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2024/9 Vol.127

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技術のみちのり

工作機械はプロセスファーストで!

DMG 森精機(株)

2023 年度学会賞(技術)
「工程集約および省エネに貢献するハイブリッド金属積層造形機」

DMG 森精機(株)

図1 ハイブリッド金属積層造形機「LASERTEC 3000 DED hybrid」

夢を叶える

Additive Manufacturing技術の一方式である指向性エネルギー堆積法(Directed Energy Deposition;DED)は航空宇宙関連だけでなく、今や製造業全般での利用が広がっている。2021年10月、DMG森精機(株)は旋削とミーリングを1台で行う5軸複合加工機にDED技術を搭載した、レーザ金属積層造形機「LASERTEC 3000 DED hybrid」を開発し、販売を開始した(図1)。この工作機械は1人の女性技術者の強い思いから誕生した。

廣野は大学時代に旋盤の素晴らしさに魅了され、生涯かけて工作機械に取り組みたいと決意し、大手機械メーカーに就職した。そこで開発に携わったのがDED方式の金属積層造形機だ。DED方式はレーザ照射でワーク上にメルトプール(溶融池)を形成させ、金属粉末を溶融・凝固させて積層する。SLM方式より造形速度が約10倍も速く、異種金属材料の結合が可能だ。さらにワークの造形だけでなく、耐摩耗性などの機能を付加するコーティングや欠損箇所の補修などができる。

廣野は「1台の機械でDEDによる金属積層造形と切削加工が行えれば、工程集約が可能になる。これからは工程集約できる機械が必要になるはずだ」と考えるようになった。廣野は2019年5月にDMG森精機(株)に入社し、開発の承認を得るため周囲と協力し、プレゼンテーションの準備に取りかかった。

実現に向かって

まず、機械のコンセプトを作るため、廣野は日本やアメリカなど多くの顧客に直接会うなどして、リサーチした。調査の結果、DEDは部品の造形よりも、コーティングやクラッディングに役立てられている既存・潜在事例が多いことがわかった。廣野はここにマーケットがあると確信した。

廣野が工程集約の機械を作りたいと思った一つにロータリーダイ(マスクやお菓子などの型押しなどに使う円筒形の刃物)の製造がある。硬さが必要なのは表面の型押しに使う部分だけなのに、全体を高価な高硬度金属材料で作っている。しかしDEDを用いれば、安価な母材の表面に、型押し部分を高硬度金属材料で積層して作ることができるのだ。これにより切削量も材料費も削減できる。さらにDEDは環境負荷が低減できる製造手法として注目されている。例えば、従来は摩耗したポンプシャフトは廃棄されていた。しかし摩耗した部分を旋削加工で除去して、除去した箇所を金属積層して仕上げ加工を行えば、新品状態になるのだ。CO2排出量の削減だけでなく、資源を再利用することで廃棄物も減らせる。

プレゼンで新技術開発はみごとに承諾された。その時、廣野にとって今でも忘れられない社長の言葉がある。

「これこそやりたかったこと。機械ではなくプロセスの開発だ」

工程集約・工程短縮技術の確立

開発は2020年3月に本格的にスタートした。そして2021年1月に組立てを開始し、6月に完成すると、機械の検証に移った。開発した技術は、切削加工と金属積層造形をワンチャッキングで行い、複数の専用機が必要な工場での工程を1台に集約できるというものだ。旋削/ミーリング主軸に金属材料とレーザを同時に照射するAMヘッドを搭載している(図2)

図2 機内の様子

例えば、工作機械の主軸に使うドローバーという高硬度の小さな部品の製造には、従来は荒加工、焼き入れと焼き戻し、応力除去、仕上加工を行い、他社で硬質クロムメッキ処理をしてから、研削をして完成という工程が必要で、14日間もかかっていた。これを1台の機械で、わずか2時間で製造できるのだ(QRコードから動画参照)。DEDでコーティングすると、焼き入れ処理と同等の硬さが得られるため、熱処理と応力除去が不要で、メッキ処理も段取り替えもいらない。その結果、コストと人件費が削減し、CO2排出量が減り、リードタイム(所要時間)が短縮できる(図3)。また、半年間で500万回の耐久試験をして、従来工法と同等以上に耐摩耗性が優れたものができることがわかった。

図3 工程集約の例

プロセスモニタリングシステム

さらに、安定で高品質な積層造形を実現するため、積層状態をリアルタイムで監視するプロセスモニタリングシステムを開発し、機械に搭載した(図4)。加工エリア全体の温度を測定し、温度上昇の異常を検知すると、プロセスが自動停止するシステムや、ノズルの詰まりを画像アルゴリズムで認識すると、機械が自動停止するなどの機能によって、ワークの不良を未然に防ぐこともできる。

また、レーザを照射し続けるとメルトプールのサイズがどんどん大きくなり、ワークの形が垂れてしまうという問題が起こる。これを防ぐために、レーザ出力を落としてメルトプールの大きさを一定に保つというフィードバックコントロールを行っている。こういった技術を搭載したLASERTEC 3000 DED hybridで造形した積層物は非常に密度が高く、引張強度を測定すると、鍛造レベルの高い強度が得られた。また異種金属で接合した積層物の引張試験を行ったところ、異種金属の接合部分は剥離しなかった。

図4 プロセスモニタリングシステム

挑戦は続く

開発はすべてスケジュール通りに進行した。開発に携わった社員たちが、プロジェクトを絶対に成功させるという気持ちを持ち、意見の食い違いには納得がいくまで話し合った結果だった。

「お客様が、工作機械で環境に良い製品を早く安く作って利益を得る。そんな機械を開発しようと取り組んでいる」と廣野は言う。大事なのは顧客がどんな目的でどう使いたいかということだ。顧客の要望に合わせて提案し、共同でテストを行うというスタイルを取っている。この機械を購入したのは、新進気鋭の製造現場が多いという。今後はソフトウェアと制御も含めた新機能を開発し、より高度な積層造形を可能とするシステムを目指す。

技術者として大事なのは、生涯取り組めることに出会うこと。失敗してもやり直せるという気持ちになること。廣野はこれをモットーに開発に挑み続けている。工程集約された工作機械は製造現場の景色も変える。「汚い・きつい機械製造」の時代は終わり、「メカかっこいい!」の時代が到来するに違いない。

取材・文 山田ふしぎ

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