日本機械学会「機械遺産」 機械遺産 第103号
日本の溶射技術を工業化したアーク溶射ガン
溶射は、金属・セラミックスなどを溶かして吹き付け、皮膜を形成する表面改質技術で、1909(明治42)年にスイスのショープ博士によって発明された。日本へは、1919(大正8)年に銀座天賞堂の江沢謙二郎が特許の使用権を得て、宝飾品への利用を目的として、ガス式の溶射ガンを技術導入するが作動せず断念。
しかし、その後、江沢は研究の末、1921(大正10)年に特許「電気溶融法による噴射鍍金法」を取得し、宝飾品への利用を目的として国産のアーク式溶射ガンを開発。この技術をもとに立石亨三が溶射技術の工業化を日本で初めて図り、1935(昭和10)年に新興メタリコン工業所(現(株)シンコーメタリコン)を設立した。戦前戦中に用途の開発および溶射ガンの改良を重ね、戦後に軽量化と操作性を向上させた。
本機3台は、1955(昭和30)年に同社で製造された現存最古の溶射ガン1台と1963(昭和38)年に溶射材を送るエアタービンの駆動機構に改良を加えた溶射ガン2台で、現在は同社にすべて保存・展示されている。
当時、溶射技術は鉄道や水タンク、鉄骨構造物等の錆による損失を防ぐために優れた表面処理技術として広く用いられ、国民生活の向上に貢献した。その後、技術の普及が進み、耐熱性、耐摩耗性、耐薬品性などにより幅広い産業分野で利用されることになった。本機は溶射技術の原点を示すものである。
《写真提供:株式会社 シンコーメタリコン》
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株式会社シンコーメタリコン
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