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2024/11 Vol.127

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機械構造物に形状で機能をもたらす~メタマテリアルの活用~

富田 直〔(株)豊田中央研究所〕

この度は、「振動低減や衝突エネルギー吸収に関するメタマテリアルの研究」というテーマに対して、日本機械学会奨励賞(研究)をいただき大変光栄に思います。この研究では、メタマテリアルと呼ばれる概念を機械構造物の性能向上に活かすことを試みました。メタはギリシャ語で超越をあらわし、巨視的に自然界に存在する通常の材料にはあらわれない特異な変形などを生み出すことができるものです。本稿では、機械構造物の動的性能として重要な振動騒音と衝突エネルギー吸収を向上させることをねらった取組みについて紹介します。

まず、振動騒音に関しては、周期構造に形成するバンドギャップとよばれる波動伝播が阻止される周波数帯によって振動騒音を低減しています。主にバンドギャップは「ブラッグ散乱」とよばれる波の干渉による原理、もしくは「局所共振」と呼ばれる動吸振器のような形状が分布したことに起因する原理のふたつに大別されます。前者の原理は波長に依存してバンドギャップの周波数帯が決まるため、波長が長い低周波の振動現象では周期構造の単位セルサイズが大きくなるものの、板厚などの構造の周期的な違いによってバンドギャップが開くため、シンプルなパターンで実現可能です。そこで、周波数とスケールの関係が成立すれば、実用的であると考えました。自動車のパネルのような板厚・空間で、工学的に意味のある周波数でバンドギャップが形成する周期形状が実現可能であることを確認して、緩衝材などに用いられるリサイクル古紙を原料とした材料で振動低減することを実証するといった取組みを行っています。このような波の物理にしたがって既存の材料に形状を付与することで、本来の材料がもつ以上の機能を引き出すことができるのが楽しいところです。

次に、衝突エネルギー吸収に関しては、オーゼティック構造とよばれるポアソン比(縦と横方向のひずみの比)が負になる構造を活用しています。通常の材料では、上から潰すことで左右には拡大する正のポアソン比となります。一方で周期構造の単位セルの形状によっては、上から潰すと、巨視的には全体が左右に縮む負のポアソン比となる変形が生じます。今回は、このような単位セルとして、舘知宏先生と三浦公亮先生によって提案されている折紙パターンを使用しています。折紙に着想を得たメタマテリアル構造では、潰す方向に対して垂直方向の軸では収縮しています(図1)。このような特異な変形が目に見えて触って感じられるスケールであらわれるのも、機械系のメタマテリアル研究の楽しみと感じます。折紙のパターンを利用したメタマテリアルは、製造後に折り畳みによるセル構造を変形することができるため、状況に応じてあとから形と機能を変えるという可能性も秘めています。また、折紙は板の曲げ加工による製造方法としての発展性もありメタマテリアルを機械構造物に工学応用する上で大きな優位性だと考えています。

図1 折紙メタマテリアルの変形の例
(変形の様子については参考文献(1)の補足資料動画をご覧ください)

今後も、本稿で紹介した研究の発展と製品への応用に向けて精進していきたいと思います。最後に、栄誉ある賞に選出してくださった日本機械学会の皆様と、日頃の業務遂行にあたりお世話になった豊田中央研究所やトヨタグループの皆様にお礼申し上げます。


参考文献

(1) S. Tomita, K. Shimanuki, H. Nishigaki, S. Oyama, T. Sasagawa, D. Murai, and K. Umemoto, Origami-inspired metamaterials with switchable energy absorption based on bifurcated motions of a Tachi-Miura polyhedron, Materials & Design, Vol.225 (2023) 111497, DOI:10.1016/j.matdes.2022.111497.


<正員>

富田 直

◎(株)豊田中央研究所 数理工学研究領域 研究員

◎専門:機械力学、波動工学、応用数理

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