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2024/3 Vol.127

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特集 核融合実験炉ITER 建設最前線

ダイバータの開発と調達の現状

関 洋治(量子科学技術研究開発機構)

ITERダイバータの役割と構造

核融合炉の炉内(真空容器内)に設置され、プラズマに直接面する機器をプラズマ対向機器と呼ぶ。プラズマ対向機器にはダイバータや第一壁、リミタと呼ばれる機器がある。このうち核融合炉の真空容器内で最も過酷な負荷にさらされる機器がダイバータである。本稿ではITERの真空容器内に設置される高熱負荷機器の一つであるITERダイバータにおける技術開発及び製作の現状について述べる。

図1に示した通り、ダイバータは真空容器内の下部に設置される。同じく真空容器内に設置される第一壁(ブランケットのプラズマ対向面側に設置される機器)はプラズマを閉じ込めるための磁力線と平行な位置に設置され、プラズマからの放射熱、中性粒子及び中性子が主な負荷になっている。一方、ダイバータは磁力線と交差するストライク点と呼ばれる位置に設置されるため、放射熱、中性粒子及び中性子に加えて磁力線に巻き付いて運動するプラズマからの不純物等の荷電粒子(イオン)が直接ダイバータ表面に入射することになる。入射した不純物イオンはダイバータ表面で荷電交換によって電気的に中和されてガスとなる。この不純物ガスを排気することによってプラズマの性能が維持される(図2)

図1 ITERの断面模式図

図2 ITERダイバータ(カセット構造)
(内側垂直ターゲット付近のガス化した不純物は、ドームの下側から外側垂直ターゲット側へと移動し、排気ポンプへと導かれる)

上記の不純物イオン等の粒子がダイバータに入射する際、粒子のもつ運動エネルギーがダイバータ表面で熱に変換されるため、ダイバータは第一壁に比べてはるかに高い熱負荷にさらされることになり、入熱を避けられないダイバータには高い耐熱性能が要求される。ITERダイバータにおける熱負荷は最大で10~20 MW/m2に達する。このような高い熱負荷を受ける工学機器はほかにほとんど例がない(図3)

図3 主な工学機器の熱負荷の大きさ(ITERダイバータが受ける熱負荷は、はやぶさ回収カプセルを除けばほかに例がないレベルの大きさ)

ITERダイバータは、垂直ターゲット、ドーム及びダイバータカセットで構成される。磁力線と交差する垂直ターゲットは、トカマク中心に近い方が内側垂直ターゲット、遠い方が外側垂直ターゲットと呼ばれる。またドームは、垂直ターゲットと比較し低い熱負荷を受ける。ダイバータカセットは、垂直ターゲットやドームを固定し、それらの機器の冷却水マニフォールドも兼ねているステンレス製の支持筐体である。日本が外側垂直ターゲット、欧州が内側垂直ターゲットとカセットボディ、ロシアがドームを製作し、ITER機構が組み立てて真空容器内に設置する。

ITERではダイバータカセットを真空容器下部に円周状に54個設置してダイバータを形成する。このようなカセット構造としている理由は、垂直ターゲットやドームが前述の熱負荷あるいは核融合反応(重水素-三重水素)で生じる14 MeVの高エネルギーの中性子等を受けて損傷した場合、機器の放射化により人手(hands-on)による保守作業ができず、遠隔操作ロボットによってカセット毎に真空容器外に取り出して保守作業を行うためである。

ITERダイバータ外側垂直ターゲット

ここでは主に、日本が製作を担当するITERダイバータ外側垂直ターゲットの研究開発について述べる。図4に外側垂直ターゲットの構造を示す。

図4 外側垂直ターゲットの構造(特に熱負荷の高いターゲット部の冷却管内部には無酸素銅製のねじりテープを挿入して、冷却水に旋回流を発生させ、熱伝達を向上)

ITERダイバータ垂直ターゲットの構造と製造方法

ITERダイバータ外側垂直ターゲットは、22本のプラズマ対向ユニット及び2台のステンレス製支持構造体で主に構成され、左右半分に分けることができる。プラズマ対向ユニットは高熱負荷の入射する直線部(ターゲット部)と、その上側の湾曲した部分(バッフル部)から構成される。銅合金製の冷却管を保護するおおよそ28 mm角(奥行きは12 mm)のタイル状の表面保護材(アーマ材)を冷却管が串刺しするような構造となっており、モノブロック断面形状と呼んでいる。以前は矩形断面の冷却基板に平板型のアーマ材を接合した平板型断面形状や、サドル型断面形状の開発も行われてきたが、アーマ材と冷却管(あるいは冷却基板)の接合部が剥離すると、アーマ材が真空容器内に落下する懸念があるため、ITERではモノブロック断面形状がダイバータ垂直ターゲットに採用された。

ターゲット部に用いられるタングステン材は特にITERダイバータ向けに開発された高熱負荷耐久性のものであり、繰り返しの熱負荷に対しても割れることがないように開発された。またアーマ材には直接鋳造により円環状の冷却基板が接合されている。この冷却基板付きアーマ材と冷却管の接合にろう付が用いられる。ITERダイバータ外側垂直ターゲットではアーマ材にタングステン、冷却基板には無酸素銅、冷却管にはクロムジルコニウム銅合金(1)を採用すると共に、ろう材にはNicuman®37〔AMS 4764;ニッケル(Ni)9.5%、銅(Cu)51.5%、マンガン(Mn)39%〕を使用し、それらを治具で固定して保持温度約980℃において一括して真空ろう付を行う。アーマ材と冷却管の間に円環状の無酸素銅を挟み込む構造により、ろう付接合によって軟化した無酸素銅を一種の緩衝材として機能させることでタングステンとクロムジルコニウム銅合金の線膨張係数の違いを緩和している(図4の右側の断面図参照)。

このような材料の組み合わせにおいて、垂直ターゲットを模擬した小型試験体を製作し、ITERダイバータ垂直ターゲットの最大熱負荷条件20MW/m2での繰り返し電子ビーム加熱の耐久テストにより製作条件を求める研究開発を継続して実施してきた。特にろう付の剥離により除熱性能が失われて、タングステンの表面温度が許容される温度以上に上昇する問題が生じていた。しかし、ろう材を設置する冷却管と冷却基板の隙間の寸法公差が、ろう付の性能に大きく影響することを掴み、寸法公差の最適条件を見つけた結果、ITERの要求値300回の3倍以上である1000回の繰り返し加熱に対して除熱性能を維持する試験体の開発に成功した(2)

ITERダイバータ外側垂直ターゲットの製作

実機大のITERダイバータプロトタイプ用プラズマ対向ユニット試験体を図5に示す。実機量産フェーズに入る前に、品質認証試験としての電子ビームによる高熱負荷試験に合格し、ITER機構から品質認証を受ける必要がある。本試験体の高熱負荷試験では、最大熱負荷20 MW/m2において1000回の繰り返し加熱を実施し、除熱性能を損なうことなく耐久性を実証した。特に、タングステンは、加熱試験時の表面最高温度が2000℃を超えて再結晶が進行し、それに伴い結晶粒が粗大化して脆化するが、本試験体においても冷却性能の劣化やタングステンの割れ等の損傷を生じることもなく試験を完了した(3)。ITERダイバータ外側垂直ターゲットのプロトタイプの製造も完了し、2023年からプラズマ対向ユニットの実機量産が本格的に開始されている。

図5 ITERダイバータプロトタイプ用プラズマ対向ユニット試験体

まとめ

ITERの高熱負荷機器の一つであるダイバータにおける研究開発と調達の現状について述べた。現在のところITERダイバータ外側垂直ターゲットの製作に関しては、実機製作に向けた製作性の最終確認を完了し、実機用の材料購入も一部開始している。さらに2023年迄に完了したITER機構による繰り返し加熱試験で合格した結果、現在はITER実機ダイバータ用の外側垂直ターゲットの量産を実施している。


参考文献

(1) Y. Seki et al., Tensile Properties of CuCrZr Tube during Mass Production for the ITER Divertor Outer Vertical Target, Plasma and Fusion Research: Regular Articles Vol. 17 (2022), 2405080

(2) K. Ezato et al., Progress of ITER full tungsten divertor technology qualification in Japan, Fusion Engineering and Design, Vol. 98-99 (2015), pp.1281–1284

(3) 関 洋治, ITERダイバータ外側垂直ターゲットプロトタイプの製作及び検査の進捗, 第40回 プラズマ・核融合学会 年会(2023), No.27P45.


<正員>

関 洋治

◎量子科学技術研究開発機構 那珂研究所 ITERプロジェクト部 プラズマ対向機器開発グループ 上席研究員

◎専門:流体工学、熱力学、核融合炉工学

 

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