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2024/12 Vol.127

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絶滅危惧科目-基盤技術維持のための再考ー

第12回(最終回) 歯車事情

久保 愛三〔(公財)応用科学研究所〕

近年の歯車設計について

この50年で歯車設計の環境は電脳ソフト化し、歯車の基礎や加工原理も理解されないまま、ボタンを押せば答えが出て、加工機もNC化されて熟練技術をあまり必要としなくなった。そのため、問題が発生した時にはどう対処して良いのかが分からない状態が発生する。ある老練歯車コンサルタントの話では、「以前は、図面を持ってこられての相談もあったが、最近はそのようなこともなくなった。今まで中核となっていた人たちが定年退職され、技術の伝承が停止してしまったことがこの原因ではないかと訝られる。図面も昔の図面をCADで綺麗にするだけの作業になった例が多い。古い図面はしっかりしたものが多いが、新しい図面は、漏れがあったり間違っていたりするものが結構多く、基本的設計ミスも修正されず新図面が作成されるのも一般的である。設計を外注に丸投げしている傾向も強いようで、外注先が上げ膳据え膳までしないと何もできない状況になっていることもある」。

しかし、このような状況に対する人材の育成が必要であると考えている教育関係者の割合は、全体としてはそれ程大きくない。時代(文科省、マスコミ)の要請による新しい科目(例:SDGs科目、AI関連科目、データサイエンス科目etc.)の方がより重要と考える人が多く、歯車や機構学などの講義が弱体化しているところが多い。大学や高専の多くは、製図や実習等実技に関しても十分な時間が取れない上、大学の施設管理が厳しくなって時間外に残って図面を描かせることも許されない状況である。実験や機械製作などの実技が、財政面と安全対策の点から進められないことがあり、また、教員を募集しようとしても人材不足の上、教員採用時の論文業績至上主義による必要教育内容とのミスマッチの問題が良く起こる。講義のレベルも中位以下の学生にあわせる必要から、年々低下してきている。昔は書店の専門書の棚に歯車や機構学の本が多くあったが、近年は専門書の棚が寂しくなり、自学自習もできない。日本の衰えを象徴しているようである。

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