和文学術誌目次
日本機械学会論文集 掲載論文 Vol.90, No.940, 2024
公開日:2024年12月25日
https://www.jstage.jst.go.jp/browse/transjsme/90/940/_contents/-char/ja
<設計工学とシステム工学のフロンティア2024>
重み付きスペクトラル・クラスタリング境界を用いた伝統技能・継手の設計法と締結部品設計への適用
岩瀬 識、西垣 英一
https://doi.org/10.1299/transjsme.23-00318
21世紀以降、あらゆる産業は持続可能性を考慮していくことが求められており、持続可能性を持つ技術として伝統技能を見直す動きがある。本論文では、伝統技能である継手・仕口を機械締結部品のジョイントとするために、スペクトラル・クラスタリングを用いた継手設計法を提案する。自由端に荷重を加えた片持ち梁の有限要素解析結果に、重み付きスペクトラル・クラスタリングを適用することで、クラスタ境界面を継手設計として利用可能なことを明らかにした。有限要素解析結果から断面二次モーメント・テンソルの主応力と主軸を求め、応力成分を主軸座標系に変換して重みとして利用することで、比較的複雑な形状のジョイントや荷重条件の変化に対しても適切な継手設計が可能な見込みを得た。
易分解設計支援を目的とした分解性評価手法の開発
弦田 遼平、岩瀬 識、桑野 義正、朝賀 泰男、西垣 英一
https://doi.org/10.1299/transjsme.24-00026
循環型社会形成推進に向け、多くの製品において、破壊を伴う材料リサイクルに加え、非破壊の部品リユースも注目されている。このリユースを前提とした分解は、回収価値が高い反面、一般的に手間を掛けた丁寧な作業が求められ費用対効果の面で課題を有する。そこで、分解性評価とそれに伴う設計変更に示唆を与える手法の構築が求められている。本稿では、設計構造行列(DSM)を用いた構造の結合関係に加え、部品価値や作業コスト、分解順序を同時かつ視覚的に表現する『分解DSM』を提案し、費用対効果の評価、分解順序の解析、および設計変更の推奨箇所の抽出方法を、コーヒーメーカーの例を交えて報告する。
製品系列設計におけるモジュール共通化検討手法の提案
(多様性分析手法のサーボモータへの適用と効果検証)
井上 直樹、修士、嵯峨山 健一、須磨 建太、小林 孝、脇田 健一、中井 武広、前田 美樹、増田 知起、土屋 文昭
https://doi.org/10.1299/transjsme.24-00082
顧客要求の多様化に対応するための、品質向上と設計効率化を両立した設計手法が求められている。特に産業用機器のような生産財の場合には、製品系列の多様性を保ちつつカスタマイゼーションを抑えるために、モジュールに求められる多様性を適切に先行評価できる開発法が必要である。現状、その評価は暗黙的であり、技術継承性も課題である。本論文では、モジュールの多様性を可視化分析して事前評価できる手法を提案し、サーボモータで試行した結果を紹介する。提案手法を用いることで、属人的な手法の標準化や形式知化が期待できる。
運転中の視覚・聴覚警告がメンタルワークロードに与える影響
佐藤 あかね、茅原 崇徳、坂本 二郎
https://doi.org/10.1299/transjsme.24-00062
安全運転を促すための視覚・聴覚刺激を用いた警告が運転者のメンタルワークロード(MWL)に与える影響の検証を目的として、眼球運動の計測結果から推定されるMWLを警告提示の前後で比較した。警告には視覚警告2種類(LEDの点滅と点灯)と聴覚警告2種類(ビープ音の長音と短音)の計4種類を使用し、ドライビングシミュレータを用いて実験を実施した。その結果、警告時のMWLが比較的高い場合は、警告提示によってMWLが減少した。一方で、警告時のMWLが高くない場合は、警告提示によりMWLが増加した。また、LED点滅による警告がMWLの低減効果が最も高いことを確認した。
色彩設計のための新奇色に対する受容性の数理モデル
(自由エネルギーを用いた覚醒ポテンシャル理論の応用)
大橋 優一郎、柳澤 秀吉
https://doi.org/10.1299/transjsme.24-00085
製品設計において、典型から逸脱した新しい配色「新奇色」は製品の魅力を高める要素となる。本研究では、色彩に対する新奇性を、情報論的自由エネルギーを用いて定式化した。新奇性に対する受容性を説明する覚醒ポテンシャル理論に基づき、新奇色に対する受容性を数理的にモデル化した。提案モデルを援用し、典型色からの逸脱と観測の精度が交互作用を伴って新奇色の受容性に与える影響を明らかにした。色彩に対する受容性を評価する被験者実験を実施し、視認性の低下の影響が小さい条件において、モデルが提案する交互作用を支持する結果を得た。さらに、提案モデルを応用し、受容される新奇な色彩の領域を可視化する支援システムを開発した。
太陽光発電と太陽熱発電のハイブリッド化における広角入射光対応フィルム構造最適化
菊地 哲平、田中 健人、中村 正行
https://doi.org/10.1299/transjsme.24-00086
本研究では、太陽光と太陽熱発電のハイブリッド化を行うための分光特性の制御を目的とした超多層フィルムの設計を、部分構造の反射中心波長、層数、入射角をパラメータとした最適化問題として定式化した。最適化手法にはNSGA-Ⅱを用いた。太陽電池の分光感度特性に基づき制御波長域を決定し、太陽電池のカバーガラスの裏面に貼付することを想定した広角広帯域波長を制御可能な超多層フィルムの設計を行った。フィルムへの入射角が大きい場合には太陽光発電に利用する短波長側で十分な分光特性が得られない結果となったが、太陽熱発電用のタワーへの反射光は十分に確保できる結果が得られた。入射角が小さい場合には、太陽光発電と太陽熱発電のハイブリッド化が可能である結果が得られた。
自動車リビルト部品の利用による温室効果ガス削減効果の評価と製品設計への指針の検討
(ACコンプレッサ,スタータ,オルタネータの事例)
山田 周歩、堀内 郁矢、 井上 全人、藤田 光伸、早川 明宏、森 孝男
https://doi.org/10.1299/transjsme.24-00109
本研究は、日本の自動車用コンプレッサ、スタータ、オルタネータのリビルトプロセスを調査し、プロセスをモデル化した。各リビルト工程の入出力を調査することにより、ライフサイクルアセスメントに必要なデータを収集し、各工程で発生する温室効果ガス(GHG)排出量とコストを算出した。新品部品製造時のGHG排出量を試算し、再生部品製造時の排出量を減算することで、再生部品を使用することで期待されるGHG削減量を導出した。GHG、コストにおいて高い割合を占める工程を特定し、感度分析を行うことで、リビルト部品によるGHG削減効果の向上は、元のメーカとリビルト事業者が連携、情報共有し、部品設計の見直しを行うことが有効であることを示した。
サプライチェーンを考慮した製品アーキテクチャ設計支援
(輸送手段ごとの配送能力に基づく評価モデル)
山田 周歩、小松 侑暉、井上 全人
https://doi.org/10.1299/transjsme.24-00110
本研究は、サプライチェーンを考慮した製品アーキテクチャ設計支援手法を提案する。経済、環境、品質、輸送の観点から、製品アーキテクチャとサプライチェーンを同時に考慮した設計手法を提案し、各サプライヤーの生産能力、各輸送手段の配送能力、納期遵守率を統合した評価モデルを新たに提案する。提案手法は、前述の指標により、設計解候補間のトレードオフを可視化し、指標の一対比較により、設計者の目的を満たす製品アーキテクチャとそのサプライチェーンの選択を可能にする。提案手法をノートパソコン部品の設計に適用した結果、製造数や輸送手段に応じた適切なアーキテクチャとそのサプライチェーンを設計者に提示できることを確認した。
<材料力学・機械材料・材料加工>
ロボットMIG溶接による純チタンワイヤアーク積層造形に関する基礎検討
黒澤 瑛介
https://doi.org/10.1299/transjsme.24-00070
本研究では、溶接ロボットを用いて大気雰囲気下におけるMIG溶接方式による複雑形状のチタンワイヤ積層造形プロセスを実現するための基礎検討を実施した。設備制約と造形中の溶接方向の変化を考慮したシールドガス供給装置を新たに考案し、基礎的な簡易形状の造形実験を通じてその詳細構成を決定した。また、より複雑な形状の構造部品を模擬した造形物の試作とその評価を行い、提案手法が造形物の成分品質と機械的特性の確保に効果的であることを示した。さらに、その実用性改善に向けて抽出された技術課題についても言及した。
<ロボティクス・メカトロニクス>
ロボットの周期運動におけるLQRフィードバック制御系のための確率的パラメータ同定と制御
渡邊 和喜、岡田 昌史
https://doi.org/10.1299/transjsme.24-00171
ロボットの高速・高精度な制御には動力学モデルが必要であり、これを得るためには動力学パラメータの同定が必要である。しかし、モデル化されない動特性やノイズの影響により最小二乗法などでは近似解しか得られず、その最適性は制御目的に強く依存する。本論文では、動力学パラメータを確率変数とみなし、フィードフォワード制御器と最適レギュレータによるフィードバック制御器の設計を前提とすることでパラメータ誤差の所望の共分散を導き、制御に重要なパラメータをより正確に同定する手法を提案する。また、平面3リンクマニピュレータを用い、提案手法が適切なパラメータを同定すること、設計された制御器が手先の高精度な位置制御を実現することを示す。
<生体工学・医工学・スポーツ工学・人間工学>
ヒトとロボットの接触を想定したIn vivo衝撃実験と有限要素解析による皮下出血の耐性評価
寺門 仙太郎、鈴木 大輝、西本 哲也、藤川 達夫、西形 里絵、杉浦 隆次
https://doi.org/10.1299/transjsme.24-00175
本研究では、ヒト上腕と生活支援ロボットとの接触を想定して代替動物大腿部を用いたin vivo衝撃実験を行うことで、皮下出血耐性の明確化を行った。具体的には、低エネルギ条件の実験を行い、皮下出血が発生する下限界条件を明らかにした。さらに、代替動物大腿部のCT画像に基づいた3次元有限要素モデルを用いた衝撃解析を行い、衝撃によって皮膚軟組織に生じる応力・ひずみと衝撃実験における皮下出血発生箇所の比較から皮下出血耐性評価指標を同定し、皮下出血発生条件の推定を試みた。
<交通・物流>
機械式の接触センサを利用した貨車の脱線検知
間々田 祥吾、太田 達哉、宮原 宏平、小杉 一斗
https://doi.org/10.1299/transjsme.24-00117
長大編成となる貨物列車では、機関車から離れた貨車が脱線した場合に、脱線に気づくのが遅れることがある。このような場合、貨車は脱線したまま走行し続け、線路構成部品に大きな損傷を与えることが懸念される。そのため、脱線の早期発見が求められている。一方、貨車はその特性上、旅客車に適用される振動加速度センサによる脱線検知手法を適用することが困難である。その理由として、貨車は様々な線路を様々な条件で走行することが挙げられる。そこで、機械式の接触センサを用いた脱線検知方法を検討した。接触センサのメリットは、脱線検知の判定が容易であることである。また、これまでの研究・知見から、脱線時には貨車の台車の特定部品が他の部品やレールと接触することが分かっている。本研究では、過去の研究結果を考慮したシミュレーション結果に基づき、接触センサの設置位置として台車上の適切な2箇所を選定した。さらに、接触センサを取り付けた台車を実軌道上で実際に脱線させる脱線検知試験を行い、検出性能を評価した。その結果、接触センサは脱線発生直後から脱線を検知できることがわかった。
アルミニウム合金製鉄道車両ダブルスキン構体構造を対象にした質量と剛性の特性評価手法の提案
川崎 健
https://doi.org/10.1299/transjsme.24-00129
本研究では、アルミニウム合金製鉄道車両ダブルスキン構体構造を対象に、質量と剛性の特性を評価するために解の空間を提示する手法を提案する。有限要素法を用いた構造検討は形状変更時の負荷が高く、従来は経験をもとに範囲を限定していた。本報はまず、経験的に剛性に影響する因子を出発点とし、効果要因図と検定で窓開口寸法と面板板厚が有意であることを明らかにした。次に、有意な因子に対する質量と剛性の応答近似関数を定式化した、最後に、近似関数に対して設計変数を実用的範囲の乱数で与えると同時に、設計変数の限界値を組み合わせて与えた。以上の結果、質量と剛性に対する解の空間を辺縁を含めて提示できることを明らかにした。
鉄道車両の曲線通過時における輪軸回転角速度変化のメカニズムに関する考察
遠藤 柚季、 道辻 洋平、今堀 修、谷本 益久
https://doi.org/10.1299/transjsme.24-00166
CBTCによる移動閉そく方式の実現にあたり不可欠な列車自己位置推定の方法として、輪軸の回転角速度と車輪半径から導かれる走行速度の測定値を積算するものがひろく用いられるが、曲線区間走行時に車輪・レール接触位置変化や縦すべり等の影響により輪軸回転角速度が変化することで走行速度測定値および列車推定位置に誤差が生じることがある。本研究では、まず曲線区間における輪軸回転角速度の変化を実験により観察し、またシミュレーションによりその現象が再現可能であることを確かめた。さらに、輪軸回転角速度の変化をもたらす3つの要素を特定し、それらの影響を可視化する手法により輪軸回転角速度が決定されるメカニズムを議論した。
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表紙:経年変化してグラデーションに紙焼けをした古紙を材料にコラージュ作品を生み出す作家「余地|yoti」。
古い科学雑誌を素材にして、特集名に着想を受け、つくりおろしています。
デザイン SKG(株)
表紙絵 佐藤 洋美(余地|yoti)