学会賞受賞論文のポイント
メカニズムよりも都合優先で誕生した物理特性タイヤモデル
2023年度日本機械学会賞(論文)受賞
タイヤ物理特性モデルのトレッド部のモデル化に関する研究
(TM Tire Modelの理論的妥当性の検証)
豊島 貴行, 松澤 俊明, 穗髙 武, 樋口 英生
日本機械学会論文集, 2021 年 87 巻 898 号 p. 21-00003
DOI: 10.1299/transjsme.21-00003
研究背景
「従来にない新しいコンセプトをもつ自動車の開発をスタートさせるにあたり、装着するタイヤはどれがよいか?」…自動車のシャシエンジニアにとってこの問いかけは、今日においても難易度が高いと思う。新しいコンセプトならば、重量や寸法だけでなく、駆動方式やステアリング機構、サスペンション機構も従来とは異なる可能性が高く、見た目はよく似た自動車があっても、それに装着されたタイヤが相応しいとは限らない。つまりお手本がない状況で、新型車に相応しいタイヤを机上で決定するということだ。
筆者がコーナリングスティフネスに着目した物理特性タイヤモデルを研究するに至ったのは、上記問題を解決したいという思いからであった。発端は今から25年以上も前のこと。当時FIALA Modelや補正係数を加えたFIALA+A Modelが、コーナリングスティフネスに着目した仕様検討に有効な物理特性タイヤモデルであることは知っていた。特にFIALA+A Modelはコーナリングスティフネスの近似精度が比較的高く、操舵応答特性の計算ならばMF Tyreのような実験同定モデルを用いなくても同等の精度で計算結果を手軽に得ることができ、とても便利であった(1)。しかし操安性の性能設計を繰り返していると、既存の物理特性タイヤモデルでは満足のいく結果が得られないケースがしばしば生じ、その頻度は時代とともに増してゆくという印象を持っていた。そんなはがゆい状況の中で発表されたのがNeo-FIALA Modelであった(2)。Neo-FIALA Modelはそれまでのタイヤに纏わるいくつかの課題を解決していたので、その衝撃は大変なものだった(図1)。しかし操安性の性能設計に適用する観点では、より簡便なモデルの方が扱いやすいという思いもあった。操安性の性能設計に適した新たな物理特性タイヤモデルは、自ら構築しなければならないと決心したのは2010年代前半頃だった。
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