学会賞受賞論文のポイント
空気が車のサスペンション?
2023年度日本機械学会賞(論文)受賞
Coupling analysis of unsteady aerodynamics and vehicle behavior with road input: Modeling and verification in road tests
前田 和宏, 椿野 大輔, 原 進, 佐宗 章弘
Mechanical Engineering Journal第8巻4号(2021年8月掲載)21-00095
DOI: 10.1299/mej.21-00095
研究のきっかけ
自動車に働く空気力は、運動性能(操縦性・安定性)へ思った以上に大きな影響を与えている。さまざまな車体形状・空力デバイスが性能向上のために考案され、図1に示すような細部にわたる空力デバイスが取り入れられている。しかしながら、従来考えてきた定常空気力(一定の車両姿勢・風速でのリフト力やヨーモーメント)だけでその効果を説明することは難しく、実際の走行でどんな空気力が働いているかを解明することが課題であった。
図1 運動性能を向上させる空力デバイス
取組みの着眼
図1のような細部の空力デバイスであってもドライバーはその効果を低速域から十分に感じている。路面入力の場合(図2)、操舵した場合(今回は対象としていない)にその違いを特に感じることから、運動に合わせて空気力が発生していると考え、それを捉える検討を行った。
図2 路面入力運動で発生する空気力
空力サスペンション?
路面入力時の車両の運動は、フロント/リヤのサスペンション応答の結果であるが、空気力も同じように作用する“空力サスペンション”になっていると考え、図3の力学モデルで表現した。検討の結果、ばね・ダンピングだけではなく、イナータ・一次遅れも考えて表す必要があった。
図3 路面入力運動への空気力モデル追加
運動で発生する空気力(動的空気力応答)を測る!
大きな課題は“運動で発生する空気力をどうやって計測するか”であるが、そのために加振装置を製作し小型風洞内に設置した(図4)。4分の1車両模型を運動させ、風の有無でその加振力の差をとることで動的空気力応答を抽出した。比較ケースとしてルーフ前端の突起の有無を行い、差の大きく表れたピッチ運動でのリヤ上下空気力を応答関数として図5に示す。空気力は2次項までを考えた応答特性があることが確認できた(上下運動に対するリヤ上下空気力はさらに1次遅れの考慮も必要であった)。
図4 風洞への加振装置の設置
図5 ピッチ運動に対するリヤリフト力発生の応答関数
運動への影響は?
求めた動的空気力特性を“空力サスペンション”として車両サスペンションと同時に作用させることで、路面入力に対する車両運動を算出、その時系列シミュレーション結果を示す。凹凸の路面入力(図6上段)でのピッチ運動の差が確認できた(図6中段)。さらに実際の走行での計測結果(図6下段)とも比較すると、突起無の路面応答がより良い傾向(振幅が大きく、遅れが小さい)であることが一致している。“突起無は路面追従性が良く、しっかりした感じ”とのドライバー評価と合致し、効果の説明が可能となった。
図6 路面入力ピッチ運動への空力サスペンション影響
流れのメカニズムの理解!
突起有無において、運動で発生する空気力の違いがどうして発生するかを考察した。加振試験での流れの可視化と空気力の応答関数の結果から、突起無はピッチ運動時にルーフ流れが側面へ逃げるのに対し、突起有ではルーフ上の乱れた流れが滞留し運動の抵抗になると理解することができる。その結果、突起無はピッチ運動しやすく、有りは動きにくくなると理解できる(図7)。
図7 突起有無での流れの違いの考察
さらに考えたいこと
空気流れが、“空力サスペンション”として働いており、ドライバーが感じるようにその力は小さくないことも確認できたことから、さらに操舵時の運動で働く空気力についても明らかにしていきたい。また、負の空気イナータ(負の慣性力)となっている点については、流れの観点での解析がさらに必要であると考えられる。流体はまだまだ奥が深い…
参考文献
(1) Maeda, K., Tsubakino, D., Hara, S. and Sasoh, A., Investigations of Unsteady Aerodynamic Effects Generated by Heave and Pitch Motion in Different Vehicle Body Shapes with Model Excitation Tests, Mechanical Engineering Journal, Vol.7, No.5 (2020), DOI: 10.1299/mej.20-00276.
(2) Maeda, K., Tsubakino, D., Hara, S. and Sasoh, A., Coupling Analysis of Unsteady Aerodynamics and Vehicle Behavior with Road Input: Modeling and Verification in Road Tests, Mechanical Engineering Journal, Vol.8, No.4 (2021), DOI: 10.1299/mej.21-00095.
<正員>
前田 和宏
◎トヨタ自動車(株) 車両技術開発部
◎専門:空力、車両運動
キーワード:学会賞受賞論文のポイント