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2024/6 Vol.127

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特集 電力供給の一端を担う原子力のさらなる発展への歩み

まとめ

小泉 安郎・大川 富雄(電気通信大学)・武田 哲明(山梨大学)・奈良林 直(東京工業大学)

日本国政府は、2050年のカーボンニュートラル達成のために、原子力発電を主要な電源の一つとしている。しかしながら、2011年の福島第一原子力発電所事故を受けて一時すべての原子炉は停止され、新規に導入された原子力発電規制へ対応をなし再稼働されている原子力発電炉は、以前の54基運転が現状では12基に留まる(1)

そのような厳しい状況ではあるが、日立GE、東芝ESS、三菱重工、日揮グローバル・IHI、日本原子力研究開発機構により、それぞれ進められている原子力発電分野の研究開発、技術開発を紹介いただいた。また、奈良林氏に海外の動向を紹介いただいた。

COP28では、米国からカーボンニュートラルに向けて原子力発電の3倍増が提案され、多くの国が賛意を示した。原子力への期待は、国内での印象より大きいものと理解される。期待される技術であることを疑う余地はない。多くの技術者を必要としている。

日本では、1955年に原子力基本法が制定され、原子力導入が決まり、1966年に、東海第一発電所が商用運転を開始した。その後、海外からの技術導入と国内での研究開発が進められ、1981年に第3次改良標準化事業が終了し、1996年に世界初の改良型沸騰水型軽水炉ABWRである柏崎刈羽原子力発電所6号機の商用運転が開始された。日本への原子力導入決定からこの成熟まで実に41年の経過である。この間、さまざまな技術的課題が発生し、その克服の努力が多くの研究者、技術者によりなされた。1776年にジェームスワットが蒸気原動機の基本形を世に出して以来、火力発電技術は大きな進歩を遂げるが、その間、ボイラーの爆発事故が頻発する事態となり、1880年に米国機械学会が設立され、圧力容器規格と第三者認証制度が導入、事故発生は抑制されるに至った。それまでに、実に100年以上の年月を要している。一つの巨大技術が導入され定着するには長年の多くの技術的課題の発生とそれへの対応が求められる。我が国の原子力技術開発過程でもさまざまな要因で、事故、失敗、誤りや停滞があったことは否めないところではあるが、あってはならないこととはいえ、技術開発過程で必然的なことであるのは歴史が示すところである。先を見込んだ視線で研究開発に進むことは大切と考える。

我が国で、原子力を議論する場合、さまざまな要因で多くの方が参加し、意見をまとめていく難しさがあった。その結果、意思決定の遅れ、責任ある意見表明が難しく、控え目な議論の傾向になりがちであった。2023年5月制定の通称GX推進法により、経済・社会・産業構造を化石燃料中心からクリーンエネルギー中心へ移行させる経済社会全体の変革の方向性が定められた。その手段の一つとして、原子力の有効な活用が挙げられている。原子力の議論を展開していく良いモチベーションを与えている。

機械工学は文明を維持し、発展させることが主命である。文明には動力は必須である。動力を生み出す手だてにはいろいろあるが、原子力は大切なその一つの手段と考える。技術を維持し発展させるには若者の参入があって成り立つ。若者へ本稿が刺激を与え、参入してくることを期待するしだいである。


参考文献

(1) 原子力発電所の現状,資源エネルギー庁,
https://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/nuclear/001/pdf/001_02_001.pdf (参照日2024年1月9日).


<フェロー>

小泉 安郎

◎電気通信大学 情報理工学研究科機械知能システム学専攻 客員研究員
◎専門:機械工学、熱工学、伝熱工学、蒸気&原子力工学

 

<フェロー>

大川 富雄

◎電気通信大学 情報理工学研究科機械知能システム学専攻 教授
◎専門:機械工学、熱工学、伝熱工学、原子力工学

 

<フェロー>

武田 哲明

◎山梨大学 大学院総合研究部工学域 機械工学系 教授
◎専門:機械工学、熱工学、伝熱工学、原子力工学

 

<フェロー>

奈良林 直

◎東京工業大学 科学技術創成研究院 ゼロカーボンエネルギー研究所 特任教授
◎専門:機械工学、熱工学、伝熱工学、原子力工学

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