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2024/9 Vol.127

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特集 航空機産業およびその関連分野の成長と展望

空港面シミュレーションの現状と将来

川越 吉晃(東北大学)・富永 浩至(東京大学)・伊藤 恵理(東京大学)

はじめに

航空交通管理の現状

2020年からのCOVID-19の影響により、世界の航空旅客輸送の需要は大幅に減少した。しかし、JADC(日本航空機開発協会)によると2025年には従来の予測に対して漸近回復が完了し、向こう20年で世界の旅客・貨物輸送需要はCOVID-19以前の2倍以上に増加すると予測されている(1)。さらにその3分の1以上はアジア環太平洋地域に集中すると予測され、日本周辺空域および国内空港は過密状態となり、現状の航空管制システムや交通管理手法では対応できないことが懸念される。そのため、航空交通の高度化に向けた産官学の協調的な活動であるCARATS(2)では飛行経路の最適化、気象・交通状況の予見能力向上、自動システムの導入、離着陸機と空港の包括的な管理・運用などの施策・検討が進められている。

空港運用では滑走路本数やターミナル数などの物理的制約や空港レイアウトなどのさまざまな要因で局所的な渋滞が発生し、遅延の増加や効率の低下が大きな問題となる。空港の処理容量を増加させるための方法として、一つ目は滑走路やターミナルなどの施設の増設、二つ目は航空管制システムや交通管理手法の効率化が挙げられる。前者では、増設により物理的制限が緩和され、空港の処理容量の拡大がおおいに期待できる。例として、東京国際空港(羽田空港)では2010年に4本目の滑走路が竣工し、それまでの3本の滑走路を使用していた場合と比較して、年間離発着数が約10万回増加した(3)(4)。また、那覇空港では2020年に第2滑走路の供用が開始され、年間離発着数が約11万回増加した(5)。今後も、福岡空港や成田空港で滑走路の延伸や新設が計画されており、離発着容量の増加に期待が寄せられる。

一方で、このようなハード面の増設は限られた空港でのみ可能であり、多くの空港において時間的・資金的にも現実的ではない。そこで、管制システムの自動化や管理方法の効率化によるソフト面でのアップデートが必要であり、数多くの研究が進められている。効率化検討のためには、まず現運行でのボトルネックや支配因子を明らかにする必要があり、公開されている実運行データを基にさまざまな角度からの分析・評価が行われている。その後、改善案の検討を行うわけだが、実際の空港を用いて試行錯誤を行うことは現実的ではない。また、管制支援などに向けた新しい自動化システムを実装するためには、概念設計(データ分析・システムのモデル化など)に基づき、仮想的に管制運用をシミュレーションし、安全性、性能、運用効率、実現可能性を評価しなければならない(6)。そこで、数値シミュレーションや数理モデルを用いて空港面(空港地上オペレーション)を仮想空間上で高忠実に再現する試みがなされている。さらに、これら改善案を実運行へとフィードバックするためには、やはり現実と連携させた検討が必須であり、ヒューマンインザループシミュレーションのような試みも求められる。本稿では、空港面交通に関する最新研究事例から、主要空港の運行データ分析、空港面シミュレーション、そしてヒューマンインザループシミュレーションを紹介する。

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