技術者こそコミュニケーション力を磨け!
第3回 6W2Hは技術者必携のコミュニケーション道具
はじめに
前回の第2回では、「技術者向けコミュニケーション7つ道具」の存在と、その内の一道具として「ラポール」を伝授した。再度の読み返しをお願いしたい。
ところで、本稿を読んだだけでは決してコミュニケーション力は向上しない。技術屋として一人前になるためには、それぞれの業界や分野での「修行」が必要である。
例えば、「飯炊き3年、握り8年」。「飯」と「握り」の文字があるので、一見して寿司職人だとわかる。つまり、一人前の寿司職人になるためには、なんと11年もの年月が必要なのだ。話を元のラポールに戻すが、真剣にマスターしたいのであるならば、寿司職人の気構えでくり返しの実践が必要である。
さて、今回の第3回目は、「技術者向けコミュニケーション7つ道具」の二つ目として、「6W2H」を伝授する。ちなみに7つ道具とは以下を示す。詳細は前回を復習してほしい。
① ラポール
② 6W2H
③ 比喩(ひゆ)
④ PDPC法
⑤ 3秒ルール
⑥ コンセンサス
⑦ 1分間スピーチ
技術者の6W2Hとは
「6W2H」? かつて、商標登録した当事務所のオリジナル語である。あれっ、どこかで聞いたような単語でもある。そう、義務教育である小学校もしくは、中学校で学んだ「5W1H」が記憶によみがえる。まずは、これを復習しよう。
① When いつ
② Where どこで
③ Who だれが
④ What なにを
⑤ Why なぜ
⑥ How どのように
「♪いつ、どこで、だれが、なにを、なぜ、どのように♪」という具合にリズミカルに暗記している。そして、この構成に沿えば、とてもすっきりした文書に仕上がる。例えば、下記の事例を読んでほしい。
① When | 1912年4月14日、 |
② Where | イギリスからニューヨークに向かう北大西洋で、 |
③ Who | 乗員乗客合わせて2200人は、 |
④ What | 不沈船と呼ばれていた豪華客船のタイタニック号に乗船し、濃霧が発生している海域の巨大な氷山と衝突した。 |
⑤ Why | 船体に穴が開き沈没し、 |
⑥ How | 犠牲者は約1500人、世界最大の海難事故となった。 |
昔の大事件をいとも簡単に理解することができる。
一方、不沈船と呼ばれていたのになぜ沈没したのか、救命ボートはどうしていたのかと、技術者なら直ちに疑問を持ちWeb検索するはずだ。
5W1H…なんと、すばらしい道具であり、日本の義務教育であろうか!
事例1:ホチキスを6W2Hで表現する
それでは、身近な例をもって、6W2Hを解説する。それは、表1に示す事務用ホチキスである。仮に、この商品を見たことも使ったこともない人へ説明してみよう。おそらく、10人が10通りの説明をすると思う。説明を受けた人は、書類を綴じる文房具であることは理解できると思うが、何通りもの使い方や紙以外の樹脂シートはどうなのかと疑問を抱くであろう。そして、いざ購入となると、1,000円なのか、100円なのか? という疑問で、何度も質問を繰り返すことになる。
「何度も質問する」…これを回避するのが、「技術者向けコミュニケーション7つ道具」であり、その内の一道具が「6W2H」である。
このような簡単なフォーマットで、何を説明するかではなく、どのように説明するかを事前に練ることで、十分なコミュニケーションが図れる。
そして常に、「6W2H」を訓練しておけば、毎度毎度、事前に練る必要がなくなる。コミュニケーションの苦手な技術者には、特にこの訓練が必要である。
訓練といっても二輪車(自転車)ほど難しいことではない。補助車はすぐに外すことができる。ここで言う、補助車とは、「6W2Hのフォーマット」による「事前準備」のことである。
表1 ホチキスを6W2Hで表現
(出典:ついてきなぁ!設計心得の見える化『養成ギブス』:日刊工業新聞社刊)
事例2:技術者必携!6W2H週報フォーマット
アメリカの医者は患者を選ぶことができ、日本の医者は患者を選べない。これは、医療制度と医療保険の相違である。医療制度から言えば、どのような患者も差別なく診る義務がある日本の医者は素晴らしいと思う。
一方、アメリカの医者はコミュニケーションに長けているらしい。一人の医者の実力より、医療チーム力が求められる現代医学には、コミュニケーションは必須と聞く。
実は、コンサルタントも同じである。当事務所の収入の主たるものは設計に関するコンサルティングであり、コンサルタントはクライアントを自由に選ぶことができる。当然、クライアントも自由にコンサルタントを選ぶ。コンサルタントには、資格や実力が必要であるが、それよりも先んじる能力は、クライアントとのコミュニケーション能力である。
当事務所からみると、東京を中心に関東や関東以北の企業は、コンサルタントを雇うのが下手である。いやむしろ、煙ったがる企業も少なくない。その一方で、関西以西や隣国の巨大企業では、コンサルの扱いが非常に上手である。
例えば、東大阪の町工場などが作った人工衛星「まいど1号」の打ち上げ美談は今でも記憶に新しい。正まさしく、コミュニケーションに長けた浪速っ子の賜物であろう。
一方、人気テレビドラマに「下町ロケット」があった。「下町」とは恐らく、東京の下町であろう。残念ながら、江戸っ子という人たちは浪速の方々ほどコミュニケーションに長けていない。つまり、前述のドラマは「作り話」と言いたい。
江戸っ子とは何でも自分一人で成し遂げることを美徳としているからである。文化人類学者ではないが、あえて、江戸っ子オジサンの私から断言したい。
そのようなコミュニケーションが苦手な職人や技術者に、うってつけの道具がある。それが表2の「6W2H週報フォーマット」である。
表2 6W2H 週報フォーマット
(出典:ライバルを打ち負かす設計指南書『攻めの設計戦略』:日経BP 社刊)
当事務所と設計コンサルタントとして契約すると、その翌日から強制導入させていただくのが、「6W2H週報フォーマット」である。
そもそも、週報会すら実施していない、つまり、部下に仕事を依頼してから打合せも相談もまったくしない「丸投げ」が散在する。実は、この「丸投げ上司」や「丸投げ企業」は、日本のガラパゴス文化である。コンサルタントとして、このような企業に出す処方箋はない。
前述したアメリカの医者と日本の医者に大きな共通点がある。それは、「医者は患者を治せない」という。治すのは、治そうとする患者の意思であり、それを後押しするのが医者であるという。そのような姿勢へ患者を導いていくのが医者のコンサルテーション能力であろう。設計コンサルタントをメイン業務とする当事務所もまったく同じである。
参考文献
(1) 國井 良昌,ついてきなぁ!設計心得の見える化『養成ギブス』,日刊工業新聞社.
(2) 國井 良昌,ライバルを打ち負かす設計指南書『攻めの設計戦略』,日経BP社.
<正員>
國井 良昌
◎國井技術士設計事務所 所長/技術士(機械部門)
◎専門:機械設計、設計工学
ホームページ:https://a-design-office.com/
ブログ:https://kunii.biz/
キーワード:技術者こそコミュニケーション力を磨け!