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2024/4 Vol.127

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特集 ベンチャー企業の実際

<機械系ベンチャー企業の紹介>ロボティクスによる社会課題解決と事業化への挑戦

松井 健〔ugo(株)〕

少子高齢化社会の解決策の提案

少子高齢化が進行する中、日本の生産年齢人口(15歳〜64歳)は1995年をピークに減少傾向にあり、2050年には5,275万人(2021年から29.2%減)に減少すると見込まれている(1)。この生産年齢人口の減少は労働力人口の枯渇をもたらし、2022年以降のコロナ禍からの経済回復期において、さらに人手不足が深刻な問題となっている。特にメンテナンス・警備・検査などの保安・保全に関わる職種は需要が常に高いにもかかわらず、有効求人倍率は6倍を超える状況にある。

保全・保安業務における人手不足は、労働人口の減少と業界特有の課題により深刻化している。まず、この業界は労働集約型であり、新型コロナウイルス感染症の流行以降、リモートワークの普及により柔軟な働き方が広がる中、保全・保安業務のように現地での作業が必須である職種は、ワークライフバランスを重視する若年層にとって魅力が減少している。加えて長時間の立哨警備や施設内巡回など、物理的に要求される労働は一般的なデスクワークに比べて遥かに体力を消耗し、昼夜を問わない勤務体系は従業員の定着を難しくしている。これらの要因が重なり、1人あたりの業務負担と残業量が増大し、過酷な労働環境を生んでいる。

特に問題が顕著なのは、人口密度が高い都市部や、特定のセキュリティが必要な施設を抱える地域である。こうした地域では、セキュリティの要求が高まる一方で、適切な人材を確保することが困難になっている。

将来的には、この人手不足は社会や経済に広範な影響を及ぼす可能性がある。技術の進歩による自動化やAIの導入が一定の解決策となり得るものの、人間の監視が不可欠な場面では限界がある。このため、人材育成や働き方の改革、職場環境の改善など、業界全体での取組みが急務である。

ロボット×プラットフォーム

そこで当社が開発しているのが社会インフラを支えるロボット「ugo」(図1)とロボット統合管理システム「ugo platform」(図2)である。ugoはさまざまな作業を遠隔化・自動化することで、現場で働く人の生産性を高めることを目的とし、それぞれの使用環境や要件に応じて「ugo Pro」「ugo Ex」「ugo mini」と選択できる三つのモデルを用意している。

最初に、フラッグシップモデルで高度な機能を備えた「ugo Pro」は、二つのアームと表情豊かな顔ディスプレイを持ち、広視野角カメラ搭載の電動昇降ボディで現場の環境に合わせて高さを変えて運用できる。特に、エレベーター操作によるフロア移動が求められる屋内施設での使用に適している。

次に、「ugo Ex」は、カスタマイズ可能な特性を持ち、ユーザが必要とするカメラやセンサを追加できるよう設計されている。これにより、工場や倉庫、プラントといった環境で、ユーザ自身の手でさまざまなユースケースに適応させることができる拡張性の余白を持ったモデルとなっている。

そして、コンパクトなデザインの「ugo mini」は、狭い空間でも高い機動性と静かな運用を実現する。4Kジンバルカメラを搭載しており、地上高60cmから170cmまで伸縮させ、さまざまな箇所の撮影やセンシングを得意とする。

「ugo Platform」はロボット導入をより効果的にするシステムである。ロボットを導入したものの、現場に合わせて運用担当者が設定を変えたくても専門のサポートチームを呼ばないと変えられなかったり、他のロボットやシステム設備、IoT機器と連携できずそれぞれ運用コストがかかったりと導入後の改善サイクルを回せないことが度々発生する。

「ugo Platform」によってユーザはプログラミングなしでロボットを動かすことができる。ugoに搭載されたLiDARを用いてフロア地図を作成し、その地図を用いて作成したルートを巡回することが可能。現場の環境が変わっても担当者がルートを簡単に変更することができる。また地図を作らずともコマンドベースで一つ一つ行動を一連の流れとして設定することもできる。ルートの中にコマンドを設定することで点検したい箇所の撮影、撮影したデータを数値化、そしてレポートとしてクラウドにアップロードすることができる。そのほかにも他メーカーが開発したAIアプリケーションをAPI連携(アプリケーション間やシステム間でデータや機能を連携し、利用できる機能を拡張すること)することでより詳細なデータを取得することもできる。

こういったロボット×プラットフォームの活用でugo導入後に現場にあった最適な運用を実現することができる。

 

図1 ugo 3タイプ

 

図2 ugo Platform イメージ図

開発とユーザからのフィードバック

2018年にugoの開発をはじめ、オフィスビルでの実証実験を繰り返しながら、2021年に警備ソリューションとして商用化を開始した。

商用化において最大の障壁はそのコストである。最新のセンサや機能を多く盛り込むほど価格は高騰する。当社は設計から生産までを自社で一貫して行い、ロボットの機能を必要最低限に絞り込むことでコストを抑えることに成功した。結果として、1台のロボット導入コストを人件費1カ月分以下に抑えることで、多くの企業にとっての導入障壁を低減することができた。

警備ソリューションでは警備員の方と協働しながら、日中はフロントでの立哨警備、夜間は無人のオフィスフロアの巡回警備を行っている。特にオフィスビルの警備ではエレベーターを用いたフロア移動がロボットの機能として必須であるが、ロボット連携ができるエレベーターはまだまだ数が少ない。「ugo Pro」は自身のアームでエレベーターボタンを押し(図3)、乗り込むことができるため既存のビル構造にも容易に適応できる点がユーザから高く評価されている。またugoが立哨警備や巡回警備を行うことで警備員の方の身体的負担を減らすことができた上に、「ロボットを操作して警備する」という新しい警備業務のあり方が、警備員への若年層からの応募が増えるという、思わぬ副次効果をもたらした。現在は品川シーズンテラスを皮切りに全国各地に展開している。

図3 エレベーターのボタンを押す「ugo Pro」

2022年には警備と並行して点検ロボットの用途でも展開している。点検業務の中でもugoが得意としているのは人が行う五感を使った点検の代替である。点検業務の現場では、目視以外にも表面温度やにおいを感じて点検作業を行うため、点検行為が属人化しがちで個人の力量により点検結果に差が出る場合がある。また点検するメーターが数百箇所ある現場もあり、一通り点検するのに大幅な時間を要する。そこをugoが自動で巡回し、各メーターを読み取ったり、センサを活用して記録したり、レポートを作成しクラウドにアップロードすることで、人が時間をかけて行っていた業務時間を大幅に短縮することができる(図4)

図4 「ugo mini」によるメーター点検の様子

自社でロボットの開発を行ってきたが、自社のみでは決して現在のようなugoを業務に落とし込んだ商用化はできなかったと振り返る。警備業務しかり、点検業務しかり、業務に必要な機能などを現場目線で率直にフィードバックをいただきながらブラッシュアップしてきたからこそ創り上げることができたと考える。

今後は警備点検以外の分野にも拡げ、ロボットの活用を通して日本の社会課題の解決に貢献したいと考えている。一つは医療介護分野である。現在介護サービスの企業とともに有料介護施設で介護士の負担を減らすため、資格の不要な業務である荷物の配達や声がけ、夜間巡回を中心にugo活用に向けた実証実験を進めている。

あらゆる業務へのロボット技術の積極的な導入によって、人手不足の問題を解決し現場業務の生産性を高める鍵となるが、ロボットですべての業務を代替したいと思ってはいない。ロボットは業務を楽にする道具であると考えているからである。ugoを活用することでより人々が活躍できる社会を構築し、ロボットが当たり前の選択肢になる未来を作っていきたい。


参考文献

(1) 令和4年 情報通信に関する現状報告の概要 第1部 特集 情報通信白書刊行から50年~ICTとデジタル経済の変遷~,総務省,
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r04/html/nd121110.html(参照日:2024年2月20日).


松井 健

◎ugo(株) 代表取締役CEO

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