日本機械学会「機械遺産」 機械遺産 第36号

アロー号
(現存最古の国産乗用自動車)

 この自動車は、矢野倖一(1892~1975)が1916(大正5)年に完成させた乗用自動車である。福岡市博物館に動態保存されており、現存する走行可能な国産乗用自動車としては最古のものである。
 ごく一部を除き、エンジン・足回りから内装まですべてが国産品を用いて製作されている。また、当時の日本の国情を反映させた設計思想からは、単に輸入品と技術水準だけで肩を並べようとするのではなく、国産ならではのものづくりに挑戦しようとした姿がうかがえる。
 この自動車は1台のみ製作され、しかも公道での活躍はわずか2年であったが、後に彼が行う国産初の冷凍車開発における技術的な礎となった。その冷凍車開発がわが国の特殊自動車製造業という乗用車・トラック製造とは別の自動車産業分野の発展に繋がっていったことを考えると、アロー号はわが国の自動車産業史上、象徴的な存在である。さらに設計製作にあたっては、九州帝国大学の教授に直接指導を仰ぐなど、当時としては珍しい産学連携活動も行われた。
 この自動車は、殖産興業政策が進められた近代日本において、高度な機械の国産化とわが国の産業発展にかける当時のエンジニアの情熱を示す証しである。

《写真提供:矢野羊祐》

公 開

福岡市博物館

開館時間:
9:30~17:30(入館は17:00まで)
観覧料:
一般200円、高・大生150円、※中学生以下無料
休館日:
毎週月曜日(月曜日が休日の場合はその翌日)、年末年始(12月28日から1月4日まで)
住  所:
〒814-0001 
福岡県福岡市早良区百道浜3-1-1
電話番号:
092-845-5011
HPアドレス:
http://museum.city.fukuoka.jp/
交通機関:
市営地下鉄西新駅から徒歩15分、博多駅から西鉄バス約35分、天神駅から西鉄バス約20分

« 第35号 前に戻る 第37号 »