機に関する安全性確保ガイドライン, 農林水産省.
http://www.maff.go.jp/j/kanbo/kihyo03/gityo/g_smart_nougyo/attach/pdf/index-6.pdf
(参照 2018.03.27).
(5)未来投資戦略2018,(2018-6閣議決定),内閣府.
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/miraitousi2018_zentai.pdf (参照 2018.06.15).
(6)内藤裕貴,イチゴ収穫ロボット, アグリバイオ, Vol.1, No.13 (2017),18-22.
18.7 注目技術動向
ロボティクス・メカトロニクス分野における最新の注目技術として,本部門主催のロボティクス・メカトロニクス講演会2018(2018年6月,北九州)から選ばれ,本部門ROBOMECH表彰を受賞した研究8件について簡単に紹介する.
1件目は「臀部へのせん断力提示による自己運動の加速感覚の誘発」(堀江,他)である.人体に対して横方向に臀部の皮膚を変形させる1自由度力覚提示装置を開発し,臀部の皮膚変形がせん断力の知覚を誘発し,自己運動の加速感覚に影響を与える可能性があることを示した.
2件目は「小型センサ端末によるパーソナルモビリティ・ビークルの誘導制御システムの開発」(平松,他)である.制御用PC,センサ,指示器などを搭載した小型センサ端末(ポータブル)を使用して,パーソナルモビリティ・ビークル(PMV)に自動運転機能や運転支援機能を提供する制御システムを提案し,さまざまなPMVに応用して実験結果を示した.
3件目は「触覚機能を内包する高速・高精度近接覚センサ」(小山,他)である.市販の測距センサの20倍以上の距離分解能を持ち,1ms以内で距離と傾きを検出可能な小型近接覚センサを開発した.従来の触覚センサでは把持が困難であった反力が極端に小さい物体の把持が可能となり,例として紙風船の高速キャッチを実現した.
4件目は「バイオニックセンサ」(新井,他)である.動物の代わりに使用したりテストしたりするのに役立つセンサとアクチュエーターを備えた精巧な人間モデル(バイオニックヒューマノイド)に用いるセンサを提案し,バイオニックヒューマノイドと統合する方法を分類し,具体例として網膜への接触力を測定する方法を提案した.
5件目は「コーティング式触覚センサの開発」(佐藤,他)である.構造が簡単で曲面などの3次元形状にもスプレーできる触覚センサの開発について紹介し,指を模した円筒の長さ方向と円周方向にそれぞれ1軸センサを塗布し,性能実験を行い,位置検出センサとして機能することを示した.
6件目は「消防ホースの能動化に向けた複数水噴射による索状体の安定浮上」(安藤,他)である.既存の大きくて重い災害対応ロボットと異なり,ウォータージェットを介して直接水を発射することができる新しいホース型ロボットを提案し,長さ3mの物体が空中を安定して飛行でき,その頭部方向も制御できることを報告した.
7件目は「深層学習を用いた要素動作の統合手法の開発」(伊藤,他)である.
ロボットが様々な複雑なタスクを実現するためには,別々に獲得した複数の要素動作を1つの連続動作に統合する技術が必要であると考え,動作生成モデル内にオートエンコーダとリカレントニューラルネットワークに加え,運動の実行タイミングを決定するためのタイミング決定器を導入した.これにより,ドア開け通過動作が達成されることを示した.
8件目は「固体推進薬の安全かつ連続的製造のための蠕動運動型混合搬送装置」(山田,他)である.固体推進薬の抜本的コスト低減に向けた安全かつ連続的な捏和システムとして,蠕動運動型混合搬送装置による連続捏和を提案し,1kgをこえる実用組成の固体推進薬の捏和に成功した.さらに,これを用いた小型ロケットモータの地上燃焼試験に成功した.
なお,ロボティクス・メカトロニクス講演会2018では,上記のほかに,下記5件のベストプレゼンテーション表彰を選出している.そのタイトルは,「非接触濡れ性評価システムによる物理化学的バイオマーカーの創成」(田中),「アクティブビジュアルサーボのための最適投影パタン」(荒井),「バイオニックアイ:緑内障手術シミュレーションのための眼球モデル」(小俣),「磁性エラストマとスパイラルコイルを用いた柔軟触覚センサのアレイ化(川節),「Dynamic braking of omni-wheel rollers for dual robot cooperative task execution」(Canete)である.
以上の受賞研究を見ても本部門の特徴である研究の幅広さが感じられる.Robomech2018では,確率ロボティクスで著名なBurgard教授がその特別講演中に,確率モデルから深層学習モデルへの移行を鮮明に印象付けたが,deep learningに関わる発表は全体の4%未満にとどまっており,今後の取り組みが望まれる.
〔柴田 智広 九州工業大学〕
18.8 ImPACTタフ・ロボティクス・チャレンジの成果
ImPACT-TRCは,内閣府ImPACTの一環として,技術的・社会的・産業的イノベーションを産み出すことを目指して,2014〜2018年の5年間にわたって実施された.ロボット技術を災害に有効にするために,技術が成立するための必要条件を緩和し,困難な環境化でも求められる性能を発揮できるようロボット技術を鍛え上げることをめざし,5種類のロボット,および,それらに搭載する要素技術が開発された.2014〜2018年の5年間,62の研究グループが5つの分科会,2つの研究会を構成し,年2回開催するフィールド評価会で実際にその成果を広く公開しながら,研究を実施した(1)-(4).
飛行ロボットでは,強風15m/s,豪雨300m/s,プロペラ停止,負荷2kg変動条件下でのドローン「PF-1」のロバストな飛行継続,飛行中の地上からの音声聞き取りと位置特定,重心不変アームによる物資運搬,ドローンの位置共有,が可能になった(5).
サイバー救助犬では,災害救助犬の能力を飛躍的に拡大することを目的として,犬の行動モニタリングと行動指示ができる軽量で疲れない「サイバー救助犬スーツ」が開発された.心拍・加速度等から,犬が何をしているかや,やる気を推定すること,機械学習で遺留品を自動発見すること,光を使って犬の移動方向を誘導することが可能になった(6).
索状ロボット(細径)では,「能動スコープカメラ」がボディを浮上させて移動能力,捜索能力を向上させること,音響とカメラで瓦礫内の位置やマップを推定すること,騒音を除去して要救助者の音声を聞き取ることが可能になった.水を噴射して空を飛ぶ消火ホースロボット「ドラゴンファイヤーファイター」が開発された(7).
索状ロボット(太径)では,垂直梯子やダクトを自律移動すること,ボディ長さ1.7mで1mの高さの段差を昇降すること,ボディの接触分布を計測すること,配管内で位置推定とマッピングすることが可能になった.鋭利な物体や,燃えている物体も把持可能な柔軟グリッパが開発された(8).
建設ロボットでは,二重旋回機構と低摺動摩擦高速油圧システムにより高出力高精度の双腕作業を実現すること,ハンド先端にセンサを搭載しない力覚・触覚フィードバック,ドローンと複数カメラによる実・仮想俯瞰映像による遠隔操作支援,没入型遠隔操作コクピットが開発された.片腕でボディを支えながらもう片腕で遠隔操作することなどが可能になった(9).
脚ロボットでは,高トルクプラント点検作業が可能な四脚ロボット「WAREC-1」,多足とはらばいによる不整地や垂直梯子の移動,VRと仮想拘束・過去画像による遠隔操作支援,三次元形状・音響マップ,などが開発された(10).
飛行ロボットは九州北部豪雨災害の情報収集に使用され,福岡県東峰村の谷間のアクセス困難地域を高解像度撮影して,防災関係機関にオルソ画像を提供した.能動スコープカメラのプロトタイプは福島第一原発1号機の狭隘部調査に使用され,ウェルプラグのずれや放射線量を調査した.サイバー救助犬スーツは日本救助犬協会に貸し出され,災害適用に向けて訓練を繰り返した.これらの研究成果は,災害関連組織や企業で活用が検討されると共に,平時利用への波及の取り組みも進んだ.
〔田所 諭 東北大学〕
参考文献
(1)Tadokoro, S. Ed., Disaster Robotics – Results from the ImPACT Tough Robotics Challenge, Springer Tracts in Advanced Robotics 128 (2019), DOI 10.1007/978-3-030-05321-5.
(2)特集タフ・ロボティクス,日本ロボット学会誌,Vol. 35, No. 10 (2017) pp.1–36.
(3)ImPACT-TRC開発ストーリー(短縮版),https://youtu.be/vCUhlFSKyKc(参照日2019年5月5日).
(4)ImPACT-TRC開発ストーリー,https://youtu.be/r2tbzn_KdD0(参照日2019年5月5日).
(5)ImPACT-TRC飛行ロボット,https://youtu.be/IVM6hrKu1PE(参照日2019年5月5日).
(6)ImPACT-TRCサイバー救助犬,https://youtu.be/WreqlS6cZFc(参照日2019年5月5日).
(7)ImPACT-TRC索状ロボット(細径),https://youtu.be/n9SKYKl8sj8(参照日2019年5月5日).
(8)ImPACT-TRC索状ロボット(太径),https://youtu.be/pOHGhy7Xy78(参照日2019年5月5日).
(9)ImPACT-TRC建設ロボット,https://youtu.be/f-FKxQnOQ9Q(参照日2019年5月5日).
(10)ImPACT-TRC脚ロボット,https://youtu.be/Kkg5zNx-SBI(参照日2019年5月5日).
18.9 ロボット関連プロジェクトの動向
ロボット関連のプロジェクトは大きな転換期に来ている.これまで,内閣府主導で行われた戦略的イノベーション創造プログラムSIPの「インフラ維持管理・更新・マネジメント技術」や,革新的研究開発推進プログラムImPACTの「タフ・ロボティクス・チャレンジ」「重介護ゼロ社会を実現する革新的サイバニックシステム」「バイオニックヒューマノイドが拓く新産業革命」などのロボット関連研究開発プロジェクトは2019年3月に終了した.
その後,第二期SIP,官民研究開発投資拡大プログラムPRISMなどが開始されているが,ロボット関連のプロジェクトは極めて少ない.また,産業技術総合研究所,理化学研究所,情報通信研究機構に人工知能に関する研究開発拠点が設置され,人工知能技術戦略会議が発足するなど,人工知能に関する研究開発が加速するなか,これらの中でロボットに関する研究開発も一部行われているものの限定的である.2019年度から始まるムーンショット型研究開発制度で新たなロボット関連プロジェクトが立ち上がることが期待される.経産省と国交省の連携によって実施されてきたインフラ点検・維持管理や災害対応のためのロボット技術開発・現場検証に関しても,その継続的推進が期待される.
一方,福島原発の廃炉は30~40年かかることが想定されており,遠隔技術が必須となっていることから,資源エネルギー庁は燃料デブリ取り出しなどに必要となる遠隔技術の研究開発を継続的に推進している.また,福島イノベーションコースト構想(1)では,東日本大震災及び原子力災害によって失われた浜通り地域等の産業の回復を目的とした,当該地域の新たな産業基盤構築の取り組みの一つの柱としてロボット分野のプロジェクトが位置づけられており,JAEA楢葉遠隔技術開発センター,福島ロボットテストフィールド(南相馬)などのロボット実用化拠点の設置・運用が進められている.NEDOでは,フィールドロボットの実用化を推進するため,陸海空の環境で動作するフィールドロボットの性能評価手法の開発(性能基準の作成),人材育成を推進するとともに,「ロボット・ドローンが活躍する省エネルギー社会の実現プロジェクト(DRESS project)」において,ドローンの運行管理システムの開発や国際標準化を推進している.なお,産業競争力懇談会(COCN)では,災害対応ロボットやフィールドロボットの社会実装を実現するための提言作りと活動を2011年から行っており,現在でも「フィールドロボットの社会実装推進協議会」という連携活動を継続して行っている.
なおNEDOは,「次世代人工知能・ロボット中核技術開発」「ロボット活用型市場化適用技術開発プロジェクト」などで産業用ロボットやサービスロボットの知能化技術開発や実用化を進めている.福祉・介護の分野においては,経産省と厚労省が連携してロボット技術の介護利用を推進してきた.NEDO「生活支援ロボット実用化プロジェクト」,AMED「ロボット介護機器開発・導入促進事業」などで介護支援ロボットの安全技術の開発とその検証手法の検討が行われ,産総研とJARI(日本自動車研究所)が主体となり生活支援ロボット安全検証センターが設置された.AMEDは「ロボット介護機器開発・標準化事業」を開始する予定であり,テクノエイド協会も「福祉用具・介護ロボット実用化支援事業」を実施している.また,COCNでは,2018年度から「人共存ロボティクス普及基盤形成」プロジェクトも実施されており,人共存ロボティクス普及のための提言を発出している.
なお,これまで紹介した研究開発プロジェクトは,いずれも出口指向が強い.基礎研究や基盤技術開発に関しては,科研費新学術領域研究(新学術)やJSTのCRESTなどのプロジェクトが挙げられる.新学術「身体性システム」は2018年度で終了したが,新学術「ソフトロボット学」をはじめとして,ロボット関連の基礎的な研究テーマも行われている.ただし全体として,ロボット関連のプロジェクトは縮小傾向にあり,今後のロボット関連の研究力の低下,人材育成の弱体化が懸念される.
〔淺間 一 東京大学〕