日本機械学会が担う技術者教育
1DCAE スクールの背景・経緯・今後~自ら考え、自ら実行できる技術者を目指して~
1DCAEスクールの背景
日本型製品開発環境の構築を目指して
2008年、設計研究会(1)は日本型製品開発の考え方として、機能で考えるものづくりである“1DCAE”を提案、啓発、実践活動を開始した。1DCAE(2)とは上流段階から適用可能な設計の考え方、手法、ツールで、1Dは特に一次元であることを意味しているわけではない。“物事の本質を的確に捉え、見通しの良い形式でシンプルに表現する”ことを意味する。1DCAEにより、設計の上流から下流までCAEで評価可能となる。1DCAEでは、図1に示すように、製品設計を行うにあたって(形を作る前に)機能ベースで対象とする製品全体(もの・ひと・場)を漏れなく表現し、評価解析可能とすることにより、製品開発上流段階での全体適正設計を可能とする。全体適正設計を受けて(この結果を入力として)個別設計(形を作る)を実施、個別最適設計の結果を全体適正設計に戻しシステム検証を行う。
図1 機能で考える1DCAE
1DCAEスクールの経緯
現象の本質的理解と見通しの良い表現ができる技術者
1DCAEの実現には、上記背景に即した既存の大学教育にはない独自の教育プログラムが必要ということで、2013年に1DCAEスクールをスタートした。“物事の本質を的確に捉え、見通しの良い形式でシンプルに表現できる技術者”の育成を目的としている。当初の名称は“1DCAE概念に基づくものづくり設計教育”であった。以降、現在に至るまで次のとおり実施している。
第1期(2013-2017):ケーススタディ(1DCAEの考え方、事例、設計手法)を中心に啓発、事例紹介
第2期(2018-2024):モデリング(現象、要素、製品のモデリング方法と解析方法)に特化、講義内容は順次1DCAEレクチャシリーズとして刊行中(3)(4)。
1DCAEスクールの目指すところ
構想段階でモデルをベースに考えるデザイン
構想設計を起点としているので、すべての分野が対象(機械工学だけでなく)となるが、機械学会の講習会なので機械工学が中心となる。それでも、材料と構造、熱と流れ、音と振動、機構と制御をまともに勉強するのは大変(無理)である。しかしながら、図2に示すようにいずれの現象も応用段階ではお互いに言葉が通じない(専門用語のため)が、その根っこは 言葉⇒数学⇒物理 でつながっており、これらの言語を使用すれば、すべての現象を共通に扱うことができる。図3に電気、流れ、熱、振動の共通言語表現の例を示す。
図2 1DCAEスクールの主な範囲
図3 電気、流れ、熱、振動の共通表現例
1DCAEの最終目標は製品開発(デザイン)である。したがって、図4に示すように、技術者自らが、考え(構想)、定式化(モデリング)、具体化(デザイン)できることを目指す。このためには、構想するための手法、モデリングするための手法、デザインするための手法が必要であり、1DCAEスクールではこれらを関連付けて学ぶことができる。なお、本稿ではデザインという言葉を使っているが構想設計と同義と考えていきただきたい。したがって、図4のデザインの結果は、3D設計を基本とする詳細設計の仕様となる。
図4 モデルをベースに考えるデザイン
1DCAEスクールの今後
2025年度から原点回帰(モデリング⇔デザイン)
前章に述べたことに基づき、2025年度より、第3期を開始、1DCAEの原点に帰り、図5に示すように、現象起点(モデリング視点)と製品起点(デザイン視点)の両面から、実施する。
図5 現象・製品・デザイン
以下に示すように、4月から1月まで毎月末年10回開催する。毎月開催することにより、継続的に学習できる仕組み・環境を提供、質問なども毎月受付け、原則として翌月回答する。各回は、原則、講義、演習、事例紹介から構成する。限られた時間であるので、重要なポイントを中心に講義、演習を行い、その上で別途配布する補足資料を基に、自習(予習復習)していただき、受講者各自の能動的理解を促進する。
第1回(4月):1DCAE概論(目指すところと方法)
第2回(5月):材料と構造(材料設計と静力学)
第3回(6月):熱と流れ(複雑な現象を回路網表現)
第4回(7月):音と振動(音振動をさまざまな視点から)
第5回(8月):機構と制御(運動学・動力学、制御)
第6回(9月):デザイン手法(価値⇒機能⇒構造)
第7回(10月):コンシューマ機器(デライトデザイン)
第8回(11月):メカトロ機器(メカエレキソフト連携)
第9回(12月):熱流体機器(3D⇒1D縮退)
第10回(1月):総合演習(設定⇒モデル⇒デザイン)
スクールで使用するモデルはModelicaテキストコードで提供する。Modelicaは特に、機械系のモデリングに向いた数式ベースの言語で、オープンソースのOpenModelica(5)が使用できる。1DCAEスクールではModelicaの基本的な説明は行うが、MSL(標準ライブラリ)などのModelicaの高度な活用法については別途講習会を実施している。
1DCAEスクールの対象者
“ものづくりをもっと良いものへ”と考えている技術者に
自分でアイデアを考え、自分で具体化できるようになりたい方にぜひ受講していただきたい。以下、対象者例とその目的例を示す。なお、ここでいう技術者とは大学、企業の研究者も含む。
・ 学生(大学の講義の補完により理解が深まる)
・ 教員(多様な事例から研究ネタをひらめく)
・ 若手技術者(日常業務の動機付けに)
・ ベテラン技術者(視点を変えた学び直しに)
・ 管理者・経営者(物事を俯瞰して視るために)
・ シニア技術者(経験を活かした起業に)
参考文献
(1) 設計研究会 WEBサイト, https://www.jsme.or.jp/dsd/A-TS12-05/
(2) 1DCAE WEBサイト, https://1dcae.jp/
(3) 設計のための1DCAE概念と実現技術, (2020), 日本機械学会.
(4) 1Dモデリングの方法と事例, (2024), 日本機械学会.
(5) OpenMpodelica WEBサイト, https://openmodelica.org/
<名誉員・フェロー>
大富 浩一
◎Ohtomi Design Lab. 代表
◎専門:機械力学、設計工学、デライトデザイン
キーワード:日本機械学会が担う技術者教育
表紙:経年変化してグラデーションに紙焼けをした古紙を材料にコラージュ作品を生み出す作家「余地|yoti」。
古い科学雑誌を素材にして、特集名に着想を受け、つくりおろしています。
デザイン SKG(株)
表紙絵 佐藤 洋美(余地|yoti)