特集 核融合実験炉ITER 建設最前線
プラズマ加熱装置(RF,NBI)の開発と調達の現状
はじめに
磁場閉じ込め型核融合炉において核融合反応を起こすには、燃料ガスをプラズマ化し、1億℃に加熱する必要がある。第1段階の加熱では、変圧器の原理を応用して、コイル(変圧器の1次巻線)に1次電流を流すことで、プラズマ中に2次電流を誘起し、プラズマが自身の電気抵抗により加熱(ジュール加熱)される。しかし、ジュール加熱だけではプラズマ温度は1億℃に達しないため、外部から加熱パワーを投入する追加熱が必要である。本章では、二つのプラズマ加熱装置(ジャイロトロンおよび中性粒子入射装置)の開発状況と、ITERに向けた調達の現状を紹介する。
ITER用ジャイロトロンの開発と調達の現状
ITER用ジャイロトロンの開発
電磁波によるプラズマ加熱の手段として最も有力な電子サイクロトロン加熱を行うための電磁波源として、ジャイロトロンが知られている。ジャイロトロンとはサイクロトロンメーザーの原理で強力な電磁波を発生する発振管であり、100GHz帯の大電力電磁波源としては唯一のデバイスとなっている。
ITER用ジャイロトロンの開発は1991年から開始され、いくつかのブレークスルーののち、現在の形に至っている。図1にその外観と内部構造を示す。
図1 ジャイロトロン構成図
ジャイロトロンは電子銃、空胴、モード変換器、内蔵ミラー、コレクター、出力窓などから構成されており、超伝導コイルに挿入して使用する。電子銃はMagnetron Injection Gun(MIG)と呼ばれ、中空の円筒ビームを放出する。電子銃に-75kVの高電圧を印加することにより、電子銃より放出された電子は超伝導コイルの強い磁場により形成される磁力線に沿って、磁場強度に比例する回転周波数(サイクロトロン周波数)で磁力線の周りを回転しながら進み、空胴に到達する。
空胴においては、75kVという高い加速によって得られる相対論効果によるサイクロトロン周波数のずれから、周方向にバンチングをおこす。このバンチングされた電子と円筒導体である空胴に発生する特定の高周波の電場が相互作用を起こし、電子のエネルギーが電磁波のエネルギーに移り発振にいたる。発生した電磁波は、モード変換器により空中伝搬が可能なガウスビームに変換後、複数の内蔵ミラーにて伝送され、出力窓から出力される。
一方、エネルギーを失った電子は磁力線に沿って進み、コレクターにて回収される。
ITERで要求されるジャイロトロンは周波数170GHz、出力1MW、パルス幅3600秒、電力変換効率50%以上と高い要求となっており、日欧米露で開発競争が行われた。170GHzの電磁波の波長は約1.8mmとミリ単位であるため、ミリ波と呼ばれることが多い。
まず、最初のブレークスルーとして電力変換効率の改善がなされた。空胴で発生するミリ波のエネルギーは、電子ビームのエネルギーに対して約30%程度でしかなく、したがって、空胴通過後の電子ビ―ムには約70%のエネルギーが残っている。そこで、図1に示すように途中に絶縁セラミックを挟み、コレクターが空胴に対して逆電圧をかけられる構造に変更した。これにより、電子を減速しながらコレクターにて回収できる。
1994年に量子科学技術研究開発機構(=量研、当時は日本原子力研究所)にて電力回収型ジャイロトロンの試験が行われ、最大約20%のエネルギーの回収に成功し、目標である電力効率50%を達成した(1)。さらに出力窓としてミリ波の吸収が非常に低く、また熱伝導が非常に高い人工ダイヤモンド窓が考えられ(図2)、1997年に日欧の協力により量研のジャイロトロンに搭載され試験が行われた。その結果、以前は170kWで5秒程度が限界であったが、パルス幅、パワーともに改善され520kWで6.2秒の運転に成功した(2)。
図2 人工ダイヤモンド出力窓
これらにより、高パワーでの長パルス高効率運転に目処がたったものの、ジャイロトロン内部に散乱するミリ波によりジャイロトロン自体が過熱され、定常運転をすることができなかった。この原因の一つは電子銃と空胴の間に位置し、ビームを空胴に導くビームトンネル(図1)において寄生発振が起こることであった。そこでその素材を金属からセラミックであるSiCに変更することでその抑制に成功した(3)。もう一つの原因は空胴にて発振するミリ波を空間伝搬が可能なガウスビームに変換するモード変換器にあった。円筒導体である空胴において、あるモード(発振モード)のミリ波が励起され発振にいたるが、空胴径は約18mmと波長1.8mmに対して10倍もあるため、発振するミリ波は超高次モードとなり、そのままでは空間中を伝搬できず散乱する。従来のモード変換器はブラソフアンテナと呼ばれ、幾何光学的に超高次モードをガウスビームに変換する仕組みで、損失が大きくジャイロトロンの内部加熱は避けられなかった。これに対して、モード変換器の損失を約1/5程度まで下げることが可能なDimpled-wall converterと呼ばれるモード変換器がロシアにおいて開発された。空胴で生じた超高次モードは、モード変換器の円筒導体の内部を反射しながら伝搬していくが、Dimpled-wall converterは、この円筒導体の内部に0.1mm程度の凹凸をつけることにより、超高次モードの伝搬を制御し、出口においてガウスビームに整形するモード変換器であり、変換効率が高い。Dimpled-wall convertorの研究開発が量研においてもなされ、2008年にジャイロトロンに搭載された(4)。これにより内部損失が大きく下がり、1MW-800秒及び0.8MW-3600秒の定常運転に近い長パルス運転を170GHzという周波数において、世界で初めて成功した(5)。これにより、量研(当時は日本原子力研究開発機構)はITER機構とジャイロトロン8本の調達取決めを締結した。
しかしながら、1MW発振には成功したものの、空胴の熱負荷が1MWぎりぎりの設計であったため、発振初期のビーム電流が高い時間帯で出力が1MWを超え、空胴にダメージを与える事象が発生した。このため、空胴の大きさを一回り大きくし、発振モードを従来のTE31,8と呼ばれるモードからTE31,11に変更した(図3)。これにより、空胴径が大きくなり、1.3MWまでの発振の発熱に耐えることができるようになったが、引き換えに、モード競合が強くなった。モード競合のため、最適なパラメータでの運転が難しくなり、TE31,8ジャイロトロンでは55%あった電力効率が45%程度まで低下した。そこで、モード競合を回避するため、電子ビーム径を最適な径より大きくする、ビームの速度分布を制御する電圧の時間変化を最適化する、などの運転技術を開発した。その結果2015年にはTE31,11モード発振のジャイロトロンとして、初めて出力1MW、電力変換効率50%の長パルス運転に成功し(6)、ITER機構による最終設計レビューを通過した。
図3 発振モードの更なる高次化による空胴径の拡張
ITER用ジャイロトロンの調達の現状
2015年の最終設計レビューの通過受け、2016年には1号機の製作に着手、年間2本の製作を続け、2021年には全8号機の製作を完了した。並行して、量研のジャイロトロン試験装置を用いて性能試験を実施し、1号機の試験が2019年に完了した。その後、年1〜2本のペースでコンディショニングと性能テストを実施し、これまでに7本のジャイロトロンの性能テストが完了している。また、超伝導マグネット、ジャイロトロン架台、冷却水ヘッダー、オイルタンク、加速電源、制御キュービクルなどの補機の輸送と合わせてジャイロトロンの輸送も始まり、2021年から毎年2本ずつ空輸、これまでに6本のジャイロトロンの輸送が完了している。また、すでにITERサイトにおいて、トカマクの組立建屋と隣接して、ジャイロトロンが据付けられるB15と呼ばれる高周波加熱施設用建屋への補機などの据付も始まっており、これまでに制御キュービクル及び加速電源が据え付けられた。今年中には最初のジャイロトロンの据付が行われる見込み。
中性粒子入射装置とは
中性粒子入射装置(NBI:Neutral Beam Injector)は、数十メガワットの高出力イオンビームをガスセルなどで中性化することで生成される中性粒子ビームをプラズマに入射する、磁場閉じ込め核融合装置における主要なプラズマ加熱装置である。これまでに、JT-60U(7)、JET(8)、LHD(9)などの大型核融合実験装置に設置され、エネルギー増倍率(核融合出力とその状態に維持するために外部から投入するパワーの比)Q=1.25の達成や高効率なプラズマ電流駆動など高性能プラズマの実現に貢献してきており、ITERや原型炉でも加熱・電流駆動の中核装置として期待されている。
NBIの原理を図4に示す。イオン源内で生成した水素または重水素プラズマから電場により引き出したイオンを静電加速器で加速してイオンビームを発生させる。NBI用加速器のビームエネルギーは数10keV~1MeV程度であり医療用や素粒子実験用のそれより低いもしくは同程度であるが、ビーム電流が数10Aと約6-7桁高く、そのためにメートル級の大面積多孔電極を有する静電加速器において多数のビームレットを同時に加速する点が大きな特徴である。
核融合実験のためのNBI開発は1970年代から開始された(10)。当時のトカマク装置で必要とされたビームエネルギーは約30keVであり、水素の正イオンビームを生成し、水素を充填したガスセルで中性化する正イオンNBIが開発された。プラズマが大型化、高密度化してきた現在では、プラズマ中心部にビームパワーを注入するには0.5MeV以上のビームエネルギーが必要であるが、このようなエネルギー領域では正イオンの中性化効率はほぼゼロとなるため、ITERや原型炉のNBIに向けた1次ビームとして約60%の中性化効率が見込める負イオンビームを用いた負イオンNBIの開発が進められている。
図4 NBIの原理
ITER NBIに向けた負イオンNBIの開発課題
表1は既存の負イオンNBIの達成値とITER、原型炉のNBIの要求性能(ビームエネルギー、ビーム電流、出力時間)を比較したものである。
表1 NBIの比較
ITERの要求値(エネルギー1MeV、ビーム電流40A(電流密度200A/m2)、出力時間3600秒)に対して、例えばLHDではビーム電流40Aを達成したものの、ビームエネルギー、出力時間はITERの要求値には及ばない。また、ITER以前のNBIでは世界最高出力であるJT-60UのNBIと比べても、ビームエネルギーで2倍、出力時間が100倍以上である。このことから、ITER NBIに向けて(i)大面積負イオン生成、(ii)高エネルギー長パルス負イオン加速を長時間維持することが技術課題であると言える。
(i)大面積負イオン生成
ITER NBIでは、フィラメント陰極を用いた従来のアーク放電型負イオン源に代わり、外部アンテナを用いたメガヘルツ(MHz)帯高周波(RF)放電によりイオン源プラズマを生成するRF負イオン源(図5)が採用されている。負イオンを用いる場合は、正イオンに比べて電流密度が1桁低く、40Aのビーム電流を得るために約1m×0.6mのビーム引き出し領域に1280個の引き出し孔を設ける。これをカバーするように8つのRF放電部(ドライバー)を配置し、大面積に一様に負イオンを生成する設計である。RF負イオン源の開発はドイツ・マックスプランク研究所(IPP)で精力的に進められ、ITERの1/2サイズ(4ドライバー)のRF負イオン源を搭載した試験装置ELISE(Extraction from a Large Ion Source Experiment)(11)を建設し、2013年から試験を行っている。これまでに、1000秒以上にわたりRFプラズマを維持し、その間間欠的に10kV程度の引き出し電圧を印加してビーム引き出しを行い、ITER NBIの要求を上回る237A/m2の負イオン引き出しに成功しているが、長時間運転中に負イオンとともに引き出される電子電流の増大(12)など、ITER NBIに向けて解決すべき課題がある。
図5 ITER NBI用RF負イオン源と加速器
(ii)高エネルギー長パルス負イオン加速
約1m2にもなる大面積加速電極を有する多孔多段型静電加速器でITER NBIで要求される1MeV、40Aの負イオンビームを実現するためには、加速器の真空耐電圧性能、電極熱負荷低減のためのマルチビームレットの偏向補正が重要である。
従来から加速器の真空耐電圧設計にはクランプ理論が用いられてきた。これによると、保持電圧は電極ギャップの0.5乗に比例する(V=c・g0.5)が、比例係数cが電極面積によって異なることが近年明らかになった。正イオンNBIに比べて約10倍の電極面積を有する負イオンNBIでは、比例係数cの効果がより顕著になるため、その電極面積依存性を実験的に求めて設計指針を構築した(13)。
上記の設計指針に基づき、量研のMeV級イオン源試験装置(MTF)では加速電極ギャップを約80mmとしてビーム加速を試みたが、加速ギャップ中でビームレット間の空間電荷反発と電子を抑制するための負イオン源内の磁場の影響で負イオンビームが偏向し、加速途中に負イオンビームが電極に衝突し熱負荷が過大になる結果となった。そこでMTFでは、ビーム引き出し孔の偏芯と周辺部の電界補正によるビーム偏向補正を施してビーム加速試験を行い、電極熱負荷を加速入力パワー(電源電圧x電流)の10%程度にまで抑制する。0.97MeV, 190A/m2の負イオンビームの60秒間連続加速を実証し、ITER NBIの原理実証試験を大きく前進させた(14)。さらに現在は、負イオンが生成される負イオン源内の電極温度を200~300℃に長時間にわたって能動的に制御する制御手法を考案(15)し、ITER NBIの初期運転に必要な0.87MeV, 230A/m2の負イオンビームの数100秒に亘る連続加速を目指して試験中(図6)である。
図6 負イオンビーム加速の進展
各試験装置で培われた上記の改良技術は、ITER NBIに先駆けてイタリア・パドヴァのコンソルツィオRFX研究所内に建設したNB実機試験施設NBTF(NB Test Facility)(16)に集約して統合実証すべく、以下の二つの試験装置を建設して開発試験を進めている。SPIDER(Source for Production of Ion of Deuterium Extracted from Rf plasma)は2018年から運転を開始し、実規模の大面積負イオン生成試験が進行中である。MITICA(Megavolt ITer Injector & Concept Advancement)は定格の1MeVビーム加速の実証を目指す試験装置で、ITER NBIの調達分担と同様に、日本はMITICA用直流1MV高電圧発生部、伝送部および高電圧ブッシングの製作・納入を2019年までに完遂させた(図7)。現在、欧州が調達した低圧交流電源と組み合わせた電源統合試験が進行中であり、2025年からはビーム加速試験が開始される予定である。
図7 変圧器と整流器からなるMITICA用直流1MV高電圧発生部
ITER NBI伝送部の地震変位吸収のため構造設計
ITER NBIの性能実証を目的としたNBTF、特にMITICAでは高電圧電源設備の配置もITER NBIのそれに合わせた構造であるが、NBTFではすべての機器が同一地盤上に設置されるのに対し、ITERではプラズマ燃料であるトリチウムを取り扱うトカマク本体ならびにNBI(2基設置)のビーム源(負イオン源、加速器)他を格納する建屋(トカマク建屋)が免震構造である一方、直流1MV発生部と伝送部は屋外地盤に設置される(図8)。このため、伝送部がトカマク建屋壁を貫通する箇所では水平、垂直方向でそれぞれ±200mm、±20mmの相対変位を吸収する耐震設計に加え、トリチウムを建屋外に漏出させない気密性が求められる。ここでは、このような要求に応えるための構造設計を取り上げる。
図8 トカマク建屋を貫通する高電圧電源伝送部
初期設計では、図8に示した通り約16m上方に立ち上がったあと、高所水平部が建屋壁を貫通するものであった。さらに、建屋壁貫通部の近傍に、コア状の薄肉磁性体から成る重量約40トンを超えるコアスナバと呼ばれるサージ電圧抑制のための構造体を配置する設計であったが、変位吸収体の設置が困難であることに加え、地震が発生すると建屋壁貫通部には大きな慣性力が作用するため、設計が容易ではなかった。そこで、コアスナバの設置高さを下げ、建屋壁貫通部には垂直変位吸収用ベローズを、垂直部には長尺ベローズを配置して水平変位を吸収する構造(図9)とした。垂直部のベローズの軸長は長くなるものの、数度の傾きで末端は200~300mm程度の変位に追随できるようになる。具体的には、垂直変位吸収用にはヒンジ型ベローズ、水平変位吸収用には、中間配管の両端に自重支持が可能なジンバル型ベローズを取り付けた約6mの長尺ベローズを用いる設計とした。また、ベローズや圧力容器は自重支持のためにこれらを囲む支持躯体に固定するが、地震加速度の伝播の抑制のため免振装置、制振装置を組み込むこととした。このコンセプトに従い構造解析を実施したところ、トカマク建屋との相対変位が3方向すべてベローズで吸収でき、構造物上の応力が許容値以下であることを確認し、設計の見通しが得られた。なお、直径2m、軸長6mのベローズは過去に類を見ない大型品であるため、実サイズで試作して振動・変位試験により動作検証を行い、設計を最終化する予定である。
図9 ITER NBI高電圧電源伝送部の変位吸収構造
参考文献
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(2) K. Sakamoto, A. Kasugai, M. Tsuneoka, K. Takahashi, T. Imai, T. Kariya, Y. Mitsunaka, Chemical vapor deposition diamond window for high-power and long pulse millimeter wave transmission, Rev. Sci. Instruments, Vol.70, Issue.1(1999), pp.208-212.
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(15) M. Kisaki et al., to be published in J. Phys. Conf. series.
(16) V. Toigo et al., The PRIMA Test Facility: SPIDER and MITICA test-beds for ITER neutral beam injectors, New J. Phys. Vol.19(2017), 085004.
梶原 健
◎所属 量子科学技術研究開発機構 量子エネルギー部門 ITERプロジェクト部 RF加熱開発グループ
◎専門:ジャイロトロン開発
戸張 博之
◎所属 量子科学技術研究開発機構 量子エネルギー部門 ITERプロジェクト部 NB加熱開発グループ
◎専門:イオン源、加速器開発
キーワード:特集 核融合実験炉ITER 建設最前線