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2024/8 Vol.127

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特集 2024年度年次大会

バイオマテリアルおよび細胞/ 組織のプロセス・力学・強度

大塚 雄市(長岡技術科学大学)

J025 9/9 口頭発表14:45-16:55/ポスター発表10:30-12:00

生体適合性材料開発の必要性

生体組織は軟組織から硬組織まで幅広く機械的性質が変動する。そのため、適合する材料も高分子から無機材料、金属材料へと変化する。単一の人工材料で生体組織の性質を完全に再現することは不可能であり、そのために各種材料を組み合わせて使用される。使用される材料についても、生体組織への悪影響を与えない生体不活性なものから、生体活性、骨伝導性などの機能性の付与が求められる(1)。これらの機能性付与について、例えば人工血管向けの高分子材料への抗血栓性の付与や、荷重伝達部における人工関節材料と生体骨との荷重伝達を高めるための骨伝導性、インプラントの抗菌性付与など、多岐にわたる。そして、個々の現象への対処を超えた、類似性の検討や学理の創出には至っていないのが現状である。

生体組織と人工材料との長期健全性を議論するための用語として生体適合性が存在する。しかし、短期間の生物学的安全性評価から、数年以上の長期使用経過後に生じる生体適合性に関する課題を検討することは困難である。一方で、応力遮へいを低減するための低弾性率チタン合金(2)(弾性率)の開発や、抗血栓性高分子材料の開発など、生体材料分野での実用化事例は、生体適合性を適切に評価する系を設計し得たことで達成されている。従って、生体材料分野での技術開発には、生体適合性をどのように表現すればよいのかの枠組みを構築することが求められる。

生体材料・力学に基づく適合性のモデル化へ

2016年度から年次大会OSとして本セッションは開催され、大別すると以下のような課題についての研究発表が行われてきた。

●生体組織と人工材料との力学的・化学的性質などの差異が、生物学的特性などに与える影響

●生体組織の力学的・化学的性質などを適切に評価するための計測・評価手法

●生体組織と人工材料との界面における力学的・化学的性質の評価手法(3)

●生体組織と人工材料との界面適合性を高めるための表面処理・複合材料開発

●細胞や分子レベルでの生体組織と人工材料の界面適合性を議論するための解析手法

●生体組織の特有な構造を活用した構造・機能材料の創生

同樣の議論を行う学会は多く存在するが、材料開発のためのプロセス、その力学特性の評価、機器開発のための安全性評価に際して必要となる強度評価と細分化されている。本セッションでは、あえてプロセス・力学・強度と間口を広げた名称とすることで、細胞や分子レベルの力学特性評価の研究者と、構造・機器レベルでの強度評価を行う研究者、材料合成、表面処理などのプロセス研究者が一同に介して議論し、対象とする現象の類似性・差異について活発に議論されている。

生体適合性の機構解明に向けた学理構築や評価手法開発、規格の策定など、実施すべき事項は数多くある。生体材料・力学に関心をお持ちの方でも、これまでに関わったことがない方でもご参加いただき、ご意見頂ければ幸いである。

図1 生体適合性材料・構造開発のためのプロセス・力学・強度の相互関連


参考文献

(1) Z Liu, S Yamada, Y Otsuka,et al,Dalton Transactions 51 (25), 9572-9583,2022

(2) Niinomi, M., Journal of the Mechanical Behavior of Biomedical Materials, 2008, 1(1), pp. 30–42

(3) QM Nguyen, Y Otsuka, Y Miyashita,Journal of the Mechanical Behavior of Biomedical Materials 144, 105945,2023


大塚 雄市

◎長岡技術科学大学

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