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2024/12 Vol.127

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Myメカライフ

ものづくりに憧れて

木山 景仁(埼玉大学)


この度、日本機械学会奨励賞(研究)を賜りました。受賞タイトルは「水中気泡崩壊挙動の制御と高温油エアロゾル解析への応用研究」です。この場をお借りして、日頃からご指導いただいている先生方や選考委員の先生方に厚く御礼申し上げます。これからもご指導ご鞭撻のほど、お願い申し上げます。今回コラムを執筆させていただくにあたり、大変悩んだのですが、私自身の研究へのモチベーションとこれからの目標を共有させていただければと存じます。

まず初めに、受賞にあたり私の研究テーマについて少し紹介します。液体は圧力の低下や温度の上昇に晒されると、気体へと相変化します。この時、顕著に体積振動を生じ、時にはキャビテーションとして知られるように、流体機械などの硬い表面を壊食させるほどの損傷を与えると言われています。本研究では、そのような泡の運動が周囲の境界面とどのように相互作用するのか、特に損傷に関係の深いジェットの作用に注目し、単一気泡〔図1(a)〕・円筒状空隙〔図1(b)〕を例に調べています。加えて、加熱油中に水滴が混入する場合の発泡現象〈いわゆる油はね〔図1(c)〕における気泡運動のキャビテーションとの類似性に注目し、室内空気環境のモニタリングなどへ展開できないか、応用に向けた検討を始めています。この度は、これらのテーマ群の萌芽性を評価いただけたのだと(勝手に)思っております。

図1 (a)自由表面・剛体表面から影響を受ける気泡(1)
  (b)剛体球の水面貫入で生じる円筒状空隙
(c)液滴の加熱による発泡・液膜の発生(2)

さて、私がこれまでに携わった研究のほとんどは一貫して、上述のように大きな変形を生じる気液界面の動力学に関するものです。これまでの研究を進めるにあたって、その原動力となっているのは、気液界面のふるまいが「視えるけれどわからない」という思いです。私が行う実験はほとんど、気液界面の様子を高速度カメラで撮影することから始まります。高速度カメラは非常に強力で、私たちが瞬きのうちに見過ごしてしまう数多くの情報を記録してくれます。しかしながら、当然ですが、私の頭ではそのすべてを説明することなど到底できず、一歩ずつ、少しずつ説明らしきものを考えていきます。もしかしたら、わからないからこそ美しいと感じるのかもしれません。一度、表面的にはわかったつもりになっても、あとから考えると思慮が足りなかったと思い直し、再びそのテーマに戻ることもよくあります。泡も液滴も私たちの周りに溢れている、なんら特別なことのない存在です。それにも関わらず、実験のたびに私には理解できない表情が次々に現れます。楽しさや難しさを感じる頻度でいうとおそらく1:9くらいだと思いますが、その分わかった(気がした)時の興奮は大きく、研究を続ける原動力になっています。

私は中学校卒業後に工業高等専門学校(高専)で工業・工学というものに触れました。その後、東京農工大学に編入学し博士まで進みましたが、その背景にはものづくりに興味を持って高専へ入ったものの、手先の不器用さ(と、それを克服する根気がなかったこと)から、かえって苦手意識というか、屈折した憧れを持っていたことも関係していたと思います。その一方で、工学部で教育を受け、現在も籍を置いている身として、世の中のためのものづくり、特に“機械”に役立つ研究をしたいという想いと、そうあらねばならないという観念があります。今回、奨励賞を受賞したことで改めてこのあたりの事柄について時間をかけて整理してみると、やはり私が目指す社会への貢献の形というのは、憧れであるものづくりに資する研究をすることなのだろうと思います。今現在、まさにアプリケーションを志向した実験をデザインしようと試行錯誤しているところです。流体現象の美しさに対するモチベーションはそのままに、その出口として世の中の“機械”に貢献する。今後はこれを目標に努めてまいりたいと考えています。

末筆となりましたが、日々の研究活動を理解し、支えてくれている家族、共同研究者、同僚の先生方、そして研究をともに行う研究室のメンバーに改めて感謝の意を表し、拙稿の結びとさせていただきます。


参考文献

(1) Kiyama, A., Shimazaki, T., Gordillo,J.M. and Tagawa, Y., Direction of the microjet produced by the collapse of a cavitation bubble located in a corner of a wall and a free surface,Phys Rev Fluids, 6, 083601 (2021).

(2) Kiyama, A., Rabbi, R., Pan, Z., Dutta, S., Allen, J. S., and Truscott, T. T., Morphology of bubble dynamics and sound in heated oil,Phys Fluids, 34, 062107 (2022).


<正員>

木山 景仁

◎埼玉大学 学術院理工学研究科 准教授

◎専門:流体力学、混相流

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