特集 2024年度年次大会
マイクロナノ理工学:nm からmmまでの表面制御とその応用
J114 9/10 口頭発表 9:00-10:30/ポスター発表 13:00-14:30
ジョイントセッションのテーマの狙い
本ジョイントセッションでは、機素潤滑設計部門 、情報・機能・精密機器部門、生産加工工作機械部門、機械材料・材料加工部門の4部門が協力して企画・運営に当たっている。多数の部門が協力しながら運営することを考えた時に、共通の言葉で課題を共有できることに加え、間口が広いテーマであることが重要となる。表面制御をテーマとしたことで、目的や用途が異なっていている場合でも、構造や機能に着目することで共通の理解が可能になる。一方、対象とするスケールを表面に平行な方向だけでなく深さ方向にも広げることで、多様な研究内容を包含でき、広い分野に開かれたセッションになっている。
スケールに着目したとき、nm以下のスケールでは、電流印加時の潤滑油分子挙動の観察やナノすき間にある液体のせん断応答計測、直鎖ポリエチレン自己接合や摩擦調整剤などを対象とした分子動力学法による計算などの研究に関する発表が行われている。nmからµm以上のサイズでは、ナノからマイクロスケールのパターンを用いて、摩擦計測や着霜あるいは撥液制御に関する発表が行われている。一方、表面の深さ方向に着目したときは、ナノスケールでは表面酸化膜の除去による常温接合技術、ミクロンスケールでは窒化や結晶微細化などの表面改質技術に関する研究も報告されている。これらの研究内容の多くに共通しているものは、原子や分子あるいは結晶に関する視点である。それが表面制御というキーワードで結ばれているため、広い技術分野を対象としながらも、ジョイントセッションとして深い議論が可能になっている。
最近の研究事例
異種材料を接合するとき、加熱を伴う方法を用いた場合、それぞれの材料の線膨張係数が異なると、冷却時に剥離を生じやすくなる。それに対して、表面の汚れや酸化膜除去し、常温で接合する「表面活性化接合」と呼ばれる接合技術がある。表面の酸化膜等を除去するために、Arの高速原子ビーム源の開発が活発に行われている(1)。
表面に規則的な凹凸を形成すると、油潤滑条件下での潤滑特性が向上する。溝配列パターンについて、どのような溝の配置が摩擦力低減に効果があるかを明らかにするために、球面状のスライダを用いて潤滑下の摩擦力分布の測定が行われている。マイクロとナノスケールの溝を組み合わせた階層化溝配列パターン上で、図1のような摩擦係数の分布像が得られている(2)。また、数値シミュレーションの結果からは、摩擦方向に対して平行な溝があると、流体動圧の発生が抑制されることなどが報告されている。
図1 溝配列パターン上の摩擦係数分布の例(2)
UVナノインプリントにおいては、モールドと基板表面間におけるナノすき間での液滴の挙動を明らかにすることが重要である。ナノ流路デバイスにより、ナノ空間の動的な濡れ現象が調べられている。その結果、すき間15 nm以下では毛管凝縮が濡れの進行に支配的に作用し、不均一に濡れが進むこと,および毛管力による濡れに比べて濡れの速度が大幅に遅いことが明らかされた。これらの結果は、ナノインプリントリソグラフィを用いた半導体加工において,生産性の向上や欠陥の低減に基盤的な知見となるものである。
2024年度の本セッションにおいては、これらに関連する研究を含め、電場下におけるトライボフィルム生成メカニズム、大気圧プラズマによる軟窒化処理、DLCの摩擦、腐食摩耗に及ぼす表面微細構造の影響など、16件の最新の研究成果の発表が行われる予定である。
参考文献
(1) Ryo MORISAKI, Takahiro YAMAZAKI, Chiemi OKA, Junpei SAKURAI, Takami HIRAI, Tomonori TAKAHASHI, Hiroyuki TSUJI, Noriyasu OHNO, Seiichi HATA, Particle-in-cell Monte Carlo collision simulation and experimental measurement of Ar plasma in a fast atom beam source for surface-activated bonding, Japanese Journal of Applied Physics, Vol.60, No SC(2021), https://doi.org/10.35848/1347-4065/abe683.
(2) Reina SHIOJIMA, Yasuhisa ANDO, Koji MIYAKE, Miki NAKANO, Determining lubrication properties of hierarchical groove patterns using mesoscale raster-scanning measurements, Journal of Advanced Mechanical Design, Systems, and Manufacturing, Vol.16, No.3(2022), https://doi.org/10.1299/jamdsm.2022jamdsm0030.
安藤 泰久
◎東京農工大学
キーワード:特集 2024年度年次大会