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機械工学年鑑2019
-機械工学の最新動向-

13. 機械力学・計測制御

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章内目次

13.1 概論
 13.1.1 学術論文/13.1.2 講演会,講習会など
13.2 流体関連振動
13.3 電磁力関連のダイナミクス
13.4 力学系理論・応用
13.5 モード解析
13.6 板・シェル理論
13.7 運動と振動の制御

 


13.1 概論

 機械力学・計測制御部門(以下,本部門)は,機械工学におけるいわゆる「四力学」の一つである機械力学とこれに関連の深い計測および制御の分野を主たる活動基盤としている.本部門では,これらの分野の学術的な基礎研究から実践的な応用研究,他部門との連携による新領域まで幅広く研究が行われ,その研究成果が積極的に公開されている.ここでは,2018年1月~12月に発行された日本機械学会論文集(和文および英文)へ掲載された学術論文および同期間に催行された講演会,講習会などの状況について概説し,本部門の研究活動の概要について紹介する.

13.1.1 学術論文

 上記期間中に日本機械学会論文集に掲載された学術論文のうち,「機械力学,計測,自動制御,ロボティクス,メカトロニクス」のカテゴリーとして掲載された論文は93編である.また同論文集Vol.84,No.861では「機械力学・計測制御分野特集号2018」が組まれ,このカテゴリーに15編の論文が掲載されている.したがって特集号も含めて本部門に関連するカテゴリーに掲載された論文数は108編となる.これは日本機械学会論文集に掲載された論文総数の約30%(108編/総数366編)にあたる.なお「生体工学,スポーツ工学,人間工学」のカテゴリーおよび「交通・物流」のカテゴリーにも本部門に深く関連する論文はいくつか見られる.これらも含めれば論文数および割合ともにさらに増加する.次に,掲載された論文数および割合の推移について述べる.論文数は,この5年間では108編(2014年),144編(2015年),124編(2016年),122編(2017年),108編(2018年)と推移しており,ここ数年は減少傾向にある.ただし,論文の割合については31%(2015年),31%(2016年),29%(2017年),30%(2018年)であり,2018年も例年とほぼ同程度で,日本機械学会論文集に対する貢献度という意味では,高い値を維持しているといえる.

 一方,英文誌Mechanical Engineering JournalのDynamics & Control, Robotics & Mechatronicsカテゴリーに掲載された論文は,2018年は8編であった.特集号を含む本部門に関連するカテゴリーに掲載された論文数の推移は11編(2014年),34編(2015年),22編(2016年),43編(2017年),8編(2018年)となっており,2018年の論文数はMechanical Engineering Journalに移行して以来最低となった.2017年までは増加傾向にあり,2013年を以て刊行が停止されたJournal of Design and Dynamics(JSDD)のときの論文数に戻りつつあるようにも考えられていたが,必ずしもそうではなかったようである.2018年は本部門に関連する特集号がなかったことも論文数が少なかった原因の一つであるとは思われるが,論文集全体としての総数も過去最低となっており,英文誌に関しては部門だけの問題ではないようにも思われる.部門としては積極的な投稿を促す努力が必要であると考える.

 

13.1.2 講演会,講習会など

 毎年開催される部門講演会「Dynamics and Design Conference」(略称 D&D)は本部門活動の中心である.2018年の同講演会D&D2018は総合テーマ「伝統と多様性,新たなる創造へ」のもと,8月28日~31日の4日間にわたり,東京農工大学小金井キャンパスで開催された.発表件数は特別講演1件を含む270件,参加者数は559名であった.D&D期間中,例年通り振動工学データベースフォーラム(v_BASE)も併催された.

 部門主催の講習会としては,5月28日,29日に本会において「振動モード解析実用入門」(受講者46名),7月5日に東京大学生産技術研究所において「マルチボディシステム運動学の基礎」(受講者35名),6日に「マルチボディシステム動力学の基礎」(受講者33名),10月14日に愛知工業大学本山キャンパスにおいてまた10月20日に工学院大学新宿キャンパスにおいて「振動分野の有限要素解析講習会(計算力学技術者2級認定試験対策講習会)」(東海地区:受講者12名,関東地区:受講者21名),12月19日に本会において「納得のロータ振動解析:講義+HIL実験」(受講者16名),2019年1月28日,29日に本会において「回転機械の振動」(受講者33名)が行われた.これらの講習会は毎年継続して行われているもので,いずれも一定の数の受講者を集めており,本部門に関連する知識や技術の教育,啓発に大きな役割を果たしている.

〔神谷 恵輔 愛知工業大学〕

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13.2 流体関連振動

 2018年8月28日~31日に東京農工大学で行われたDynamic & Design Conference 2018(D&D2018)において企画されたオーガナイズドセッション「領域4 流体関連振動・ロータダイナミクス OS4-1 流体関連振動・音響のメカニズムと計測制御」では合計18件の発表が行われた.内訳は,液面振動のメカニズムと計測制御が3件,流体構造連成振動のメカニズムと計測制御が8件,空力音響現象のメカニズムと計測制御が7件であった.流体関連振動ではスロッシングおよびシートフラッタに関する研究がそれぞれ3件と多く見られた.スロッシングについては,数値解析や実験によるモデルの高度化や流動特性の詳細な検討が行われた.フラッタについては,種々の解析手法の評価(1)モデル化励振メカニズムの検討(2),CFD解析とフラッタ発電の検討(3)についての研究が発表された.

 2018年9月9日~12日に関西大学で行われた年次大会において企画されたジョイントセッション「J102 流体関連の騒音と振動」では合計18件の発表が行われた.内訳は,流体騒音が6件,音響インピーダンス・キャビティ音は5件,翼・平板の流力振動が4件,流体構造連成問題が3件であった.騒音に関する研究が11件と最も多く,従来同様,騒音・音響に関する問題への関心が高いことがわかる.また,研究対象は,歯茎摩擦音のように生体・医療に関するもの(4),鉄道台車の空力騒音(5),燃焼振動(6)など,多岐に渡っており,研究分野としての重要性はさらに高まっていると考えられる.

 日本機械学会論文集での流体関連振動分野の論文は合計8件発表された.内容は,フラッタに関する論文が3件,スロッシング,燃焼振動,数値解析に用いる格子の最適化に関する論文が各1件であった.スロッシングに関しては,海洋ガス田開発に用いられる浮体式プラットフォームの気液セパレータ内部で生じる,スロッシングと多孔板による抑制効果の解析法が示された(7).この研究では,多孔板での圧力損失をCFD定常解析で求め,スロッシングの波高を理論解析で求めることで,非定常CFD解析を行うよりも短い時間で,スロッシングの1次モード共振波高の定量的な評価を可能にした.

 国外では流体関連振動に関する主な国際会議として,2件行われた.

 2018年7月8日~11日にトロントで開催された,9th International Symposium on Fluid-Structure Interactions, Flow-Sound Interactions, Flow-Induced Vibration & Noise (FIV2018: FSI2 & FIV+N.)では,日本からの発表11件を含む110件の研究発表が行われた.続く,2018年7月15日~20日にはプラハでASME 2018 Pressure Vessels & Piping Conference(PVP)のFlow Induced Vibrationのセッションでは18件の発表があり,うち,4件が日本からの発表であった.熱交換器などで問題となる管群の流体関連振動に関してはFIV2018で17件,PVPでも7件発表されており,引き続き流体関連振動の主要なテーマの一つとなっている.また,機器やプラント要素についての流体関連振動についても多くの発表がなされており,弁に関する研究(8),再生可能エネルギー対応に関連した水車のさまざまな負荷条件での流体関連振動(9),流体を輸送する配管の振動(10)など,これまでにも多くの研究がなされてきた分野についても,解決すべき課題が多数残されている.

〔米澤 宏一 電力中央研究所〕

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13.3 電磁力関連のダイナミクス

 電磁力関連のダイナミクスの分野は,機械,電気,制御,磁気,材料,化学,生物などの多岐にわたる学問が有機的に結合した分野である.電磁力関連の研究・開発では,磁気浮上鉄道がその商用化を迎えつつあり,超高層ビルのエレベータ,ハイブリッドまたは電気自動車などへの電磁モータの実用化,各種電磁アクチュエータの医療機器への適用など,ますます電磁力関連のダイナミクスの分野の発展が期待されている.

 国内会議において電磁力関連のダイナミクスの分野で中心的な役割を果たしているのは,2018年5月23日~25日,長野市生涯学習センターで開催された第30回電磁力関連のダイナミクスシンポジウムであろう(11).同シンポジウムで発表された133件の発表論文を分野ごとに分類すると表3-1のようになる.機器,アクチュエータ関連として,圧電アクチュエータ・静電アクチュエータ(5件),超磁歪アクチュエータ(10件),磁気浮上技術(8件),磁気軸受とその関連技術(4件),回転機技術(7件),ロボット・医療福祉応用(9件)の講演があった.それ以外には,電磁誘導技術とその応用(11件),材料の電磁特性とその応用(12件),センサ計測技術,信号処理・分析(12件)など多くの電磁力関連のダイナミクスに関係した講演が行われた.特に,電磁誘導技術とその応用(11件),材料の電磁特性とその応用(12件),センサ計測技術,信号処理・分析(12件)など新しい分野の流れを感じることができた.関連する国内会議として,2018年8月28日~31日,東京農工大学で開催された機械力学・計測制御部門講演会(D&D Conference)(12),2018年10月20日~21日,東京理科大学で開催された第27回MAGDAコンファレンス(13),2018年11月17日~18日,南山大学で開催された第61回自動制御連合講演会(14)などがあり,何れも磁気浮上,磁気軸受,回転機,磁場解析,非破壊検査などの講演が行われた.

 関係する国際会議として,2018年8月5日~8日,大田広域市で開催のInternational Conference on Motion and Vibration Control(MOVIC2018)(15),2018年8月13日~17日,北京市で開催のInternational Symposium on Magnetic Bearings(ISMB16)(16)があり,何れも磁気軸受,磁気浮上,その関連分野のセッションが組まれ,この分野の国内外でのすそ野の広さを感じた.特に中国に於いてはこの分野の産業応用が盛んであることが分かった.また,(16)で選ばれた論文がIJAEMやActuatorsに掲載される予定である.ISMB16ではSelf-bearing motor関係および産業応用の発表が多く,本分野の発展が期待された.

〔小森 望充 九州工業大学〕

 

表3-1 「電磁力関連のダイナミクス」シンポジウムでの分野別発表論文数

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13.4 力学系理論・応用

 力学系(Dynamical Systems)は時間とともに変化するシステムを意味し,力学系理論とはシステムのふるまいを定量的のみならず定性的に明らかにする数学理論である.微分幾何や多様体などによる古典力学の数学的解釈(その基本は参考文献(17)(18)等を参照.近年の研究は例えば参考文献(19))と支配方程式の幾何学的な求積法(その基本は参考文献(20)(21)など参照.近年の研究は例えば参考文献(22))がその根幹をなし,数学の分野で急速に研究が進んでいる.力学系理論はとくに,非線形ダイナミクスの解析や制御に威力を発揮し,工学分野で使われてきたいわゆる非線形振動解析法の発展的な側面をも持ち,より数理的かつ汎用的な理論と考えることが出来る.力学系理論の応用に直接関連する国内発表会としては,日本応用数理学会2018年度年会での「正会員主催OS応用力学系」が挙げられる.ここでは,余次元2の分岐に関する非可積分性,2自由度ハミルトン系に存在するヘテロクリニック軌道の解析などの基礎理論の研究や,ネットワーク上の蔵本モデルの同期現象,人の歩行・走行・転倒の分岐解析,レイリー・ベナール対流におけるラグランジュ的なカオス輸送の解明,化学反応経路網の幾何学的理解などの応用に関する研究発表があった.以下では,従来法による研究も含め,機械力学・計測制御に関連した非線形力学の研究動向を紹介する.

 非線形ダイナミクスの研究は,線形解析結果の単なる定量的な精度向上のみを目的とはせず,線形解析では全く予想不可能な現象の解析とその定性的なメカニズムの究明,さらには制御を目的とする.また,その多様性(例えば解の多価性)の利用(例えばカオス混合など)も古くから研究が行われているが,近年MEMS分野など多方面で非線形現象の積極的な利用が注目され,IEEE Journal of Microelectromechanical Systems においてNonlinear Phenomena in MEMS and NEMS(23)の特集が組まれた.またMEMSのダイナミクスに関連する国際会議として,Euromech主催のColloquium 603 Dynamics of micro and nano electromechanical systems: multi-field modelling and analysisやASME主催のInternational Design Engineering Technical Conferences & Computers and Information in Engineering Conference(IDETC/CIE 2018)の中で12th International Conference on Micro- and Nanosystems(MNS)が開催され,マルチフィジックス環境下で動作するスマートセンサー・アクチュエーター,ロジックスイッチエレメント(24),双安定性を利用した低電圧マイクロスイッチ(25),ジャイロセンサ―などのダイナミクス,内部共振などの非線形連成を利用したレゾネーター(26)(27)に関する研究が発表された.なお,同期現象とMEMSダイナミクスの関連については(28)に見られる.

 さらにIDETC/CIE 2018では30th Conference on Mechanical Vibration and Noise(VIB)および14th International Conference on Multibody Systems, Nonlinear Dynamics, and Control(MSNDC)が行われ,非線形ノーマルモードの非保存系への一般化(29),バウンシングボール(30),従動力を受けるカンチレバーの非線形曲率を考慮した解析(31),流体―構造連成解析(32),さらに非線形スマート材料の研究(33)などの基礎研究が発表された.特に従動力に関する不安定問題は,循環項によって生じる非保存的弾性安定問題に属し,研究は古くからおこなわれているものの重要な未解決問題であり,欧米では盛んに研究が続けられている(34).非線形性を積極的に利用したエネルギーハーベスターに関する研究も引き続き行われ,内部共振に関連して,スケールの違うシステム間のエネルギーカスケードを考慮したエネルギーハーベスター(35)などが発表された.接触,摩擦,ダンピングの観点からジョイント構造に注目したセッションが設けられ,力学およびトライボロジー双方の観点からの統一的な理解を目的とした解析法手法が議論された(36)衝突,接触,摩擦に関しては,4th International Conference on Vibro-Impact Systems and Systems with Contact and Frictionが開催された.特に注目する点は静止摩擦の解析や接触問題において,集合値関数など凸最適化に関連した数学的手法が広く使われるようになったことが挙げられる.

〔藪野 浩司 筑波大学〕

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13.5 モード解析

 モード解析は,振動・騒音解析の基盤技術として今も国内外で活発に研究されている分野であるが,近年基礎研究から応用研究にシフトしていく傾向があり,波動に関連付けた解析を試みたり,振動―音響連成問題を取り扱ったりと,その内容が多様化されてきている.

 国内におけるモード解析関連の研究発表は,機械力学・計測制御部門のD&D(Dynamics & Design Conference)内のオーガナイドセッション(以下,OS)「モード解析とその応用関連技術」を中心に行われている.本OSの2014年から2018年の発表件数を確認すると,ジョイントセッションでの発表分を含めて,古い年から順に14件→24件→25件→14件→28件となっている.本OSの2018年のサブセッション名を確認すると,「鉄道車体モデルの音響解析」,「伝達経路解析・入力同定」,「加振法・解析法」などとなっており,固有振動数やモード減衰比などを予測・同定するというモード解析そのものの研究と,車輌等の振動・騒音解析のための分析法やモデル化技術が中心となっている.また,ここ数年,自動車関連の研究に加えて,鉄道関連の研究が持続的に行われていることが心象的であり,「物理パラメータ同定による剛体加振源の加振力同定手法の提案」や「部分構造変更・除去法の提案」などの新しい手法の提案もなされている.

 日本機械学会論文集で2018年に発行された論文においては,モード解析に直結するものはほとんどなく,精度改善に関連する研究のみが2,3編見られ,少し閉塞感の漂う雰囲気になっているようにも感じる.少し分野は違うかも知れないが,周波数特性を平滑化するための連続体動吸振器の最適設計に関する研究は興味深い.

 一方,国外でも,大学での学術的な研究から,企業における振動・騒音解析の基盤技術としてモード解析を研究する状況へのシフトが加速している様子が見受けられる.モード解析を基盤技術として毎年開催される国際会議IMAC(International Modal Analysis Conference)も2018年で36回目の開催となった.IMACでは,約390件の研究発表が行われおり,モード解析を基盤技術としつつ,振動・騒音解析全般にテーマを広げて隔年で開催されている国際会議,ISMA(International Conference on Noise and Vibration Engineering)は,2018年9月17日から三日間開催された.ここでも,土木,建築,機械工学を中心に様々な専門分野の研究が約380件紹介された.この学会は企業からの参加者が多く,製品開発に直結する実用的な研究が増えてきている.また,振動音響系問題および流体関連振動問題もいくつか報告されており,また統計的解析手法や機械学習を採用した研究も散見される.

 定例のモード解析研究会は,昨年度の北海道大学に続いて,今年度は2019年1月10日から二日間,徳島大学にて開催された.今年度の研究会では,31件の研究紹介と海外の論文紹介があった.企業からの参加者からはエンジンなどの設計に関連する研究事例がいくつか紹介され,海外の論文紹介では,波動解析をモード解析に関連付けた内容と振動―音響連成解析を中心に,マルチボディダイナミックス入力同定,また,近年関心が高まってきている機械学習関連の研究などが紹介され,活発な議論が行われた.

〔鄭 萬溶 沼津高専〕

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13.6 板・シェル理論

 板や任意の曲率を持つ薄肉曲面構造であるシェル構造物は,きわめて多方面の機械構造物に用いられている.また,機械構造物の高速化,知能化,軽量化によりこれまでに予期していなかった振動トラブルが多く発生している.これらの問題を解決するために,シェル構造物の振動の低減や制御を効率的に行い,精度や信頼性の向上を図る設計技術を確立する必要がある(37).機械力学・計測制御部門では,1995年4月に発足し,現在著者が主査を務める「シェルの振動と座屈研究会」が中心となり,部門講演会Dynamics & Design Conference(D&D)において,毎年OSを実施しており,本報では2018年のD&Dにおける板・シェル理論に関する研究動向について述べる.

 2018年のD&Dでは,本研究会が企画したOS「板・シェル構造の解析・設計の高度化」,非線形振動研究会が企画したOS「機械・構造物における非線形振動とその応用」,振動基礎研究会が企画したOS「振動基礎」との合同で,領域1「解析・設計の高度化と新展開」を実施し,領域全体では,58件の講演が行われ,そのうち板・シェルに関する講演は,12件であった.近年,機械構造物への適用が拡大しつつあり,シェル構造として代表的となっている積層複合材料の振動特性や最適化に関する研究が7件と半数以上を占めていた.そのうち図6-1,6-2に示すように3Dプリンティング(38)(39)やファイバー縫付機(40)(41)などのアディティブ・マニュファクチャリングにより作製された複合材構造の振動特性や最適設計に関する講演が4件である.これは新たな製造方法により,これまで直線や織物状であった複合材が,同一層内で繊維方向を任意に変化させることが可能となったため,その局所的な異方性構造に関する振動解析手法や最適化手法に関する研究が盛んに行われているためである.その他,石油タンクに代表される円筒シェル構造の座屈に関する講演が2件(42)(43),有限要素法とは異なる効率的なシェル構造の振動解析手法(44)(45)や積層理論に関する研究(46)が3件であった.上記のOS以外にも振動・騒音に関する研究領域でも鉄道車両の音響解析に関する講演(47)がなされていた.

 以上のように,板シェル理論に関する研究動向は積層複合材に関する研究がますます盛んになると思われる.また同時に,積層複合材の適用が広がるにつれて,ソリッド要素をシェル要素で代替し計算コスト削減を実現するための高機能なシェル要素開発や,そのための板・シェル理論(積層理論)に関する基礎研究は引き続き重要な研究テーマとなると考えられる.

〔本田 真也 北海道大学〕

図6-1 3Dプリンターにより作成された熱可塑性複合材(38)

図6-2 ファイバー縫付機による局所強化複合材の例(40)

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13.7 運動と振動の制御

 本会論文集の機械力学,計測,自動制御,ロボティクス,メカトロニクスは全85編のうち,クレーン,エレベータなど振動制御(Vibration control)をキーワードにした論文は11編,運動の制御(Motion control)は4編であった(48).本会英文誌MEJのDynamics & Control, robotics & Mechatronicsは全8編のうち,振動制御は2編,運動の制御は1編であった.日本機械学会誌11月号では「空の産業革命-飛行ロボットとしての次世代ドローン」という題目で野波健蔵氏へのインタビュー記事が掲載されている(49).部門の研究発表講演会については,2018年8月末に開催されたD&D2018(東京農工大学)では,領域7のダイナミクスと制御において20件の講演があった.2018年9月に開催された年次大会(関西大学)では,機械力学・計測制御部門一般セッションにおける発表は,制振制御法など38件であった(50).当部門,運動と振動制御研究会(A-TS10-09)は,主査の水野毅氏のもと,2018年12月21日~22日に行われ,26名の参加者があった.本研究会では過去一年間に刊行されたASME,IEEE,AIAA等の学術論文18編について紹介を行い,内容について討論を行った.計測自動制御学会論文集は車両,ロータ,予測制御など32編であった(51).9月11日~14日に開催されたSICE Annual Conference(奈良春日野国際フォーラム)は,600名以上の参加者,424件の発表があり盛況であった.同学会誌,計測制御の4月号では「航空宇宙の制振技術」の特集として航空機の誘導や飛行制御について13編の論文が掲載されている(52).同3月号では交通物流の制御が9編,同7月号では自動運転技術,同8月号では医用制御技術など幅広い分野の論文が掲載されている.

 海外の動向としては,Transactions of ASME,Journal of Dynamic Systems, Measurement and Control において制御は13編のうち振動関連は9編であった.また,同Journal of Vibration and Acousticsにおいては振動制御について30編であった(53).Journal of Sound and Vibrationにおいて振動制御は79編,運動の制御は19編であった.米国電気電子学会IEEE,Transactions on Control Systems Technologyにおいて振動関連で101編程,ビークル,ロータなどの制御を扱ったものが多く見られた.アメリカ航空宇宙学会AIAA Journal Guidance, Control and Dynamicsにおいて振動制御は3編程,運動の制御は3編程であった.また,国際会議については2018年9月のアメリカ機械学会ASME,DSCC2018(米国,アトランタ)ではVibration and Control of Systemsセッションにおいて10件,Energy HarvestingやVibration Mechanism in Systemセッションに運動の制御に関する講演があった.本会主催の「運動と振動制御」シンポジウム(MoViC:Motion and Vibration Control)は,第14回の国際会議として2018年7月に韓国,大邱で開催された.ダンパに加え振動制御免震,TMDなどダンピング関連でポスターを含めて26件の発表があった.当時部門長の田川泰敬氏(東京農工大学)による最適制御に関する特別講演もあった.

 「運動と振動制御」技術は,自動運転技術や,小惑星探査機‘はやぶさ2’で注目を浴びている計測制御遠隔操作などの技術が急速に発展を遂げる昨今,日本機械学会技術賞7件のうちアクティブ制御や無人運転などの技術で3つが受賞されていることは注目すべき点である(54).このように研究開発から実用化に至るまで多用され,より多岐にわたって普及してきた印象を受ける.最後に,第15回目となるMotion and Vibration Control国際会議が2020年9月8日~11日に新潟市の朱鷺メッセで開催される予定である.

〔松岡 太一 明治大学〕

参考文献

(1)高津 良平, 藤田 勝久,解析モデリングが平行流を受ける片持ち矩形平板のフラッタに与える影響,日本機械学会Dynamic & Design Conference 2018 講演論文集(2018),DOI: 10.1299/jsmedmc.2018.409.

(2)廣明 慶一, 渡辺 昌宏,矩形シートに発生するフラッタの励振メカニズムの考察,日本機械学会Dynamic & Design Conference 2018 講演論文集(2018),DOI: 10.1299/jsmedmc.2018.410.

(3)山野 彰夫, 井嶋 博,新谷 篤彦, 伊藤 智博,中川 智皓,シートフラッタ発電機構の基礎検討,日本機械学会Dynamic & Design Conference 2018 講演論文集(2018),DOI: 10.1299/jsmedmc.2018.412.

(4)吉永 司,野崎 一徳,和田成生,歯茎摩擦音/s/と/sh/の発生メカニズムの違いに関する研究,日本機械学会2018年度年次大会講演論武運集(2018),DOI: 10.1299/jsmemecj.2018.J1020102.

(5)井上 達哉,宇田東樹,北川 敏樹,新幹線台車部から発生する低周波空力音の低減対策とその効果,日本機械学会2018年度年次大会講演論武運集(2018),DOI: 10.1299/jsmemecj.2018.J1020103.

(6)南野 暖,三谷 冠,上道 茜,金子 成彦,管内の熱源が上流側音響的境界条件に与える影響,日本機械学会2018年度年次大会講演論武運集(2018),DOI: 10.1299/jsmemecj.2018.J1020202.

(7)新木 悠斗,上道 茜,山﨑 由大,金子 成彦,ピッチング加振を受ける水平円筒容器内スロッシングの1 次共振波高に対する多孔板による減衰効果のCFD を用いた評価,日本機械学会論文集,Vol.84, No.861, (2018), DOI: 10.1299/transjsme.17-00507.

(8)Salim El Bouzidi, Marwan Hassan, Samir Ziada, Mitigation of Self-Excited Vibrations in Spring-Loaded Valves, Proc. 9th International Symposium on Fluid-Structure Interactions, Flow-Sound Interactions, Flow-Induced Vibration & Noise (FIV2018: FSI2 & FIV+N.), (2018), FIV2018-026

(9)Eduard Doujak, Julian Unterluggauer, Fluid-Structure Interaction of Francis Turbines at different Load Steps, Proc. 9th International Symposium on Fluid-Structure Interactions, Flow-Sound Interactions, Flow-Induced Vibration & Noise (FIV2018: FSI2 & FIV+N.), (2018), FIV2018-100

(10)Mojtaba Kheiri, Abdolreza Askarian, Dynamics and Stability of a Pipe Conveying Fluid with an Imperfect Inlet Support, Proc. 9th International Symposium on Fluid-Structure Interactions, Flow-Sound Interactions, Flow-Induced Vibration & Noise (FIV2018: FSI2 & FIV+N.), (2018), FIV2018-207

(11)第30回「電磁力関連のダイナミクス」シンポジウム(SEAD30),長野市,(2018-5)

(12)日本機械学会 機械力学・計測制御部門講演会(D&D2018), 東京都,(2018-8)

(13)第61回自動制御連合講演会,名古屋市,(2018-11)

(14)第27回MAGDAコンファレンス(MAGDA 2018), 東京都,(2018-10)

(15)Proceedings of the International Conference on Motion and Vibration Control(MOVIC 2018) Daejeon, Korea, (2018-8)

(16)Proceedings of the 16th International Symposium on Magnetic Bearings(ISMB16), Beijing, China, (2018-8)

(17)Arnold, V. I., Mathematical Methods of Classical Mechanics (1997), Springer.

(18)Abraham, R. and Marsden, Foundations of Mechanics (2008), Chelsea.

(19)Gay-Balmaz, F. and Yoshimura, H., Dirac structures in nonequilibrium thermodynamics,

1.Journal of Mathematical Physics, Vol. 59, No. 1, DOI: 10.1063/1.5017223.

(20)Guckenheimer, J and Holmes, P, Nonlinear Oscillations, Dynamical Systems, and Bifurcations of Vector Fields (1983), Springer.

(21)Kuznetsov, Y. A., Elements of Applied Bifurcation Theory (1991), Springer.

(22)Motonaga, S. and Yagasaki, K., Nonintegrability of Parametrically Nonlinear Oscillators, REGULAR & CHAOTIC DYNAMICS, Vol. 23, No.3(2018), DOI: 10.1134/S156035471803005X.

(23)IEEE Journal of Microelectromechanical Systems, Vol. 27, No. 5 (2018).

(24)Ilyas et al., Demonstration of Microelectromechanical Resonators as Cascade Logic Elements, Proceedings of International Design Engineering Technical Conferences & Computers and Information in Engineering Conference,IDaETC2018-85358.

(25)Medina, L. et al., Bow Actuator: Low Voltage Switching in Electrostatically Actuated Bistable Beams, Proceedings of International Design Engineering Technical Conferences & Computers and Information in Engineering Conference, IDTEC2018-85534.

(26)Hajjaj, A. Z. et al., Internal Resonances of MEMS arch resonators, Proceedings of International Design Engineering Technical Conferences & Computers and Information in Engineering Conference, IDTEC2018-85595.

(27)Asadi, K., et al. Characterization and Optimization of 1:2 Internal Resonance in a Stepped Fixed-Fixed Microbeam, Proceedings of International Design Engineering Technical Conferences & Computers and Information in Engineering Conference, IDTEC2018-86292.

(28)田中,非線形問題とヘルダーの不等式(続編),IEICE Fundamentals Review, Vol. 12, No. 4(2018), pp. 238-247.

(29)Grenat, C et al., Generalization of conservative Nonlinear Normal Modes to the non-conservative equation of motion, Proceedings of International Design Engineering Technical Conferences & Computers and Information in Engineering Conference, IDTEC2018-85799.

(30)Schindler, K. and Leine R., Paradoxical Chaos-Like Chattering in the Bouncing Ball System, Proceedings of International Design Engineering Technical Conferences & Computers and Information in Engineering Conference, IDTEC2018-85202.

(31)McHugh K. and Dowell E., Nonlinear Response of an Inextensible, Cantilevered Beam Subjected to a Nonconservative Follower Force, Proceedings of International Design Engineering Technical Conferences & Computers and Information in Engineering Conference, IDTEC2018-85447.

(32)Terze, Z, et al., Vortical Flow Airfoil Dynamics in Lie Group Setting: Geometric Reduction and Numerical Analysis, Proceedings of International Design Engineering Technical Conferences & Computers and Information in Engineering Conference, IDTEC2018-85879.

(33)たとえば Popa B. and Zhai Y., Large Bianisotropic Responses in Active Acoustic Metamaterials, Proceedings of International Design Engineering Technical Conferences & Computers and Information in Engineering Conference, IDTEC2018-85593.

(34)Bigoni, D., et al., Flutter and divergence instability in the Pfluger column: Experimental evidence of the Ziegler destabilization paradox, Journal of the Mechanics and Physics of Solids, Vol. 116(2018), DOI: 10.1016/j.jmps.2018.03.024.

(35)Li, X, et al., A Variant Nonlinear Energy Sink for Vibration Suppression and Energy Harvesting, Proceedings of International Design Engineering Technical Conferences & Computers and Information in Engineering Conference, IDTEC2018-85820.

(36)International Design Engineering Technical Conferences & Computers and Information in Engineering Conference, Session VIB-6 Jointed Structures, Contact, Friction, and Damping.

(37)日本機械学会編,シェルの振動と座屈ハンドブック,2003,技報堂出版

(38)太田 佳樹, 松本 大樹, 轟 章,3DプリンティングされたFRTP平板の自由振動特性,日本機械学会D&D2018講演論文集,No.141

(39)永田 健, 築井 佑也, 平谷 翼, 渡辺 亨,3D プリンタを用いて一体成型されたハニカムロボットアームの力学的検討,日本機械学会D&D2018講演論文集,No.142, DOI: 10.1299/jsmedmc.2018.141.

(40)村上 大地, 本田 真也, 佐々木 克彦, 武田 量,ファイバー縫付機により作成した熱可塑性複合材のプレス成形,日本機械学会D&D2018講演論文集,No.140, DOI: 10.1299/jsmedmc.2018.140.

(41)安田 真輝, 本田 真也, 佐々木 克彦, 武田 量,主応力方向を参照した曲線状繊維を有する複合材の振動特性,日本機械学会D&D2018講演論文集,No.143, DOI: 10.1299/jsmedmc.2018.143.

(42)吉田 聖一,外部液体から静液圧を受ける石油タンクの座屈防止のための補強リング設置の検討,日本機械学会D&D2018講演論文集,No.136, DOI: 10.1299/jsmedmc.2018.136.

(43)大矢 弘史,静液圧を受ける円筒殻の座屈(幾何学的非線形の影響),日本機械学会D&D2018講演論文集,No.139, DOI: 10.1299/jsmedmc.2018.139.

(44)高橋 雅哉, 丸山 真一,高階微分可能な形状関数を用いた区分 分割による薄肉円環板の曲げ振動解析,日本機械学会D&D2018講演論文集,No.133, DOI: 10.1299/jsmedmc.2018.133.

(45)富岡 隆弘, 瀧上 唯夫, 秋山 裕喜,相田 健一郎,曲率を有する平板状構造物の面外・面 内連成振動の簡易な応答解析法,日本機械学会D&D2018講演論文集,No.134, DOI: 10.1299/jsmedmc.2018.134.

(46)鈴木 浩治, J. N. Reddy,傾斜材料特性平板の固有振動モード解析,日本機械学会D&D2018講演論文集,No.135, DOI: 10.1299/jsmedmc.2018.135.

(47)小野 俊太郎, 小林 幸徳, ゴータム アビシェク, 江丸 貴紀, ラワンカル アンキット, 山本 克也,構体と内装の二重シェル構造を有する 鉄道車体モデルの音響解析,日本機械学会D&D2018講演論文集,No.314, DOI: 10.1299/jsmedmc.2018.314.

(48)たとえば 中原,藤本,圧電アクチュエータを用いたセミアクティブ振動制御系の調和外力に対する応答の解析,日本機械学会論文集,Vol. 84,No. 862 (2018),p. 18-00017.DOI: 10.1299/transjsme.18-00017.

(49)日本機械学会誌,Vol 121,No. 1200(2018).

(50)たとえば 野田,神谷,神谷,質量切替型ダンパによる制振(実験による制振性能の確認),日本機械学会2018年度年次大会,No. G1000404 (2018).DOI: 10.1299/jsmemecj.2018.G1000404.

(51)たとえば 長野,サーボ系の機械振動抑制FIRフィルタの自動調整,計測自動制御学会論文集,Vol.54,No.1(2018),pp. 129-137.

(52)市川,特集:航空宇宙の制御技術,計測と制御,57巻,4号(2018),pp. 214-215.

(53)たとえば Asami, Mizukawa, Ise, Optimal Design of Double-Mass Dynamic Vibration Absorbers Minimizing the Mobility Transfer Function, ASME, Journal of Vibration and Acoustics, Vol. 140 (2018), p. 061012.

(54)日本機械学会誌,Vol 122,No. 1204(2019),p. 52.https://www.jsme.or.jp/kaisi-volno/no-1204/

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