7. 流体工学
7.1 はじめに
7.2 可視化,計測
7.3 CFD
7.4 乱流
7.5 混相流
7.5.1 気液二相流/7.5.2 流体・固体混相流/7.5.3 界面現象
7.6 非ニュートン流体
7.7 圧縮性流れ
7.8 希薄気体
7.9 非平衡流
7.10 分子動力学
7.11 流体・構造連成問題
7.12 生体,生物
7.1 はじめに
流体工学は,機械工学に限らず航空・船舶・土木・建築・化学工学を含む広範な技術に関連する基盤的な学術分野のひとつである.さらに,物理・気象・海洋・天文などの理学や,医学・生物学・農学などでも流体力学は重要な役割を担っている.これらの関連諸分野における技術的な課題が機械工学のテーマとして扱われるようになり,それゆえ流体工学の範囲も拡大するばかりである.一方,支配方程式がある流体力学は概ね確立した学問領域であるという主張も聞かないではない.しかし,上述の諸問題は,乱流に代表される非線形現象,非平衡で複雑な界面現象,連続体近似が通用しないスケール,さまざまな連成問題の複数を同時に含んでおり,簡単にデータを提供したり単純な式でモデル化できたりするものはほとんどない.したがって,流体工学の新規課題は尽きることがない.
近年の流体工学研究の著しい特徴として,手法の融合を指摘することができる.理論,実験に対して数値計算が第三の研究手法の地位を確かなものにしたといわれて久しい.しかし,ますます複雑化する流体工学の課題に対して,理論,実験,計算のいずれかを単独で適用して満足できる結果を得ることは難しくなっている.最近ではEFD(Experimental Fluid Dynamics)とCFD(Computational Fluid Dynamics)の連携が盛んに試みられている.そのような流れに産学一体で対応するため,機械学会では研究協力事業委員会のもとに「流れの数値解析と実験計測の双方向連携に関する研究分科会(RC277)」が2018年4月に設置された.加えて,データ科学や機械学習との連携による新規手法の模索が議論されるようになり,流体工学もある種の転換期にさしかかっている感がある.例えば深層学習を採り入れた乱流モデルの開発や乱流の制御については多くの試みが既に論文化されている.一方で,社会の安全・安心に関わる技術を担う流体工学はV&V(Verification & Validation)に耐えられるものでなければならない.流体工学の目的は流れ現象の解明・予測・制御であるが,その基盤となるツールの新しい動向にも格別の注意を払って接してゆくことが必要であろう.
流体工学が扱う範囲は極めて多岐にわたるため,限られたスペースで網羅的に述べることは難しいが,本章では代表的な手法と研究対象とともに,特に流れと構造との連成問題や生体に関連する流れに関する2018年を中心に最近の研究動向が報告されている.
〔梶島 岳夫 大阪大学〕
7.2 可視化,計測
速度計測においてはTomographic PIV(以降,Tomo-PIVと略す)を中心とする速度の3次元3成分(3D3C)計測技術の普及が目覚ましく,2018年も多くの3D3C計測例が報告された.特に,運動する物体への適用例(1)(2),実スケールの自転車周りの流れ(3)など,より複雑・大規模な流れへの適用が進んでおり,計測技術の完成度が高まったといえる.また,従来からPIVなどで測定した速度の時間・空間分布からの流れ場の圧力分布評価が行われてきたが,Tomo-PIVの発展にともない圧力の3次元分布の評価も可能となり(1)(4),現象分析の有用なツールとなりつつある.PIVで測定した物体後流の速度分布からの物体に作用する抗力の評価も行われた(5).PIV計測とDNSとのデータ同化により精度よく圧力を評価する試み(6)や,Taylorの凍結仮説のもとTomo-PIVの瞬時速度分布データとVortex in Cell法を連携させて圧力の時間変動スペクトルを評価する試み(7)がなされるなど,数値シミュレーション技術と計測技術の連携による精度向上,データ分析手法の開発が進んでいる.また,速度分布データから界面張力,マランゴニ応力,界面活性剤濃度(8)ならびに界面活性剤の界面への吸着・脱離量(9)を評価した例など,速度計測データと物理法則を組み合わせることにより計測が困難な量を評価する試みがなされた.以上のように,速度分布データの3次元化,精度向上に伴い,測定データと物理法則に基づく数値処理を連携させて流れ場をより詳細に分析しようとする研究が進んでいる点が2018年の特徴の一つといえる.
PIVなどの光学的手法では測定が困難な不透明管路内流れや不透明流体における速度計測においては超音波を利用した計測手法が有用である.代表的な超音波による速度測定手法である超音波ドップラ法(UVP)に関しては,気泡流における気液両相速度測定においてPIVに近い精度を実現できる信号処理法(10)や,UVPを用いたレオロジー特性の評価において周波数領域での分析によりノイズ耐性を向上する手法も報告され(11),計測精度,信頼性向上が進んでいる.さらに,超音波イメージングに基づく速度計測(Ultrasonic Imaging Velocimery)に関しても精度向上に関する研究(12)(13)がなされ,不可視管路・流体・生体における現象の分析・理解への応用が広がると考えられる.
圧力計測で注目されている感圧塗料(Pressure Sensitive Paint: PSP)に関しては,時間応答性の向上が進み,1kHzを超える周波数帯まで測定した例(14)が報告された.また,SN比の向上・ノイズ低減処理により低速流れへの適用性も向上しており,10m/sを下回る空気流への適用例(15)も報告された.PSPの最近の進展については,Asai(16)が詳しい.
屈折率の空間分布に起因する背景画像の歪みを利用したBackground-Oriented Schleren(BOS)に関しては,自然対流の温度の定量評価(17)や火炎の瞬時3次元形状可視化(18)などが報告され,適用範囲が広がっている.
レーザ誘起蛍光(Laser-induced fluorescence)を用いた可視化・計測においては,平面における測定(Planer LIF: PLIF)から,複数のカメラで撮影した画像からの3次元再構成手法を利用した3次元分布計測(Volumetric LIF: VLIF)(19)へと進展している.
〔細川 茂雄 神戸大学〕
参考文献
(1) van der Meerendonk, R., Percin, M. and van Oudheusden, B.W., Three-dimensional flow and load characteristics of flexible revolving wings, Experiments in Fluids, Vol. 59 (2018), 161, DOI: 10.1007/s00348-018-2613-1.
(2) Mendelson, L., Techet, A., Multi-camera volumetric PIV for the study of jump fish, Experiments in Fluids, Vol. 59 (2018), DOI: 10.1007/s00348-017-2468-x.
(3) Jux, C., Sciacchitano, A., Schneiders, J.F.G. and Scarano, F., Robotic volumetric PIV of a full-scale cyclist, Experiments in Fluids, Vol. 59 (2018), 74, DOI: 10.1007/s00348-018-2524-1.
(4) Alekseenko, S.V., Abdurakipov, S.S., Hrebtov, M.Y., Tokarev, M.P., Dulin, V.D. and Markovich, D.M., Coherent structures in the near-field of swirling turbulent jets: A tomographic PIV study, International Journal of Heat and Fluid Flow, Vol. 70 (2018), pp. 363-379, DOI: 10.1016/j.ijheatfluidflow.2017.12.009.
(5) Baker, N.T., Bailly, D., Monnier, J.C., Leclaire, B. and Verbeke, C., Determining the different contributions to total mean drag from far-field wake PIV measurements, 19th International Symposium on the Application of Laser and Imaging Techniques to Fluid Mechanics, Lisbon, (2018).
(6) Suzuki, T., Chatellier, L., Jeon, Y.J. and David, L., Unsteady pressure estimation and compensation capabilities of the hybrid simulation combining PIV and DNS, Measurement Science and Technology, Vol. 29 (2018), 125305, DOI: 10.1088/1361-6501/aae6b7.
(7) Schneiders, J.F.G., Avallone, F., Pröbsting, S., Ragni, D. and Scarano, F., Pressure spectra from single-snapshot tomographic PIV, Experiments in Fluids, Vol. 59 (2018), 57, DOI: 10.1007/s00348-018-2507-2.
(8) Hosokawa, S., Masukura, Y., Hayashi, K. and Tomiyama, A., Experimental evaluation of Marangoni stress and surfactant concentration at interface of contaminated single drops using spatiotemporal filter velocimetry, International Journal of Multiphase Flow, Vol. 97 (2018), pp. 157 – 167.
(9) Hosokawa, S., Hayashi, K. and Tomiyama, A., Evaluation of adsorption of surfactant at a moving interface of a single spherical drop, Experimental Thermal and Fluid Science, Vol. 96 (2018), pp. 397-405, DOI: 10.1016/j.expthermflusci.2018.03.026.
(10) Wongsaroj, W., Hamdani, A., Thong-un, N., Takahashi, H. and Kikura, H., Extended short-time Fourier transform for ultrasonic velocity profiler on two-phase bubbly flow using a single resonant frequency, Applied Sciences (Switzerland), Vol. 9 (2018), 50, DOI: 10.3390/app9010050.
(11) Tasaka, Y., Yoshida, T., Rapberger, R. and Murai, Y., Linear viscoelastic analysis using frequency-domain algorithm on oscillating circular shear flows for bubble suspensions, Rheologica Acta, 57 (2018), pp. 229-240, DOI: 10.1007/s00397-018-1074-z.
(12) Leow, C.H., and Tang, M.X., Spatio-temporal flow and wall shear stress mapping based on incoherent ensemble-correlation of ultrafast contrast enhanced ultrasound images, Ultrasound in Medicine & Biology, Vol. 44 (2018), pp. 134-152, DOI: 10.1016/j.ultrasmedbio.2017.08.930.
(13) Ma, Z., Hu, W., Zhao, X. and Tao, W., A PTV method based on ultrasound imaging and feature tracking in a low-concentration sediment-laden flow, Measurement Science and Technology, 29(2) (2018), 025303, DOI: 10.1088/1361-6501/aa98c6.
(14) Sugioka, Y., Koike, S., Nakakita, K., Numata, D., Nonomura, T. and Asai, K., Experimental analysis of transonic buffet on a 3D swept wing using fast-response pressure-sensitive paint, Experiments in Fluids, Vol. 59 (2018), 108. DOI: 10.1007/s00348-018-2565-5.
(15) Zhou, W., Chen, H., Liu, Y., Wen, X. and Peng, D., Unsteady analysis of adiabatic film cooling effectiveness for discrete hole with oscillating mainstream flow, Physics of Fluids, 30 (2018), 127103, DOI: 10.1063/1.5046681.
(16) Asai, K., Unsteady Pressure-Sensitive Paint: A Review and Recent Developments, 2018 AIAA Aerospace Sciences Meeting, AMT-04 PSP Workshop (Invited), (2018).
(17) Vinnichenko, N.A., Pushtaev, A.V., Plaksina, Y.Y., Rudenko, Y.K. and Uvarov, A.V., Horizontal convection driven by nonuniform radiative heating in liquids with different surface behavior, International Journal of Heat and Mass Transfer, 126 (2018), pp. 400-410, DOI: 10.1016/j.ijheatmasstransfer.2018.06.036.
(18) Grauer, S.J., Unterberger, A., Rittler, A., Daun, K.J., Kempf, A.M. and Mohri, K., Instantaneous 3D flame imaging by background-oriented schlieren tomography, Combustion and Flame, 196 (2018), pp. 284-299, DOI: 10.1016/j.combustflame.2018.06.022.
(19) Wu, Y., Xu, W. and Ma, L., Kilohertz VLIF (volumetric laser induced fluorescence) measurements in a seeded free gas-phase jet in the transitionally turbulent flow regime, Optics and Lasers in Engineering, 102 (2018), pp. 52-58, DOI: 10.1016/j.optlaseng.2017.10.004.
7.3 CFD
特に機械工学での計算流体力学(CFD)では,有限体積法や有限要素法に代表されるようなオイラー的解法と,SPH(Smoothed Particle Hydrodynamics)法やMPS(Moving Particle Simulation)法に代表されるようなラグランジュ的解法に大きく分類することができる(1).特に低マッハ数の単相流については,ナビエ・ストークス方程式に対して非構造格子を用いたオイラー的解法が成熟しており,ターボ機械等の様々な流体機械の解析に適用されるとともに(2),市販CFDソフトにも組み込まれ(3),産業分野での普及も進んでいる.現在この分野では,アルゴリズムの開発自体には大きな進展は見られず,高レイノルズ数条件や物体移動問題における壁面近傍の扱い,即ち壁モデル(4)や,埋め込み境界モデル(5)の研究が盛んである.一方,これらの手法の欠点は,非構造格子に対して高い並列性能を維持したまま高次精度の補間の適用をすることが困難な点にあり,この点を補う方法として,近年,不連続ガレルキン法(6)やスペクトルエレメント法が精力的に研究され,発表論文も多い(例えばレビュー論文(7)).これに対して機械工学でもニーズの高い混相流や燃焼流れに対しては,界面に対する捕獲法や物理モデリング等,解決すべき課題も多く,精力的に研究が進められている.オイラー的解法における境界捕捉法の代表であるレベルセット法については,2018年にこの分野を牽引する著名研究者によるレビュー論文が出された(8).一方,特に混相流れに対しては,オイラー的解法に対してラグランジュ解法の有用性が認められ,様々な流れ場に適用されるとともに(9),新たな手法も提案されている(例えば参考文献(10)(11)(12)).また,これらの解法に対して,流体を格子気体でモデル化し,統計力学に基づく流体運動方程式を用いて解析する格子ボルツマン法は,特に混相流への適用が盛んであり(13),手法の改良も進んでいる(14).
このような流体現象解明のためのシミュレーションとそのアルゴリズム開発といった旧来のCFD研究に対して,最近では流体の支配方程式に代表される非線形偏微分方程式の解析に,機械学習や深層学習を適用するといったデータ科学を融合させる研究も報告されつつある(15)(16).こういったデータ科学分野の研究は日進月歩で進んでおり,文献の引用数も高い.
毎年11月に開催されるアメリカ物理学会流体力学部門年会(APS/DFD)は,アメリカのみならず全世界から著名な流体力学研究者が三千人以上集う世界最大規模の流体力学の会議である.2018年度は,約40パラレルのべ320程度のセッション規模で,アトランタで開催された.このうち,一般的なCFDのセッションは,「アルゴリズム」,「超並列化」,「埋め込み境界条件」,「不確かさ評価」,「不連続ガレルキン法」,「LBM&SPM」,「一般」,「応用」の8セッションに留まっていた.一方,CFDによる解析結果は,不安定性,乱流,混相流,反応流,空力音響,生物流れ,地球流体といった分野で,実験や理論に並んで盛んに報告されており,流体力学の進展にもはやCFDが無くてはならないものとなっていることがわかった.さらに,特に乱流,燃焼流,及び混相流の分野では,壁面や界面の捕捉法や壁モデルの開発等,CFDの手法と検証に関するセッションがのべ十数件組まれ,各ターゲットに特化した解決すべき多くの課題があることもがわかる.またここでも,機械学習とデータ科学に関するセッションが3件組まれており,この分野への関心の高さがうかがわれた.
CFDの進歩は,ハードウェアであるコンピュータの歴史とともにあった.日本のフラッグシップスパコンとして2012年に共用が開始された京コンピュータは,2019年の夏をもって運用を停止するが,この間,CFDについても数多くの成果が生み出された.機械工学に関わる大規模CFDの産業応用という観点からは,ターボ機械,自動車,船舶,航空機,燃焼器といったターゲットに対して乱流のLES(Large Eddy Simulation)を適用することで,実験代替としての目途が立った他,実験ではそもそも行えない実運転環境下でのリアルワールド評価への道が開けた(HPCI戦略プログラム「分野4 次世代ものづくり」(17)).2021年の共用開始を目指して開発が進むポスト京コンピュータでは,新たなコンピュータアーキテクチャとしてArm命令セットを採用し,4コアメモリグループ/48計算コアでノードが構成される予定である.このような次世代CPUと超並列環境でCFDの性能を最大限に引き出すには,既存のCFDアルゴリズムのチューニングに留まらず新たなデータ構造の採用(18)も視野に入れるべきであり,現在,ポスト京重点課題8「近未来型ものづくりを先導する革新的設計・製造プロセスの開発」(19))等で研究が進められている.
〔坪倉 誠 神戸大学〕
参考文献
(1)Tu, J., Yeoh, G. H., & Liu, C., Computational fluid dynamics: a practical approach (2018), Butterworth-Heinemann
(2)萩谷 功, 加藤 千幸, 山出 吉伸, 深谷 征史, 長原 孝英, 不安定特性発生時の斜流ポンプ動翼内部流れの時間変化, 日本機械学会論文集 84 巻 857 号 (2018) pp. 17-00363. DOI: 10.1299/transjsme.17-00363.
(3)西尾 宣俊, 稲葉 真一, 吉田 雄太, 佐藤 暁拓, 田向 剛, 高木 哲郎, 飯田 誠, CFDによるラチス式風況観測塔の風速補正手法に関する考察, 日本機械学会論文集 84 巻 862 号 (2018), pp. 18-00042. DOI: 10.1299/transjsme.18-00042.
(4)Catchirayer, M., Boussuge, J. F., Sagaut, P., Montagnac, M., Papadogiannis, D., & Garnaud, X., Extended integral wall-model for large-eddy simulations of compressible wall-bounded turbulent flows, Physics of Fluids, 30(6) (2018), 065106
(5)Kor, H., Badri Ghomizad, M., Fukagata, K, Extension of the unified interpolation stencil for immersed boundary method for moving boundary problems, 13(2) (2018), Pages JFST0008. DOI: 10.1299/jfst.2018jfst0008.
(6) Tavelli, M., & Dumbser, M., Arbitrary high order accurate space?time discontinuous Galerkin finite element schemes on staggered unstructured meshes for linear elasticity, Journal of Computational Physics, 366 (2018), pp.386-414.
(7)Xu, H., Cantwell, C. D., Monteserin, C., Eskilsson, C., Engsig-Karup, A. P., & Sherwin, S. J., Spectral/hp element methods: Recent developments, applications, and perspectives, Journal of Hydrodynamics, 30(1) (2018), pp. 1-22.
(8)Gibou, F., Fedkiw, R., & Osher, S., A review of level-set methods and some recent applications, Journal of Computational Physics, 353 (2018), 82-109.
(9)Kondo, S., Mamori, H., Fukushima, N., Fukudome, K., & Yamamoto, M., Numerical simulation of solidification phenomena of single molten droplet on flat plate using E-MPS method, 13(3) (2018), Pages JFST0013. DOI: 10.1299/jfst.2018jfst0013.
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(11) 松永 拓也, 柴田 和也, 越塚 誠一, MPS法における境界積分を用いたポリゴン壁境界表現, 日本機械学会論文集 84 巻 864 号 (2018), pp. 18-00197. DOI: 10.1299/transjsme.18-00197.
(12) Li, Z., Bian, X., Tang, Y. H., & Karniadakis, G. E., A dissipative particle dynamics method for arbitrarily complex geometries. Journal of Computational Physics, 355 (2018), pp. 534-547.
(13) 澤田 純平, 吉野 正人, 鈴木 康祐, 改良二相系格子ボルツマンシミュレーションによる雲内における2つの微小水滴が接近する際の挙動解析, 日本機械学会論文集 84 巻 861 号 (2018), pp. 18-00023. DOI: 10.1299/transjsme.18-00023.
(14) Fei, L., & Luo, K. H., Cascaded lattice Boltzmann method for incompressible thermal flows with heat sources and general thermal boundary conditions, Computers & Fluids, 165 (2018), pp. 89-95.
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(17) http://www.ciss.iis.u-tokyo.ac.jp/supercomputer/
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7.4 乱流
2018年も乱流に関する多くの研究が行われた.ここでは,おもにJournal of Fluid Mechanics(JFM)に出版された論文を紹介しつつ,その研究の動向を概観する.
2016年以降に発表されたJFMの論文のうち本稿を執筆時で最も引用関数が多い論文は,機械学習を用いた乱流モデルに関する文献(1)である.言うまでもなく,機械学習は乱流研究に限らず現在最も注目を集める研究手法であり,しかも乱流モデル,乱流の予測と制御,乱流中の構造抽出に関する研究との相性は良さそうである.実際,国内外の学会では多くの関連研究の発表が行われた.たとえば,日本流体力学会年会2018では特別セッション「機械学習の流体力学への応用」において乱流に関する研究が発表され活発な議論が行われた.その一方で,2018年にJFMに出版された機械学習やデータ科学の手法を用いた乱流研究は,強化学習の応用による構造抽出(2),クープマン解析の応用(3),統計力学の手法との融合(4)などにとどまる.
また,近年注目を集めてきた研究課題として亜臨界乱流遷移が挙げられる.実際,Barkleyの2016年のレビュー(5)は上述の(1)についでよく引用されているが,一連の研究(2018年に出版されたものとしては(6)などが挙げられる)は成熟期に入った印象もある.
もちろん,大規模な直接数値計算が年を追うごとに容易になってきたことで,壁乱流や自由せん断乱流(参考文献(7)(8)など)に関する研究の進展は依然として著しい.とくに壁乱流に関しては,対数層が捉えられる程度に高いレイノルズ数の直接数値計算が容易になったために,大規模実験装置や粒子画像流速測定に代表される計測法の充実とも相まって,急速にその動力学や統計の解明が進んでいる.その中で,2018年にはJiménezによる100頁に及ぶレビュー(9)が出版され研究の成熟が伺えるが,乱流境界層の数値計算(10)や実験(11)(12),平行平板間乱流(13)(14),ダクト内乱流(15)に関する研究など多数の論文も出版された.
一方,近年公表される論文数が顕著であるのは混相乱流に関するものである.これは単相乱流の研究が成熟しつつあることと,従来までの実験に加えて混相流に対する多くの数値計算手法が確立されたことによる(詳細は7.5.2節を参照).2018年も多くの研究が行われ,実際,JFMに公表された乱流関係の300編程度の論文中で混相乱流に関するものは少なくとも一割以上ある.この中には従来から行われたきた慣性粒子群の終端速度に関する実験(16)や,鉛直平行平板間中の慣性粒子群による乱流変調の数値計算(17)などに加えて,有限の大きさをもつ粒子の数値計算が目立つ(参考文献(18)(19)(20)など).さらに,非球形粒子の乱流中の挙動(21),多孔質壁や弾性壁上の乱流(22),風波乱流(23)に代表される界面を伴う乱流などの研究も今後の進展が予想される.
上述のように,現在の乱流研究は大規模な数値計算や実験によるところが大きいが,理論研究の進展も見られた.具体的には,乱流中のエネルギー輸送(24)-(26),速度勾配テンソルに関する解析(27)(28),完結理論(29)(30),乱流の統計力学的手法を用いた記述(31)(32),2次元乱流の理論(33)などが挙げられる.ところで,大規模な数値計算が容易になったことに加えて,ジョンズ・ホプキンズ大学の乱流データベース(34)に代表されるように,誰でも自由にそのデータを利用できるようになったこと,また,大規模データ解析の手法が整ったことを考えると,乱流の理論研究も転換期にあるのかもしれない.
〔後藤 晋 大阪大学〕
参考文献
(1)Ling, J., Kurzawski, A., Templeton, J., Reynolds averaged turbulence modelling using deep neural networks with embedded invariance, Journal of Fluid Mechanics, Vol.807, (2016), pp.155–166. DOI: 10.1017/jfm.2016.615.
(2)Jiménez, J,. Machine-aided turbulence theory. Journal of Fluid Mechanics, Vol.854, (2018), R1. DOI: 10.1017/jfm.2018.660.
(3)Giannakis, D., Kolchinskaya, A., Krasnov, D., Schumacher, J., Koopman analysis of the long-term evolution in a turbulent convection cell. Journal of Fluid Mechanics, Vol.847, (2018), pp.735–767. DOI: 10.1017/jfm.2018.297.
(4)Khodkar, M. A., Hassanzadeh, P., Data-driven reduced modelling of turbulent Rayleigh–Bénard convection using DMD-enhanced fluctuation–dissipation theorem. Journal of Fluid Mechanics, Vol.852, (2018), R3. DOI: 10.1017/jfm.2018.586.
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(6)Mukund, V., Hof, B,. The critical point of the transition to turbulence in pipe flow. Journal of Fluid Mechanics, Vol.839, (2018), pp.76–94. DOI: 10.1017/jfm.2017.923.
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(9)Jiménez, J., Coherent structures in wall-bounded turbulence. Journal of Fluid Mechanics, Vol.842, (2018), P1. DOI: 10.1017/jfm.2018.144.
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(34)Johns Hopkins Turbulence Database (JHTDB), Johns Hopkins University
http://turbulence.pha.jhu.edu/ (参照日2019年4月1日)
7.5 混相流
7.5.1 気液二相流
日本機械学会論文集及びJournal of Fluid Science and Technologyにおいて発表された混相流関連研究のなかでも,気液二相流を対象とした例として以下のものがある.Sanadaら(1)は,壁面に設けた円柱型空洞に液滴列を衝突させ,空洞から気相が排出されて液相で満たされる過程を詳しく観察している.Ishiharaら(2)は,静止水中単一気泡が壁面に衝突して液膜が破れるまでの過程を観察し,壁面の濡れ性によって液膜破断の時定数が大きく異なることを指摘している.Nakashimaら(3)は,90°曲げノズルから生成された冷却油噴流の挙動を調べている.
第96期流体工学部門講演会では,気泡・液滴・界面及び混相流の多次元可視化計測のセッションが設けられ,壁面に衝突する液滴の挙動(4)(5)やマイクロバブルによる乱流変調(6)などに関する最新の研究成果が報告されている.また,流体のセッションでは高分子溶液中気泡の界面に生じるマイクロスケール構造(7)に関する興味深い研究が報告されている.日本混相流学会混相流シンポジウム2018や日本流体力学会年会2018でも多くの研究事例が報告されているほか,欧州流体力学会議(EFMC)や米国機械学会流体工学部門夏季会議(FEDSM)などの国外会議でも気泡,液滴,濡れ性などに関するセッションが設けられており,混相流の守備範囲の広さと研究の活発さがうかがえる.
International Journal of Multiphase Flowは混相流関連の論文を幅広く掲載している.2018年はノズルから射出された噴流の微粒化に関する論文が多く発表されており,理論(8),実験(9),数値計算(10)に関する報告があるが,特に数値計算を用いたものが多い.管内二相流としては,非ニュートン流体の層状流の安定性を理論的に考察した研究(11),環状流及びチャーン流における界面活性剤の影響(12),静電容量トモグラフィを用いた大口径管内空気−高粘度液相系環状流の流動特性に関する研究(13),水平管内空気−高粘度液相系スラグ流における砲弾型気泡の運動に関する研究(14),リブ付き鉛直管内環状流の流動特性をレーザ誘起蛍光法により調べた研究(15)などがあり,非ニュートン流体,界面活性剤,高粘度液体,大口径・非平滑管など,管内二相流の知見を広げる試みがなされている.また,キャビテーションに関する研究例も多く見受けられる.Wuら(16)は,翼周りのキャビテーション流れの非定常挙動について実験と数値計算の両面から検討しており,キャビテーション領域の成長・放出と圧力変動の相関について論じている.彼らの数値計算は非定常RANSに基づいている一方,Longら(17)はLESを用いてre-entrant jetによってシートキャビティが切断されるに至る過程を詳細に検討している.その他,流体機械内におけるキャビテーション気泡崩壊による壊食可能性の評価を数値計算により試みた研究(18)などが報告されている.
Journal of Fluid Mechanics, Physics of FluidsやPhysical Review Fluidsなどの学術誌においても,気泡,液滴や接触線のダイナミクスに関する研究が多数報告されている.これらの雑誌を通じて,壁面や液面への液滴衝突に伴う液相飛散に関する研究例が多い(例えば参考文献(19)(20)).また,Yamamotoら(21)の接触線運動に関する研究や,Kamatら(22)の液膜破断に関する研究のように,電場や界面活性剤の影響下での界面ダイナミクスを対象とした研究例も多く見受けられる.その他,位相コントラストX線イメージングを用いたノズル内キャビテーション可視化(23)や気泡間相互作用を考慮したキャビテーションモデル(24)などキャビテーション現象の把握とモデリングに関する種々の試みと進展も報告されている(25)(26).
〔林 公祐 神戸大学〕
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7.5.2 流体・固体混相流
近年注目を集めている粒子混相流れの問題設定として,非圧縮の流体・固体混相流のうち非質点粒子による乱流変調,特に粒子径Dが単相流れの最小渦スケール(コルモゴロフ長η)と同程度の場合がある.粒子混入による乱流強度の低下が著しく(1),特徴的な沈降の様子が観察されている(2).一般に,粒子と流れ,特に粒子と乱流渦の相互作用を理解するためには,粒子の運動と乱流渦構造の双方が適切な時空間解像度で解かれていなければならず,多くの場合はηを基準に空間格子幅Δを決定する.しかし,Dとηが同程度の場合には,流れの中のすべての空間スケールを解像する数値計算は現実的ではない.というのも,粒子表面に発達する速度境界層から発達する流れのスケールは事前に予測するのが困難で,往々にして粒子を入れる前の乱流渦スケールη0に対して粒子を入れた後の最小流れスケールの方が,粒子サイズ(すなわちη0と同程度)よりも小さいため,より小さな格子を用意し直さねばならなくなるからである(3)(4).このような問題設定で乱流渦をとらえつつ計算コストを抑えるため,Δをη0と同程度に固定した数値計算法に関心が高まっている.そのためには,粒子から流体および流体から粒子への「双方向(two-way)」の作用を考える手法,すなわちtwo-way couplingモデルが必要であるため,非質点粒子に作用する流体力と流体が粒子から受ける反作用力の推定に関する研究へ注目が集まっているようなトレンドが見られる.
2018年の流体・固体混相流の研究では,粒子に作用する流体力と流体が粒子から受ける反作用力の推定に関して目覚ましい進展があった.以下では,粒子が受ける流体力,およびその反作用力について,過去の研究を追いながら,2018年を中心とした近年の進展について紹介する.
粒子に作用する流体力はしばしば様々な効果(定常抵抗,応力勾配力,付加質量力,履歴力,その他の外力)の和として表現される.各効果は,粒子近傍において,粒子によって「乱されていない流れ」の情報を元にモデル化されることがあり,質点モデルを中心にこの考え方が発展してきた.考えている系の粒子体積率がきわめて低い場合には,粒子の存在は流れに影響を与えないと仮定するone-way coupling(5)(6)が適用可能である.この場合は粒子によって流れが乱されないので,流体力を予測することは容易であり,one-wayの乱流を解像する混相解析も従来より行われている.ところが,粒子体積率が10-4を超えてくると粒子が流体に与える影響は無視できなくなり,two-way coupling(6)(7)への切り替えが必須であり,粒子に作用する流体力とその反作用力の推定が求められる.にもかかわらず,過去の多くの研究(たとえば参考文献(8)-(12))では,two-way couplingにおける流体力をone-wayのときと同様に求めている.すなわち,粒子は格子スケールよりも小さいと仮定して,粒子が乱した効果は無視してしまうのである.しかし,いかに小さい粒子であっても,その粒子が生成する乱れ成分が流れと粒子に与える影響は重要であることが指摘されている(13).
もはや質点とみなせないサイズの粒子については,この乱れを考慮した流体力を推定することは本質的である(ここではモデルを用いないで粒子のまわりの流れを直接計算する「埋め込み境界法」などの高解像計算については除外する).この問題の質点粒子にはない難しさは,たとえば流体抵抗係数を算出する際には,粒子位置において粒子が無い場合の背景流れ(無擾乱流れ)の速度を推定せねばならないことである.2016年と2018年にHorwitz and Mani(14)(15)によって乱れた流れから無擾乱流れによる流体抵抗を推測する手法がたてつづけに発表された.彼らが提案した方法は粒子径がD〜ηの場合に有効であることが報告されている(16).
Ireland and Desjardins(17)およびEsmaily and Horwitz(18)も無擾乱流れの速度場を推測する方法を独立に提案している.Balachandarら(19)は,独自の体積平均法によって周波数応答から無擾乱流れを再構成するユニークな方法を提案している.Fukadaら(20)は,擾乱流れから(無擾乱流れを再構成することをやめ)直接流体力を算出する新しい視点を示し,さまざまな粒子サイズに適用可能なモデルを提案した.
一方,粒子から流体への反作用モデルには,粒子サイズと表面応力分布の効果を採り入れたモデルが必要であり,それらは従来多く用いられてきた質点粒子モデルに基づくtwo-way couplingには考慮されていない(16)(21).粒子の大きさの影響が陽的に顕れるD〜ηの問題設定では,粒子表面における応力分布は重要な意味を持ち,それを流れ場にどのように反映させるかが焦点となってきた.これまでの乱流解像の混相解析では,流れ場は(暗黙のうちに)各格子点上で空間平均されているとみなされてきた.その際,多くの場合は運動量の検査体積と同じとみなされている(22).しかし,これらが一致する必然性はなく,むしろ異なる平均化を通して反作用力の定義に自由度を増やし,高い精度と計算効率を両立できることがFukadaら(23)(24)によって示された.彼らは外力で駆動される渦群の中を運動する粒子について,この手法を適用したところ高解像度計算結果と極めて良い一致を示し,一方で計算負荷は10-4倍であった(24).局所体積平均の考え方がもつ利点は,粒子から流体への反作用力に,粒子表面における非一様な流体力(剪断由来)を反映することができる点である.上でも述べたように,Balachandarらも質点粒子の解析において局所体積平均を採用しているように,その有効性は乱流と粒子の相互作用を解像する混相解析への新展開といえる.
圧縮性粒子混相流では,Nagataら(25)(26)によって,一様流中に置かれた単一固定球形粒子に対して,一様流のマッハ数や粒子の表面温度,強制粒子回転などの幅広い範囲にわたって抵抗係数・揚力係数および後流の渦構造に及ぼす影響が調べられた.この研究は,今後の流体力および反作用力の深い理解へとつながると期待される.
〔竹内 伸太郎 大阪大学〕
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DOI: 10.1017/jfm.2018.756.
7.5.3 界面現象
界面や壁面での熱・物質移動を促進させることが多くの工業機器において性能や効率の向上のための重要な課題となる.近年の表面加工技術や固気液三相流動の実験・数値解析技術の発達により,機器内の界面現象を解析し,最適な壁面形状の選択や壁面の濡れ性の制御等により,性能/効率向上を目指す試みが数多くなされている.また近年,特異なぬれ特性を有する高機能表面の創成や,特異なぬれ特性を生かした新しい技術の開発が見覚ましい.本稿では,最近特に注目されているこれらのトピックを中心として,2018年の研究・開発動向について報告する.
2018年における工業装置内の界面現象の解析例として,水の電気分解装置における電極への気泡の付着・離脱挙動(1)や回転円盤型微粒化装置における溝付円盤からの液滴生成過程(2),熱交換器における疎水・親水交互加工面の凝縮液滴の運動挙動(3)(4),CO2吸収装置内の液膜流のドライアウトを抑制する流路形状の最適化(5)などがある.また,高度な表面加工技術を利用した高機能表面の開発例としては,微細な溝やしわの加工により異方的な濡れ特性を有する表面を作成した例(6)-(10)や表面層の相転移等により疎水性と撥水性の可逆変化を可能した例(11)(12)などがある.さらに,このような高機能表面を利用した,Lab on a chip(LOC),もしくはμ-total analysis system(μ-TAS)と呼ばれる技術が注目されており,この技術に関する報告数が急増している.LOCでは,試薬の溶液や生物分泌液の液滴をチップ上に置き,この液滴の運動を制御して混合させたり,分配させたりするなどして,極微量での化学合成や医療検査を行う.液滴駆動法として,誘電体膜をコートした壁面に電圧を印加して部分的に濡れ性を向上させるElectrowetting on dielectric(EWOD)と呼ばれる方法が最も良く用いられており,2018年には,電圧印加時の接触線の移動抵抗に関する実験的な検討(13),液滴移動時の加速や変形の数値解析と理論解析(14),液滴の分裂やパルス電圧印加による液滴の跳躍運動の数値解析(15)(16),ロータス効果による超撥水面におけるEWOD効果に関する検討(17)(18)などがなされている.EWOD以外の液滴運動制御法として,異方的な表面粗上の液滴に壁面振動を組み合わせる方法(19)や磁力を利用した制御法(20)なども検討されている.今後も高機能表面の創成やそれを利用した技術の進展が期待される.
〔脇本 辰郎 大阪市立大学〕
参考文献
(1) 梅原大輔,平井秀一郎,アルカリ水電解における気泡挙動とイオン輸送・反応の連成数値シミュレーション,日本機械学会論文集, Vol.84, No.865 (2018), 18-00040. DOI: 10.1299/transjsme.18-00040.
(2) 伊澤精一郎,磯 拓朗,西尾 悠,福西 祐,円板型及びカップ型回転霧化機における液糸形成と液滴分裂,日本機械学会論文集, Vol.84, No.862 (2018), 18-00132. DOI: 10.1299/transjsme.18-00132.
(3) 徳永敦士,鶴田隆治,疎水・親水マイクロ複合伝熱面の凝縮熱伝達促進効果,日本機械学会論文集, Vol.84, No.865 (2018), 18-00149. DOI: 10.1299/transjsme.18-00149.
(4) Dey, R., Gilbers J., Baratian D., Hoek H., van den Ende D., Mugele, F., Controlling shedding characteristics of condensate drops using electrowetting, Applied Physics Letters, Vol. 113, No.24 (2018), 243703.
(5) 加藤健司,徐 昌慶,磯良行,池田諒介,脇本辰郎,側壁を有する流路壁面を流下する液膜流れのぬれ特性,混相流, Vol.32, No.1 (2018), pp.35-42.
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(8) Yun, DH., Park, JH., Gwak, CY., Ma, YW., Shin, BS., A study on the change of wettability according to the direction of micro-patterned copper film surface using continuous-wave laser, Nanoscience and Nanotechnology Letters, Vol.10, No.9 (2018), pp.1301-1304.
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(10) Parihar, V., Bandyopadhyay, S., Das, S., Dasgupta, S., Anisotropic electrowetting on wrinkled surfaces: Enhanced wetting and dependency on initial wetting state, Langmuir., Vol.34, (2018), pp.1844-1854.
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(12) Yilbas, BS., Ali, H., Al-Sharafi, A., Al-Aqeeli, N., Droplet dynamics on a hydrophobic surface coated with N-octadecane phase change material, Colloids and Surfaces A-Physicochemical and Engineering Aspects, Vol. 546 (2018), pp.28-39.
(13) Vo, Q., Tran, T., Contact line friction of electrowetting actuated viscous droplets, Physical Review E, Vol.97, (2018), 063101
(14) Yamamoto, Y., Ito, T., Wakimoto, T., Katoh, K., Numerical and theoretical analyses of the dynamics of droplets driven by electrowetting on dielectric in a Hele-Shaw cell, Journal of Fluid Mechanics, Vol.839 (2018), pp.468-488.
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(16) Islam, MA., Tong, AY., A numerical study on electrowetting-induced droplet detachment from hydrophobic surface, Journal of Heat Transfer Transactions of the ASME, Vol. 140, No. 5 (2018), 052003
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(18) Chamakos, NT., Karapetsas, G., Papathanasiou, AG., Effect of substrate topography, material wettability and dielectric thickness on reversible electrowetting, Colloids and surfaces A Physicochemical and Engineering Aspects, Vol.555 (2018), pp.595-604.
(19) Holmes, HR., Bohringer, KF., Transport velocity of droplets on ratchet conveyors, Advances in Colloid and Interface Science, Vol. 255 (2018), pp. 18-25
(20) Rigoni, C., Ferraro, D., Carlassara, M., Filippi, D., Varagnolo, S., Pierno, M., Talbot, D., Abou-Hassan, A., Mistura, G., Dynamics of ferrofluid drops on magnetically patterned surfaces, Langmuir, Vol. 34, No. 30 (2018), pp. 8917-8922
7.6 非ニュートン流体
2018年における非ニュートン流体に関連する研究の動向について概観する.はじめに,国際的な動向について紹介する.2018年には,主な国際会議としてPacific Rim Conference on Rheology(PRCR) 2018(Jeju, Korea)(1),The 90th Annual Meeting of The Society of Rheology(Houston, USA)(2),Annual European Rheology Conference 2018(Sorrento, Italy)(3)などが開催され,非ニュートン流体および複雑流体に関連するオーガナイズドセッション(OS)が企画されている.例えば,PRCR2018では,「Non-Newtonian Fluid Mechanics & Microfluidics」のOSで16件の口頭発表が行われた.これは11セッションあるOSの中で3番目に多い発表件数であった.続いて,学術雑誌関連に目を向ける.流体分野の著名な国際学術誌のひとつであるPhysics of Fluidsの現在の編集長A. J. Giacominは高分子流体のレオロジー分野の著名な研究者であり,編集委員や諮問委員にも多くの非ニュートン流体,レオロジー分野の研究者が加わっている.2018年の第3号では,「Papers from HSR 2017 − 8th International Meeting of the Hellenic Society of Rheology」と題した特集(4)が組まれ,1編のInvited Letterと11編のInvited Articlesが掲載されるなど,近年,非ニュートン流体や複雑流体に関連した論文の数が増加している傾向が見られる.また,2018年のAnnual Review of Fluid Mechanics(5)では,掲載論文26編中,5編がタイトルまたはキーワードに非ニュートン流体またはそれに関連する複雑流体,レオロジーを含まれるものであった.
国内では,日本機械学会年次大会,日本機械学会流体工学部門講演会,レオロジー討論会,日本流体力学会年などにおいて関連のOSが企画されている.それらのOSは長年にわたり企画されているものであり,非ニュートン流体に関する研究が継続的に研究者の関心を集める研究分野となっていることがうかがえる.日本機械学会年次大会のOS「複雑流体の流動現象」では18件の講演が行われており,当該分野の研究の活発さが感じられる.
研究対象に関しては,降伏応力やチキソトロピー性を有する粘塑性流体が注目される(6).これらの特性は古くから知られており,これまでに多くの研究がなされてきたが,近年再び活発に研究がなされているように見受けられる.Journal of Non-Newtonian Fluid Mechanicsのホームページでは,virtual special issueの形で2018年に掲載された関連分野の論文が集められている(7).降伏応力やチキソトロピー性は比較的高濃度の粒子分散系やゲル状物質などでしばしば見られる特性で,例えば,ドラッグデリバリーや再生医療で利用されるインジェクタブルゲル(8)(9),3Dプリンターを用いた複雑構造の成形(10)やセメント基材の大型構造物の成形(11)などにおいて,これらの特性を考慮することの重要性が認識され,研究が進められている.
〔山本 剛宏 大阪電気通信大学〕
参考文献
(1) PRCR2018, The Korean Society of Rheology,
http://www.prcr2018.org(参照日2019年3月18日)
(2) The 90th Annual Meeting of the Society of Rheology, The Society of Rheology,
https://www.rheology.org/sor/Annual_Meeting/2018Oct/(参照日2019年3月18日)
(3) AERC2018, The European Society of Rheology,
https://rheology-esr.org/aercs/aerc2018/(参照日2019年3月18日)
(4) Physics of Fluids, Volume 30, Issue 3 (2018), Table of Contents, AIP Publishing
https://aip.scitation.org/toc/phf/30/3(参照日2019年3月18日)
(5) Annual Review of Fluid Mechanics, Vol.50 (2018), A Nonprofit Scientific Publisher
https://www.annualreviews.org/toc/fluid/50/1(参照日2019年3月18日)
(6) Joshi, Y.M. and Petekidis, G., Yield stress fluids and ageing, Rheologica Acta, Vol.57, Issues 6-7 (2018), pp.521-549.
(7) Viscoplastic Fluids from Theory to Application 7, Journal of Non-Newtonian Fluid Mechanics, Elsevier
https://www.sciencedirect.com/journal/journal-of-non-newtonian-fluid-mechanics/special-issue/10WT2L7070H(参照日2019年3月18日)
(8) Hernandez, H.L., Grosskopf, A.K., Stapleton, L.M., Agmon, G. and Appel, E.A., Non-Newtonian polymer-nanoparticle hydrogels enhance cell viability during injection, Macromolecular Bioscience, Vol.19, Issue 1 (2019), 1800275.
(9) Jian, H., Wang, M., Wang, S., Wang, A., Bai, S., 3D bioprinting for cell culture and tissue fabrication, Bio-Design and Manufacturing, Vol.1, Issue 1 (2018), pp.45-61.
(10) Grosskopf, A.K., Truby, R.L., Kim, H., Perazzo, A., Lewis, J.A. and Ston H.A., Viscoplastic matrix materials for embedded 3D printing, ACS Applied Materials and Interfaces, Vol. 10, No. 27 (2018), pp.23353-23361.
(11) Buswell, R.A., Leal de Silva, W.R., Jones, S.Z., Dirrenberger, J., 3D printing using concrete extrusion: A roadmap for research, Cement and Concrete Research, Vol.112 (2018), pp.37-49.
7.7 圧縮性流れ
2018年に掲載された圧縮性流れに関する論文はscopusでは480件あまり検索される.ここでは,機械工学の分野に関係が深く,被引用件数が多い論文を中心に紹介する.
先ず,2018年のAnnual Review of Fluid Mechanicsには,極超音速機の推進装置(スクラムジェットエンジン)における超音速燃焼に関して,地上試験や飛行試験,および,数値シミュレーションによる研究のレビュー文献(1)と界面で熱力学的性質が不連続的に変化する圧縮性2相流・マルチマテリル流に対する拡散界面モデルのレビュー文献(2)が掲載されている.前者の超音速機や極超音速機に関する研究は近年盛んに行われており,2018年にもそれら関連して,スクラムジェットエンジンの流入境界条件に関する研究(3),超音速燃焼(デトネーション)のシミュレーションによる研究(4)や実験とシミュレーションによる研究(5),ジェットノイズに関する研究(6)(7),衝撃波と乱流の干渉に関する研究(8),凸面での衝撃波のレギュラー反射からマッハ反射への遷移に関する研究(9)など,多くの論文が掲載された.
また後者の圧縮性2相流・マルチマテリアル流に関連する論文としては,高密度比で強い衝撃波を伴う圧縮性2相流のシミュレーションに関する研究(10),現実的な状態方程式を用いた多成分系圧縮性流れのシミュレーションに関する研究(11),安定条件が厳しいマルチフィジックス(乱流・反応・2相流)圧縮性流れのスキームに関する研究(12),任意の状態方程式に対応可能な全速度(非圧縮性/圧縮性)解法に関する研究(13),圧縮性VOF法に関する研究(14),均一混合モデルによる気泡の凝縮シミュレーションに関する研究(15),実在気体効果を考慮した超臨界二酸化炭素流れのシミュレーションに関する研究(16)などが掲載された.
圧縮性流れに対するスキームの提案も多く成された.例として,保存則を満たす多次元近似リーマン解法を用いたラグランジェ・ガラーキン法の提案(17)を初めとする様々なガラーキン法の提案(18)(19),ENO法に対する新しい非線形重みの提案(20),化学種の保存を考慮した圧縮性反応流に対する埋め込み境界法の対案(21),乱流のモデリングを考慮した境界適合領域と埋め込み境界領域のカップリング法の提案(22),移動変形境界を伴う圧縮性反応流に対するカットセル法の提案(23),全速度(非圧縮/圧縮性)流れを対象とした直接シミュレーション法の提案(24)などが有る.
そのほか,圧縮性流れに基づく解法を用いたものとして,弾性管内流れの解析(25)や水撃の解析(26),および,フランシス水車の解析(27)(28)などが有る.特にフランシス水車の解析(27)では,非圧縮性流れ解析と圧縮性流れ解析で得られたデータを測定データと比較した結果,圧縮性流れ解析の方が優れていると結論づけている点は非常に興味深い.
〔森西 晃嗣 京都工芸繊維大学〕
参考文献
(1) Urzay, J., Supersonic Combustion in Air-Breathing Propulsion Systems for Hypersonic Flight, Annual Review of Fluid Mechanics, Vol.50 (2018), pp.593-627, DOI: 10.1146/annurev-fluid-122316-045217.
(2) Saurel, R., Pantano, C., Diffuse-Interface Capturing Methods for Compressible Two-Phase Flows, Annual Review of Fluid Mechanics, Vol.50 (2018), pp.105-130, DOI: 10.1146/annurev-fluid-122316-050109.
(3) Choubey, G., Pandey, K.M., Effect of variation of inlet boundary conditions on the combustion flow-field of a typical double cavity scramjet combustor, International Journal of Hydrogen Energy, Vol.43, No.16 (2018), pp.8139-8151, DOI: 10.1016/j.ijhydene.2018.03.062.
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7.8 希薄気体
隔年で開催されている希薄気体力学国際会議の第31回目(RGD31)が2018年7月に英国Glasgowで開催され(1),希薄気体力学に関連する分野の最新の研究成果が持ち寄られた.希薄気体力学(分子気体力学,気体分子運動論)の伝統的な応用先である航空宇宙工学の話題に加えて,最近では,マイクロ・ナノ気体流,真空工学,多孔質内気体輸送など様々な分野の研究報告がある.格子ボルツマン法とその応用に関する話題も増えている.当該分野を長年にわたってけん引したG. A. Bird氏(Direct Simulation Monte Carlo(DSMC)法で著名)とE. P. Muntz氏(衝撃波やKnudsenポンプ(熱駆動非機械型ポンプ)等,理論,実験の両面で著名)が逝去されたこともあり,RGD31では両先生をしのぶ特別セッションが冒頭に設けられた.冒頭のセッションでは確率解法であるDSMC法の統計ノイズ低減に関する講演,Knudsenポンプや衝撃波構造の測定に関する講演があった.また,RGD31における目新しい試みとして,従前よりも多い4件の基調講演が企画されたことがあげられる.4件の講演は,近代化されたモーメント法,気体論スキーム,非平衡流れを利用した膜生成実験,および極超音速希薄気流を扱ったものである.他にも11種類のセッションをカバーする11件の招待講演があり,それぞれが概ね今後の分野発展の方向性を示す内容であった.
近年は,気液2相問題を中心に,分子動力学計算の援用や実在気体効果を考慮できるエンスコグ方程式に基づく数値計算により,気体運動論の枠組みに新しい光を当てようとする試みが広がっている.一方,航空宇宙工学に関連する応用目的では,化学反応(解離,電離を含む)を伴う系のモデル化を精緻化する努力が地道に続けられている.
上述の国際希薄気体力学会議は理論研究から数値,実験研究までをカバーし,数理科学から物理,工学に至る分野横断的特徴をもっている.しかしどちらかといえば,工学,物理からの研究者の参加が主体である.そこで,最後に数理科学,数理工学上の最近の動向を紹介する.
分子運動論の分野では基礎理論の研究がなお活発で,小規模だが有力な理論家を集めた研究集会が米国,欧州,中国で盛んに開かれている.こうした動向を背景に,台北で開かれたAIMS国際会議(2)(参加人数1600人規模)では,分子運動論とその応用にかかわる複数のセッションが企画された.アジア諸国だけでなく,欧米諸国からも多くの参加者が集まった.全体で12件あった基調講演のうち,2件は分子運動論の手法を生物流体に応用したものだったことも印象的である.
また,数理科学上のひとつの大きな関心は,多粒子系からBoltzmann方程式を導く難題へと徐々に向かっている.この古くて新しいトピックスではLanfordによる数学的証明が有名である.だが,実はこの証明は極めて短い時間の間しかカバーできていないらしい.現在の関心は,この短すぎる時間的制約を取り除くことにある.
〔高田 滋 京都大学〕
7.9 非平衡流
流体力学は,流体の速度と熱力学的状態変数だけを用いて記述される巨視的な保存則(質量・運動量・エネルギー保存則)に支配される.その他の変数が現れない理由は,流体力学が扱う諸現象において,分子集団の統計的速度分布が局所平衡分布すなわち局所マックスウェル分布に十分に近いためである.マックスウェル分布が流体の密度と流体の速度と温度だけで確定すること,および,局所平衡状態であれば,それらの変数だけを用いて巨視的な保存則が記述されることが,流体力学を巨視的変数に対する閉じた力学系として確立させる根拠となっている.局所平衡の仮定が満たされない場合には,分子集団の速度分布のマックスウェル分布からのずれを無視できなくなり,同時に密度と温度は熱力学的状態変数としての意味を失い,結果として巨視的保存則だけでは力学系を閉じさせることができなくなる.このような流れが非平衡流とよばれる.非平衡流はさまざまな状況で現れるが,その発現の多様性のため,一般的な取扱いや体系的な議論は,ごく限られた分野を除けば,全く手が付けられていない.理想気体に近い系とそこを起点とする拡張に関しては,希薄気体力学の分野において,確固とした数学的基礎づけの上に研究が展開されている(7.8節).一方,高々10の6乗個程度の比較的単純な分子からなる比較的単純な流動系に関しては,分子動力学の方法による非平衡流の解析が鋭意取り組まれている(7.10節).以下では,7.8節と7.10節との過度の重複を避けつつ,近年の非平衡流の興味深い研究成果のいくつかを取り上げる.
非平衡流において,基本的な熱力学状態変数だけでは力学系を閉じないという問題を回避する方法として,巨視的な保存則を維持しながら,そこに新たな従属変数を追加することは古くから行われている(1).粘性が作用しない超流動ヘリウムII相の流動に対して,非平衡熱力学を援用しつつ,熱流を新たな変数として導入する方法(2)も,そのひとつとみなされる.
高分子,ゲル,コロイドなどのいわゆるソフトマターにおいては,流体力学的スケールよりは小さいメゾスコピックなスケールの力学が重要となることがある.ここでも非平衡性は重要な役割を果たすが(3)-(5),基礎方程式を定式化するための物理法則の理解はいまだ十分ではなく,微視的モデルからメゾスコピックモデルを導出する試みを蓄積する段階にある(6).
そもそも問題の空間スケールが分子サイズであれば,現時点では分子動力学にその解析を頼らざるを得ない.そのような研究は近年では数えきれないほどあるが(7),得られた解がどこまで正しいかは,継続的に注意深い検証を重ねる必要があろう.その意味で,分子動力学計算におけるゆらぎの統計的性質と熱力学第2法則の局所的破れを論じる研究(8)や,熱浴が非平衡分子動力学計算に与える影響の考察(9)などの基礎的な研究にも注目すべきであろう.
〔矢野 猛 大阪大学〕
参考文献
(1)Lyras, K., Dembele, S., Schmidt, D. P., Wen, J. X., Numerical simulation of subcooled and superheated jets under thermodynamic non-equilibrium, International Journal of Multiphase Flow 102, pp.16-28; DOI: 10.1016/j.ijmultiphaseflow.2018.01.014
(2)Mongiovì, M. S., Jou, D., Sciacca, M., Non-equilibrium thermodynamics, heat transport and thermal waves in laminar and turbulent superfluid helium, Phys. Rep. 726 (2018) 1–71; DOI: 10.1016/j.physrep.2017.10.004
(3)Bandi, M. M., Tension grips the flow, J. Fluid Mech. (2018), vol. 846, pp. 1–4. DOI:10.1017/jfm.2018.301.
(4)van der Gucht, J., Grand challenges in soft matter physics, Front. Phys., volume 6, article 87; DOI: 10.3389/fphy.2018.00087.
(5)Saengow, C., Giacomin, A. J., Thermodynamic instability of polymeric liquids in large-amplitude oscillatory shear flow from corotational Maxwell fluid, Fluid Dyn. Res. 50 (2018) 065505; DOI: 10.1088/1873-7005/aad6a7.
(6)Han, Y., James F. Dama, J. F., Voth, G. A., Mesoscopic coarse-grained representations of fluids rigorously derived from atomistic models, J. Chem. Phys. 149, 044104 (2018); DOI: 10.1063/1.5039738.
(7)Cao, W., Wang, J., Ma M., Mechano-nanofluidics: water transport through CNTs by mechanical actuation, Microfluidics and Nanofluidics (2018) 22:125; DOI: 10.1007/s10404-018-2147-0.
(8)Raghavan, B. V., Karimi, P., Ostoja-Starzewski, M., Stochastic characteristics and Second Law violations of atomic fluids in Couette flow, Physica A 496 (2018) 90–107; DOI: 10.1016/j.physa.2017.11.007.
(9)Ruiz-Franco J., Rovigatti, L., Zaccarelli, E., On the effect of the thermostat in non-equilibrium molecular dynamics simulations, Eur. Phys. J. E (2018) 41: 80; DOI 10.1140/epje/i2018-11689-4.
7.10 分子動力学
本分野は機械工学のコミュニティでは流体工学,および熱工学の研究者が携わるものの一つであるが,後者の多くが参加する日本伝熱シンポジウム講演論文集総覧(1)によれば,初めて分子動力学法(以下MD)を用いた研究発表があったのは1988年であり,その後の1992年に「分子動力学」と銘打ったセッションが設定され現在に至っており,既に四半世紀ほどの歴史がある.熱流体を扱うMDの標準的なテキストといえるAllen & Tildesleyの”Computer Simulation of Liquids”(2)の初版は1987年であり,機械系という枠組みでこの手法が紹介されたのは,世界的に見ても早い段階であったと考えられる.同シンポジウムにおいて継続的に設定されているこのセッションでは,カーボンナノチューブの解析や近年の燃料電池を前提とした解析などの発表があり,時代に即したナノスケールの個別の現象に関して幅広い知見が得られてきた.一方で,熱流体工学の本流ともいえる連続体ベースの保存則と,ミクロスケールの分子の挙動の接続については様々な研究発表はあったものの,私見ではあるが,系統的に議論されてきたとは言い難いと思われる.この要因はいくつかあるが,熱流束,応力といった連続体の保存則を構成する基本的な流束の概念,あるいは熱力学の状態量であるエントロピーや自由エネルギーをミクロスケールの観点から算出することの難しさがあったと考えられる.
近年は,LAMMPS(3), GROMACS(4)など無料,有料の分子動力学解析のパッケージソフトが充実してきており,過去には実装の難しかった多原子分子,高分子などの複雑な構造をもつ分子の取扱い,あるいは長距離相互作用の取扱いなども含めて,ある種の系を設定し,ブラックボックス的に分子シミュレーションを実行すること自体は容易になりつつある.今後は,先述のようなナノスケールの個別の現象を再現し,そこから各論的に知見を得るという発見型の研究は,これらのパッケージソフトを用いたものに集約されつつ継続していくと考えられ,2018年に中国,北京で開催された伝熱関係の最大の学会の一つであるInternational Heat Transfer Conference 16(5)では,このような研究発表も多くみられた.この点はFLUENT(6)などのパッケージを用いた数値流体解析(CFD)が一般的となったことと共通している.ただし,MDは分子間相互作用が多岐多様であるため一般性の高いコードがより煩雑となる一方で,正しい解を得ることの難易度はマクロの流体解析と比較して低いという点はCFDとは大きく異なる.また厳密に正しい時間発展の必要性についても,アンサンブル平均を時間平均で代用しているという観点(2)に立てば,少なくとも平衡系に関しては,長時間の時間発展を正確に解くことに重きが置かれていないともいえる.
もう一つの方向性としては,ミクロの運動に支配される界面を含む不均質系において,MDを用いて局所的な状態量,流束,および界面張力を含む物性を解析する手法を一般化することにより,ナノ・マイクロスケールの系の熱流体挙動を制御,設計する足掛かりとすることであろう.実際には,前記を「MDを用い,不均質系において,局所的な」という限定を除いて見直せば,非平衡を含む統計力学の目的そのものである.すなわち,位相空間内での密度分布からエントロピー,自由エネルギーを表すことは統計力学の基本原理であり,平衡点近傍の非平衡系や,平衡系のゆらぎからから輸送係数を抽出することは,線形応答理論,揺動散逸関係と置き換えられる.ただし,これら理論的な取扱いの多くはバルクを前提として構築されたものであり,現代の高速な計算機の助けを借りてこれを不均質系,非平衡系に拡張するのがMDを用いたナノスケールの熱流体解析のひとつの道筋と考えられる(7).このような観点に立つ研究として,2018年の第55回日本伝熱シンポジウム(8),流体力学会年会2018(9),第32回数値流体シンポジウム(10)などの国内会議では,特に気泡崩壊時の圧力分布や,検査面を通過する運動量流束としての応力,熱流束の抽出と,これを介した界面張力,界面熱抵抗の算出などについて活発な議論があった.特に,流体力学会年会2018(9)では,本分野で顕著な実績を有するドイツ,Darmstadt工科大学のMüller-Plathe教授による招待講演が開かれ,流束を境界条件としたMD解析についての発表と質疑応答があった.
〔山口 康隆 大阪大学〕
参考文献
(1) 社団法人日本伝熱学会創立50周年記念 DVD (2012).
(2) Allen, M.P. and Tildesley, D.J., Computer Simulation of Liquids, Oxford Science Publication (1987).
(3) S. Plimpton, Fast Parallel Algorithms for Short-Range Molecular Dynamics, J. Comp. Phys., Vol.117 (1995), pp.1-19.
https://lammps.sandia.gov/index.html (参照日2019年4月10日)
(4) http://www.gromacs.org/ (参照日2019年4月10日)
(5) 16th International Heat Transfer Conferece (IHTC 16) (2019).
https://www.ihtc16.org/ (参照日2019年4月10日)
(6) ANSYS Fluent.
https://www.ansys.com/ja-jp/products/fluids/ansys-fluent (参照日2019年4月10日)
(7) Evans, D.J. and Morriss, G., Statistical Mechanics of Non-Equilibrium Liquids, Academic Press (1990).
(8) 第55回日本伝熱シンポジウム.
http://htsj-conf.org/symp2018/index.html (参照日2019年4月10日)
(9) 流体力学会 年会2018.
http://www2.nagare.or.jp/nenkai2018/ (参照日2019年4月10日)
(10) 第32回数値流体力学シンポジウム. http://www2.nagare.or.jp/cfd/cfd32/ (参照日2019年4月10日)
7.11 流体・構造連成問題
流体・構造連成に関する研究対象は,柔軟な構造物や膜を含む生体力学の問題や,実際の機械における連成振動の問題など多岐にわたる.ここでは,数値シミュレーションの利用による研究の動向を概観する.
流体,構造の力学を数値的に扱う場合,それぞれの運動は,通常,オイラー型,ラグランジュ型の手法に基づき離散化される.連成シミュレーションを実現するには,物理現象の違いだけでなく,数値的扱いの違いに起因する課題を解決する必要がある.特に,大変形を伴う構造物や膜を含む系の計算手法については,今なお,高精度化,大規模化,機能強化の観点での検討が進められ,より高度な方法が提案されている.埋込境界法に基づく方法では,流体・超弾性体の連成を正確にする工夫を施し,低い自由度で高精度な計算を実現する方法が提案された(1)(2).また,非ニュートン流体と超弾性体/膜の連成方法(3)(4),流体よりも密度の低い弾性体を含む系に対して数値的安定化をはかる方法(5),流体・膜連成において滑りなし条件を正確に課し,質量・運動量の保存性を保証する離散化方法(6)などが報告された.完全オイラー型の連成法では,phase-field法により,剛体・弾性体・流体の接触線力学の効果を捉える計算手法が開発され,壁面に衝突する超弾性体が反発,もしくは,接着に至る過程を捉えられることが示された(7).また,階層型メッシュを用いるbuilding-cube法により,流体・構造物の界面付近の状態を詳細メッシュにより正確に解像しつつ,高い並列化効率で大規模計算を実現する方法(8)や,血管損傷壁への血小板接着に関して,マーカー粒子を用いてリガンド・レセプター結合を扱う手法が提案された(9).
流体・構造/膜連成に伴う現象の本質を探る基礎研究に関して,理想化された壁面せん断流れを対象とする数値計算が行われている.2018年度においては,例えば,超弾性体粒子群のレオロジー特性に関して,粒子が誘起する付加的な応力や,粒子変形に伴い顕在化する擬塑性の影響が明らかになった(10).また,狭いマイクロチャネルの中を流れる赤血球の形状に対する膜面弾性の影響が報告された(11).さらに,血流中の微小粒子に関して,分散挙動に対する赤血球の影響(12)や,壁面接着に対する弾性,結合強度の影響(13)(14)について報告された.
血管の弾性変形を伴う血流に関しては,今世紀に入ってから,流体・構造連成計算が盛んに行われている.2018年度においては,例えば,大動脈弁の開閉と,フラップ運動に伴う拍動噴流形成について,詳細解析が報告された(15).また,医用画像に基づく患者個別の血管形状を用いる連成シミュレーションが積極利用されており,例えば,大動脈瘤を人工血管に置換した場合の血流計算が報告された(16).個別データを利用する計算手法は,一層の高度化が進められており,特に,無負荷状態の基準配置における血管形状を推定する方法により,弾性変形の動力学を適切に扱う血流計算が可能となった(17)(18).
昆虫規範の飛行体の設計開発に関して,翼の変形を伴う数値的研究により,飛行の力学における流体・構造連成の重要性が示されている.例えば,板バネの羽ばたきにより誘起される流動と,それに伴う翼の強制振動を考慮した連成計算が行われ,大きな揚力の発生をもたらす仕組みが考察された(19).また,スズメガのホバリングを模擬した連成計算が行われ,飛行性能に対する翼の変形の影響が考察された(20).
水力機械の分野においては,2018年9月に,水車に関して最大規模の国際会議 IAHR Symposium on Hydraulic Machinery and Systemsが同志社大学で開催された(21).流体・構造連成問題に関するOS「Hydraulic / Mechanical and Fluid / Solid Interactions」では,14件の発表が行われ,ロータ・ステータ干渉により発生する圧力脈動と構造物の応答(22),放出渦に伴う構造振動(23),ねじり振動に対する付加質量と減衰効果(24)など,数値的な研究成果の報告があった.また,当該分野の専門誌では,波力発電に対する流体・構造連成手法の解説記事(25)や,自励振動に至るロータダイナミック流体力に対する漏れ流れと公転の影響の分析報告(26)が掲載された.実際の機械の設計開発において,振動による悪影響を評価し,高度な対策を講じる上で,連成計算ソフトウェアの積極利用が進んでいる.
〔杉山 和靖 大阪大学〕
参考文献
(1)Casquero, H., Zhang, Y.J., Bona-Casas, C., Dalcin, L. and Gomez, H., Non-body-fitted fluid.structure interaction: Divergence-conforming B-splines, fully-implicit dynamics, and variational formulation, Journal of Computational Physics, Vol. 374 (2018), pp. 625-653, DOI: 10.1016/j.jcp.2018.07.020.
(2)Cai, Y., Wang, S., Lu, J., Li, S. and Zhang, G., Efficient immersed-boundary lattice Boltzmann scheme for fluid-structure interaction problems involving large solid deformation, Physical Review E, Vol. 99 (2019), No. 023310, DOI: 10.1103/PhysRevE.99.023310.
(3)Kefayati, GH.R., Tang, H. and Chan, A., Immersed Boundary-Finite Difference Lattice Boltzmann method through interaction for viscoplastic fluids, Journal of Fluids and Structures, Vol. 83 (2018), pp. 238-258, DOI: 10.1016/j.jfluidstructs.2018.09.007.
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(6)Takeuchi, S., Fukuoka, H., Gu, J. and Kajishima, T., Interaction problem between fluid and membrane by aconsistent direct discretisation approach, Journal of Computational Physics, Vol. 371 (2018), pp. 1018-1042, DOI: 10.1016/j.jcp.2018.05.033.
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(8)Nishiguchi, K., Bale, R., Okazawa, S. and Tsubokura, M., Full Eulerian deformable solid-fluid interaction scheme based on building-cube method for large-scale parallel computing, International Journal for Numerical Methods in Fluids, Vol. 117 (2019), pp. 221-248, DOI: 10.1002/nme.5954.
(9)Ii, S., Shimizu, K., Sugiyama, K. and Takagi, S., Continuum and stochastic approach for cell adhesion process based on Eulerian fluid-capsule coupling with Lagrangian markers, Journal of Computational Physics, Vol. 374 (2018), pp. 769-786, DOI: 10.1016/j.jcp.2018.08.002.
(10)Rosti, M.E. and Brandt, L., Suspensions of deformable particles in a Couette flow, Journal of Non-Newtonian Fluid Mechanics, Vol. 262 (2018), pp. 3-11, DOI: 10.1016/j.jnnfm.2018.01.008.
(11)Takeishi, N., Ito, H., Kaneko, M. and Wada, S., Deformation of a red blood cell in a narrow rectangular microchannel, Micromachines, Vol. 10 (2019), No. 199, DOI: 10.3390/mi10030199.
(12)Hyakutake, T. and Yano, K., Numerical simulation on effect of red blood cell motion on flow behavior of liposome-encapsulated hemoglobin, International Journal for Computational Methods in Engineering Science and Mechanics, Vol. 19 (2018), pp. 314-323, DOI: 10.1080/15502287.2018.1502837.
(13)Coclite, A., Pascazio, G., de Tullio, M.D. and Decuzzi, P., Predicting the vascular adhesion of deformable drug carriers in narrow capillaries traversed by blood cells, Journal of Fluids and Structures, Vol. 82 (2018), pp. 638-650, DOI: 10.1016/j.jfluidstructs.2018.08.001.
(14)Ye, H., Shen, Z. and Li, Y., Interplay of deformability and adhesion on localization of elastic micro-particles in blood flow, Journal of Fluid Mechanics, Vol. 861 (2019), pp. 55-87, DOI: 10.1017/jfm.2018.890.
(15)Chen, Y. and Luo, H., A computational study of the three-dimensional fluid.structure interaction of aortic valve, Journal of Fluids and Structures, Vol. 80 (2018), pp. 332-349, DOI: 10.1016/j.jfluidstructs.2018.04.009.
(16)Jayendiran, R., Nour, B. and Ruimi, A., Computational interaction analysis of blood flow on patient-specific reconstructed aortic anatomy and aneurysm treatment with Dacron graft, Journal of Fluids and Structures, Vol. 81 (2018), pp. 693-711, DOI: 10.1016/j.jfluidstructs.2018.06.008.
(17)Sasaki, T., Takizawa, K. and Tezduyar, T.E., Aorta zero-stress statemodeling with T-spline discretization, Computational Mechanics, (2019) (published online), DOI: 10.1007/s00466-018-1651-0.
(18)Sasaki, T., Takizawa, K. and Tezduyar, T.E., Medical-image-based aorta modeling with zero.stress.state estimation, Computational Mechanics, (2019) (published online), DOI: 10.1007/s00466-019-01669-4.
(19)Ishihara, D., Role of fluid-structure interaction in generating the characteristic tip path of a flapping flexible wing, Physical Review E, Vol. 98 (2018), No. 032411, DOI: 10.1103/PhysRevE.98.032411.
(20)Nakata, T., Noda, R. and Liu, H., Fluid-structure interaction enhances the aerodynamic performance of flapping wings: a computational study, Journal of Biomechanical Science and Engineering, Vol. 13 (2018), No. 17-00666, DOI: 10.1299/jbse.17-00666.
(21)http://www.iahrkyoto2018.org/index.html (参照日2019年4月8日)
(22)Braun, O., Horisberger, B., Ruchonnet, N., Taruffi, A. and Gehrer, A., Validation of CFD analysis of acoustic effects in pump-turbine, 29th IAHR Symposium on Hydraulic Machinery and Systems, (2018) No. 339.
(23)Nennemann, B. and Monette, C., Prediction of vibration amplitudes on hydraulic profiles under von Karman vortex excitation, 29th IAHR Symposium on Hydraulic Machinery and Systems, (2018) No. 78.
(24)Soltani Dehkharqani, A., Aidanpaa, J., Engstrom, F. and Cervantes, M.J., Fluid added polar inertia and damping for the torsional vibration of a Kaplan turbine model runner considering multiple perturbations, 29th IAHR Symposium on Hydraulic Machinery and Systems, (2018) No. 188.
(25)Zullah, M.A. and Lee, Y.-H., Review of fluid structure interaction methods application to floating wave energy converter, International Journal of Fluid Machinery and Systems, Vol. 11 (2018), pp. 63-76, DOI: 10.5293/IJFMS.2018.11.1.063.
(26)Nishimura, H., Sugiyama, K., Tsujimoto, Y. and Koyama, H., Theoretical estimates of rotordynamic fluid forces on a front shroud of Francis turbine caused by leakage flow, International Journal of Fluid Machinery and Systems, Vol. 11 (2018), pp. 344-356, DOI: 10.5293/IJFMS.2018.11.3.344.
7.12 生体,生物
バイオメカニクス分野最大の国際会議は,四年に一度,サッカーのワールドカップと同じ年に開催される.2018年はアイルランドの首都ダブリンにて,8th World Congress of Biomechanicsが開催された.バイオメカニクス分野全体の傾向としては,分子や細胞を対象とする研究が増加を続けているが,流体工学に関する研究では,依然,循環器系の血流解析に対する関心も高く,例えば,動脈瘤に関するセッションが2日間に渡って開催されている.その他では,微小循環,マイクロフルイディクス,流体力学刺激と細胞応答,肺内気流などのセッションが開催された.以下,関連の論文誌に発表されたものを中心に,最近行われている研究について紹介する.
生体・生物流体の代表的な研究課題である血流の数値流体力学(CFD)解析では,イメージベースト患者個別モデリングが主流である.患者個別モデリングでは,血管形状の再構築,境界条件の設定,CFDソルバーの選択など自由度が高く,解析結果のばらつきが問題となる.多くの研究グループを動員し,共通の課題をそれぞれ計算して比較検討するプロジェクトが実施されており,2018年には,「International Aneurysm CFD Challenge」の最新の結果が発表された(1)(2).脳動脈瘤に作用する壁せん断応力(WSS)の空間平均値の場合(ただし動脈のWSSで規格化する),研究グループ間のばらつきは約30%であった.心臓血管系は,循環器学会と機械学会双方の主要な大会でジョイントセッションが開催されるなど,医工連携が進められている研究分野である.今後,4D flow MRIによる血流解析やデータ科学とCFD解析が融合することによって,一層の進展が期待される.
微小循環系では,血液の主要な構成成分である赤血球の存在を無視できなくなる.赤血球挙動に関する実験や数値解析も流行している研究課題の一つであるが,単体挙動については実験,数値解析ともに収束に向かっており(3),最近は,集団挙動に関する研究が増加している.例えば,壁面間のせん断流れでは,壁面から赤血球に作用するリフトと赤血球間の流体力学的相互作用により,赤血球が整列することが報告されている(4).また,実際の微小血管網を模擬して,管径6μmから24μmの138本の微小血管と45箇所の分岐部からなる血管形状モデルを構築し,赤血球の流動を直接的に計算した研究も報告されている(5).
音は流体と関連が深い研究分野であり,生体が発する音に対しても,流体工学を応用する研究が進められている.発話に不可欠な子音のうち,/s/ や /ʃ/ などの子音は歯茎摩擦音と呼ばれる.2018年には,矩形管路モデルを用いて,これらの音の発音メカニズムを説明した論文が発表されている(6, 7, Video 1).矩形管路の中に設置した狭窄部および舌を模擬した板の位置を変化させることによって,/s/ と /ʃ/ それぞれの音の周波数特性が再現されることが示されている.
2017年に蚊の飛行に関する論文がNature誌に発表されたが(8),2018年は,タンポポの綿毛の飛行に関する論文が発表され注目を集めた(9)(10).タンポポの綿毛が終端速度に達したとき,綿毛の上部から少し離れた位置に,安定な渦輪が形成されているという.シリコン製円盤を用いた模擬実験において,綿毛と同じ間隙率の円盤では,同じく渦輪が安定であることが確認されており,タンポポの綿毛の間隙率が巧妙に調節されていることを示唆している.この他にも,3Dプリンティングを応用した果実の飛行(落下というべきかもしれないが)の研究も報告されており(11),今後,植物の流体力学やバイオメカニクスの研究は増加してくるものと思われる.
〔今井 陽介 神戸大学〕
参考文献
(1) Valen-Sendstadm K., Bergersen, A. W., Kono, K., and Steinman, D. A., Data for the 2015 international aneurysm CFD challenge, DOI: 10.6084/m9.figshare.6383516.v2.
(2) Valen-Sendstad, K., Bergersen, A. W., Simogonya, Y., et al., Real-world variability in the prediction of intracranial aneurysm wall shear stress: the 2015 international aneurysm CFD challenge, Cardiovascular Engineering and Technology, Vol. 9 (2018), pp. 544-564, DOI: 10.1007/s13239-018-00374-2.
(3) Mauer, J., Mendez, S., Lanotte, L., Nicoud, F., Abkarian, M., Gompper, G., and Fedosov, D.A., Flow-induced transitions of red blood cell shapes under shear, Physical Review Letters, Vol. 121 (2018), 118103, DOI: 10.1103/PhysRevLett.121.118103.
(4) Shen, Z., Fischer, T. M., Farutin, A., Vlahovska, P. M., Harting, J., and Misbah, C., Blood crystal: emergent order of red blood cells under wall-confined shear flow, Physical Review Letters, Vol. 120 (2018), 268102, DOI: 10.1103/PhysRevLett.120.268102.
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