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2024/11 Vol.127

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特集 建設機械の最新動向

建設機械と機械施工の最新動向

岩見 吉輝(日本建設機械施工協会)

はじめに

建設機械の普及と協会の設立

今般の機械学会誌に建設機械の特集が企画されるにあたり、まず本協会について紹介する(1)

第二次大戦後の我が国における復興を実現するためには、建設施工を機械化し、生産性を増大させ、限りある費用で膨大な事業を推進することが必要であった。

しかし、当時建設の機械化には研究すべき課題がきわめて多かった。高性能な建設機械が必要となるが、その性能を向上させ安定させるためには広く知見を結集し、同時に建設機械を用いた施工方法を確立させなければならなかった。

また、ほかにも機械の運転・整備などの運用要員育成など解決すべき問題は山積していたが、これらに対応する機関が存在していなかった。

建設の機械化を推進するために、建設施工と建設機械の連携を密にし、建設機械使用者と製作者がしっかりと手を結ぶことを目的として昭和25年に社団法人として日本建設機械化協会が設立された。そこから建設事業の機械化は極めて大きく進展していった。その後、年月を経て平成24年に一般社団法人に移行し、名称を日本建設機械施工協会に変更している。

本協会は、建設機械および建設施工の技術などの向上と普及を図り、その技術をもって国土の利用、開発および保全ならびに経済および産業の発展に寄与することを目的として事業を行っている。本協会の会員には、建設機械などの製造業、建設業、レンタル業、機械整備業、商社などが参画し、その技術者や学識経験者が一堂に会して各種の部会活動を行っている。

また、建設施工の合理化に関わる学術的調査、試験、研究を行うための独自研究機関として施工技術総合研究所を有しており、多様な取組みを行っている。

建設機械施工をとりまく現状と課題

我が国が迎えている少子高齢化の局面を受け、産業全体の就業者はここ20年で急速な高齢化が進行している。特に建設業は、就業者のうち55歳以上の占める割合が全産業平均よりさらに高い水準で増加傾向にある一方、就業者のうち29歳以下の占める割合は全産業平均よりさらに低い水準であり、増加はずっと緩やかである。今後、高齢就業者の大量退職も見込まれることから、すでに一部で始まっている「担い手不足」がさらに深刻な懸念となっており、生産性向上や省人化は喫緊の課題である。

また我が国は、その国土条件により、従来から地震や風水害などの自然災害による甚大な被害に見舞われてきた。近年さらに気候変動の影響により、水害や土砂災害、交通障害が激甚化・頻発化している。そして2023年国土強靱化基本法が改正され、国土強靱化のための事業計画が法定事項となっている。

今後社会資本の老朽化が加速度的に進行し、新たな社会資本の整備充実とともに、これらの点検、維持管理、更新の必要性が増大していく。

さらに、カーボンニュートラルの取組みなどの地球環境保全への対応にも直面している。建設分野においても事業の計画、実施、管理などさまざまな段階でこれら問題解決に貢献する必要がある。

このような建設事業を取り巻く現状・課題の中で、建設機械技術および機械施工技術の果たす役割は、ますます大きいものであり、昨今進展著しいICT、DXをはじめとする各方面の先端技術の適用もますます進むものと思われる。

技術開発の動向

生産性向上・省人化への対応

この課題に対する取組みとして、国土交通省が平成28年に打ち出したのが「i-Construction」(図1)であり、建設現場全体の生産性2割向上を掲げていた。この取組みは本年の4月には「i-Construction2.0」(図2)として発展承継されているが、より省人化にフォーカスし、「少なくとも省人化3割、すなわち生産性1.5倍」を掲げている。

図1 i-Construction(H28~)【ICT施工技術の活用】(3)

図2 i-Construction 2.0(R6~)(4)

建設現場の生産性革命として、全国の建設現場において取組みが進んでいる。この一連の取組みの大きな柱が建設機械施工におけるICTの全面的活用(デジタルデータの活用)である。

建設機械施工にICTを活用することが可能になった背景として、測位・計測技術の大きな進展とデジタル化がある(2)。建設工事は、さまざまな場所で目的物を構築するが、施工場所の的確な把握や施工機械(作業装置)の位置(3次元座標)を知ることは容易でなかった。しかし、測位・計測技術と建設機械の姿勢把握技術の発展により各々の位置(3次元座標)を取得することができ、これを活用することによる施工が可能になった。さらに施工機械の稼働履歴・施工状況もデジタル化することで、生産性の分析が可能になり、製造業における工場生産のような、デジタル化された生産管理の道が開けてきた。

加えて、省人化対策として現場に「人」がいなくても、工事が可能になる「建設施工のオートメーション化」として自動・自律での建設機械の施工も目指すところとしている。省人化そのものでも効果は極めて大きいが、この自動化された施工現場もまたデジタル化された生産管理が可能である。建設現場の一連の資機材調達をデジタル化し統合することで、作業の無駄、ムラをすみやかに減少させ、さらに施工方法の大胆な改善シミュレーションさえも可能とし、飛躍的な生産性向上が期待される。

さらに、自動・自律施工の現場では人の出入りが想定されない「無人エリア」が設定され、建設現場全体の安全ルールが現場形態ごとに標準化されることが特徴である。この「無人エリア」内で動く建設機械には、運転席を必要としない施工効率が優先された、自由な発想での全く新しい形状の建設機械が近い将来登場してくるであろう(図3)

図3 自動施工のイメージ(4)

また、この自動・自律施工の開発を進めるにあたっては、協調領域と競争領域を分けて設定することが重要である。このことで技術開発の効率を上げ、さらに協調領域を標準化に進めることで、社会実装した際に、どの建設現場でも、どの建機メーカーの機械でも自動・自律施工が可能となっていくであろう。

今後は省人化に対応して、人の数が減っても施工できるさまざまな技術が求められる。DXやAIの活用はもちろんのこと、即地的な工夫や発想の転換など、今後の技術に期待したい。

地球環境保全への対応

地球環境保全への対応として、国土交通省ではこれまでにも法令に基づく「排出ガス対策」や、低炭素に寄与する「燃費対策」を評価する基準・制度を創設し、建設機械における環境対策技術開発を促進する取組みを進めてきた。これによりハイブリッド型建機やCO2排出を低減した建設機械の開発も進んだ。

令和5年度より、さらなるカーボンニュートラル対応を目指して「GX建設機械認定制度」が創設された(図4)。ここでは電気駆動のほかに、水素の利用など抜本的な動力源を見直した建設機械の開発も促している。

またこのような新しい動力源による建設機械の普及にあたっては、工事現場ごとに、例えば電動建機であれば給電方式をシステム化し確立することが必須要件となる。

図4 GX建設機械認定制度の創設(5)

普及に向けた協会の取組み

当協会では平成28年、国土交通省がi-Constructionの取組みを開始するにあたり、「i-Construction施工推進本部」を設置し活動することとした。ここでは、施工現場での新技術など会員を通じた要望をとりまとめ、国土交通省に意見・提案を行っている。それらが国土交通省で精査、検証され、基準化されている。

ICT施工の普及のための講習会において、標準となるテキストの改訂をしたり、研修講師の認定試験を行ったりし、その水準を維持している。また新技術などに対応して試験合格者への更新講習も行っている。認定試験は協会内部のものであるが、これまでに2,000名を越える受験者がいる。

また、「GX建設機械認定制度」において求められる、新たな評価基準(電力量消費率など)を、各メーカーが参画する技術部会において取りまとめることなどで制度を支援している。加えて令和6年度より、環境省の「建設機械の電動化促進事業」の補助金交付執行団体として、普及を支援している。

さらに、工事現場ごとのCO2削減に寄与するため、本協会では国土交通省と連携し、施工を効率化・合理化することで建設機械から排出されるCO2の削減量を見える化する取組みを進めている。

そして当協会は、建設機械に関するISOの国内審議団体であり、JISの原案策定機関でもある。 開発された技術の普及に向けては、国内のみならず海外展開も視野に入れ、適切なタイミングで規格化を進めていく予定である。

さいごに

協会設立の経緯にもあったが、歴史的に見ると建設工事は少し前までは機械化を進めることにより生産性を上げることが主眼であった。機械化を進めることは、それまでの人力中心の施工方法に比べれば驚愕の大変革であったと言えよう。今後は、建設工事をデジタル化して行う一連の取組みによる生産性向上が求められている。まさに建設工事はデジタル化によって新たな大変革を迎えつつあるところである。特に生産性向上を目指して取り組むべき内容について紹介する。

まず省人化のための自動化・自律化施工について、これから開発・普及拡大が期待される技術であり、多様な取組課題が明らかになっていくと思われる。会員企業の意見を把握し、行政への協力、意見具申など支援をしていきたい。

次に、特に地方の建設会社の生産性向上を進めるために、建設現場における「生産技術」としてのICT普及である。「生産技術」は、品質を確保しつつ、いかにして効率良く利益を見込みながら目的物を作り上げるか、生産プロセスを改善するかという、工場生産の現場では企業の大小を問わず行われているものである。これを建設施工に、特に地方の建設会社においても、当たり前に行われることが必要である。ICTは「生産技術」として効果を発揮するための強力なツールである。その観点での普及についても取組みをさらに進めたい。

今後も当協会は国土交通省の施策と連携し、我が国の建設機械、建設施工の発展に向け、同時に会員各社の発展に向けて努めていく所存である。


参考文献

(1) 岩見吉輝, 日本建設機械施工協会の取組み, 総合土木技術誌 土木施工 2023年4月号.

(2) (一社)日本建設機械施工協会, 日本建設機械要覧2022(令和4年).

(3) ICT活用工事の実施方針 国土交通省,
https://www.mlit.go.jp/common/001137295.pdfURL (参照日6年8月19日).

(4) i-construction2.0 国土交通省,
https://www.mlit.go.jp/tec/constplan/content/001738240.pdf(参照日6年8月19日).

(5) 建設施工の地球温暖化対策検討分科会,
https://www.mlit.go.jp/tec/constplan/content/001733010.pdf(参照日6年8月19日).


岩見 吉輝

◎日本建設機械施工協会 業務執行理事
(元国土交通省総合政策局公共事業企画調整課長)

◎専門:機械工学、土木工学

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