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機械工学年鑑2019
-機械工学の最新動向-

12. 環境工学

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章内目次

12.1 環境工学を取り巻く状況
12.2 騒音・振動評価改善技術分野の動向
12.3 資源循環・廃棄物処理技術分野の動向
12.4 大気・水環境保全分野の動向
12.5 環境保全型エネルギー技術分野動向

 


12.1 環境工学を取り巻く状況

 昨年夏,我が国では集中豪雨による甚大な被害や記録的な酷暑に見舞われた.近年毎年のように自然災害が発生しており,気候変動による影響は深刻な状況である.脱炭素化社会を目指す世界の潮流は揺るぎないものであり,国内外において気候変動対策への取り組みが強力に推進されている.2018年12月にポーランドで開催されたCOP 24(気候変動枠組条約第24回締約国会議)では,パリ協定の具体的な実施方法に関する議論が行われ,先進国や途上国といった立場の違いを乗り越え,従来の二分論によることなく,パリ協定の精神に則ったバランスのとれた実施方針が策定された.

 国内では,4年連続で温室効果ガス排出量は削減されているが,引き続き2030年度26%の温室効果ガス排出削減目標の着実な達成に向けて,再生可能エネルギーの最大限の導入,徹底した省エネの推進,「ネット・ゼロ・エネルギーハウス(ZEH)」の普及,廃棄時回収率の向上に向けた法的措置の検討を含むフロン類対策の強化等に取り組んでいる.

 パリ協定に基づく2050年80%削減に向けた長期的策定に取り組むほか,脱炭素化への戦略的資源配分を促すカーボン・プライシングの可能性についても検討されている.

 環境先進国としてこれまで世界をリードしてきた我が国が引き続きその技術力をさらに発展させ,世界に対してリーダーシップを発揮し,貢献していくことが期待される.

〔松山 智哉 三機工業(株)〕

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12.2 騒音・振動評価改善技術分野の動向

 2018年度の学会活動について,2018年7月11日,12日に日本機械学会第28回環境工学総合シンポジウムが早稲田大学西早稲田キャンパスで開催された.特別講演2件とパネルディスカッション,一般講演93件,ワークショップに4つの講演があった.そのうち騒音・振動の分野では,評価・改善技術分野のオーガナイズドセッションがあり,講演発表が28件であった.騒音・振動の実験・解析技術が21件,騒音・振動の改善技術が7件であった.鉄道関係の騒音・振動制御や解析,処理を施した固体壁の騒音制御の解析などが報告された.

 そのほか音響学会研究発表会が,春季(2018年3月13-15日)と秋季(2018年9月12-14日)に開かれた.両方を合わせて363件の講演と395件のポスター発表があった.「騒音・振動」が76件,「建築」関係が59件,アレイ処理など「電気音響」が74件,医療用など「超音波」が62件などとなっている.また,深層学習ニューラルネットワークなどを用いた「音声認識」が83件となっている.

 海外では,2018年7月8日から12日まで,第25回International Congress on Sound and Vibration(ICSV25)が,広島で開催された.14のテーマについて,82のセッションが組まれ,567件の講演論文と106件のポスターの発表がなされた.の伝播特性などに関するものが109件,アクティブ制御関係が87件,計測技術関係が70件となっており,シミュレーションと実験による解析が積極的に進められた.また,実験解析では,ビームフォーミングなどマイクロフォンアレイによる音源探査のさまざまな応用への取り組みが増加している.機械の騒音や振動の研究が増加傾向にあり,今後は深層学習が導入しやすい分野ではますます増加すると思われる.2019年はモントリオールで7月に行なわれる.

 2018年8月25日から30日まで,第48回国際騒音制御工学会議(Inter-Noise 2018)がシカゴで開催された.今回のテーマは「Impact of Noise Control Engineering」で,20のテーマについて76のセッションが組まれ,642件の講演論文と635件のポスター発表がなされた.講演では,建物関係の騒音・振動が101件で,室内の音響特性やエアコンなど設備による音伝播の予測や計測法が報告された.そのほか,音響計測に関するものが47件,材料に関するものが42件となっている.また,ABHを含む振動音響関係が56件と多くなっている.2019年はマドリッドで6月に開催される.

 最近注目を集めている2つの分野について,過去8年の論文および学会発表数の変化を図1に示す.メタマテリアル分野では,2015年まで緩やかに増加してきたが,2016年から急増し2018年には2015年の2倍以上となっている.さまざまな解析法が提案されるとともに,また電磁気によるアクティブな方法により広帯域,あるいは狭帯域の周波数に対する効果的な材料の開発が行われている(1)(2)ニューラルネットワーク深層学習の分野では,2016年から急増し,2015年の2.5倍ほどになっている.医療関係や機械のの分類(3)(4),音声認識(5)の研究がなされ,今後は音源探査など広い分野への応用が期待される.

図1 音響・振動関係の研究分野の動向
(著者によるScopusを用いた国内外の論文および学会発表の調査)

〔林 秀千人 長崎大学〕

参考文献

(1) Shuang Chen, Yuancheng Fan, Quanhong Fu, Hongjing Wu, Yabin Jin, Jianbang Zheng, Fuli Zhang, A Review of Tunable Acoustic Metamaterials, Applied Sciences, 8,1480,(2018)pp1-21.

(2) Giorgio Palma, Huina Mao, Lorenzo Burghignoli, Peter Goransson, Umberto Iemma, Acoustic Metamaterials in Aerovautics, Applied Sciences(2016), 8,971, pp.1-18.

(3) Yong Yao, Honglei Wang, Shaobo Li, Zhonghao Liu, Gui Gui, Yabo Dan, Jianjun Hu, End-To-End Convolutional Neural Network Model for Gear Fault Diagnosis Based on Sound Signals, Applied Sciences(2018), 8,1584, pp.1-14.

(4) Aslam M.A., Sarwar M.U., Hanif M.K., Talib R., Khalid U., Acoustic classification using deep learning, International Journal of Advanced Computer Science and Applications(2018), 9(8), pp. 153-159.

(5) Koizumi Y., Niwa K., Hioka Y., Kobayashi K., Haneda Y., DNN-Based source enhancement to increase objective sound quality assessment score, IEEE/ACM Transactions on Audio Speech and Language Processing(2018), 26(10), pp. 1780-1792.

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12.3 資源循環・廃棄物処理技術分野の動向

 持続可能な開発目標(SDGs)やパリ協定,その実施を見据えた富山物質循環フレームワークの採択等,国際社会は協調して資源効率性や3Rへ取り組む意思を示し,持続可能な社会の実現に向けて大きく動き出している.2017年12月に決定されたSDGsアクションプラン2018に続き,6月に拡大版SDGsアクションプラン2018,12月にSDGsアクションプラン2019が決定され,その内容は更に具体化・拡大されたものとなっており,食品廃棄物,海洋プラスチックごみ,再エネ・省エネ等も課題として挙げられている.また,第四次循環型社会形成推進基本計画が6月に閣議決定され,循環型社会の形成に関する施策の基本的な方針等が示され,廃棄物処理への取り組みについても示されている.

 食品廃棄物は,1人当たり年間約51kg(平成27年度)と推計され,食品業界,外食産業での取り組みや啓発活動等,その削減に向けた様々な施策が行われている.海洋プラスチックごみは,生態系に及ぼす影響から問題視され,世界全体での削減が求められている.中国が2017年末から非工業由来の廃プラスチック,2018年末から工業由来の廃プラスチックの輸入規制を行い,その受け皿となっていたアジア諸国でも輸入制限が行われており,使い捨てプラスチック対策をはじめとした3Rによる資源循環への取組みが求められている.
 ポリ塩化ビフェニル(PCB)廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法に基づき進められてきたPCB廃棄物の処理において,北九州事業エリアで2018年3月末に高濃度PCB含有の変圧器・コンデンサーの処分期間の末日を迎え.続いて2021年から2023年までに各地域でも順次,処分期間を終えることから,未処理のPCB廃棄物の調査や処理が急がれている.

 廃棄物処理法の改正内容が4月に,特定有害廃棄物等の輸出入等の規制に関する法律(バーゼル法)の改正内容が10月に施行され,対象物の明確化,輸入手続きの簡素化等が行われている.水銀廃棄物対策では,2017年10月の廃棄物処理法施行規則の改正内容の施行に続き,大気汚染防止法の改正内容が4月に施行された.これにより水銀の大気排出規制が開始され,各施設での対応が必要となっている.水銀対策技術については,排ガスの水銀の除去,水銀の挙動,廃棄物水銀の溶出に関する研究,開発が多く行われている.

 廃棄物処理分野における地球温暖化等の対策として,廃棄物発電の導入が引続き進められている.一般廃棄物焼却施設において,施設の総数は減少しているが,発電施設は2016年度の358施設から2017年度の376施設と増加しており,発電効率も2016年度の12.81%から2017年度は12.98%に増加している.ごみ処理量当たりの発電電力量としても2016年度の260kWh/トンから2017年度は273kWh/トンに増加している(1).発電施設の比率が増加しており,廃棄物発電の導入,高効率化が徐々に進んでいる傾向がみられる.近年,高効率な発電設備を備えた施設の建設に加えて中小施設での廃棄物発電の導入も進んでいる.高効率化の技術としては,過熱器管の高温腐食の調査や評価蒸気を使用しないボイラダスト除去の採用と実証等が行われている.また,バイオマス発電やメタン発酵と焼却の組み合わせによる発電への取組みも引続き行われている.

 6月に閣議決定された廃棄物処理施設整備計画では,計画期間中に整備されたごみ焼却施設の発電効率の平均値を19%(2017年度見込み)から21%(2022年度)とすることを目標としている.また,廃棄物処理施設整備計画では,廃棄物エネルギーの利活用に関する計画策定や,地域に新たな価値を創出する廃棄物処理施設の整備等の方向性が示されており,2017年3月の「廃棄物エネルギー利用高度化マニュアル」の策定に続き,廃棄物エネルギーの計画的な利活用推進のための「(仮称)廃棄物エネルギー利活用計画策定指針」の作成も行われている.エネルギーを利活用するとともに,防災拠点の役割を担わせる取組みも進められおり,これらの事例も徐々に増えてきている.

 近年のIT技術の発展にともない,廃棄物施設の運転,維持管理の安定化,最適化を図るために,情報通信技術(ICT)を利用した遠隔サポートセンター等で各施設を支援するシステムの導入が進められており,さらに人工知能やビッグデータ等を活用したシステムの開発,導入が増えている.

 災害廃棄物処理については,東日本大震災に伴う福島県内の災害廃棄物は,2018年12月末で約215万トンの処理が完了(約39万トンが焼却処理済,約135万トンが再生利用済,約21,600トンが埋立て処分済).仮設焼却炉は,福島県内9市町村10施設に対し,6施設が引続き稼動中,3施設は処理完了,1施設が建設中である.今後の最終処分を行うまでの中間貯蔵施設整備に向けた調整,準備も行われている.熊本地震では,2018年までの約2年間で当初の想定を大幅に超える約311万トンの災害廃棄物の処理を行った.2018年は,7月豪雨,台風21号,北海道胆振東部地震等の災害が続き,廃棄物処理体制等の課題も挙げられており,全国レベル,地域ブロックレベル,自治体レベルでの検討が進められている.

〔山本 充利 荏原環境プラント(株)〕

参考文献

(1)一般廃棄物処理事業実態調査の結果(平成29年度)について
環境省 環境再生・資源循環局 廃棄物適正処理推進課(2019), p9‐10.

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12.4 大気・水環境保全分野の動向

 2017年度における大気汚染状況の常時監視測定結果が,2019年3月に環境省から発表された(1).これは大気汚染物質6種と有害大気汚染物質21種に分けて,日本全国に存在する測定局での測定結果に基づき,環境基準や指針値に対する達成度をまとめたものであり,例年3月にその前年度の評価結果が公開されている.

 大気汚染物質6種には,微小粒子状物質(PM2.5),光化学オキシダント(Ox),二酸化窒素,浮遊粒子状物質(SPM),二酸化硫黄,一酸化炭素が含まれる.それらの測定局には,環境大気における汚染状況の常時監視を目的とする一般環境大気測定局(一般局)と,自動車排出ガスによる汚染状況の常時監視を目的とする自動車排出ガス測定局(自排局)の二種類があり,すべてを合わせておよそ二千局存在するが,各測定対象物質に対して有効測定局数は異なる.各物質の有効測定局の中でその測定値が環境基準等をクリアした測定局の割合が,その物質に関する達成率として定義される.

 微小粒子状物質(PM2.5)の環境基準は「1年平均値が15mg/m3以下であり,かつ,1日平均値が5mg/m3以下であること」と定義されており,その2017年度の環境基準達成率は一般局89.9%,自排局86.2%であった.2013年度以降で達成率の上昇傾向が続いているが,2016年度からの伸び率はやや停滞している.地域的には関東と関西の都市部および中国・四国地方の瀬戸内工業地域に環境基準を達成しない測定局が多い.東アジア地域では,日本における2017年度のPM2.5濃度の年平均値が11.6mg/m3であるのに対して,中国では47mg/m3,韓国では25mg/m3となっている.中国は直近5年間順調に減少傾向であるのに対して,韓国はやや停滞傾向にある.特に2018年,韓国都市部ではPM2.5濃度の上昇が指摘されており,予断を許さない状況にある.

 光化学オキシダント環境基準は「1時間値が0.06ppm以下であること」と定義されており,その2017年度の環境基準達成率は一般局と自排局と共に0%で,きわめて低い水準となっている.昼間の日最高1時間値の年平均値についても,1980年代からほとんど横ばいであり,抜本的な対策が望まれる.光化学オキシダントとは,光化学反応によって生じる大気中の酸化性物質の総称であり,そのほとんどはオゾンである.工場等からの直接の排出はなく,窒素酸化物NOx)や揮発性有機化合物(VOC)を前駆体として二次的に生成する有害物質であることが知られている.しかし,未把握のVOCの寄与や反応律速過程の複雑性などにより,オゾン生成の反応機構は未解明な部分も多く,具体的な排出削減の対策が打ち出せていない.地域的には,光化学オキシダント濃度0.12ppm以上を記録した測定局は関東と関西の都市部および中国・四国地方の瀬戸内工業地域に多く,また関東では周辺地域まで広く分布している.

 その他の大気汚染物質4種,すなわち二酸化窒素,浮遊粒子状物質(SPM),二酸化硫黄,一酸化炭素については,それぞれ100%に近い環境基準達成率が得られている.

 一方,有害大気汚染物質21種には,炭化水素化合物と重金属化合物の中から環境基準が設定されている物質4種,指針値が設定されている物質9種,環境基準等が設定されていないその他の有害大気汚染物質8種が含まれている.指針値とは,大気モニタリングの評価指標や事業者による排出抑制努力の指標としての機能が期待されるものである.その測定地点は4つの属性に分けられており,「一般環境」は固定発生源や自動車による直接的な影響が及びにくい地点,「固定発生源周辺」は事業所等の固定発生源近傍の地点,「沿道」は道路近傍の地点,「沿道かつ固定発生源周辺」はそれら両方に該当する地点として定義されている.2017年度において,環境基準が設定されている物質4種(ベンゼン,トリクロロエチレン,テトラクロロエチレン,ジクロロメタン)については,すべての地点で環境基準を達成していた.指針値が設定されている物質9種の中では,ニッケル化合物が固定発生源周辺1地点,ヒ素及びその化合物が固定発生源周辺5地点,マンガン及びその化合物が固定発生源周辺3地点で指針値を超過した.特にヒ素及びその化合物については,固定発生源周辺の全地点における平均値についても,過去20年間と比較して2014年度以降に高い値が続いており,注視する必要がある.

 水質汚濁防止法に基づく測定計画に従って国及び地方公共団体が実施した2017年度の公共用水域の水質測定結果が2018年12月に環境省から発表された(2).測定の対象となる環境基準項目は,カドミウムや全シアンなどの人の健康の保護に関する項目と,有機汚濁の代表的指標である生物化学的酸素要求量BOD)または化学的酸素要求量COD)や全窒素及び全リンなどの生活環境の保全に関する項目に分けられる.2017年度の測定結果では,健康項目については,これまでの工場・事業場に対する排水規制の強化等により,ほぼすべての地点で環境基準を達成している.生活環境項目については,排水規制や下水道等の排水処理施設の整備等の結果として,河川ではほとんどの水域で環境基準を達成しているが,湖沼の環境基準達成率は5割程度,海域の環境基準達成率は8割程度にとどまっている.たとえばBODまたはCODの年間平均値の推移に注目すると,河川では1980年年代にくらべて2017年度では半分以下まで減少したのに対して,湖沼では15%程度の減少にとどまり,海域ではほぼ停滞している.湖沼や閉鎖性海域への汚濁負荷量削減は今後一層の努力が必要である.

〔義家 亮 名古屋大学〕

参考文献

(1)平成29年度大気汚染状況について(報道発表資料,平成31年3月19日),環境省
https://www.env.go.jp/press/106609.html (参照日2019年4月8日)
(2)平成29年度公共用水域水質測定結果について(報道発表資料,平成30年12月25日),環境省
https://www.env.go.jp/press/106302.html (参照日2019年4月8日)

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12.5 環境保全型エネルギー技術分野動向

 2015年にフランス・パリで開催された気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)での地球温暖化対策の新枠組み「パリ協定」により,我が国は,二酸化炭素の国内の排出削減・吸収量の確保により,2030年度に2013年度比で二酸化炭素を26%減少することを中期目標とし,2050年度に2013年度比で二酸化炭素を80%減少することを長期目標としている.

 2018年7月の経済産業省資源エネルギー庁の第5次エネルギー基本計画(1)によると,2030年に向けたエネルギーの基本方針は,安全性(Safety)を前提とした上で,エネルギーの安定供給(Energy Security)を第一とし,経済効率性の向上(Economic Efficiency)による低コストでのエネルギー供給を実現し,同時に環境への適合(Environment)を図るため,最大限の取組を行い,この3E+Sの原則の下,エネルギー政策とそれに基づく対応を着実に進め2030年のエネルギーミックスの確実な実現を目指すとしている.また,2015年9月に国連で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」(2)においては,2030年までに,貧困や飢餓,エネルギー,気候変動,平和的社会など,持続可能な開発目標(SDGs)を達成すべく力を尽くすことも求められている.2017年度の発電端電力量(3)の内訳は,水力発電792億Kw(8.5%),火力発電7402億Kw(79.4%),原子力発電198億Kw(2.1%),新エネルギー発電725億Kw(7.8%)である.火力発電で,石炭火力発電,LNG火力発電,石油火力発電の占める割合は,それぞれ30.7%,42.4%,6.3%である.新エネルギー発電で,風力発電,太陽光発電,地熱発電,バイオマス発電,廃棄物発電の占める割合は,それぞれ0.8%,5.5%,0.3%,1.1%,0.2%である.2030年度のエネルギーミックスの目標値である水力発電8.8%,石炭火力発電26%,LNG火力発電27%,石油火力発電3%,原子力発電20~22%,風力発電1.7%,太陽光発電7.0%,バイオマス発電3.7~4.6%,地熱発電1~1.1%と比較すると,火力発電から新エネルギーへのシフトを計画的に推進していくことが不可欠である.

 急速なコストダウンが見込まれる太陽光発電のうち10Kw未満の住宅用太陽光発電は,2009年11月からスタートした余剰電力買取制度(2012年7月から「再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)」に継続)により順調に増加しているが,2019年からこの制度が順次終了していく.FIT切れの住宅太陽光発電設備に関しては,経済産業省より電気自動車の蓄電池利用(Vehicle to Home,V2H),家庭用蓄電池設置との共用が提唱されており,高性能低価格の蓄電池の開発が必要である.また,太陽光発電事業において環境保全問題が多数発生しており,土地利用別では森林での問題発生が多く,太陽光発電施設等に係る環境影響評価の基本的考え方に関する検討会(4)において,出力が4万Kw以上の大規模な太陽光発電事業は法アセスの対象になる予定である.

 地域との共生を図りつつ緩やかに自立化に向かう電源と位置付けられるバイオマス発電は,3E+Sの観点から,バイオマス発電に利用できる燃料を多様化することが求められている.また,再生可能エネルギーを主力電源としていくためには,発電を長期安定的に行うために,供給量の季節による変動が相対的に大きい国内の木材だけでなく,海外の木材やPKS(パーム椰子殻)等及び一定の新規燃料の活用が必要とされている(5)

 2017年度の産業,業務,家庭,運輸の各部門における2013年度比の二酸化炭素削減率は,それぞれ11.5%,12.5%,9.5%,4.9%である(6).業務・家庭部門の削減対策では,LEDの導入が最も大きく,次にトップランナー制度等によるエアコンや冷蔵庫,テレビ等の機器の省エネルギー性能向上が大きく貢献しているが,これらを実現してきた技術(圧縮機熱交換器,断熱,制御,LED等)の延長だけでは更なる省エネルギーは困難で,IoTAI,ビッグデータを活用し,機器間連携等による新たな省エネルギー技術の開発・普及の促進が重要とされている.ビルの徹底した省エネルギーを促進するためZEB(Zero Energy Building)の定義と評価方法が定義され(7),2020年までに新築公共建築物等で,2030年までに新築建築物の平均でZEBを実現することを目指している.住宅についても同様に,省エネルギーを促進するため2020年までに,ハウスメーカー,工務店等の新築注文戸建の過半数をZEH(Zero Energy House)化し,2030年までに新築住宅について平均でZEH相当となることを目指している.

〔近藤 明 大阪大学〕

参考文献

(1) 経済産業省資源エネルギー庁第5次エネルギー基本計画
https://www.enecho.meti.go.jp/category/others/basic_plan/#head(参照日2019年3月26日)
(2) 国連連合広報
https://www.unic.or.jp/activities/economic_social_development/sustainable_development/2030agenda/(参照日2019年3月26日)
(3) 電力広域的運営推進機関平成29 年度(2017 年度)年次報告書
https://www.occto.or.jp/houkokusho/2017/files/nenjihoukokusho_h29_171127.pdf(参照日2019年3月26日)
(4) 太陽光発電施設等に係る環境影響評価の基本的考え方に関する検討会
http://www.env.go.jp/policy/assess/5-14solarpower/index.html(参照日2019年3月26日)
(5) バイオマス発電について – 経済産業省
https://www.meti.go.jp/shingikai/santeii/pdf/043_03_00.pdf(参照日2019年3月26日)
(6) 2017年度(平成29年度)の温室効果ガス排出量(速報値)について
http://www.env.go.jp/press/106211.html(参照日2019年3月26日)
(7) ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の定義と評価方法
http://www.shasej.org/oshirase/1506/ZEB/shase_zebteigi201506.pdf(参照日2019年3月26日)

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